説明

ロックウール

【課題】従来よりも熱伝導率が低く、且つ低密度のロックウールを、安価に提供すること。
【解決手段】酸化物の融体からなる原料を、高速回転する回転体上に流下し、該回転体の遠心力により飛散させ、繊維化して製造するロックウールであって、原料の組成がCaO/SiO2:0.85〜1.00、SiO2:39mass%以上、MgO:3〜8mass%、Al23:15〜18mass%、その他不可避成分:3mass%以下であることを特徴とするロックウールを用いる。原料の一部として、高炉スラグを用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量で高断熱性を有する断熱材であるロックウールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅の熱効率向上の観点から高断熱化が進んでおり、住宅の建築材料として、従来よりも熱伝導率の低い断熱材が要求されている。同時に、住宅建築時の作業性やコスト低下の観点から、断熱材が軽量であることも要求されている。
【0003】
代表的な断熱材としては無機質繊維の集合体があり、グラスウールやロックウール等が市販されている。このうち、ロックウールは、高炉スラグを主原料として成分調整をした無機質繊維であり、産業副生物を主原料とする点で環境に配慮した材料である。加えて、グラスウールに比べて、軟化する温度が高いため、耐熱性に優れているという特徴がある。
【0004】
また、このロックウールは、高炉スラグを主成分とする融体を回転するホイール上に注ぎ、ホイールの回転力により回転方向に飛散させることにより線状体とすることで製造されるが、飛散した線状体の先端にショットと呼ばれる未繊維化部分が残留してしまうという問題がある。このショットの存在により、同体積の繊維を含む集合体としてロックウールとグラスウールとを比較した場合、ショットのほとんどないグラスウールに比べて、ロックウールは重くなっている。逆に、同じ質量の集合体としてロックウールとグラスウールとを比較すると、ロックウールでは繊維の容積が減少して空隙が増えて空気層内で対流が起きたり、空気そのものの出入りが起こったりしてしまうので、急激に断熱性が悪化する。そのため、ロックウールで軽量化と断熱性とを両立させることは難しく、ロックウールで製作した断熱材は、軽量が望ましい用途には余り使われていないのが実情である。
【0005】
上記の問題を解決するために、ロックウールの繊維の細径化や、未繊維化部分の減少が試みられている。繊維が細い場合には、同じ質量でも繊維が複雑に絡み合った状態になるので、空気の対流が抑えられるし、未繊維化部分を減少させた場合には、繊維構造を変えずに単純に軽量化できるためである。これらの改善を実現するために、ロックウールの化学組成を調整する種々の研究が行なわれている。化学組成を調整することで、ロックウール原料の融体の粘度を調整することができる。
【0006】
従来よりも、繊維の径を細くするには、ロックウール製造時に融体の1400〜1600℃における粘度を下げることが有効であることが知られている。これは、回転ホイールから飛散を開始する際の融体の初期条件を特定するものであり、融体の粘度を下げることによって、ホイール上で融体が細かく振動し、これにより細い繊維が形成されるという方法である。
【0007】
例えば、そのままではロックウールの素材としてSiO2が不足する溶融状態の高炉スラグに、シラス単味あるいはシラス及び珪石を配合し、全体でSiO2:38〜48mass%、Al23:10〜16mass%、CaO:30〜40mass%、MgO:3〜8mass%、FeO:2mass%以下の組成物とするロックウールの製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
また、SiO2、CaO、MgO、Al23、Na2O、K2Oの濃度を調整するとともに、Ba23を添加するロックウールが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0009】
また、CaO、SiO2、MgOの濃度を調整するとともに、CaF2を添加するロックウールが知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開昭57−17444号公報
【特許文献2】特開2001−139347号公報
【特許文献3】特開2005−170716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の組成物の素材を用いても、製造されたロックウールの平均繊維径は太く、最小でも7.8μmであり、断熱性は向上しても、十分な軽量化が達成されていないのが現状である。
【0011】
また、特許文献2に記載のロックウールでは、繊維径、ショットともに改善されるが、主原料の高炉スラグが産業副生物であるに比べて、B2O3はかなり高価であり、数%の添加でも原料費が数倍になるため効果に見合わず、コスト高である。
【0012】
また、特許文献3に記載のロックウールでは、繊維径、ショットともに改善され、CaF2も比較的安価であるが、CaF2添加により、電気炉、電気炉とホイール間の流路など、融体と接触する部分の耐火物の溶損が大きくなり、操業に支障をきたす場合があるという問題がある。
【0013】
本発明は、かかる事情に鑑み、従来よりも熱伝導率が低く、且つ低密度のロックウールを、安価に提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成するため、ロックウール素材への微量成分の添加に着眼し、鋭意研究を行なった。その際、ロックウールの繊維を細く、ショットを減らすには、添加する微量成分だけでなく、主成分も含めた最適範囲を指向する必要があると考えた。そして、高炉スラグの基本組成であるSiO2、CaO、MgO、Al23及びその他の添加成分の量について研究を重ね、最適な基本配合と添加成分を見出し、その成果を本発明に具現化した。
【0015】
すなわち、本発明は、酸化物の融体からなる原料を、高速回転する回転体上に流下し、該回転体の遠心力により飛散させ、繊維化して製造するロックウールであって、原料の組成がCaO/SiO2:0.85〜1.00、SiO2:39mass%以上、MgO:3〜8mass%、Al23:15〜18mass%、その他不可避成分:3mass%以下であることを特徴とするロックウールである。原料の一部として、高炉スラグを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高断熱性かつ軽量のロックウールが安定して製造でき、これにより、熱伝導率が低く、低密度のロックウールが提供できる。また、原料に高炉スラグを用いることができるので、住宅用等として、従来よりも優れた品質の断熱材が安価に提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0018】
本発明に係るロックウールは、産業副生物である安価な高炉スラグを主原料とすることが好ましいが、素材を特に限定するものではない。つまり、天然の岩石、高炉スラグ、転炉スラグは言うに及ばず、鉄鋼以外の製錬スラグ等を出発原料としても良い。
【0019】
本発明者らはロックウール細繊維化のために種々の調査を行ったところ、原料融体の1400〜1600℃での粘度を下げるとともに、原料の融点を下げる、原料融体の表面張力を低減することが細繊維化あるいはショット低減に有効であることを見出した。原料の融点は回転ホイールから飛散を開始した後の融体の挙動を特定するものであり、低融点の融体であれば、ホイールから飛散後の繊維化の時間が長くなることにより、未繊維化部分が少なくなる、即ちショットの大きさが小さくなる。表面張力はホイールと融体の濡れ性を特定するものであり、ホイールと融体との濡れ性が悪ければ、ホイール上から飛散する際の融体の体積が大きくなり、繊維は細くなり難く、ショットも大きくなるため、表面張力を低くすることが有効である。
【0020】
上記知見から、本発明者等は細繊維化、ショット低減のために最適な原料融体の組成はCaO/SiO2:0.85〜1.00、SiO2:39mass%以上、MgO:3〜8mass%、Al23:15〜18mass%、その他不可避成分:3mass%以下であることを見出した。原料組成の限定理由について以下に述べる。
【0021】
CaO/SiO2:0.85〜1.00とする。
CaOは、溶融状態の組成物を低粘性にし、SiO2は高粘性にする効果がある。しかし、表面張力は、CaO増加により高くなり、SiO2により低くなる。このようにCaOとSiO2は効果が相反するため、最適な組合せを得るべくCaOとSiO2の比を変化させたところ、CaO/SiO2を0.85〜1.00の範囲とすることで、繊維径、ショット率のどちらも極小化はできなかったが、熱伝導率を極小化できた。しかし、SiO2含有量を低くし過ぎると、アルカリ土類系のSiO2を主体とするガラスのネットワーク構造を維持できなくなるため、素材がガラス状態を保てなくなり繊維化が難しくなる。そのため、SiO2含有量は39mass%以上あることが望ましい。
【0022】
MgO:3〜8mass%とする。
組成物中のMgOは、ガラスの失透の低減、耐熱性維持の効果があり、3mass%以上含まれている必要がある。さらに、粘度を下げる効果からも、4mass%以上含まれていることが望ましい。一方、MgO含有量を高くし過ぎると、表面張力が高くなり、繊維化が難しくなる。SiO2、CaOが上記範囲の場合、MgOは8mass%以下とする。
【0023】
Al23:15〜18mass%とする。
Al23は、ガラス化と高耐熱性に効果があり、8mass%以上含まれている必要がある。しかし、含有量が高くなると、粘度が急増することが知られており、本発明に係るSiO2、CaOの組成レベルであれば、20mass%以下である必要がある。さらに、この8〜20mass%の範囲で融点が最も低くなるのは15〜18mass%の範囲であったので、Al23含有量は15〜18mass%が最適である。
【0024】
その他不可避成分:3mass%以下とする。
不可避不純物等の、上記以外の成分が3mass%を超えると、本発明の効果が発揮されない場合があり、不可避成分は3mass%以下とする。
【0025】
上記の成分を含有する原料を、溶解して融体として、高速回転する回転体上に流下し、回転体の遠心力により飛散させ、繊維化してロックウールを製造する。
【0026】
このような成分系の原料を溶解する炉は、如何なる炉であっても良い。また、複数の炉で溶融した原料を出湯後、繊維化工程までに混合して使用しても構わない。あるいは、一部の組成分の原料を炉で溶融したスラグの出湯流に、残りの組成分の原料を連続的に添加する方法でもよい。即ち、繊維化工程までに、原料融体の組成が本発明の範囲になっていれば、融体溶製の方法は問わない。
【実施例1】
【0027】
次に、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0028】
公知のカーボン電極を備えた2段式電気炉を用いて素材を加熱溶融し、高速回転している内部冷却型のホイールに流し当てて繊維化し、冷却してロックウールとした。素材は、主原料を高炉スラグとし、それに種々の原料を加えて組成を変化させて、表1に示すNo.1〜8のロックウールを製造した。No.1〜4は本発明の組成範囲であり、例えば、No.1では高炉スラグ(SiO2=34.8mass%、CaO=45.3mass%、Al23=13.2mass%、MgO=5.5mass%)1t(トン)当たり、珪砂(SiO2=98.9mass%)170kg、高純度Al23(Al23=99mass%)90kgを添加し、また、No.3では、高炉スラグ(SiO2=35.7mass%、CaO=44.5mass%、Al23=12.8mass%、MgO=5.3mass%)1t当たり、珪砂(SiO2=98.9mass%)130kg、高純度Al23(Al23=99mass%)64kg、MgOクリンカー(MgO=99mass%)30kgを添加した。なお、効果を比較するため、本発明の組成範囲にない素材も準備し、同様にロックウールを製造した(No.5〜8)。ホイールは周速度が約14m/sとなるように回転させ、ホイール面上の素材温度は、いずれの場合も1400〜1450℃になるように調整し、ホイールから繊維状物を離脱させるために、ホイールの背面から圧縮空気を約100m/sの流量で流して集綿した。なお、集綿は、集綿機で行なわれ、そこで常温まで空冷される。また、1チャージが35tの融体を飛散開始してから、冷却を完了するまでの所要時間は、8時間であった。
【0029】
また、同じ条件で、飛散時にホイールの周囲より水溶性フェノール樹脂バインダを綿に吹きつけながら集綿し、その集綿体を予備圧縮して板状に成形し、熱硬化炉で該バインダを硬化させ、かさ密度が約30kg/m3、厚み100mmの非晶質ボードも製造した。
【0030】
以上のようにして製造したロックウールと非晶質ボードについて、製造した繊維の径、ショット率、25℃におけるボードの断熱性(熱伝導率)を測定した。これらの結果を表1に併せて示す。
【0031】
【表1】

【0032】
本発明例であるNo.1〜4の低密度の繊維体は非晶質であり、表1によれば、No.5〜8に比較して、形成する各繊維が細く、且つショット率も低いことが明らかである。また、熱伝導率が低く、高い断熱性を保持していることもわかる。
【0033】
以上のように、本発明のロックウールは、軽量で、断熱性に優れた建材として使用できることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物の融体からなる原料を、高速回転する回転体上に流下し、該回転体の遠心力により飛散させ、繊維化して製造するロックウールであって、原料の組成がCaO/SiO2:0.85〜1.00、SiO2:39mass%以上、MgO:3〜8mass%、Al23:15〜18mass%、その他不可避成分:3mass%以下であることを特徴とするロックウール。
【請求項2】
原料の一部として、高炉スラグを用いることを特徴とする請求項1に記載のロックウール。

【公開番号】特開2008−88015(P2008−88015A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−270506(P2006−270506)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(591280061)JFEロックファイバ−株式会社 (2)
【Fターム(参考)】