説明

ロック装置及びグラブボックス

【課題】ロック解除時に発生する動作音を極めて小さくすることができるロック装置及びグラブボックスを提供する。
【解決手段】形状記憶合金からなる解除用変形部材23が加熱されて、その形状が記憶された形状に復元する際の復元力を駆動力としてロック解除動作が行われることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓋、ドア等の開閉可能な開閉部を閉位置にロックすることにより、当該開閉部の開放動作を規制するロック装置及びこれを具備する車両のグラブボックスに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のインストルメントパネルに設けられるグラブボックスは、被収納物を収納する収納部を備え、同収納部の開口部に設けられた蓋部によって同開口部が開閉される。この蓋部は、開口部を閉鎖する状態においては係止部により係止されてその開放が規制されている。そして、蓋部は、これに設けられた操作部の操作を通じて係止部による係止状態が手動で解除される(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかしながら、このようにグラブボックスを手動で開放操作をするのではその操作が煩雑であるため、従来、例えば特許文献2に記載のグラブボックスのように、係止部を駆動するアクチュエータとしてソレノイドを使用し、解除スイッチ等を操作することでソレノイドが通電されて係止部による蓋部の係止状態が解除されるようにした構成も提案されている。
【特許文献1】特開2005−29075号公報
【特許文献2】実開昭63−83363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2のようにソレノイドにより係止部の解除を行うようにしたグラブボックスにおいてはそのソレノイドの作動に際して大きな作動音が発生するため好ましくない。特に近年、車両においては車室内の静粛性が重要視されており、小さい音であってもその発生を極力抑制することが望まれている。また、ロック解除に際して大きな作動音が発生するといった問題は車両のグラブボックスに設けられたロック装置に限らず、一般的なロック装置においても同様に発生し得る。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ロック解除時に発生する作動音を極めて小さくすることができるロック装置及びこれを具備するグラブボックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、開位置及び閉位置の間を変位可能な開閉部を閉位置にてロックするロック機構と、該ロック機構のロックを解除する解除機構とを備えたロック装置において、前記解除機構は、形状記憶合金からなる解除用変形部材と該解除用変形部材を加熱する加熱手段とを含み、該加熱手段の加熱により前記解除用変形部材の形状が記憶された形状に復元する際の復元力を駆動力として前記ロック機構のロック解除動作を行うことを要旨とする。
【0007】
同構成にあって、解除用変形部材は形状記憶合金により形成されているため、加熱されることによってその形状が記憶された形状に復元する。そして通常、この復元に際して音が発生することは殆どない。上記構成によれば、この解除用変形部材の形状が復元する際の復元力をロック解除動作の駆動力として利用するようにしているため、ロック解除時に発生する動作音を極めて小さくすることができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のロック装置において、前記加熱手段は前記解除用変形部材に通電してこれを発熱させることによりその加熱を行うことを要旨とする。
【0009】
同構成によれば、解除用変形部材を加熱する構成を別途設ける必要がなく、ロック装置における構成の簡略化を図ることができる。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載のロック装置において、前記解除用変形部材は線状に形成されるとともに、前記解除機構は該解除用変形部材が長手方向に収縮する際の復元力を駆動力として前記ロック機構の解除動作を行うことを要旨とする。
【0010】
同構成によれば、解除用変形部材を線状に形成し、解除用変形部材の長手方向における復元力をロック機構の解除動作の駆動力として利用することで、解除用変形部材の配設に要するスペースを小さくしつつ、ロック解除動作に必要な変形量を確保することができる。すなわち、解除用変形部材の配設に要するスペース当りの変形量を増大させることができる。また、線状に形成することで解除用変形部材の体積を小さくして加熱時の温度上昇速度を大きくすることができ、ロック解除動作を迅速に行うことができるようになる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のロック装置において、前記解除用変形部材は折り返された形状にて配設されることを要旨とする。
同構成によれば、折り返さずに解除用変形部材を配設した場合に比してその配設に要するスペースの増大を抑制しつつ、解除用変形部材の形状が復元する際により大きな収縮変形力を確保することができる。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のロック装置において、前記加熱手段による加熱がなされていない状態で前記解除用変形部材の温度が上昇して前記復元力が発生するとき、その復元力の伝達を遮断して前記解除機構のロック解除動作を無効化する無効化手段を更に備えることを要旨とする。
【0013】
同構成によれば、解除機構に対する解除用変形部材の復元力の伝達が遮断されると、解除用変形部材の形状が元の形状に復元しても同解除機構に駆動力が付与されないため、ロック解除動作は行われない。その結果、解除用変形部材の温度が加熱手段による加熱以外の要因によって上昇しても、ロック機構は開閉部を閉位置においてロックされた状態に保つことができ、不必要なロック解除動作が行われることを回避することができるようになる。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のロック装置において、前記ロック機構は前記開閉部を閉位置にて係止する係止部材を含み、前記解除機構は、前記解除用変形部材とともに変位し且つ前記係止部材に係合する係合部材を介して前記復元力を前記係止部材に伝達して前記ロック機構のロックを解除するものであり、前記無効化手段は、前記加熱手段による加熱がなされていない状態で前記解除用変形部材の温度が上昇して前記復元力が発生するときには、前記係合部材を前記係止部材と係合しない非係合位置に変位させるとともに、前記解除用変形部材が温度低下したときには、前記係合部材を前記係止部材と係合する係合位置に変位させることを要旨とする。
【0015】
同構成によれば、解除用変形部材の温度が加熱手段による加熱以外の要因によって上昇して前記解除機構のロック解除動作が無効化された場合であっても、解除用変形部材の温度が復元力の発生しない程度まで低下すれば、再度解除用変形部材の復元力をロック機構に伝達可能となる。従って、その後は正常にロック解除動作を行うことができる。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のロック装置において、前記無効化手段は、形状記憶合金からなる無効化用変形部材を含み、当該無効化用変形部材は、その形状が記憶された形状に復元する際の復元力を駆動力として前記係合部材を前記係止部材と係合しない非係合位置に変位させることを要旨とする。
【0017】
同構成にあっては、周囲の空気の温度上昇によって解除用変形部材の温度が上昇する場合、無効化用変形部材の温度も同様に上昇する。従って、解除用変形部材に復元力が生じる場合には、無効化用変形部材にも復元力が生じて、解除用変形部材の復元力のロック機構への伝達は遮断されることとなり、簡単な構成で無効化手段を実現することができる。更に、ソレノイドの駆動力によってロック機構への解除用変形部材の復元力の伝達を遮断する構成と比較して、無効化に伴う動作音の発生を好適に抑制することができる。
【0018】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載のロック装置において、前記無効化用変形部材は、前記解除用変形部材より低い温度でその形状が記憶された形状に復元する性質を有する形状記憶合金によって形成されることを要旨とする。
【0019】
同構成によれば、無効化用変形部材は解除用変形部材よりも低い温度で復元力が生じるため、より確実にロック機構への伝達を遮断することができる。
請求項9に記載の発明は、請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載のロック装置を具備するグラブボックスにおいて、車両のインストルメントパネルにおいて被収納物を収納するための収納空間を有する収納部と、前記被収納物を前記収納空間に収納する際の入口となる開口部とを備え、前記開閉部は、前記開口部を覆うように設けられ、前記被収納物を収容可能な開位置と収納不可能な閉位置との間を変位可能な蓋部であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかるロック装置及びグラブボックスによれば、ロック解除時に発生する動作音を極めて小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のロック装置を車室内に設けられるグラブボックスに適用するようにした実施形態について図1〜図5を参照して説明する。なお、以下の説明において、「左」「右」「前」「後」「上」「下」は、特に断らない限り、車両の運転手席に座したドライバーから見た場合の、「左」「右」「前」「後」「上」「下」をそれぞれ意味する。
【0022】
図1は車室内において助手席側に位置するインストルメントパネル2、並びにこのインストルメントパネル2に設けられたグラブボックス3を示す斜視図である。同図1に示されるように、車両の車室内には、フロントシート(図示略)と対向するようにインストルメントパネル2が設けられるとともに、インストルメントパネル2の助手席(図示略)側にはグラブボックス3が設けられている。このグラブボックス3は、被収納物を収納するための収納空間4aを有するとともに箱状をなす収納部4を備えている。また、収納部4の後端側(助手席側)には、収納空間4aを後方に向かって開放するとともに、被収納物を出し入れするための開口部5が形成されている。
【0023】
また、グラブボックス3は、開口部5を開閉する開閉部としての蓋部6を備えている。図2に示すように、蓋部6は閉塞時に開口部5を覆うリッド部6aと、リッド部6aの前方であって左右両縁よりやや内側に設けられた1対のヒンジ部6b,6cとを備えている。リッド部6aは、開口部5と対応するサイズとなるように横長の板状に形成されている。また、リッド部6aの後端側には、上方に向けて突出形成された突出部6dが設けられている。
【0024】
ヒンジ部6bの上端部には、四角形状の係合孔部7aが形成されるとともに、下端部には軸受け部8aが形成されている。また、ヒンジ部6cにも同様に係合孔部7b及び軸受け部8bが形成されている。蓋部6は、軸受け部8a,8bを介して収納部4の下端部において回動可能に取付けられるとともに、軸受け部8a,8bを回動の中心として回動可能に構成されている。また、軸受け部8a,8bには、蓋部6を下方向(開方向)へ付勢するリターンスプリング9a,9bが取付けられている。
【0025】
なお以下では、リッド部6aを上方(閉方向)に回動させることにより、同リッド部6aにより開口部5全体が覆われて、開口部5全体が閉鎖される位置(図1において実線で示す)を閉位置とする。これに対し、リッド部6aを下方に回動させることにより、リッド部6aの突出部6dを手前側(後方側)へ倒れ込ませて、開口部5全体が開放される位置(図1において破線で示す)を開位置とする。
【0026】
図2はこのグラブボックス3の蓋部6及びそのロック装置10を示す斜視図である。同図2に示されるように、グラブボックス3は、蓋部6に対して収納空間4a(図1に示す)を挟んで前方側に配設され、左右方向に伸びる長筒形状のロック装置10を備えている。ロック装置10は、閉位置に位置する蓋部6をロックして、蓋部6の開位置への移動を規制するロック機構と、同ロック機構によるロック状態を解除する解除機構とを主な構成要素としている。
【0027】
また、図1に示されるように、車両1のセンターパネル11には、ロック装置10による蓋部6の保持状態を解除するためのプッシュ式の操作部12が設けられている。操作部12が設けられている位置は、運転手席(図示略)に着座する搭乗員が手を伸ばした際に容易に操作可能な範囲に配置されている。
【0028】
図3(a)はロック装置10全体を示す斜視図であり、図3(b)はロック装置10の分解斜視図である。次にこの図3(a),(b)を参照してロック装置10の具体的な構成について説明する。
【0029】
図3(a)及び図3(b)に示されるように、ロック装置10は本体フレーム13を備えている。本体フレーム13には、左右両端の側部において、四角形状のロック側孔部13a,13bが形成されるとともに、本体フレーム13の左側上面には、上方に向かって有孔支持板部13cが突出形成されている。また、本体フレーム13の上面であって、有孔支持板部13cよりもやや内側には、矩形状の長孔部13dが形成されている。
【0030】
そして、本体フレーム13の上面であって、長孔部13dと上下方向において対向する位置には、左側スライド台座14が取付けられている。左側スライド台座14は、1対の断面コ字状のガイドレール部14aを有するとともに、左側側部14bに横長状のスリット14cが形成されている。左側スライド台座14には、ガイドレール部14aによって摺動可能に支持された状態で、左側スライド部15が設けられている。左側スライド部15は、四角形状の筒体である筒部15bと、ガイドレール部14a上を摺動する摺動部15cと、摺動部15cから左右両側に突出形成されるとともに孔を有する左側突出部15d、右側突出部15eとから構成されている。
【0031】
また、筒部15b及び摺動部15cには上下方向に貫通する孔15aが形成されている。その孔15aは、左側スライド部15が左側スライド台座14に取付けられた状態において、本体フレーム13の長孔部13dと上下方向において対向している。
【0032】
また、左側突出部15dは、スライド台座14に形成されたスリット14cと略同じ大きさに形成されている。従って、左側スライド部15がスライド台座14を左側に向けて摺動し左側側部14bと当接することによって左方向への移動を規制された状態では、左側突出部15dはスリット14cから外側(左側)に突出している。
【0033】
左側スライド部15には、孔15aの開口を覆うように筒部15bの上方において板状のカバー部16が取付けられている。カバー部16は、筒部15bと対応する大きさに形成されるとともに、上下方向に貫通形成されたスリット16aと、上方に向かって突出形成された有孔突出部16bとを有している。
【0034】
また、カバー部16の有孔突出部16bには、バネ状に形成された形状記憶合金(本実施形態においてはニッケルチタン)からなる無効化用変形部材17の上端が連結されるとともに、無効化用変形部材17は、スリット16aを通って、左側スライド部15の内部において吊り下げされている。無効化用変形部材17は、所定の第1温度(本実施形態においては70度)に加熱されることによって収縮してその形状が記憶された形状に復元する性質を有している。また、無効化用変形部材17は、バネ状に形成されているための変化量が増大されている。
【0035】
無効化用変形部材17の下端には、略台形状の係合部材18が連結されている。無効化用変形部材17は、係合部材18の重さによって下方に引っ張られて記憶された形状よりも伸ばされた状態で配設されている。また、係合部材18には、支持部材17aが連結されるとともに、支持部材17aは上端が有孔突出部16bと連結されて係合部材18を支持している。従って、支持部材17aは、無効化用変形部材17が係合部材18の重みによって過度に伸びてしまうのを防止している。
【0036】
係合部材18は、ロック装置10が組み立てられた状態において、図5(a)に示すように、本体フレーム13に形成された長孔部13dを通って本体フレーム13の上面より下方に配置されている。また、係合部材18には、その下端側において回動可能に軸支されたローラ部19が設けられている。ローラ部19は、その外周縁が係合部材18の右側側面18aより右側に位置するとともに、係合部材18の下端部18bよりも下側に位置するように設けられている。
【0037】
図3(a)及び図3(b)に示すように、本体フレーム13の上面であって、右側端部よりやや左側には、右側スライド台座20が取付けられている。右側スライド台座20は、1対のガイドレール部20aを有するとともに、右側側部20bの前後方向中央が切り欠けられて切り欠き部20cが形成されている。右側スライド台座20には、ガイドレール部20aによって摺動可能に支持される状態で、右側スライド部21が設けられている。右側スライド部21は、ガイドレール部20a上を摺動する摺動部21aと、摺動部21aから右側に突出形成されるとともに孔を有する有孔突出部21bとから構成されている。そして、右側スライド部21がスライド台座20を右側に向けて摺動すると、有孔突出部21bは切り欠き部20cから外側(右側)に突出する。また、本体フレーム13の上面であって、右側スライド台座20より更に右側には、中央に孔を有する支持板部22が設けられている。
【0038】
本体フレーム13の内部には、係止部材としてそれぞれの左側ロック部27と右側ロック部28とが設けられている。左側ロック部27は、棒状をなし蓋部6を保持する部位である保持部27aと、保持部27aの上面から突出形成された係合片27bと、歯形が形成されたラック部27cとを主な構成要素としている。また、右側ロック部28は、棒状をなし蓋部6を保持する部位である保持部28aと、歯形が形成されたラック部28cとを主な構成要素としている。
【0039】
各ラック部27c,28cの間には、ピニオン29が設けられており、左側ロック部27及び右側ロック部28は、ラック部27cとラック部28cとがピニオン29を挟んで互いに対向するように配置され、それらラック部27c,28cがピニオン29と噛合されている。従って、何れか一方のラック部がその軸方向に変位すると、ピニオン29を介して他方のラック部も同じ距離だけ軸方向に変位する。左側ロック部27及び右側ロック部28は、保持部27aが本体フレーム13に形成されたロック側孔部13aから外側(左側)に突出するとともに、保持部28aが本体フレーム13に形成されたロック側孔部13bから外側(右側)に突出するように配置されている。
【0040】
左側ロック部27には、同左側ロック部27を左方向へ付勢するスプリング30が連結されており、左側ロック部27は、このスプリング30の弾性力によって常時左方向に向けて付勢されている。このように左側ロック部27が左方向に付勢されると、当該付勢力はピニオン29及び各ラック部27c,28cによって右側ロック部28を右方向に付勢する付勢力に変換される。すなわち、左側ロック部27及び右側ロック部28は、スプリング30により蓋部6を保持する位置に向けて付勢されている。
【0041】
そして、左側スライド部15の右側突出部15eと右側スライド部21の摺動部21aとの間には、右側突出部15e及び摺動部21aと左右両端を連結された形状記憶合金(本実施形態においてはニッケルチタン)からなる解除用変形部材23が設けられている。解除用変形部材23は、無効化用変形部材17と同様に所定の第1温度(本実施形態においては70度)に加熱されることによって長手方向に収縮して、その形状が記憶された形状に復元する性質を有している。また、解除用変形部材23は、形状記憶合金を線状に形成することによって構成されるとともに、1本の線材を中間で折り返した状態にて配設されている。
【0042】
また、右側突出部15eには解除用変形部材23の左側端部と接触するように電極24aが設けられる。また、解除用変形部材23の右側端部にはもう一方の電極24bが取り付けられている。これら電極24a,24bは、前述した操作部12が操作されることにより図示しないバッテリに電気的に接続されてそれらの間に電圧が印加され、操作後の所定時間の間(本実施形態においては1秒)解除用変形部材23を通電して加熱する。すなわち、解除用変形部材23は、通電されることによって自ら発熱する。本実施形態において、バッテリ、電極24a,24b、及び解除用変形部材23は加熱手段として機能する。本体フレーム13の左側端部に形成された有孔支持板部13cには、スプリング25の左側端部が連結されるとともに、スプリング25の右側端部はスリット14cから突出した左側突出部15dと連結される。また、本体フレーム13の右側に設けられた支持板部22には、スプリング26の右側端部が連結されるとともに、スプリング26の左側端部は切り欠き部20cから突出した有孔突出部21bと連結される。従って、解除用変形部材23は、間接的に左右両側において位置決め用のスプリング25,26と連結されている。なお、スプリング25は、スプリング26に比してばね定数が小さく設定されており、伸びやすくなっている。
【0043】
より具体的には、解除用変形部材23が収縮していない状態、すなわち、解除用変形部材23がスプリング25及びスプリング30から受ける力によって伸ばされている状態では、左側スライド部15はガイドレール部14aにおいて摺動可能な範囲で最も左側に位置している。この時、スプリング25には引張り力が加わっておらず弾性変化していない状態である。一方、右側スライド部21は、ガイドレール部20aにおいて摺動可能な範囲で最も右側に位置しており、この時、スプリング26には引張り力が加わっておらずに弾性変化していない状態である。なお、この状態において解除用変形部材23の記憶された形状からの変形率は、解除用変形部材23の長寿命化の観点から過度に大きくならないようにするのが望ましく、好適には変形率は1%〜7%以下が望ましい。
【0044】
そして、解除用変形部材23が通電さて復元力が生じると、スプリング30及びスプリング25による弾性力に抗しながら同解除用変形部材23は収縮し、これにより左側スライド部15がガイドレール部14a上を右方向に摺動する。また、収縮後に解除用変形部材23への通電が解除されて復元力が生じなくなると、スプリング30及びスプリング25の弾性力によって左側スライド部15はガイドレール部14aを左方向に摺動して元の位置に戻る。
【0045】
なおここで、解除用変形部材23が収縮しようとしているにも関わらず左側スライド部15が何らかの要因によって摺動できない状態でも、スプリング26が伸びることで解除用変形部材23に加わる引張り力が緩和されて解除用変形部材23の断線が防がれている。
【0046】
次に、ロック装置10が蓋部6を保持する態様及び保持が解除される態様を図4及び図5に基づいて説明する。なお、図4においては説明を簡略化するために、ロック装置10における各ロック部27,28とピニオン29以外の部材は省略している。
【0047】
図4(a)に示されるように、蓋部6が閉位置に位置する状態においては、左側ロック部27の保持部27aは、蓋部6のヒンジ部6bに形成された係合孔部7aを通って(係合孔部7aと係合して)、インストルメントパネル2の内壁2aに形成されたパネル側係合孔部2cと係合している。一方、右側ロック部28の保持部28aは、蓋部6のヒンジ部6cに形成された係合孔部7bを通って(係合孔部7bと係合して)、インストルメントパネル2の内壁2aに形成されたパネル側係合孔部2dと係合している。従って、蓋部6を開位置へ回動させしようとしても、保持部27a,28aがパネル側係合孔部2c,2dと係合することで回動が規制されるため、蓋部6は開放されずに閉位置において保持される。すなわち、本実施形態においては、保持部27a,28aがパネル側係合孔部2c,2dと係合して蓋部6の回動を規制することによってロック機構として機能している。
【0048】
このとき、左側ロック部27の係合片27bは、左側ロック部27が左方向に付勢されて蓋部6を係止する状態において、本体フレーム13の長孔部13dの下方に位置しているとともに、図5(a)に示すように、係合片27bの左側側面27dと係合部材18のローラ部19とが対面し、かつ当接している。なお、この状態における係合部材18の位置を係合位置と示す。
【0049】
そして、ロック装置10による蓋部6の保持状態を解除するために、操作部12(図1に示す)が操作されると、図5(a)に示されるように、解除用変形部材23が長手方向に収縮して左側スライド部15が矢印Y1で示す方向(右方向)へ摺動する。これに伴って、係合位置にある係合部材18及びローラ部19も矢印Y1方向へ変位するため、ローラ部19と係合する係合片27bを有する左側ロック部27は、同様に矢印Y1方向へ変位して、図4(b)に示されるように、保持部27aがパネル側係合孔部2cから抜けた状態となる。一方、右側ロック部28は、ピニオン29を介して左側ロック部27の変位が伝播されて、矢印Y2方向(左方向)へ左側ロック部27と同じ距離だけ変位し、保持部28aがパネル側係合孔部2dから抜けた状態となる。そして、図4(b)に示す状態においては、蓋部6は閉位置に保持されていないため、蓋部6はリターンスプリング9a,9bの付勢力によって自動的に開位置へと移動して、収納空間4aへの被収納物の出し入れが可能となる。すなわち、本実施形態においては、電極24a,24bによって通電されて解除用変形部材23が長手方向に収縮し、その形状が記憶された形状に復元する際の復元力を用いてロック部27,28を変位させてロック解除動作を行うことによって解除機構として機能している。
【0050】
ところで、外気温の上昇に伴ってインストルメントパネル2内の温度が上昇する場合がある。そして、こうした温度の上昇によって解除用変形部材23が加熱され第1温度以上になった場合、解除用変形部材23は、電極24a,24bによって通電されなくても収縮するようになる。この場合、係合部材18が係合位置に位置する場合、乗員が操作部12を操作していなくても解除用変形部材23が誤作動して蓋部6の保持状態が解除されてしまう虞がある。そのため、このような問題を回避するための構成として、無効化用変形部材17を設けるようにしている。
【0051】
すなわち、図5(b)示すように、インストルメントパネル2(図1に示す)内の温度の上昇により無効化用変形部材17が加熱されて第1温度以上になると、無効化用変形部材17は収縮する。無効化用変形部材17が収縮すると、無効化用変形部材17に連結された係合部材18は上方向に変位し、係合片27bと係合しないようになる。この状態における係合部材18の位置を非係合位置と示す。なお、係合部材18が上方向に変位する際には、ローラ部19が係合片27bと当接しながら回動するため、係合部材18の上昇がスムーズに行われる。
【0052】
そして、係合部材18が非係合位置にある場合、解除用変形部材23が誤作動しても左側ロック部27は変位されないため、蓋部6の保持状態は解除されないようになる。すなわち、本実施形態においては、電極24a,24bによって通電されていないにも関わらず解除用変形部材23が収縮する場合、無効化用変形部材17が係合部材18と係合片27bとの係合状態を解除して解除用変形部材23の復元力のロック部27,28への伝達を遮断してロック解除動作を無効化することで、無効化手段として機能している。
【0053】
また、インストルメントパネル2内の温度が低下して、復元力が生じなくなって無効化用変形部材17が伸ばされていた状態に戻ると、図5(a)に示すように係合部材18(ローラ部19)は再び左側ロック部27(係合片27b)と係合する係合位置に変位するため、操作部12の操作によって蓋部6の保持状態を解除することが可能となる。
【0054】
以上に説明した本実施形態におけるロック装置10の奏する効果を以下に示す。
(1)形状記憶合金からなる解除用変形部材23が加熱されて、その形状が記憶された形状に復元する際の復元力を駆動力としてロック解除動作が行われることとした。解除用変形部材23は形状記憶合金により形成されているため、加熱されることによってその形状が記憶された形状に復元する。そして通常、この復元に際して音が発生することは殆どない。従って、この解除用変形部材23の形状が復元する際の復元力をロック解除動作の駆動力として利用するようにしているため、ロック解除時に発生する動作音を極めて小さくすることができる。
【0055】
(2)解除用変形部材23は、電極24a,24bによって通電されることで自ら発熱することとした。従って、解除用変形部材23を加熱する構成を別途設ける必要がなく、ロック装置10における構成の簡略化を図ることができる。
【0056】
(3)解除用変形部材23は線状に形成されるとともに、解除用変形部材23が長手方向に収縮する際の復元力を駆動力としてロック解除動作が行われることとした。解除用変形部材23を線状に形成し、解除用変形部材23の長手方向における復元力をロック解除動作の駆動力として利用することで、解除用変形部材23の配設に要するスペースを小さくしつつ、ロック解除動作に必要な変形量を確保することができる。すなわち、解除用変形部材23の配設に要するスペース当りの変形量を増大させることができる。また、線状に形成することで解除用変形部材23の体積を小さくして加熱時の温度上昇速度を大きくすることができ、ロック解除動作を迅速に行うことができるようになる。
【0057】
(4)解除用変形部材23は折り返された形状にて配設されることとした。従って、折り返さずに解除用変形部材23を配設した場合に比してその配設に要するスペースの増大を抑制しつつ、解除用変形部材23の形状が復元する際により大きな収縮変形力を確保することができる。
【0058】
(5)電極24a,24bによる通電がなされていない状態で解除用変形部材23の温度が上昇して復元力が発生するとき、その復元力の伝達を遮断してロック解除動作を無効化することとした。ロック部27,28に対する解除用変形部材23の復元力の伝達が遮断されると、解除用変形部材23の形状が元の形状に復元してもロック部27,28に駆動力が付与されないため、ロック解除動作は行われない。その結果、解除用変形部材23の温度が電極24a,24bによる通電以外の要因によって上昇しても、ロック部27,28は蓋部6を閉位置においてロックされた状態に保つことができ、不必要なロック解除動作が行われることを回避することができるようになる。
【0059】
(6)係合部材18は、電極24a,24bによる通電がなされていない状態で解除用変形部材23の温度が上昇して復元力が発生するときには、係合片27b(ロック部27)と係合しない非係合位置に変位される。また、係合部材18は解除用変形部材23が温度低下したときには係合片27b(ロック部27)と係合する係合位置に変位されることとした。従って、解除用変形部材23の温度が電極24a,24bによる通電以外の要因によって上昇してロック解除動作が無効化された場合であっても、解除用変形部材23の温度が復元力の発生しない程度まで低下すれば、再度解除用変形部材23の復元力をロック機構に伝達可能となる。従って、その後は正常にロック解除動作を行うことができる。
【0060】
(7)形状記憶合金により形成された無効化用変形部材17が、その形状が記憶された形状に復元する際の復元力を駆動力として係合部材18を係合片27b(ロック部27)と係合しない非係合位置に変位させることとした。周囲の空気の温度上昇によって解除用変形部材23の温度が上昇する場合、無効化用変形部材17の温度も同様に上昇する。従って、解除用変形部材23に復元力が生じる場合には、無効化用変形部材17にも復元力が生じて、解除用変形部材23の復元力のロック部27,28への伝達は遮断されることとなり、簡単な構成でロック解除動作を無効化することができる。更に、ソレノイドの駆動力によってロック部27,28への解除用変形部材23の復元力の伝達を遮断する構成と比較して、無効化に伴う動作音の発生を好適に抑制することができる。
【0061】
なお、本実施形態はこれを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・左側ロック部27と係合部材18の係合状態を解除する構成として、係合部材18を駆動する構成としてソレノイド等を用いるとともに、インストルメントパネル2内に温度センサを設けて、温度が第1温度以上になった場合にソレノイドを作動させるような構成に変更してもよい。
【0062】
・解除用変形部材23を、係合部材18を介さずに直接左側ロック部27(係合片27b)と連結するよう構成してもよい。この場合、解除用変形部材23と左側ロック部27との係合状態を解除することが出来ないため、(1)〜(5)に準ずる効果を奏することができる。
【0063】
・形状記憶合金として、例えば金−カドミウム合金や、銅−アルミニウム−ニッケル合金等他の素材を用いてもよい。
・操作部12の配置はセンターパネル11に限定されず、例えばステアリングホイールや、シフトレバー等に設けてもよい。
【0064】
・解除用変形部材23と無効化用変形部材17とに用いる形状記憶合金を夫々異なるものにしてもよい。この際、無効化用変形部材17には、解除用変形部材23よりも低い温度(第2温度)で収縮を開始する形状記憶合金を用いるのが好ましい。このように構成すれば、解除用変形部材23が周囲の温度の上昇によって収縮する前に、無効化用変形部材17が収縮して左側ロック部27と係合部材18の係合状態が解除される。従って、より確実に左側ロック部27と係合部材18との係合状態を解除することができる。
【0065】
・ロック装置10をグラブボックス以外の他の開閉する部分を有するものに適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】車両の車室内を示す斜視図。
【図2】グラブボックスの構造を示した斜視図。
【図3】(a)は、ロック装置を示した斜視図。(b)は、ロック装置の分解斜視図。
【図4】(a)(b)は、図1のA−A線断面におけるロック部の作動状況を示した模式図。
【図5】(a)(b)は、ロック装置の作動状況を示した作動図。
【符号の説明】
【0067】
1…車両、2…インストルメントパネル、3…グラブボックス、4…収納部、4a…収納空間、5…開口部、6…蓋部、10…ロック装置、12…操作部、17…無効化用変形部材、18…係合部材、23…解除用変形部材、27,28…ロック部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開位置及び閉位置の間を変位可能な開閉部を閉位置にてロックするロック機構と、該ロック機構のロックを解除する解除機構とを備えたロック装置において、
前記解除機構は、形状記憶合金からなる解除用変形部材と該解除用変形部材を加熱する加熱手段とを含み、該加熱手段の加熱により前記解除用変形部材の形状が記憶された形状に復元する際の復元力を駆動力として前記ロック機構のロック解除動作を行う
ことを特徴とするロック装置。
【請求項2】
請求項1に記載のロック装置において、
前記加熱手段は前記解除用変形部材に通電してこれを発熱させることによりその加熱を行う
ことを特徴とするロック装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のロック装置において、
前記解除用変形部材は線状に形成されるとともに、前記解除機構は該解除用変形部材が長手方向に収縮する際の復元力を駆動力として前記ロック機構の解除動作を行う
ことを特徴とするロック装置。
【請求項4】
請求項3に記載のロック装置において、
前記解除用変形部材は折り返された形状にて配設される
ことを特徴とするロック装置。
【請求項5】
前記加熱手段による加熱がなされていない状態で前記解除用変形部材の温度が上昇して前記復元力が発生するとき、その復元力の伝達を遮断して前記解除機構のロック解除動作を無効化する無効化手段を更に備える
ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のロック装置。
【請求項6】
請求項5に記載のロック装置において、
前記ロック機構は前記開閉部を閉位置にて係止する係止部材を含み、
前記解除機構は、前記解除用変形部材とともに変位し且つ前記係止部材に係合する係合部材を介して前記復元力を前記係止部材に伝達して前記ロック機構のロックを解除するものであり、
前記無効化手段は、前記加熱手段による加熱がなされていない状態で前記解除用変形部材の温度が上昇して前記復元力が発生するときには、前記係合部材を前記係止部材と係合しない非係合位置に変位させるとともに、前記解除用変形部材が温度低下したときには、前記係合部材を前記係止部材と係合する係合位置に変位させる
ことを特徴とするロック装置。
【請求項7】
請求項6に記載のロック装置において、
前記無効化手段は、形状記憶合金からなる無効化用変形部材を含み、当該無効化用変形部材は、その形状が記憶された形状に復元する際の復元力を駆動力として前記係合部材を前記係止部材と係合しない非係合位置に変位させる
ことを特徴とするロック装置。
【請求項8】
請求項7に記載のロック装置において、
前記無効化用変形部材は、前記解除用変形部材より低い温度でその形状が記憶された形状に復元する性質を有する形状記憶合金によって形成される
ことを特徴とするロック装置。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載のロック装置を具備し、
車両のインストルメントパネルにおいて被収納物を収納するための収納空間を有する収納部と、前記被収納物を前記収納空間に収納する際の入口となる開口部とを備え、
前記開閉部は、前記開口部を覆うように設けられ、前記被収納物を収容可能な開位置と収納不可能な閉位置との間を変位可能な蓋部であることを特徴とするグラブボックス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−253675(P2007−253675A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−78091(P2006−78091)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】