説明

ロータリジョイント

【課題】簡便な構成でクーラント供給配管系の流量の変動を防止することができるロータリジョイントを提供することを目的とする。
【解決手段】軸方向の回転流路4eが設けられた回転部1aおよび軸方向の固定流路7fが設けられた固定部1bを同軸配置した構成のロータリジョイント1において、回転部1aを構成し側端面に回転流路4eが開口した第1のシール面5bを有するロータ4の下流端部に、オリフィス孔4gを備えた絞り部4fを流量制限手段として設け、回転流路4e内を流れる流体の流量を制限し、過大な流量の流体がロータリジョイント1を流れるのを防止する。これにより、簡便な構成でクーラント供給配管系の流量の変動を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転部に流体を送給するために用いられるロータリジョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸など作動時に回転状態にある回転部に冷却用のクーラントなどの流体を送給する流体送給機構において、固定された流体送給配管を回転部の流路と接続する流体継手としてロータリジョイントが用いられる。ロータリジョイントは、回転部に結合されて回転する回転軸と流体送給配管に接続される固定軸とを同軸に配置して軸方向に対向させ、それぞれの対向端面に装着された回転シールのシール面を相互に密着させることにより流体の漏洩を防止する構成となっている(特許文献1、2参照)。これにより、流体送給配管から回転状態にある回転部へ、所定圧力・所定流量の流体がロータリジョイントを介して連続的に供給される。
【特許文献1】実開昭62−163685号公報
【特許文献2】特開2004−205037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のような流体送給機構においては、工作機械など被供給側の状態によっては、ロータリジョイントを介して供給される流量が大きく変動する場合がある。すなわち流体供給源としては十分な容量のポンプが用いられるため、被供給側において流体噴射ノズルの脱落などの不測の事態が発生した場合には、使用範囲として想定された圧力・流量の範囲から外れた流体がロータリジョイントを通過して被供給側に流れる場合がある。このような圧力・流量の大幅な変動はクーラント供給配管系の正常な作動を阻害する要因となるため、極力変動を抑制することが求められる。しかしながら、上述の特許文献例を含め、従来のロータリジョイントにおいてはこのような変動を防止する機能は備えていなかった。このため、クーラント供給系全体として流量を安定させるためには、流量調整弁などをロータリジョイントの上流側もしくは下流側に配設する必要があり、クーラント供給配管系の構成を複雑化にする結果となっていた。
【0004】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、簡便な構成でクーラント供給配管系の流量の変動を防止することができるロータリジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のロータリジョイントは、軸方向の回転流路が設けられ回転軸に装着される回転部および軸方向の固定流路が設けられケーシング部材に装着される固定部を同軸配置して成り、流体供給源から供給される流体を軸心廻りに回転する前記回転部の回転流路へ前記固定流路を介して送給するロータリジョイントであって、前記回転部に設けられ側端面に前記回転流路が開口した第1のシール面を有する回転シール部と、前記回転シール部に設けられ前記回転流路内を流れる流体の流量を制限する流量制限手段と、前記固定流路が前記軸方向に貫通して形成され前記ケーシング部材に設けられた嵌合孔に前記軸方向の移動が許容された状態で嵌合する固定軸部を有し、一方側の側端面に前記固定流路が開口した第2のシール面を有する固定シール部と、前記流体供給源から前記嵌合孔内へ前記流体を供給して前記固定軸部の他方側の側端面に流体圧を作用させて、前記固定シール部を前記回転シール部に対して押圧することにより、前記第1のシール面と第2のシール面とを相互に密着させて面シール部を形成する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、軸方向の回転流路が設けられた回転部および軸方向の固定流路が設けられた固定部を同軸配置した構成のロータリジョイントにおいて、回転部に設けられ側端面に回転流路が開口した第1のシール面を有する回転シール部に、回転流路内を流れる流体の流量を圧力損失を発生させて制限する流量制限手段を備えることにより、簡便な構成でクーラント供給配管系の流量の変動を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施の形態におけるロータリジョイント(第1実施例)の断面図、図2は本発明の一実施の形態におけるロータリジョイント(第1実施例)の動作説明図、図3は本発明の一実施の形態におけるロータリジョイント(第2実施例)の断面図、図4は本発明の一実施の形態におけるロータリジョイント(第3実施例)の断面図、図5は本発明の一実施の形態におけるロータリジョイント(第4実施例)の断面図図6は本発明の一実施の形態におけるロータリジョイント(第5実施例)の断面図である。
【0008】
まず図1を参照して、ロータリジョイント1(第1実施例)の全体構成を説明する。流体送給機構の全体構成を説明する。図1において、ロータリジョイント1は、工作機械のスピンドル軸などの回転軸へ冷却用の流体を送給する流体供給機構に用いられるものであり、軸方向の回転流路が設けられた回転部1aおよび軸方向の固定流路が設けられた固定部1bを同軸配置して構成される。
【0009】
回転部1aは回転軸であるスピンドル軸2の流路孔2aに締結されており、スピンドル軸2は、スピンドルに内蔵されたモータによって回転駆動されて軸心A廻りに回転するとともに、クランプ/アンクランプシリンダによって軸方向の進退動作を行う。また固定部1bは、円筒ブロック形状のケーシング部材3に設けられた嵌合孔3aに嵌合して装着されており、スピンドル軸2が挿通するフレーム(図示省略)にボルトなどの締結手段によってケーシング部材3を着脱自在に締結することにより、固定部1bは回転部1aと同軸に配置される。嵌合孔3aには、流体供給部(図示省略)より液体クーラントや冷却用のエアなどの気体が選択的に送給される(矢印a)。
【0010】
次に、ロータリジョイント1の詳細構造を説明する。図1において回転部1aは、スピンドル軸2に装着されたロータ4を主体としている。ロータ4は、回転軸部4aの一方側の端部に回転軸部4aよりも外径が大きいフランジ部4bを設け、さらに軸心部に回転流路4eを軸方向に設けた形状となっている。回転軸部4aの外面には雄ねじ部4dが設けられており、流路孔2aの内面には雌ねじ部2bが設けられている。雄ねじ部4dを雌ねじ部2bに螺合させることにより、ロータ4はスピンドル軸2にねじ締結され、Oリング6によってねじ締結部が密封される。これにより、回転流路4eはスピンドル軸2の流路孔2aと連通する。
【0011】
ロータ4の右側(固定部1bと対向する側)の側端面には、回転流路4eの開孔面を囲む配置で円形状の凹部4cが形成されており、凹部4cには第1のシールリング5が固定されている。第1のシールリング5はセラミックなどの耐摩耗性に富む硬質材料を、中央部に開口部5aを有する円環形状に成形したものであり、平滑面に仕上げられた第1のシール面5bを外面側にした状態で凹部4cに固定される。そしてこの状態では、回転流路4eは開口部5aと連通して第1のシール面5bに開口する。
【0012】
回転軸部4aの下流側の端部には、絞り部4fが設けられている。絞り部4fは回転軸部4aの下流端に、固定流路7fの流路径dや回転流路4eの流路径dよりも小さい流路径dのオリフィス孔4gを設けた構成となっている(図2参照)。本実施の形態では、絞り部4fの絞り効果によって回転流路4e内を上流側から送給される流体の流量を制限するようにしている。上記構成において、第1のシールリング5が固定されたロータ4は、回転部1aに設けられ側端面に回転流路4eが開口した第1のシール面5bを有する回転シール部となっている。そしてこの回転シール部には、回転流路4e内を流れる流体の流量を制限する流量制限手段としての絞り部4fを備えた構成となっている。なお図1,図2に示す例では、回転流路4eの流路径dを固定流路7fの流路径dよりも大きくなるように設定しているが、流路径dと流路径dとを同一径としてもよい。
【0013】
次に、ケーシング部材3に装着される固定部1bの構造を説明する。固定部1bは、ケーシング部材3の嵌合孔3aに嵌合して装着されたフローティングシート7を主体としている。フローティングシート7は、一方側(図において回転部1aと対向する側)に円板形状のフランジ部7bが設けられ、他方側に固定流路7fが軸方向に貫通して形成された固定軸部7aを有する形状となっている。固定軸部7aは、嵌合孔3aに軸方向の移動が許容された状態で嵌合する。嵌合孔3aの内面にはOリング溝3bが設けられており、Oリング溝3bに装着されたOリング10によって固定軸部7aの嵌合部が密封される。ケーシング部材3には廻り止め部材11が軸方向に植設されており、フローティングシート7をケーシング部材3に装着した状態において廻り止め部材11はフランジ部7bに設けられた廻り止め孔7cを軸方向に挿通している。
【0014】
フランジ部7bの左側(回転部1aと対向する端面)に設けられた凸部7dには、固定流路7fの開孔面を囲む配置で、円形状の凹部7eが形成されており、凹部7eには第2のシールリング8が固定されている。第2のシールリング8は第1のシールリング5と同様の硬質材料を中央部に開口部8aを有する円環形状に成形したものであり、平滑面に仕上げられた第2のシール面8bを外面側にした状態で凹部7eに固定される。そしてこの状態では、固定流路7fは開口部8aと連通して第2のシール面8bに開口する。すなわち第2のシールリング8が固定されたフローティングシート7は、固定流路が軸方向に貫通して形成されケーシング部材3に設けられた嵌合孔3aに軸方向の移動が許容された状態で嵌合する固定軸部7aを有し、側端面に固定流路7fが開口した第2のシール面8bを有する固定シール部となっている。
【0015】
次に、図2を参照してロータリジョイント1の動作を説明する。嵌合孔3a内に供給対象の流体が送給される(矢印a)ことにより、この流体圧は固定軸部7aの他方側(第2のシールリング8の反対側)の側端面7gに作用する。これにより、固定軸部7aは嵌合孔3a内で回転部1a側へスライドし、第2のシールリング8は第1のシールリング5に対して、側端面7gの投影面積A1に流体圧を乗じた大きさの押圧力Fで押圧される。この押圧力Fは第2のシール面8bと第1のシール面5bとを相互に密着させ、これにより固定流路7fから軸廻りに回転状態の回転流路4eへ送給される流体の漏洩を防止する面シール部9が形成される。
【0016】
すなわち、流体供給源から嵌合孔3a内へ流体を供給して固定軸部7aの他方側の側端面7gに流体圧を作用させて、固定シール部であるフローティングシート7を回転シール部であるロータ4に対して押圧することにより、第1のシール面5bと第2のシール面8bとを相互に密着させて面シール部9を形成する。このフローティングシート7のスライドにおいて、フランジ部7bに設けられた廻り止め孔7cが廻り止め部材11に沿って摺動することにより、フローティングシート7の軸方向の移動がガイドされるとともに、軸廻りの廻り止めが行われる。
【0017】
ロータリジョイント1の作動状態においては、送給される流体の圧力によるフローティングシート7の進出と、スピンドル軸2の進退動作によって、面シール部9のシール面の接離が行われる。すなわちフローティングシート7が後退して第1のシール面5bと第2のシール面8bとが相互に離隔した状態において、嵌合孔3a内に流体が送給されることによりフローティングシート7が前進(矢印b方向)し、第1のシール面5bが第2のシール面8bに当接して面シール部9が形成される。そしてスピンドル軸2が固定部1bに対して相対的に前進(矢印e方向)することにより、フローティングシート7は後退(矢印c方向)し、フランジ部7bがケーシング部材3に近接した位置に復帰する。そしてこの状態からスピンドル軸2を相対的に後退(矢印d方向)させることにより、第1のシール面5bと第2のシール面8bとが相互に離隔した状態に戻る。
【0018】
ここで、ロータリジョイント1の作動時における絞り部4fの機能について説明する。前述のように、絞り部4fは回転流路4e内を流れる流体の流量を制限する機能を有するものである。ロータリジョイント1における流量の制限は、以下のような意義を有している。上述構成の流体送給機構においては、下流の被供給側の状態によっては、ロータリジョイント1を介して供給される流量が大きく変動する場合がある。すなわち一般に流体供給源は十分な容量を備えていることから、被供給側において流体噴射ノズルの脱落などの不測の事態が発生した場合には、使用範囲として想定された圧力・流量の範囲から外れた流体がロータリジョイントを通過して被供給側に流れる場合がある。
【0019】
このような流量や圧力の変動は、クーラント供給配管系の正常な作動を阻害する要因となるため、極力変動を抑制することが求められる。このような変動を抑制する手段として、クーラント供給配管系に過大な流量が流れないように絞りなどの流量制限手段を設けることが考えられる。このような目的の流量制限手段をクーラント供給配管系に組み込むに際しては、ロータリジョイント1のシール機能の安定性を損なわないために、以下に説明するような考慮が必要となる。
【0020】
ロータリジョイント1に採用されるメカニカルシール構造においては、図2に示すように流体圧による押圧力Fを面シール部9に作用させることによりシール機能を果たしている。そして押圧力Fにより面シール部9に生じるシール圧力と内部の流体圧との相対比を予め使用条件に応じて適正に設定されたバランス比に保つことにより、安定したシール性能を維持するようにしている。このため、上述目的の流量制限手段をクーラント供給配管系に組み込むに際しては、面シール部9近傍の流体圧と固定軸部7aの側端面7gに作用する流体圧との関係を極力変動させないよう、流量制限手段の構成および流量制限手段が挿入される位置を考慮する必要がある。
【0021】
すなわち、ロータリジョイント1の上流側に流量制限手段を設けた場合には、流量を制限するために設けた絞り部における圧力損失のために、面シール部9に作用する流体圧が低下し、シール性能の安定性を損なうおそれがある。これに対し、ロータリジョイント1の下流側に流量制限手段を設けようとすれば、スピンドル軸2など常に回転する部分に流量を制限する機構を組み込む必要があり、装置構成上困難が伴う場合が多い。
【0022】
このようなメカニカルシールの特性を考慮して、本実施の形態に示すロータリジョイント1においては、面シール部9から下流に位置するロータ4に絞り部4fを設けることにより流量を制限するようにしている。このような構成を採用することにより、フローティングシート7や面シール部9に作用する流体圧の変動を生じることなく、固定流路7fから回転流路4eを介して流路孔2aに流れる流量を制限することができる。しかもこの流量制限手段はロータリジョイント1を構成するロータ4に設けられていることから、スピンドル軸2など回転部分には何ら新たな機構を追加する必要がなく、設備の変更や改修を全く必要としない。
【0023】
なお、絞り部4fの構成において、オリフィス孔4gの流路径dは、固定流路7fの流路径dとの関係で決定されるものである。すなわち、ロータリジョイント1における流量の変動を許容可能な範囲内に抑制するために必要な絞り度合いが、固定流路7fの流路断面積に対するオリフィス孔4gの流路断面積の百分比を用いて設定される。本実施の形態においては、回転流路4eを局部的に絞ったオリフィス孔4gの流路断面積を固定流路7fの流路断面積の90%以下となるようにしている。ここで、より確実な流量制限効果を得るためには、上記百分比を75%以下とすることが望ましい。またロータ4において絞り部4fを設ける位置は、ロータ4の下端部には限定されず、面シール部9から下流側であれば回転流路4eの任意位置に設けることができる。
【0024】
上記絞り度合いの数値は、以下のような計算根拠に基づいて設定される。ロータリジョイントにおいて安定したシール性能を確保するためには前述のバランス比の変動を10%以下にすることが望ましい。バランス比は面シール部9における流体圧と押圧力Fによって決定されることから、フローティングシート7内の固定流路7fにおける圧力損失をロータリジョイント1の手前側における流体圧の10%以下に抑えることが求められる。ここで、圧力損失の増加の要因となる流量の増加は、ロータリジョイント1の下流側が開放に近い状態となることにより生じるため、ロータ4の直後が完全開放されて静圧が立たない状態を想定し、この状態においてなお圧力損失が10%以下となるような条件を設定すればよい。換言すれば、ロータリジョイント1に供給される流体の流体圧Pのうち、10%が固定流路7fにおける圧力損失として費やされ、残りの90%がロータ4に設けられたオリフィス孔4gによって動圧に変換されるような条件を見出せばよい。
【0025】
すなわち、固定流路7fにおける圧力損失ΔPが流体圧Pの10%である場合のファニングの圧損計算式(1)と、オリフィス孔4g前後の差圧が流体圧Pの90%である場合の流量Qを計算する計算式(2)とを、流量Qが等しいという条件で連立させることにより、上述の条件を満たす固定流路7fの流路断面積Sに対するオリフィス孔4gの流路断面積Sの比(S/S)が求められる。
(ΔP=)0.1P=λ(L/d)V/2g・・(1)
Q=α(S)√(2g×0.9P)・・(2)
ここで、λ:管摩擦係数 L:固定流路長さ d:固定流路径
V:固定流路流速 g:重力加速度 α:オリフィス流量係数
(1)式は、流量Qを用いて、0.1P=λ(L/d)(Q/S/2gと書き表される。そしてこの流量Qに(2)式を代入しさらに数値条件例としてλ=0.03、α=0.75、L=40mm、d=5mmの数値を用いると、前述の条件を満たす(S/S)の限界値として0.91が求められる。
【0026】
すなわち、上述の数値条件において、固定流路7fの流路断面積Sに対するオリフィス孔4gの流路断面積Sの比(S/S)を90%以下としておけば、ロータ4の下流が完全開放された場合においても、固定流路7fにおける圧力損失ΔPを流体圧Pの10%以下に抑えることができる。そして通常のロータリジョイントにおいては、上述の数値条件に極端な差異はないことから、安定したシール性能を確保する上での(S/S)の目安の値として、上記数値(90%)を用いることができる。なお(S/S)を75%以下とすれば、先端開放状態においてもシール性能に影響を与えないことが実験により確認されている。
【0027】
このようにロータリジョイント1において流量を制限することの効果は、ロータリジョイント1を流れる流体が、冷却用のエアなどの気体である場合に特に顕著となる。すなわち過大な流量の気体がフローティングシート7を流れることによって圧力損失が増大した場合には、面シール部9近傍の流体圧がフローティングシート7の上流側の流体圧に対して低下する結果、予め設定されたバランス比が維持されずに、面シール部9に作用するシール面圧が増大する結果となる。このようなシール面圧の増大は、流体が気体である場合にシール性能に対してより大きな影響を及ぼす。
【0028】
すなわち一般に気体は潤滑性を有していないことから、無潤滑状態のシール面により大きなシール面圧が作用することとなり、シール面の面荒れや漏れ量の増大などのシール動作不良を生じるおそれがある。これに対し、本実施の形態に示すロータリジョイント1においては、このような特性を有する気体を供給対象とする場合にあっても、ロータリジョイント1を流れる流量をロータ4に設けられた流量制限手段によって制限するようにしている。これにより過大な流量の気体がフローティングシート7を流れることを防止することができ、上述のようなシール面の面荒れや漏れ量の増大などのシール動作不良を有効に防止することが可能となる。
【0029】
なお、ロータ4に設ける流量制限手段としては、上記構成に示すような絞り部4fに限定されるものではなく、種々のバリエーションが想定可能である。以下、これらのバリエーションの幾例かを図3〜図6を参照して説明する。まず、図3は第2実施例のロータリジョイント1Aを示している。この第2実施例では、第1実施例においては回転流路4eを局部的に絞った絞り部4fを設けているのに対し、回転流路4eの流路径dをロータ4Aの全長にわたって固定流路7fの流路径dよりも小さくすることにより流量を制限するようにしたものである。流路径dの決定に際しては、第1実施例と同様に固定流路7fの流路断面積に対するオリフィス孔4gの流路断面積の百分比に基づいて決定される。
【0030】
すなわち図3に示すロータ4Aは、第1実施例に示すロータ4において、軸心部に設けられた回転流路4eの流路断面積をロータ4Aの全長にわたって回転流路4eの流路断面積の90%以下とすることにより、流量を制限する形態となっている。ここでも同様に、より確実な流量制限効果を得るためには、上記百分比を75%以下とすることが望ましい。ロータ4Aの右側の側端面に固定された第1のシールリング5Aには、回転流路4eの内径dと同一径の開口部5aが形成される。これ以外の構成については、図1に示すロータリジョイント1と同様である。絞り部4fを設けることに替えてこのような構成を採用することにより、ロータ4Aの加工を簡略化することができるという利点がある。
【0031】
図4は、第3実施例のロータリジョイント1Bを示している。この第3実施例では、回転流路4eにおいて流体の流れ方向を径方向に変化させる曲げ部をロータ4Bに設けることにより、圧力損失を発生させて流量を制限するようにしたものである。すなわち図4においてロータ4Bは、図1におけるロータ4の下流側の端部に曲げ部14を設けた構成となっている。曲げ部14は、回転流路4eから回転軸部4aの外面まで貫通する貫通孔14aを単数または複数設けた形態となっている。回転流路4eの流れ方向(矢印f)と貫通孔14aの流れ方向(矢印g)とのなす角度θは、直角または直角に近い鈍角に設定される。すなわち曲げ部14において、回転流路4e内の流体は貫通孔14aを介して流路孔2aに流出し、これにより流れ方向が径方向に変化する。そして流れ方向および流路径の変化に伴う圧力損失によって流量が制限される。
【0032】
図5は、第4実施例のロータリジョイント1Cを示している。この第4実施例では、複数の細孔が軸方向に貫通して設けられた流量制限部を回転流路4eに設けることにより、流量を制限するようにしたものである。すなわち、図5において、ロータ4Cは、図1におけるロータ4の下流側の端部に流量制限部15を設けた構成となっている。流量制限部15は、回転流路4eの下流端に流路を閉塞する閉塞部15bを設け、閉塞部15bを貫通して内径dの細孔15aを複数設けた形態となっている。回転軸部4aの下流側の端面4iに示すように、細孔15aは流路中心について点対称配置で設けられている。回転流路4e内の流体は、流量制限部15の細孔15aを介して流路孔2aに流出し、このときの圧力損失によって流量が制限される。
【0033】
図6は、第5実施例のロータリジョイント1Dを示している。この第5実施例では、複数の微細孔を有する多孔質のフィルタ部材を回転流路4e内に挿入することにより、流量を制限するようにしたものである。すなわち、図6において、ロータ4Dは、図1のロータ4において回転流路4eの下流部にフィルタ部材17を挿入した構成となっている。フィルタ部材17はセラミックの焼結体など複数の微細孔を有する多孔質材を略円筒プラグ形状に成形したものであり、回転流路4eの内部に挿入されてカラーリング16によって位置保持されている。回転流路4e内の流体はフィルタ部材17を透過して流路孔2a内に流出する。このとき、流体内に混入している異物がフィルタ部材17によって捕捉されるとともに、流体がフィルタ部材17を透過する際の圧力損失によって流量が制限される。フィルタ部材17を用いることにより、ロータ4Dとともに回転することから、フィルタ部材17によって捕捉された異物は回転に伴う遠心力によって外周方向へ集積され、フィルタ部材17の目詰まりが抑制されるという付随的な効果を有する。
【0034】
なお第3実施例、第4実施例、第5実施例における流量制限の効果は、それぞれ曲げ部14,流量制限部15,フィルタ部材17の圧力損失の大きさに基づいて判断される。すなわち曲げ部14における貫通孔14aの孔径や配置,流量制限部15における細孔15aの孔径・孔長や孔数、フィルタ部材17におけるフィルタ厚、メッシュなどを変化させながら圧力損失を測定し、第1実施例における絞り部4fの圧力損失と同等となるようにする。
【0035】
上記説明したように本発明は、軸方向の回転流路が設けられた回転部および軸方向の固定流路が設けられた固定部を同軸配置した構成のロータリジョイントにおいて、回転部に設けられ側端面に回転流路が開口した第1のシール面を有する回転シール部に、回転流路内を流れる流体の流量を制限する流量制限手段を備えるようにしたものである。この流量制限は、流路内で圧力損失を発生させることにより行われる。この種のロータリジョイントにおける従来の技術常識では、流路内の圧力損失は極力避けるべきとされていたものであるのに対し、本発明においては圧力損失の発生位置を適正に設定することにより、シール性能の安定化を実現している。これにより、簡便な構成でクーラント供給配管系の流量の変動を防止することができ、流量の変動に伴って発生するおそれがあるシール性能の異常を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のロータリジョイントは、簡便な構成でクーラント供給配管系の流量の変動を防止することができるという特徴を有し、工作機械の主軸などの回転部に液体クーラントやエアなどの流体を送給する用途に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施の形態におけるロータリジョイント(第1実施例)の断面図
【図2】本発明の一実施の形態におけるロータリジョイント(第1実施例)の動作説明図
【図3】本発明の一実施の形態におけるロータリジョイント(第2実施例)の断面図
【図4】本発明の一実施の形態におけるロータリジョイント(第3実施例)の断面図
【図5】本発明の一実施の形態におけるロータリジョイント(第4実施例)の断面図
【図6】本発明の一実施の形態におけるロータリジョイント(第5実施例)の断面図
【符号の説明】
【0038】
1 ロータリジョイント
1a 回転部
1b 固定部
2 スピンドル軸
3 ケーシング部材
4 ロータ
4e 回転流路
4f 絞り部
5 第1のシールリング
5b 第1のシール面
7 フローティングシート
7a 固定軸部
7f 固定流路
8 第2のシールリング
8b 第2のシール面
9 面シール部
14 曲げ部
15 流量制限部
17 フィルタ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の回転流路が設けられ回転軸に装着される回転部および軸方向の固定流路が設けられケーシング部材に装着される固定部を同軸配置して成り、流体供給源から供給される流体を軸心廻りに回転する前記回転部の回転流路へ前記固定流路を介して送給するロータリジョイントであって、
前記回転部に設けられ側端面に前記回転流路が開口した第1のシール面を有する回転シール部と、
前記回転シール部に設けられ前記回転流路内を流れる流体の流量を制限する流量制限手段と、
前記固定流路が前記軸方向に貫通して形成され前記ケーシング部材に設けられた嵌合孔に前記軸方向の移動が許容された状態で嵌合する固定軸部を有し、一方側の側端面に前記固定流路が開口した第2のシール面を有する固定シール部と、
前記流体供給源から前記嵌合孔内へ前記流体を供給して前記固定軸部の他方側の側端面に流体圧を作用させて、前記固定シール部を前記回転シール部に対して押圧することにより、前記第1のシール面と第2のシール面とを相互に密着させて面シール部を形成することを特徴とするロータリジョイント。
【請求項2】
前記流量制限手段は、前記回転流路の流路断面積を局部的に前記固定流路の流路断面積の90%以下に絞ることにより、前記流量を制限することを特徴とする請求項1記載のロータリジョイント。
【請求項3】
前記流量制限手段は、前記回転流路の流路断面積を前記回転シール部の全長にわたって前記固定流路の流路断面積の90%以下とすることにより、前記流量を制限することを特徴とする請求項1記載のロータリジョイント。
【請求項4】
前記流量制限手段は、前記回転流路において流体の流れ方向を径方向に変化させる曲げ部を前記回転シール部に設けることにより、前記流量を制限することを特徴とする請求項1記載のロータリジョイント。
【請求項5】
前記流量制限手段は、複数の細孔が軸方向に貫通して設けられた流量制限部を前記回転流路に設けることにより、前記流量を制限することを特徴とする請求項1記載のロータリジョイント。
【請求項6】
前記流量制限手段は、複数の微細孔を有する多孔質のフィルタ部材を前記回転流路内に挿入することにより、前記流量を制限することを特徴とする請求項1記載のロータリジョイント。
【請求項7】
前記流体が気体であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のロータリジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−53917(P2010−53917A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217803(P2008−217803)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(000179328)リックス株式会社 (33)
【Fターム(参考)】