説明

ロジン変性フェノール樹脂、その製造方法および印刷インキ

【課題】インキ諸性能(乾燥性、乳化性等)を維持したままで、印刷物の光沢や印刷インキの流動性を損なうことなく、印刷インキのミスト量を低減されたロジン変性フェノール樹脂、その製造方法および印刷インキを提供する。
【解決手段】デヒドロアビエチン酸を5〜20%含有するロジン類(a)、フェノール類とホルムアルデヒドの縮合物(b)、およびポリオール(c)を反応させて得られることを特徴とする、ゲルパーメーションクロマトグラフィー法による重量平均分子量が50,000〜300,000のロジン変性フェノール樹脂であって、重量平均分子量が200〜400の成分の含有量が2〜6%であるロジン変性フェノール樹脂;当該ロジン変性フェノール樹脂を含有する印刷インキを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロジン変性フェノール樹脂、その製造方法および印刷インキに関する。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷においては、採算性の改善や印刷物の短納期化により、印刷機の高速化が進んでいる。これにより印刷機から多量のインキミストが飛散し、印刷時の作業環境が悪化するという問題がある。これを改善する方法として、インキ用樹脂を高極性として導電性を付与する方法、高分子量としてインキの弾性を上げる方法等があげられるが、一般的にはミスト量が低減する反面、光沢が低下する傾向にある。
【0003】
このような問題を解決する手段として、印刷インキ用石油樹脂組成物を用いることが提案されているが、多岐にわたるインキ性能を石油樹脂単独で満足することは困難であった(特許文献1参照)。またC10〜20のアルキルフェノールと酸触媒を使用した重量平均分子量3〜25万のロジン変性フェノール樹脂を印刷インキ用樹脂として用いることが提案されているが、該樹脂で種々のインキ性能を満たすことは困難であり、汎用性に欠けていた(特許文献2参照)。また本出願人は、ロジン変性フェノール樹脂中に含まれる低分子量成分を低減させることにより、ミスト量を低減するとともに光沢を向上させる方法を提案していたが、印刷インキの流動性不良など、更なる改良が求められていた(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−33951号公報
【特許文献2】特開平8−283641号公報
【特許文献3】特開2007−238795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、インキ諸性能(乾燥性、乳化性等)を維持したままで、印刷物の光沢や印刷インキの流動性を損なうことなく、印刷インキのミスト量を低減したロジン変性フェノール樹脂、その製造法および印刷インキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決すべく、ロジン変性フェノール樹脂の成分であるロジン類に含まれる樹脂酸成分に着目し、検討したところ、特定量のデヒドロアビエチン酸を含有したロジン類を使用し、更にロジン変性フェノール樹脂の低分子量成分の含有量および重量平均分子量を制御することにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、デヒドロアビエチン酸を5〜20%含有するロジン類(a)、フェノール類とホルムアルデヒドの縮合物(b)、およびポリオール(c)を反応させて得られることを特徴とする、ゲルパーメーションクロマトグラフィー法による重量平均分子量が50,000〜300,000のロジン変性フェノール樹脂であって、重量平均分子量が200〜400の成分の含有量が2〜6%であるロジン変性フェノール樹脂;当該ロジン変性フェノール樹脂を含有することを特徴とする印刷インキに関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インキ諸性能(乾燥性、乳化性等)を維持したままで、印刷物の光沢や印刷インキの流動性を損なうことなく、印刷インキのミスト量を低減した印刷インキ用樹脂を提供することができる。また、本発明に係る印刷インキ用樹脂は、特にオフセット枚葉インキ(枚葉インキ)、オフセット輪転インキ(オフ輪インキ)、新聞インキ用等のオフセット印刷インキ用樹脂として賞用されるほか、凸版印刷インキ用、グラビア印刷インキ用樹脂としても好適に使用される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のロジン変性フェノール樹脂とは、デヒドロアビエチン酸を5〜20%程度含有するロジン類(以下、成分(a)という)、フェノール類とホルムアルデヒドの縮合物(以下、成分(b)という)、ポリオール類(以下、成分(c)という)を必須成分として含有するものである。
【0010】
本発明で用いる成分(a)は、デヒドロアビエチン酸を5〜20%含有するロジン類であれば特に限定されず公知のものを用いることができる。デヒドロアビエチン酸の含有量が20%を超えると、得られるロジン変性フェノール樹脂が低分子量となるため、印刷インキのミスト量が多くなる傾向にあり、5%より少ないと印刷インキの流動性が悪化する。なお、デヒドロアビエチン酸量は、7〜20%とすることが好ましい。デヒドロアビエチン酸の含有量は、ガスクロマトグラフィー(GC)による樹脂酸のピーク面積の比によって求めることができる。具体的には、全樹脂酸ピーク面積100%に対するデヒドロアビエチン酸のピーク面積の比(%)により求めることができる。
【0011】
デヒドロアビエチン酸は芳香環を有する樹脂酸であり、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等の天然ロジンの樹脂酸成分の一つであるが、天然ロジン中に含まれるデヒドロアビエチン酸の含有量は、通常2〜5%と少ない。ロジン類に含まれるデヒドロアビエチン酸を増加させる方法として、該ロジンの不均化反応がある。不均化は、原料ロジンを公知の不均化触媒の存在下に加熱反応させるものであり、不均化触媒としては、たとえば、パラジウムカーボン、ロジウムカーボン、白金カーボン等の担持触媒、ニッケル、白金等の金属粉末、ヨウ素、ヨウ化鉄等のヨウ化物、リン系化合物等があげられる。該触媒の使用量は、ロジンに対して通常0.01〜5重量%、好ましくは0.01〜1重量%であり、反応温度は100〜300℃、好ましくは150〜290℃である。なお、デヒドロアビエチン酸量を制御する方法としては、たとえば、不均化ロジンからエタノールアミン塩として結晶化する方法(J.Org.Chem.,31,4246(1966))により単離したデヒドロアビエチン酸を上述の範囲となるように添加してもよい。
【0012】
なお、成分(a)としては、デヒドロアビエチン酸の含有量が、上述の範囲となるのであれば、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン等の天然ロジンをそのまま用いてもよく、天然ロジンを重合して得られる重合ロジン、天然ロジンや重合ロジンに不飽和カルボン酸を付加させた不飽和カルボン酸変性ロジン類でもよい。通常は、天然ロジンを不均化させた不均化ロジンを用いることが好ましいが、天然ロジンと不均化ロジンを併用して調製した重合ロジン、天然ロジンと不均化ロジンを併用して調製した不飽和カルボン酸変性ロジン類を使用してもよい。なお、不飽和カルボン酸変性ロジン類の調製に用いられる不飽和カルボン酸としては、たとえば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、アクリル酸、メタクリル酸等があげられる。当該不飽和カルボン酸変性ロジン類は、原料ロジン100重量部に対し、不飽和カルボン酸を通常1〜30重量部程度用いて変性したものである。これら成分(a)は単独または併用して使用することができ、全成分(a)中のデヒドロアビエチン酸の合計量が本発明において規定する好ましい使用量範囲であればよい。なお、重合ロジンや不飽和カルボン酸変性ロジン中に含まれるデヒドロアビエチン酸の量は、ガスクロマトグラフィー(GC)による絶対検量線法によって求められる。
【0013】
成分(b)としては、フェノール類(P)とホルムアルデヒド(F)とをF/P(モル比)が通常1〜3程度となる範囲内で水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ触媒の存在下において付加・縮合反応させた縮合物(レゾール型フェノール樹脂)や、フェノール類(P)とホルムアルデヒド(F)とをF/P(モル比)が通常0.5〜2程度となる範囲内でシュウ酸、硫酸、塩酸、パラトルエンスルホン酸などの酸触媒の存在下において付加・縮合反応させた縮合物(ノボラック型フェノール樹脂)が該当し、各種公知のものを特に制限なく使用することができる。また、必要により該縮合物を中和・水洗したものを成分(b)とすることもできる。フェノール類としては、石炭酸、クレゾール、アミルフェノール、ビスフェノールA、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ドデシルフェノール等があげられる。また、ホルムアルデヒドはホルマリン、パラホルムアルデヒド等を使用すればよい。成分(b)としては、ロジン変性フェノール樹脂を高分子量化できる観点からレゾール型フェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0014】
成分(c)としては、1分子中に少なくとも2つのヒドロキシル基を有する化合物であれば、特に限定されず、公知のものを使用することができる。具体的には、たとえばジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、グリセリン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールエタン、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール等をあげることができる。なお、成分(c)のなかでも本発明に使用するロジン変性フェノール樹脂の軟化点、分子量等を制御し易いことから、グリセリン、トリメチロールプルパン、トリメチロールエタンなどの、当該分子の最長炭素鎖における炭素数が4以下のものである3価アルコールや、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ジトリメチロールプロパン、ジトリメチロールエタンなど当該分子の最長炭素鎖における炭素数が4以下のものである4価アルコールを使用することが好ましい。
【0015】
本発明のロジン変性フェノール樹脂の成分(a)、成分(b)、成分(c)の使用量は特に限定されず、用途に応じてそれぞれ適宜決定すればよいが、通常、成分(a)の使用量は41〜88重量%程度、好ましくは46〜74重量%程度であり、成分(b)の使用量(不揮発分)は9〜50重量%程度、好ましくは22〜46重量%程度であり、成分(c)の使用量は、3〜9重量%程度、好ましくは4〜8重量%程度である。前記数値範囲内とすることによって、耐ミスチング性、乾燥性、光沢などのインキとしての諸特性のバランスを適度に保つことができるため好ましい。更に、成分(c)の使用量は、ロジン変性フェノール樹脂を所望の分子量とし、印刷インキに適正な乳化特性を与えるため、ロジン変性フェノール樹脂に含まれる全ヒドロキシル基当量数(OH)と全カルボキシル基当量数(COOH)の比を、通常OH/COOH=0.5〜1.5程度となるように調整するのが好ましい。
【0016】
本発明のロジン変性フェノール樹脂の製造方法としては、従来公知のロジン変性フェノール樹脂の製造方法を採用することができる。反応に際し、触媒や反応温度等の反応条件は特に制限されることはない。たとえば、成分(a)、成分(b)および成分(c)を所定量ずつ反応装置に仕込み、必要に応じて各種公知の酸性または塩基性触媒の存在下、100〜300℃程度の温度範囲にて1〜24時間程度反応させればよい。前記触媒としては、塩酸、硫酸等の鉱酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等のスルホン酸、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム等の金属酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の金属の水酸化物、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸亜鉛等の酢酸塩があげられる。
【0017】
また、成分(a)と成分(b)とを反応させた後に、得られた反応生成物に成分(c)を加えて反応をさせる方法、成分(a)と成分(c)とを反応させた後に、得られた反応生成物に成分(b)を加えて反応をさせる方法によっても製造することができる。
【0018】
前記方法で得られた本発明のロジン変性フェノール樹脂は高分子量、高軟化点を有することを特徴とする。本発明のロジン変性フェノール樹脂の重量平均分子量(ゲルパーメーションクロマトグラフィー法によるポリスチレン換算値)は、50,000〜300,000程度、好ましくは80,000〜300,000の範囲とされる。50,000より小さい場合はインキのミスト量が多くなる傾向にあり、300,000より大きい場合は樹脂中に不溶物が発生しやすくなったり、ゲルワニス製造中に弾性が強くなり反応容器からの取り出しが困難となる傾向にある。また、軟化点は140〜200℃程度が好ましい。軟化点を140℃以上とすることで印刷物の乾燥性を適度に保ち、また200℃以下とすることでインキ用ワニスとの親和性を高め、十分な溶解性を保つことができる。
【0019】
また、本発明のロジン変性フェノール樹脂は、当該樹脂中に含まれるゲルパーメーションクロマトグラフィー法による重量平均分子量が200〜400の成分の含有量が、2〜6%であることを特徴とする。なお、重量平均分子量200〜400の成分の含有量は、ゲルパーメーションクロマトグラフィー法による全ピーク面積100%に対する、ポリスチレン換算で求めた重量平均分子量200〜400の成分のピーク面積比(%)により求めることができる。重量平均分子量200〜400の成分の含有量が、2より小さい場合はインキの流動性が低くなる傾向にあり、6より大きい場合は乳化率が高くなりやすくなる。
【0020】
こうして得られたロジン変性フェノール樹脂に、植物油類、必要に応じてインキ用石油系溶剤等を加えて混合し、印刷インキ用ワニスを製造することができる。
【0021】
植物油類としては、従来公知の植物油類を特に限定なく使用することができる。具体的には、たとえば、アマニ油、桐油、サフラワー油、脱水ヒマシ油、大豆油等の植物油の他、アマニ油脂肪酸メチル、大豆油脂肪酸メチル、アマニ油脂肪酸エチル、大豆油脂肪酸エチル、アマニ油脂肪酸プロピル、大豆油脂肪酸プロピル、アマニ油脂肪酸ブチル、大豆油脂肪酸ブチル等といった前記植物油のモノエステルなどがあげられる。これらは単独で用いても2種以上を併用しても良い。これらの中では、印刷物の乾燥性の点から分子中に不飽和結合を有する植物油が好ましい。
【0022】
また、インキ用石油系溶剤としては、従来公知のインキ用石油系溶剤を特に限定なく使用することができる。具体的には、たとえば、新日本石油(株)製の石油系溶剤である0号ソルベント、4号ソルベント、5号ソルベント、6号ソルベント、7号ソルベント、AFソルベント4号、AFソルベント5号、AFソルベント6号、AFソルベント7号等があげられる。これらは単独で用いても2種以上を適宜に併用しても良い。特に環境対策面から沸点が200℃以上で芳香族炭化水素の含有率が1重量%以下である溶剤を使用することが好ましい。
【0023】
印刷インキ用ワニスは、上記各成分を混合、攪拌して製造することができるが、混合攪拌の際には、これらを100〜240℃程度に加熱して各成分を溶解させて混合し、必要に応じて添加剤を使用して得られる。添加剤としては、弾性を付与するためのゲル化剤の他、酸化防止剤等があげられる。
【0024】
前記ゲル化剤としては、たとえば、オクチル酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリブトキシド、アルミニウムジプロポキシドモノアセチルアセテート、アルミニウムジブトキシドモノアセチルアセテート、アルミニウムトリアセチルアセテート等、各種公知のものを特に限定無く使用できる。
【0025】
本発明の印刷インキは、顔料(黄、紅、藍、墨)、前記印刷インキ用ワニスを含有し、必要に応じて各種公知の添加剤を使用して、ロールミル、ボールミル、アトライター、サンドミルといった公知のインキ製造装置を用いて適切なインキ恒数となるよう、練肉・調製することにより得られる。添加剤としては、インキ流動性やインキ表面被膜を改善するための界面活性剤、ワックス等があげられる。
【実施例】
【0026】
以下、製造例、実施例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、本発明を限定するものではない。なお、以下「部」とは重量部を示す。なお、デヒドロアビエチン酸の含有量はガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製、GC−14A)を用いて行った。
【0027】
製造例1
(アルキルフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の製造)
攪拌機、分水器付き還流冷却管および温度計を備えた反応容器に、オクチルフェノール1,000部、92%パラホルムアルデヒド396部、キシレン584部および水500部を仕込み、攪拌下に50℃まで昇温した。次いで、同反応容器に45%水酸化ナトリウム溶液89部を仕込み、冷却しながら反応系を90℃まで徐々に昇温した後、2時間保温し、更に硫酸を滴下してpHを6付近に調整した。その後、ホルムアルデヒドなどを含んだ水層部を除去し、再度水洗した後に内容物を冷却して、レゾール型オクチルフェノールの70重量%キシレン溶液を得た。
【0028】
製造例2
(アルキルフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の製造)
攪拌機、分水器付き還流冷却管および温度計を備えた反応容器に、オクチルフェノール800部、ブチルフェノール200部、92%パラホルムアルデヒド425部、キシレン596部および水500部を仕込み、攪拌下に50℃まで昇温した。次いで、同反応容器に45%水酸化ナトリウム溶液89部を仕込み、冷却しながら反応系を90℃まで徐々に昇温した後、2時間保温し、更に硫酸を滴下してpHを6付近に調整した。その後、ホルムアルデヒドなどを含んだ水層部を除去し、再度水洗した後に内容物を冷却して、レゾール型オクチル/ブチルフェノールの70重量%キシレン溶液を得た。
【0029】
実施例1
(ロジン変性フェノール樹脂の製造例A)
攪拌機、分水器付き還流冷却管および温度計を備えた反応容器に、ガムロジン(デヒドロアビエチン酸を3.1%含有する。)970部および不均化ロジン(デヒドロアビエチン酸を68.8%含有する。)30部を仕込み(混合物中にデヒドロアビエチン酸を5.1%含有する。)、これを窒素雰囲気下に攪拌しながら180℃まで昇温して溶融させた。次いで、ペンタエリスリトール93部および水酸化マグネシウム3部を添加し、攪拌下に280℃まで昇温し、酸価が25mgKOH/g以下となるまで反応させた。更に230℃まで冷却した後、製造例1のレゾール型オクチルフェノールの70重量%キシレン溶液857部(固形分600部)を230〜260℃の温度範囲内で9時間かけて系内へ滴下した。滴下終了後、33重量%アマニ油粘度が10Pa・sとなるよう調整し、0.02MPaで10分間減圧して内容物を取り出した。こうして得られたロジン変性フェノール樹脂の酸価は20.3mgKOH/g、軟化点は175℃、重量平均分子量は112,000、重量平均分子量が200〜400の成分の含有量は2.6%であった。なお、33重量%アマニ油粘度とは、樹脂とアマニ油を1対2重量比で加熱混合したものを、日本レオロジー(株)製コーン・アンド・プレート型粘度計を用いて25℃で測定した粘度をいう(以下、同様)。また、酸価と軟化点はJIS K5601に準じて測定したものである(以下、同様)。また、重量平均分子量はゲルパーメーションクロマトグラフィー(東ソー(株)製、HLC−8120GPC)および東ソー(株)製TSK−GELカラムを用い、テトラヒドロフラン(THF)溶媒下で測定したポリスチレン換算によるものをいう(以下、同様)。
【0030】
実施例2
(ロジン変性フェノール樹脂の製造例B)
実施例1と同様の反応容器に、ガムロジン(デヒドロアビエチン酸を3.1%含有する。)900部および不均化ロジン(デヒドロアビエチン酸を68.8%含有する。)100部を仕込み(混合物中にデヒドロアビエチン酸を9.7%含有する。)、これを窒素雰囲気下に攪拌しながら180℃まで昇温して溶融させた。次いで、ペンタエリスリトール93部および水酸化マグネシウム3部を添加し、攪拌下に280℃まで昇温し、酸価が25mgKOH/g以下となるまで反応させた。更に230℃まで冷却した後、製造例1のレゾール型オクチルフェノールの70重量%キシレン溶液857部(固形分600部)を230〜260℃の温度範囲内で9時間かけて系内へ滴下した。滴下終了後、33重量%アマニ油粘度が10Pa・sとなるよう調整し、0.02MPaで10分間減圧して内容物を取り出した。こうして得られたロジン変性フェノール樹脂の物性を表1に示す。
【0031】
実施例3
(ロジン変性フェノール樹脂の製造例C)
実施例1と同様の反応容器に、ガムロジン(デヒドロアビエチン酸を3.1%含有する。)750部および不均化ロジン(デヒドロアビエチン酸を68.8%含有する。)250部を仕込み(混合物中にデヒドロアビエチン酸を19.5%含有する。)、これを窒素雰囲気下に攪拌しながら180℃まで昇温して溶融させた。次いで、ペンタエリスリトール93部および水酸化マグネシウム3部を添加し、攪拌下に280℃まで昇温し、酸価が25mgKOH/g以下となるまで反応させた。更に230℃まで冷却した後、製造例1のレゾール型オクチルフェノールの70重量%キシレン溶液857部(固形分600部)を230〜260℃の温度範囲内で9時間かけて系内へ滴下した。滴下終了後、33重量%アマニ油粘度が10Pa・sとなるよう調整し、0.02MPaで10分間減圧して内容物を取り出した。こうして得られたロジン変性フェノール樹脂の物性を表1に示す。
【0032】
実施例4
(ロジン変性フェノール樹脂の製造例D)
実施例1と同様の反応容器に、ガムロジン(デヒドロアビエチン酸を3.1%含有する。)950部およびデヒドロアビエチン酸50部を仕込み(混合物中にデヒドロアビエチン酸を7.9%含有する。)、これを窒素雰囲気下に攪拌しながら180℃まで昇温して溶融させた。次いで、ペンタエリスリトール93部および水酸化マグネシウム3部を添加し、攪拌下に280℃まで昇温し、酸価が25mgKOH/g以下となるまで反応させた。更に230℃まで冷却した後、製造例1のレゾール型オクチルフェノールの70重量%キシレン溶液857部(固形分600部)を230〜260℃の温度範囲内で9時間かけて系内へ滴下した。滴下終了後、33重量%アマニ油粘度が10Pa・sとなるよう調整し、0.02MPaで10分間減圧して内容物を取り出した。こうして得られたロジン変性フェノール樹脂の物性を表1に示す。
【0033】
実施例5
(ロジン変性フェノール樹脂の製造例E)
実施例1と同様の反応容器に、ガムロジン(デヒドロアビエチン酸を3.1%含有する。)950部およびデヒドロアビエチン酸50部を仕込み(混合物中にデヒドロアビエチン酸を7.9%含有する。)、これを窒素雰囲気下に攪拌しながら180℃まで昇温して溶融させた。次いで、グリセリン84部および酸化亜鉛7部を添加し、攪拌下に280℃まで昇温し、酸価が25mgKOH/g以下となるまで反応させた。更に230℃まで冷却した後、製造例2のレゾール型オクチルフェノールの70重量%キシレン溶液857部(固形分600部)を230〜260℃の温度範囲内で9時間かけて系内へ滴下した。滴下終了後、33重量%アマニ油粘度が10Pa・sとなるよう調整し、0.02MPaで10分間減圧して内容物を取り出した。こうして得られたロジン変性フェノール樹脂の物性を表1に示す。
【0034】
実施例6
(ロジン変性フェノール樹脂の製造例F)
実施例1と同様の反応容器に、ガムロジン(デヒドロアビエチン酸を3.1%含有する。)950部およびデヒドロアビエチン酸50部を仕込み(混合物中にデヒドロアビエチン酸を7.9%含有する。)、これを窒素雰囲気下に攪拌しながら180℃まで昇温して溶融させた。次いで、ペンタエリスリトール103部を添加し、攪拌下に250℃まで昇温し、1時間保温した。保温後、トリフェニルホスファイト2部を仕込み、280℃まで昇温し、酸価が25mgKOH/g以下となるまで反応した。更に230℃まで冷却した後、製造例1のレゾール型オクチルフェノールの70重量%キシレン溶液857部(固形分600部)を240〜270℃の温度範囲内で9時間かけて系内へ滴下した。滴下終了後、33重量%アマニ油粘度が10Pa・sとなるよう調整し、0.02MPaで10分間減圧して内容物を取り出した。こうして得られたロジン変性フェノール樹脂の物性を表1に示す。
【0035】
比較例1
実施例1において、不均化ロジンを使用せず、ガムロジンのみ1,000部使用してロジン変性フェノール樹脂を調製した(成分(a)中にデヒドロアビエチン酸を3.1%含有する。)。得られたロジン変性フェノール樹脂の物性を表1に示す。
【0036】
比較例2
実施例4において、ガムロジン(デヒドロアビエチン酸を3.1%含有する。)を810部、デヒドロアビエチン酸を190部に変更してロジン変性フェノール樹脂を調製した(成分(a)中にデヒドロアビエチン酸を21.5%含有する。)。得られたロジン変性フェノール樹脂の物性を表1に示す。
【0037】
比較例3
実施例5において、酸化亜鉛を水酸化カルシウムに変更してロジン変性フェノール樹脂を調製した(成分(a)中にデヒドロアビエチン酸を7.9%含有する。)。得られたロジン変性フェノール樹脂の物性を表1に示す。
【0038】
比較例4
実施例6において、トリフェニルホスファイトの仕込み量を2部から3部に変更してロジン変性フェノール樹脂を調製した(成分(a)中にデヒドロアビエチン酸を7.9%含有する。)。得られたロジン変性フェノール樹脂中に不溶物が発生していた。
【0039】
比較例5
実施例4において、280℃での保温時に酸価が15mgKOH/g以下となるまで反応する以外は実施例4と同様にしてロジン変性フェノール樹脂を調製した(成分(a)中にデヒドロアビエチン酸を7.9%含有する。)。得られたロジン変性フェノール樹脂の物性を表1に示す。
【0040】
比較例6
実施例4において、280℃での保温時に酸価が30mgKOH/gとなるまで反応する以外は実施例4と同様にしてロジン変性フェノール樹脂を調製した(成分(a)中にデヒドロアビエチン酸を7.9%含有する。)。得られたロジン変性フェノール樹脂の物性を表1に示す。
【0041】
比較例7
比較例1において、無水マレイン酸を20部添加してロジン変性フェノール樹脂を調製した(成分(a)中にデヒドロアビエチン酸を3.1%含有する。)。得られたロジン変性フェノール樹脂の物性を表1に示す。
【0042】
以上、実施例および比較例で得られた樹脂物性を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
(ワニスの調製)
各実施例および比較例で得られた樹脂を45.0部、アマニ油10.0部、及びAFソルベント7号(新日本石油(株)製、非芳香族石油系溶剤)44.3部を200℃で30分間混合溶解した。次にこれを80℃まで冷却した後、アルミニウムジプロポキシドモノアセチルアセテート(商品名ケロープEP−2、ホープ製薬(株)製)0.7部を加え、200℃まで加熱して1時間ゲル化反応させ、ゲルワニスを得た。なお、比較例4の樹脂を用いたゲルワニスは弾性が強く、反応容器からの取り出しが困難であった。
【0045】
(印刷インキの調製)
前記実施例および比較例のゲルワニスを用い、次の配合割合で3本ロールミルにより練肉して印刷インキを調製した。
フタロシアニンブルー(藍顔料) 18重量部
前記ゲルワニス 62〜70重量部
日石AFソルベント7号 12〜20重量部
上記配合に基づいて30℃、400rpmにおけるインコメーターのタック値が6.5±0.5、25℃におけるスプレッドメーターのフロー値(直径値)が38.0±1.0となるよう適宜調製した。
【0046】
(印刷インキの性能試験)
前記ゲルワニスを用いて調製した印刷インキの性能を下記試験により評価した。結果を表2に示す。
(光沢)
インキ0.4mlをRIテスター(石川島産業機械(株)製)にてアート紙に展色した後、23℃、50%R.H.にて24時間調湿し、60゜−60゜の反射率を光沢計により測定した。
(ミスチング)
インキ2.6mlをインコメーター((株)東洋精機製作所製)上に展開し、ロール温度30℃、400rpmで1分間、更に1800rpmで2分間回転させ、ロール直下に置いた白色紙上へのインキの飛散度を観察して1〜5段階で評価を行なった。ミスチングは数値が大きいほどミスト量が少なく、良好であることを示す。
(乾燥性)
インキ0.4mlをRIテスター(石川島産業機械(株)製)にてアート紙に展色した後、160℃の雰囲気中に2秒、4秒、6秒間それぞれ暴露し、指触によりべたつきのない状態を乾燥として判断した。1〜5段階で評価を行い、数値が小さいほど乾燥性が良好であることを示す。
(乳化率)
インキ3.9mlを動的乳化試験機(日本レオロジー機器(株)製)上に展開し、ロール温度30℃、200rpmにて純水を5ml/分の速度で供給、このインキ中の水分量を赤外水分計により測定した。
(流動性)
25℃に空調された室内において、インキ1.3mlを地平面と60゜の角度をなすガラス板の上端に置き、30分間に流動した距離を測定した。数値が大きいほど流動性が良好であることを示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表2の結果より、本発明のロジン変性フェノール樹脂を使用した印刷インキ(実施例1〜6)は、デヒドロアビエチン酸の含有量を本発明において指定する使用量範囲とすることで、指定範囲外の印刷インキ(比較例1、2)と比較して光沢や流動性を損なわずに優れた耐ミスチング性を有していることが分かる。また、重量平均分子量を本発明において指定する範囲とすることで、指定範囲外の印刷インキ(比較例3、4)と比較して優れた耐ミスチング性、流動性を有しており、更にゲルワニス製造時のハンドリング性が良好である。また、重量平均分子量が200〜400の成分の含有量を本発明において指定する範囲とすることで、指定範囲外の印刷インキ(比較例5、6)と比較して優れた耐ミスチング性、流動性、乳化性を有していることが分かる。また、デヒドロアビエチン酸を使用せず、二塩基酸を反応させて高分子量化したロジン変性フェノール樹脂を用いた印刷インキ(比較例7)は、耐ミスチング性が優れているものの、光沢、乳化性、流動性が劣っていた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
デヒドロアビエチン酸を5〜20%含有するロジン類(a)、フェノール類とホルムアルデヒドの縮合物(b)、およびポリオール(c)を反応させて得られることを特徴とする、ゲルパーメーションクロマトグラフィー法による重量平均分子量が50,000〜300,000のロジン変性フェノール樹脂であって、重量平均分子量が200〜400の成分の含有量が2〜6%であるロジン変性フェノール樹脂。
【請求項2】
デヒドロアビエチン酸を5〜20%含有するロジン類(a)、フェノール類とホルムアルデヒドの縮合物(b)、およびポリオール(c)を反応させて得られることを特徴とする、ゲルパーメーションクロマトグラフィー法による重量平均分子量が50,000〜300,000のロジン変性フェノール樹脂であって、重量平均分子量が200〜400の成分の含有量が2〜6%であるロジン変性フェノール樹脂の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のロジン変性フェノール樹脂を含有することを特徴とする印刷インキ。


【公開番号】特開2011−184660(P2011−184660A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54570(P2010−54570)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】