説明

ロボットアームの衝撃測定方法

【課題】誤動作時にロボットアームRが関節部を駆動する駆動源により正常時より大きなトルクでスイング動作されて他の物に衝突したときの衝撃を複雑な制御を行うことなく低コストで精度良く測定できるようにする。
【解決手段】ロボットアームRをその基端の関節部Raにトルクリミッタ4により制動トルクを付与した状態で保持する。制動トルクは、誤動作時に駆動源により関節部Raに付与されるトルクに等しくする。そして、関節部Raにこの制動トルクより大きなトルクが作用するような速度でロボットアームRに錘体14を衝突させて、加速度センサ等の検出器15により衝撃を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットアームがロボット本体に連結される関節部を駆動する駆動源により所定トルクでスイング動作されて他の物に衝突したときの衝撃力を測定するために行うロボットアームの衝撃測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットが正常である限り、ロボットアームは関節部に組込まれている駆動源により最大定格トルク以下のトルクでスイング動作されるが、制御不調や外乱ノイズ等による誤動作を生じた場合には、最大定格トルクを上回るトルクでロボットアームがスイング動作される虞がある。そして、最大定格トルクを上回るトルクでロボットアームがスイング動作されて他の物に衝突すると、ロボットアーム自体若しくは被衝突物にダメージを与える可能性がある。
【0003】
そこで、従来は、試験装置にロボットアームをセットし、試験装置に備える駆動源により上記最大定格トルクを上回る所定トルクでロボットアームをスイング動作させ、ロボットアームのスイング軌跡上の固定物にロボットアームを衝突させて、衝撃(加速度、荷重等)を測定している。そして、この測定結果をロボット設計にフィードバックして、ダメージを与えないようなロボットアームの構造設計やロボットアームに貼り付ける緩衝材の選定を行っている。
【0004】
然し、上記従来例では、試験装置の駆動源をロボットに設けられた関節部用の駆動源の最大定格トルクより大きなトルクを安定して出力できる大容量のものにする必要があって、試験装置が高価になる。また、誤動作によるロボットアームの他の物への衝突状態を再現するには、試験装置の駆動源によりロボットアームに衝突後もトルクを付与し続ける必要があって、駆動源の制御が難しくなる。
【0005】
ところで、従来、定位置に固定した試験片に振り子式の錘体を衝突させて衝撃を測定する衝撃測定装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この従来例を利用し、定位置に固定したロボットアームに錘体を衝突させて衝撃力を測定することも考えられる。
【0006】
然し、これでは、ロボットアームへの錘体の衝突後はロボットアームにトルクが付与されなくなり、誤動作によるロボットアームの他の物への衝突状態を再現できない。
【特許文献1】特開平5−312703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、誤動作によりロボットアームが他の物に衝突したときの衝撃を複雑な制御を行うことなく低コストで精度良く測定できるようにしたロボットアームの衝撃測定方法を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、ロボットアームがロボット本体に連結される関節部を駆動する駆動源により所定トルクでスイング動作されて他の物に衝突したときの衝撃を推定するために行うロボットアームの衝撃測定方法であって、ロボットアームを前記関節部に前記所定トルクに等しい制動トルクを付与した状態で保持し、前記関節部にこの制動トルクより大きなトルクが作用するような速度で錘体をロボットアームに衝突させて、衝撃を測定することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、ロボットアームへの錘体の衝突で関節部に制動トルクより大きなトルクが作用するため、ロボットアームが制動トルクに抗して動く。従って、錘体の衝突後もロボットアームに制動トルクに等しいトルク、即ち、上記所定トルクが付与され、誤動作によるロボットアームの他の物への衝突状態を再現できる。そして、本発明では、従来例のような関節部を駆動する大容量の駆動源が不要であって、駆動源の複雑な制御も不要であり、誤動作によりロボットアームが他の物に衝突したときの衝撃を低コストで簡便に精度良く測定することができる。
【0010】
また、本発明においては、ロボットアームの関節部に連結される回転板と、回転板に付勢部材の付勢力で圧接する摩擦材とを備えるトルクリミッタにより関節部に制動トルクを付与することが望ましい。これによれば、小型安価なトルクリミッタにより関節部に確実に制動トルクを付与でき、一層のコストダウンを図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1、図2はロボットアームRの衝撃測定装置を示している。ここで、ロボットアームRは、図示省略したロボット本体に基端の関節部Raにおいて揺動自在に連結され、減速機付き電動モータ等の駆動源により最大定格トルク以下のトルクでスイング動作される。但し、制御不調や外乱ノイズ等による誤動作を生じた場合には、最大定格トルクを上回るトルクでロボットアームRがスイング動作される虞がある。そこで、誤動作時に予測される最大定格トルクを上回る所定トルクでロボットアームRがスイング動作されて他の物に衝突したときの衝撃を測定するために、衝撃測定装置を用いた試験を行う。
【0012】
尚、ロボットアームRには、中間に関節部Rbが設けられると共に、先端に関節部Rcを介してハンド部が設けられているが、ハンド部に衝撃を加えると故障しやすいため、試験ではハンド部に代えてこれと同質量の擬似ハンド部Rdを連結している。また、試験では、関節部Rb,Rcを回動不能に固定しておく。
【0013】
衝撃測定装置は門型のフレーム1を備えており、このフレーム1上に設けた左右一対のブラケット2,2間に、ロボットアームRを基端の関節部Raにおいて揺動自在に支持する支軸3が架設されている。支軸3の両端部は、各ブラケット2にキー3aで回り止めされている。
【0014】
支軸3上にはトルクリミッタ4が設けられている。トルクリミッタ4は、図2に示す如く、支軸3にキー5aにより回り止めした状態で固定される、外周に鍔部5bを有するハブ5と、ハブ5に回動不能に且つ軸方向に摺動自在に外挿される押し板6と、鍔部5bと押し板6との間でハブ5に回動自在に外挿される回転板7と、押し板6を鍔部5b側に付勢する2個の皿ばねから成る付勢部材8とを備えている。鍔部5bと押し板6の回転板7に対向する面には摩擦材9が取り付けられており、回転板7に付勢部材8の付勢力で摩擦材9が圧接する。付勢部材8の付勢力はハブ5に螺合する調整ナット10で調整自在である。そして、回転板7にロボット誤動作時の上記所定トルクに等しい制動トルクが付与されるように、調整ナット10により付勢部材8の付勢力を調整する。調整後は、調整ナット10の緩み止めのため、調整ナット10をハブ5に回り止めされる留め座金10aに止めねじ10aにより締結する。
【0015】
トルクリミッタ4の回転板7は、ロボットアームRの関節部Raに連結部材11を介して連結される。連結部材11は、関節部Raの横方向一端部に連結される、支軸3に回動自在に外挿される内筒11aと、内筒11aにキー11bにより回り止めした状態で外挿される外筒11cと、外筒11cと回転板7とを連結する複数のピン11dとで構成されている。かくして、関節部Raにトルクリミッタ4から連結部材11を介して上記制動トルクが付与される。
【0016】
また、関節部Raの横方向他端部には筒状ホルダ12が連結されている。筒状ホルダ12の内周には、支軸3に対し回動自在な軸受用のスリーブ12aが装着されている。かくして、関節部Raは筒状ホルダ12を介して支軸3に軸支される。
【0017】
衝撃測定装置は、更に、門型フレーム1の前側に位置する支柱13を備えている。支柱13には、所定の質量の錘体14がスイングアーム14aを介して振り子式に連結されている。そして、支軸3に支持されるロボットアームRの下端の擬似ハンド部Rdに錘体14が衝突するようにしている。錘体14の擬似ハンド部Rdに対する衝突部14bには、加速度センサや荷重センサ等の検出器15が組み込まれている。尚、錘体14の質量は誤動作時にロボットアームRが衝突する可能性のある物の質量に等しくなるように設定される。
【0018】
試験に際しては、錘体14を所定の高さから落下させて、ロボットアームRの下端の擬似ハンド部Rdに錘体14を衝突させ、検出器15により衝撃(加速度や荷重)を測定する。錘体14の上記高さは、トルクリミッタ4により付与される制動トルクより大きなトルクが関節部Raに作用するような速度で錘体14がロボットアームRに衝突するように設定される。
【0019】
関節部Raに制動トルクより大きなトルクが作用すると、トルクリミッタ4の回転板7が摩擦材9に対し滑り、ロボットアームRが制動トルクに抗して動く。従って、錘体14の衝突後も暫くの間はロボットアームRに制動トルクに等しいトルクが付与される。ここで、制動トルクはロボット誤動作時にロボットアームRに付与されるトルクに等しい。そのため、誤動作によるロボットアームRの他の物への衝突状態を再現できる。そして、本実施形態では、関節部Raを駆動する大容量の駆動源が不要であって、駆動源の複雑な制御も不要であり、誤動作によりロボットアームRが他の物に衝突したときの衝撃を低コストで簡便に精度良く測定することができる。
【0020】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、上記実施形態では錘体14として振り子式のものを用いたが、直線的に移動自在な錘体をスプリングで付勢してロボットアームRに衝突させるようにしてもよい。また、上記実施形態では、錘体14に検出器15を取付けたが、錘体14が衝突する擬似ハンド部Rdの部分に検出器を取付けることも可能である。また、本発明の測定対象であるロボットアームには、駆動源によりスイングされる部材、構造体も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明方法の実施に用いる衝撃測定装置の側面図。
【図2】図1のII−II線で切断した拡大断面図。
【符号の説明】
【0022】
R…ロボットアーム、Ra…関節部、4…トルクリミッタ、7…回転板、8…付勢部材、9…摩擦材、14…錘体、15…検出器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットアームがロボット本体に連結される関節部を駆動する駆動源により所定トルクでスイング動作されて他の物に衝突したときの衝撃を測定するために行うロボットアームの衝撃測定方法であって、
ロボットアームを前記関節部に前記所定トルクに等しい制動トルクを付与した状態で保持し、前記関節部にこの制動トルクより大きなトルクが作用するような速度で錘体をロボットアームに衝突させて、衝撃を測定することを特徴とするロボットアームの衝撃測定方法。
【請求項2】
前記関節部に連結される回転板と、該回転板に付勢部材の付勢力で圧接する摩擦材とを備えるトルクリミッタにより前記関節部に前記制動トルクを付与することを特徴とする請求項1記載のロボットアームの衝撃測定方法。

【図1】
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【図2】
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