説明

ロール補正を備えたハンドヘルドポインティングデバイス

ポインティングデバイスには、プロセッサに結合される加速度計および回転センサが含まれる。プロセッサは、加速度計および回転センサをサンプリングして重力およびポインティングデバイスの移動を検出し、かつ代数アルゴリズムを用いて、ロール補正されたカーソル制御信号を計算する。プロセッサは、視覚ディスプレイ上でカーソルを移動させる電子装置に結合された受信機にカーソル制御信号を送信する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ポインティングデバイスによって、ユーザは、自分の動作に応じて、コンピュータディスプレイ上でカーソルまたは他のインジケータを移動させることが可能になる。通常のコンピュータマウスポインティングデバイスは、2次元平面上の水平移動をコンピュータスクリーン上の対応するカーソル移動に変換する。マウスにはセンサが含まれるが、このセンサは、典型的には表面上の移動を検出するレーザまたはローラーボールセンサである。
【0002】
3次元空間で動作し、かつ表面上の移動の検出を必要としない他のタイプのポインティングデバイスが設計された。移動検出機構には、ポインティングデバイスの回転移動を検出するジャイロスコープ、および直線移動を検出する加速度計が含まれる。ジャイロスコープおよび加速度計は、ポインティングデバイスの移動に対応する信号を発し、かつコンピュータスクリーン上のカーソルの移動を制御するために用いられる。ハンドヘルド角度検出コントローラの例が、1999年4月27日にThomas J. Quinnに付与された「ジャイロスコープポインタおよび方法(GYROSCOPIC POINTER AND METHOD)」なる名称の米国特許第5,898,421号明細書、および1995年8月8日にThomas J. Quinnに付与された「ジャイロスコープポインタ(GYROSCOPIC POINTER)」なる名称の米国特許第5,440,326号明細書に説明されている。既存の3次元ポインティングデバイスに関する問題は、次のことである。すなわち、ユーザが、水平からオフセットされた角度で自然にデバイスを保持した場合に、ポインティングデバイスの移動がロール角の分だけオフセットされたカーソル移動に帰着すること、つまりロール角で保持されたポインティングデバイスの水平移動が、コンピュータスクリーン上のカーソルの角度付き移動に帰着することである。
【0003】
いくつかのポインティングデバイスは、ユーザの自然な手の位置に対してロール補正を提供することができる。しかしながら、既存のロール補正されたポインティングデバイスに関する問題は、それらが、非常に複雑な三角マトリックスアルゴリズムであって、著しい量の電力を消費し、かつより高価な高出力プロセッサを必要とするアルゴリズムを利用するということである。安価なまたは低出力の処理装置にとっては、三角法形式は、計算プロセスを減速し、リアルタイムの計算制約で動作することを困難にする。ポインティングデバイスは、コードレスデバイスであるのが好ましいので、より強力なプロセッサを動作させるために用いられる携帯電池は、頻繁な充電または取り替えを必要とする可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
必要なものは、安価な低出力プロセッサを使用でき、かつ電池寿命を実質的に改善できるように、よりエネルギ効率のよい方法でロール補正を実行する、改良されたポインティングデバイスである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、加速度計および回転センサからのデータを用いて代数ロール補正アルゴリズムを計算するために、低出力プロセッサを用いる3次元ポインティングデバイスに関する。本発明のポインティングデバイスは、先行技術より作製が安価で、はるかにエネルギ効率がよい。ポインティングデバイスは、ポインティングデバイスの幅にわたって延びる横方向X軸、ポインティングデバイスの重心軸に沿って延びるY軸、およびポインティングデバイスの中心から上に延びる垂直Z軸を有する。移動を検出するために、ポインティングデバイスには、X、YおよびZ方向における重力および加速度を検出する加速度計と、ピッチにおいてX軸およびヨーにおいてZ軸を中心とするポインティングデバイスの回転速度を測定するジャイロスコープと、が含まれる。
【0006】
加速度計およびジャイロスコープは、マイクロプロセッサに結合されるが、このマイクロプロセッサは、電子装置に結合されたディスプレイスクリーン上でカーソルを移動するために用いられる、ロール補正されたカーソル制御信号に、加速度計およびジャイロスコープ信号を変換する。ポインティングデバイスにはまた、ソフトウェアユーザインタフェースと対話するためにもまた使用できる1つまたは複数のボタンおよびスクロールホイールを含むことができる。ポインティングデバイスは、送信システムを有することができ、その結果、ポインティングデバイス出力信号は、無線周波数または赤外光信号などの無線インタフェースを介して、電子装置に送信することができる。ユーザは、3次元空間において本発明のポインティングデバイスを垂直および水平に移動させて、コンピュータスクリーン上の目標位置にカーソルを移動させることによって、ソフトウェアを制御するようにポインティングデバイスを用いることができる。次に、ユーザは、ポインティングデバイス上のボタンをクリックするか、またはスクロールホイールを回転させることによって、視覚ディスプレイに対する制御を作動させることができる。
【0007】
ポインティングデバイスが完全な水平方向に静止して保持された場合には、垂直Z方向加速度計は、重力の全てを検出し、水平XおよびY方向加速度計は、どんな重力も検出しないことになろう。しかしながら、ポインティングデバイスは、一般に、いくらかのロールを伴ってユーザにより保持されるので、重力の一部が、X、YおよびZ方向加速度計によって検出される。ロール補正を実行するために、ポインティングデバイスは、X、YおよびZ方向加速度計信号に基づいて、ユーザの手の位置の自然なロールを動的に検出し、かつロールを調整されたカーソル制御出力信号を絶えず更新する。本発明のポインティングデバイスの水平および垂直移動用のロール補正係数XcompおよびYcompは、代数アルゴリズムによって表される。
comp=[A+A]/AXZ
comp=[A−A]/AXZ
ここで、Aは、X方向における加速度であり、Aは、Zにおける加速度である。AXZは、式AXZ=[A+A1/2によって解かれるAおよびAのベクトル和であり、Rは、X軸を中心とする回転ピッチ速度であり、Rは、Z軸を中心とする回転ヨー速度である。システムが、ロールを動的に検出するので、本発明のシステムは、ロール補正を絶えず更新し、かつどんなユーザの手のロールにも自動的に適応する。
【0008】
本発明のポインティングデバイスの実施形態において、ポインティングデバイスのピッチ移動、ユーザ誘導加速度、およびポインティングデバイスの温度における変動に対して、カーソル移動XcompおよびYcompに補正を提供するために、追加的計算が実行される。ポインティングデバイスがピッチにおいて回転すると、Z軸ジャイロスコープは、垂直方向から離れるように角度を付けられる。これは、Z軸を中心とする回転速度の検出を減少させて、Xcomp値を低減する。実施形態において、ポインティングデバイスは、ピッチ角を検出し、ピッチ角を補正するために補正係数Xcompを増加させる。
【0009】
ユーザ誘導加速度は、ポインティングデバイスの回転中心からの、加速度計のオフセット位置によって引き起こされる。ユーザがポインティングデバイスを移動させると共に、加速度計は、ポインティングデバイスの回転移動を検出する。実施形態において、システムは、加速度計において回転加速度を計算し、回転加速度を補正するために、加速度計出力信号を調整する。別の実施形態において、システムは、加速度計において求心加速度を計算し、それに応じて加速度計信号を調整する。ユーザ誘導回転加速度を除去することによって、加速度計信号の重力成分を分離し、ポインティングデバイスのロールを正確に検出することができる。
【0010】
運動センサ出力が温度変動によって変えられた場合には、温度補正が必要とされる可能性がある。温度補正は、ポインティングデバイスにおける温度の変化を検出すること、および温度変化が検出された場合には、補正係数を運動センサ信号に適用することによって実行される。実施形態において、ポインティングデバイスには、温度を周期的に検出する温度トランスデューサが含まれる。温度の実質的な変化が検出された場合には、温度補正係数が、回転センサ出力に適用される。
【0011】
ロール補正および他の補正式が、非常に簡単な代数アルゴリズムを用いるので、電気エネルギをほとんど必要としない基本プロセッサを本発明のポインティングデバイスに用いることができる。実施形態において、プロセッサは、約4MHz以下で動作する8ビットマイクロコントローラまたは16ビットRISC(縮小命令セットコンピュータ)プロセッサである。これらの動作条件下では、本発明のポインティングデバイスのプロセッサに電力を供給するために用いられる電池は、数か月にわたって使用し続けることが可能である。これは、12〜16MHzで動作し、かつはるかに多くのエネルギを消費する一層強力なプロセッサを必要とする三角法またはマトリックスベースのロール補正アルゴリズムを用いるポインティングデバイスに勝る著しい改良である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】X、Y、Z座標系におけるポインティングデバイスを示す。
【図2】本発明のポインティングデバイスのブロック図を示す。
【図3】視覚ディスプレイを有する電子装置と共に用いられるポインティングデバイスを示す。
【図4】ロール補正を有しないポインティングデバイス、および視覚ディスプレイを示す。
【図5】加速度信号AおよびAが図で示された、ロール角におけるポインティングデバイスを示す。
【図6】回転速度信号RおよびRが図で示された、ロール角におけるポインティングデバイスを示す。
【図7】ポインティングデバイスの上面断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1を参照すると、ハンドヘルド移動検出ポインティングデバイス101の実施形態が示されている。ポインティングデバイス101は、互いに直角なX、YおよびZ軸によって定義された3次元デカルト座標系内で動作する。X、YおよびZ座標系の中心点は、ポインティングデバイス101の回転の中心である。X軸105は、ポインティングデバイス101の幅にわたって延び、Y軸107は、重心軸に沿って延び、Z軸109は、ポインティングデバイス101の中心から上に延びる。ポインティングデバイス101用の座標系は、「本体座標系」として周知である。
【0014】
ポインティングデバイス101には、X、YおよびZ方向加速度計111、112、113を含んでもよく、これらの加速度計は、それぞれ、互いに直角に実装され、かつX、YおよびZ方向における加速度および重力を検出する。X、YおよびZ方向加速度計は、ポインティングデバイス101用の加速の各方向成分に対応する加速度値A、AおよびAを出力する。合計加速度は、A、AおよびAのベクトル和AXYZであり、これは、式AXYZ=[A+A+A1/2によって表される。
【0015】
ポインティングデバイス101にはまた、回転速度を測定するX軸ジャイロスコープ115およびZ軸ジャイロスコープ117が含まれる。X軸ジャイロスコープ115は、X軸105を中心とするピッチにおける、ポインティングデバイス101の回転速度を検出し、Z軸ジャイロスコープ117は、Z軸109を中心とする回転速度ヨーを検出する。
【0016】
ユーザがポインティングデバイス101を移動させる場合に、移動は、一般に、加速度計111、112、113によって検出される平行移動の組み合わせであり、回転は、X軸およびZ軸ジャイロスコープ115、1179によって検出される。手、手首および腕は、関節を中心に動くので、ポインティングデバイスの垂直移動は、X軸105を中心とする回転速度を生じ、水平移動は、Z軸109を中心とする回転速度を生じる。
【0017】
図2を参照すると、本発明のポインティングデバイスのコンポーネントのブロック図が示されている。X、YおよびZ加速度計111、112、113、ならびにX軸およびZ軸回転センサ115、117が、プロセッサ205に結合されている。加速度センサおよび回転センサに加えて、後で論じる温度信号補正を実行するために用いられる温度センサ217をプロセッサ205に結合してもよい。マウスボタン209およびスクロールホイール211を含む追加の入力装置をプロセッサ205に結合してもよい。プロセッサ205はまた、較正、変換、フィルタリング等を含む追加の信号処理を実行してもよい。プロセッサ205は、以下で説明する方法で、ポインティングデバイス用のロール補正を実行し、かつ補正されたカーソル制御信号を生成するが、これらの信号は、ボタン/スクロールホイール信号で送信機215に転送され、送信機215は、これらの信号を、ディスプレイを有する電子装置に結合された受信機に送信する。
【0018】
図3を参照すると、ポインティングデバイス101は、移動を検出して、カーソル制御信号を、視覚ディスプレイ161を有する電子装置157に結合された受信機151に送信する。視覚ディスプレイ161は、カーソル163の位置および移動を視覚ディスプレイ161上に示すために用いられ、かつ「ユーザ座標系」として周知のXおよびY軸座標系を有する。X軸105を中心とするポインティングデバイス101の回転は、視覚ディスプレイ161の垂直Y方向におけるカーソル163の移動を引き起こし、Z軸109を中心とする回転は、カーソル163の水平X移動を引き起こす。カーソル163の移動の速度は、回転速度の大きさに比例する。したがって、ポインティングデバイス101の回転が停止された場合には、カーソル163の移動もまた停止される。ポインティングデバイス101の移動およびディスプレイ161スクリーン上のカーソル163の移動を適切に調和させるために、カーソル163の移動信号にスケーリングプロセスを適用することができる。カーソル163用の移動制御信号が説明されるが、他の実施形態において、本発明のシステムおよび方法は、任意のタイプの視覚ディスプレイ上の、任意の他のタイプのオブジェクトまたはマーカの移動を制御するために用いることができる。
【0019】
背景技術の部で論じたように、人々は、完全な水平方向ではなく、Y軸を中心としてわずかなロール角で物体を保持する。ロール補正を提供しないポインティングデバイスが、傾斜して保持された場合には、ポインティングデバイス内の加速度計およびジャイロスコープは、全て、地面に対してロール角の分だけオフセットされる。このロール角によって、ポインティングデバイスにおける加速度計およびジャイロスコープの出力は、ロール角の分だけオフセットされる。図4を参照すると、ポインティングデバイス101がロール角θで保持され、かつ水平軸を中心とし回転して移動された場合には、X軸ジャイロスコープおよびZ軸ジャイロスコープの両方とも回転速度を検出し、カーソル163は、視覚ディスプレイ161のY垂直方向だけではなく、XおよびY方向に傾斜して移動する。
【0020】
この問題を解決するために、本発明のポインティングデバイスは、ユーザがポインティングデバイスを保持するロール角に関係なく、ポインティングデバイスの移動に基づいてカーソルが移動するように、ロール補正を提供する。図5を参照すると、ポインティングデバイス101が、ロール角θで保持された場合には、XおよびZ方向の加速度計は、両方とも、いくらかの重力加速度を検出し、加速度信号AおよびAを発する。加速度信号AおよびA成分の大きさを比較することによって、ポインティングデバイス101のロール角θは、式θ=arctan(A/A)によって計算することができる。ロール補正計算に必要な別の値は、AおよびAのベクトル和であり、これは、式AXZ=[A=A1/2によって定義される。
【0021】
ポインティングデバイスのロール角θはまた、X軸およびX軸ジャイロスコープからの回転速度出力RおよびRを変化させる。RおよびR回転成分の大きさによって形成される角度は、θによって表される。ロール角θのように、回転成分角度θは、式θ=arctan(R/R)によって計算される。RおよびR回転成分のベクトル和は、式RXZ=(R+R1/2によって計算される。図6を参照すると、ポインティングデバイス101が、ピッチにおいて上方向、かつヨーにおいて左回りの等しい回転速度で回転して対角線上に移動される場合には、ポインティングデバイスは、大きさが等しいR回転信号621およびR回転信号623を発するはずである。しかしながら、ポインティングデバイスのロールによって大きさがシフトされ、ベクトル和RXZは一定のまま、R回転625を増加させてR回転627を減少させる。
【0022】
本発明のポインティングデバイスのためのXcompおよびYcomp用の基本ロール補正式を用いて、視覚ディスプレイ上のカーソルのためのXおよびY移動信号用のロール補正を提供する。XcompおよびYcomp補正係数は、回転速度のベクトル和RXZと、加速度成分の角度θおよび回転速度成分の角度θの和の正弦および余弦と、に基づいている。基本ロール補正式は次の通りである。
comp=RXZsin(θ+θ
comp=RXZcos(θ+θ
【0023】
(θ+θ)の正弦および余弦を計算することは可能であるが、これらの三角法計算は、かなり困難であり、かなりの量の処理能力を必要とする。したがって、この計算を実行するポインティングデバイスは、強力なマイクロプロセッサ、およびマイクロプロセッサを動作させる、より大きな電源を必要とする。より効率的なロール補正ポインティングデバイスを作るために、正弦および余弦関数は単純化される。基本XcompおよびYcomp式は、以下の等価な式に変換される。
sin(θ+θ)=sin(θcos(θ)+cos(θsin(θ
cos(θ+θ)=cos(θcos(θ)−sin(θsin(θ
【0024】
図5を参照すると、正弦および余弦関数は、直角三角形の幾何学的関係を表す。例において、直角三角形の直角辺は、AおよびAの大きさによって表されている。第3の辺の長さはAXZであり、これは、[A+A1/2と等しい。角度θは、辺AおよびAXZ間である。正弦および余弦関数は、三角比によって置き換えることができる。すなわち、sinθ=A/AXZ、cosθ=A/AXZ、sinθ=R/RXZ、およびcosθ=R/RXZである。これらの正弦および余弦の同値を、XcompおよびYcomp式に代入することによって、簡略化されたXcompおよびYcomp式は、次のようになる。
comp=RXZ[A/AXZ/RXZ+A/AXZ/RXZ
comp=RXZ[A/AXZ/RXZ−A/AXZ/RXZ
【0025】
式は、次のようにさらに簡略化される。
comp=[A+A]/AXZ
comp=[A−A]/AXZ
【0026】
簡略化されたロール補正アルゴリズムは、いくつかの利点を提供する。ロール補正カーソル信号用にこれらの純粋な代数アルゴリズムを用いることによって、XcompおよびYcompは、非常に低減された計算要件で計算され、計算を実行するために必要なエネルギを大幅に低減する。電力をほとんど消費せず、かつポインティングデバイスが、携帯電池で、はるかに長い期間にわたって動作できるようにし、充電または取り替え間の電池寿命を延ばす低出力プロセッサを用いることができる。低出力プロセッサはまた、より高出力なプロセッサよりはるかに安価なコンポーネントである。したがって、本発明のポインティングデバイスの製造コストは、著しく低減することができる。要するに、本発明の代数ベースのロール補正ポインティングデバイスは、三角法ベースのロール補正アルゴリズムを用いるポインティングデバイスに勝る多くの利点を有する。
【0027】
本発明のポインティングデバイスが用いられる場合には、代数XcompおよびYcompアルゴリズムは、全ての検出された移動に応答するために絶えず計算されている。全ての意図した移動に直ちに応答するために、運動センサは、絶えずサンプリングされ、A、A、RおよびRの値は、絶えず更新される。このサンプリングは、ポインティングデバイスが移動および静止している場合に、行ってもよい。実施形態において、加速度計および回転センサは、ほぼ2ミリ秒ごとに1回サンプリングされる。センサの読み取り誤差が生じる可能性があるので、システムには、疑わしいデータポイントを削除するための機構を含んでもよい。実施形態において、システムは、各センサ用に4つの読み取り値が取得されて高および低値が廃棄されるサンプリングシステムを利用する。次に、A、A、A、RおよびR用の2つの中間センサ読み取り値が、XcompおよびYcompを計算するために、平均されてプロセッサに転送される。XcompおよびYcompの計算が、どの4つのセンサ読み取り値に対しても1回実行されるので、センサ用の報告時間は、ほぼ8ミリ秒ごとになり得る。
【0028】
基本ロール補正の補正システムおよび方法を上記で説明したが、本発明のポインティングデバイスに追加的な調整を適用して、XcompおよびYcompカーソル制御信号における潜在的な誤差をさらに補正することができる。実施形態において、Xcomp値は、ポインティングデバイスのピッチに対して補正される。ポインティングデバイスが、ピッチにおいて水平方向から離れるように回転すると、Z軸回転センサは、垂直方向から離れるように角度を付けられ、検出されるZ軸回転速度Rは低減される。ピッチ用のXcomp値を補正するために、補正係数AXYZ/AXZが適用される。ここで、AXYZ=[A+A+A1/2であり、AXZ=[A+A1/2である。Aが水平に整列されるので、重力は小さく、AXYZ/AXZは、ポインティングデバイスが水平の場合には約1.0である。ポインティングデバイスが、ピッチにおいて水平から離れるように回転するときには、A信号が増加し、その結果、AXYZ/AXZもまた、増加したピッチと共に値が増加する。ピッチ補正は、以下の式においてXcompに適用される。
comp=[A+A]/AXZ[AXYZ/AXZ
【0029】
comp用のピッチ補正とは対照的に、Ycompには補正係数が必要ではない。X軸回転センサは、X軸と整列され、X軸を中心とするピッチ回転速度を検出する。したがって、Ycompは、ポインティングデバイスがピッチで移動された場合には、低減されない。ピッチがYcompを変化させないので、ピッチ補正は、Ycompには適用されない。
【0030】
ポインティングデバイスに適用できる別の補正は、加速度計によって検出できるユーザ誘導回転加速度用の補正である。加速度計がポインティングデバイスの正確な中心には位置していないので、ポインティングデバイスの回転は、加速度計によって検出されるユーザ誘導加速度を引き起こし、かつ加速度計出力信号A、AおよびAにおける誤差に帰着する。ユーザ誘導加速度には、回転加速度および求心加速度を含むことができる。これらの加速度を動的に検出および計算することにより、本発明のシステムは、補正係数を出力信号A、AおよびAに適用してユーザ誘導加速度を除去することができる。次に、加速度計によって検出された重力は、分離され、結果として、より正確なロール補正計算をもたらすことができる。
【0031】
回転加速度は、ポインティングデバイスの回転速度に変化がある場合に加速度計によって検出される。加速度計がポインティングデバイスの回転中心には位置していないので、どんな回転加速度も、式A=ΔR/Δ時間lに基づいて、加速度計の線形加速を引き起こす。回転加速度は、ΔR/Δ時間であり、かつ各回転センササンプル間の速度の差を検出すること、およびこの差をサンプル時間で割ることによって、決定することができる。支点アーム長さlは、それぞれ、X、YおよびZ加速度計のそれぞれに対して異なることができ、l、lおよびlによってそれぞれ表してもよい。X、YおよびZ加速度計が、単に一方向における加速度を検出するだけなので、支点アーム長さは、加速度計と、検出方向に直角な回転軸との間の距離である。
【0032】
図7を参照すると、ポインティングデバイス101の上面図が示されている。X方向加速度計111の線形加速度は、Z軸を中心とするポインティングデバイス101の回転加速度321に、支点アームの長さl323を掛けることによって計算される。支点アーム長さl323は、Z軸327から、X方向においてX方向加速度計111を通過する線329までの垂線の長さに等しい。長さl323が、線329およびZ軸327の両方に直角であることに留意されたい。同様に、Z方向加速度計の線形加速度は、X軸を中心とするポインティングデバイスの回転加速度と支点アーム長さlとを乗算したものであり、支点アーム長さlは、X軸から、Z方向においてZ方向加速度計を通過する線までの垂線の長さである。場合によっては、正確な支点アーム長さlおよびlを決定するのが困難な場合があり、近似的な長さを用いて、回転加速度を計算することができる。実施形態において、ユーザ誘導回転加速度は、次の式に基づいて、検出された加速度から減算される。
Xcorrected=A−ΔR/Δ時間
Zcorrected=A−ΔR/Δ時間
【0033】
これらの計算は、Y軸を中心とする回転を説明しない。なぜなら、本発明のポインティングデバイスは、Y軸回転センサを含まなくてもよいからである。しかしながら、Rが0である可能性が高いので、その場合には、ΔR/Δ時間=0であり、かつY軸回転加速度の影響は無視でき、AXcorrectedおよびAZcorrected計算には必要でない。AYcorrected=A−ΔR/Δ時間Y1−ΔR/Δ時間Y2を計算することもまた可能であり、ここでlY1は、X軸から、Y方向においてY方向加速度計を通過する線までの垂線の長さであり、lY2は、Z軸から、Y方向においてY方向加速度計を通過する線までの垂線の長さである。Aが、ピッチ補正計算において用いられるだけであり、かつ大きさが小さい可能性が高いので、AYcorrected計算は、XcompおよびYcomp計算にそれほどの影響がない可能性があり、必要としなくてもよい。
【0034】
、AおよびAの値はまた、回転中心からの加速度計のオフセットゆえに、求心加速度によって変えられる可能性がある。求心計算は、式Acentripetal=R2*半径に基づく。「R」の値は、回転軸を中心とする加速度計のオフセット距離である。求心加速度は、2つの別個の成分を有することができる。例えば、Y加速度計の求心加速度は、回転RおよびRによって引き起こすことができる。半径は、回転軸からの加速度計の距離である。実施形態において、求心加速度は、XcompおよびYcomp計算を補正するために計算されて用いられる。しかしながら、一般に、求心加速度は、回転加速度と比較して非常に小さく、加速度計の補正式から省略することができる。
【0035】
加速度計および回転センサの出力を変える可能性がある別の要因は、温度である。図2を参照すると、ポインティングデバイスコンポーネントのブロック図が示されている。温度の影響を補正するために、ポインティングデバイスは、温度信号をプロセッサ205に供給する温度センサ217を有することができる。検出された温度は、メモリ219に記憶することができ、対応する温度補正係数は、回転センサの出力RおよびRに適用することができる。プロセッサ205は、温度を周期的にチェックするように構成することができ、温度が、記憶された温度から著しく変化した場合には、新しい温度補正要因を、回転速度信号に適用することができる。実施形態において、温度は5分ごとにチェックされ、温度が摂氏2度を超えて変化した場合には、新しい温度補正値が適用される。
【0036】
必要とされる温度補正係数を最小限にするために、本発明の移動検出システムは、温度への逆の反応を有するペアのコンポーネントを備えて設計することができる。例えば、回転センサからの回転速度出力信号は、温度が増加するにつれて増加する可能性がある。これらの回転センサは、温度の上昇と共に回転出力読み取り値を減少させる調整器とペアにしてもよい。これらのペアのコンポーネントが、信号に対して逆の影響を及ぼすので、出力回転信号に対する温度変動の正味の影響は低減される。それでも温度補正が必要とされる可能性があるが、温度変化の影響が低減され、これは、システムをより安定させる。
【0037】
本発明のポインティングデバイスはまた、センサ較正を自動で実行することが可能である。ポインティングデバイスの動作中に、システムは、ポインティングデバイスが静止していることを示す定常出力を加速度計AおよびAが生成しているときに検出してもよい。この時間中に、ジャイロスコープの出力RおよびRは、ポインティングデバイスが回転していないので、ゼロのはずである。実施形態において、本発明のポインティングデバイスは、どんな回転RおよびR出力誤差も補正するように較正プロセスを実行してもよい。これらの補正オフセットは、メモリ219に記憶し、較正プロセスが再び実行されるまで、回転センサの出力を調整するために用いることができる。
【0038】
非常に簡単な代数アルゴリズムを用いて補正係数が計算されるので、電気エネルギをほとんど必要としない基本プロセッサを用いることができる。実施形態において、本発明のロール補正ポインティングデバイスは、約4MHzまたはより遅く動作する8ビットマイクロコントローラまたは16ビットRISC(縮小命令セットコンピュータ)プロセッサを用いる。普通に入手可能な1つまたは複数の1.5ボルトのAAまたはAAAサイズの電池などの消費者用電池は、数か月間またはより長く、充電なしで本発明のポインティングデバイスに電力を供給することができる。これは、12〜16MHzで動作するより強力なプロセッサを必要とし、はるかに多くのエネルギを消費し、かつ電池のより頻繁な充電または取り替えを必要とする、三角法ベースのロール補正アルゴリズムを用いるポインティングデバイスに勝る著しい改良である。
【0039】
他の実施形態において、ポインティングデバイスには、追加のエネルギ節約機構を含むことができる。ポインティングデバイス101が用いられていない場合には、それは、自動的にスイッチを切るか、または低エネルギ消費の待機モードに置くことができる。実施形態において、ポインティングデバイスのプロセッサは、加速度計が定常出力信号を発していること、および/または回転センサがゼロ回転速度信号を発していることを検出してもよい。これらのセンサ出力が、長期間にわたって続く場合には、プロセッサは、ポインティングデバイスを止めるか、またはスリープモードに入れてもよい。ポインティングデバイスを再始動させるために、ユーザが、ポインティングデバイス上のボタンを押すようにするか、またはポインティングデバイスが、移動を検出してもよい。これに応じて、プロセッサは、ポインティングデバイスのコンポーネントに電力を印加してもよい。加速度計およびジャイロスコープが、使用可能になるために約250ミリ秒を必要とするだけなので、応答の遅延はわずかであり、ユーザによって気付かれない可能性がある。
【0040】
明確な理解のために前述の発明を詳細に説明したが、添付の特許請求の範囲内で、様々な変更および修正を実行可能であることが明白である。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の趣旨および範囲内に入る全てのかかる変更、置き換えおよび均等物を含むものと解釈されるように意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の軸を中心とする回転移動のための第1の回転速度信号Rを供給する第1の回転センサと、
第2の軸を中心とする回転移動のための第2の回転速度信号Rを供給する第2の回転センサと、
前記第1の軸に沿った第1の方向における重力加速度に応じて、第1の加速度信号Aを供給する第1の加速度計と、
前記第2の軸に沿った第2の方向における重力加速度に応じて、第2の加速度信号Aを供給する第2の加速度計と、
を含む、電子ディスプレイ上でカーソルの移動を制御するためのポインティングデバイスであって、
(a)前記それぞれの回転センサおよび加速度計からR、R、AおよびAを受信し、(b)AおよびAのベクトル和AXZを計算し、(c)
comp=[A+A]/AXZ
comp=[A−A]/AXZ
を解くことによって、ロール補正されたカーソル移動信号を計算し、かつ(d)前記補正されたカーソル移動信号を、前記電子ディスプレイ上の前記カーソルの移動に関連した受信機に送信する処理装置をさらに含むことを特徴とするポインティングデバイス。
【請求項2】
第3の軸に沿った第3の方向における重力加速度に応じて、第3の加速度信号Aを供給する第3の加速度計と、
補正されたカーソル移動信号を前記受信機に送信する前に、前記処理装置が、(c)A、AおよびAのベクトル和AXYZを計算し、(d)
X’comp=[XcompXYZ/AXZ
comp=[A−A]/AXZ
を解くことによって、ピッチおよびロール補正されたカーソル移動信号を計算することと、
をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のポインティングデバイス。
【請求項3】
前記第1の加速度信号Aが、式:AXcorrected=A−ΔR/Δ時間によって、前記第2の軸を中心とする前記第1の加速度計の回転加速度用に補正され、
前記第2の加速度信号Aが、式:AZcorrected=A−ΔR/Δ時間によって、前記第1の軸を中心とする前記第2の加速度計の回転加速度用に補正され、
が、前記第1の方向において前記第1の加速度計を通る線と、前記第2の軸との間の垂線の長さであり、lが、前記第2の方向において前記第2の加速度計を通る線と、前記第1の軸との間の垂線の長さであることを特徴とする、請求項1または2に記載のポインティングデバイス。
【請求項4】
前記処理装置が、4MHz未満で動作する8ビットまたは16ビットプロセッサを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載のポインティングデバイス。
【請求項5】
前記処理装置が、前記第1の回転センサ、前記第2の回転センサ、前記第1の加速度計および前記第2の加速度計を、6ミリ秒ごとに2回以上サンプリングすることを特徴とする、請求項1または2に記載のポインティングデバイス。
【請求項6】
前記処理装置が、前記補正されたカーソル移動信号を10ミリ秒ごとに2回以上供給することを特徴とする、請求項5に記載のポインティングデバイス。
【請求項7】
第1の軸を中心とする回転移動用の第1の回転速度Rを検出することと、
第2の軸を中心とする回転移動用の第2の回転速度Rを検出することと、
前記第1の軸に沿った第1の方向における重力加速度に応じて、第1の加速度信号Aを検出することと、
前記第2の軸に沿った第2の方向における重力加速度に応じて、第2の加速度信号Aを検出することと、
を含む、電子表示ディスプレイ上のカーソルの移動を制御するためのロール補正信号を供給するための方法であって、
およびAのベクトル和AXZを計算することと、
第1のロール補正されたカーソル移動信号Xcomp=[A+A]/AXZを計算することと、
第2のロール補正されたカーソル移動信号Ycomp=[A−A]/AXZを計算することと、
前記補正されたカーソル移動信号を、前記電子ディスプレイ上の前記カーソルの移動に関連した受信機に送信することと、
をさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
第3の軸に沿った第3の方向における重力加速度に応じて、第3の加速度信号Aを検出することと、
補正されたカーソル移動信号を前記受信機に送信する前に、A、AおよびAのベクトル和AXYZを計算することと、
新しい第1のロール補正されたカーソル移動信号X’comp=XcompXYZ/AXZを計算することと、
をさらに含むことを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
式AXcorrected=A−ΔR/Δ時間によって、前記第2の軸を中心とする前記第1の加速度計の回転加速度用の前記第1の加速度信号Aを補正することと、
式AZcorrected=A−ΔR/Δ時間によって、前記第1の軸を中心とする前記第2の加速度計の回転加速度用の前記第2の加速度信号Aを補正することと、
をさらに含み、
が、前記第1の方向において前記第1の加速度計を通る線と、前記第2の軸との間の垂線の長さであり、lが、前記第2の方向において前記第2の加速度計を通る線と、前記第1の軸との間の垂線の長さであることを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
4MHz未満で動作し、かつ前記検出および計算ステップを実行する8ビットまたは16ビットプロセッサを提供することをさらに含むことを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の回転センサ、前記第2の回転センサ、前記第1の加速度計および前記第2の加速度計を、6ミリ秒ごとに2回以上サンプリングする処理装置を提供することをさらに含むことを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項12】
前記補正されたカーソル移動信号Xcomp、X’compおよびYcompを10ミリ秒ごとに2回以上供給することをさらに含むことを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−502331(P2012−502331A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515387(P2011−515387)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際出願番号】PCT/EP2009/057978
【国際公開番号】WO2009/156476
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(511001714)
【Fターム(参考)】