説明

ロータリダンパ

【課題】 軸の回動初期における摩擦力によるモーメントの変動を低減できるロータリダンパを提供することである。
【解決手段】 中空なハウジング1と、ハウジング1に対して回動する軸10と、軸10に設けられハウジング1内に一対の作動室A,Bを区画する少なくとも1つ以上ベーン15を備え、ベーン15のハウジング1内面に対面する先端および軸に垂直となる側部にかけて設けられた溝21,22,23内にシール部材S1が収容されたロータリダンパにおいて、上記溝21,22の側面を溝幅がベーン先端に向けて幅広となるように彎曲させるか、シール部材S2の側面を幅がベーン先端に向けて狭くなるように彎曲させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリダンパの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
この種ロータリダンパにあっては、中空なハウジングと、ハウジングに対して回動する軸と、軸に設けられハウジング内に一対の作動室を区画する少なくとも1つ以上ベーンを備えて構成されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
このロータリダンパにあっては、上記一対の作動室は通路を介して連通されており、また、該通路の途中には減衰弁が設けられている。そして、上記軸がハウジングに対して回動すると、ベーンが軸とともに揺動し、一方の作動室を圧縮し、他方の作動室を膨張させる。
【0004】
そして、このロータリダンパは、上記作動室の容積変化に伴って、作動油が上記一対の作動室を交流して、減衰弁を通過することによって、所定の圧力損失が生じて作動室内圧に差圧が生じ、軸の回動を妨げる減衰力を発生することができ、ロータリダンパは、直動型のダンパとは異なり、軸の回動を抑制するように作用する。
【0005】
また、ロータリダンパは、作動室を区画するために、ベーンを用いており、このベーンにおけるハウジング内面に摺接する先端および軸に垂直となる側部に溝が設けられており、この溝内に収容されるシール部材によってハウジングとベーンとの間をシールして上記した一対の作動室を油密に保つようにしている。
【特許文献1】特開平9−49538号公報(図2,図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように構成されるロータリダンパにあっては、ベーンとハウジングとの間で作動油が交流すると、充分な減衰力を発生できなくなる場合もあるので、上述のようにシール部材でベーンとハウジングとの間をシールしているが、シール部材がハウジングに対して摺動初期に静摩擦力が生じることになる。
【0007】
この静摩擦力はベーン長さと相俟って軸にモーメントとして作用するので軸の回動初期における軸の円滑回動を妨げることになり、ロータリダンパは、作動室内の差圧によって生じる減衰力以外の力を発生する。
【0008】
そして、一端シール部材がハウジングに対して移動し始めると、今度は静摩擦力より小さい動摩擦力が生じることになり、静摩擦から動摩擦に切換わる時点での軸に作用するモーメントの変動が激しく、たとえば、このロータリダンパが二輪車のステアリングダンパとして使用される場合には、運転者に違和感を与えかねない。
【0009】
そこで、本発明は、上記不具合を改善する為に創案されたものであって、軸の回動初期における摩擦力によるモーメントの変動を低減できるロータリダンパを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために、本発明は、中空なハウジングと、ハウジングに対して回動する軸と、軸に設けられハウジング内に一対の作動室を区画する少なくとも1つ以上ベーンを備え、ベーンのハウジング内面に摺接する先端および軸に垂直となる側部にかけて設けられた溝内にシール部材が収容されたロータリダンパにおいて、上記溝の側面を溝幅がベーン先端に向けて幅広となるように彎曲させた。
【0011】
また、他の発明は、中空なハウジングと、ハウジングに対して回動する軸と、軸に設けられハウジング内に一対の作動室を区画する少なくとも1つ以上ベーンを備え、ベーンのハウジング内面に摺接する先端および軸に垂直となる側部にかけて設けられた溝内にシール部材が収容されたロータリダンパにおいて、上記シール部材の側部をシール部材幅がベーン先端に向けて幅狭となるように彎曲させた。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、軸の回動を抑制する摩擦力は、軸の回動初期には、シール部材のうち軸の近傍に位置して溝の側面によって押される部位のみで発生するので、軸の回動初期からシール部材全体がハウジングに対して移動してシール部材全体において摩擦力が生じる従来のロータリダンパに比較して、軸の回動初期の摩擦力に起因するモーメントは小さくなる。
【0013】
また、軸の回動の進捗に伴って、シール部材のうち溝の側面によって押される部位は、すなわち、シール部材のハウジングに対して移動する部位は徐々に増加していくことになり、動摩擦力に起因するモーメントは増加することになるが、この動摩擦力によるモーメントの増加は突然でなく、徐々に増加されることになるとともに、静摩擦から動摩擦に切換わる部位は溝にて押されて動き始める部位のみであってその部位におけるモーメントの変動も小さいので、軸の回動初期からシール部材全体がハウジングに対して移動しシール部材全体において静摩擦が動摩擦に切換わる従来のロータリダンパに比較してモーメント変化量を極めて小さくすることができる。
【0014】
このように、本発明のロータリダンパにおいては、上記したように、シール部材の摩擦力に起因する軸の回動を抑制するモーメントの変動を極めて小さくすることができるので、このロータリダンパを二輪車にステアリングダンパとして使用した際にあっても、ステアリングの動きが渋くなったり、ぎこちなくなったりすることが無く、二輪車の搭乗者に違和感を与えることがなくなるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1は、一実施の形態におけるロータリダンパのカバーを取り外した状態における正面図である。図2は、一実施の形態におけるロータリダンパの縦断面図である。図3は、シール部材他の実施の形態におけるロータリダンパの横断面図である。図4は、他の実施の形態におけるロータリダンパのカバーを取り外した状態における正面図である。図5は、他の実施の形態におけるロータリダンパの縦断面図である。
【0016】
図1に示すように、一実施の形態におけるロータリダンパR1は、中空なハウジング1と、ハウジング1に対して回動する軸10と、軸10に設けられハウジング1内に一対の作動室A,Bを区画するベーン15とを備えて構成されている。
【0017】
以下、詳細に説明すると、ハウジング1は、図1および図2に示すように、内部に略扇型の中空部2aを備えた本体2と、本体2の中空部2aを密閉するように本体2を挟持する一対のカバー3,4とで構成され、また、カバー3,4には、それぞれ軸10を軸支する孔5,6が設けられている。
【0018】
カバー3,4にあっては、本体2を挟持したときに、互いが対向する対向面が平行をなし、かつ、該対向面が軸10の軸線に対して垂直となるようになっている。
【0019】
また、ベーン15は、軸10に固着される環状のボス16と、ボス16から延設され中空部2aの円弧状内面の近傍まで伸びる隔壁部17とを備え、この隔壁部17で中空部2aを一対の作動室A,Bに区画している。
【0020】
また、ボス16のカバー3,4に対面する部位には半円状の溝18,19が形成されるとともに、また、ボス16の隔壁部17が延設されている部位の反対側の部位には上記は、上記溝18,19に連通する溝20が形成されている。
【0021】
さらに、隔壁部17の軸に垂直となる側部となる上記したカバー3,4に対面する部位には、上述した溝18,19にそれぞれ連通する溝21,22が形成され、さらには、隔壁部17の先端であって中空部2aの円弧状内面に対面する部位には、上記した溝21,22に連通する溝23が形成されている。
【0022】
そして、これら溝のうち隔壁部17の側部に形成された溝21,22の側面にあっては、溝幅Hが隔壁部17の先端に向けて幅広となるように彎曲されており、これに伴い、溝21,22に連通する溝23は、溝21,22の隔壁部17の先端部における幅を同じ幅に設定されている。
【0023】
これら溝18,19,20,21,22,23は全体としては一つの環状溝D1を形成しており、この環状溝D1内には、環状溝D1と略同形状の図3に示したシール部材S1が収容されている。
【0024】
このシール部材S1における幅Wは、概ね溝18,19,20における幅に設定されており、中空部2aの内面およびカバー3,4の内面に摺接し、ハウジング1とベーン15との間をシールしており、これによって、各作動室A,Bは油密状態に維持されている。
【0025】
したがって、上記シール部材S1は、隔壁部17の先端側に向かうほど溝21,22,23内での図1中左右方向への移動が許容される状態となっている。
【0026】
なお、上記各作動室A,Bは、本体2に内設される通路30によって連通されるとともに、また、通路30の途中には減衰力発生要素31が設けられている。
【0027】
そして、ハウジング1に対して軸10が回動させてベーン15が揺動させると、作動室A,Bのうち一方が圧縮され、他方が膨張することになり、通路30を介して作動油が圧縮側から膨張側の作動室に移動し、減衰力発生要素31を通過することになるので、作動室A,B内圧に差圧が生じて、軸10の回動を抑制する減衰力が発生されることになる。
【0028】
ここで、上記したように、環状溝D1を形成する溝21,22の側面は、溝幅Hが先端に向かうほど幅広となるように彎曲されているので、軸10が回動し始めると、シール部材S1の溝21,22内に収容されている部位は、軸10の回動が進むにつれて隔壁部17の基端側から徐々に先端側に向かって溝21,22の側面によって軸10の回動方向に押されることになる。
【0029】
すなわち、軸10の回動の進捗によって、溝21,22の側面は溝幅Hが隔壁部17の先端に向けて幅広となるように彎曲されているので、シール部材S1における溝21,22に押される部位が増加する、つまり、軸10の回動の進捗に伴って、シール部材S1のカバー3,4および中空部2a内面に対して移動する部位は徐々に増加されることになる。
【0030】
したがって、溝21,22の側面によって押されていないシール部材S1における部位は、その場に留まっている状態となり、やがて、シール部材S1における溝21,22内に収容されている部位の全体が溝21,22の側面によって押されることになる。
【0031】
すると、軸10の回動を抑制する摩擦力は、軸10の回動初期には、シール部材S1のうち軸10の近傍に位置して溝21,22の側面によって押される部位のみで発生するので、軸10の回動初期からシール部材全体がハウジングに対して移動してシール部材全体において摩擦力が生じる従来のロータリダンパに比較して、軸10の回動初期の摩擦力に起因するモーメントは小さくなる。
【0032】
また、軸10の回動の進捗に伴って、シール部材S1のうち溝21,22の側面によって押される部位は、すなわち、シール部材S1のハウジング1に対して移動する部位は徐々に増加していくことになり、動摩擦力に起因するモーメントは増加することになるが、この動摩擦力によるモーメントの増加は突然でなく、徐々に増加されることになるとともに、静摩擦から動摩擦に切換わる部位は溝21,22にて押されて動き始める部位のみであってその部位におけるモーメントの変動も小さいので、軸10の回動初期からシール部材全体がハウジングに対して移動しシール部材全体において静摩擦が動摩擦に切換わる従来のロータリダンパに比較してモーメント変化量を極めて小さくすることができる。
【0033】
このように、この一実施の形態におけるロータリダンパR1においては、上記したように、シール部材S1の摩擦力に起因する軸10の回動を抑制するモーメントの変動を極めて小さくすることができるので、このロータリダンパR1を二輪車にステアリングダンパとして使用した際にあっても、ステアリングの動きが渋くなったり、ぎこちなくなったりすることが無く、二輪車の搭乗者に違和感を与えることがなくなるのである。
【0034】
なお、溝21,22の側面の彎曲の始点としては、隔壁部17の先端側とされても上記のようにモーメント変化量を従来ロータリダンパより小さくすることができるが、よりモーメント変化量を小さくするのであれば、なるべく軸10の近傍にする方が良い。
【0035】
つづいて、他の実施の形態におけるロータリダンパR2について説明する。なお、上記した一実施の形態と同様の部分については、同一の符号を付するのみとして、その詳しい説明については省略することとする。
【0036】
この他の実施の形態にあっては、溝の側面を彎曲させるのではなくて、シール部材S2の幅が隔壁部17の先端側に向けて幅狭となるようにシール部材S2の側面を彎曲させてある。
【0037】
詳しくは、図4,図5に示すように、ベーン15の隔壁部17のカバー3,4に対面する部位に設けた溝41,42の溝幅は、隔壁部17の基端側から先端にかけて同一幅とされており、この溝41,42を連通する隔壁部17の先端に形成される溝43にあっても、溝41,42の溝幅と同一の幅をもって形成されている。
【0038】
他方、シール部材S2は、溝18,19,20,41,42,43で形成される環状溝D2と略同形状になっており、この環状溝D2内に収容されている。
【0039】
このシール部材S2にあっても、中空部2aおよびカバー3,4の内面に摺接しているが、一実施の形態におけるシール部材S1と異なるのは、溝41,42,43内に収容される部位におけるシール部材S2の幅Wは、その部位における側面が隔壁部17の先端に向かって狭くなるように彎曲されている点である。なお、他の構成は、上記した一実施の形態と同様である。
【0040】
そして、このシール部材S2にあっても、シール部材S2の幅Wは、その部位における側面が隔壁部17の先端に向かって狭くなるように彎曲されているので、軸10の回動の進捗に伴ってシール部材S2における溝41,42に押される部位が増加する、つまり、軸10の回動の進捗に伴って、シール部材S2のカバー3,4および中空部2a内面に対して移動する部位は徐々に増加されることになる。
【0041】
すなわち、上記した一実施の形態と同様に、軸10の回動初期におけるシール部材S2の摩擦力に起因するモーメントは小さくでき、また、軸10の回動初期からシール部材全体がハウジングに対して移動しシール部材全体において静摩擦が動摩擦に切換わる従来のロータリダンパに比較してモーメント変化量を極めて小さくすることができる。
【0042】
したがって、一実施の形態におけるロータリダンパR1と同様に、このロータリダンパR2を二輪車にステアリングダンパとして使用した際にあっても、ステアリングの動きが渋くなったり、ぎこちなくなったりすることが無く、二輪車の搭乗者に違和感を与えることがなくなるのである。
【0043】
なお、シール部材S2の側面の彎曲の始点としては、隔壁部17の先端側とされても上記のようにモーメント変化量を従来ロータリダンパより小さくすることができるが、よりモーメント変化量を小さくするのであれば、なるべく軸10の近傍にする方が良い。
【0044】
また、一実施の形態における環状溝D1に他の実施の形態におけるシール部材S2を収容するようにしてもよく、この場合にも、本発明の効果は失われることはない。
【0045】
また、本実施の形態では、ベーンが一つの場合について説明したが、ロータリダンパを複数のベーンと、ベーン数に応じた作動室とを備えたものとしてもよい。
【0046】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】一実施の形態におけるロータリダンパのカバーを取り外した状態における正面図である。
【図2】一実施の形態におけるロータリダンパの縦断面図である。
【図3】一実施の形態におけるシール部材の斜視図である。
【図4】他の実施の形態におけるロータリダンパのカバーを取り外した状態における正面図である。
【図5】他の実施の形態におけるロータリダンパの縦断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 ハウジング
2 本体
2a 中空部
3,4 カバー
10 軸
15 ベーン
16 ボス
17 隔壁部
18,19,20,21,22,23,41,42,43 溝
A,B 作動室
D1,D2 環状溝
R1,R2 ロータリダンパ
S1,S2 シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空なハウジングと、ハウジングに対して回動する軸と、軸に設けられハウジング内に一対の作動室を区画する少なくとも1つ以上ベーンを備え、ベーンのハウジング内面に対面する先端および軸に垂直となる側部にかけて設けられた溝内にシール部材が収容されたロータリダンパにおいて、上記溝の側面を溝幅がベーン先端に向けて幅広となるように彎曲させたこととを特徴とするロータリダンパ。
【請求項2】
中空なハウジングと、ハウジングに対して回動する軸と、軸に設けられハウジング内に一対の作動室を区画する少なくとも1つ以上ベーンを備え、ベーンのハウジング内面に対面する先端および軸に垂直となる側部にかけて設けられた溝内にシール部材が収容されたロータリダンパにおいて、上記シール部材の側部をシール部材幅がベーン先端に向けて幅狭となるように彎曲させたことを特徴とするロータリダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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