説明

ロール状巻回体

【課題】熱可塑性樹脂からなる光学フィルムと保護フィルムとを積層したフィルムをロール状にしたフィルムロールの輸送、保管時における温度変化に伴うバックリング(皺)の発生を抑制する。
【解決手段】熱可塑性樹脂からなる長尺の光学フィルムの片面に、該光学フィルムと熱膨張率の異なる熱可塑性樹脂からなる長尺の保護フィルムを剥離可能に積層してロール状に巻回してなるフィルムロール5と、フィルムロール5の表面を覆うように配置された断熱シート8とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺の光学フィルムの片面に、長尺の保護フィルムを剥離可能に積層してロール状に巻回してなるフィルムロールを備えるロール状巻回体に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ等の表示装置においては、輝度、視野角、コントラスト等の光学特性を向上するために、位相差フィルム等の各種の光学フィルムが用いられる。光学フィルムは、例えば、加熱溶融押出法等を用いて製造される。加熱溶融押出法は、押出機が備えるダイスから溶融状態の樹脂を押し出した後、冷却ロールで冷却して長尺の光学フィルムを成形するものである。
【0003】
このような長尺の光学フィルムは、輸送や保管等の便宜のため、成形後、ロール状に巻回してフィルムロールとされるが、光学フィルムの表面は平滑であるため、巻回する際に、内側のフィルムとこれに接触される外側のフィルムとの間の相互の密着力が強いため、空気を巻き込み適正な巻回が行えなかったり、巻回体とした後にロールから引き出す際に適正に剥離できずに光学フィルムを損傷したりする場合がある。
【0004】
そこで、このような光学フィルムを巻回する際には、該光学フィルムに保護フィルムを剥離可能に積層(接合)して、これらをロール状に巻回してフィルムロールとすることが行われている。保護フィルムの表面には適宜に表面粗さが付与され、積層フィルム(光学フィルムと保護フィルムを積層したもの)を巻回することによって、相互間の密着性が緩和され、適正な巻回およびロールからの引き出しを行い得るようにしている。なお、保護フィルムは光学フィルムの保護のためだけに用いられるもので、製品に組み込まれる際には保護フィルムは剥離され、該光学フィルムのみが用いられる。
【0005】
このような積層フィルムからなるフィルムロールは、その外周を樹脂シート等の一次梱包材によって包装し、さらにフレームと樹脂シート等を有するテント状の二次梱包材に収納して、輸送、保管される。
【0006】
しかしながら、このような梱包材で梱包してフィルムロールを輸送、保管した際に、フィルムロールの一部が座屈して皺が発生する現象(以下、バックリングということがある)が起こり、光学フィルムの光学特性を劣化させてしまう場合があるという問題があった。このバックリングは、ロール表層の該ロールの長手方向(幅方向)の中央部付近に発生することが多く、周囲環境に比較的に急激な温度変化が生じた場合に、フィルムロールの中心(軸心)に近い部分と表層に近い部分との間に温度差が生じ、これらの間の熱膨張差や光学フィルムと保護フィルムとの間の熱膨張率差等によって生じるものである。
【0007】
なお、下記特許文献1には、粘着テープや磁気テープ等の熱硬化性樹脂フィルムをロール状に巻回したロール状フィルムの外周面を断熱性を有する梱包材で径方向内側に略均一に加圧した状態で加熱することにより、フィルムを巻回した際に巻き込んだ空気を該ロールの端部から外部に放出させつつ該フィルムを熱硬化させるようにした技術が開示されている。
【0008】
しかし、この技術は、上述したような熱可塑性樹脂かなる光学フィルムと保護フィルムとを積層したフィルムをロール状にしたフィルムロールを対象とするものではなく、輸送、保管時にフィルムロールの中心(軸心)に近い部分と表層に近い部分との間に生じる温度差に伴う熱膨張差等によって発生する上述したバックリングによる光学フィルムの光学特性の劣化を抑制するためのものではない。また、上述したような光学フィルムと保護フィルムとを積層したフィルムをロール状にしたフィルムロールを特許文献1に記載されたような包装材で加圧すると、光学フィルムの光学特性を劣化させる原因となる可能性がある。
【0009】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、熱可塑性樹脂かなる光学フィルムと保護フィルムとを積層したフィルムをロール状にしたフィルムロールの輸送、保管時における温度変化に伴うバックリングの発生を抑制し、光学フィルムの光学特性の劣化を抑制することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−8874号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るロール状巻回体は、熱可塑性樹脂からなる長尺の光学フィルムの片面に、該光学フィルムと熱膨張率の異なる熱可塑性樹脂からなる長尺の保護フィルムを剥離可能に積層してロール状に巻回してなるフィルムロールと、前記フィルムロールの表面の少なくとも一部を覆うように配置された断熱シートとを備えるロール状巻回体である。
【0012】
本発明に係るロール状巻回体は、フィルムロールが以下の構成である場合に、特に効果的である。
【0013】
(1)前記光学フィルムの厚みをT1(μm)、前記保護フィルムの厚みをT2(μm)として、
T1×0.1<T2<T1×1.2
の関係を満たすフィルムロール
(2)前記光学フィルムの幅方向の線膨張係数をα1(1/K)、前記保護フィルムの幅方向の線膨張係数をα2(1/K)として、
3.0×10−5≦α1≦10.0×10−5
1.0×10−4≦α2≦5.0×10−4
の関係を満たすフィルムロール
(3)前記保護フィルムの両面のうちの少なくとも一方の面の三次元中心線平均粗さをSRa(nm)として、
10<SRa<1500
の関係を満たすフィルムロール
本発明において、前記断熱シートは、気泡緩衝シートと、この気泡緩衝シートの少なくとも一方の面に貼着される金属薄膜とを備えて構成され、該断熱シートの熱抵抗値をR(K/W)として、
5.0≦R≦11.0
の関係を満たすものを用いることができる。
【0014】
また、本発明において、前記フィルムロールの幅方向の寸法をW1(mm)とし、前記断熱シートの幅方向の寸法をW2(mm)として、
W1≧W2≧W1×0.6の関係を満たし、
前記断熱シートを前記フィルムロールの幅方向の中心位置を含み、当該中心位置を基準として、幅方向の両側に略均等に配置することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、熱可塑性樹脂からなる長尺の光学フィルムの片面に、該光学フィルムと熱膨張率の異なる熱可塑性樹脂からなる長尺の保護フィルムを剥離可能に積層してロール状に巻回してなるフィルムロールを構成し、このフィルムロールの表面の少なくとも一部を断熱シートで覆うようにしたので、輸送、保管時等において、周囲環境に温度変化が発生した場合であっても、フィルムロールの中心(軸心)に近い部分と表層に近い部分との間に温度差が生じることが抑制され、これらの間の熱膨張差等によって生じるバックリングを効果的に抑制することができ、光学フィルムの光学特性の劣化を抑制することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態の光学フィルムと保護フィルムを積層したフィルムロールの製造ラインの概略を示す図である。
【図2】本発明の実施形態のフィルムロールを支持部材に支持した状態を示す斜視図である。
【図3】図2のフィルムロールに一次梱包を施した状態を示す斜視図である。
【図4】図3の一次梱包を施したフィルムロールに断熱シートを巻き付けた状態を示す斜視図である。
【図5】図4の断熱シートを巻き付けたフィルムロールの全体を二次梱包した状態を示す斜視図である。
【図6】本発明の実施形態の断熱シートの構成を示す断面図である。
【図7】本発明の実施形態のフィルムロールに対する断熱シートの大きさの割合および配置を示す図である。
【図8】フィルムロールに発生するバックリングの一例を示す斜視図である。
【図9】本発明の実施例における実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
光学フィルムと保護フィルムとを積層した積層フィルムをロール状に巻回してなるフィルムロールの製造ラインは、図1に示すように、長尺の光学フィルム1を成形するフィルム成形装置11と、フィルム成形装置11により成形された光学フィルム1(加工前)を当該光学フィルムに付与する光学的性質に応じて加工するフィルム加工装置12と、加工後の光学フィルム2の片面に保護フィルム3を積層する一対のロール13a,13bを有する積層装置13と、積層装置13により積層された積層フィルム4を巻き取ってフィルムロール5とする巻取装置14とを概略備えている。ここで、長尺とは、フィルムの幅方向に対し少なくとも5倍程度以上の長さを有するものを言い、好ましくは10倍もしくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻回されて保管または運搬される程度の長さを有するものを言う。
【0019】
フィルム成形装置11は、原料となる非晶性の熱可塑性樹脂(ペレット)を加熱・溶融し、ダイスからフィルム状に押し出し、これを複数の冷却ロールで冷却して、必要に応じて幅方向の両端部を裁断(トリミング)して、長尺の光学フィルム1を連続的に排出する装置である。なお、製造される光学フィルムの厚さは、10〜500μm程度である。
【0020】
前記非晶性の熱可塑性樹脂としては、例えば、メタクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、脂環式構造を有する重合体樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等を用いることができる。これらの中で、脂環式構造を有する重合体樹脂を好適に用いることができる。脂環式構造を有する重合体樹脂は、流動性が良好なので、膜厚むらの小さい厚さ精度の良好なフィルムを製膜することができ、吸湿性が極めて低いので、寸法安定性に優れたフィルムを得ることができる。
【0021】
脂環式構造を有する重合体樹脂としては、例えば、ノルボルネン系単量体の開環重合体もしくは開環共重合体またはそれらの水素添加物、ノルボルネン系単量体の付加重合体もしくは付加共重合体またはそれらの水素添加物、単環の環状オレフィン系単量体の重合体またはその水素添加物、環状共役ジエン系単量体の重合体またはその水素添加物、ビニル脂環式炭化水素系単量体の重合体もしくは共重合体またはそれらの水素添加物、ビニル芳香族炭化水素系単量体の重合体または共重合体の芳香環を含む不飽和結合部分の水素添加物などを挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系単量体の重合体の水素添加物であるノルボルネン系重合体樹脂は、製膜性が良好であり、機械的強度と耐熱性と透明性に優れるので、より好適に用いることができる。
【0022】
フィルム加工装置12は、フィルム成形装置11から排出される光学フィルム1を、縦または横の一軸延伸、逐次二軸延伸、同時二軸延伸、または斜め延伸する延伸装置等である。フィルム加工装置12は、フィルム成形装置11から排出される光学フィルム1を、液晶表示装置等の表示装置に用いられる、例えば、位相差フィルム、偏光フィルム、および輝度向上フィルム等の光学フィルムに加工して、光学フィルム2として連続的に排出する装置である。前記延伸装置としては、例えば、光学フィルム1の両端を把持する一対の把持子(テンター)を有するテンター装置が用いられる。なお、本実施形態では、光学フィルム2としては、脂環式構造を有する重合体樹脂からなる位相差フィルムとする。フィルム加工装置12から排出された光学フィルム2は、積層装置13の一対のロール13a,13bの間に供給される。
【0023】
保護フィルム3は、熱可塑性樹脂からなる長尺のフィルムをロール状に巻回してなるフィルムロール6として供給される。フィルムロール6は、フィルム繰出装置15により保護フィルム3として繰り出されて、積層装置13の一対のロール13a,13bの間に、光学フィルム2の一方の面(図中下側)に積層(接合)するように供給される。なお、本実施形態では、保護フィルム3としてフィルムロール6としたものを用いているが、フィルム成形装置11と同様な構成を有するフィルム成形装置によって成形して、積層装置13に供給するようにしてもよい。
【0024】
保護フィルム3の材料としては、保護対象としての光学フィルム2と積層した際および剥離する際に、光学フィルム2に対して影響を与えないように、化学的・物理的性質、密着性、剥離性等を考慮して最適なものが選定される。ここでは、脂環式構造を有する重合体樹脂からなる位相差フィルムとしての光学フィルム2に最適な保護フィルムとして、光学フィルム2と熱膨張率の異なる熱可塑性樹脂としての低密度ポリエチレン(LDPE)からなるものを用いることができる。
【0025】
ここで、光学フィルム2および保護フィルム3のそれぞれの厚みは、光学フィルムの厚みをT1(単位:μm)、保護フィルムの厚みをT2(単位:μm)として、T1×0.1<T2<T1×1.2とすることができ、保護フィルムの厚み比率を小さくすることが好ましい。また、光学フィルム2および保護フィルム3の幅方向の線膨張係数は、光学フィルムの幅方向の線膨張係数をα1(単位:1/K)、保護フィルムの幅方向の線膨張係数をα2(単位:1/K)として、3.0×10−5≦α1≦10.0×10−5のものを用いることができ、また、1.0×10−4≦α2≦5.0×10−4のものを用いることができる。また、α1とα2との間では、α1≦α2≦α1×8とし、線膨張係数の差が小さい方が好ましい。本発明によれば、このような数値範囲のフィルムを用いても、バックリングの発生を抑えることができる。
【0026】
なお、本実施形態では、光学フィルム2の厚みT1はT1=30μmまたはT1=60μm、保護フィルム3の厚みT2はT2=30μmのものを用いている。また、光学フィルム2の幅方向の線膨張係数α1はα1=5×10−5(1/K)、保護フィルム3の幅方向の線膨張係数α2はα2=3×10−4(1/K)のものを用いている。
【0027】
なお、前記線膨張係数は、熱分析装置(エスアイアイナノテクノロジー社製「EXSTAR TMA/SS6100」で測定した値であり、その条件は、昇温速度5℃/min、荷重49N、測定温度0〜50℃、試験サンプル3×5mmとした。また、前記フィルムの厚みは、スナップゲージ(ミツトヨ社製「スナップゲージID547−301を用いて、幅方向に5cm間隔で厚みを測定し、その平均値を用いた。
【0028】
また、保護フィルム3としては、その両面が平滑なものを用いることもできるが、保護対象である光学フィルム2との密着性、剥離性、およびバックリングの抑制等の観点から、少なくとも一方の面の表面粗さを大きくして粗面としたものを用いることが好ましい。上記粗面が形成された保護フィルム3は、例えば、平滑な面として形成された保護フィルムを用意し、この保護フィルムの成形時または成形後に適宜に加熱して、その表面に適宜な表面粗さが付与されたロール等の型で加圧することにより転写・付与することによって得ることができる。保護フィルム3に付与される粗面の表面粗さとしては、三次元中心線平均粗さをSRa(単位:nm)として、10<SRa<1500(nm)の範囲とすることができる。なお、三次元十点平均粗さSRz(単位:nm)では、500<SRz<10000(nm)の範囲とすることができる。ここで、表面粗さは、3次元表面構造解析顕微鏡(ザイゴ社製、「Zygo New View 2000」で測定した値である。
【0029】
保護フィルム3の一方の面のみを粗面とする場合には、保護フィルム3の粗面となっていない側の面を光学フィルム2との密着(積層)面とする。保護フィルム3の両面を粗面とする場合には、光学フィルム2に密着(積層)される側の面(密着面)の表面粗さと、これと反対側の面(反対面)の表面粗さとは同一でも異なっていてもよい。光学フィルム2に密着(積層)される側の面の表面粗さと、これと反対側の面の表面粗さとを異ならせる場合には、表面粗さの小さい側の面を光学フィルム2との密着(積層)面とする。ここで、表面粗さが異なるとは、密着面のSRaと反対面のSRaとの比として示した場合に、反対面のSRa/密着面のSRaが1.2以上であることである。なお、反対面のSRa/密着面のSRaの上限は、フィルム同士が滑りすぎてしまうことから、10.0以下程度とすることが好ましい。本実施形態では、密着面のSRaが0.23μm、反対面のSRaが0.61μmの保護フィルムを用いた。
【0030】
光学フィルム2と保護フィルム3とは、積層装置13により積層(接合)され、これらが一体となった積層フィルム4が巻取装置14に供給される。なお、積層装置13の一対のロール13a,13bは、光学フィルム2の光学特性に影響を与えない程度であって、光学フィルム2と保護フィルム3とが密着する程度の圧力を加えて、これらを積層する。積層装置13による光学フィルム2と保護フィルム3との積層は、接着剤等は用いずに、フィルム同士の密着による吸着力のみによって行われる。従って、保護フィルム3は、光学フィルム2から剥離可能となっている。
【0031】
積層装置13により積層された積層フィルム4は、巻取装置14によってロール状に適宜な長さ分だけ巻き取られ、フィルムロール5とされる。
【0032】
このようにして製造されたフィルムロール5は、巻取装置14から取り出され、図2に示すように、輸送・保管用の支持装置21に支持される。支持装置21は、略矩形状の支持板の長手方向の両側部近傍に一対の支持腕21a,21aを有し、フィルムロール5の中心から突出して配置されている巻取軸5aの両端部を支持するものである。
【0033】
次いで、このように支持装置21に支持されたフィルムロール5は、図3に示すように、その外周面の全体(側面および両端面を含む)を樹脂シートからなる例えば筒状の一次梱包材7により包み込むことにより、一次梱包される。一次梱包材7は、フィルムロール5の端面において、その中心軸5aを露出させた状態で適宜に折りたたまれ、粘着テープ等により固定される。一次梱包材7は、フィルムロール5に外部からの異物の付着を防止するためのものであり、一次梱包材7としては、例えば、ポリエチレンからなるシートを用いることができる。
【0034】
次いで、図4に示すように、一次梱包されたフィルムロール5の表面(両端面を除く側面)の一部または全部を覆うように、断熱シート8を配置して(巻き付けて)、ロール状巻回体9とする。断熱シート8は、一次梱包されたフィルムロール5に巻き付けた状態で、例えば、粘着テープ等を用いて固定することができる。
【0035】
断熱シート8は、図6に示すように、気泡緩衝材からなる一対の気泡緩衝シート本体8a,8aを相互に接着した気泡緩衝シートと、この気泡緩衝シートの両面に貼着される、アルミ箔等からなる金属薄膜としての金属シート8b、8bとを備えて構成されている。気泡緩衝シート8aは単層または3層以上を積層したものであってもよい。断熱シート8としては、単層または複数層の気泡緩衝シート8aのみからなるものであってもよく、その一方の面のみにアルミ箔などの金属シート8bを貼着して構成したものであってもよい。本実施形態では、断熱シート8の熱抵抗値R(単位:K/W)は、5.0≦R≦11.0であることが好ましい。
【0036】
断熱シート8は、フィルムロール5の周方向の長さに相当する縦寸法が、一次梱包材7により梱包した状態でのフィルムロール5の外周の1周に相当する程度の寸法で形成されている。また、断熱シート8は、フィルムロール5の軸方向に設定される幅方向の寸法(横寸法)が、図7に示すように、フィルムロール5の幅方向(その中心軸に沿う方向)の寸法をW1(単位:mm)、断熱シート8の横寸法をW2(単位:mm)として、W1≧W2≧W1×0.6の範囲となるように形成されている。W1>W2とする場合には、断熱シート8をフィルムロール5の幅方向の中心位置Mを含み、当該中心位置Mを基準として、幅方向(左右)の両側に略均等(対称)の長さとなるように配置することが好ましい。
【0037】
W2=W1とすれば、断熱シート8による断熱効果がフィルムロール5の全体に及ぶが、バックリングは、図8に符号31で示すように、フィルムロール5の中心軸に沿う方向の中央部付近に発生する傾向があるので、W2≧W1×0.6、すなわちW1の6割程度でも十分に効果的である。このような範囲で、W2をW1よりも小さくすれば、効果をそれほど損なうことなく、断熱シート8として、より小さいものを用いることができるので、コストの低減に寄与できる。
【0038】
なお、上記では、断熱シート8の縦寸法は、一次梱包材7により梱包した状態でのフィルムロール5の外周の1周に相当する程度の寸法に設定したが、2周あるいは3周以上に相当する寸法に設定してもよい。あるいは、それぞれフィルムロール5の外周の1周に相当する程度の寸法に設定した断熱シートを複数枚重ねて巻き付けるようにしてもよい。
【0039】
最後に、図5に示すように、支持装置21に支持されたロール状巻回体9の外側を覆うように、金属または樹脂からなるフレーム10aと透明または半透明な樹脂シート10b等を有するテント状の二次梱包材10に収納される。ロール状巻回体9は、この状態で、輸送または保管される。
【0040】
上述した実施形態によると、熱可塑性樹脂かなる光学フィルム2と保護フィルム3とを積層した積層フィルム4をロール状に巻回したフィルムロール5の外周の一部または全部に断熱シート8を巻き付けているので、フィルムロール5の輸送や保管時において、周囲環境に比較的に急激な温度変化が生じた場合であっても、フィルムロール5の中心部分と表層部分との間の熱膨脹差等に伴い生じるバックリング(皺)の発生を効果的に抑制することができ、光学フィルム2の光学特性の劣化を最小限に留めることができる。
【実施例】
【0041】
光学フィルム(厚みT1=30μm、幅方向の線膨張係数α1=5.0×10−5)と、保護フィルム(厚み30μm、幅方向の線膨張係数α2=3.0×10−4、一方の面のSRa=0.23μm、他方の面のSRa=0.61μm)とを備えてなる、フィルム幅W1=1,330mmの積層フィルムを複数回巻回して直径約φ400mmのフィルムロールとし、その表面を上述した一次梱包材で包装し、その上に図6に示したアルミ両面貼りの気泡緩衝シート8a,8aからなる断熱フィルム8(幅W2=1,220mm、厚さ8mm、熱抵抗値R=5.3〜10.6)を巻き付け、さらに二次梱包を施して、不図示のオーブン(加熱装置)に収容した。この際、断熱フィルム8を1重に巻き付けたものをサンプル1として、3重に巻き付けたものをサンプル2として準備した。また、比較として、断熱フィルム8を巻き付けないものもサンプル3として準備した。ここで、本実施例では、T1×0.1<T2<T1×1.2の関係と、3.0×10−5≦α1≦10.0×10−5および1.0×10−4≦α2≦5.0×10−4の関係と、10<SRa<1500の関係を満たしていた。また、W2/W1=1220/1330=0.9であることから、W1≧W2≧W1×0.6の関係を満たしていた。
【0042】
サンプル1およびサンプル2について、オーブンに収容し、0.5℃/minの温度勾配で、温度20℃から50℃へ上昇させ、50℃の状態を約5時間継続した後に、25℃まで自然冷却させて低下させた。その経過を図9に示す。図9において、縦軸は温度(℃)、横軸は時間(min)であり、同図中、符号Aはオーブン内の温度推移を、符号Bはサンプル1についての一次梱包材内の温度(フィルムロール5の表層部分の温度)推移を、符号Cはサンプル1についてのロール中心部分の温度推移を、符号Dはサンプル2についてのロール中心部分の温度推移をそれぞれ示している。
【0043】
同図より、サンプル1の温度変化率は、25〜28℃の区間で0.07℃/min、28〜30℃の区間で0.06℃/min、30〜35℃の区間で0.03℃/minであった。サンプル1についての一次梱包内の温度変化率は、25〜34℃の区間で0.19℃/minであった。また、サンプル2の温度変化率は、25〜28℃の区間で0.05℃/min、28〜30℃の区間で0.04℃/min、30〜35℃の区間で0.02℃/minであった。なお、二次梱包内の温度変化率は0.45℃/minであった。
【0044】
25℃まで自然冷却した後、二次梱包、断熱シートおよび一次梱包を除去して、フィルムロール5の表層を目視確認したところ、バックリングの発生は認められなかった。なお、サンプル3についても同様の加熱実験を行い、自然冷却後、その表層を目視確認したところ、バックリングの発生が認められた。なお、1重の断熱シートよりも3重の断熱シートの方が効果は当然に高いが、それほど顕著ではないため、1重の断熱シートで十分であるといえる。
【0045】
以上説明した実施形態および実施例は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。従って、上述した実施形態または実施例に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0046】
1…光学フィルム(加工前)
2…光学フィルム(加工後)
3…保護フィルム
4…積層フィルム
5…フィルムロール(積層フィルム)
6…フィルムロール(保護フィルム)
7…一次梱包材
8…断熱シート
8a…気泡緩衝シート
8b…金属シート
9…ロール状巻回体
10…二次梱包材
21…支持装置
31…バックリング(皺)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる長尺の光学フィルムの片面に、該光学フィルムと熱膨張率の異なる熱可塑性樹脂からなる長尺の保護フィルムを剥離可能に積層してロール状に巻回してなるフィルムロールと、
前記フィルムロールの表面の少なくとも一部を覆うように配置された断熱シートとを備えるロール状巻回体。
【請求項2】
前記光学フィルムの厚みをT1(μm)、前記保護フィルムの厚みをT2(μm)として、
T1×0.1<T2<T1×1.2
の関係を満たす請求項1に記載のロール状巻回体。
【請求項3】
前記光学フィルムの幅方向の線膨張係数をα1(1/K)、前記保護フィルムの幅方向の線膨張係数をα2(1/K)として、
3.0×10−5≦α1≦10.0×10−5
1.0×10−4≦α2≦5.0×10−4
の関係を満たす請求項1または2に記載のロール状巻回体。
【請求項4】
前記保護フィルムの両面のうちの少なくとも一方の面の三次元中心線平均粗さをSRa(nm)として、
10<SRa<1500
の関係を満たす請求項1〜3のいずれか一項に記載のロール状巻回体。
【請求項5】
前記断熱シートは、気泡緩衝シートと、この気泡緩衝シートの少なくとも一方の面に貼着される金属薄膜とを備えて構成され、該断熱シートの熱抵抗値をR(K/W)として、
5.0≦R≦11.0
の関係を満たす請求項1〜4のいずれか一項に記載のロール状巻回体。
【請求項6】
前記フィルムロールの幅方向の寸法をW1(mm)とし、前記断熱シートの幅方向の寸法をW2(mm)として、
W1≧W2≧W1×0.6の関係を満たし、
前記断熱シートを前記フィルムロールの幅方向の中心位置を含み、当該中心位置を基準として、幅方向の両側に略均等に配置した請求項1〜5のいずれか一項に記載のロール状巻回体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−221625(P2010−221625A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73682(P2009−73682)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】