説明

ロボット装置

【課題】 低コストで、しかも従来よりCPUやメモリに掛かる負荷を軽減して、対象物を追跡することが可能なロボット装置を提供する。
【解決手段】 所定の行動面上を行動するロボット装置であって、対象物を含む視野からの入射光を前記行動面と略平行な方向に集光する集光レンズ12と、集光された光を受光して信号に変換する複数の光電変換素子とを有するカメラユニット部と、
前記複数の光電変換素子からの出力信号に基づいて対象物の方位を求め、当該方位に応じた方向に前記カメラユニット部を向ける行動を生成する行動生成部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、追跡行動や回避行動等の対象物の位置に応じた行動をするロボット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、周囲の環境に応じた行動を行なう学習教材等の用途に用いられるロボット装置が開発されている。このようなロボット装置は、移動を実現させるためのアクチュエータ、このアクチュエータの動作を制御し、所定の行動を生成する行動生成部、外界の状況を撮像するCCDカメラなどを含んでいる。
係るロボット装置の中には、数十万画素といった高画質なCCDカメラを備えており、このCCDカメラで撮像した画像内に存在する対象物を所定の画像処理を行なうことにより検出し、CCDカメラを対象物の方位(あるいは対象物以外の方位)に向けることにより、その対象物を追跡(あるいは回避)するものがある。
【特許文献1】特開2003−191189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記した高画質なCCDカメラは高価であることが多い。
また、撮像した画像の画素数が多いと、画像処理のために高いスペック(CPUの処理能力、作業領域となるメモリの容量等)が要求される傾向にある。
本発明は上述した問題に鑑みてなされたものであって、低コストで、しかも従来よりCPUやメモリに掛かる処理負荷を軽減して、対象物の方位に応じた行動をすることが可能なロボット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明に係るロボット装置は、所定の行動面上を行動するロボット装置であって、対象物を含む視野からの入射光を前記行動面と略平行な方向に集光する集光レンズと、集光された光を受光して信号に変換する複数の光電変換素子とを有するカメラユニット部と、前記複数の光電変換素子からの出力信号に基づいて対象物の方位を求め、当該方位に応じた方向に前記カメラユニット部を向ける行動を生成する行動生成部とを備えることを特徴とする
また、前記カメラユニット部は、さらに、前記集光レンズと前記複数の光電変換素子との間の光路上に、対象物の発する波長領域以外の光を遮断するフィルタを有していることを特徴とする。
【0005】
また、前記カメラユニット部を構成している集光レンズは、シリンドリカルレンズが用いられており、このシリンドリカルレンズを複数積み重ねて配置するとともに、各シリンドリカルレンズと光電変換素子との間の光路上のフィルタの遮断光波長を異ならしめたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、対象物の追跡や回避等の対象物の方位に応じた行動をすることが可能となる。従来のような高画質なCCDカメラを用いる必要はなく、またCPUやメモリに掛かる負荷を軽減できるのでコストを低くすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(実施の形態1)
以下、図面を参照しながら本実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態に係るアヒル型のロボット装置1等の概略構成を示す模式図である。
ロボット装置1の本体を構成する筐体2は、胴体部3と頭部4とを備える。
【0008】
胴体部3は前後左右に、車輪6a、6b,6c,6d(図中、車輪6dは胴体部3によって隠れている。)を有している。
頭部4内部にはCPUやメモリなどの電子機器が収納され、頭部4前端の口ばし部4a内には後述するカメラユニット10が収納されている。なお、頭部4は胴体部3に対して回転しないものとする。
【0009】
ロボット装置1の図中右方には、追跡対象となる物体であるボール9が位置している。ボール9は、緑色に発光しているものとする。
図2は、ロボット装置1の構成を示す機能ブロック図である。
ロボット装置1は、カメラユニット10、行動生成部30、アクチュエータ40a〜40dを備えている。
【0010】
行動生成部30は、CPU32、ROM34、RAM36を備えている。
ROM34は、不揮発性のメモリであり、制御プログラム等を格納している。
RAM36は、揮発性のメモリであり、CPU32が実行する演算処理のための作業領域を提供する。
アクチュエータ40a〜40dは、例えばサーボモータを含んでおり、それぞれ車輪6a〜6dを駆動させる。
【0011】
行動生成部30は、所定の駆動信号を送出してアクチュエータ40a〜40dの制御を行なうことにより、ロボット装置1を回転させて向きを変えたり、所定の行動面S(図1参照)上を前後左右に走行させる。
図3はカメラユニット10の外観図である。図4は、カメラユニット10の分解斜視図である。図3、図4を参照してカメラユニット10(カメラユニット部)の構成について説明する。
【0012】
カメラユニット10は、樹脂製のケース11、このケース11の先端部に収納された集光レンズ12、フィルタ15、光電変換部14a〜14eを備えている。
樹脂製のケース11の前方には、集光レンズ12が収納されている。集光レンズ12は、円柱をその軸方向に割ったような形状をしたシリンドリカルレンズであり、入射光を集光レンズ12の幅方向に集光させる。
【0013】
カメラユニット10は、集光レンズ12(及びケース11)の平坦部分の面が行動面S(図1参照)と略平行になる姿勢で、口ばし部4aの先端に収納される。このとき、集光レンズ12の曲率を有する方向と行動面Sとは略平行となるので、集光レンズ12は、筐体2正面(前方)の視野から入射する入射光を行動面S方向にのみ集光させることとなる。
【0014】
光電変換部14a〜14eには、電力供給線(power)を介して所定の電力が供給されると共に、クロック線(clock)を介してクロック信号が入力されており、当該光電変換部14a〜14eは受光量が所定量より大きい場合に、上記クロック信号と同期して信号D1〜D5をそれぞれ出力する。この信号D1〜D5はそれぞれ1ビットの信号である。
集光レンズ12と光電変換部14a〜14eとの間の光路上には、フィルタ15が配置されている。このフィルタ15は、ボール9の発光色である緑色に対応しており、緑色の波長領域以外の光を遮断する。フィルタ15は、緑色の波長領域のみの光を透過させるとも言い得る。
【0015】
図5は、光電変換部14aの回路構成図である。5つの光電変換部14a〜14eは、同一の回路構成をしているので、光電変換部14aのみを説明する。
光電変換素子であるフォトトランジスタFTは、受光した光(light)の量に応じた電気信号を出力する。
アナログ・デジタル変換器142は、入力する電気信号が所定量より大きい場合に、ビットを立てた信号を出力する。
【0016】
図6は、ロボット装置の真上方向から見たときのボール9から放射される光の光路等を模式的に示す図である。図6では説明の便宜上、ボール9を1点で示している。
緑色に発光するボール9から放射され集光レンズ12に入射する光は、集光レンズ12によって集光レンズ12の幅方向に集光される。そして、フィルタ15により緑色の波長領域以外の光は遮断されるので、緑色の波長領域のみの光が光電変換部14a〜14eに入射する。
【0017】
上記光電変換部14a〜14eは、行動面S上のロボット装置本体(筐体2)を基準とした方位に対応して配列されている。
すなわち、光電変換部14cは、正面の方位に対応し、光電変換部14a,14bは右方の方位に対応し、光電変換部14d,14eは左方の方位に対応している。
図6に示す例では、ボール9は筐体2の右方に位置しており、ボール9から放射された光は、光電変換部14bに集光されている。このとき、この光電変換部14bから信号(D2=1)が出力され、他の光電変換部14a,14c〜14eからは出力されない(D1=D3=D4=D5=0)。
【0018】
図7は、筐体2とボール9の位置関係の遷移を示す模式図である。
筐体2の正面の方位にボール9が位置している場合には[図7(a)]、当該方位に対応して配設された光電変換部14cから信号(D3=1)が出力される。行動生成部30は、この信号を受け取り、この信号に基づいてボール9が筐体2の正面にボール9が位置していると求める。なお、行動生成部30の信号処理は、ROM34内に格納されている制御プログラムに従って実行される。
【0019】
そして、行動生成部30はアクチュエータ40a〜40dを制御し、筐体2を直進させてボール9の追跡を行なう。
ボール9が動いたことにより、筐体2の左方にボールが位置している場合には[図7(b)]、光電変換部14a〜14eの出力信号はD4=1(またはD5=1)となり、この信号を受け取った行動生成部30は筐体2を左に回転させる[図7(c)]。この回転途中に出力信号がD3=1に切り替わると(このとき、集光レンズ12の光軸がボール9の方位に向いている。)、行動生成部30は回転を停止させ、再び直進させてボール9の追跡を行なう[図7(d)]。
(変形例1)
本発明を実施の形態に基づいて説明してきたが、上述の実施の形態に限定されないのは勿論である。
【0020】
上述の実施の形態においては、ボール9が位置する方位へ集光レンズ12を向けてボール9を追跡する行動を行なっているが、視野から対象物を外すことで対象物を回避する行動を行なうようにしてもよい。
図8は、変形例1に係る筐体2とボール8の位置関係の遷移を示す模式図である。なお、ボール8は赤色に発光しているものとする。
【0021】
筐体2の正面の領域に赤色のボール8が位置し[図8(a)]、光電変換部14cから信号(D3=1)が出力されると、行動生成部30は、すべての光電変換部14a〜14eから信号が出力されなくなるまで筐体2を左方(右方としても構わない。)に回転させてボール8を回避する行動を行なう[図8(b),図8(c)]。
(変形例2)
集光レンズ12は平坦な形状をしているので、その平坦面と垂直な方向に容易に積層することができ、頭部4内の限られたスペース内に収納することが可能である。
【0022】
図9は、変形例2に係るカメラユニットの外観図である。
本変形例では、第1のカメラユニット10aの上面に、第2のカメラユニット10aが積まれている。このような構成によれば、例えば、第1のカメラユニット10aに、緑色波長領域透過性フィルタを設けて緑色のボール9が位置する方位を示す信号を出力させ、第2のカメラユニット10bに、赤色波長領域透過性フィルタを設けて赤色のボール8が位置する方位を示す信号を出力させれば、緑色に発光するボール9を追跡する行動(図7参照)と、赤色に発光するボール8を回避する行動(図8参照)を組み合わせることができ、簡単な構成でロボット装置1に複雑な動きを行なわせることができる。
(変形例3)
本発明は、移動機構を備えていないロボット装置にも本発明を適用することができ、例えば、移動機構は有していないが、頭部を回転(回転行動)する機構を有するロボット装置に、低いコストで対象物の位置に応じた行動をする機能をもたらすことができる。
【0023】
図10は、変形例3に係るロボット装置100を示す図である。
クマのぬいぐるみ状のロボット装置100は、頭部の鼻に対応する位置にはカメラユニット10が埋設されており、座った姿勢でボール9の方向を向いている。
ロボット装置100は、ロボット装置1と基本的には同様の構成をしているが、移動機構を備えていない。もっとも、ロボット装置1は、頭部を左右に回転させる図示しないアクチュエータを有しており、眼前のボール9の動きに追従して頭部を左右に振る。係る動作をするロボット装置100は、ユーザに親近感を抱かせることができるであろう。
(その他)
(1)集光レンズ12の形状について
集光レンズ12は、行動面Sと直交する面に対して、曲率を有する形状にしても構わない。このようにすれば、ロボット装置1の上下方向(高さ方向)の光をも集光することができ、ロボット装置1の視界を広げることができ好適である。
【0024】
(2)光電変換素子の数について
本実施の形態では、光電変換部14a〜14eはそれぞれ1個の光電変換素子FT(図5参照)を有するので、5個の光電変換素子を備えている。このように光電変換素子の数が奇数であれば、中央の光電変換部14cの出力信号を対象物が正面に位置するものとすることにより、集光レンズ12の光軸をボール9へ向けることが容易である。
【0025】
なお、最低限3個の光電変換部(3個の光電変換素子)を備えれば、左方、正面、右方の3方位に対応することができるので対象物の追跡が可能である。
光電変換部の数が多いほど、追跡・回避動作をよりスムーズで精緻にすることができるのは勿論である。もっとも、数が多くなるに連れてコストが増大するので、例えば、15個もあれば十分である。
【0026】
(3)フィルタ15について
本実施の形態では、集光レンズ12と光電変換部14a〜14eの光電変換素子FTとの間の光路上にフィルタ15を配置して、ボール9の発する緑色の波長領域以外の外乱光が光電変換部14a〜14eに入らないようにしていたが、フィルタ15に代えて、緑色の波長領域に感度を持つ光電変換素子を用いるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明に係るロボット装置は、低コストで、しかも従来よりCPUやメモリに掛かる負荷を軽減して対象物に応じた行動をすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】アヒル型のロボット装置1等の概略構成を示す模式図である。
【図2】ロボット装置1の構成を示す機能ブロック図である。
【図3】カメラユニット10の外観図である。
【図4】カメラユニット10の分解斜視図である。
【図5】光電変換部14aの回路構成図である。
【図6】行動面Sに直交する方向から見たときのボール9から放射される光の光路等を模式的に示す図である。
【図7】筐体2とボール9の位置関係の遷移を示す模式図である。
【図8】変形例1に係る筐体2とボール8の位置関係の遷移を示す模式図である。
【図9】変形例2に係るカメラユニットの外観図である。
【図10】変形例3に係るロボット装置100を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1,100 ロボット装置
2 筐体
3 胴体部
4 頭部
6a〜6d 車輪
8 ボール(赤色に発光している)
9 ボール(緑色に発光している)
10 カメラユニット
12 集光レンズ
14a〜14e 光電変換部
FT 光電変換素子
S 行動面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の行動面上を行動するロボット装置であって、
対象物を含む視野からの入射光を前記行動面と略平行な方向に集光する集光レンズと、集光された光を受光して信号に変換する複数の光電変換素子とを有するカメラユニット部と、
前記複数の光電変換素子からの出力信号に基づいて対象物の方位を求め、当該方位に応じた方向に前記カメラユニット部を向ける行動を生成する行動生成部と
を備えることを特徴とするロボット装置。
【請求項2】
前記カメラユニット部は、さらに、前記集光レンズと前記複数の光電変換素子との間の光路上に、対象物の発する波長領域以外の光を遮断するフィルタを有していることを特徴とする請求項1または2に記載のロボット装置。
【請求項3】
前記カメラユニット部を構成している集光レンズは、シリンドリカルレンズが用いられており、このシリンドリカルレンズを複数積み重ねて配置するとともに、各シリンドリカルレンズと光電変換素子との間の光路上のフィルタの遮断光波長を異ならしめたことを特徴とする請求項2に記載のロボット装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−229486(P2006−229486A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−39621(P2005−39621)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度独立行政法人情報通信研究機構、研究テーマ「人間情報コミュニケーションの研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】