説明

ローラー塗り可能な壁材組成物

【課題】
粘土のもつ風合いとともに、脱臭機能や吸放湿特性を利用して生活環境を改善する能力のある土壁を形成する壁材組成物であって、コテ塗りの技能を必要とせず、ローラー塗りが可能なものを提供する。
【解決手段】
炭酸カルシウムおよび(または)ドロマイト:100重量部、粘土:10〜100重量部および水酸化カルシウム:1〜10重量部の、いずれも100メッシュ以下の粒度からなるものを配合した基材に、アクリルエマルジョンおよびエチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョンの1種または2種、メチルセルロースおよび分散剤および水を加え、混練して壁材組成物としたもの。施工前の粘度を100〜800mPa・sに調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘土をその成分に含む、ローラー塗り可能な壁材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
土や砂、粘土は、古くからタタキ(三和土)や土壁の材料として用いられてきたが、コンクリートを用いる建築法の普及により、あまり利用されなくなった。しかし、近年、土壁は生活環境としてはすぐれたものであるとして、見直されている。粘土にはさまざまな種類があるが、その多くに、脱臭機能や吸放湿特性といった、生活環境を快適にする特性を有することが最近の研究でわかってきている。
【0003】
土壁やしっくい壁のような「左官作業」の対象とする材料は、施工法としてはコテ塗りが主流であるが、コテ塗りはそれなりの経験と技術とがなければできないため、専門の職人による作業を必要とする。ある程度の塗り厚が必要であるとともに、それを乾燥させることが必要であるから、どうしても施工期間が長くなり、コストが嵩むことが避けられない。
【0004】
粘土成分を材料として使用した壁材料には、壁土に対してエチレン−酢酸ビニルエマルジョンを5〜40重量%添加したものが開示されている(特許文献1)。コテ塗りでなくローラー塗りで施工したいという希望に対しては、それを実現した提案もある(特許文献2)。壁材のローラー塗りを可能にする物性としては、0.1Pa・s以上の粘度を有すべきことが知られており、ズリ速度として1000〜100000s−1が適切であるとされている(非特許文献1)。
【特許文献1】特開昭56−050156
【特許文献2】特開平01−158138
【非特許文献1】(株)エヌ・ティー・エス『表面処理技術ハンドブック』2000年1月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、材料として粘土を含み、それによって粘土のもつ脱臭機能や吸放湿特性を利用することができ、しかも専門の職人の技能を必要とせず、ローラー塗りが可能な壁材組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のローラー塗り可能な壁材組成物は、基本的には、炭酸カルシウムおよび(または)ドロマイト:100重量部、粘土:10〜100重量部、ならびに水酸化カルシウムおよび(または)焼成・消化ドロマイト:1〜10重量部からなる基材に、しっくいの調製に用いる添加剤および水を加え、混練してなる壁材組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の壁材組成物はローラー塗りが可能であるから、塗布のために特別の技能を要求されることなく、素人でも日曜大工的作業として壁に塗ることができ、かつ、塗り厚もコテ塗りのような厚さを必要としないから、簡易に、高いコストをかけずに使用することができる。この壁材組成物を施工した壁は、粘土がもつ、脱臭機能や吸放湿特性といった、生活環境を改善する能力を発揮するので、快適な生活をする助けとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の壁材組成物の組成を、炭酸カルシウムおよび(または)ドロマイト100重量部基準を基準にして、上記のように定めた理由は、つぎのとおりである。
粘土(10〜100重量部): 10重量部に達しない少量の存在では、粘土を材料としたときの効果が十分得られない。一方、100重量部を超える大量の粘土は、調製した壁材スラリーの中に粉末の凝集体ができやすく、ローラー塗布に適しないものになるからである。
水酸化カルシウムおよび(または)焼成・消化ドロマイト(1〜10重量部): 1重量部に満たない少量の添加では、壁材組成物のローラー塗り適性が不満足であり、10重量部を超える多量の添加は、組成物の保水性を低下させるとともに、分散剤の効果が抑制されるという弊害がある。
【0009】
ローラー塗りを容易にするためには、本発明の壁材組成物は、施工に先だって、その粘度を100〜800mPa・sに調整することが好ましい。100mPa・sに満たない低粘度のものは、垂れやすくて不適当であるし、800mPa・sを超える高粘度のものは、ローラーに多量に巻き付いてしまい、やはり操作に不都合であるとともに、均一な塗布が困難である。粘度の調節は、添加する糊材の量および水の量を選択することにより可能である。
【0010】
しっくいの調製に用いる添加剤として、本発明の壁材組成物の成分となるものは、アクリルエマルジョンおよびエチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョンの1種または2種、糊材、代表的にはメチルセルロース、および分散剤を配合したものが好適である。
【0011】
材料のうちの固形物成分、すなわち炭酸カルシウムおよび(または)ドロマイト、粘土および水酸化カルシウムは、いずれも粒度が100メッシュ以下の、微細なものを使用することが好ましい。粗粒の材料を使用すると、壁材組成物にローラー塗り適性を与えることが困難である。
【実施例】
【0012】
下記の実施例および比較例で使用した材料は、つぎのとおりである。
[炭酸カルシウム] 旭鉱末(株)製「MC−75」、粒度100メッシュ以下(150μm以下)
[粘土] 栃木県葛生地区の関東ローム層。300℃で乾燥したのち粉砕し、100メッシュ以下にしたもの。
[水酸化カルシウム] JIS R9001特号消石灰
[メチルセルロース] 松本油脂製薬(株)製「マーポローズ」(ヒドロキシメチルプロピルセルロース粉末)。2%水溶液としたとき、粘度4000mPa・s程度となる。
[アクリルエマルジョン] 東洋インキ製造(株)製「NPX2050−1」の固形分50%のエマルジョン
[エチレン−酢酸ビニル共重合体] 電気化学工業(株)製「EVAテックス90」の固形分50%の溶液
[分散剤] 花王(株)製「デモール」(ポリカルボン酸系の樹脂、固形分25%の溶液)
【0013】
上記の材料を使用して、表1に示す組成の壁塗り材を調製した。比較のため、下記の特徴をもった比較例の壁塗り材を、あわせて調製した。
(比較例1) コテ塗りに適切な粘度とするため、水の量を基材100重量部に対し、50重量部とした。
(比較例2) 炭酸カルシウムとして、粒度42メッシュ以下(350μm以下)の粗粒を使用した。
(比較例3) 基材が粘土を含まないもの。
(比較例4) 基材が水酸化カルシウムを含まないもの。
表1において、数値はいずれも重量部であるが、添加剤の量は、(炭酸カルシウム+粘土+水酸化カルシウム)の重量を合計したものを100とした数値である。
【0014】
表1

【0015】
上記のようにして得た各壁塗り材の物性を評価するため、施工直前のクリーム物性、施工作業性、乾燥後の物性を測定した。測定および評価の方法は、つぎのとおりである。
[クリーム物性] 静置60分後、ガラス盤とリング、および濾紙(5A)を用い、濾紙にしみ出る水分の量から保水性を求め、調合から24時間経過後の粘度を、A&D社製の粘度計「SV10」を用いて測定した。
[作業性] 試験板(JISA5430に規定する厚さ4mmのフレキシブル板の表面をシーラー処理して、水分の吸収度合いを調整したもの)の上に、壁材組成物をローラーで塗布し、そのときの作業の状況を次のように評価した。
ローラーとのからみ: 良好○ 劣る×
垂れ: なし○ あり×
塗布ムラ: なし○ あり×
ひび割れ: なし○ あり×
[乾燥後の物性] 試験板上にローラーで塗布した壁材を、温度23℃、湿度50%の条件下に置いて乾燥させた。材齢1週間および4週間の時点で表面硬度(JIS A6902に準拠)を測定し、2週間のものについて付着強度(JIS A6909に準拠)を測定した。
【0016】
以上の結果を表2にまとめて示す。ローラー塗り可能な粘度の下限を知るため、実施例1の組成物を薄め、粘度を75,150および300mPa・sにして作業性を調べた。75mPa・sでは垂れを生じたので、100mPa・sのもので確認したところ、支障なかった。
【0017】
表2

【0018】
実施例1〜4は、壁材の作業性が良好であり、乾燥後の物性も優れている。ただし、実施例1および2、実施例3、実施例4は、それぞれの粘土の含有量が違うから、塗布面の色調が異なっている。粘土分の多い実施例4は、少ない実施例1および2にくらべ、当然に土色が強く、中程度の実施例3は、その中間である。したがって、粘度のもつ環境改善効果をどの程度期待するかと、色の好みとに応じて、粘土を配合する量を選択すべきことになる。
【0019】
比較例1は、もともとコテ塗りに適するような水分量としたものであるが、粘性が高いため、ローラーへ壁材が巻き付きにくく、巻き付いたときは大量に過ぎて、塗布してみてもムラが多く、実用的でなかった。比較例2も、ローラーへの巻き付きが悪く、塗布に適しないものであった。これは、粒度が100メッシュを超える粗粒の炭酸カルシウムを使用したためと思われる。
【0020】
本発明の壁材を施工した壁の機能を調べるため、ホルムアルデヒド、酢酸およびアンモニアの3種のガスの吸着能力を測定した。
[ガス吸着能力試験] 10cm角の石膏ボードの表面に、実施例1および4、ならびに比較例3および4の壁材組成物をローラー塗りし、温度23℃、湿度50%RHの環境に5日放置したものの周囲をエポキシ樹脂で固め、さらに2日静置したものを試験体とした。この試験体を容量5Lのテトラパック型の袋に入れ、ホルムアルデヒド100ppm、酢酸100ppmおよびアンモニア100ppmを含有する空気5Lを封入し、1時間後および5時間後における袋内の各ガスの濃度を、ガス検知管を用いて測定した。試験体のガス吸着能力を、下記の式で定義される、ブランク(試験体の入っていない袋)に対する除去率として、相対的に評価した。
除去率=(1−CT/BT)×100
CT:試験体の入った袋のガス濃度
BT:ブランクの袋のガス濃度
【0021】
ガス吸着能力試験の結果を、表3に示す。
表3

【0022】
実施例1および4は、高いガス吸着性能を示した。なかでも実施例4は吸着性能が高く、これは、粘土を多量に含むためと考えられる。比較例3および4は、作業性や乾燥後の物性に問題はないが、本発明で意図したガス吸着性能はよくない。その理由は、比較例3は粘土を含有せず、また比較例4は水酸化カルシウムを含有しないことであると解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウムおよび(または)ドロマイト:100重量部、粘土:10〜100重量部、ならびに水酸化カルシウムおよび(または)焼成・消化ドロマイト:1〜10重量部からなる基材に、しっくいの調製に用いる添加剤および水を加え、混練してなるローラー塗り可能な壁材組成物。
【請求項2】
施工前の粘度を100〜800mPa・sに調整した請求項1の壁材組成物。
【請求項3】
しっくいの調製に用いる添加剤が、アクリルエマルジョンおよびエチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョンの1種または2種、糊材および分散剤からなる請求項1または2の壁材組成物。
【請求項4】
材料のうちの固形物成分として、いずれも100メッシュ以下の粒度のものを使用した請求項1ないし3のいずれかの壁材組成物。

【公開番号】特開2007−63445(P2007−63445A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−252833(P2005−252833)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000160407)吉澤石灰工業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】