説明

ロープ

【課題】高強力金属繊維の代替が可能な高弾性率を有する、軽量で高強力な高性能ロープを提供すること。
【解決手段】高温かつ高湿度下および光照射下に長時間暴露されても強度低下の小さいシース・コア型ポリベンザゾール繊維からなり繊維間に潤滑油脂もしくは樹脂成分が0.9重量%以上含有されてなる摩耗試験における破断までのサイクルが5200回以上であるロープ。円筒構造の内側の断面径の比率が繊維の全径にたいして10%以上90%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は荷物の吊り上げ等の産業用に好適なロープに関し、特に、重量物に利用可能な合成繊維ロープに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、産業用ロープに関しては合成繊維としてはポリエステル、ナイロン等が用いられてきた。特に重量物の吊り上げには、ロープの伸び縮みにより荷物が振動したり荷を解いた際のスナップバックをする事を防ぐために、金属製の寸法安定性に優れたワイヤーロープが用いられてきた(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、ワイヤーロープは自重が重い上にショックを与えた場合に絡まりやキンクを生じ易く取扱いが困難である。係る欠点を解消するためにアラミド繊維や高強力ポリエチレン繊維で構成されたロープなどが登場した。
【0004】
アラミド繊維ロープにおいては比強度・比弾性率が十分高くないためにロープの太さが大きくなってしまい、取扱性が悪くなるという欠点があった。また、高強力ポリエチレン繊維のロープにおいてはロープが太くなることに加えて、耐熱性に乏しいため屋外の炎天下で加熱された物体から熱をもらうと寸法安定性が低下するという欠点があった。
【特許文献1】特開2004−176189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、しなやかで取扱いに優れ、かつ従来にない耐水性、耐摩耗性を有する高強度・高弾性率のロープを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記か偉大を解決するため、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに至った。即ち本発明は、
(1)熱分解温度が200℃以上の高耐熱性であり鉱酸に溶解する有機顔料を繊維中に含んでいる2重円筒構造を有するポリベンザゾール繊維からなり繊維間に潤滑油脂もしくは樹脂成分が0.9重量%以上含有されてなることを特徴とするロープ。
(2)円筒構造の内側の断面径の比率が繊維の全径にたいして10%以上90%以下である(1)のロープ。
(3)繊維中に含有される有機顔料がその分子構造中に−N=及び/又はNH−基を有することを特徴とする2重円筒構造を有するポリベンザゾール繊維からなる(2)のロープ。
(4)繊維中に含有される有機顔料がペリノン及び/又はペリレン類であることを特徴とする2重円筒構造を有するポリベンザゾール繊維からなる(3)のロープ、
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、ロープに加工する際のダメージを軽減でき、耐候性、耐摩耗性、耐水性及び実用特性に優れたロープを得ることができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明における熱分解温度が200℃以上の高耐熱性を有し鉱酸に溶解する有機顔料として不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、染色レーキ、イソインドリノン類、イソインドリン類、ジオキサジン類、ペリノン及び/又はペリレン類、フタロシアニン類、キナクリドン類等が挙げられる。その中でも分子内に−N=及び/又はNH−基を有するものが好ましく、より好ましくはジオキサジン類、ペリノン及び/又はペリレン類、フタロシアニン類、キナクリドン類である。
【0009】
ペリノン及び/又はペリレン類としては、ビスベンズイミダゾ[2,1−b:2’、1’−i]ベンゾ[lmn][3,8]フェナントロリンー8,17−ジオン、ビスベンズイミダゾ[2,1−b:1’、2’−j]ベンゾ[lmn][3,8]フェナントロリンー6,9−ジオン、2,9−ビス(p−メトキシベンジル)アントラ[2,1,9−def:6,5,10−d’e’f’]ジイソキノリンー1,3,8,10(2H,9H)−テトロン、2,9−ビス(p−エトキシベンジル)アントラ[2,1,9−def:6,5,10−d’e’f’]ジイソキノリンー1,3,8,10(2H,9H)−テトロン、2,9−ビス(3,5−ジメチルベンジル)アントラ[2,1,9−def:6,5,10−d’e’f’]ジイソキノリンー1,3,8,10(2H,9H)−テトロン、2,9−ビス(p−メトキシフェニル)アントラ[2,1,9−def:6,5,10−d’e’f’]ジイソキノリンー1,3,8,10(2H,9H)−テトロン、2,9−ビス(p−エトキシフェニル)アントラ[2,1,9−def:6,5,10−d’e’f’]ジイソキノリンー1,3,8,10(2H,9H)−テトロン、2,9−ビス(3,5−ジメチルフェニル)アントラ[2,1,9−def:6,5,10−d’e’f’]ジイソキノリンー1,3,8,10(2H,9H)−テトロン、2,9−ジメチルアントラ[2,1,9−def:6,5,10−d’e’f’]ジイソキノリンー1,3,8,10(2H,9H)−テトロン、2,9−ビス(4−フェニルアゾフェニル)アントラ[2,1,9−def:6,5,10−d’e’f’]ジイソキノリンー1,3,8,10(2H,9H)−テトロン、8,16−ピランスレンジオン等があげられる。
これらのペリノン類の1つまたは2つ以上の化合物の併用もあり得る。添加量はポリベンザゾールに対して0.01%〜20%、好ましくは0.1%〜10%である。
【0010】
フタロシアニン類としては、フタロシアニン骨格を有していればその中心に配位する金属の有無および原子種は問わない。これらの化合物の具体例としては、29H,31H−フタロシアニネート(2−)−N29,N30,N31,N32銅、29H,31H−フタロシアニネート(2−)−N29,N30,N31,N32鉄、29H,31H−フタロシアニネート−N29,N30,N31,N32コバルト、29H,31H−フタロシアニネート(2−)−N29,N30,N31,N32銅、オキソ(29H,31H−フタロシアニネート(2−)−N29,N30,N31,N32),(SP−5−12)チタニウム等があげられる。また、これらのフタロシアニン骨格が1個以上のハロゲン原子、メチル基、メトキシ基等の置換基を有していてもよい。
これらのフタロシアニン類の1つまたは2つ以上の化合物の併用もあり得る。添加量はポリベンザゾールに対して0.01%〜20%、好ましくは0.1%〜10%である。
【0011】
キナクリドン類としては、5,12−ジヒドロー2,9−ジメチルキノ[2,3−b]アクリジンー7,14−ジオン、5,12−ジヒドロキノ[2,3−b]アクリジンー7,14−ジオン、5,12−ジヒドロー2,9−ジクロロキノ[2,3−b]アクリジンー7,14−ジオン、5,12−ジヒドロー2,9−ジブロモキノ[2,3−b]アクリジンー7,14−ジオン等があげられる。
これらのキナクリドン類の1つまたは2つ以上の化合物の併用もあり得る。添加量はポリベンザゾールに対して0.01%〜20%、好ましくは0.1%〜10%である。
【0012】
ジオキサジン類としては9,19−ジクロロ−5,15−ジエチル−5,15−ジヒドロジインドロ[2,3−c:2’,3’−n]トリフェノジオキサジン、8,18−ジクロロ−5,15−ジエチル−5,15−ジヒドロジインドロ[3,2−b:3’,2’−m]トリフェノジオキサジン等が挙げられる。これらのジオキサジン類の1つまたは2つ以上の化合物の併用もあり得る。添加量はポリベンザゾールに対して0.01%―20%、好ましくは0.1%―10%である。
【0013】
また、ペリレン類、ペリノン類、フタロシアニン類、キナクリドン類、およびジオキサジン類の2つまたは3つ以上の化合物の併用も可能である。
勿論本発明技術内容はこれらに限定されるものではない。
【0014】
本発明におけるポリベンザゾール繊維とは、ポリベンザゾールポリマーよりなる繊維をいい、ポリベンザゾール(PBZ)とは、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、またはポリベンズイミダゾール(PBI)から選ばれる1種以上のポリマーをいう。本発明においてPBOは芳香族基に結合されたオキサゾール環を含むポリマーをいい、その芳香族基は必ずしもベンゼン環である必要は無い。さらにPBOは、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)や芳香族基に結合された複数のオキサゾール環の単位からなるポリマーが広く含まれる。同様の考え方は、PBTやPBIにも適用される。また、PBO、PBT及び、またはPBIの混合物、PBO、PBT及びPBIのブロックもしくはランダムコポリマー等のような二つまたはそれ以上のポリベンザゾールポリマーの混合物、コポリマー、ブロックポリマーも含まれる。好ましくは、ポリベンザゾールは、鉱酸中、特定濃度で液晶を形成するライオトロピック液晶ポリマーである。
【0015】
PBZポリマーに含まれる構造単位としては、好ましくはライオトロピック液晶ポリマーから選択される。当該ポリマーは構造式 (a)〜(i)に記載されているモノマー単位から成る。
【化1】

【0016】
ポリベンザゾール繊維は、ポリベンザゾールポリマーの溶液(PBZポリマードープ)より製造されるが、当該ドープを調製するための好適な溶媒としては、クレゾールやそのポリマーを溶解しうる非酸化性の鉱酸が挙げられる。好適な非酸化性鉱酸の例としては、ポリリン酸、メタンスルホン酸および高濃度の硫酸あるいはそれらの混合物が挙げられる。その中でもポリリン酸及びメタンスルホン酸が、最も好ましくはポリリン酸である。
【0017】
ドープ中のポリマー濃度は、1〜30%、好ましくは1〜20%である。最大濃度は、例えばポリマーの溶解性やドープ粘度といった実際上の取り扱い性により限定される。それらの限界要因のために、ポリマー濃度は通常では20重量%を越えることはない。
【0018】
本発明において、好適なポリマーまたはコポリマーとドープは公知の方法で合成される。例えばWolfeらの米国特許第4,533,693号明細書(1985.8.6)、Sybertらの米国特許第4,772,678号明細書(1988.9.22)、Harrisの米国特許第4,847,350号明細書(1989.7.11)またはGregoryらの米国特許第5,089,591号明細書(1992.2.18)に記載されている。要約すると、好適なモノマーは非酸化性で脱水性の酸溶液中、非酸化性雰囲気で高速撹拌及び高剪断条件のもと約60℃から230℃までの間で段階的または一定昇温速度で温度を上げることで反応させられる。
【0019】
この様にして重合されるドープは紡糸部に供給され、紡糸口金から通常100℃以上の温度で吐出される。口金細孔の配列は通常円周状、格子状に複数個配列されるが、その他の配列であっても良い。口金細孔数は特に限定されないが、紡糸口金面における紡糸細孔の配列は、紡出糸条(ドープフィラメント)間の融着などが発生しないような孔密度を保つことが肝要である。
【0020】
紡出糸条は十分な延伸比(SDR)を得るため、米国特許第5296185号に記載されたように十分な長さのドローゾーン長が必要で、かつ比較的高温度(ドープの固化温度以上で紡糸温度以下)の整流された冷却風で均一に冷却されることが望ましい。ドローゾーンの長さ(L)は非凝固性の気体中で固化が完了する長さが要求され、大雑把には単孔吐出量(Q)によって決定される。良好な繊維物性を得るにはドローゾーンの取り出し応力がポリマー換算で(ポリマーのみに応力がかかるとして)2.2g/dtex以上が望ましい。
【0021】
本発明においては、上記で得られたポリベンザゾールのドープフィラメント(延伸又は未延伸)は、ポリベンザゾールに非相溶の液体によって蒸気処理することが必要である。
【0022】
ポリベンザゾールに非相溶の液体とは、水、メタノール、エタノール、アセトン、エチレングリコールの少なくとも1種である。簡便性の点で、水が好ましい。
蒸気処理とは、これらの液体の蒸気を含む気体(空気)相にドープフィラメントを接触させるか通過させることよってドープフィラメントの主に表層部を凝固させるのである。
蒸気相の温度は、50〜150℃、好ましくは60〜140℃、さらに好ましくは70〜130℃、もっとも好ましくは75〜135℃である。蒸気相中の全気体成分に対して蒸気成分の含有率は、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。蒸気相温度が低すぎると、シース層の厚みが発達せず目的のシース・コア構造が発現せず、所期の目的を達することができない。逆に温度が高すぎるとシース・コア構造は発現するが、通過中のフィラメントの温度も上昇するため、糸切れが多発する傾向がある。蒸気の含有率についても、低すぎるとシース・コア構造を発現せず好ましくない。蒸気処理する装置は、ドープフィラメントが蒸気に接触し、表層部の凝固を進行させることができるものであればよく、連続式、非連続式、密閉形、非密閉形など特に限定されない。
【0023】
蒸気相を通過したフィラメントは、次に抽出(凝固)浴に導かれて、ポリベンザゾールの溶剤の抽出とフィラメントの完全な凝固がなされる。抽出浴は、特に限定されず、如何なる形式の抽出浴でも良い。例えばファンネル型、水槽型、アスピレータ型あるいは滝型などが使用出来る。最終的に抽出浴においてフィラメント中に残存する溶剤が1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下になるように抽出する。本発明における抽出媒体として用いられる液体に特に限定はないが、好ましくはポリベンザゾールに対して実質的に相溶性を有しない水、メタノール、エタノール、アセトン、エチレングリコール等である。抽出液は燐酸水溶液や水が簡便で望ましい。また抽出(凝固)浴を多段に分離し燐酸水溶液の濃度を順次薄くし最終的に水で水洗する方法も採用できる。また、抽出(凝固)工程において、フィラメント束を水酸化ナトリウム水溶液などで中和処理して後、水洗することは好ましい方法である。この後乾燥、熱処理を施して目的のシース・コア構造を持つ繊維とすることができる。
【0024】
本発明に係るポリベンザゾール繊維の第一の特徴は、有機顔料を含んでいることであり、これにより、温度80℃相対湿度80%雰囲気下で700時間暴露した後の引張強度保持率が85%以上を達成できる。ここでいう有機顔料は前述のごとく熱分解温度が200℃以上であり、鉱酸に溶解するものであり、好ましくはその分子構造中に−N=及び/又はNH−を有する顔料である。より好ましくは、ペリノン及び/又はペリレン類、フタロシアニン類、キナクリドン類、またはジオキサジン類である。また、鉱酸とは、メタンスルフォン酸またはポリリン酸である。
【0025】
これらの有機顔料を糸中に含有させる方法としては、特に限定されず、ポリベンザゾールの重合のいずれの段階または重合終了時のポリマードープの段階で含有させることができる。例えば、有機顔料をポリベンザゾールの原料を仕込む際に同時に仕込む方法、段階的または一定昇温速度で温度を上げて反応させている任意の時点で添加する方法、また、重合反応終了時に反応系中に添加し、撹拌混合する方法が好ましい。
【0026】
本発明の第二のポイントは、延伸されたドープフィラメントをまず蒸気で凝固した後、フィラメント中に残った燐酸などの溶剤を抽出することにある。このような、蒸気で凝固した後に液体で溶剤を抽出することで、シース層の厚みが従来になく厚い特殊なシース・コア型構造を呈するようになり、屈曲に対する耐久性が向上する。
この屈曲に対する耐久性が向上する理由は明確ではないが、蒸気の作用でシース層の結晶の配向が適度に乱れて繊維表層の方向性や特定方向への応力集中が緩和され、フィブリル化が抑制されるためと推察できる。
【0027】
本発明のポリベンザゾール繊維におけるシース層とコア層との簡便な判別は、繊維断面を光学顕微鏡で観察することによって可能である。すなわち、繊維断面を光学顕微鏡で観察できる厚さに切断し、光学顕微鏡で40倍程度に拡大して観察すると、シース層とコア層の境界が円形の線として認められる。この円形の線の外側がシース層で、内側がコア層である。
【0028】
本発明のポリベンザゾール繊維におけるシース層とコア層との比率、すなわち、繊維断面方向におけるコア層の平均径(r2)の、繊維全断面径(r1)に対する比率R=(r2/r1)×100は、10〜90%であることが必要であり、好ましくは 20〜80%である。
R(コア比率)が10%未満では、耐屈曲性能が不十分であり、逆にコア層が90%以上では、繊維強度が不十分であり好ましくない。
【0029】
電子線回折から求めたS1/ S2は0.1〜0.8、好ましくは0.2〜0.7である。0.1未満では耐屈曲性能が不十分であり、逆に0.8を超えると繊維強度が不十分であり好ましくない。
【0030】
こののち繊維を乾燥させ更に熱処理工程を通す。乾燥温度は繊維強度の低下をもたらさない温度とし、具体的には150℃以上400℃以下、好ましくは200℃以上300℃以下、更に好ましくは220℃以上270℃以下とする。弾性率を向上させる目的で、必要に応じて張力下にて熱処理を施しても良い。熱処理温度については、400℃以上700℃以下、好ましくは500℃以上680℃以下、更に好ましくは550℃以上630℃以下とする。かける張力は0.3〜1.2g/d、好ましくは0.5〜1.1g/d、さらに好ましくは0.7〜1.0g/dである。
【0031】
次に該繊維を用いたロープの製造方法の説明に移る。本発明における潤滑成分の使用は本発明において特に重要であり、耐屈曲疲労性・耐候性を改善する目的で使用する。本発明で使用する潤滑成分としては、植物油、ワックス、鉱物油、電気絶縁油、脂肪族エステル、芳香族エステル、ホスフェート、多価アルコール系エステル、酸化防止剤等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、糸表面を十分に保護するためには少なくとも0.9%以上の潤滑成分が必要である。この要件の下限を外れる場合には、加撚工程でのマイグレーションが遅れ、完成したロープにおいて一部の繊維への応力集中が起こり易い。
【0032】
ロープの製造に好ましい繊維の力学物性については、引張強度は4.0GPa以上、好ましくは4.5GPa以上で、引張初期弾性率は140GPa以上、好ましくは150GPa以上であるが、上述の製造法を用いるとこの範囲の力学物性を示す繊維は十分製造可能である。
【0033】
一般に従来の製造法で作られるポリベンザゾール繊維は高強力・高弾性率であるものの繊維の側部から加えられる応力に対しては、従来素材のアラミド繊維と同様にフィブリル化といったダメージを受けやすかった。しかし、本発明のポリベンザゾール繊維は従来品と比較して特に繊維表面の構造が緻密であるため、フィブリル化しにくい性質を通している。さらに繊維束に外力が掛けられた際に繊維同士が容易に滑り応力集中を生じさせない機能を発揮させる目的で、少なくとも0.9重量、好ましくは1.0重量%以上、更に好ましくは2.0重量%以上の潤滑成分を付与しても良い。
【0034】
潤滑成分の繊維への付与は繊維の製造段階に付与する方法や得られた繊維或いはロープとなした後に含浸、コーティング等を施す方法等、任意であるが、繊維間に湿滑成分を充填させるには繊維の製造段階もしくは得られた繊維に直接付与する方法が好ましい。
【0035】
本発明における潤滑成分を付与したポリベンゾオキサゾール・ストランドの表面を製鋼後に樹脂で被覆することで、ロープの集合性を高めることが出来る。ロープ表面の耐解れ性、表面状態の安定性を改善する目的で、ロープ表面をポリウレタンエラストマー樹脂で含浸する方法は有効である。樹脂の被覆方法としては公知の方法を用いることができる、とくにポリベンゾオキサゾール繊維と樹脂との接着力を改善するために繊維のコロナ処理やプラズマ処理等の前処理を行うことが好ましい。
【0036】
また、ロープはポリベンザゾール繊維のみから構成されてしても良いが、ロープの最外層に金属または有機繊維の編組を1層もしくは多層で被覆する事でポリベンゾオキサゾール芯線の機械的な外力からの十分な保護が可能となる。ロープを保護する編組は、鋼線、ステンレス線といった金属繊維もしくは太物のスパン糸、エステル、ナイロン等が挙げられるが、本発明はこれらにより限定されるものではない。とくに、ポリエステルフィラメントのタスラン加工糸の編組で被覆することでハンドリングが良い上にロープ表面の耐久性高まる。
【実施例】
【0037】
以下に実例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はもとより下記の実施例によって制限を受けるものではなく、前後記の主旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術範囲に含まれる。
【0038】
評価方法は、以下の通りである。
【0039】
(高温かつ高湿度下における強度低下の評価):直径10cmの紙管に繊維を巻き付けた状態で恒温恒湿器中で高温かつ高湿度保管処理した後、サンプルを取り出し、室温にて引張試験を実施、処理前の強度に対する処理後の強度保持率で評価を行った。なお、高温高湿度下での保管試験にはヤマト科学社製Humidic Chamber 1G43Mを使用し、80℃、相対湿度80%の条件下にて700時間処理を実施した。
【0040】
(金属濃度測定):フィラメント中の残留リン濃度は、試料をペレット状に固めて蛍光X線測定装置(フィリップスPW1404/DY685)を用いて測定し、ナトリウム濃度は中性子活性化分析法で測定した。
【0041】
(光暴露試験):水冷キセノンアーク式ウェザーメーター(アトラス社製、形式Ci35A)を使用し、金属フレームにフィルムを固定して装置にセットし、内側フィルターガラスに石英、外側フィルターガラスにボロシリケート、タイプSを使用し、放射照度:0.35W/m2(at 340nm)、ブラックパネル温度:60℃±3℃、試験槽内湿度:50%±5%で100時間連続照射を行った。
【0042】
(極限粘度): メタンスルホン酸を溶媒として、0.5g/lの濃度に調製したポリマー溶液の粘度をオストワルド粘度計を用いて25℃恒温槽中で測定した。
【0043】
(繊維断面観察の方法):サンプル繊維をガタン社製のG―2エポキシ樹脂に胞埋したものを、日本電子(株)製クロスセクションポリッシャーSM−09010にてアルゴンイオンエッチングして、観察用繊維断面を得た。次いで、光学顕微鏡によってコア層とシース層との境界線を観察し、コア層の平均径(r2)と繊維全断面径(r1)とを測定し、コア層の平均径(r2)の繊維全断面径(r1)に対する比率(R%)を求めた。
R(%)=(r2/r1)×100
【0044】
(屈曲性の評価:相対結節強度比の測定):標準状態(温度:20±2℃、相対湿度(RH)65±2%)の試験室内に24時間以上放置後、繊維の引張強度、弾性率、結節強度を、JIS L 1015に準じて引張試験機にて測定した。なお、結節強度は、試料のつかみ間隔の中央に、Z撚りの本結びを1個作った状態で、引張試験して測定した。相対結節強度比は下記の式を用いて求めた。
相対結節強度比率E(%) =(結節強度/繊維強度)×100
【0045】
(強度保持率):高温高湿度保管前後の引張強度を測定し、高温高湿度保管試験後の引張強度を高温高湿度保管試験前の引張強度で除して求めた。
【0046】
(電子線回折の測定):繊維を薄く切って作った超薄切片の制限視野電子線回折像を測定することで求める。単繊維と硬化剤を混合した電子顕微鏡切片作成用エポキシ樹脂(Spurrエポキシレジン)で包埋したものを摂氏70度のオーブン中で一夜放置し固化固定する。次にこのレジンブロックをライヘルト社製のウルトラマイクロトームに取り付け、ガラスナイフを用いて包埋した繊維がブロック表面近傍に現れるまで研磨する。次にダイアトーム社製ダイアモンドナイフを用いて超薄切片を作成した後、300メッシュの銅グリッド上に回収し薄くカーボン蒸着を施す。電子顕微鏡内に超薄切片を入れ、繊維の中心と表面の両方を併せ持つ切片を探しだし、表面と中心の両方について制限視野電子線回折像を撮影する。制限視野(アパチャー)の径は1μm以下とする。電子線回折の記録はイメージングプレートシステム(JEOL PixsysTEM)を用いて記録する。得られた電子線回折図形から得た赤道方向のプロファイルを、ローレンツ関数を用いて近似して、(200)、(010)、(−210)由来の回折の積分強度(面積)を算出する。(200)の面積をS1、(010)と(−210)の面積の和をS2とする。
【0047】
(ロープの強伸度特性):JIS−L−2707(1984)に従った。
【0048】
(ロープの摩耗特性):JIS−L−1021(所定回数は10000回)の方法にしたがって実施し、摩耗試験後の試験片の重量を初期重量にて除した値(百分率)にて評価した。
【0049】
(耐水性試験):試験片(ロープ)を水(20℃)中に1000時間沈めた後水から取り出し一分以内に強力を測定し、初期強力に対する強力保持率を算出した。
【0050】
(実施例1)
窒素気流下、4,6−ジアミノレゾルシノール二塩酸塩334.5g,テレフタル酸260.8g,122%ポリリン酸2078.2gを60℃で30分間撹拌した後、ゆっくりと昇温して135℃で20時間、150℃で5時間、170℃で20時間反応せしめた。得られた30℃のメタンスルホン酸溶液で測定した固有粘度が30dL/gのポリ(p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)ドープ2.0kgに29H,31H−フタロシアニネート(2−)−N29,N30,N31,N32銅15.2gを添加して撹拌混合した。その後、ドープは金属網状の濾材を通過させ、次いで2軸から成る混練り装置で混練りと脱泡を行った後、昇圧させ、重合体溶液温度を170℃に保ち、孔数166を有する紡糸口金から170℃で紡出し、温度60℃の冷却風を用いて吐出糸条を冷却した後、さらに自然冷却で40℃まで吐出糸条を冷却した後、まず温度120℃、蒸気分率100%に調整した蒸気層に、引きつづき凝固浴中に導入した。凝固液及びその温度を変えて繊維を作成した。次に繊維をゴゼットロールに巻き付け一定速度を与えて第2の抽出浴中でイオン交換水で糸条を洗浄した後、0.1規定の水酸化ナトリウム溶液中に浸漬し中和処理を施した。更に水洗浴で水洗した後、巻き取り、80℃の乾燥オーブン中で乾燥し繊維中に含まれる水分率が2%以下になるまで放置した。繊維のRはR=50%であった。
このポリベンズビスオキサゾール繊維原糸を合糸してストランドとし、これを太さ12mmの4つ打ちロープに加工した。原糸を下撚りする前に潤滑油としてヤシ油を1.1%付与した。潤滑成分の量が、0.9%未満ではロープに加工する際にダメージを生じ耐候性が低下した。
【0051】
【表1】

【0052】
(比較例1)東洋紡績株式会社製ザイロンASを用いて実施例1と同じ条件でロープを得た。結果を表1に示す。なお断面観察の結果該繊維は一重円筒構造(R=0%)であった。
【0053】
(比較例2)東レ・デュポン株式会社製ケブラー49を使用すること以外は実施例1と同じ方法でロープを得た。結果を表1に示す。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によると、ロープに加工する際のダメージを軽減でき、耐候性、耐摩耗性、耐水性及び実用特性に優れたロープを得ることを可能となり、産業界に寄与すること大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱分解温度が200℃以上の高耐熱性であり鉱酸に溶解する有機顔料を繊維中に含んでいるシース・コア型ポリベンザゾール繊維からなり繊維間に潤滑油脂もしくは樹脂成分が0.9重量%以上含有されてなることを特徴とするロープ。
【請求項2】
円筒構造の内側の断面径の比率が繊維の全径にたいして10%以上90%以下であることを特徴とする請求項1記載のロープ。
【請求項3】
繊維中に含有される有機顔料がその分子構造中に−N=及び/又はNH−基を有することを特徴とするシース・コア型ポリベンザゾール繊維からなる請求項1又は2に記載のロープ。
【請求項4】
繊維中に含有される有機顔料がペリノン及び/又はペリレン類であることを特徴とするシース・コア型ポリベンザゾール繊維からなる請求項1〜3いずれかに記載のロープ。

【公開番号】特開2008−291401(P2008−291401A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−138977(P2007−138977)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】