説明

ロータ部の製造方法

【課題】製造コストが抑制されモータの性能の低下も抑制するロータ部の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】外周部に複数の歯を有したロータ部の製造方法において、複数の歯を有したコア板を打ち抜き加工により形成する工程と、複数の前記コア板を重ね合わせて前記ロータ部を形成する工程と、外周面に凹凸が形成されていないローラダイスを用いて前記ロータ部を転造する工程と、を備えたロータ部の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータ部の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータに採用されるロータ部には、製造工程においてバリが形成される恐れがある。ロータ部にバリが形成されると、ロータ部のバリが固定子に接触して、ロータ部の回転に影響を与える恐れがある。
【0003】
特許文献1〜2には、このようなバリの対策に関する技術が開示されている。特許文献1の技術では、コア板を積層してロータ部を形成した後に歯先に研削仕上げをする。特許文献2の技術では、回転子コアの歯を埋設するように合成樹脂を塗布して硬化させ、硬化後に歯を樹脂組成物と共に切削又は研削加工を施す。また、おそらくコア板をプレス打ち抜きしただけでバリがほぼ無いロータ部も出回っているが、この技術に関する先行技術文献は見つからなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平06−060260号公報
【特許文献2】特公平05−046185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、ロータ部を研削加工するので、研削液が必要となり、廃液の処理や研削後のロータ部の洗浄処理等が必要となる。研削加工では、砥石を微小な速度でロータ部に切り込ませなければならず、加工時間を要する。従って、製造コストも増大する。
【0006】
特許文献2の技術では、合成樹脂を硬化させるために多くの工数が必要となり、時間も要する。このため製造コストが増大する恐れがある。
【0007】
プレス打ち抜き加工をしただけのロータ部は、歯にせん断面と破断面との段差が生じる。これにより、モータのトルクが低下する恐れがある。
【0008】
そこで本発明は、製造コストが抑制されモータの性能の低下も抑制するロータ部の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、外周部に複数の歯を有したロータ部の製造方法において、複数の歯を有したコア板を打ち抜き加工により形成する工程と、複数の前記コア板を重ね合わせて前記ロータ部を形成する工程と、外周面に凹凸が形成されていないローラダイスを用いて前記ロータ部を転造する工程と、を備えたロータ部の製造方法によって達成できる。
【0010】
転造することにより、切削液も不要であり、また合成樹脂の塗布も不要である。このため、短時間で加工することができ、製造コストが抑制される。また、外周面がフラットなローラダイスを用いてロータ部を転造することにより、ロータ部の歯の歯先面を平坦にすることができる。これにより、モータの性能の低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、製造コストが抑制されモータの性能の低下も抑制するロータ部の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、モータに採用される回転子の模式図である。
【図2】図2A、2Bは、転造を行なう前後でのロータ鉄心部の歯の説明図である。
【図3】図3A、3Bは、転造を行なう前後での本実施例とは構造が異なるロータ鉄心部の歯の説明図である。
【図4】図4は、本実施例のロータ鉄心部の製造方法に採用される転造装置の説明図である。
【図5】図5は、本実施例のロータ鉄心部の製造方法に採用される転造装置の説明図である。
【図6】図6A、6Bは、転造後のロータ鉄心部の歯の周辺を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、ハイブリッドステッピングモータに採用される回転子1の模式図である。回転子1は、ロータ鉄心部10、ロータ鉄心部10に貫通した軸12、を含む。ロータ鉄心部10は、軸12の方向に重ねられた複数のコア板により形成されている。コア板は、例えばケイ素鋼板等であるが、これに限定されず、磁束を通す素材であればよい。コア板は、プレス金型を用いた打ち抜き加工により形成される。ロータ鉄心部10の外周部には複数の歯14が形成されている。尚、ロータ鉄心部10は、軸12の方向に2つに分断されている。分断された間には、不図示のリング状の永久磁石が、軸12と同軸状に配置される。
【0014】
ここで、簡単に回転子1の製造方法について説明する。まず、プレス金型を用いて複数のコア板を形成する。このコア板には、外周部に歯が形成されている。コア板の歯が対応するように、複数のコア板を重ね合わせ一体化する。これにより、ロータ鉄心部10が形成される。次に、ロータ鉄心部10の孔に軸12を圧入する。次に、ロータ鉄心部10を転造する。ロータ鉄心部10の転造については詳しくは後述する。
【0015】
図2A、2Bは、転造を行なう前後でのロータ鉄心部10の歯14の説明図である。図2Aに示すように、一つの歯14は、歯先面14t、歯側面14sを有する。歯先面14tは、ロータ鉄心部10がモータに組み付けられた際に固定子に対向する面である。歯側面14sは、歯先面14tに連続している。歯先面14tと2つの歯側面14sとは、一つの歯14を画定している。歯先面14tと歯側面14sとの間の角部14rには、所定のアールが設けられている。ロータ鉄心部10を構成するコア板が形成された段階で、このようなアールが形成されている。即ち、コア板を形成する際の打ち抜き加工に使用されるプレス金型が、このようなアールが設けられた角部を有した歯が形成されるように設計されている。詳しくは後述するが、このようなコア板を積層して形成されたロータ鉄心部10を転造することにより、コア板に形成されたバリを除去できる。又、コア板に所定のアールが設けられていることにより、歯先面14tに突起が形成されることを抑制でき、歯先面14tを所望の面積にすることができる。
【0016】
ロータ鉄心部10の歯14の歯先面14tを転造により押圧する。ローラダイス55aは、ロータ鉄心部10を転造する際に用いられる。ローラダイス55aの外周面は、凹凸や歯が設けられていない。ロータ鉄心部10が転造されると、ロータ鉄心部10の外周部に生じていたバリが潰され、固定子と接触しないよう変形する。また、ロータ鉄心部10が転造されると、歯14にはロータ鉄心部10の径方向内側の力が作用して、歯先面14tは押圧される。これにより、図2Bに示すように、角部14rのアールの曲率半径が小さくなるように歯14が塑性変形する。これにより、歯先面14tの必要な面積を確保しつつ突起の発生が抑制される。
【0017】
次に、本実施例のロータ鉄心部10とは構造が異なるロータ鉄心部10xと比較して、本実施例のロータ鉄心部10について説明する。図3A、3Bは、転造を行なう前後での本実施例とは構造が異なるロータ鉄心部10xの歯14xの説明図である。図3Aに示すように、角部14rxでのアール曲率半径は、予め小さく設計されている。即ち、コア板を形成する際の打ち抜き加工に使用されるプレス金型が、このようなアールが小さい角部を有した歯が形成されるように設計されている。
【0018】
この状態で、歯先面14txを転造すると、歯先面14txにロータ部の径方向内側の力が作用して、歯先面14txが押圧される。これにより、図3Bに示すように、角部14rxから周方向に突起が発生する。このようなロータ部をモータに採用した場合は、歯先面14txの幅が設計されたものとは異なってしまいモータ特性に影響を与える恐れがある。
【0019】
図4、5は、本実施例のロータ部の製造方法に採用される転造装置50の説明図である。
転造装置50は、動力源51a、51b、回転軸52a、従動軸52b、無端ベルト53、軸受54a、54b、ローラダイス55a、55b、支持台56a、56bを含む。動力源51aには回転軸52aが連結されており、回転軸52aは動力源51aの動力により回転する。回転軸52a、従動軸52bは、それぞれ軸受54a、54bに回転可能に支持されている。回転軸52a、従動軸52bは、無端ベルト53により連動して同一方向に回転する。回転軸52a、従動軸52bのそれぞれの先端側には、ローラダイス55a、55bが固定されている。動力源51aが回転することにより、回転軸52a、従動軸52bが同一方向に回転し、これにより、ローラダイス55a、55bも同一方向に回転する。また、軸受54bは、従動軸52bの軸方向と垂直方向に移動可能である。具体的には、軸受54bは、従動軸52bの軸方向と垂直方向に延びた不図示のレールによりスライド可能に支持されている。尚、レール及び軸受54aは、不図示の台に固定されている。動力源51bは、軸受54bを従動軸52bの軸方向に垂直な方向、たとえば回転軸52aの方向に移動させる。動力源51bは、例えば、エアシリンダーや油圧シリンダである。
【0020】
動力源51a、51bは、コントローラ90により制御される。コントローラ90は、コンピュータであり、CPU、ROM、RAM等を内蔵している。ROMには、動力源51a、51bを制御するためのプログラムが格納されている。
【0021】
ローラダイス55a、55bとの間には、軸12を摺動回転可能に支持する支持台56a、56bが設けられている。これにより、回転子1は、支持台56a、56bにより回転可能に支持される。支持台56a、56bは、それぞれ略L字状である。図5に示すように、支持台56aは、鉛直方向に延びた支持面56a1と水平方向に延びた支持面56a2とを有している。支持面56a1と支持面56a2との間の角度は略90度である。支持台56bについても、支持台56aと同様の構造である。これにより、回転する軸12の一端は、支持面56a1と支持面56a2との2点で支持され、同様に、回転する軸12の他端も、支持台56bにより2点で支持される。即ち、軸12に対して、4点で支持されるので、ロータ鉄心部10の位置を安定して支持することができる。
【0022】
また、図5に示すように、ローラダイス55aの回転中心C1と、ローラダイス55bの回転中心C2と、軸12の回転中心とは、同一直線上にはない。換言すれば、回転中心C1および回転中心C2を通過する水平線L1と、軸12の回転中心通過する水平線L2とは、一致しない。わずかだがL1の方が高い位置にあり、水平線L1、L2との間の距離は、Dは、例えば0〜1mmであるが、これに限定されない。
【0023】
転造装置50を用いてロータ鉄心部10を転造する方法について説明する。支持台56a、56bにロータ鉄心部10の軸12を支持させる。次に、動力源51aを駆動させる。この状態では、ローラダイス55bはロータ鉄心部10から退避している。次に、動力源51bを駆動させて所定の圧力でローラダイス55bがロータ鉄心部10に当接するように軸受54bを移動させる。これにより、ロータ鉄心部10は、ローラダイス55a、55bに挟まれてローラダイス55a、55bに従動して回転する。これにより、ロータ鉄心部10には径方向内側の向きに力が作用する。このようにしてロータ鉄心部10が転造される。尚、動力源51bの圧力の大きさは、ロータ鉄心部10の歯14が潰れずに、また、歯14tが潰れて角部14rに突起が形成されない程度に設定されている。転造時間は、ロータ鉄心部10の大きさやローラダイス55aの回転速度にもよるが、約4〜7秒程度である。
【0024】
図6Aは、転造後のロータ鉄心部10の歯14tの周辺を示した写真である。尚、図6Aにおいて、水平方向が軸12の延びた方向である。歯14の歯先面14tが平坦に形成されていることがわかる。
【0025】
一方図6Bは、プレス打ち抜き加工しただけのロータ部の歯の周辺を示した写真である。ブレス痕が水平方向に生じていることがわかる。対して、本発明のように転造加工した場合は水平方向の加工跡が生じないという特徴がある。なお、プレス打ち抜き加工後に研磨加工により破断面まで研磨する場合は研磨痕が垂直方向に生じてしまい、本発明のように加工跡が生じないということは無い。
【0026】
このように、本実施例のロータ鉄心部10の製造方法では、転造という塑性変形を利用してロータ鉄心部10を形成するため、切削液も不要であり、また合成樹脂の塗布も不要である。このため、短時間で加工することができ、製造コストが抑制される。また、外周面に凹凸が形成されていないローラダイスを用いてロータ鉄心部10を転造することにより、ロータ鉄心部10の歯14の歯先面14tを平坦にすることができる。これにより、モータの性能の低下を抑制できる。
【0027】
また、ローラダイス55a、55bに従動してロータ鉄心部10が回転するので、ロータ鉄心部10のみを単独で回転させる機構は不要である。また、支持台56a、56bは、ロータ鉄心部10の軸12を摺動回転可能に支持するので、ロータ鉄心部10が偏心して回転することが抑制される。これにより、転造後での歯14の寸法精度を確保できる。
【0028】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、変形・変更が可能である。
【0029】
ロータ部は、上記実施例と異なる構造を有したものでもよく、外周部に歯が有した金属製のものであればよい。
【0030】
転造加工する際に、ロータ部は、回転軸を有していないものであってもよい。例えば、ロータを収納するケースに固定軸が設けられ、この固定軸にロータ部が回転可能に支持されるものであってもよい。この場合、ロータ部を転造する際には、ロータ部の孔に金属製の軸を挿入した上で、ロータ部を転造する。転造後には、ロータ部から軸を引き抜く。
【0031】
尚、上記実施例において、略L字状の支持台56a、56bを用いたが、略V字状の支持台を用いて回転子1の軸12を支持してもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 回転子
10 ロータ鉄心部
12 軸
14 歯
14r 角部
14s 歯側面
14t 歯先面
50 転造装置
51a、51b 動力源
52a 回転軸
52b 従動軸
53 無端ベルト
54a、54b 軸受
55a、55b ローラダイス
56a、56b 支持台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周部に複数の歯を有したロータ部の製造方法において、
複数の歯を有したコア板を打ち抜き加工により形成する工程と、
複数の前記コア板を重ね合わせて前記ロータ部を形成する工程と、
外周面に凹凸が形成されていないローラダイスを用いて前記ロータ部を転造する工程と、を備えたロータ部の製造方法。
【請求項2】
前記コア板は、歯先面と歯側面との間の角部にアールが設けられている、請求項1のロータ部の製造方法。
【請求項3】
前記ロータ部に設けられた軸を摺動回転可能に支持する支持台に支持させて前記ロータ部を転造する、ことを特徴とする請求項1又は2のロータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−86234(P2012−86234A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233770(P2010−233770)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000106944)シナノケンシ株式会社 (316)
【Fターム(参考)】