説明

ロータ軸の支持構造

【課題】モータのロータ軸と駆動軸とのそれぞれを両端支持し、両軸をスプライン連結した場合でも、スプライン連結部における歯打ち音を低威することができるロータ軸の支持構造を提供する。
【解決手段】ロータ軸17の両端部52をそれぞれベアリング54で支持し、動力伝達用のギヤを備えた駆動軸18の両端部61をそれぞれベアリング63で支持し、ロータ軸17の端部52に内スプライン55を形成し、駆動軸18の端部61に外スプライン65を形成して、スプライン連結し、ロータ軸17の端部52と駆動軸18の端部61とのうちの、軸心C方向に沿って相互にオーバーラップする部分における、スプライン連結部A以外の部分に、全周にわたって弾性部材70を介装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータ軸とこのロータ軸から駆動力が伝達される他の軸とをスプライン連結し、ロータ軸及び他の軸のそれぞれの両端部をベアリングで支持したロータ軸の支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
モータにおいては、ステータとロータとの間隙を小さくして、ロータの回転効率を高めるために、ロータ軸を高い精度で支持することが必要である。このため、例えば、特許文献1では、モータのロータ軸の両端部をそれぞれベアリングで支持し、さらに、このロータ軸によって動力伝達される駆動軸の両端部をそれぞれベアリングで支持する構成が開示されている。
【0003】
この特許文献1においては、それぞれの両端部をベアリングで支持された両軸をスプライン連結している。すなわち、ロータ軸における駆動軸側の内周面にスプライン(内スプライン)を形成し、一方、駆動軸におけるロータ軸側の外周面にスプライン(外スプライン)を形成し、内スプラインに外スプラインを係合させることにより、両軸をスプライン連結している。
【0004】
これにより、両端部を高い精度で支持されたロータ軸の回転による駆動力が、外スプライン、内スプラインを介して、同じく両端部を高い精度で支持された駆動軸に確実に伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−89664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、スプライン連結においては、内スプラインと外スプラインとの間に、組み付け公差を許容できるだけの間隙を確保する必要があるため、両軸を完全に固定することは困難である。このため、例えば、加工精度や組立精度の問題で、両軸の軸心がずれているような場合には、特にモータの低速回転時に、一方の軸のスプラインの歯先面が、他方の軸のスプラインの歯底面に当たって発生する騒音、いわゆる歯打ち音が発生するおそれがある。すなわち、一般に、スプライン連結においては、回転によって一方のスプラインから他方のスプラインに動力が伝達される際に、両軸の軸心を合わせるような作用(調心作用)があるといわれているが、ロータ軸の低速回転時には、十分な調心作用が働かず、上述の歯打ち音が発生しやすい傾向にある。また、上記特許文献1では、駆動軸に一体成形されているギヤに噛合されているギヤから駆動軸に対して、その軸心をずらす方向の力が作用していて、このことも歯打ち音の発生の一因と考えられる。
【0007】
このような歯打ち音を防止するための対策としては、例えば、単純にスプライン連結をなくして、ロータ軸と駆動軸とを1本の長いロータ軸とし、このロータ軸の両端部をベアリングで支持することが考えられる。しかし、この場合には、支持スパン(両ベアリング間の距離)が長くなって、ロータ軸の支持精度が低下するため、ロータとステータとの間の間隙を大きくとることが必要となり、モータの性能を低下させる原因となる。また、長いロータ軸の支持精度を向上させるために、上述のロータ軸の両端部をベアリングで支持するのに加えて、さらに、ロータ軸の中央近傍に新たに設けることも考えられる。しかし、この場合には、ロータ軸を3点支持することになるため、ロータ軸の加工精度や、ベアリングを設ける部分の加工精度をさらに高めることが必要となり、加工コストの上昇につながる。
【0008】
そこで、本発明は、モータの性能を低下させることなく、また、加工コストの上昇も伴うことなく、スプライン間の歯打ち音を低減させることができるロータ軸の支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は(例えば、図1,図2参照)、モータ(12)のロータ軸(17)を支持する、ロータ軸(17)の支持構造(2)において、
前記ロータ軸(17)の両端部(51,52)をそれぞれベアリング(53,54)で支持し、
動力伝達用のギヤ(29)を備えた駆動軸(18)の両端部(61,62)をそれぞれベアリング(63,64)で支持し、
前記ロータ軸(17)の端部(52)と前記駆動軸(18)の端部(61)とのうちの一方と他方に、内スプライン(55)と外スプライン(65)とを前記ロータ軸(17)と前記駆動軸(18)との間の公差を許容できる大きさに形成して、前記内スプライン(55)と前記外スプライン(65)とをスプライン連結し、
前記ロータ軸(17)の端部(52)と前記駆動軸(18)の端部(61)とのうちの、軸心(C)方向に沿って相互にオーバーラップする部分における、前記スプライン連結部(A)以外の部分に、全周にわたって弾性部材(70)を介装した、
ことを特徴とするロータ軸(17)の支持構造(2)にある。
【0010】
請求項2に係る発明は(例えば、図2参照)、前記ロータ軸(17)の内周側に前記内スプライン(55)を形成し、
前記駆動軸(18)の外周側に前記外スプライン(65)を形成し、
前記内スプライン(55)の外周側に前記ロータ軸(17)の一端部(52)を支持する前記ベアリング(54)を配置した、
ことを特徴とする請求項1に記載のロータ軸(17)の支持構造(2)にある。
【0011】
請求項3に係る発明は(例えば、図2参照)、前記ロータ軸(17)の端部(52)を前記内スプライン(55)の端部(55a)よりもさらに軸方向に延長した延長部(52a)を設け、前記延長部(52a)における内周面に、前記内スプライン(55)の歯底面(55b)の内径(r2)以上の内径(r1)の弾性部材装着面(52b)を設けた、
ことを特徴とする請求項2に記載のロータ軸(17)の支持構造(2)にある。
【0012】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を用意にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によると、ロータ軸と駆動軸のそれぞれの両端部をベアリングで支持することで、両軸を高い精度で支持することができる。ロータ軸の端部と駆動軸の単部との相互にオーバーラップする部分における、スプライン連結部A以外の部分に、全周にわたって弾性部材を介装したので、内スプラインと外スプラインとをそれぞれの公差を許容できる大きさに形成した場合であっても、また、加工精度や組立精度の問題で、ロータ軸の軸心と駆動軸の軸心とが多少ずれた場合であっても、さらに、駆動軸の動力伝達用のギヤに噛合している相手ギヤから駆動軸の軸心をずらすような力が作用した場合であっても、上記弾性部材により、歯打ち音を低減することができる。
【0014】
請求項2に係る発明によると、ロータ軸の端部に内スプラインを形成し、駆動軸の端部に外スプラインを形成しているので、ロータ軸の端部の内スプラインから駆動軸の端部の外スプラインを介して動力が伝達される際に、外スプラインからの反力が内スプラインを介してロータ軸の端部を外側に拡開する方向に作用し、これをベアリングで受けることになるため、内スプラインと外スプラインとが逆に形成されている場合と比較して、ロータ軸の支持精度を高めることになる。ちなみに、内スプラインと外スプラインとが逆に形成されている場合には、動力伝達時にロータ軸の外スプラインには、駆動軸のうちスプラインからの反力により、ロータ軸の端部を内側に縮小する方向、つまりベアリングから離れる方向の力を受けることになる。
【0015】
請求項3に係る発明によると、内スプラインは、機械加工上の制約(例えば、工作機械としてのスロッタにより、内周面を、軸方向にカッタを移動させて切削することによる制約)により、一般に、軸の端部から設けられるところ、ロータ軸の端部を内スプラインの端部からさらに軸心にそって延長して、延長部を設けることで、弾性部材の介装(装着)が可能になる。さらに、延長部の内周面に設けた弾性部材装着面の内径を、内スプラインの歯底面の内径以上、すなわち内スプラインの歯底面の内径と同じあるいは内径よりも大きくすることにより、弾性部材装着面が機械加工時の妨げとなることがない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用し得るハイブリッド駆動装置の各軸を含む平面で切った断面図。
【図2】本発明に係るロータ軸の支持構造を説明する、ロータ軸を含む平面で切った断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1の実施の形態>
以下、本発明に係る第1の実施の形態を図1〜図2に沿って説明する。
【0018】
まず、図1を参照して、本発明を適用し得るハイブリッド駆動装置1の概略を説明する。同図に示すハイブリッドの駆動装置1は、FF(フロントエンジン、フロントドライブ)車用のものであり、駆動源として、エンジン(同図では、図中右上にエンジンのクランクシャフト11の後端を図示している。)とモータ12(図中左下)とを備え、さらに発電機13を備えている。
【0019】
また、ハイブリッド駆動装置1は、相互に平行に配設された4本の軸(第1軸〜第4軸)を有する4軸構成となっている。クランクシャフト11にドライブプレート14を介して連結された出力軸15と、モータ13のロータ軸16とが同軸上に配置されて、第1軸を構成している。また、第2軸は、モータ12のロータ軸17と、このロータ軸17に対して詳しくは後述するスプライン連結で連結されたモータ側ドライブギヤ(駆動軸)18とによって構成されている。なお、モータ12のステータ30は、ケース25に固定されている。第3軸は、図中第1軸と第2軸との間に配設されたカウンタシャフト20であり、このカウンタシャフト20は車輪に連結されている。そして、第4軸は、デファレンシャル装置21を介して車輪に連結されている。
【0020】
上記第1軸において、出力軸15とロータ軸16とは、シングルピニオンのプラネタリギヤ22を介して連結されている。出力軸15には、プラネタリギヤのキャリヤCが連結され、発電機13のロータ軸16には、サンギヤSが連結され、リングギヤRは、出力軸15に回転自在に支持されたエンジン側ドライブギヤ23に連結される。なお、発電機13のステータ26は、ケース25に固定されている。
【0021】
上記エンジン側ドライブギヤ23は、カウンタシャフト20に固定されたエンジン側カウンタドリブンギヤ27に噛合され、また、カウンタシャフト20に固定された別のモータ側ドリブンギヤ28が、上記モータ側ドライブギヤ18と一体のモータ側ドライブギヤ29(動力伝達用のギヤ)に噛合されている。
【0022】
上記ハブリッド駆動装置1は、プラネタリギヤ22に基づき、モータ12の出力のみの走行が可能であり、また、エンジンとモータ12との出力状態で、エンジン出力を駆動力と発電エネルギとに振り分ける割合を適宜調整しながらの走行が可能である。
【0023】
次に、図2を主に参照し、適宜図1を参照して、ロータ軸の支持構造2について詳述する。図1に示すように、モータ12のロータ軸17は、略円筒状に形成されていて、軸心方向(軸心Cに沿った方向)の一方の端部51、他方の端部52のそれぞれの外周面がベアリング53,54によって回転自在に支持されている。なお、これらベアリング53,54は、上記ケース25に固定されている。一方、このロータ軸17と同軸上に配置された駆動軸(モータ側ドライブギヤ)は、同じく略円筒状に形成されていて、軸心方向の一方の端部61、他方の端部62のそれぞれの外周面がベアリング63,64によって回転自在に支持されている。なお、これらベアリング63,64も、上記ベアリング53,54と同様、上記ケース25に固定されている。
【0024】
図2に示すように、ロータ軸17の端部52の内周側と駆動軸18の端部61側とは、スプライン連結部Aを介して連結されている。すなわち、ロータ軸17の端部52の内周面には、内スプライン55が形成され、一方、駆動軸18の端部61の外周面には外スプライン65が形成されていて、これら内スプライン55と外スプライン65とを係合させることで、両軸のオーバーラップされる部分にスプライン連結部Aが構成されている。上記ベアリング54、すなわちロータ軸17の他方の端部52を支持するベアリング54は、内スプライン55の外周側に配置されている。
【0025】
さらに、ロータ軸17の端部52には、延長部52aが設けられている。延長部52aは、端部52を、内スプライン55の外側の端部55aよりもさらに軸心Cに沿って延長外側するようにして設けられている。そして、この延長部52aの内周面は、弾性部材装着面52bを構成している。この弾性部材装着面52bの内径r1は、内スプライン55の歯底面55bの内径r2以上、すなわち、歯底面55bの内径r2と同じかこれよりも大きく設定されている。このように設定することにより、内スプライン55を機械加工する際にその妨げにならない。例えば、内スプライン55を機械加工する際には、スロッタ(不図示)等で加工することが考えられるが、このスロッタによる加工では、ロータ軸17を回転させながら、軸心Cに沿ってカッタを、内スプライン55の長さよりも長いストロークで移動させることで、切削を行う。このような加工において、弾性部材装着面52bが、内スプライン55の歯底面55bよりも内側に突出していると加工の邪魔になるおそれがある。
【0026】
この弾性部材装着面52bと、これに対面する駆動軸18の端部61の外周面61bとの間に、適宜な間隙Gを設け、さらにこの外周面61bに環状の溝61a設けて、この環状の溝61に環状の弾性部材70を全周にわたって装着する。ここで、適宜な間隙Gとは、環状の弾性部材70を径方向の押し潰した状態で装着し得る間隙であり、弾性部材装着面52bの半径と、駆動軸18の端部61の外周面61bの半径との差によって決定される。したがって、これらの半径を調整することで、間隙Gは適宜に調整し得る。
【0027】
上記弾性部材70は、本実施の形態では、エア圧や油圧の漏れを防止するためのものではなく、ロータ軸17と駆動軸18との間に介装して、両者の径方向の相対的な移動を抑制して、上記歯打ち音を低減させるものであるため、エア圧や油圧の漏れを防止するためのものよりも、硬いものであることが好ましい。
【0028】
以上説明した、本実施の形態に係る、ロータ軸の支持構造2によれば、ロータ軸17と駆動軸18のそれぞれをベアリング53,54,63,64による両端支持とすることにより、両軸を高い精度で支持することができ、しかも、両軸の間のスプライン連結部Aの近傍に、弾性部材を介装するといった、簡単な構成で、歯打ち音を低減することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 ハイブリッド駆動装置
2 ロータ軸の支持構造
12 モータ
17 ロータ軸
18 駆動軸
51,52 ロータ軸の両端部
52a 延長部
52b 弾性部材装着面
53,54 ベアリング
55 内スプライン
55b 歯底面
55a 内スプラインの端部
61,62 駆動軸の両端部
63,64 ベアリング
65 外スプライン
70 弾性部材
A スプライン連結部
C 軸心
r1 弾性部材装着面の内径
r2 歯底面の内径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータのロータ軸を支持する、ロータ軸の支持構造において、
前記ロータ軸の両端部をそれぞれベアリングで支持し、
動力伝達用のギヤを備えた駆動軸の両端部をそれぞれベアリングで支持し、
前記ロータ軸の端部と前記駆動軸の端部とのうちの一方と他方に、内スプラインと外スプラインとを前記ロータ軸と前記駆動軸との間の公差を許容できる大きさに形成して、前記内スプラインと前記外スプラインとをスプライン連結し、
前記ロータ軸の端部と前記駆動軸の端部とのうちの、軸心方向に沿って相互にオーバーラップする部分における、前記スプライン連結部以外の部分に、全周にわたって弾性部材を介装した、
ことを特徴とするロータ軸の支持構造。
【請求項2】
前記ロータ軸の内周側に前記内スプラインを形成し、
前記駆動軸の外周側に前記外スプラインを形成し、
前記内スプラインの外周側に前記ロータ軸の一端部を支持する前記ベアリングを配置した、
ことを特徴とする請求項1に記載のロータ軸の支持構造。
【請求項3】
前記ロータ軸の端部を前記内スプラインの端部よりもさらに軸方向に延長した延長部を設け、
前記延長部における内周面に、前記内スプラインの歯底面の内径以上の内径の弾性部材装着面を設けた、
ことを特徴とする請求項2に記載のロータ軸の支持構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−214646(P2011−214646A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82533(P2010−82533)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】