説明

ローラダイの凹部付ローラ

【課題】修正が容易で、ランニングコストを低減できる構成のローラダイの凹部付ローラを提供する。
【解決手段】円筒の側面に、円筒の径方向に平行な平面で切ったときの断面形状が圧延加工された後のゴム部材Gの断面形状と同じ形状の凹部10kが形成された、ローラダイ10の上側のローラ10A(凹部付ローラ)を、回転軸取り付け孔10hが形成された肉厚の厚い円筒状の内側部材11と、上記内側部材11が嵌合される嵌合孔12Hを備え、円筒の外周面に上記凹部10kが形成された、肉厚の薄い外側部材12とから構成するとともに、上記内側部材11を上記外側部材12の上記嵌合孔12Hに挿入・固定して一体化して、上側のローラ10Aを作製するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出装置などで練られて押し出されたゴム部材を、当接する2本のローラ間に設けられたギャップを通して所望の断面形状を有するシート状に加工するローラダイに用いられる凹部付ローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、タイヤのトレッドゴムなどに使用されるシート状のゴム部材は、図4(a)に示すような、押出装置30とローラダイ40とを用いて成形される。すなわち、押出装置30の図示しないホッパーからシリンダ31内に投入されたゴム材料は、上記シリンダ31内に回転可能に装着されたスクリュー32により搬送され、上記シリンダ31の先端側に設けられた押出口33から押出される。この押し出されたゴム部材は、上記押出口33の前方に設置されたローラダイ40の上,下一対のローラ41,42の間を通されて圧延加工され、所定の断面形状を有する帯状のゴム部材Gが得られる。
上記ローラダイ40は、詳細には、上記スクリュー32の軸方向に直交する水平軸(図4(a)の紙面に垂直な方向)方向に回転軸を有する互いに当接する上,下一対のローラ41,42により構成される。上記上,下一対のローラ41,42にはそれぞれ径方向に延長する回転軸取り付け孔41h,42hが設けられており、図4(b)に示すように、モータ43a及び減速装置43bを備えた駆動装置43により回転駆動される。上記のローラ41,42の軸方向の長さは、上記押出口33の幅よりも広く形成されている。また、図4(c)の斜視図にも示すように、上記のローラ41,42のうち、下側のローラ42は円筒状のローラであり、上部側のローラ41は、円筒の側面に周方向に沿って連続的に伸びるように形成された凹部41kを備えた凹部付ローラである。上記押し出されるゴム部材の底面を平面としたとき、上記押し出されるゴム部材(図示せず)の断面形状は、凹部付ローラである上記上部側のローラ41の凹部41kの、当該円筒の中心を通り円筒の軸方向に平行な面で切った時の断面形状により決定される(例えば、特許文献1参照)。
また、図5(a)に示すような、タイヤのサイドウォールに用いられる、幅方向に肉厚が徐々に変化する、断面形状が上,下方向でいずれも凸になっているゴムストリップ50を成形する場合には、図5(b)に示すような、それぞれに凹部61kと凹部62kとが形成された一対の凹部付ローラ61,62を備えたローラダイ60が用いられる(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平6−166086号公報
【特許文献2】特開2006−312284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記上側及び下側のローラ41,42は、強度及び真円度を確保するため、数十mm程度の肉厚を有しているが、上記帯状のゴム部材Gの断面の外形とその寸法(以下、コンターという)を決定する上記凹部41kを加工する部分は5mm程度しかなく、しかも、0.1mm単位の加工精度が要求されている。また、上記回転軸取り付け孔41h,42hは、通常、セット位置の正確さを保持するため、手間のかかるテーパ加工がなされていることから、上記上側のローラ(凹部付ローラ)41は生産コストが高かった。
上記上側のローラ41の凹部41kは、円柱状の部材の側面を、設計図面に基づいて機械加工して得られるが、使用時には上記凹部41kの形状を修正する必要がある。これは、上記凹部41kから押し出されたゴム部材Gが膨張することによるもので、ゴムの種類や温度条件によっては、上記設計図面がゴム部材の膨張を考慮した場合でも、上記凹部41kの形状を修正しなければならない場合がある。
しかしながら、切削加工の場合、削り過ぎた場合などは再修正は困難である。したがって、加工精度が悪かった場合や表面に傷が入った場合などは、上記上側のローラ41全体を新たに作り直さなければならないため、ランニングコストが高くなってしまうといった問題点があった。
また、上記上側及び下側のローラ41,42を成形法により製造することも考えられるが、帯状のゴム部材の断面形状ごとに成形金型を作製しなければならないので、タイヤトレッドなどのような、品種の多いゴム部材を製造する場合には現実的な方法とはいえない。
【0004】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、修正が容易で、ランニングコストを低減できる構成のローラダイの凹部付ローラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の請求項1に記載の発明は、2本のローラ間に形成される隙間にゴム部材を通して上記ゴム部材を圧延加工するローラダイに用いられる、円筒の外周面に周方向に沿って連続的に伸びる凹部が形成された凹部付ローラであって、円筒状の内側部材と、この内側部材を覆う外側部材とから成ることを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のローラダイの凹部付ローラであって、上記外側部材を複数のリング部材から構成したものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ローラダイを構成するローラのうち、帯状のゴム部材のコンターを決定する凹部が形成されている凹部付ローラを、円筒状の内側部材と、この内側部材を覆う外側部材との2つの部材から構成したので、加工精度が悪かった場合や表面に傷が入った場合などは、上記外側部材だけを交換すればよいので、修正が容易であるだけでなく、ローラ全体を作り直す必要がないので、ランニングコストを低減できる。
また、上記外側部材を複数のリング部材から構成しておけば、加工が失敗した部分のリング部材だけを交換すればよいので、修正が一層容易になる。また、交換部品が少なくなるので、ランニングコストを更に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の最良の形態について、図面に基づき説明する。
最良の形態1.
図1は本発明の最良の形態1に係るローラダイ10を示す図である。また、同図のx方向がローラダイ10により帯状に圧延加工されたゴム部材Gの押出方向である長さ方向、y方向が上記ゴム部材Gの幅方向、z方向が上記ゴム部材Gの厚さ方向である。以下、上記z方向を上,下方向といい、同図の上方向をローラダイ10の上方向、同図の下方向をローラダイ10の下方向とする。
上記ローラダイ10は、側面同士が互いに当接する2本のローラ10A,10Bを備えている。下側のローラ10Bは円筒状のローラで、上側のローラ10Aは、円筒の側面に凹部10kが形成された凹部付ローラで、上記凹部10kは、円筒の径方向に平行な平面で切ったときの断面形状が、圧延加工された後のゴム部材Gの断面形状と同じ形状になるように、上記上側ローラ10Aの円筒側面に、上記円筒の径方向に沿って連続的に、かつ、一周に亘って形成されている。
また、上記上側及び下側ローラ10A,10Bは、それぞれ、径方向に延長する、当該ローラ10A,10Bを図示しない駆動装置に連結された回転軸に取付けるための回転軸取り付け孔10hを有している。上記回転軸取り付け孔10hは、当該ローラ10A,10Bを上記回転軸に正確に取付けるため、軸方向にテーパを持つように形成されている。上記回転軸取り付け孔10hの上記回転軸側である同図の左側の側面側の内径が他方の側面側の内径よりも大きい。
【0008】
本発明のローラダイ10では、下側のローラ10Bは全体が1つの円筒体で構成されているが、凹部付ローラである上側のローラ10Aは、円筒状の内側部材11と外側部材12との2つの部材から構成されている。
上記内側部材11は、図2にも示すように、上記回転軸取り付け孔10hが形成された肉厚の厚い円筒状の部材で、その外径D1は、当該上側のローラ10Aの中心軸Jと上記凹部10kの上記中心軸に最も近い箇所との距離Hの2倍よりも所定量だけ短く形成されている。一方、上記外側部材12は、円柱状の中空部から成る嵌合孔12Hを備えた、肉厚の薄い円筒状の部材で、その外周面に上記凹部10kが形成されている。なお、上記内側部材11の肉厚は数十mm程度で、上記外側部材12の肉厚は数mm程度である。
上記内側部材11を上記外側部材12の嵌合孔12Hに挿入・固定して、上記内側部材11と上記外側部材12とを一体化し、図1に示すような、上側のローラ10Aを組上げる方法としては、「焼き嵌め」が好ましい。すなわち、上記嵌合孔12Hの内径D2を上記内側部材11の外径D1よりも若干小さく形成しておき、上記外側部材12を加熱して膨張させた状態で、上記内側部材11を上記外側部材12の嵌合孔12Hに挿入して嵌合させることにより、上記内側部材11は上記外側部材12に固定されて一体化される。これにより、ゴム部材Gの圧延加工時に上記外側部材12が加熱されても、上記内側部材11と上記外側部材12とは一体化されているので、外れることはない。
【0009】
上記上側のローラ10Aの凹部10kの形状は、設計図面に基づいて機械加工して得られるが、使用する前には、上記上側のローラ10Aと上記下側のローラ10Bとを組上げ、試験的にゴム部材を圧延加工して、得られたゴム部材Gの断面形状が予め設定した断面形状であるかどうかを調べるテストを行う。このテストにおいて、実際に得られたゴム部材Gの断面形状が予め設定した断面形状に対して、許容差以上ずれていた場合には、上記凹部10kの形状を修正する。
修正ができない場合、従来の上側のローラ41を用いた場合には、上記上側のローラ41を交換する必要があるが、本発明の上側のローラ10Aを用いた場合には、上記外側部材12のみを交換すればよい。具体的には、上記外側部材12を削って、上記内側部材11を残すようにすればよい。上記外側部材12は、上述したように、肉厚が薄いので、容易に切削して除去することができる。上記外側部材12を除去した後には、新たな外側部材12を作製し、この新たに作製した外側部材12の嵌合孔12Hに上記内側部材11を嵌合させて上側のローラ10Aとすればよい。上記外側部材12の嵌合孔12Hは、上記回転軸取り付け孔10hとは異なり、単純な円柱状の孔である。したがって、上側のローラ10A全体を作り直すよりは製造が容易であるので、ランニングコストを大幅(約1/3程度)に低減することができる。
【0010】
このように本最良の形態1では、円筒の側面に、円筒の径方向に平行な平面で切ったときの断面形状が圧延加工された後のゴム部材Gの断面形状と同じ形状の凹部10kが形成された、ローラダイ10の上側のローラ(凹部付ローラ)10Aを、回転軸取り付け孔10hが形成された肉厚の厚い円筒状の内側部材11と、上記内側部材11が嵌合される嵌合孔12Hを備え、円筒の外周面に上記凹部10kが形成された、肉厚の薄い外側部材12とから構成するとともに、上記内側部材11を上記外側部材12の上記嵌合孔12Hに挿入・固定して一体化して、上側のローラ10Aを作製したので、上記凹部10kの加工精度が悪かった場合や上側のローラ10Aの表面に傷が入った場合などは、上記外側部材12だけを交換すればよい。したがって、上側のローラ10Aの修正を容易に行うことができるとともに、ランニングコストを低減できる。
【0011】
なお、上記最良の形態1では、上側のローラ10Aのみに凹部10kが形成されているローラダイ10について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、図5に示すような、上,下のローラにそれぞれ凹部が設けられているタイプのローラダイにも適用可能である。
また、本発明の上側のローラ10Aは、内側部材11と外側部材12の2つの部品から構成されており、かつ、その形状が圧延加工されるゴム部材Gの形状によって異なるのは外側部材12だけなので、上記例のように、上側のローラ10Aの凹部10kの形状を修正するだけでなく、上記凹部10kとは異なる断面形状の凹部を有する上側のローラ10Aを新たに作製する場合にも有効である。
上記内側部材11を上記外側部材12に挿入固定する方法として、上記「焼き嵌め」の他に、内側部材11を外側部材12に挿入後、ピンもしくはキーを打ち込んで内側部材11と外側部材12とを連結するなど他の方法を用いてもよい。
【0012】
最良の形態2.
上記最良の形態1では、上側のローラ10Aを内側部材11と外側部材12の2つの部品から構成したが、図3に示すように、上記外側部材12に代えて、上記外側部材12を複数のリング部材120〜129から成る外側部材12Zを用いてもよい。この外側部材12Zと上記内側部材11とを嵌合させる方法としては、上記外側部材12Zの各リング部材120〜129を加熱して膨張させた状態で、上記内側部材11を上記各リング部材120〜129の嵌合孔12hに順番に挿入して嵌合させるようにすればよい。なお、上記リング部材120〜129としては、上記外側部材12を軸方向に垂直な複数の平面で分割したものが好適に用いられる。
また、上記外側部材12Zを交換する場合には、修正が必要な部分だけ交換すればよいので、ランニングコストを更に低減することができる。
また、上記外側部材12Zは、複数のリング部材120〜129から構成されているので、隣接するリング部材間に若干の隙間ができたり、「ガタ」が生じる恐れがあるので、上記外側部材12Zを修正して上記凹部10kの寸法を決定した後、上記外側部材12Zを取り外し、上記修正された凹部10kが形成された一体型の外側部材12を上記外側部材12Zの代わりに取り付けるようにすれば、上側のローラ10Aの寸法精度を確実に向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0013】
このように、本発明によれば、ローラダイのローラの凹部の形状を容易に修正することができるので、ランニングコストを低減でき、生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の最良の形態1に係るローラダイの構成を示す図である。
【図2】本最良の形態1に係る凹部付ローラの構成を示す図である。
【図3】本最良の形態2に係る凹部付ローラの構成を示す図である。
【図4】従来のローラダイを示す図である。
【図5】従来のローラダイの他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0015】
10 ローラダイ、10A 上側のローラ(凹部付ローラ)、10B 下側のローラ、
10h 回転軸取り付け孔、10k 凹部、11 内側部材、12 外側部材、
12H 嵌合孔、G ゴム部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本のローラ間に形成される隙間にゴム部材を通して上記ゴム部材を圧延加工するローラダイに用いられる、円筒の外周面に周方向に沿って連続的に伸びる凹部が形成された凹部付ローラであって、円筒状の内側部材と、この内側部材を覆う外側部材とから成ることを特徴とするローラダイの凹部付ローラ。
【請求項2】
上記外側部材を複数のリング部材から構成したことを特徴とする請求項1に記載のローラダイの凹部付ローラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−184128(P2009−184128A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23479(P2008−23479)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】