説明

ロードセルおよびそれを用いる重量測定装置

【課題】出力荷重信号もしくはデジタル出力信号が異常状態となる前に異常予知警報信号を出力することができるようにする。
【解決手段】起歪部上のストレインゲージ貼付部を外部から遮断された気密室内に配し、この気密室の一側を塞ぐ気密端子によってストレインゲージブリッジへの電源の供給と該ストレインゲージブリッジからの荷重信号の取り出しとを行うようにしたものにおいて、気密端子に、荷重信号出力用の導通ピン9a,9bと、電源供給用の導通ピン9c,9dまたはロードセル本体との間の絶縁抵抗値が低下したことを検知して警報信号を出力するための絶縁抵抗低下検知用の導通ピン9eを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、起歪部の上にストレインゲージを貼付し、負荷荷重の大小に応じて起歪部に発生する応力歪みをストレインゲージの抵抗値変化によって検出し、この抵抗値変化を電圧信号に変換して出力する方式のロードセルとそのロードセルを用いる重量測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ロードセルは、図7に示されるように、荷重を受けることによって伸縮歪みを起こす起歪体の上に貼付したストレインゲージG,G,G,Gをブリッジ回路に接続し、荷重に比例した電圧信号変化を取り出すように構成されている。図7において、ブリッジ回路の両端に加わる電圧をeとし、ストレインゲージG,G,G,Gの抵抗値をそれぞれrg,rg,rg,rgとすると、出力電圧信号eは次式(1)で表される。
={(rg・rg−rg・rg)/(rg+rg)・(rg+rg)}・e ・・・・・(1)
【0003】
ここで、起歪体は、負荷荷重に対する歪み量の関係(ヤング率)が温度変化によって変化するため、このヤング率の温度変化によって荷重出力信号のスパンが変化しないように回路中に温度補償抵抗C,Cが接続されている。また、ストレインゲージ(以下、単に「ゲージ」と称する。)G,G,G,Gの抵抗値としては、数100オームから数Kオーム程度のものが一般に用いられている。
【0004】
しかし、ゲージ周辺に耐湿保護を施さなければ、やがてゲージ表面や、ゲージから取り出された配線や、配線が接続される端子が結露することによって湿気を帯び、ゲージ抵抗そのものが負荷荷重以外の要因で変化したり、ゲージ端子間の絶縁抵抗およびゲージ端子と起歪体の絶縁抵抗が低下し、結果としてゲージ間やゲージと電源との間に低い抵抗が等価的に並列接続される形になって、ロードセル荷重信号としてのスパンや零点が変化する現象が生じることになる。
【0005】
ゲージ端子間の絶縁抵抗は乾燥時に数1000Mオームある。この場合、抵抗R〜Rの値が上述の要因によって数100Kオーム以下に低下すると、実質的に式(1)に基づいて得られる出力電圧信号eは、荷重の増減に関係なく、言い換えれば起歪体の機械的伸縮歪みに関係なく、要求された精度に影響を受けるレベルに変化してしまう。
【0006】
このようなことから、ロードセルにとってゲージおよび周辺回路の耐湿対策は重要であり、従来からロードセルの形式、使用環境に応じて種々の対策が取られてきている。
【0007】
例えば図8(a)に示されるロバーバル形ロードセルでは、起歪体50における起歪部51のゲージ貼付部が大気に露出していて、貼付されるゲージ52が極めて外気の影響を受け易いので、ゲージ52の上にシリコン樹脂やブチルゴムなどの物質53を塗布もしくはコーティングすることにより防湿対策が施されている。
【0008】
また、特許文献1に記載のロードセルにおいては、図8(b)に示されるように、弾性体よりなる起歪部60内面のゲージ61が外気に露出しないように、弾性体内側の内空部62にシリコン樹脂などの防湿剤63を充填し、固化するようにされている。この方法は、防湿剤63の厚みを大きくする必要があり、この防湿剤63の特性が負荷荷重に対する起歪部60の歪み特性に影響を及ぼすため、数100kg以上の比較的大容量のロードセルのみに適用可能な方法である。つまり、ロードセルの容量が大きいほど、防湿剤63を構成する樹脂の剛性による荷重信号への影響が小さくなるため、樹脂を厚く充填することができるのである。
【0009】
しかしながら、図8(b)に示されるような防湿対策を施した場合でも、シリコン樹脂などの樹脂系材料は本来が多孔質であって通気性を有するため、ロードセル本体が多湿な環境に置かれると、徐々に水蒸気が内部に浸透してゲージ61やゲージ61と配線64との接続部に到達し、気温の高低サイクルによって水蒸気が水分に変化し、徐々に端子間の絶縁抵抗を低下させるという問題点がある。しかも、一旦内部に浸透した水蒸気が水分に変換されると外部へは容易に排出されない。
【0010】
ところで、上記特許文献1に記載のロードセルでは、荷重信号の耐ノイズ性向上のために、シリコン樹脂に覆われた内部に、ノイズ耐性を高める目的でゲージの近傍に演算増幅器を設け、この演算増幅器の入力端にゲージの荷重信号出力端子を接続して演算増幅器の出力端から増幅後の荷重信号を取り出す工夫がなされているが、演算増幅器の入力端におけるゲージ周辺の湿気滞在によってその入力端の電圧信号が変動するため、出力側の荷重信号は零点、スパン、温度補償効果の長期ドリフト的変化を起こすだけでなく、短時間の使用中にもふらつき現象が生じて、正しく安定した重量測定値が得られない事態が生じてしまう。したがって、この従来技術では、耐湿性向上の課題の解決に至っていないのが実情である。
【0011】
【特許文献1】特開2005−140646号公報
【0012】
このようなことから、トラックスケールや軸重計など、ロードセルが外気に晒され、大雨時には水没する可能性があったり、温度高低変化の激しい道路面直下の劣悪な環境に置かれる計量装置に使用されるロードセルの耐湿性向上対策としては、結局、コストはかかるが、図8(c)および図9(a)〜(c)に示されるような構造が取られている。すなわち、ロードセル本体70の内空室(気密室)71の下部に金属蓋72を溶接し、気密端子73として、電気信号導通ピン74(74a〜74d)を埋め込んだ気体封止板84を支持する金属製外枠85外周の接触部86を金属製弾性体よりなるロードセル本体70の側面に溶接またはハンダ接合することによって外部からの気体の流入を完全遮断するようにしている。なお、図9(c)において、気密端子73の左方が気密室71側、右方が配線接続室78側である。
【0013】
さらに、ロードセル本体70の気密室71の外殻ケースには小径の気体注入孔(図示せず)を設け、この気体注入孔から窒素ガスを注入して気密室71内の空気と置換させ、窒素ガス注入後にその気体注入孔を溶接で埋めて、外気遮断性を保つ対策も取られている。なお、窒素ガスには水蒸気が含まれていないので、外気温が下がっても気密室71内に気体による結露が生じない。
【0014】
上述のような構成にすることによって、ロードセル本体70の気密室71は完全に外気から遮断され、しかも該気密室71内には乾燥した窒素ガスが封入されているため、ロードセルの外気温度が高低に変化しても、気密室71内で結露が生じる事態はなく、ゲージ79と起歪体(ロードセル本体70)との間、気密室71内の端子間には常に高い絶縁性が維持される。
【0015】
しかしながら、図8(c)に示されるロードセルには、以下に説明するように湿気に関する弱点がある。すなわち、気密端子73のロードセル外側の配線接続室78は、シリコン樹脂80が充填されているものの、配線ケーブル81の片側は外気に開放されており、この配線ケーブル81内の僅かな空間によって外気に通じている。また、配線ケーブル81内には僅かに空気が含まれている。シリコン樹脂80には通気性があるので、ロードセルが高低温度変化が大きい環境に設置されている場合には、配線接続室78内の空気や配線ケーブル81内の空気が周囲の温度高低変化によって膨張、圧縮を繰り返し、長時間使用によって配線接続室78内へ徐々に水蒸気を含んだ空気が入ることになる。こうして配線接続室78内に入った水蒸気は外気温の低下によって水分に変わる。これによって配線接続室78側の電気信号導通ピン74間の絶縁抵抗が徐々に低下し、図7に示されるゲージ端子間絶縁抵抗R〜Rの値が数100Kオームのオーダーを下回る値に低下し、長期的には数100オーム以下に下がる場合もある。
【0016】
また、ロードセル本体70と配線ケーブル81とを接続する接続金具82(図8(c)参照)に関して、配線ケーブル81と接続金具82とは通常、ゴム材の融着によってシールされているが、このゴム材も完全な通気遮断性を有しておらず、またロードセル本体70と接続金具82とを接続するねじ部83も完全な通気遮断性を有していないなど、配線接続室78に対し水蒸気を含む空気が侵入する要因は多い。
【0017】
したがって、図8(b)のものに比べて完全防湿対策ロードセルとして優れている図8(c)のものも、完全気密室の構成を取っているとはいえ、結局は長期の使用において、気密端子外部側の絶縁不良による荷重信号変動トラブルの発生を避けることができないという問題点がある。
【0018】
また、重量測定装置の使用中において、荷重信号は被計量物の重量の大小によって様々な値を取り得る。特に絶縁抵抗の低下によるスパンのドリフトについては、稼働運転を中断して繰り返し既知の重量負荷を与えるなど特別な検査条件と作業者による判断を必要とする。また、荷重信号に異常が現れない間に絶縁抵抗の低下を判定するには、通常使用の段階から繰り返し継続的に零点ドリフトやスパンドリフト検査が必要であり、手間がかかるという問題点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、前述のような問題点に鑑みてなされたもので、出力荷重信号もしくはデジタル出力信号が異常状態となる前に異常予知警報信号を出力することのできるロードセルとそのロードセルを用いる重量測定装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明では、完全気密室を備え、この完全気密室内にストレインゲージ貼付部を収容したロードセルにおいて、気密端子の外側に湿気が侵入することにより、荷重信号出力用の導通ピンと、電源供給用の導通ピンまたはロードセル本体との間で絶縁抵抗が低下することによって、荷重信号がその影響を受け、荷重信号に要求される精度以上のスパン、あるいは零点変動を起こすまでに、絶縁抵抗低下による異常予知信号を作るための導通ピンを気密端子上に設けることにより上記課題を達成したものである。
【0021】
要するに、第1発明によるロードセルは、ロードセル本体における起歪部上のストレインゲージ貼付部が外部から遮断された気密室内に配され、この気密室の一側を塞ぐ気密端子によってストレインゲージブリッジへの電源の供給と該ストレインゲージブリッジからの荷重信号の取り出しとが行われるロードセルにおいて、前記気密端子に、前記荷重信号出力用の導通ピンと、電源供給用の導通ピンまたは前記ロードセル本体との間の絶縁抵抗値が低下したことを検知して警報信号を出力するための絶縁抵抗低下検知用の導通ピンを設けることを特徴とするものである。
【0022】
本発明をデジタルロードセルに用いる場合には、前記気密室内に、前記荷重信号をデジタル信号化するA/D変換回路と演算回路とが設けられ、この演算回路を介してデジタル荷重信号が出力されるデジタルロードセルであって、
前記絶縁抵抗低下検知用の導通ピンの絶縁抵抗値が異常に低下したことを検知する異常判定用測定回路が設けられるのが好ましい(第2発明)。
【0023】
前記第2発明において、絶縁抵抗値が低下したことを検知して出力される警報信号は、前記デジタル荷重信号と共に出力されるのが好ましい(第3発明)。
【0024】
また、前記各発明において、前記警報信号は、荷重信号の異常予知警報信号として利用されるのが良い(第4発明)。
【0025】
また、第5発明による重量測定装置は、
前記第1発明〜第4発明のいずれかのロードセルと、このロードセルから出力される警報信号を表示する表示手段を有する制御装置とを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ロードセル本体の気密室における気密端子の外側の室に水蒸気の形で湿気が侵入することによって、荷重信号出力用の導通ピンと、電源供給用の導通ピンまたはロードセル本体との間で絶縁抵抗が低下しても、絶縁抵抗低下検知用の導通ピンにより荷重信号が異常となる前に異常予知警報信号を出力することができ、作業者にロードセルの点検、交換を適正に指示することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に、本発明によるロードセルおよびそれを用いる重量測定装置の具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0028】
図1には、本発明の一実施形態に係るロードセルの縦断面図が示され、図2には、本実施形態のロードセルを用いる重量測定装置の回路構成図が示されている。また、図3には、気密端子の詳細構造が示されている。
【0029】
本実施形態のロードセル1は、内空部(気密室)3を有する全体として円盤形状の金属製弾性体よりなるロードセル本体(起歪体)2を備え、このロードセル本体2の上面側中央部に荷重導入部4が突出形成されて構成されている。荷重導入部4の外周側であって、ロードセル本体2の外表面と内表面との間には薄肉の円板状または円環状をなす起歪部5が設けられ、この起歪部5の応力の極大または極小となる部分にはストレインゲージ(以下、単に「ゲージ」と称する。)G,G,G,Gが貼付されている。
【0030】
ゲージG〜Gはストレインゲージブリッジ回路(図2参照)を形成しており、その端子はリード線6によって気密室3内に配される回路基板7の端子に接続されている。また、回路基板7の端子は、ロードセル本体2の一側の開口を塞ぐ気密端子8の電気信号導通ピン9(9a,9b,9c,9d,9e)に接続され、この電気信号導通ピン(以下、単に「ピン」という。)9は配線ケーブル10の心線に接続されている。また、ロードセル本体2と配線ケーブル10とは接続金具11によって固定されている。この接続金具11は、一端がロードセル本体2に穿設された開口部に挿入されてねじ部12により固定され、他端に配線ケーブル10が挿通固定され、一端部側に配線接続室13が区画形成されるとともに、配線ケーブル10の心線の周りがシリコン樹脂14で固定されて構成されている。また、配線ケーブル10の接続金具11への挿入部の気密性を保つため、クロロプレンゴム10´によって融着被覆している。
【0031】
前記ロードセル本体2の気密室3の開口側である下端側には金属蓋(金属製ダイヤフラム)15が溶接されて内部が密閉されている。また、外気温の低下による気密室3内の結露を防止するために、ロードセル本体2に気体注入孔2´が設けられ、この気体注入孔2´から窒素ガス等の水蒸気を含まない気体が注入されて空気と置換される。あるいはシリカゲル等の吸湿剤を封入するなどの対策が取られる。
【0032】
この気密室3内には、図2に示される構成のロードセル回路20が内蔵されている。そして、このロードセル回路20に接続されるように、重量測定装置の制御装置25が設けられている。
【0033】
気密端子8においては、従来の荷重信号用のピン9a,9bおよび電源電圧用のピン9c,9dに加え、絶縁抵抗異常検出用のピン9eが設けられている。ここで、気密端子8は、図3(a)(b)に示されるように、ピン9a〜9eを埋め込んだ気体封止板17を、高絶縁性を有し、完全に通気性のないガラス、セラミックなどの材料で成形し、この気体封止板17を支持する金属製外枠18外周の接触部19を金属製弾性体よりなるロードセル本体2の側面に溶接またはハンダ接合(図3(c)参照)することによって外部からの気体の流入を完全遮断するように構成されている。
【0034】
絶縁抵抗異常検出用のピン9eの気密室3側は、抵抗r,rによって電圧V,−Vをそれぞれ分圧する点kに接続される。配線接続室13側に湿気が侵入して抜けなくなると、次第に各ピン9a〜9d間および各ピン9a〜9dと気密端子8の金属製外枠18との間の絶縁抵抗が低下してくる。点kの電圧は、この絶縁抵抗値の異常低下を検出する異常検知信号である。本実施形態のロードセル1は、絶縁抵抗異常検出用のピン9eにて、荷重信号の変動の仕様上の許容範囲内における絶縁抵抗の異常な低下を検知することによって、荷重信号の異常を予知する機能が発揮されるようになっている。
【0035】
図2に示されるように、重量測定装置の制御装置25において、電源回路POWからはV=5V,−V=−5Vの電源がロードセル回路20の電源電圧用のピン9c,9dにそれぞれ供給される。また、ロードセル回路20の荷重信号用のピン9a,9bから出力される荷重信号は制御装置25の演算増幅器A1,A2にそれぞれ入力される。これら演算増幅器A1,A2および演算増幅器A3、更には抵抗r〜rによって、入力される荷重信号に対する差動増幅回路が構成されている。
【0036】
一方、点kの絶縁抵抗の異常検知信号はピン9eを通して、制御装置25の演算増幅器A4と抵抗r〜rからなる増幅回路に入力される。ここで、抵抗rは、抵抗r,rに比べ、十分大きい値のものを選択する。なお、この増幅回路はボルテージフォロワの構成であっても良い。
【0037】
演算増幅器A3から出力された荷重信号はアナログスイッチASを通してアナログ・デジタル変換機A/Dに供給され、また演算増幅器A4から出力された異常検知信号はアナログスイッチASを通してアナログ・デジタル変換機A/Dに供給される。これらアナログスイッチAS,ASをON,OFFするゲート信号AG,AGは入出力回路I/Oから出力され、この入出力回路I/Oは、メモリMに記憶されたプログラムに基づき演算処理装置CPUからの命令によって制御される。なお、入出力回路I/OにはキースイッチKEYおよび表示装置DISが付設される。
【0038】
ところで、図7に示されるようなゲージブリッジ回路において、ゲージ抵抗値が350オーム、温度補償抵抗C,Cが数10オームであった場合に、電源Vと片方の荷重信号出力端子pとの間の絶縁抵抗が気密端子の配線接続室側の湿気で低下して数100Kオーム台になると、出力に約1/1000の影響が及ぶことになる。この絶縁抵抗は、計量精度1/3000の重量測定装置の場合には少なくとも数Mオーム程度以上を維持することが必要である。
【0039】
そこで、本実施形態のロードセル1では、従来のピン9a〜9dに加え、絶縁抵抗の低下を検知するピン9eが設けられた気密端子8を用いている。いま、V=5V,−V=−5Vの電源がロードセル回路20の電源電圧用のピン9c,9dに供給されているとし、抵抗r,r=1Kオームとすると、点kの電圧ekはほぼ電源電圧のコモンレベル、すなわち0に等しい。そして、配線接続室13側が乾燥状態にあれば常にek≒0の値を保つ。なお、抵抗r,rは、温度変化に対して同じ割合で同じ方向に変化する性質を持つものを使用するのが好ましい。
【0040】
ところが、配線接続室13側に湿気が侵入して抜けなくなると、次第に各ピン9a〜9d間および各ピン9a〜9dと気密端子8の金属製外枠18との間の絶縁抵抗が低下してくる。最初、乾燥状態ではピン間の絶縁抵抗値は数1000Mオームのレベルが通常値である。したがって、抵抗r,rの両端の絶縁抵抗値をそれぞれR,Rとすると、R≠Rであっても双方が100Mオームのオーダーであればr,rへの影響は10/10=1/10程度であるから、極端にRおよびRの値に差ができたとしても、仮にRの絶縁抵抗値のみが100Mオームになったとしても、点kの電位ekのコモンレベルからの動きは僅か(1/10程度)である。配線接続室13側の絶縁抵抗の低下を検知するピン9eの絶縁抵抗値の低下がこの程度であれば、周辺に配置されている標準のピン間の状況もほぼ同一とみなせるので、荷重信号は影響を受けていないと考えることができる。
【0041】
しかし、絶縁抵抗が1Mオームのオーダーに下がると、1Kオームに対して1/1000の影響が現れるので、重量測定装置の計量精度が1/3000であれば問題になる。つまり、ピン9eの絶縁抵抗値が1Mオームの値付近に下がっていれば、荷重信号用のピン9a,9bの絶縁抵抗値もほぼ同じ状況であって、荷重信号が精度の上で大きく影響を受けていると考えることができる。
【0042】
したがって、点kの電圧レベルekの調整時点の値を記憶しておき、重量測定値の作動中に時折自動検出するようにし、このekの値が記憶値(初期値)より大小いずれかの方向に1/10000より大きく変化すれば、荷重信号端子の絶縁抵抗も同レベルに低下していると見て、やがて荷重信号も許容誤差を超える変化が起きると予測することができる。
【0043】
=5V,−V=−5Vの電源が供給されている場合には、点kの電圧レベルekの許容変動幅電圧(異常判定境界値)Ehを、
Eh=5×1/10000(V)=±0.5mV
と設定する。そして、ekの値が記憶値より大小いずれかの方向にEh以上の値に変化すれば異常予知警報を出力するようにする。この異常予知警報が出力された時点でロードセルを交換すれば計量作業に実害が出ることはない。なお、絶縁抵抗R,Rが常に同じ値で変動すれば、いくら抵抗値が低下しても点kの電圧値が変動しないことになり異常検出が不可能になるが、湿気は一様ではなく、常に変化しているので、仮に短期間ではバランスが取れた状態にあってもすぐにそれぞれ異なった値に変化して、点kの電圧変動となって現れる。
【0044】
以上の考察に基づき、図2において、まず、重量測定装置の据え付け時点のロードセルの正常な状態で、点kの電圧値をA/D変換し、その値を基準値ek0として、キースイッチKEYからの操作指令によってメモリMの中の不揮発性メモリに記憶させる。また、異常判定境界値Ehについても、キースイッチKEYより不揮発性メモリを含むメモリMに設定、記憶させる。
【0045】
そして、重量測定装置の稼働運転中に所定のタイミング毎にアナログスイッチASをONにして点kの電圧をA/D変換して継続的に異常予知信号のデジタル値ekxを読み込み、このekxの値とek0−Ehおよびek0+Ehの値の大小を比較する。この比較の結果、ekxが次式
ek0−Eh<ekx<ek0+Eh
を満足していれば絶縁抵抗値は正常であると判定する。また、この式を満足していなければ、絶縁抵抗値がまもなく荷重信号を異常にする直前まで低下していると判定し、荷重信号の異常予知警報を表示装置DISに表示して作業者にロードセルの点検、交換を指示する。ここで、表示の方法としては、例えばロードセルの番号と異常警報の内容とを音声等で表示するなどのマン・マシンインターフェイス手段を用いる方法がある。
【0046】
以上のようにして、重量測定値の要求精度に合わせて抵抗r,rの値および異常判定境界値Ehを決定することによって、異常予知の余裕レベルを調整し、荷重信号が正常な間に異常予知を行うことが可能となる。
【0047】
本実施形態において、ロードセルの絶縁抵抗値は急激に変動する性質のものではないので、荷重信号に比べて、単位時間当たりのA/D変換回数の割り当ては少なくて良く、またA/D変換時間も短くて良い。なお、A/D変換器を2個設けて、荷重信号と異常検知信号とを個別にA/D変換するようにしても良い。
【0048】
また、本実施形態において、絶縁抵抗異常検出用のピン9eの配置は図3に示される配置に限る必要はなく、他のピンと入れ替わった位置に設けることもできる。
【0049】
図4には、本発明の他の実施形態として、デジタル荷重信号を出力するデジタルロードセルを備える重量測定装置に適用した例が示されている。この重量測定装置は、デジタルロードセル回路20Aと、そのデジタルロードセル回路20Aから出力されるデジタル荷重信号を表示する重量測定装置の制御装置25Aとからなっている。
【0050】
本実施形態のデジタルロードセル回路20Aにおいては、ゲージブリッジ回路から出力される荷重信号をA/D変換してデジタル信号に変換するA/D変換回路と演算回路(符号21にて示す)とがゲージブリッジ回路と共に完全気密室に内蔵されている。演算回路から入出力される端子はRS485などで規定されるデジタルICの入出力端子である。導通ピン9aは、デジタルロードセル回路20Aからの荷重信号を出力するが、操作用の命令を外部からデジタルロードセル回路20A内の演算回路へ与える場合もあるので、双方向のデータバスになっている。
【0051】
このようなデジタルロードセルにおいても、湿気がロードセル外側の配線接続室側に蓄積すると、次第に絶縁抵抗が低下し、数100オームオーダーの極めて小さい値に達してしまうことがある。例えば−V端子との間の絶縁抵抗値が極めて低くなると、デジタル信号といえども伝達信号内容通りの「1」または「0」の電圧が出力されない事態になる。また、入力されるデジタル信号の「1」または「0」が正確に判別できないことがある。
【0052】
そこで、完全気密室内に異常判定用測定回路22が設けられる。この異常判定用測定回路22は、r=100オーム程度の低い抵抗値の抵抗を、片方をコモンCOMに、もう片方をピン9eに出力するとともに、抵抗rに対して十分大きい抵抗値(例えば100Kオーム)を持つ抵抗rに接続し演算増幅器A4に入力するように構成されている。
【0053】
このような構成において、ピン9eと他の端子の間の絶縁抵抗値が大きい間は演算増幅器A4の出力はコモンレベルである0に近い値になる。しかし、抵抗rに対して、例えばピン9eと電源Vや−Vが供給されるピン9c,9dとの間の絶縁抵抗値が極めて低くなれば(例えばV=5Vあるいは−V=−5Vとの間が数100オームになれば)、ピン9eの電位がVや−Vの方向に移動し、演算増幅器A4の出力は正負いずれかの方向に増加することになる。このため、デジタル入出力素子が異常を起こさない範囲の電圧変化レベルに対応する異常判定境界値Ehを設定し、異常レベルを検知すると、絶縁抵抗の異常検知信号あるいは荷重出力信号の異常予知信号としてコード化し、デジタル荷重出力信号に加えて制御装置25A側へ送信するようにし、制御装置25A側で異常検知または予知の内容を表示するようにすることで、前記実施形態と同様、荷重信号が正常な間に異常予知を行うことが可能となる。
【0054】
図5には、本発明が適用される前記実施形態とは異なるタイプのロードセルが示されている。
【0055】
このロードセル30は、通常の平行四辺形ロードセルと同様、金属製弾性体よりなるロードセル本体31の上下2か所ずつに円形孔32を設けるとともに、薄肉梁部を形成して、負荷荷重を加えることによって該薄肉梁部に伸縮曲げ歪みを生じさせ、さらに4個の円形孔32間の中央に大きな円形孔33を設け、円形孔33と円形孔32との間に4か所の薄肉起歪部を形成し、これら薄肉起歪部にゲージG,G,G,Gをそれぞれ貼付することによって、これら薄肉起歪部に生じる歪み応力を検出するように構成されている。
【0056】
円形孔33の内周面には、ゲージG〜Gが外気に露出しないようにするために、また荷重検出用起歪部の歪みに対して抵抗力を発生させないようにするために、図5(b)に示されるようなフランジ付き円筒シール部材34が溶着される。なお、負荷容量の大きいロードセルの場合には、円形孔33に円板状の金属蓋を溶接して完全気密室を形成することもある。
【0057】
ゲージ配線は、ロードセル本体内に形成された配線孔35を通して表面から円筒状に加工された配線接続孔36に導かれ、気密端子37のピンから配線された導電線と配線接続孔36の中で接続される。また、配線接続孔36内にプリント基板を設置して負帰還演算増幅回路部品38が配されて負帰還増幅回路が形成される。また、配線接続孔36は図5(c)に示されるような金属蓋39で外気からシールされる。こうして、ゲージG〜Gが貼付された空間、配線孔35および配線接続孔36が完全に通気遮断性(完全気密性)を確保している。また、ロードセル本体31には窒素ガス注入孔31´が設けられ、この窒素ガス注入孔31´から窒素ガスを注入した後、この窒素ガス注入孔31´は溶接にて封止される。
【0058】
図6には、更に別のタイプのロードセルが示されている。
【0059】
このロードセル40は、柱型の起歪体41を備え、圧縮型起歪体のゲージ貼付部周辺の空間が金属ケース43によって完全に覆われ、外気を遮断した気密室42が形成され、その気密室42内に負帰還増幅回路部品44が配置された構成とされている。なお、図にはその詳細が示されていないが、気密室内の配線を気密端子のピンによって外部配線と接続する配線接続室45が設けられている。また、金属ケース43の内部と外部の配線接続部間は完全通気遮断性を有する気密端子によって仕切られている。
【0060】
このほかに、本発明は、弾性体の起歪部がせん断応力を検出する構造を持つロードセルに対しても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態に係るロードセルの縦断面図
【図2】本実施形態のロードセルを用いる重量測定装置の回路構成図
【図3】気密端子の詳細構造を示す図
【図4】本発明の他の実施形態のロードセルを用いる重量測定装置の回路構成図
【図5】別タイプのロードセルへの適用例を示す図
【図6】さらに別タイプのロードセルへの適用例を示す図
【図7】一般的なロードセルの荷重検出回路説明図
【図8】従来の耐湿対策を施したロードセルの例を示す図
【図9】従来の気密端子の詳細構造を示す図
【符号の説明】
【0062】
1 ロードセル
2 ロードセル本体(起歪体)
2´ 気体注入孔
3 内空部(気密室)
4 荷重導入部
5 起歪部
6 リード線
7 回路基板
8 気密端子
9a〜9d 電気信号導通ピン
9e 絶縁抵抗異常検出用導通ピン
10 配線ケーブル
11 接続金具
12 ねじ部
13 配線接続室
14 シリコン樹脂
15 金属蓋
17 気体封止板
18 金属製外枠
19 接触部
20 ロードセル回路
20A デジタルロードセル回路
21 A/D変換回路および演算回路
22 異常判定用測定回路
25,25A 制御装置
A1〜A4 演算増幅器
A/D アナログ・デジタル変換器
CPU 演算処理装置
DIS 表示装置
I/O 入出力回路
〜G ストレインゲージ
KEY キースイッチ
M メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロードセル本体における起歪部上のストレインゲージ貼付部が外部から遮断された気密室内に配され、この気密室の一側を塞ぐ気密端子によってストレインゲージブリッジへの電源の供給と該ストレインゲージブリッジからの荷重信号の取り出しとが行われるロードセルにおいて、
前記気密端子に、前記荷重信号出力用の導通ピンと、電源供給用の導通ピンまたは前記ロードセル本体との間の絶縁抵抗値が低下したことを検知して警報信号を出力するための絶縁抵抗低下検知用の導通ピンを設けることを特徴とするロードセル。
【請求項2】
前記気密室内に、前記荷重信号をデジタル信号化するA/D変換回路と演算回路とが設けられ、この演算回路を介してデジタル荷重信号が出力されるデジタルロードセルであって、
前記絶縁抵抗低下検知用の導通ピンの絶縁抵抗値が異常に低下したことを検知する異常判定用測定回路が設けられる請求項1に記載のロードセル。
【請求項3】
絶縁抵抗値が低下したことを検知して出力される警報信号は、前記デジタル荷重信号と共に出力される請求項2に記載のロードセル。
【請求項4】
前記警報信号は、荷重信号の異常予知警報信号として利用される請求項1〜3のいずれかに記載のロードセル。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のロードセルと、このロードセルから出力される警報信号を表示する表示手段を有する制御装置とを備えることを特徴とする重量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−66086(P2010−66086A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231792(P2008−231792)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000208444)大和製衡株式会社 (535)
【Fターム(参考)】