説明

ワイパー用不織布およびその製造方法

【課題】 適度な柔軟性および良好な表面肌ざわりを兼ね備え、更には毛羽落ちの発生し難い対人向けワイパーとして最適な不織布およびその製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】親水性繊維20〜57質量%、ポリエステル繊維もしくはポリオレフィン繊維40〜77質量%、及び熱接着性繊維3〜10質量%からなる繊維ウェブを高圧水流により三次元的に交絡させ、熱接着性繊維のみが溶融して構成繊維を熱接着し、親水性繊維が、他の繊維と係合していることを特徴とし、タテおよびヨコ方向の剛軟性が5.0cm以下であって、タテ、ヨコ方向の5%伸長時強度のうち少なくとも一方における5%伸長時の応力が0.3N/5cm以下であり、吸水率が500質量%以上である不織布を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性を有するとともに優れた柔軟性と肌ざわりを有すると共に実質的に拭取り時の毛羽落ちがないワイパー用不織布に関するものであり、例えば、使い捨てのおしぼりやウェットティッシュ、あるいは化粧用、汗とり用等のワイパーなどに好適な性能を兼ね備えた対人向けワイパー用不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からウェットティッシュや使い捨ておしぼりなどにはレーヨン等の親水性繊維及び/または親水性繊維と熱接着性複合繊維の混綿からなる繊維ウェブに高圧水流処理を施した不織布、あるいは特許文献1のようにセルロースパルプ、ポリエステル系潜在捲縮複合繊維及び熱接着性複合繊維からなる嵩高性シートなどが提案されている。
【0003】
しかしながら、従来の不織布、例えば、レーヨン等の親水性繊維に高圧水流処理を施した不織布は、柔軟な風合いを有し、優れた保湿性を有するが、親水性繊維のみでは構成繊維全てが湿潤しており、べたついた肌ざわりとなり、使用時に不快な感触となる。また、繊維同士が単純に交絡しているだけなので、使用時に容易に毛羽立ち易く場合によっては繊維が脱落して肌に付着する等の問題がある。更に湿潤時により、嵩がなくなり不織布強力が低下して使用しにくくなる。このような問題を解決するため、熱接着性複合繊維を混綿して繊維同士を熱接着させる繊維を用いることにより、毛羽立ちおよび湿潤時の不織布強力の低下を軽減する事が可能となるのであるが、一方で風合いが硬くなり、表面のざらつき感が生じてしまうため、使用者が不快に感じてしまうという問題が生ずる。また、特許文献1において、セルロースパルプとポリエステル系三次元捲縮複合繊維を混綿した嵩高パルプシートが開示されているが、このようなシートは、三次元捲縮複合繊維の捲縮発現により、不織布の密度が0.04g/cm以下と、非常に低密度であるため、拭き難い上、セルロースパルプのような短い繊維長を有する繊維を使用しているため、柔軟性に劣ると共に充分な強力が得られ難い。
【0004】
更には、特許文献2において、親水性繊維、ポリエステル繊維、及び熱接着性繊維からなる繊維ウェブを高圧水流により三次元的に交絡させた不織布であって、該不織布の対人接触面に親水繊維が一定割合露出すると共に、熱接着繊維により構成繊維を固定している対人向けワイパー用不織布が開示されている。しかしながら、この発明においては、ワイパーとしての問題とならないレベルの毛羽立ち性を確保するために、多量の熱接着繊維から構成されており不織布のザラツキが生じたり、風合いが硬くなったりしており、対人ワイパーとしての特性を損なう結果となっている。
【特許文献1】特開平3−269199号公報
【特許文献2】特開平10−237750
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、柔軟な風合いを有し、且つべたついたりざらついたりする事のない対人向けワイパーに最適な不織布はまだ得られていない。本発明はかかる問題点を解消し対人ワイパーとして最適な不織布を目指したものであり、適度な柔軟性および良好な表面肌ざわりを兼ね備え、更には毛羽落ちの発生し難い対人向けワイパー用不織布およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の対人向けワイパー用不織布は、親水性繊維、ポリエステル繊維及び/またはポリオレフィン繊維、及び熱接着性繊維からなる繊維ウェブを高圧水流により三次元的に交絡させた不織布であって、親水性繊維20〜57質量%、ポリエステル繊維及び/またはポリオレフィン繊維40〜77質量%、熱接着性繊維を3〜10質量%含有しており、熱接着性繊維のみが溶融して構成繊維を熱接着し、親水性繊維が、他の繊維と係合していることを特徴とする。本発明の不織布は、このような構成により、適度な柔軟性および良好な表面肌ざわり性を実現した対人向けワイパー用不織布である。また、ポリエステル繊維及び/またはポリオレフィン繊維を不織布全体に40〜77質量%含有させることにより、湿潤時における嵩のへたりを防止し、柔軟性に富みむと共に、表面の肌ざわり性を良好にする。
【0007】
不織布の縦あるいは横方向の少なくとも一方における5%伸長時の応力が0.3N/5cm幅以下である事を特徴とする柔軟な対人向けワイパー用不織布である。
【0008】
更に、本発明の対人向けワイパー用不織布は、不織布のタテおよびヨコ方向の剛軟性が5.0cm以下であり、極めて柔軟性の高い対人ワイパー用不織布である。
【0009】
更に、不織布の保水率が500質量%以上であることにより、良好な保水性を有すると共に、柔軟性に富む対人向けワイパー用不織布である。
【0010】
また、本発明の対人向けワイパー用不織布の目付は20〜100g/m2であり、柔軟性と表面肌ざわり性とを兼ね備えた対人向けワイパー用不織布である。
【0011】
親水性繊維としてレーヨン繊維および/またはエチレン−ビニルアルコール共重合体を鞘、そしてポリエチレンテレフタレートを芯とする偏芯芯鞘型複合繊維を用いることで、優れた保湿潤性を有する対人向けワイパー用不織布である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、肌ざわり性、柔軟性、保湿潤性などを確保しながら、使用時に生ずる繊維の脱落が非常に少ない、対人向けワイパー用不織布を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の対人向けワイパー用不織布についてその詳細を説明するが、本発明の請求範囲を制限するものではない。
本発明の対人向けワイパー用不織布は親水性繊維、疎水性繊維、及び熱接着性繊維を均一に混面した繊維からなるウェブを高圧水流により三次元的に交絡させた不織布であって、前記繊維の、本発明における不織布での構成は、親水性繊維が20〜57重量%、疎水性繊維を40〜77重量%、熱接着性繊維を3〜10重量%含有しており、熱接着性繊維のみが溶融して構成繊維を熱接着したことを特徴としている。
【0014】
本発明に用いられる親水性繊維は、係合性形状を有する繊維、例えば、レーヨン繊維の表面に生ずるフィブリル状に表面に突起形状を生ずる、或いは捲縮を生ずることでお互いを軽度に束縛できる繊維であり、レーヨン繊維あるいは親水性の潜在捲縮性繊維が取り扱い性、汎用性の観点から好ましく用いられる。本発明では、これらの繊維が繊維交絡時或いは交絡後に他の繊維を物理的に軽度に係合する事で毛羽脱落防止および形態安定性を確保することが特徴である。
【0015】
ここでいう係合性形状とは、繊維の表面に突起を有するあるいは捲縮を有する形状であり、このような形状の繊維を用いることで、交絡した繊維が同じ繊維同士あるいは他の繊維との間で繊維交絡の他にお互いを固定する作用が働き、本発明のように毛羽立ち防止や充分な強度の確保を必要とする用途においては、後で述べる熱接着性繊維の使用量を最小限に抑える事が可能になる。熱接着性繊維の使用量を少なくできれば、不織布内において、不織布の風合い悪化の主因である繊維接着を最小限にでき、不織布の風合いの悪化を防ぐ事が可能になる。
【0016】
また、本発明において、このような繊維係合性形状を有する繊維は親水性繊維であることが必要である。係合性を発現するために、繊維表面に突起状の形態を持つことが方法の一つとして必要であるが、この繊維が親水性であれば、この突起部分が繊維の吸水或いは吸湿により柔軟になるため、肌の表面を拭取るような使用方法においても、柔軟な突起による汚れ落としの効果を発現すると共に、この突起で使用時に肌を傷めることはない。
【0017】
本発明の係合性形状を有する親水性繊維としてレーヨン繊維を好ましく用いる事ができる。レーヨン繊維は、その組成からも明らかなように、優れた親水性を有すると共に、繊維を不織布に加工する工程、特に水流絡合工程においてその表面にフィブリルを発現するため、本発明の目的とする親水性と係合性を十分に発揮する事が可能な繊維である。
【0018】
あるいは係合性形状を有する繊維として、潜在捲縮繊維を用いることも可能であり、本発明においては、潜在捲縮性繊維が親水性繊維であることが必要である。すなわち、潜在捲縮繊維であれば、不織布表面において突出する部分はループ形状を有しているものの、不織布表面から部分的に飛び出していることには変わりなく、合成樹脂からなる繊維は繊維そのものが硬いため使用時に肌を傷める原因となりうるのは同じである。したがって、潜在捲縮繊維として親水性繊維を用いる事で、その吸水或いは吸湿により不織布表面において突出している繊維を柔軟な状態に保ち、さらには、捲縮繊維の交絡状態を緩やかな状態に保つ事ができるため、後に述べる熱接着性繊維を最小限に抑える事ができ、極めて良好な風合いや肌ざわりを確保できるのである。
【0019】
このような潜在捲縮性繊維としては、繊維表面にポリビニルアルコール系樹脂、あるいはアクリル系樹脂のような親水性の樹脂と、これら親水性樹脂とは熱収縮率の異なる樹脂とからなる繊維であって、この熱収縮率の違いから捲縮を発現し、この捲縮により繊維同士を交絡し、お互いに交絡しあうことで容易に繊維が脱落することなく使用に耐える形態安定性を実現することで、形態安定性のために必要な繊維融着を最低限に抑え、融着による風合い低下やザラツキの発生を回避するのである。
【0020】
本発明の親水性潜在捲縮繊維としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂からなるサイドバイサイド型複合繊維、あるいは鞘部がエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂、芯部がポリエチレンテレフタレート樹脂からなる偏芯芯鞘繊維が好ましく用いられる。これら繊維の断面において、鞘部及び芯部の円の中心が一致していないことで熱処理時にコイル状捲縮を生ずることで、充分な繊維交絡と交絡後の繊維同士の緩やかな束縛が実現できるような繊維であることが好ましい。
捲縮の半径としては、50〜500μmが好ましく、より好ましくは100〜400μm、150〜300μmが更に好ましい。
【0021】
本発明の親水性繊維の繊維径は、0.5〜5dtexであることが好ましい。0.5dtex未満では繊維の取扱性が難しく生産性に問題が生ずる。一方5dtexを越えるとできた不織布ワイパーの風合いが硬くなるとともに、手触りもザラつくため対人用ワイパーとして好ましくない。
【0022】
そして、構成繊維は不織布内に均一の混綿されており、その結果、親水性繊維は不織布内において概ね均一に20〜57重量%存在する。この割合が20重量%未満であると不織布の保湿性あるいは保水性が劣り、ウェットワイパー用不織布としのウェット性あるいは拭き取り性が不足してしまう。また、57重量%より大きいと不織布のもつ水分量が多すぎるため、使用時に必要以上の水分が滲み出してべたついてしまうため好ましくない。
【0023】
本発明においては、柔軟な風合いや表面肌ざわりを発現させる意味でバルキーな疎水性繊維を混綿することが好ましい。その繊維としては、疎水性繊維であれば特に限定はないが、高圧水流処理した際に繊維交絡性の良い繊維であれば好ましく、その中でも一般的によく使用されているポリエステル繊維及び/またはポリプロピレン繊維がより好ましく用いられる。交絡性の低い繊維を用いた場合、使用時の毛羽立ちや不織布強力が問題となる場合があるので好ましくない。また、ポリアミド系、例えばナイロン繊維などは、交絡性の良い汎用繊維ではあるが、親水性があるため好ましくない。
ポリエステル繊維としては、特に限定はないが、汎用的に用いられる、ポリエチレンテレフタレート繊維あるいはポリブチレンテレフタレート繊維を挙げる事ができる。
【0024】
そして、ポリエステル繊維及び/またはポリプロピレン繊維は不織布全体に40〜77重量%含有される。前記ポリエステル繊維及び/またはポリプロピレン繊維の含有量が40重量%未満であると、特に湿潤時において不織布の嵩の低くなりやすく、さらに湿潤状態での使用時にべたついた肌ざわりとなるため好ましくない。また77重量%より大きいと保湿性かつ/または保水性が低くなるため、ウェットワイパーとして使用した場合に目的とするウェット性が得られない。また、前記ポリエステル繊維かつ/またはポリプロピレン繊維は不織布内に均一に存在している事が好ましい。前記ポリエステル繊維かつ/またはポリプロピレン繊維が存在する事により、表面に疎水性成分が露出し、湿潤時においても適度にさらりとした触感が得られるとともに、内部の吸水性繊維が保持する水分を取り入れ、保持するための空間をつくりだすからである。
【0025】
この疎水性繊維の繊維径についても、0.5〜5dtexの範囲にあることが好ましい。親水性繊維の場合と同様に、0.5dtex未満では繊維の取扱性が難しく生産性に問題が生ずる。一方、5dtexを越えるとできた不織布ワイパーの風合いが硬くなるとともに、手触りもザラつくため対人用ワイパーとして好ましくない。
【0026】
本発明で用いられる熱接着性繊維は、繊維表面の少なくとも一部がポリエステル繊維より低融点の熱可塑性樹脂からなり、熱可塑性樹脂は単独でも二種以上組み合わせてでも使用できるが、不織布への加工のし易さの点で二種以上組み合わせた複合繊維が好ましい。
【0027】
本発明で用いられる前記複合繊維を形成する第一成分は、融点(T1 ℃)が150<T1 <290の範囲にある熱可塑性樹脂が好ましく、このような樹脂としては、ポリエステル類(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリアミド類(ナイロン6、ナイロン6,6等)、ポリオレフィン(ポリメチルペンテン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体等)でありこれらの樹脂からなるホモポリマー或いはこれらの変性体やポリマーアロイが好ましく用いられる。
【0028】
前記複合繊維の第二成分は、その融点が第一成分よりも20℃以上低い熱可塑性樹脂であり、第1成分と共に複合繊維を形成可能であれば特に限定はなく、例えば、ポリエチレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ブテン−1−プロピレン三元共重合体等のプロピレン共重合体などが挙げられる。
【0029】
本発明における複合繊維は、先程述べた第二成分が第一成分に対し、その表面に長さ方向に連続的に露出している事が必要である。複合繊維の構造は例えば第一成分を芯、第二成分を鞘に配置した芯鞘型複合繊維または偏心芯鞘型複合繊維であることが好ましく、分割型複合繊維や一方の成分の熱収縮により分割する熱分割型複合繊維であってもかまわない。これらの繊維において、生産性や不織布の寸法安定性を考慮する場合は芯鞘型複合繊維が好ましく、不織布のボリューム感を考慮する場合は偏心芯鞘型複合繊維が好ましい。
【0030】
複合繊維における両成分の複合比(容積比)は、第一成分:第二成分が20:80〜80:20の範囲にあることが紡糸性の上から好ましい。
【0031】
熱接着性繊維は不織布全体において3〜10質量%含有することが好ましい。3重量%未満であると不織布表面の毛羽立ちを抑制できず、初期モジュラスも低く寸法安定性に劣る。10質量%より大きいと風合いが硬くなり、表面肌ざわりがざらついた触感となり好ましくない。
【0032】
熱接着性繊維の繊度においても特に限定されないが、繊度を細くするとしなやか感が増大し風合いが柔軟になるので、繊度は0.7〜3デニールが好ましい。
【0033】
これらの繊維からなる本発明の不織布の目付は20〜100g/m2であることが好ましく、特に、ウェットティッシュ用途に用いる場合は30〜50g/m2がより好ましい。不織布の目付が20g/m2未満になると厚みが薄くなり、地合斑が大きくなるため好ましくない。更には強度が低く、手持ち感が悪いため好ましくない。また100g/m2より大きい場合には、高圧水流処理において、充分な三次元交絡を形成する事が難しくなるため、より高い水圧が必要となるので、その結果、風合いが硬くなってしまうため対人用ワイパーとして好ましい風合いを確保することが難しくなる。
【0034】
本発明の不織布は、対人向けのワイパー用不織布であり、拭取りが目的であるため、これに耐える強伸度が必要である。まず、この強度としては、少なくとも一方の方向に、20N/50mm以上の強度を有している事が好ましい。20N/50mm未満の強度であると不織布は拭取りに使用する際に、爪や装飾具に触れるなどして力がかかった時に容易に破断してしまう可能性が高く好ましくない。また、このようなときに、容易に破断しないためには伸度が高いことも必要であり、少なくとも一方の方向の伸度が30%以上である事が好ましい。この場合も伸度があれば、使用時に誤って爪や装飾具に不織布が触れるような事があっても簡単に破断することなく変形しながら耐えることができるからである。
【0035】
また本発明の対人向けワイパー用不織布は、主に人の肌を拭く事を目的としているため、汗や水分で肌が濡れている時など、その水分を拭取ると同時に吸収する事が必要である。このため、不織布の自重の500%以上の吸水率を有し、吸収した水分をそのまま保持可能であることが好ましく、より好ましくは800%以上、更に好ましくは1000%以上の吸水率を有している事が好ましい。
【0036】
本発明の不織布は、柔軟な風合いが必要であるため、不織布が人の肌に触れた時など、その形態に容易に追従できるよう、低い伸度において急激に応力が高くならないことが好ましい。そこで、不織布の縦方向あるいは横方向の少なくとも一方における5%伸長時の応力がその指標となる。この値が低いと不織布は変形しやすく柔軟性が高いということができる。そして、この値は、ドライにおいて、0.3N/5cm以下、好ましくは0.05〜0.3N/5cm、より好ましくは0.07〜0.25N/5cm、更に好ましくは0.07〜0.2N/5cmであり、最も好ましくは0.1〜0.18N/5cmである。一方、ウェット状態においては、肌との接触の状態あるいは肌での感じ方が異なるためこの値も異なり、0.4N/5cm以下、好ましくは0.05〜0.35N/5cm、より好ましくは0.07〜0.30N/5cm、更に好ましくは0.15〜0.30N/5cmであり、最も好ましくは0.15〜0.25N/5cmである。
【0037】
本発明の対人ワイパー用不織布は、柔軟な風合いである事が肝要である。本発明においてはタテおよびヨコ方向の剛軟度が5.0cm以下であることが好ましい。より好ましくは5.0cm以下、さらに好ましくは4.5cm以下である。剛軟性が5.0cmより大きい場合には、風合いが硬く、人の肌と接した時に不快な感触を与える事になり好ましくない。
【0038】
また、本発明の対人ワイパー用不織布は、人の身体の表面を拭取る時に不織布表面が摩擦により毛羽立ち、繊維の脱落が著しくてはワイパーとしての用を成さないので好ましくない。したがって、本発明の対人ワイパー用不織布は繊維の脱落が少ないことが肝要である。
【0039】
次に、本発明の対人向けワイパー用不織布の製造方法について説明する。本発明は親水性繊維20〜57重量%、ポリエチレンテレフタレート繊維及び/またはポリプロピレン繊維からなる疎水性繊維40〜77質量%、及び熱接着性繊維3〜10質量%とからなる繊維ウェブに、高圧水流処理を施し繊維同士を三次元的に交絡させた後、該熱接着性繊維のみ溶融する温度で熱処理を施し、構成繊維を熱接着させることによって得られる。前記繊維ウェブは三種類の繊維を用い、この三種類の繊維構成比率が概ね均一であれば単層体あるいは二層以上の積層体のいずれであっても良い。いずれにしても、該繊維を所定の比率で混綿したウェブを作成し、これを必要に応じて、単層で、或いは積層した状態で交絡させることで目的の目付を有する不織布とすれば良いのである。
【0040】
前記の三種類の繊維を所定の割合で混綿させた繊維ウェブの形態は、パラレルウェブ、クロスウェブ、ランダムウェブ、あるいはエアレイなどいずれであっても良く、特に限定されるものではない。
【0041】
ここで、本発明の対人向けワイパー用不織布においては、その目的を達成するためには、ウェブのザラツキの原因となる熱融着繊維の割合を極力少なくすると共に十分に繊維を交絡させることが肝要である。このためには、既に述べた割合で混綿したウェブを交絡させる際に、まず、20kg/cm2程度の圧力で軽く繊維交絡を発生させた後、このウェブを一度支持体から剥離し、この時の剥離面側から最初の水圧の1.5〜3倍程度の水圧、例えば、30〜60kg/cm2の圧力で水流絡合処理を行う事で充分な繊維交絡を得る事が肝要である。この後は、2回目の絡合時以上の水圧で必要に応じて数段の水流絡合処理を行う事で調整すればよいのである。
【0042】
それに対して、通常の水流絡合処理は、まず、カードウェブを、ネット状のエンドレスベルトがノズルとサクション部の間を通過するように構成されたコンベアのネット上に載せた状態でノズル部にウェブを送り、これを低圧の水流で処理することで、ウェブの形態を変化させる事なく繊維同士を軽く交絡させた後、そのまま数段のより高圧の水流処理を行う方法を採用している。ここで、最初に低圧の水流で処理するのは、カードウェブに直接高圧の水流をあてると、水流の力に負けてウェブが破壊されながら繊維交絡するため、極めて地合の粗い不織布となってしまうためである。
しかしながら、弱い水流を用いるとは言え、一旦水流絡合処理を行うと、最初にネット等の支持体の目に繊維が水流で押し込まれてしまうため、後の強い水流に晒されても繊維が殆ど動かなくなっているため、その後の水流のエネルギーを生かす事が難しく、繊維が厚さ方向に貫通するほどの繊維の移動が起こり難い。
【0043】
本発明では、この時にウェブを一旦支持体から剥離することで次の強い圧力の水流に晒される時にウェブおよび繊維をより自由にしてやる事で、従来では実現できなかった繊維交絡を実現し、不織布の風合いに悪影響を及ぼすにも拘わらず繊維固定に必要なために用いられている熱接着繊維の量を最小限に抑える事を可能にしたのである。
【0044】
そして本発明の水流絡合に用いる事のできるノズルは、特に限定されるものではないが、例えば目付30〜60g/m2の不織布を得ようとする場合は、孔径0.05〜0.5mmのオリフィスが0.5〜1.5mmの間隔で設けられたノズルから、水圧2〜7MPaの柱状水流を不織布の表裏面側からそれぞれ1〜4回ずつ噴射するとよい。
【0045】
本発明の対人ワイパー用不織布は、柔軟な風合いが必要であると共に拭取り時に形態が崩れたり、繊維が脱落して拭取り部に残留するような事がないように、ウェブに混綿された熱融着繊維を融着させることが必要である。この融着は、高圧水流によって繊維を交絡させたウェブに含まれた水分を除去するための乾燥工程で発現させることが合理的であるが、乾燥後に融着のための熱を与えて処理してもよい。いずれにしても、本発明の対人用ワイパーは繊維交絡と繊維融着の両方を発現させる事が必要である。例えば、熱接着性繊維として複合繊維を用いた場合、複合繊維の第二成分の融点以上、複合繊維の第一成分及びポリエステル繊維の融点以下の温度で熱処理される。そして、熱処理温度を上記の範囲内で変化させることによって、得られる不織布の柔軟性および肌ざわり性を調節することは可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の対人向けワイパー用不織布は、不織布を構成する繊維としてお互いを束縛することが可能な繊維、例えば、レーヨン繊維の表面に生ずるフィブリルように表面に突起形状を生ずる、或いは捲縮を生ずることでお互いを軽度に束縛できるような親水性繊維をもちい、そしてこれらの繊維が目的の性能を発揮するよう水流絡合法により十分交絡させることにより、構成繊維における熱融着繊維の割合を非常に低レベルに抑えて肌ざわり性、柔軟性などを確保しながら使用時に生ずる繊維の脱落が非常に少ない不織布である。かかる不織布はウェットティッシュや使い捨ておしぼり等のウェットタイプワイプ、あるいは化粧用ワイプとして使用でき、使用者に心地よい触感を与えながら、良好な拭取り性を発現する。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の内容について実施例により更に具体的に説明するが本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。実施例における各物性値は、以下に示す方法により測定した。
【0048】
(1)目付(g/m2
JIS L1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて測定した。
【0049】
(2)厚み(mm)
JIS L1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて厚みを測定し、この値と目付の値とから見掛け密度を算出した。
【0050】
(3)引張強力(N/5cm)、5%伸長時応力(N/5cm)、破断伸度(%)
JIS L1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて測定した。JIS L 1096に準じ、幅5cm、長さ15cmの試験片をつかみ間隔10cmで把持し、定速伸長型引張試験機を用いて引張速度30cm/分で伸長し、5%(0.5cm)伸長時の荷重値を5%伸長時強力、切断時の荷重値を引張強力および伸長率を破断伸度とした。
また、ウェット状態の測定においては、上記の試験片を蒸留水に30分間浸漬した後、ろ紙で挟んで水分を調節して、乾燥時の1.8〜2.2倍の重量になるように調整した後に、同様に測定した。
【0051】
(4)剛軟性
JIS L 1096の剛軟性A法(45゜カンチレバー法)に準じ、幅2cm、長さ15cmの試験片をタテ方向およびヨコ方向にそれぞれ5枚採取し、カンチレバー型測定機を用いて試験片が移動した長さを測定し、タテ方向およびヨコ方向それぞれ平均値を求めた。
【0052】
(5)表面肌ざわり性
ドライ状態およびウェット状態における不織布を机上に設置し、不織布の表面に手の甲を滑らせてそのときの触感を三段階で評価し、ドライ状態で触った時にすべすべしていると感じる場合に3、ザラツキを感じる場合に2、その中間を2とした。また、100質量%吸水状態に調整したウェット状態のワイパーについて、同様に手の甲を滑らせた時の感触が、さらりとした感触であると感じる場合は3、べたついていると感じる場合は1、どちらともいえないと感じた場合は2とし、評価はモニター10名で行い、その平均値を表面肌ざわりのドライあるいはウェット状態における評価点とした。
【0053】
(6)柔軟性
100質量%吸水状態において不織布を手で握り、しなやかな感触であると感じた場合は3、硬いと感じた場合は1、どちらともいえない場合は2として3段階で評価した。評価はモニター10名によって行われ、その平均値を評価点とした。
【0054】
(7)摩擦繊維脱落
10mm厚×5cm長×10cmの発泡ウレタンシート(イノアックコーポレーション社製、軟質ウレタンフォーム ECZ−2)上に、荷重50g、底面積4cm2の直方体を中央に乗せて発泡ウレタンシート上を5往復させた。この時の片道の移動距離は5cmであった。摩擦により発泡ウレタンシート状に脱落した繊維を回収し本数を数え、10本以下ならば5、11〜20本ならば4、21〜30本ならば3、31〜50本ならば2、51本以上ならば1として、5段階で判定した。
【0055】
(8)吸水率
予め秤量(w1)した75mm角の試験片を水中に浸漬し、20分後に水中から取り出したサンプルを30秒間空中に吊るして、余分な水分を自然に落下させた後、吸水した状態のサンプルの質量(w2)を測定したこと以外は、JIS L1907 繊維製品の吸水性試験方法 7.2 吸水率に準ずる方法で測定し、元のサンプルに対する、サンプルに保持されていた水の質量の比を100分率で表した値を吸水率とした。
吸水率(%)=((w2−w1)/w1)×100
【0056】
[実施例1]
親水性繊維として繊度1.5デニール、繊維長40mmのレーヨン繊維(ダイワボウレーヨン(株)製)、ポリエステル繊維として繊度1.5デニール、繊維長51mmのポリエチレンテレフタレート繊維(帝人(株)製)を使用し、熱接着性繊維として融点132℃の高密度ポリエチレンを鞘成分、融点260℃のポリエチレンテレフタレートを芯成分とする繊度2デニール、繊維長51mmの芯鞘型複合繊維(大和紡績(株)製)を用意した。
【0057】
それぞれレーヨン繊維を35重量%、ポリエステル繊維を60重量%、熱接着性繊維を5重量%混綿し、セミランダムカードで目付40g/m2の繊維ウェブを作製した。
【0058】
上記で作製した繊維ウェブを孔径0.1mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられているノズルを用いて繊維ウェブの表面側に水圧1.5MPaの柱状水流をあてた後、ウェブを支持体から剥離し、表裏逆転した後、先程水流を当てたのとは逆の面に4MPa、4.5MPaの柱状水流をそれぞれ1回ずつ、更にその裏側に水圧6.0MPa、8.0MPaの柱状水流を1回ずつ噴射して、ウエブの構成繊維を交絡させ不織布となした。
【0059】
次いで上記で作製された不織布を水蒸気により加熱したシリンダー型乾燥機を用いて140℃で乾燥させながら同一温度で、不織布中の複合繊維の鞘成分を溶融させることにより構成繊維の熱接着加工を行った。得られた不織布は親水性繊維および熱接着繊維が不織布厚さ方向に均一に分布し、良好な風合いを有するものとなった。
【0060】
[実施例2]
繊維ウェブの目付を約40g/m2としたこと以外は実施例1と同様な方法で実施例2の不織布を得た。
【0061】
[実施例3]
繊維ウェブの目付を約60g/m2としたこと以外は実施例1と同様な方法で実施例3の不織布を得た。
【0062】
[実施例4]
使用繊維を実施例1と同様にして、繊維の配合比をレーヨン繊維を45質量%、ポリエステル繊維を52質量%、熱接着性繊維を3質量%とし、セミランダムカードで目付40g/m2の繊維ウェブを作製した。
【0063】
次に上記で作製した繊維ウェブを実施例1と同様条件で水流絡合処理する事により、繊維が十分交絡し、風合いの良好な実施例4の不織布を得た。
【0064】
[実施例5]
使用繊維を実施例1と同様にして、繊維の配合比をレーヨン繊維を25質量%、ポリエステル繊維を67質量%、熱接着性繊維を8質量%とし、セミランダムカードで目付40g/m2の繊維ウェブを作製し、同じく実施例1と同様条件で水流絡合処理することにより、風合いの良好な実施例5の不織布を得た。
【0065】
[実施例6]
親水性繊維として、レーヨンの代わりにエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂を鞘成分とし、ポリエチレンテレフタレート繊維を芯成分とし、尚且つ、鞘成分の中心と芯成分の中心が同一点にない、いわゆる偏芯芯鞘繊維(クラレ製 ソフィスタS221)を用意した。
【0066】
それぞれエチレン−ビニルアルコール共重合体/ポリエチレンテレフタレート偏芯芯鞘繊維を35質量%、ポリエステル繊維を60質量%、熱融着繊維を5質量%混綿しセミランダムカードで目付40g/m2の繊維ウェブを作製した。次いで実施例1と同様の水圧条件で水流交絡処理を行った後、エアースルードライヤーを用いて130℃の熱風で熱処理を施すことで親水繊維エチレン−ビニルアルコール共重合体/ポリエチレンテレフタレート偏芯芯鞘繊維に捲縮を発現させて繊維係合を強化すると共に不織布を乾燥し実施例6の不織布を得た。
【0067】
上記実施例1〜6で作製された不織布の性能を表1に示す。
【0068】
[比較例1]
親水性繊維として繊度1.5デニール、繊維長40mmのレーヨン繊維(ダイワボウレーヨン(株)製)を50質量%、ポリエチレンテレフタレート繊維を35質量%、熱接着性繊維として実施例1と同様の芯鞘型複合繊維を15質量%を混綿し、セミランダムカードによって目付40g/m2の繊維ウェブを作製した。
【0069】
次いで上記で作製した繊維ウエブを実施例1と同様にして、比較例1の不織布を得た。この不織布の性能を表1に示すが、この不織布はワイパーとして人体の皮膚を拭いた時に、ザラツキのある硬い風合いの不織布であった。
【0070】
[比較例2]
親水性繊維として繊度1.5デニール、繊維長40mmのレーヨン繊維(ダイワボウレーヨン(株)製)を45質量%、ポリエチレンテレフタレート繊維55質量%を混綿し、セミランダムカードによって目付40g/m2の繊維ウェブを作製した。
【0071】
次いで上記で作製した繊維ウエブを実施例1と同様にして、比較例2の不織布を得た。この不織布はワイパーとして人体の皮膚を拭いた時に、毛羽立ちが著しく繊維脱落も生じた。これら比較例1および2の不織布の性能も表1に示す。
【0072】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性繊維、ポリエステル繊維もしくはポリオレフィン繊維、及び熱接着性繊維からなる繊維ウェブを高圧水流により三次元的に交絡させた不織布であって、該不織布の構成繊維が親水性繊維20〜57質量%、ポリエステル繊維及び/またはポリオレフィン繊維40〜77質量%、熱接着性繊維3〜10質量%を不織布全体に概ね均一に含有しており、熱接着性繊維のみが溶融接着するとともに、親水性繊維が、他の繊維と係合していることを特徴とする対人向けワイパー用不織布。
【請求項2】
不織布の縦あるいは横方向の少なくとも一方における5%伸長時の応力が0.3N/5cm以下である事を特徴とする請求項1に記載の対人向けワイパー用不織布。
【請求項3】
不織布におけるタテおよびヨコ方向の剛軟性が5.0cm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の対人向けワイパー用不織布。
【請求項4】
不織布の保水率が500質量%以上である事を特徴とする請求項1記載の対人向けワイパー用不織布。
【請求項5】
親水性繊維がレーヨン繊維であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の対人向けワイパー用不織布。
【請求項6】
親水性繊維がエチレン−ビニルアルコール共重合体を鞘、そしてポリエチレンテレフタレートを芯とする偏芯芯鞘型複合繊維であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の対人向けワイパー用不織布。

【公開番号】特開2010−84297(P2010−84297A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256924(P2008−256924)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(307046545)クラレクラフレックス株式会社 (50)
【Fターム(参考)】