ワイパモータおよびワイパ装置
【課題】適正な外的負荷によってクラッチ機構を作動させることにより、小型軽量化および内部機構の保護を図ることができるワイパモータおよびワイパ装置を提供する。
【解決手段】ウインドウガラス3を往復払拭するためのワイパモータ90において、出力軸12と、モータ本体92の回転軸110に連結されモータ本体92の回転出力を伝達する揺動機構94と、の間には、外力によって出力軸12回りに所定値以上の解除トルクが掛かったときに、揺動機構94に対して出力軸12を空転させて、モータ本体92側への外力の伝達を遮断する遮断状態に変位可能なクラッチ装置10が設けられ、クラッチ装置10は、解除トルク値が、往復払拭動作時にワイパブレード202に掛かる最大払拭負荷に相当する外力が出力軸12に作用したときの最大払拭負荷トルク値よりも大きな値に設定された。
【解決手段】ウインドウガラス3を往復払拭するためのワイパモータ90において、出力軸12と、モータ本体92の回転軸110に連結されモータ本体92の回転出力を伝達する揺動機構94と、の間には、外力によって出力軸12回りに所定値以上の解除トルクが掛かったときに、揺動機構94に対して出力軸12を空転させて、モータ本体92側への外力の伝達を遮断する遮断状態に変位可能なクラッチ装置10が設けられ、クラッチ装置10は、解除トルク値が、往復払拭動作時にワイパブレード202に掛かる最大払拭負荷に相当する外力が出力軸12に作用したときの最大払拭負荷トルク値よりも大きな値に設定された。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワイパモータおよびワイパ装置に係り、特に過大な負荷トルクが出力軸に作用したときに、出力軸とモータ本体との間の連結を遮断可能なクラッチ機構を内蔵するワイパモータおよび該ワイパモータを備えたワイパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のウインドウガラスを往復払拭するワイパ装置では、ワイパアームの動作が妨げられワイパモータの出力軸に過大な負荷が作用すると、ワイパモータに内蔵されている揺動機構や減速機構等が破損してしまうおそれがある。これを防止するため、揺動機構や減速機構等を構成する各部材には、過大な負荷が出力軸に作用することを想定して強度設計が行われていた。このため、従来、ワイパモータは大型かつ重量が大きいものとなっていた。
【0003】
そこで、本出願人は、出力軸に過大な負荷が作用したときに、出力軸から揺動機構や減速機構等への負荷の伝達を遮断するためのクラッチ装置を内蔵したワイパモータを提案している(例えば、特許文献1参照)。このようにクラッチ機構を内蔵させることにより、出力軸に作用した過大な負荷が揺動機構やモータ本体に伝達されないので、上記各機構を構成する部材の設計強度を低減することができ、小型軽量で安価なワイパモータを構成することが可能となる。
【0004】
【特許文献1】特開2006−51835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ワイパ作動時にワイパブレードに掛かる払拭負荷が変動して大きくなった場合(通常払拭動作時の予め想定した範囲内の負荷変動が出力軸周りに作用した場合)に、この払拭負荷によってクラッチ機構が作動し、出力軸と揺動機構等とが頻繁に切り離されてしまうおそれがあった。このように払拭負荷変動によってクラッチ機構が作動すると、意図しないときにワイパブレードが払拭面の払拭を停止してしまうという問題が生じる。
【0006】
また、ワイパブレードが積雪や凍結等によってウインドウガラスに拘束されている状態でワイパ装置を作動させた場合に、クラッチ機構が作動して出力軸とモータ本体側とが切り離されてしまうと、ワイパモータ内ではモータ本体が揺動機構等を作動させ続けることになる。これにより、拘束期間中、継続的に発生する作動音によって乗員に不快感を与えるおそれがあった。
【0007】
一方、クラッチ機構の作動負荷(解除トルク)が高すぎると、クラッチ機構が作動する前に出力軸側からの外力によって、ワイパモータ内で設計強度の低減された構成部材が破損してしまうおそれがあった。
【0008】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、適正な外的負荷によってクラッチ機構を作動させることにより、小型軽量化および内部機構の保護を図ることができるワイパモータおよびワイパ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ワイパアームが連結される出力軸をモータ本体の駆動力によって往復回動させて、ワイパアームの先端に取付けられるワイパブレードで払拭面を往復払拭するためのワイパモータにおいて、前記出力軸と、前記モータ本体の回転軸に連結され前記モータ本体の回転出力を伝達する伝達機構と、の間には、外力によって前記出力軸回りに所定値以上の解除トルクが掛かったときに、前記伝達機構に対して前記出力軸を空転させて、前記モータ本体側への外力の伝達を遮断する遮断状態に変位可能なクラッチ機構が設けられ、該クラッチ機構は、往復払拭動作時にワイパブレードに掛かる最大払拭負荷として設定した外力が前記出力軸に作用したときの該出力軸周りのトルク値を最大払拭負荷トルク値とするとき、前記解除トルク値が、前記最大払拭負荷トルク値よりも大きな値に設定されたことを特徴とする。
【0010】
このように本発明のワイパモータでは、出力軸と伝達機構との間にクラッチ機構が設けられ、このクラッチ機構は、所定値以上の解除トルクが出力軸回りに掛かったときに作動するように設定されている。そして、この解除トルクは、ワイパブレードに掛かる最大払拭負荷として設定した外力が出力軸に作用したときの出力軸周りのトルク値を最大払拭負荷トルク値とし、この最大払拭負荷トルク値よりも大きな値に設定されているから、通常の払拭動作において特別な外力が作用しない限り、クラッチ機構は作動しないようになっている。
【0011】
これにより、本発明においては、ワイパモータ内のクラッチ機構が、払拭面状態や払拭時の通常走行風による抵抗など払拭負荷の想定内の変動によって、頻繁に作動してしまうことを防止することができる。
また、本発明では、クラッチ機構の頻繁な作動を防止することができる範囲において、解除トルクを小さな値にすることが可能である。これにより、本発明では、ワイパモータ内の伝達機構やモータ本体の強度を低く設定することが可能となり、ワイパモータの小型軽量化を図ることができる。
【0012】
また、前記クラッチ機構は、前記解除トルク値が、前記モータ本体の回転軸を拘束状態として前記出力軸を回転させたときに前記伝達機構が破損するモータ破損トルク値よりも小さな値に設定されたことを特徴とする。
このように本発明では、解除トルク値がモータ破損トルク値よりも小さな値に設定されるので、外力によってワイパモータの内部機構が破損してしまうことを確実に防止することができる。
【0013】
また、前記クラッチ機構は、前記解除トルク値が、前記モータ本体を最大出力で作動させたときに前記出力軸に掛かる最大モータ出力軸発生トルク値よりも大きく設定されたことを特徴とする。
このように本発明では、クラッチ機構を作動させるための最小トルク値を、モータ本体の最大出力時に出力軸を拘束するのに必要な出力軸回りのトルク値よりも大きな値に設定することで、出力軸が拘束されているときに、モータ本体が最大出力で駆動してもクラッチ機構は作動せず、特別な外力が作用したときにのみクラッチ機構が作動し、頻繁にクラッチ切れが生じるのを防止することができる。
【0014】
また、本発明のワイパ機構は、上記ワイパモータと、該ワイパモータの出力軸に連結されたワイパアームと、該ワイパアームの先端に取付けられたワイパブレードと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、出力軸と伝達機構との間にクラッチ機構を設け、このクラッチ機構の作動トルク(解除トルク)を出力軸に作用する最大払拭負荷トルク値よりも大きな値に設定することで、ワイパモータの小型軽量化を図ると共に、頻繁なクラッチ切れを防止することができる。さらに、解除トルク値を最大モータ出力軸発生トルク値よりも大きく設定することで、出力軸の回動拘束時においても、不要なクラッチ切れを防止することができる。また、解除トルク値をモータ破損トルク値未満に設定することにより、ワイパモータの内部機構の保護と共に小型軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることは勿論である。
図1〜図15は本発明の一実施形態に係るものであり、図1はワイパ装置の説明図、図2はワイパモータの斜視図、図3はワイパモータの一部を透視した斜視図、図4はワイパモータの分解斜視図、図5,図7はワイパモータの平断面図、図6は図5の5−5線に沿ったワイパモータの断面図、図8は図7の7−7線に沿ったワイパモータの断面図、図9はワイパモータのクラッチ結合状態における主要部分の説明図である。図10,図11はクラッチ装置の分解斜視図、図12はクラッチ装置の係合状態を示す説明図、図13はワイパ装置においてワイパモータの出力軸に作用する払拭負荷トルクの時間変動を示すグラフ、図14は図8に対応するクラッチ解除状態におけるワイパモータの断面図、図15は図9に対応するクラッチ解除状態における主要部分の説明図である。また、図16は本発明の他の実施形態に係るワイパモータの平断面図、図17は図16のワイパモータのクラッチ装置の分解斜視図である。
【0017】
図1に本発明の一実施形態に係るワイパ装置Wを示す。本例のワイパ装置Wは、車両ボディ1内に配設されたワイパ駆動用モータであるワイパモータ90(図2等参照)と、ワイパモータ90に連結されたワイパ200とを主要構成要素としている。
ワイパモータ90は、車両ボディ1に形成された通孔2から出力軸12を外部へ突出させた状態で車両ボディ1内に配設されている。
本例では、ワイパ200は、ワイパアーム201と、ワイパブレード202を有している。ワイパアーム201は、その基端部が出力軸12に固定されており、また、その先端部にはワイパブレード202が回動可能に取付けられている。
【0018】
常時は、ワイパブレード202は、ワイパアーム201に設けられた不図示の付勢手段によって払拭面であるウインドウガラス3側へ付勢され、ウインドウガラス3と当接した状態に保持されている。ワイパモータ90が作動すると、ワイパアーム201およびワイパブレード202は、出力軸12を回動中心として所定角度範囲内を揺動する。これによりワイパブレード202は、ウインドウガラス3表面を往復払拭可能となっている。
【0019】
図2〜図9等に示すように、ワイパモータ90は、モータ本体92と、揺動機構(伝達機構)94と、クラッチ装置10とを備えている。
本例のクラッチ装置10は、出力軸12を有して構成されており、後述するように、出力軸12に作用する外力によって出力軸12回りに所定値以上の解除トルクが掛かったときに、揺動機構94に対して出力軸12を空転させて、モータ本体92側への外力の伝達を遮断する遮断状態に変位可能となっている。
【0020】
本例では、モータ本体92は、ヨークハウジング98内にアーマチャ108等が配設されて構成されており、このヨークハウジング98には凹状のハウジング96が連結されている。このハウジング96は、内部に揺動機構94とクラッチ装置10を収容した状態で、開口側(裏面側)がカバープレート148によって閉塞されている。
【0021】
本例のヨークハウジング98は、軸線方向一端部が絞り加工された有底でしかも回転軸110の直交方向断面が出力軸12の軸線方向を短手方向とする偏平形状の筒状に形成されており、開口側にハウジング96が一体的に取り付けられている。
【0022】
ヨークハウジング98の開口側には、絶縁樹脂製のエンドハウジング104が固定されている。このエンドハウジング104の中央部分には軸受106が配置されている。また、ヨークハウジング98の底壁100の膨出部には、軸受102が配置されている。
アーマチャ108は、その回転軸110が軸受102,106によって回転自在に支承された状態でヨークハウジング98内に収容されている。また、ヨークハウジング98の内周壁には、アーマチャ108に対向するようにマグネット112が固着されている。
【0023】
また、エンドハウジング104には、ブラシケースを介して角柱状のブラシ114が保持されている。ブラシ114は、不図示の付勢手段によってアーマチャ108のコンミテータ116側に付勢されており、先端部がコンミテータ116に摺接可能となっている。ブラシ114には連結用ピッグテール118が取付けられており、ブラシ114はピッグテール118を介して給電用の接続線に接続されている。
【0024】
モータ本体92(アーマチャ108)の回転軸110は、ハウジング96内に突出した一端側にカップリング120が取付けられており、このカップリング120を介して揺動機構94のウォームギヤ122に連結されている。
揺動機構94は、ウォームギヤ122と、樹脂製のウォームホイール128と、セクタギヤ132と、保持レバー138等を備えて構成されている。ウォームギヤ122とウォームホイール128は減速機構を構成し、さらにウォームホイール128,セクタギヤ132,保持レバー138は、揺動機構を構成する。
【0025】
ウォームギヤ122は、その両端部がハウジング96に設けられた軸受124,126によって回転自在に支承されている。
ハウジング96には、ウォームギヤ122(回転軸110)の軸線と略垂直であって、出力軸12の軸線と略平行に、回転軸130が設けられている。ウォームホイール128は、ウォームギヤ122と噛合した状態で、回転軸130に回動可能に取付けられている。
【0026】
ウォームホイール128には、揺動部材としてのセクタギヤ132が連結されている。すなわち、ウォームホイール128の裏面(カバープレート148側)には、回転軸130と異なる位置(径方向に変位した位置)に支軸134が突設されており、この支軸134にセクタギヤ132の一端が回転自在に連結されている。
また、セクタギヤ132の他端側裏面には支軸140が突設されており、セクタギヤ132には、この支軸140を略中心として扇型状に歯部136が形成されている。この歯部136は、後述するクラッチ装置10の入力ディスク28と噛合している。
【0027】
支軸140には、保持レバー138の一端が回動可能に連結されている。保持レバー138の他端は入力ディスク28の回転中心部分(すなわち出力軸12)に回転自在に連結されている。これにより、支軸140と出力軸12との軸間ピッチが維持され、セクタギヤ132と入力ディスク28との噛合い状態が維持される。こうして、ウォームホイール128が回転することによってセクタギヤ132が往復揺動され、このセクタギヤ132の往復揺動動作によって、入力ディスク28が往復回転駆動される。これにより、入力ディスク28と連動して出力軸12が往復回動し、出力軸12の先端に固定されたワイパ200がウインドウガラス3表面を往復払拭する。
【0028】
なお、保持レバー138の裏面には、樹脂材料等からなる摺動部材147が取り付けられており、この摺動部材147は、セクタギヤ132の往復揺動時にカバープレート148と摺接可能となっている(図8等参照)。これにより、保持レバー138は、厚さ方向(出力軸12の軸線方向)の移動が規制されている。
なお、本例のように出力軸12にワイパ200を直接的に連結する場合に限らず、リンクやロッド等を介して間接的に連結する構成としても良い。
【0029】
図10,図11に示すように、本例のクラッチ装置10は、出力軸12と、係合ベース20と、付勢手段としてのコイルスプリング44と、クラッチディスク38と、入力ディスク28を主要構成要素としている。係合ベース20,コイルスプリング44,クラッチディスク38,入力ディスク28は、クラッチ機構に相当する。
【0030】
本例の出力軸12は、先端側(図10では上側)が断面円形に形成された円柱部13であり、基端側(図10では下側)が断面略矩形(周方向において互いに180度反対側に形成された一対の平面と、これらの平面に連続する一対の円周面とを備えた所謂「断面ダブルDカット形状」)に形成された相対回転規制部14となっている。
【0031】
出力軸12の円柱部13は、ハウジング96に固定された軸受部材50によって回転自在に支持されている(図6参照)。一方、相対回転規制部14の先端側(円柱部13側)には回止部16が設けられ、基端部突端には抜止部18が設けられている。回止部16は、円周面に周方向にわたって軸線方向に沿う複数の突条が形成されたものであり、抜止部18は円周面に出力軸12の軸線方向と略直交する方向に設けられた浅溝である。
【0032】
本例では、クラッチ装置10は、出力軸12の基端部側の相対回転規制部14に係合ベース20,コイルスプリング44,クラッチディスク38,入力ディスク28がこの順に挿入され、抜止部18に抜止めクリップ32が取り付けられることにより抜け止めされた状態で一体化され、一体部品として取り扱い可能となっている。
【0033】
本例の係合ベース20は、中央部分に支持孔22が形成された円盤状の部材であり、その周縁には、径方向(出力軸12の径方向)に突出するようにストッパ部26が設けられている。支持孔22は、出力軸12の相対回転規制部14に対応するように断面略矩形(断面ダブルDカット形状)に形成されている。
出力軸12の径方向に大径とされた大径部としての係合ベース20は、支持孔22に出力軸12が挿入され、出力軸12に対して同軸的に固着されている。これにより、係合ベース20は、出力軸12に対して軸線方向に移動不能な状態で、出力軸12と一体回転するようになっている。
【0034】
なお、本例では出力軸12と係合ベース20とを別体に形成してこれらを一体に固着する構成であるが、これに限らず、例えば、冷間鍛造等により出力軸12と係合ベース20とを一体に形成する構成(出力軸にツバ状の大径部を一体に形成する構成)としてもよい。
【0035】
本例では、ハウジング96には、円弧状のストッパ突起142が配設されている(図5〜図8等参照)。このストッパ突起142は、ストッパ部26の回動軌跡内に沿って配設されており、ストッパ突起142の周方向の一端部,他端部はそれぞれ回転制限部144,146となっている。すなわち、ストッパ突起142の回転制限部144,146は、それぞれストッパ部26と当接可能となっており、ストッパ部26が回転制限部144,146と当接すると、係合ベース20はそれ以上の回転が阻止される。
このように、係合ベース20の回動範囲がストッパ突起142によって規制されており、これによりワイパ200の揺動範囲も所定角度範囲に規制されている。
【0036】
本例のクラッチディスク38は、中央部に相対回転規制部14に対応する断面略矩形(断面ダブルDカット形状)の軸孔40が形成された円板状の部材である。本例では、このクラッチディスク38は、粉末合金を成型金型に入れ、圧縮成形し、加熱焼結する所謂「粉末冶金法」により製造された焼結金属であり、該焼結金属内に潤滑油が含油されている。
クラッチディスク38は、軸孔40に出力軸12(相対回転規制部14)が挿入され、出力軸12に対して軸線回りに回転不能で常に出力軸12と一体的に回転すると共に、出力軸12の軸線方向に沿って移動可能となっている。
【0037】
クラッチディスク38の裏面側(入力ディスク28側)には、その周縁部において4つの係合凹部42が凹設して(窪んで)設けられている。これらの係合凹部42は、後述する入力ディスク28の4つの係合凸部37に対応して設けられている。
本例では、係合凹部42は、クラッチディスク38に対して同心状に形成されると共に、クラッチディスク38の周方向に沿って互いに等間隔にならないように(周方向に沿って隣接する間隔がそれぞれ異なるように)形成されている。
係合凹部42は、開口側(裏面側)が周方向に拡開するように断面略台形状に形成されている。したがって、係合凹部42の側壁53は、所定角度傾斜するように形成されている。
【0038】
コイルスプリング44は、その上端部,下端部がそれぞれ係合ベース20の下面,クラッチディスク38の上面と当接し、クラッチディスク38を係合ベース20に対して出力軸12の軸線方向下方(入力ディスク28側)へ付勢している。すなわち、コイルスプリング44は、後述するように、入力ディスク28の係合凸部37とクラッチディスク38の係合凹部42との係合状態が、所定の解除トルク未満では解除されないようにクラッチディスク38を入力ディスク28へ押し付けている。
【0039】
また、係合凸部37が係合凹部42から抜け出した係合解除状態であっても、コイルスプリング44による付勢力によって、係合凸部37がクラッチディスク38の裏面に押し付けられるので、これらの間に所定の摩擦力が生じる。これにより、係合解除状態でも、所定の場合には入力ディスク28とクラッチディスク38とが供回り可能に構成されている。
【0040】
なお、本例ではコイルスプリング44を用いて入力ディスク28とクラッチディスク38の係合状態を保持しているが、これに限らず、ウエーブワッシャ,板バネ,ゴム部材等の付勢手段を用いてもよい。また、入力ディスク28とクラッチディスク38とが磁力によって引き合うように構成してもよい。
【0041】
また、本例では、通常状態(クラッチディスク38が係合ベース20側へ移動しようとしない状態)において、既にコイルスプリング44によってクラッチディスク38が入力ディスク28側へ付勢された構成となっているが、これに限らず、係合状態から係合解除状態へ移行すべく、クラッチディスク38が係合ベース20側へ移動したときだけ、コイルスプリング44によってクラッチディスク38が付勢される構成としてもよい。
【0042】
本例の入力ディスク28は、中央部分に断面略円形の軸孔30が形成された円板状の部材である。本例では、この入力ディスク28は、クラッチディスク38と同様に、粉末合金を成型金型に入れ、圧縮成形し、加熱焼結する所謂「粉末冶金法」により製造された焼結金属であり、該焼結金属内に潤滑油が含油されている。
入力ディスク28は、軸孔30に出力軸12が同軸的に挿通されており、出力軸12によって回転自在に支承されている。また、入力ディスク28は、後述するギヤ歯34よりも大径で出力軸12と同心である円周面36が、ハウジング96に固定された軸受部材52によって回転可能に保持(支持)されている(図6等参照)。
【0043】
また、入力ディスク28の表面側には、その周縁部に係合ベース20側(クラッチディスク38側)へ4つの係合凸部37が突設されている。
これら4つの係合凸部37は、入力ディスク28に対して同心状に形成されると共に、入力ディスク28の周方向に沿って互いに等間隔にならないように(周方向に沿って隣接する間隔がそれぞれ異なるように)配置されている。これらの係合凸部37は、上述のようにクラッチディスク38の係合凹部42に対応して形成されたものであり、入力ディスク28とクラッチディスク38が所定の相対回転位置にあるときのみ、これらの係合凸部37が係合凹部42に嵌入可能となっている。
係合凸部37は、先端側ほど周方向に幅狭となるように断面略台形に形成されている。したがって、係合凸部37の側壁51は、所定角度傾斜するように形成されている。
【0044】
入力ディスク28の裏面側の外周には、ギヤ歯34が形成されている。このギヤ歯34はセクタギヤ132と噛合しており、セクタギヤ132から駆動力が入力されると、入力ディスク28は出力軸12回りに回転する。そして、係合凸部37が係合凹部42に嵌入した状態では、入力ディスク28の回転力がクラッチディスク38へ伝達され、入力ディスク28とクラッチディスク38が連動して回転するようになっている。
【0045】
また、入力ディスク28の裏面には、ギヤ歯34の軸線方向上側(係合ベース20側)の端部を連結するように連結壁35が形成されている。この連結壁35と保持レバー138は、セクタギヤ132の歯部136の厚さ方向両側を挟み込んでいる。すなわち、連結壁35と保持レバー138が歯部136の厚さ方向に対向しており、これらの間に歯部136が挟みこまれている。これにより、歯部136は厚さ方向の移動が制限されている。
【0046】
なお、本例では、上述のように入力ディスク28の係合凸部37とクラッチディスク38の係合凹部42が係合可能なのは、入力ディスク28とクラッチディスク38が所定の相対回転位置にあるときのみである。すなわち、上記所定回転位置以外では、1個の係合凸部37が係合凹部42に対応しても、他の3個の係合凸部37は係合凹部42に対応しないので、係合凸部37が係合凹部42から抜け出した状態では、クラッチディスク38は、少なくとも3個の係合凸部37を介して入力ディスク28と接触するようになっている(3点支持状態となる)。
【0047】
したがって、後述するように出力軸12に所定値以上の解除トルクが掛かってクラッチ装置10が作動し、入力ディスク28とクラッチディスク38との係合状態が解除された場合には、解除トルクが除去された後にワイパモータ90を作動させれば、再び入力ディスク28の係合凸部37が、それぞれ対応するクラッチディスク38の係合凹部42にのみ嵌入し、入力ディスク28とクラッチディスク38は定位置に復帰する。このように、本例では、クラッチ装置10の入出力側の位置関係、すなわちウォームホイール128とワイパ200との位置関係を自動的に元に戻し、その後、通常運転を行うことができる。
【0048】
図12(A)に、通常作動時において係合凸部37と係合凹部42とが係合した状態(「クラッチ結合状態」)の模式図を示す。図12における説明では、理解の容易のため入力ディスク28とクラッチディスク38との摩擦力を考慮していない。
本例では、係合凸部37と係合凹部42は、それぞれ周方向に対称に形成されており、それぞれ側壁51,53が出力軸12の軸線方向(図12ではZ方向)に対して角度θ度傾斜して形成されている。
【0049】
係合状態で入力ディスク28が図中右方向へ回転すると、クラッチディスク38には入力ディスク28から回転伝達力Faを受ける。この回転伝達力Faによって、クラッチディスク38には逆向きの反作用力Fbが掛かる。そして、この反作用力Fbによって、クラッチディスク38には側壁53の斜面方向に分力Fc(=Fb・cosθ)が掛かる。さらにクラッチディスク38には、この分力Fcによって出力軸12の軸線方向に分力Fe(=Fc・sinθ=Fb・cosθ・sinθ)が掛かる。
しかし、この分力Feは、コイルスプリング44によってクラッチディスク38へ作用する下向きの力以下の大きさであるので、クラッチディスク38は斜面方向にスライドすることなく、入力ディスク28と連動して回動する。
【0050】
なお、入力ディスク28の係合凸部37,クラッチディスク38の係合凹部42のそれぞれの側壁51,53を共に傾斜面とする構成に限らず、少なくとも何れか一方に、傾斜面を形成する構成としてもよい。この場合であっても、入力ディスク28からクラッチディスク38への回転伝達力Faによってクラッチディスク38に出力軸12軸線方向に沿った分力を生じせしめることができる。
【0051】
また、図12(B)に、出力軸12に過大な外力(荷重)が作用して、係合凸部37と係合凹部42との係合が解除された状態(「クラッチ解除状態」)へ変位する状態の模式図を示す。
本例では出力軸12回りに解除トルク以上のトルクが掛かった場合に、係合凸部37と係合凹部42との係合が解除されるように設定されている。
【0052】
クラッチ結合状態で出力軸12に過大な外力が作用すると、クラッチディスク38に回転力が掛かる。図12(B)では、クラッチディスク38に右方向へ回転させる回転力が掛かる。このようにクラッチディスク38に回転力が掛かると、係合凸部37と、係合凹部42との係合によって、入力ディスク28には回転駆動力Ffが掛かる。そして、この回転駆動力Ffによってクラッチディスク38には、側壁53の斜面方向に分力Fg(=Ff・cosθ)が掛かる。さらにクラッチディスク38には、この分力Fgによって出力軸12の軸線方向に分力Fi(=Fg・sinθ=Ff・cosθ・sinθ)が掛かる。
【0053】
そして、このとき分力Fiが所定値(コイルスプリング44によって規定される付勢力)を超えると、図12(B)に示すようにクラッチディスク38が付勢力に抗して上方へ移動する。これにより、係合凸部37が係合凹部42から抜け出して係合状態が解除された「クラッチ解除状態」となる(図14,図15参照)。
クラッチ解除状態では、クラッチディスク38,出力軸12は、入力ディスク28に対して空転する。
なお、クラッチディスク38をクラッチ解除方向へ押し上げる分力Fiは、側壁51,53の傾斜角度θの大きさによって設定できることが分かる。
【0054】
本例では、このようにクラッチ結合状態からクラッチ解除状態に変位するときの解除トルクが所定範囲の値となるように設定されている。すなわち、解除トルクが低すぎると通常作動時に頻繁にクラッチ解除状態となり、乗員に不快感を与えたりウインドウガラス3を正常に払拭することができなかったりする不都合が生じる。また、解除トルクが高すぎると本来クラッチ解除状態となるべきときにクラッチ結合状態のままとなり、ワイパモータ90内の内部機構である揺動機構94やモータ本体92を破損してしまうおそれがある。
【0055】
図13は、ワイパ装置Wを2種類の車両にそれぞれ適用し、所定条件で出力軸12に作用したトルク(実測値)の時間変動を示している。この例では、時間「0」分にウインドウガラス3に対する散水を停止している。データA,Bはそれぞれ2種類の車両に対応している。なお、このワイパ装置Wに用いたワイパブレード202には、ブレード長の長い(50cm程度)ものが装着されている。
【0056】
図13から分かるように、ウインドウガラス3表面が濡れた状態(ウェット状態)では2車両とも払拭負荷トルクは1(N・m)程度と小さく、散水停止後数分の半乾燥状態(セミドライ状態)で2〜3(N・m)程度と大きくなり、その後、乾燥状態(ドライ状態)で1.5〜2(N・m)程度で略一定となる。すなわち、ウインドウガラス3表面がセミドライ状態のとき最も出力軸12に作用する払拭負荷トルクが大きくなる。したがって、例えば、雨天走行中にトンネルに入った直後は、出力軸12に掛かる払拭負荷トルクが大きくなる。
【0057】
本例では、このように出力軸12に作用する払拭負荷トルクが払拭面の状況によって予め想定した所定範囲内で変動しても、クラッチ装置10が作動してクラッチ解除状態に変位しないように、上記解除トルク値が設定されている。すなわち、本例では、解除トルクは、往復払拭動作時にワイパブレード202に掛かる最大払拭負荷に相当する外力が出力軸12に作用したときの最大払拭負荷トルク値(本例では3(N・m))よりも大きな値に設定されている。なお、本例では、払拭負荷トルクに加え、払拭時の通常走行風による変動分を考慮して、少なくとも解除トルク値の最小値が3.5(N・m)以上に設定されている。これにより、本例では、通常の作動状況でクラッチ装置10が作動してしまうことが防止される。
【0058】
また、本例では、上記解除トルク値は、モータ本体92の回転軸110を拘束状態として出力軸12を回転させたときに揺動機構94やモータ本体92を構成する各部材の何れかが破損するモータ破損トルク値(モータ強度)よりも小さな値に設定されている。
本例では、ウォームホイール128が樹脂製であるので、ウォームギヤ122と噛合するウォームホイール128の歯が最も破損し易い。このため、本例では、解除トルクは、ウォームホイール128が破損してしまうトルク値(本例では約20(N・m))よりも小さな値となるように設定されている。つまり、解除トルク値の最大値は、モータ破損トルク値未満である。これにより、本例では、出力軸12に外力が掛かったときに、内部機構が破損する前に確実にクラッチ装置10を作動させて内部機構を保護することができる。
【0059】
また、本例では、上記解除トルク値が、出力軸12の回動を拘束した状態において、モータ本体92を最大出力で作動させたときに出力軸12に掛かる最大モータ出力軸発生トルク値(本例では10(N・m))よりも大きく設定されている。
すなわち、積雪や凍結等によってワイパ200がウインドウガラス3表面に拘束された状態でワイパ装置Wを作動させた場合、解除トルク値が、最大モータ出力軸発生トルク値以下であると、ワイパ200が拘束されたまま、ワイパモータ90内部の揺動機構94およびモータ本体92が作動音を発生させながら作動を継続することになり、乗員に不快感を与えるおそれがある。なお、モータ破損防止の観点から言うまでもないが、最大モータ出力軸発生トルク値は上記モータ破損トルク値よりも小さく設定されている。
【0060】
しかしながら、本例では、解除トルク値が最大モータ出力軸発生トルク値よりも大きな値に設定されているので、ワイパ200が拘束された状態ではクラッチ装置10は作動せず、クラッチ結合状態を保持することができ、最大モータ出力軸発生トルク値よりも大きい特別な外力が作用したときのみクラッチ装置10が作動してクラッチ解除状態とすることができる。これにより、頻繁なクラッチ切れを防止して、不要な作動音を発生させてしまうことを防止することができる。また、クラッチ切れの頻度を低減することにより、クラッチ装置10の要耐久性を軽減することができる。
【0061】
本例のワイパモータ90では、出力軸12に取付けられた係合ベース20と、コイルスプリング44と、クラッチディスク38と、入力ディスク28によって、クラッチ解除力(解除トルク値)の設定を容易に行うことが可能である。
すなわち、クラッチディスク38の軸線方向移動に要する力は、入力ディスク28の係合凸部37およびクラッチディスク38の係合凹部42の側壁の傾斜角度θ、係合凸部37および係合凹部42の配設数、表面粗さや潤滑油等に起因する摩擦係数、コイルスプリング44のバネ係数等を適宜に調整することにより容易に設定することができる。
【0062】
例えば、係合凸部37および係合凹部42の側壁51,53の傾斜角度θ(図12参照)を45度程度にした場合に分力Fiが最も大きくなり、クラッチ解除し易くすることができる。このように傾斜角度θを適宜に設定することにより、クラッチ解除力(すなわち、解除トルク)を所望の値に設定することができる。
【0063】
次に、本例のワイパモータ90の動作について説明する。
本例のワイパモータ90では、通常の使用状態では、図6、図8,図9等に示すように、クラッチ装置10が「クラッチ結合状態」となっている。すなわち、クラッチディスク38はコイルスプリング44によって入力ディスク28側へ付勢されており、入力ディスク28の係合凸部37と、クラッチディスク38の係合凹部42とが係合した状態に維持される。
【0064】
本例のワイパモータ90では、モータ本体92(アーマチャ108)は一方向のみへ回転するように構成されており、モータ本体92が回転すると、ウォームギヤ122を介してウォームホイール128へ回転力が伝達される。ウォームホイール128が回転すると、このウォームホイール128の連結されたセクタギヤ132が往復揺動され、このセクタギヤ132の往復揺動によって、入力ディスク28が往復回転駆動される。
【0065】
入力ディスク28が往復回転駆動されると、係合凸部37および係合凹部42の係合によって入力ディスク28からクラッチディスク38へ回転駆動力が伝達される。そして、クラッチディスク38は、供回りするように出力軸12に取付けられているから、クラッチディスク38へ伝達された回転駆動力はクラッチディスク38から出力軸12へ伝達され、出力軸12はクラッチディスク38および入力ディスク28と共に往復回動する。
これにより、出力軸12に連結されたワイパ200が、出力軸12の往復回動に伴ってウインドウガラス3表面を往復払拭動作する。
【0066】
一方、ワイパ200を介して出力軸12に過大な外力(荷重)が作用した場合、出力軸12が逆転もしくは拘束される。この外力によって、出力軸12と一体回転するクラッチディスク38には、入力ディスク28と相対回転する方向に回転力が作用する。
【0067】
上述のように出力軸12に掛かるトルクが所定の解除トルクを超えると、出力軸12の回動と共にクラッチディスク38が上方へ移動し、図14,図15に示すように係合凸部37が係合凹部42から抜け出して係合状態が解除される。係合状態の解除により、クラッチディスク38,出力軸12は、入力ディスク28に対して空転する。
【0068】
出力軸12の空転により、クラッチ装置10の各部品、あるいは入力ディスク28に接続されたセクタギヤ132,保持レバー138,ウォームホイール128等の揺動機構94の各部品の破損を防止することができる。これにより、本例のワイパモータ90では、過大な外力(荷重)の作用を想定した各部品の強度設定を行う必要がなくなり、設定強度を低減して軽量化を図ることができる。
【0069】
したがって、例えば、車両の屋根に堆積した積雪がガラス面に沿って略垂直落下してワイパ200に当たり大きな外力がワイパモータ90に作用する等、ワイパ200を介して出力軸12に過大な外力(荷重)が作用する蓋然性が高い車両(例えばキャブオーバータイプのコックピットを有するトラックや建設機械)に、本例のワイパモータ90を適用すると好適である。
【0070】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。なお、上記実施形態と同じ構成要素には同一の符号を付与し、重複する説明は省略する。
図16に示すワイパモータ150は、モータ本体92と、伝達機構152と、クラッチ装置210とを主要構成要素としている。
上記実施形態では、ワイパモータ90は、モータ本体92(アーマチャ108)を同一方向に連続回転させ、揺動機構94によって出力軸12を揺動運動させていたが、本例のワイパモータ150は、モータ本体92(アーマチャ108)自体を所定回転角度毎に正逆回転させて、出力軸12を揺動運動させるものである。
【0071】
本例の伝達機構152は、上記実施形態におけるセクタギヤ132や保持レバー138は設けられておらず、ウォームギヤ122及びウォームホイール328によって構成されている。
図17に示すように、本例では、ウォームホイール328と入力ディスク228とが同心的に一体に結合されている。この入力ディスク228と一体化されたウォームホイール328に、ウォームギヤ122が噛合している。
本例の入力ディスク228は、入力ディスク28と同様、上面には側壁251を有する4つの係合凸部237が突設されているが、入力ディスク28と異なり、下面側にはギヤ歯34は設けられていない。そして、本例では、円周面236の下縁部に連続するようにして、ギヤ歯34に相当する位置に、ウォームホイール328が設けられている。
【0072】
本例では、入力ディスク228は摩耗や変形防止のため金属製となっており、ウォームホイール328はウォームギヤ122との噛合音を低減するために樹脂製となっている。これらは、接着等によって一体に組みつけてもよいし、インサート成形にて一体に形成してもよい。
【0073】
このワイパモータ150では、モータ本体92(アーマチャ108)が回転すると、ウォームギヤ122を介してウォームホイール328へ回転力が伝達されてウォームホイール328および入力ディスク228が回動する。
通常の使用状態では係合凸部237が係合凹部53に係合しているから、ウォームホイール328および入力ディスク228が回動すると、クラッチディスク38は、これらと共に一体に回動する。これにより、クラッチディスク38および出力軸12に固定されたワイパ200が往復払拭動作を行う。
【0074】
出力軸12に過大な外力(荷重)が作用して出力軸12が逆転もしくは拘束されたときに、クラッチ結合状態からクラッチ解除状態となるのは、上記実施形態と同様である。クラッチ解除状態となると、出力軸12がウォームホイール328および入力ディスク228に対して空転する。これにより、クラッチ装置210の各部品、あるいはウォームホイール328に接続されたウォームギヤ122等の伝達機構152の各部品の破損を防止することができる。また、このような過大な外力(荷重)の作用を想定して各部品を過度に高強度設定する必要がなくなる。
【0075】
また、本例のワイパモータ150においても、上記実施形態と同様に、クラッチ装置210が「クラッチ解除」した場合、すなわち出力軸12がモータ本体92に対して空回りした場合であっても、係合ベース20とストッパ突起142との当接位置を設定することにより、その後にモータ本体92を動作させることで自動的に原点復帰を行い、再び出力軸12をモータ本体92側に定位置で連結して(クラッチ接続して)通常の駆動運転を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の一実施形態に係るワイパ装置の説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るワイパモータの斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るワイパモータの一部を透視した斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るワイパモータの分解斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るワイパモータの平断面図である。
【図6】図5の5−5線に沿ったワイパモータの断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るワイパモータの平断面図である。
【図8】図7の7−7線に沿ったワイパモータの断面図である。
【図9】本発明の一実施形態に係るワイパモータのクラッチ結合状態における主要部分の説明図である。
【図10】本発明の一実施形態に係るクラッチ装置の分解斜視図である。
【図11】本発明の一実施形態に係るクラッチ装置の分解斜視図である。
【図12】本発明の一実施形態に係るクラッチ装置の係合状態を示す説明図である。
【図13】本発明の一実施形態に係るワイパ装置においてワイパモータの出力軸に作用する払拭負荷トルクの時間変動を示すグラフである。
【図14】図8に対応するクラッチ解除状態におけるワイパモータの断面図である。
【図15】図9に対応するクラッチ解除状態における主要部分の説明図である。
【図16】本発明の他の実施形態に係るワイパモータの平断面図である。
【図17】図16のワイパモータのクラッチ装置の分解斜視図である。
【符号の説明】
【0077】
1‥車両ボディ、2‥通孔、3‥ウインドウガラス、10‥クラッチ装置、
12‥出力軸、13‥円柱部、14‥相対回転規制部、16‥回止部、
18‥抜止部、20‥係合ベース、22‥支持孔、26‥ストッパ部、
28‥入力ディスク、30‥軸孔、32‥クリップ、4‥ギヤ歯、
35‥連結壁、36‥円周面、37‥係合凸部、38‥クラッチディスク、
40‥軸孔、42‥係合凹部、44‥コイルスプリング、50‥軸受部材、
51,53‥側壁、52‥軸受部材、90‥ワイパモータ、92‥モータ本体、
94‥揺動機構、96‥ハウジング、98‥ヨークハウジング、100‥底壁、
102,106‥軸受、104‥エンドハウジング、108‥アーマチャ、
110‥回転軸、112‥マグネット、114‥ブラシ、116‥コンミテータ、
118‥ピッグテール、120‥カップリング、122‥ウォームギヤ、
124,126‥軸受、128‥ウォームホイール、130‥回転軸、
132‥セクタギヤ、134‥支軸、136‥歯部、138‥保持レバー、
140‥支軸、142‥ストッパ突起、144,146‥回転制限部、
147‥摺動部材、148‥カバープレート、150‥ワイパモータ、
152‥伝達機構、200‥ワイパ、201‥ワイパアーム、
202‥ワイパブレード、210‥クラッチ装置、228‥入力ディスク、
236‥円周面、237‥係合凸部、251‥側壁、328‥ウォームホイール、
W‥ワイパ装置
【技術分野】
【0001】
本発明はワイパモータおよびワイパ装置に係り、特に過大な負荷トルクが出力軸に作用したときに、出力軸とモータ本体との間の連結を遮断可能なクラッチ機構を内蔵するワイパモータおよび該ワイパモータを備えたワイパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のウインドウガラスを往復払拭するワイパ装置では、ワイパアームの動作が妨げられワイパモータの出力軸に過大な負荷が作用すると、ワイパモータに内蔵されている揺動機構や減速機構等が破損してしまうおそれがある。これを防止するため、揺動機構や減速機構等を構成する各部材には、過大な負荷が出力軸に作用することを想定して強度設計が行われていた。このため、従来、ワイパモータは大型かつ重量が大きいものとなっていた。
【0003】
そこで、本出願人は、出力軸に過大な負荷が作用したときに、出力軸から揺動機構や減速機構等への負荷の伝達を遮断するためのクラッチ装置を内蔵したワイパモータを提案している(例えば、特許文献1参照)。このようにクラッチ機構を内蔵させることにより、出力軸に作用した過大な負荷が揺動機構やモータ本体に伝達されないので、上記各機構を構成する部材の設計強度を低減することができ、小型軽量で安価なワイパモータを構成することが可能となる。
【0004】
【特許文献1】特開2006−51835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ワイパ作動時にワイパブレードに掛かる払拭負荷が変動して大きくなった場合(通常払拭動作時の予め想定した範囲内の負荷変動が出力軸周りに作用した場合)に、この払拭負荷によってクラッチ機構が作動し、出力軸と揺動機構等とが頻繁に切り離されてしまうおそれがあった。このように払拭負荷変動によってクラッチ機構が作動すると、意図しないときにワイパブレードが払拭面の払拭を停止してしまうという問題が生じる。
【0006】
また、ワイパブレードが積雪や凍結等によってウインドウガラスに拘束されている状態でワイパ装置を作動させた場合に、クラッチ機構が作動して出力軸とモータ本体側とが切り離されてしまうと、ワイパモータ内ではモータ本体が揺動機構等を作動させ続けることになる。これにより、拘束期間中、継続的に発生する作動音によって乗員に不快感を与えるおそれがあった。
【0007】
一方、クラッチ機構の作動負荷(解除トルク)が高すぎると、クラッチ機構が作動する前に出力軸側からの外力によって、ワイパモータ内で設計強度の低減された構成部材が破損してしまうおそれがあった。
【0008】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、適正な外的負荷によってクラッチ機構を作動させることにより、小型軽量化および内部機構の保護を図ることができるワイパモータおよびワイパ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ワイパアームが連結される出力軸をモータ本体の駆動力によって往復回動させて、ワイパアームの先端に取付けられるワイパブレードで払拭面を往復払拭するためのワイパモータにおいて、前記出力軸と、前記モータ本体の回転軸に連結され前記モータ本体の回転出力を伝達する伝達機構と、の間には、外力によって前記出力軸回りに所定値以上の解除トルクが掛かったときに、前記伝達機構に対して前記出力軸を空転させて、前記モータ本体側への外力の伝達を遮断する遮断状態に変位可能なクラッチ機構が設けられ、該クラッチ機構は、往復払拭動作時にワイパブレードに掛かる最大払拭負荷として設定した外力が前記出力軸に作用したときの該出力軸周りのトルク値を最大払拭負荷トルク値とするとき、前記解除トルク値が、前記最大払拭負荷トルク値よりも大きな値に設定されたことを特徴とする。
【0010】
このように本発明のワイパモータでは、出力軸と伝達機構との間にクラッチ機構が設けられ、このクラッチ機構は、所定値以上の解除トルクが出力軸回りに掛かったときに作動するように設定されている。そして、この解除トルクは、ワイパブレードに掛かる最大払拭負荷として設定した外力が出力軸に作用したときの出力軸周りのトルク値を最大払拭負荷トルク値とし、この最大払拭負荷トルク値よりも大きな値に設定されているから、通常の払拭動作において特別な外力が作用しない限り、クラッチ機構は作動しないようになっている。
【0011】
これにより、本発明においては、ワイパモータ内のクラッチ機構が、払拭面状態や払拭時の通常走行風による抵抗など払拭負荷の想定内の変動によって、頻繁に作動してしまうことを防止することができる。
また、本発明では、クラッチ機構の頻繁な作動を防止することができる範囲において、解除トルクを小さな値にすることが可能である。これにより、本発明では、ワイパモータ内の伝達機構やモータ本体の強度を低く設定することが可能となり、ワイパモータの小型軽量化を図ることができる。
【0012】
また、前記クラッチ機構は、前記解除トルク値が、前記モータ本体の回転軸を拘束状態として前記出力軸を回転させたときに前記伝達機構が破損するモータ破損トルク値よりも小さな値に設定されたことを特徴とする。
このように本発明では、解除トルク値がモータ破損トルク値よりも小さな値に設定されるので、外力によってワイパモータの内部機構が破損してしまうことを確実に防止することができる。
【0013】
また、前記クラッチ機構は、前記解除トルク値が、前記モータ本体を最大出力で作動させたときに前記出力軸に掛かる最大モータ出力軸発生トルク値よりも大きく設定されたことを特徴とする。
このように本発明では、クラッチ機構を作動させるための最小トルク値を、モータ本体の最大出力時に出力軸を拘束するのに必要な出力軸回りのトルク値よりも大きな値に設定することで、出力軸が拘束されているときに、モータ本体が最大出力で駆動してもクラッチ機構は作動せず、特別な外力が作用したときにのみクラッチ機構が作動し、頻繁にクラッチ切れが生じるのを防止することができる。
【0014】
また、本発明のワイパ機構は、上記ワイパモータと、該ワイパモータの出力軸に連結されたワイパアームと、該ワイパアームの先端に取付けられたワイパブレードと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、出力軸と伝達機構との間にクラッチ機構を設け、このクラッチ機構の作動トルク(解除トルク)を出力軸に作用する最大払拭負荷トルク値よりも大きな値に設定することで、ワイパモータの小型軽量化を図ると共に、頻繁なクラッチ切れを防止することができる。さらに、解除トルク値を最大モータ出力軸発生トルク値よりも大きく設定することで、出力軸の回動拘束時においても、不要なクラッチ切れを防止することができる。また、解除トルク値をモータ破損トルク値未満に設定することにより、ワイパモータの内部機構の保護と共に小型軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることは勿論である。
図1〜図15は本発明の一実施形態に係るものであり、図1はワイパ装置の説明図、図2はワイパモータの斜視図、図3はワイパモータの一部を透視した斜視図、図4はワイパモータの分解斜視図、図5,図7はワイパモータの平断面図、図6は図5の5−5線に沿ったワイパモータの断面図、図8は図7の7−7線に沿ったワイパモータの断面図、図9はワイパモータのクラッチ結合状態における主要部分の説明図である。図10,図11はクラッチ装置の分解斜視図、図12はクラッチ装置の係合状態を示す説明図、図13はワイパ装置においてワイパモータの出力軸に作用する払拭負荷トルクの時間変動を示すグラフ、図14は図8に対応するクラッチ解除状態におけるワイパモータの断面図、図15は図9に対応するクラッチ解除状態における主要部分の説明図である。また、図16は本発明の他の実施形態に係るワイパモータの平断面図、図17は図16のワイパモータのクラッチ装置の分解斜視図である。
【0017】
図1に本発明の一実施形態に係るワイパ装置Wを示す。本例のワイパ装置Wは、車両ボディ1内に配設されたワイパ駆動用モータであるワイパモータ90(図2等参照)と、ワイパモータ90に連結されたワイパ200とを主要構成要素としている。
ワイパモータ90は、車両ボディ1に形成された通孔2から出力軸12を外部へ突出させた状態で車両ボディ1内に配設されている。
本例では、ワイパ200は、ワイパアーム201と、ワイパブレード202を有している。ワイパアーム201は、その基端部が出力軸12に固定されており、また、その先端部にはワイパブレード202が回動可能に取付けられている。
【0018】
常時は、ワイパブレード202は、ワイパアーム201に設けられた不図示の付勢手段によって払拭面であるウインドウガラス3側へ付勢され、ウインドウガラス3と当接した状態に保持されている。ワイパモータ90が作動すると、ワイパアーム201およびワイパブレード202は、出力軸12を回動中心として所定角度範囲内を揺動する。これによりワイパブレード202は、ウインドウガラス3表面を往復払拭可能となっている。
【0019】
図2〜図9等に示すように、ワイパモータ90は、モータ本体92と、揺動機構(伝達機構)94と、クラッチ装置10とを備えている。
本例のクラッチ装置10は、出力軸12を有して構成されており、後述するように、出力軸12に作用する外力によって出力軸12回りに所定値以上の解除トルクが掛かったときに、揺動機構94に対して出力軸12を空転させて、モータ本体92側への外力の伝達を遮断する遮断状態に変位可能となっている。
【0020】
本例では、モータ本体92は、ヨークハウジング98内にアーマチャ108等が配設されて構成されており、このヨークハウジング98には凹状のハウジング96が連結されている。このハウジング96は、内部に揺動機構94とクラッチ装置10を収容した状態で、開口側(裏面側)がカバープレート148によって閉塞されている。
【0021】
本例のヨークハウジング98は、軸線方向一端部が絞り加工された有底でしかも回転軸110の直交方向断面が出力軸12の軸線方向を短手方向とする偏平形状の筒状に形成されており、開口側にハウジング96が一体的に取り付けられている。
【0022】
ヨークハウジング98の開口側には、絶縁樹脂製のエンドハウジング104が固定されている。このエンドハウジング104の中央部分には軸受106が配置されている。また、ヨークハウジング98の底壁100の膨出部には、軸受102が配置されている。
アーマチャ108は、その回転軸110が軸受102,106によって回転自在に支承された状態でヨークハウジング98内に収容されている。また、ヨークハウジング98の内周壁には、アーマチャ108に対向するようにマグネット112が固着されている。
【0023】
また、エンドハウジング104には、ブラシケースを介して角柱状のブラシ114が保持されている。ブラシ114は、不図示の付勢手段によってアーマチャ108のコンミテータ116側に付勢されており、先端部がコンミテータ116に摺接可能となっている。ブラシ114には連結用ピッグテール118が取付けられており、ブラシ114はピッグテール118を介して給電用の接続線に接続されている。
【0024】
モータ本体92(アーマチャ108)の回転軸110は、ハウジング96内に突出した一端側にカップリング120が取付けられており、このカップリング120を介して揺動機構94のウォームギヤ122に連結されている。
揺動機構94は、ウォームギヤ122と、樹脂製のウォームホイール128と、セクタギヤ132と、保持レバー138等を備えて構成されている。ウォームギヤ122とウォームホイール128は減速機構を構成し、さらにウォームホイール128,セクタギヤ132,保持レバー138は、揺動機構を構成する。
【0025】
ウォームギヤ122は、その両端部がハウジング96に設けられた軸受124,126によって回転自在に支承されている。
ハウジング96には、ウォームギヤ122(回転軸110)の軸線と略垂直であって、出力軸12の軸線と略平行に、回転軸130が設けられている。ウォームホイール128は、ウォームギヤ122と噛合した状態で、回転軸130に回動可能に取付けられている。
【0026】
ウォームホイール128には、揺動部材としてのセクタギヤ132が連結されている。すなわち、ウォームホイール128の裏面(カバープレート148側)には、回転軸130と異なる位置(径方向に変位した位置)に支軸134が突設されており、この支軸134にセクタギヤ132の一端が回転自在に連結されている。
また、セクタギヤ132の他端側裏面には支軸140が突設されており、セクタギヤ132には、この支軸140を略中心として扇型状に歯部136が形成されている。この歯部136は、後述するクラッチ装置10の入力ディスク28と噛合している。
【0027】
支軸140には、保持レバー138の一端が回動可能に連結されている。保持レバー138の他端は入力ディスク28の回転中心部分(すなわち出力軸12)に回転自在に連結されている。これにより、支軸140と出力軸12との軸間ピッチが維持され、セクタギヤ132と入力ディスク28との噛合い状態が維持される。こうして、ウォームホイール128が回転することによってセクタギヤ132が往復揺動され、このセクタギヤ132の往復揺動動作によって、入力ディスク28が往復回転駆動される。これにより、入力ディスク28と連動して出力軸12が往復回動し、出力軸12の先端に固定されたワイパ200がウインドウガラス3表面を往復払拭する。
【0028】
なお、保持レバー138の裏面には、樹脂材料等からなる摺動部材147が取り付けられており、この摺動部材147は、セクタギヤ132の往復揺動時にカバープレート148と摺接可能となっている(図8等参照)。これにより、保持レバー138は、厚さ方向(出力軸12の軸線方向)の移動が規制されている。
なお、本例のように出力軸12にワイパ200を直接的に連結する場合に限らず、リンクやロッド等を介して間接的に連結する構成としても良い。
【0029】
図10,図11に示すように、本例のクラッチ装置10は、出力軸12と、係合ベース20と、付勢手段としてのコイルスプリング44と、クラッチディスク38と、入力ディスク28を主要構成要素としている。係合ベース20,コイルスプリング44,クラッチディスク38,入力ディスク28は、クラッチ機構に相当する。
【0030】
本例の出力軸12は、先端側(図10では上側)が断面円形に形成された円柱部13であり、基端側(図10では下側)が断面略矩形(周方向において互いに180度反対側に形成された一対の平面と、これらの平面に連続する一対の円周面とを備えた所謂「断面ダブルDカット形状」)に形成された相対回転規制部14となっている。
【0031】
出力軸12の円柱部13は、ハウジング96に固定された軸受部材50によって回転自在に支持されている(図6参照)。一方、相対回転規制部14の先端側(円柱部13側)には回止部16が設けられ、基端部突端には抜止部18が設けられている。回止部16は、円周面に周方向にわたって軸線方向に沿う複数の突条が形成されたものであり、抜止部18は円周面に出力軸12の軸線方向と略直交する方向に設けられた浅溝である。
【0032】
本例では、クラッチ装置10は、出力軸12の基端部側の相対回転規制部14に係合ベース20,コイルスプリング44,クラッチディスク38,入力ディスク28がこの順に挿入され、抜止部18に抜止めクリップ32が取り付けられることにより抜け止めされた状態で一体化され、一体部品として取り扱い可能となっている。
【0033】
本例の係合ベース20は、中央部分に支持孔22が形成された円盤状の部材であり、その周縁には、径方向(出力軸12の径方向)に突出するようにストッパ部26が設けられている。支持孔22は、出力軸12の相対回転規制部14に対応するように断面略矩形(断面ダブルDカット形状)に形成されている。
出力軸12の径方向に大径とされた大径部としての係合ベース20は、支持孔22に出力軸12が挿入され、出力軸12に対して同軸的に固着されている。これにより、係合ベース20は、出力軸12に対して軸線方向に移動不能な状態で、出力軸12と一体回転するようになっている。
【0034】
なお、本例では出力軸12と係合ベース20とを別体に形成してこれらを一体に固着する構成であるが、これに限らず、例えば、冷間鍛造等により出力軸12と係合ベース20とを一体に形成する構成(出力軸にツバ状の大径部を一体に形成する構成)としてもよい。
【0035】
本例では、ハウジング96には、円弧状のストッパ突起142が配設されている(図5〜図8等参照)。このストッパ突起142は、ストッパ部26の回動軌跡内に沿って配設されており、ストッパ突起142の周方向の一端部,他端部はそれぞれ回転制限部144,146となっている。すなわち、ストッパ突起142の回転制限部144,146は、それぞれストッパ部26と当接可能となっており、ストッパ部26が回転制限部144,146と当接すると、係合ベース20はそれ以上の回転が阻止される。
このように、係合ベース20の回動範囲がストッパ突起142によって規制されており、これによりワイパ200の揺動範囲も所定角度範囲に規制されている。
【0036】
本例のクラッチディスク38は、中央部に相対回転規制部14に対応する断面略矩形(断面ダブルDカット形状)の軸孔40が形成された円板状の部材である。本例では、このクラッチディスク38は、粉末合金を成型金型に入れ、圧縮成形し、加熱焼結する所謂「粉末冶金法」により製造された焼結金属であり、該焼結金属内に潤滑油が含油されている。
クラッチディスク38は、軸孔40に出力軸12(相対回転規制部14)が挿入され、出力軸12に対して軸線回りに回転不能で常に出力軸12と一体的に回転すると共に、出力軸12の軸線方向に沿って移動可能となっている。
【0037】
クラッチディスク38の裏面側(入力ディスク28側)には、その周縁部において4つの係合凹部42が凹設して(窪んで)設けられている。これらの係合凹部42は、後述する入力ディスク28の4つの係合凸部37に対応して設けられている。
本例では、係合凹部42は、クラッチディスク38に対して同心状に形成されると共に、クラッチディスク38の周方向に沿って互いに等間隔にならないように(周方向に沿って隣接する間隔がそれぞれ異なるように)形成されている。
係合凹部42は、開口側(裏面側)が周方向に拡開するように断面略台形状に形成されている。したがって、係合凹部42の側壁53は、所定角度傾斜するように形成されている。
【0038】
コイルスプリング44は、その上端部,下端部がそれぞれ係合ベース20の下面,クラッチディスク38の上面と当接し、クラッチディスク38を係合ベース20に対して出力軸12の軸線方向下方(入力ディスク28側)へ付勢している。すなわち、コイルスプリング44は、後述するように、入力ディスク28の係合凸部37とクラッチディスク38の係合凹部42との係合状態が、所定の解除トルク未満では解除されないようにクラッチディスク38を入力ディスク28へ押し付けている。
【0039】
また、係合凸部37が係合凹部42から抜け出した係合解除状態であっても、コイルスプリング44による付勢力によって、係合凸部37がクラッチディスク38の裏面に押し付けられるので、これらの間に所定の摩擦力が生じる。これにより、係合解除状態でも、所定の場合には入力ディスク28とクラッチディスク38とが供回り可能に構成されている。
【0040】
なお、本例ではコイルスプリング44を用いて入力ディスク28とクラッチディスク38の係合状態を保持しているが、これに限らず、ウエーブワッシャ,板バネ,ゴム部材等の付勢手段を用いてもよい。また、入力ディスク28とクラッチディスク38とが磁力によって引き合うように構成してもよい。
【0041】
また、本例では、通常状態(クラッチディスク38が係合ベース20側へ移動しようとしない状態)において、既にコイルスプリング44によってクラッチディスク38が入力ディスク28側へ付勢された構成となっているが、これに限らず、係合状態から係合解除状態へ移行すべく、クラッチディスク38が係合ベース20側へ移動したときだけ、コイルスプリング44によってクラッチディスク38が付勢される構成としてもよい。
【0042】
本例の入力ディスク28は、中央部分に断面略円形の軸孔30が形成された円板状の部材である。本例では、この入力ディスク28は、クラッチディスク38と同様に、粉末合金を成型金型に入れ、圧縮成形し、加熱焼結する所謂「粉末冶金法」により製造された焼結金属であり、該焼結金属内に潤滑油が含油されている。
入力ディスク28は、軸孔30に出力軸12が同軸的に挿通されており、出力軸12によって回転自在に支承されている。また、入力ディスク28は、後述するギヤ歯34よりも大径で出力軸12と同心である円周面36が、ハウジング96に固定された軸受部材52によって回転可能に保持(支持)されている(図6等参照)。
【0043】
また、入力ディスク28の表面側には、その周縁部に係合ベース20側(クラッチディスク38側)へ4つの係合凸部37が突設されている。
これら4つの係合凸部37は、入力ディスク28に対して同心状に形成されると共に、入力ディスク28の周方向に沿って互いに等間隔にならないように(周方向に沿って隣接する間隔がそれぞれ異なるように)配置されている。これらの係合凸部37は、上述のようにクラッチディスク38の係合凹部42に対応して形成されたものであり、入力ディスク28とクラッチディスク38が所定の相対回転位置にあるときのみ、これらの係合凸部37が係合凹部42に嵌入可能となっている。
係合凸部37は、先端側ほど周方向に幅狭となるように断面略台形に形成されている。したがって、係合凸部37の側壁51は、所定角度傾斜するように形成されている。
【0044】
入力ディスク28の裏面側の外周には、ギヤ歯34が形成されている。このギヤ歯34はセクタギヤ132と噛合しており、セクタギヤ132から駆動力が入力されると、入力ディスク28は出力軸12回りに回転する。そして、係合凸部37が係合凹部42に嵌入した状態では、入力ディスク28の回転力がクラッチディスク38へ伝達され、入力ディスク28とクラッチディスク38が連動して回転するようになっている。
【0045】
また、入力ディスク28の裏面には、ギヤ歯34の軸線方向上側(係合ベース20側)の端部を連結するように連結壁35が形成されている。この連結壁35と保持レバー138は、セクタギヤ132の歯部136の厚さ方向両側を挟み込んでいる。すなわち、連結壁35と保持レバー138が歯部136の厚さ方向に対向しており、これらの間に歯部136が挟みこまれている。これにより、歯部136は厚さ方向の移動が制限されている。
【0046】
なお、本例では、上述のように入力ディスク28の係合凸部37とクラッチディスク38の係合凹部42が係合可能なのは、入力ディスク28とクラッチディスク38が所定の相対回転位置にあるときのみである。すなわち、上記所定回転位置以外では、1個の係合凸部37が係合凹部42に対応しても、他の3個の係合凸部37は係合凹部42に対応しないので、係合凸部37が係合凹部42から抜け出した状態では、クラッチディスク38は、少なくとも3個の係合凸部37を介して入力ディスク28と接触するようになっている(3点支持状態となる)。
【0047】
したがって、後述するように出力軸12に所定値以上の解除トルクが掛かってクラッチ装置10が作動し、入力ディスク28とクラッチディスク38との係合状態が解除された場合には、解除トルクが除去された後にワイパモータ90を作動させれば、再び入力ディスク28の係合凸部37が、それぞれ対応するクラッチディスク38の係合凹部42にのみ嵌入し、入力ディスク28とクラッチディスク38は定位置に復帰する。このように、本例では、クラッチ装置10の入出力側の位置関係、すなわちウォームホイール128とワイパ200との位置関係を自動的に元に戻し、その後、通常運転を行うことができる。
【0048】
図12(A)に、通常作動時において係合凸部37と係合凹部42とが係合した状態(「クラッチ結合状態」)の模式図を示す。図12における説明では、理解の容易のため入力ディスク28とクラッチディスク38との摩擦力を考慮していない。
本例では、係合凸部37と係合凹部42は、それぞれ周方向に対称に形成されており、それぞれ側壁51,53が出力軸12の軸線方向(図12ではZ方向)に対して角度θ度傾斜して形成されている。
【0049】
係合状態で入力ディスク28が図中右方向へ回転すると、クラッチディスク38には入力ディスク28から回転伝達力Faを受ける。この回転伝達力Faによって、クラッチディスク38には逆向きの反作用力Fbが掛かる。そして、この反作用力Fbによって、クラッチディスク38には側壁53の斜面方向に分力Fc(=Fb・cosθ)が掛かる。さらにクラッチディスク38には、この分力Fcによって出力軸12の軸線方向に分力Fe(=Fc・sinθ=Fb・cosθ・sinθ)が掛かる。
しかし、この分力Feは、コイルスプリング44によってクラッチディスク38へ作用する下向きの力以下の大きさであるので、クラッチディスク38は斜面方向にスライドすることなく、入力ディスク28と連動して回動する。
【0050】
なお、入力ディスク28の係合凸部37,クラッチディスク38の係合凹部42のそれぞれの側壁51,53を共に傾斜面とする構成に限らず、少なくとも何れか一方に、傾斜面を形成する構成としてもよい。この場合であっても、入力ディスク28からクラッチディスク38への回転伝達力Faによってクラッチディスク38に出力軸12軸線方向に沿った分力を生じせしめることができる。
【0051】
また、図12(B)に、出力軸12に過大な外力(荷重)が作用して、係合凸部37と係合凹部42との係合が解除された状態(「クラッチ解除状態」)へ変位する状態の模式図を示す。
本例では出力軸12回りに解除トルク以上のトルクが掛かった場合に、係合凸部37と係合凹部42との係合が解除されるように設定されている。
【0052】
クラッチ結合状態で出力軸12に過大な外力が作用すると、クラッチディスク38に回転力が掛かる。図12(B)では、クラッチディスク38に右方向へ回転させる回転力が掛かる。このようにクラッチディスク38に回転力が掛かると、係合凸部37と、係合凹部42との係合によって、入力ディスク28には回転駆動力Ffが掛かる。そして、この回転駆動力Ffによってクラッチディスク38には、側壁53の斜面方向に分力Fg(=Ff・cosθ)が掛かる。さらにクラッチディスク38には、この分力Fgによって出力軸12の軸線方向に分力Fi(=Fg・sinθ=Ff・cosθ・sinθ)が掛かる。
【0053】
そして、このとき分力Fiが所定値(コイルスプリング44によって規定される付勢力)を超えると、図12(B)に示すようにクラッチディスク38が付勢力に抗して上方へ移動する。これにより、係合凸部37が係合凹部42から抜け出して係合状態が解除された「クラッチ解除状態」となる(図14,図15参照)。
クラッチ解除状態では、クラッチディスク38,出力軸12は、入力ディスク28に対して空転する。
なお、クラッチディスク38をクラッチ解除方向へ押し上げる分力Fiは、側壁51,53の傾斜角度θの大きさによって設定できることが分かる。
【0054】
本例では、このようにクラッチ結合状態からクラッチ解除状態に変位するときの解除トルクが所定範囲の値となるように設定されている。すなわち、解除トルクが低すぎると通常作動時に頻繁にクラッチ解除状態となり、乗員に不快感を与えたりウインドウガラス3を正常に払拭することができなかったりする不都合が生じる。また、解除トルクが高すぎると本来クラッチ解除状態となるべきときにクラッチ結合状態のままとなり、ワイパモータ90内の内部機構である揺動機構94やモータ本体92を破損してしまうおそれがある。
【0055】
図13は、ワイパ装置Wを2種類の車両にそれぞれ適用し、所定条件で出力軸12に作用したトルク(実測値)の時間変動を示している。この例では、時間「0」分にウインドウガラス3に対する散水を停止している。データA,Bはそれぞれ2種類の車両に対応している。なお、このワイパ装置Wに用いたワイパブレード202には、ブレード長の長い(50cm程度)ものが装着されている。
【0056】
図13から分かるように、ウインドウガラス3表面が濡れた状態(ウェット状態)では2車両とも払拭負荷トルクは1(N・m)程度と小さく、散水停止後数分の半乾燥状態(セミドライ状態)で2〜3(N・m)程度と大きくなり、その後、乾燥状態(ドライ状態)で1.5〜2(N・m)程度で略一定となる。すなわち、ウインドウガラス3表面がセミドライ状態のとき最も出力軸12に作用する払拭負荷トルクが大きくなる。したがって、例えば、雨天走行中にトンネルに入った直後は、出力軸12に掛かる払拭負荷トルクが大きくなる。
【0057】
本例では、このように出力軸12に作用する払拭負荷トルクが払拭面の状況によって予め想定した所定範囲内で変動しても、クラッチ装置10が作動してクラッチ解除状態に変位しないように、上記解除トルク値が設定されている。すなわち、本例では、解除トルクは、往復払拭動作時にワイパブレード202に掛かる最大払拭負荷に相当する外力が出力軸12に作用したときの最大払拭負荷トルク値(本例では3(N・m))よりも大きな値に設定されている。なお、本例では、払拭負荷トルクに加え、払拭時の通常走行風による変動分を考慮して、少なくとも解除トルク値の最小値が3.5(N・m)以上に設定されている。これにより、本例では、通常の作動状況でクラッチ装置10が作動してしまうことが防止される。
【0058】
また、本例では、上記解除トルク値は、モータ本体92の回転軸110を拘束状態として出力軸12を回転させたときに揺動機構94やモータ本体92を構成する各部材の何れかが破損するモータ破損トルク値(モータ強度)よりも小さな値に設定されている。
本例では、ウォームホイール128が樹脂製であるので、ウォームギヤ122と噛合するウォームホイール128の歯が最も破損し易い。このため、本例では、解除トルクは、ウォームホイール128が破損してしまうトルク値(本例では約20(N・m))よりも小さな値となるように設定されている。つまり、解除トルク値の最大値は、モータ破損トルク値未満である。これにより、本例では、出力軸12に外力が掛かったときに、内部機構が破損する前に確実にクラッチ装置10を作動させて内部機構を保護することができる。
【0059】
また、本例では、上記解除トルク値が、出力軸12の回動を拘束した状態において、モータ本体92を最大出力で作動させたときに出力軸12に掛かる最大モータ出力軸発生トルク値(本例では10(N・m))よりも大きく設定されている。
すなわち、積雪や凍結等によってワイパ200がウインドウガラス3表面に拘束された状態でワイパ装置Wを作動させた場合、解除トルク値が、最大モータ出力軸発生トルク値以下であると、ワイパ200が拘束されたまま、ワイパモータ90内部の揺動機構94およびモータ本体92が作動音を発生させながら作動を継続することになり、乗員に不快感を与えるおそれがある。なお、モータ破損防止の観点から言うまでもないが、最大モータ出力軸発生トルク値は上記モータ破損トルク値よりも小さく設定されている。
【0060】
しかしながら、本例では、解除トルク値が最大モータ出力軸発生トルク値よりも大きな値に設定されているので、ワイパ200が拘束された状態ではクラッチ装置10は作動せず、クラッチ結合状態を保持することができ、最大モータ出力軸発生トルク値よりも大きい特別な外力が作用したときのみクラッチ装置10が作動してクラッチ解除状態とすることができる。これにより、頻繁なクラッチ切れを防止して、不要な作動音を発生させてしまうことを防止することができる。また、クラッチ切れの頻度を低減することにより、クラッチ装置10の要耐久性を軽減することができる。
【0061】
本例のワイパモータ90では、出力軸12に取付けられた係合ベース20と、コイルスプリング44と、クラッチディスク38と、入力ディスク28によって、クラッチ解除力(解除トルク値)の設定を容易に行うことが可能である。
すなわち、クラッチディスク38の軸線方向移動に要する力は、入力ディスク28の係合凸部37およびクラッチディスク38の係合凹部42の側壁の傾斜角度θ、係合凸部37および係合凹部42の配設数、表面粗さや潤滑油等に起因する摩擦係数、コイルスプリング44のバネ係数等を適宜に調整することにより容易に設定することができる。
【0062】
例えば、係合凸部37および係合凹部42の側壁51,53の傾斜角度θ(図12参照)を45度程度にした場合に分力Fiが最も大きくなり、クラッチ解除し易くすることができる。このように傾斜角度θを適宜に設定することにより、クラッチ解除力(すなわち、解除トルク)を所望の値に設定することができる。
【0063】
次に、本例のワイパモータ90の動作について説明する。
本例のワイパモータ90では、通常の使用状態では、図6、図8,図9等に示すように、クラッチ装置10が「クラッチ結合状態」となっている。すなわち、クラッチディスク38はコイルスプリング44によって入力ディスク28側へ付勢されており、入力ディスク28の係合凸部37と、クラッチディスク38の係合凹部42とが係合した状態に維持される。
【0064】
本例のワイパモータ90では、モータ本体92(アーマチャ108)は一方向のみへ回転するように構成されており、モータ本体92が回転すると、ウォームギヤ122を介してウォームホイール128へ回転力が伝達される。ウォームホイール128が回転すると、このウォームホイール128の連結されたセクタギヤ132が往復揺動され、このセクタギヤ132の往復揺動によって、入力ディスク28が往復回転駆動される。
【0065】
入力ディスク28が往復回転駆動されると、係合凸部37および係合凹部42の係合によって入力ディスク28からクラッチディスク38へ回転駆動力が伝達される。そして、クラッチディスク38は、供回りするように出力軸12に取付けられているから、クラッチディスク38へ伝達された回転駆動力はクラッチディスク38から出力軸12へ伝達され、出力軸12はクラッチディスク38および入力ディスク28と共に往復回動する。
これにより、出力軸12に連結されたワイパ200が、出力軸12の往復回動に伴ってウインドウガラス3表面を往復払拭動作する。
【0066】
一方、ワイパ200を介して出力軸12に過大な外力(荷重)が作用した場合、出力軸12が逆転もしくは拘束される。この外力によって、出力軸12と一体回転するクラッチディスク38には、入力ディスク28と相対回転する方向に回転力が作用する。
【0067】
上述のように出力軸12に掛かるトルクが所定の解除トルクを超えると、出力軸12の回動と共にクラッチディスク38が上方へ移動し、図14,図15に示すように係合凸部37が係合凹部42から抜け出して係合状態が解除される。係合状態の解除により、クラッチディスク38,出力軸12は、入力ディスク28に対して空転する。
【0068】
出力軸12の空転により、クラッチ装置10の各部品、あるいは入力ディスク28に接続されたセクタギヤ132,保持レバー138,ウォームホイール128等の揺動機構94の各部品の破損を防止することができる。これにより、本例のワイパモータ90では、過大な外力(荷重)の作用を想定した各部品の強度設定を行う必要がなくなり、設定強度を低減して軽量化を図ることができる。
【0069】
したがって、例えば、車両の屋根に堆積した積雪がガラス面に沿って略垂直落下してワイパ200に当たり大きな外力がワイパモータ90に作用する等、ワイパ200を介して出力軸12に過大な外力(荷重)が作用する蓋然性が高い車両(例えばキャブオーバータイプのコックピットを有するトラックや建設機械)に、本例のワイパモータ90を適用すると好適である。
【0070】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。なお、上記実施形態と同じ構成要素には同一の符号を付与し、重複する説明は省略する。
図16に示すワイパモータ150は、モータ本体92と、伝達機構152と、クラッチ装置210とを主要構成要素としている。
上記実施形態では、ワイパモータ90は、モータ本体92(アーマチャ108)を同一方向に連続回転させ、揺動機構94によって出力軸12を揺動運動させていたが、本例のワイパモータ150は、モータ本体92(アーマチャ108)自体を所定回転角度毎に正逆回転させて、出力軸12を揺動運動させるものである。
【0071】
本例の伝達機構152は、上記実施形態におけるセクタギヤ132や保持レバー138は設けられておらず、ウォームギヤ122及びウォームホイール328によって構成されている。
図17に示すように、本例では、ウォームホイール328と入力ディスク228とが同心的に一体に結合されている。この入力ディスク228と一体化されたウォームホイール328に、ウォームギヤ122が噛合している。
本例の入力ディスク228は、入力ディスク28と同様、上面には側壁251を有する4つの係合凸部237が突設されているが、入力ディスク28と異なり、下面側にはギヤ歯34は設けられていない。そして、本例では、円周面236の下縁部に連続するようにして、ギヤ歯34に相当する位置に、ウォームホイール328が設けられている。
【0072】
本例では、入力ディスク228は摩耗や変形防止のため金属製となっており、ウォームホイール328はウォームギヤ122との噛合音を低減するために樹脂製となっている。これらは、接着等によって一体に組みつけてもよいし、インサート成形にて一体に形成してもよい。
【0073】
このワイパモータ150では、モータ本体92(アーマチャ108)が回転すると、ウォームギヤ122を介してウォームホイール328へ回転力が伝達されてウォームホイール328および入力ディスク228が回動する。
通常の使用状態では係合凸部237が係合凹部53に係合しているから、ウォームホイール328および入力ディスク228が回動すると、クラッチディスク38は、これらと共に一体に回動する。これにより、クラッチディスク38および出力軸12に固定されたワイパ200が往復払拭動作を行う。
【0074】
出力軸12に過大な外力(荷重)が作用して出力軸12が逆転もしくは拘束されたときに、クラッチ結合状態からクラッチ解除状態となるのは、上記実施形態と同様である。クラッチ解除状態となると、出力軸12がウォームホイール328および入力ディスク228に対して空転する。これにより、クラッチ装置210の各部品、あるいはウォームホイール328に接続されたウォームギヤ122等の伝達機構152の各部品の破損を防止することができる。また、このような過大な外力(荷重)の作用を想定して各部品を過度に高強度設定する必要がなくなる。
【0075】
また、本例のワイパモータ150においても、上記実施形態と同様に、クラッチ装置210が「クラッチ解除」した場合、すなわち出力軸12がモータ本体92に対して空回りした場合であっても、係合ベース20とストッパ突起142との当接位置を設定することにより、その後にモータ本体92を動作させることで自動的に原点復帰を行い、再び出力軸12をモータ本体92側に定位置で連結して(クラッチ接続して)通常の駆動運転を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の一実施形態に係るワイパ装置の説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るワイパモータの斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るワイパモータの一部を透視した斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るワイパモータの分解斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るワイパモータの平断面図である。
【図6】図5の5−5線に沿ったワイパモータの断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るワイパモータの平断面図である。
【図8】図7の7−7線に沿ったワイパモータの断面図である。
【図9】本発明の一実施形態に係るワイパモータのクラッチ結合状態における主要部分の説明図である。
【図10】本発明の一実施形態に係るクラッチ装置の分解斜視図である。
【図11】本発明の一実施形態に係るクラッチ装置の分解斜視図である。
【図12】本発明の一実施形態に係るクラッチ装置の係合状態を示す説明図である。
【図13】本発明の一実施形態に係るワイパ装置においてワイパモータの出力軸に作用する払拭負荷トルクの時間変動を示すグラフである。
【図14】図8に対応するクラッチ解除状態におけるワイパモータの断面図である。
【図15】図9に対応するクラッチ解除状態における主要部分の説明図である。
【図16】本発明の他の実施形態に係るワイパモータの平断面図である。
【図17】図16のワイパモータのクラッチ装置の分解斜視図である。
【符号の説明】
【0077】
1‥車両ボディ、2‥通孔、3‥ウインドウガラス、10‥クラッチ装置、
12‥出力軸、13‥円柱部、14‥相対回転規制部、16‥回止部、
18‥抜止部、20‥係合ベース、22‥支持孔、26‥ストッパ部、
28‥入力ディスク、30‥軸孔、32‥クリップ、4‥ギヤ歯、
35‥連結壁、36‥円周面、37‥係合凸部、38‥クラッチディスク、
40‥軸孔、42‥係合凹部、44‥コイルスプリング、50‥軸受部材、
51,53‥側壁、52‥軸受部材、90‥ワイパモータ、92‥モータ本体、
94‥揺動機構、96‥ハウジング、98‥ヨークハウジング、100‥底壁、
102,106‥軸受、104‥エンドハウジング、108‥アーマチャ、
110‥回転軸、112‥マグネット、114‥ブラシ、116‥コンミテータ、
118‥ピッグテール、120‥カップリング、122‥ウォームギヤ、
124,126‥軸受、128‥ウォームホイール、130‥回転軸、
132‥セクタギヤ、134‥支軸、136‥歯部、138‥保持レバー、
140‥支軸、142‥ストッパ突起、144,146‥回転制限部、
147‥摺動部材、148‥カバープレート、150‥ワイパモータ、
152‥伝達機構、200‥ワイパ、201‥ワイパアーム、
202‥ワイパブレード、210‥クラッチ装置、228‥入力ディスク、
236‥円周面、237‥係合凸部、251‥側壁、328‥ウォームホイール、
W‥ワイパ装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイパアームが連結される出力軸をモータ本体の駆動力によって往復回動させて、ワイパアームの先端に取付けられるワイパブレードで払拭面を往復払拭するためのワイパモータにおいて、
前記出力軸と、前記モータ本体の回転軸に連結され前記モータ本体の回転出力を伝達する伝達機構と、の間には、外力によって前記出力軸回りに所定値以上の解除トルクが掛かったときに、前記伝達機構に対して前記出力軸を空転させて、前記モータ本体側への外力の伝達を遮断する遮断状態に変位可能なクラッチ機構が設けられ、
該クラッチ機構は、往復払拭動作時にワイパブレードに掛かる最大払拭負荷として設定した外力が前記出力軸に作用したときの該出力軸周りのトルク値を最大払拭負荷トルク値とするとき、前記解除トルク値が、前記最大払拭負荷トルク値よりも大きな値に設定されたことを特徴とするワイパモータ。
【請求項2】
前記クラッチ機構は、前記解除トルク値が、前記モータ本体の回転軸を拘束状態として前記出力軸を回転させたときに前記伝達機構が破損するモータ破損トルク値よりも小さな値に設定されたことを特徴とする請求項1に記載のワイパモータ。
【請求項3】
前記クラッチ機構は、前記解除トルク値が、前記モータ本体を最大出力で作動させたときに前記出力軸に掛かる最大モータ出力軸発生トルク値よりも大きく設定されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のワイパモータ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のワイパモータと、該ワイパモータの出力軸に連結されたワイパアームと、該ワイパアームの先端に取付けられたワイパブレードと、を備えたことを特徴とするワイパ装置。
【請求項1】
ワイパアームが連結される出力軸をモータ本体の駆動力によって往復回動させて、ワイパアームの先端に取付けられるワイパブレードで払拭面を往復払拭するためのワイパモータにおいて、
前記出力軸と、前記モータ本体の回転軸に連結され前記モータ本体の回転出力を伝達する伝達機構と、の間には、外力によって前記出力軸回りに所定値以上の解除トルクが掛かったときに、前記伝達機構に対して前記出力軸を空転させて、前記モータ本体側への外力の伝達を遮断する遮断状態に変位可能なクラッチ機構が設けられ、
該クラッチ機構は、往復払拭動作時にワイパブレードに掛かる最大払拭負荷として設定した外力が前記出力軸に作用したときの該出力軸周りのトルク値を最大払拭負荷トルク値とするとき、前記解除トルク値が、前記最大払拭負荷トルク値よりも大きな値に設定されたことを特徴とするワイパモータ。
【請求項2】
前記クラッチ機構は、前記解除トルク値が、前記モータ本体の回転軸を拘束状態として前記出力軸を回転させたときに前記伝達機構が破損するモータ破損トルク値よりも小さな値に設定されたことを特徴とする請求項1に記載のワイパモータ。
【請求項3】
前記クラッチ機構は、前記解除トルク値が、前記モータ本体を最大出力で作動させたときに前記出力軸に掛かる最大モータ出力軸発生トルク値よりも大きく設定されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のワイパモータ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のワイパモータと、該ワイパモータの出力軸に連結されたワイパアームと、該ワイパアームの先端に取付けられたワイパブレードと、を備えたことを特徴とするワイパ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2007−302038(P2007−302038A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−130142(P2006−130142)
【出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【Fターム(参考)】
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