説明

ロータリーダンパ

【課題】低温下においても、また高温下においても常温下とほぼ同等な制動力を発揮することができるロータリーダンパを提供する。
【解決手段】本発明に係るロータリーダンパは、ハウジング10内に充填された粘性液体を押圧する押圧部と、該押圧部に押圧された粘性液体が通過可能な流路20と、該流路20を通過する粘性液体の流量を温度に応じて調節する弁30とを具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリーダンパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ハウジング内に充填された粘性液体を押圧する押圧部と、該押圧部に押圧された粘性液体が通過可能な流路と、該流路に設けられる弁とを具備するロータリーダンパが知られている。例えば、下記特許文献1に記載されたロータリーダンパは、押圧部(ベーン部材30)に形成される、大孔部(81)と小孔部(82)とを有する流路(液体流路80)と、大孔部内に設けられる球状の弁体(40)からなる弁とを有する(特許文献1の第2図参照)。弁体は、押圧部が一方向へ回動したときに、弁座に当接して流路を閉鎖し、押圧部が逆方向へ回動したときには、弁座から離れて流路を開放する。この弁によれば、押圧部の回動方向に応じて流路を通過する粘性液体の流量を増減させることができる。
【0003】
しかしながら、粘性液体は、低温になると粘度が高くなり、高温になると粘度が低くなる性質を有する。例えば、ロータリーダンパに用いられる粘性液体として典型的なシリコンオイルの中には、−35℃になると、粘度が25℃のときの約5倍に高くなり、100℃になると、粘度が25℃のときの約0.3倍に低くなるものがある。粘性液体は、粘度が高くなるほど移動し難くなるため、特許文献1に記載されたロータリーダンパのように、押圧部が一方向へ回動したときに、弁体が流路を閉鎖することによって、粘性液体が流路を通過できなくなる構成では、押圧部に対する粘性液体の抵抗が、低温下では常温下より大きくなり、高温下では常温下より小さくなるという問題があった。
【0004】
図17は、従来のロータリーダンパの温度特性を示すグラフである。このグラフの縦軸は、ロータリーダンパに連結されたアームが、自然落下によって、一定の角度範囲を回転動作するのに要した時間である。アームが回転動作するときに、ロータリーダンパに加えられる負荷は15N・mである。このグラフに示されるように、20℃のときに1.18秒である動作時間が、−30℃のときは2.0秒であり、20℃のときと比べると動作時間が約1.7倍も延長していることから、低温下では常温下よりロータリーダンパの制動力が大きくなっていることがわかる。一方、80℃のときは0.9秒であり、20℃のときと比べると動作時間が約0.7倍も縮小していることから、高温下では常温下よりロータリーダンパの制動力が小さくなっていることがわかる。
【0005】
【特許文献1】国際公開第03/074901号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、低温下においても、また高温下においても常温下とほぼ同等な制動力を発揮することができるロータリーダンパを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下のロータリーダンパを提供する。
1.ハウジング内に充填された粘性液体を押圧する押圧部と、該押圧部に押圧された粘性液体が通過可能な流路と、該流路を通過する粘性液体の流量を温度に応じて調節する弁とを具備することを特徴とするロータリーダンパ。
2.前記弁が、変形可能なばね部を有する弁体を備え、前記ばね部と弁座との間には、前記ばね部の変形を可能にする隙間を有し、前記ばね部が前記隙間を小さくする方向へ変形したときの前記ばね部の変形量に応じて前記流路を通過する粘性液体の流量が調節され、前記ばね部のばね定数が温度の変化に伴って変化することを特徴とする前記1に記載のロータリーダンパ。
3.前記弁が、弁体と、該弁体が弁座から離れる方向に前記弁体を付勢するばねとを備え、前記弁体が前記弁座に接近する方向へ移動したときの前記ばねの変形量に応じて前記流路を通過する粘性液体の流量が調節され、前記ばねのばね定数が温度の変化に伴って変化することを特徴とする前記1に記載のロータリーダンパ。
【発明の効果】
【0008】
前記1に記載のロータリーダンパによれば、流路を通過する粘性液体の流量を温度に応じて調節する弁を有するため、低温下においても、また高温下においても常温下とほぼ同等な制動力を発揮することが可能になる。
前記2に記載のロータリーダンパによれば、ばね部のばね定数が温度の変化に伴って変化するため、低温下においては、常温下よりばね部の変形量が小さい。したがって、低温下においては、ばね部によって流路が閉鎖されず、粘性液体が流路を通過することができるので、粘性液体の粘度が高くても、押圧部に対する粘性液体の抵抗は相対的に小さくなる。その結果、低温下においても常温下とほぼ同等な制動力を発揮することが可能になる。一方、高温下においては、常温下よりばね部の変形量が大きい。したがって、高温下においては、ばね部によって流路が完全に又はほぼ完全に閉鎖され、粘性液体が流路を通過できなくなるか、又は通過できてもその流量は非常に少ないので、粘性液体の粘度が低くても、押圧部に対する粘性液体の抵抗は相対的に大きくなる。その結果、高温下においても常温下とほぼ同等な制動力を発揮することが可能になる。
前記3に記載のロータリーダンパによれば、ばねのばね定数が温度の変化に伴って変化するため、低温下においては、常温下よりばねの変形量が小さい。したがって、低温下においては、弁体によって流路が閉鎖されず、粘性液体が流路を通過することができるので、粘性液体の粘度が高くても、押圧部に対する粘性液体の抵抗は相対的に小さくなる。その結果、低温下においても常温下とほぼ同等な制動力を発揮することが可能になる。一方、高温下においては、常温下よりばねの変形量が大きい。したがって、高温下においては、弁体によって流路が完全に又はほぼ完全に閉鎖され、粘性液体が流路を通過できなくなるか、又は通過できてもその流量は非常に少ないので、粘性液体の粘度が低くても、押圧部に対する粘性液体の抵抗は相対的に大きくなる。その結果、高温下においても常温下とほぼ同等な制動力を発揮することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に示した実施例に従って説明する。
【実施例1】
【0010】
図1乃至図3は、本発明の実施例1に係るロータリーダンパの内部構造を示す図である。これらの図に示したように、本実施例に係るロータリーダンパは、ハウジング10、粘性液体、押圧部、流路20及び弁30を有して構成される。
【0011】
ハウジング10は、一端側が閉塞され、他端側が開口した円筒形の本体部11と、該本体部11の開口部を閉塞する蓋12とを有して構成される(図1及び図2参照)。ハウジング10内には、中空のロータ40が設けられている。ハウジング10の本体部11には、本体部11とロータ40との間に形成される空間を仕切る隔壁50が設けられている(図1参照)。ロータ40には、隔壁50によって仕切られた空間に配置されるベーン60が設けられている(図1参照)。隔壁50の先端面は、ロータ40の外周面に接しており、ベーン60の先端面は、本体部11の内周面に接している。
【0012】
粘性液体は、隔壁50及びベーン60によって区画された4つの室(図1参照。以下、各室を第1乃至第4室71−74という。)に充填される。粘性液体としては、シリコンオイルを用いることができる。
【0013】
押圧部は、ハウジング10内に充填された粘性液体を押圧するものである。ハウジング10内でロータ40が回転するときは、ベーン60が押圧部として機能する。一方、ハウジング10がロータ40の周りで回転するときは、隔壁50が押圧部として機能する。
【0014】
流路20は、隔壁50を挟んで隣り合う室同士を連通させるように隔壁50に形成されている(図1参照)。流路20は、第1室71と第2室72との間で粘性液体が移動することを可能とし、また、第3室73と第4室74との間で粘性液体が移動することを可能としている。
【0015】
弁30は、流路20の途中に存するように隔壁50に設けられた弁体31から構成される(図1参照)。弁体31は、図4に示したように、上端部31aと下端部31bとの間に、一面側が突出するように湾曲したばね部31cを有する。ばね部31cの両側を粘性液体が通過し得るように、ばね部31cの中央部分は両端部分に比べて細くなっている(図4の(b)参照)。ばね部31cは、その一面側が粘性液体の圧力を受けることにより、湾曲した状態から平らな状態へ変形可能である。
【0016】
ばね部31cは、樹脂からなり、そのばね定数は温度の変化に伴って変化する。したがって、粘性液体の圧力を受けたときのばね部31cの変形量は、低温下においては、常温下より小さくなり、高温下においては、常温下より大きくなる。
【0017】
図5に示したように、弁体31を隔壁50に設けたとき、ばね部31cと弁座32との間には、隙間33が形成される。隙間33は、ばね部31cが隙間33を小さくする方向へ変形することを可能にする。
【0018】
本実施例に係るロータリーダンパは、以下のように動作する。すなわち、常温(例えば、20℃)の下で、ロータ40の回転に伴って押圧部(ベーン60)が一方向(図1において時計回り方向)へ回動したときには、第1及び第3室71,73の粘性液体が押圧部に押圧されることにより、流路20に流れ込む。弁体31のばね部31cは、流路20に流れ込んだ粘性液体の圧力を受けることにより、隙間33を小さくする方向へ変形する。このときばね部31cは、弁座32に当接するまで変形することはなく、弁座32との間に隙間33を残した状態まで変形する(図6参照)。したがって、ばね部31cの変形により、粘性液体が流路20を通過できなくなることはないが、流路20を通過する粘性液体の量が少量に制限されるため、押圧部に対する粘性液体の抵抗が発生する。その結果、ロータリーダンパは、所定の制動力を発揮する。
【0019】
低温(例えば、−30℃)の下で、ロータ40の回転に伴って押圧部(ベーン60)が一方向(図1において時計回り方向)へ回動したときには、第1及び第3室71,73の粘性液体が押圧部に押圧されることにより、流路20に流れ込む。弁体31のばね部31cは、流路20に流れ込んだ粘性液体の圧力を受けることにより、隙間33を小さくする方向へ変形する。このときばね部31cは、初期の状態(図5参照)から僅かに変形するだけで、その変形量は、常温下より小さい。図7は、低温下においてばね部31cが粘性液体の圧力を受けたことにより変形した状態を示している。図7に示したように、ばね部31cは初期の状態から殆ど変形しないので、常温下よりも多量の粘性液体が流路20を通過することができる。もっとも、ばね部31cの僅かな変形によって、流路20を通過する粘性液体の量は、ばね部31cが全く変形しない場合と比較すると幾分減少する。常温下においては、ばね部31cが僅かに変形しただけでは、押圧部に対する粘性液体の抵抗が非常に小さくなるが、低温下においては、粘性液体の粘度が常温下に比べ格段に高くなるので、ばね部31cが僅かに変形しただけで、押圧部に対する粘性液体の抵抗が常温下における粘性液体の抵抗とほぼ同等になる。その結果、ロータリーダンパは、常温下とほぼ同等の制動力を発揮する。
【0020】
高温(例えば、80℃)の下で、ロータ40の回転に伴って押圧部(ベーン60)が一方向(図1において時計回り方向)へ回動したときには、第1及び第3室71,73の粘性液体が押圧部に押圧されることにより、流路20に流れ込む。弁体31のばね部31cは、流路20に流れ込んだ粘性液体の圧力を受けることにより、隙間33を小さくする方向へ変形する。このときばね部31cは、初期の状態(図5参照)から大幅に変形し、その変形量は、常温下より大きい。図8は、高温下においてばね部31cが粘性液体の圧力を受けたことにより変形した状態を示している。図8に示したように、ばね部31cは初期の状態から弁座32に当接するまで変形しているので、粘性液体が流路20を通過することができない。常温下においては、ばね部31cが流路20を閉鎖すると、押圧部に対する粘性液体の抵抗が大きくなるが、高温下においては、粘性液体の粘度が常温下に比べ低くなるので、ばね部31cが流路20を閉鎖しても、押圧部に対する粘性液体の抵抗は常温下における粘性液体の抵抗とほぼ同等になる。その結果、ロータリーダンパは、常温下とほぼ同等の制動力を発揮する。
【0021】
図9は、本実施例に係るロータリーダンパの温度特性を示すグラフである。このグラフの縦軸は、ロータリーダンパに連結されたアームが、自然落下によって、一定の角度範囲を回転動作するのに要した時間である。アームが回転動作するときに、ロータリーダンパに加えられる負荷は15N・mである。このグラフに示されるように、20℃のときに1.22秒である動作時間が、−30℃のときは1.35秒であり、20℃のときと比べると動作時間が約1.1倍しか延長していないことから、低温下におけるロータリーダンパの制動力が常温下におけるロータリーダンパの制動力とほぼ同等であることがわかる。一方、80℃のときは1.09秒であり、20℃のときと比べると動作時間が約0.9倍しか縮小していないことから、高温下におけるロータリーダンパの制動力が常温下におけるロータリーダンパの制動力とほぼ同等であることがわかる。
【0022】
以上説明したとおり、本実施例に係るロータリーダンパは、流路20を通過する粘性液体の流量を温度に応じて調節する弁30を有するため、低温下においても、また高温下においても常温下とほぼ同等な制動力を発揮することができる。自動車の標準的な使用温度範囲は、−30℃から80℃の範囲であるから、本実施例に係るロータリーダンパは、自動車用として好適である。
【実施例2】
【0023】
図10は、本発明の実施例2に係るロータリーダンパの要部を示す図である。この図に示したように、本実施例に係るロータリーダンパは、弁30を構成する弁体31のばね部31cが平板状に成形されている点で、ばね部31cが湾曲した形状に成形された実施例1と異なる。また、本実施例は、弁座32が、断面からみて弧状に凹んでいる点で、弁座32が平坦である実施例1と異なる。
【0024】
実施例1では、湾曲したばね部31cと平坦な弁座32との組み合わせによって、ばね部31cと弁座32との間に、ばね部31cの変形を可能にする隙間33が形成されているが、本実施例のように、平板状のばね部31cと凹みのある弁座32との組み合わせにより、ばね部31cと弁座32との間に、ばね部31cの変形を可能にする隙間33を形成してもよい。
【0025】
本実施例においても、実施例1と同様に、ばね部31cが隙間33を小さくする方向へ変形したときのばね部31cの変形量に応じて流路20を通過する粘性液体の流量が調節される。また、ばね部31cのばね定数は温度の変化に伴って変化する。
【0026】
したがって、低温下においては、常温下よりばね部31cの変形量が小さいので、低温下においては、ばね部31cによって流路20が閉鎖されず、常温下より多量の粘性液体が流路20を通過することができる。しかし、低温下では、粘性液体の粘度が常温下より高くなるので、押圧部に対する粘性液体の抵抗は相対的に小さくなる。その結果、低温下においても常温下とほぼ同等な制動力を発揮することができる。一方、高温下においては、常温下よりばね部31cの変形量が大きいので、高温下においては、ばね部31cによって流路20が完全に又はほぼ完全に閉鎖され、粘性液体が流路20を通過できなくなるか、又は通過できてもその流量は非常に少ない。しかし、高温下では、粘性液体の粘度が常温下より低くなるので、押圧部に対する粘性液体の抵抗は相対的に大きくなる。その結果、高温下においても常温下とほぼ同等な制動力を発揮することができる。
【0027】
本実施例に係るロータリーダンパも、実施例1の温度特性(図9参照)と同様な温度特性を得ることができる。
【実施例3】
【0028】
図11は、本発明の実施例3に係るロータリーダンパの内部構造を示す図である。この図に示したように、本実施例に係るロータリーダンパは、押圧部に押圧された粘性液体が通過可能な流路20及び該流路20通過する粘性液体の流量を温度に応じて調節する弁30がベーン60に設けられている点で、流路20及び弁30が隔壁50に設けられている実施例1と異なる。
【0029】
本実施例の弁30は、実施例1の弁30と同じ構造である。また、本実施例においても、実施例1と同様に、弁体31のばね部31cと弁座32との間には、ばね部31cの変形を可能にする隙間33が形成されている。
【0030】
本実施例のように、流路20及び弁30をベーンに設けた場合も、それらを隔壁50に設けた場合と同様な作用効果が得られる。
【実施例4】
【0031】
図12は、本発明の実施例4に係るロータリーダンパの内部構造を示す図である。この図に示したように、本実施例に係るロータリーダンパは、流路20を通過する粘性液体の流量を温度に応じて調節する弁30が1つの流路20に対して2つ設けられている点で、1つの流路20に対して1つの弁30が設けられている実施例1と異なる。
【0032】
本実施例において、1つの流路20に設けられる2つの弁30は、それぞれ実施例1の弁30と同じ構造である。図13に示したように、2つの弁30は、弁体31のばね部31cの他面側が中間壁部50aを挟んで互いに向き合うように配置される。ここで、ばね部31cの他面側は凹んでおり(図4の(c)参照)、中間壁部50aには、流路20の一部である孔部20aが形成されている。一方の弁体31(図12において左側の弁体31)のばね部31cと弁座32との間には、ばね部31cの変形を可能にする隙間33が形成され、同様に、他方の弁体31(図12において右側の弁体31)のばね部31cと弁座32との間にも、ばね部31cの変形を可能にする隙間33が形成されている。
【0033】
本実施例に係るロータリーダンパは、以下のように動作する。すなわち、ロータ40の回転に伴って押圧部(ベーン60)が一方向(図12において時計回り方向)へ回動したときには、第1及び第3室71,73の粘性液体が押圧部に押圧されることにより、流路20に流れ込む。一方の弁体31のばね部31cは、流路20に流れ込んだ粘性液体の圧力を受けることにより、隙間33を小さくする方向へ変形する。このときにばね部31cの変形の度合いが温度によって異なることは、実施例1で説明したとおりである。そして、ばね部31cの変形によって流路20を通過する粘性液体の流量が制限されることにより、ロータリーダンパは、所定の制動力を発揮する。一方、ロータ40の回転に伴って押圧部(ベーン60)が逆方向(図12において反時計回り方向)へ回動したときには、第2及び第4室72,74の粘性液体が押圧部に押圧されることにより、流路20に流れ込む。他方の弁体31のばね部31cは、流路20に流れ込んだ粘性液体の圧力を受けることにより、隙間33を小さくする方向へ変形する。このときにばね部31cの変形の度合いが温度によって異なることは、実施例1で説明したとおりである。そして、ばね部31cの変形によって流路20を通過する粘性液体の流量が制限されることにより、ロータリーダンパは、所定の制動力を発揮する。
【0034】
実施例1に係るロータリーダンパは、1つの流路20に1つの弁30が設けられているため、押圧部が逆方向へ回動したときには、弁体31のばね部31cが弁座32との間の隙間33を小さくする方向へ変形しないので、押圧部に対して粘性液体の抵抗が殆ど生じない。対照的に本実施例に係るロータリーダンパは、上記したように、押圧部が逆方向へ回動したときも、押圧部が一方向へ回動したときと同様に、押圧部に対して粘性液体の抵抗が生じる。したがって、本実施例によれば、押圧部が一方向へ回動した場合のみならず逆方向へ回動した場合にも制動力を発揮することができる。
【0035】
本実施例に係るロータリーダンパも、実施例1の温度特性(図9参照)と同様な温度特性を得ることができる。
【実施例5】
【0036】
図14は、本発明の実施例5に係るロータリーダンパの内部構造を示す図である。この図に示したように、本実施例に係るロータリーダンパは、押圧部に押圧された粘性液体が通過可能な流路20及び該流路20を通過する粘性液体の流量を温度に応じて調節する弁30がベーン60に設けられている点で、流路20及び弁30が隔壁50に設けられている実施例4と異なる。
【0037】
本実施例において、1つの流路20に設けられる2つの弁30は、それぞれ実施例1の弁30と同じ構造である。2つの弁30のうちの一方の弁30を構成する弁体31のばね部31cと弁座32との間に、ばね部31cの変形を可能にする隙間33が形成され、また、他方の弁30を構成する弁体31のばね部31cと弁座32との間に、ばね部31cの変形を可能にする隙間33が形成される点も、実施例4と同じである。
【0038】
本実施例のように、流路20及び弁30をベーン60に設けた場合も、それらが隔壁50に設けられた実施例4と同様な作用効果が得られる。
【実施例6】
【0039】
図15及び図16は、本発明の実施例6に係るロータリーダンパの内部構造を示す図である。これらの図に示したように、本実施例に係るロータリーダンパは、ハウジング10、粘性液体、押圧部、流路20及び弁30を有して構成される。
【0040】
ハウジング10は、一端側が閉塞され、他端側が開口した円筒形の本体部11と、該本体部11の開口部を閉塞する蓋12とを有して構成される。ハウジング10内には、中空のロータ40が設けられている。ハウジング10の本体部11には、本体部11とロータ40との間に形成される空間を仕切る隔壁50が設けられている。ロータ40には、隔壁50によって仕切られた空間に配置されるベーン60が設けられている。隔壁50の先端面は、ロータ40の外周面に接しており、ベーン60の先端面は、本体部11の内周面に接している。
【0041】
粘性液体は、隔壁50及びベーン60によって区画された第1乃至第4室71−74に充填される(図15参照)。粘性液体としては、シリコンオイルを用いることができる。
【0042】
押圧部は、ハウジング10内に充填された粘性液体を押圧するものである。ハウジング10内でロータ40が回転するときは、ベーン60が押圧部として機能する。一方、ハウジング10がロータ40の周りで回転するときは、隔壁50が押圧部として機能する。
【0043】
流路20は、ベーン60を挟んで隣り合う室同士を連通させるようにベーン60に形成されている(図15参照)。流路20は、第1室71と第4室74との間で粘性液体が移動することを可能とし、また、第2室72と第3室73との間で粘性液体が移動することを可能としている。より詳細には、一方のベーン60に形成される流路20は、ベーン60に形成された溝20cを介して第1室71と連通する大孔部20aと、大孔部20aと連通し、かつベーン60に形成された溝20dを介して第4室74と連通する小孔部20bとを有して構成される(図15及び図16参照)。他方のベーン60に形成される流路20は、ベーン60に形成された溝20cを介して第3室73と連通する大孔部20aと、大孔部20aと連通し、かつベーン60に形成された溝を介して第2室72と連通する小孔部20bとを有して構成される(図15及び図16参照)。
【0044】
弁30は、流路20の大孔部20aに設けられる弁体31と、流路20の小孔部20bに装填され、弁体31が弁座32から離れる方向に弁体31を付勢するばね34とを有して構成される。ばね34は、弁体31が弁座32に接近する方向へ移動したときに圧縮され、変形する。
【0045】
ばね34は、樹脂からなり、そのばね定数は温度の変化に伴って変化する。したがって、ばね34の変形量は、低温下においては、常温下より小さくなり、高温下においては、常温下より大きくなる。
【0046】
図16に示したように、弁体31をベーン60に設けたとき、弁体31と弁座32との間には、隙間33が形成される。隙間33は、弁体31が弁座32に接近する方向へ移動することを可能にする。
【0047】
本実施例に係るロータリーダンパは、以下のように動作する。すなわち、常温(例えば、20℃)の下で、ロータ40の回転に伴って押圧部(ベーン60)が一方向(図15において時計回り方向)へ回動したときには、第1及び第3室71,73の粘性液体が押圧部に押圧されることにより、ベーン60に形成された溝20cを通じて流路20の大孔部20aに流れ込む。弁体31は、大孔部20aに流れ込んだ粘性液体の圧力を受けることにより、ばね34を圧縮しつつ弁座32に接近する方向へ移動する。このとき弁体31は、弁座32に当接するまで移動することはなく、弁座32との間に隙間を残した状態まで移動する。したがって、このときのばね34の変形により、粘性液体が流路20を通過できなくなることはないが、流路20を通過する粘性液体の流量が少量に制限されるため、押圧部に対する粘性液体の抵抗が発生する。その結果、ロータリーダンパは、所定の制動力を発揮する。
【0048】
低温(例えば、−30℃)の下で、ロータ40の回転に伴って押圧部(ベーン60)が一方向(図15において時計回り方向)へ回動したときには、第1及び第3室71,73の粘性液体が押圧部に押圧されることにより、流路20の大孔部20aに流れ込む。弁体31は、大孔部20aに流れ込んだ粘性液体の圧力を受けることにより、弁座32に接近する方向へ移動する。このときばね34は、初期の状態(図16参照)から僅かに変形するだけで、その変形量は、常温下より小さい。したがって、粘性液体が流路20を通過することができる。もっとも、ばね34の僅かな変形によって、流路20を通過する粘性液体の流量は、ばね34が全く変形しない場合と比較すると幾分減少する。常温下においては、ばね34が僅かに変形しただけでは、押圧部に対する粘性液体の抵抗が非常に小さくなるが、低温下においては、粘性液体の粘度が常温下に比べ格段に高くなるので、ばね34が僅かに変形しただけで、押圧部に対する粘性液体の抵抗が常温下における粘性液体の抵抗とほぼ同等になる。その結果、ロータリーダンパは、常温下とほぼ同等の制動力を発揮する。
【0049】
高温(例えば、80℃)の下で、ロータ40の回転に伴って押圧部(ベーン60)が一方向(図15において時計回り方向)へ回動したときには、第1及び第3室71,73の粘性液体が押圧部に押圧されることにより、流路20の大孔部20aに流れ込む。弁体31は、大孔部20aに流れ込んだ粘性液体の圧力を受けることにより、弁座32に接近する方向へ変形する。このときばね34は、初期の状態(図16参照)から大幅に変形し、その変形量は、常温下より大きい。弁体31は、弁座32に当接した状態まで移動するので、粘性液体が流路20を通過することができない。常温下においては、弁体31が流路20を閉鎖すると、押圧部に対する粘性液体の抵抗が大きくなるが、高温下においては、粘性液体の粘度が常温下に比べ低くなるので、弁体31が流路20を閉鎖しても、押圧部に対する粘性液体の抵抗は常温下における粘性液体の抵抗とほぼ同等になる。その結果、ロータリーダンパは、常温下とほぼ同等の制動力を発揮する。
【0050】
よって、本実施例に係るロータリーダンパも、実施例1の温度特性(図9参照)と同様な温度特性を得ることができる。
【0051】
なお、本実施例と同様に構成される流路20及び弁30を隔壁50に設けた場合にも、本実施例と同様な作用効果を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例1に係るロータリーダンパの内部構造を示す図である。
【図2】図1におけるA−A部断面図である。
【図3】図1におけるB−B部断面図である。
【図4】弁体を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。
【図5】図3におけるA部拡大図である。
【図6】常温下においてばね部が変形した状態を示す図である。
【図7】低温下においてばね部が変形した状態を示す図である。
【図8】高温下においてばね部が変形した状態を示す図である。
【図9】実施例1に係るロータリーダンパの温度特性を示すグラフである。
【図10】実施例2に係るロータリーダンパの要部を示す図である。
【図11】実施例3に係るロータリーダンパの内部構造を示す図である。
【図12】実施例4に係るロータリーダンパの内部構造を示す図である。
【図13】実施例4に係るロータリーダンパの要部を示す図である。
【図14】実施例5に係るロータリーダンパの内部構造を示す図である。
【図15】実施例6に係るロータリーダンパの内部構造を示す図である。
【図16】図15におけるA−A部断面図である。
【図17】従来のロータリーダンパの温度特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
10 ハウジング
11 本体部
12 蓋
20 流路
20a 大孔部
20b 小孔部
20c,20d 溝
30 弁
31 弁体
31c ばね部
32 弁座
33 隙間
34 ばね
40 ロータ
50 隔壁
60 ベーン
71 第1室
72 第2室
73 第3室
74 第4室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に充填された粘性液体を押圧する押圧部と、
該押圧部に押圧された粘性液体が通過可能な流路と、
該流路を通過する粘性液体の流量を温度に応じて調節する弁とを具備する
ことを特徴とするロータリーダンパ。
【請求項2】
前記弁が、変形可能なばね部を有する弁体を備え、
前記ばね部と弁座との間には、前記ばね部の変形を可能にする隙間を有し、
前記ばね部が前記隙間を小さくする方向へ変形したときの前記ばね部の変形量に応じて前記流路を通過する粘性液体の流量が調節され、
前記ばね部のばね定数が温度の変化に伴って変化する
ことを特徴とする請求項1に記載のロータリーダンパ。
【請求項3】
前記弁が、弁体と、該弁体が弁座から離れる方向に前記弁体を付勢するばねとを備え、
前記弁体が前記弁座に接近する方向へ移動したときの前記ばねの変形量に応じて前記流路を通過する粘性液体の流量が調節され、
前記ばねのばね定数が温度の変化に伴って変化する
ことを特徴とする請求項1に記載のロータリーダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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