説明

ワイヤグリッド偏光子およびその製造方法

【課題】ワイヤグリッド偏光子およびその製造方法において、金属格子の形状が良好となるようにする。
【解決手段】ワイヤグリッド偏光子1を、基材2上に真空成膜によって金属膜層を形成する金属膜形成工程と、基材2上に、液体に金属微粒子を分散させた金属微粒子分散液を塗布し、乾燥させて金属微粒子が凝集された金属微粒子層を形成する金属微粒子層形成工程と、この金属微粒子層上に、樹脂格子4を形成する微細凹凸パターン形成工程と、樹脂格子4をマスクとしてエッチングを行い、樹脂格子4による微細凹凸パターンの凹部の下側の金属微粒子層を、または金属微粒子層と金属膜層とを基材2まで除去して、基材2上に金属格子3を形成するエッチング工程とを行って製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤグリッド偏光子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光利用効率に優れ、薄型化が容易なワイヤグリッド偏光子が注目されている。ワイヤグリッド偏光子の製造方法としては、幾つかの方式が提案されている。
例えば、特許文献1の従来技術には、硝子基板上に金属薄膜を蒸着によって成膜し、この金属薄膜上に熱硬化材料またUV硬化材料からなるポリマーを塗布し、表面に微細パターンが形成されたモールドによって、微細パターンをポリマーに転写し、この微細パターンをマスクとして、ポリマーおよび金属薄膜をエッチングすることで、硝子基板上にワイヤグリッドを形成するワイヤグリッド偏光素子(ワイヤグリッド偏光子)の製造方法が記載されている。
一方、ワイヤグリッドを金属微粒子によって形成する技術が、特許文献2に記載されている。
特許文献2に記載の偏光子(ワイヤグリッド偏光子)は、基板と、基板の表面に形成され、配向処理により互いに平行で周期的な溝が形成された配向性分子膜と、溝に沿って線上に配列された金属粒子を熱処理することにより、溝に沿って互いに平行に配置された金属細線とを備えたものである。
【特許文献1】特開2005−316495号公報
【特許文献2】特開2006−251056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような従来のワイヤグリッド偏光子およびその製造方法には以下のような問題があった。
特許文献1に記載された従来技術では、金属薄膜を蒸着によって形成するので、微細な凹凸が発生し、表面の傷やピンホールなどの欠陥が発生する場合がある。そのため、ナノメートルオーダーでは、金属薄膜の表面は必ずしも平坦にはならないので、微細パターニングが良好に行うことができず、ワイヤグリッド(金属格子)の欠陥を発生させるおそれがあるという問題がある。特に、ピンホールや大きな傷が存在すると、それらの部分ではワイヤグリッドが欠損するため、吸収軸方向の偏光成分がワイヤグリッドの欠損部分で透過してしまう。そのため、偏光度(消光比)が低下することになる。これにより、例えば、このようなワイヤグリッド偏光素子を液晶ディスプレイ(LCD)に用いるような場合には、コントラストの低下を招く原因ともなる。
一方、蒸着などの真空成膜を用いることなく金属格子を形成する技術として、特許文献2に記載された技術がある。この技術では、配向性分子膜に対してアクリルやポリエステル系の布を一定方向にこすりつけて配向処理を行い、平行で周期的な溝を形成する。そして、この配向性分子膜を金属粒子が分散された溶液に浸して平行方向に向かって引き上げることで、溝内に金属粒子を線状に配列し、熱処理して金属細線(金属格子)を形成する。したがって、表面が平滑な金属薄膜を形成するという技術課題は有しないものの、金属細線の形成精度が配向性分子膜の配向特性に基づく溝の形成精度に依存するため、金属を成膜してから微細パターニングする場合に比べて、金属細線の形状パターン、ピッチ、断面積などの自由度が少なく、金属を成膜してから微細パターニングする製造方法を必ずしも代替できる技術ではない。
【0004】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、金属格子の形状が良好となるワイヤグリッド偏光子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明のワイヤグリッド偏光子は、光透過性の基材上に微細な金属格子を形成してなるワイヤグリッド偏光子であって、前記金属格子は、前記基材上に形成された金属膜部と、金属微粒子を凝集させてなる金属微粒子部とを含み、少なくとも前記金属格子の前記基材と反対側の端部が前記金属微粒子部によって覆われてなる構成とする。
この発明によれば、金属格子が、金属微粒子を凝集させてなる金属微粒子部に覆われてなるので、金属膜部の高さ方向の厚さがばらついていても、金属微粒子部に覆われることによって高さ方向の厚さが略一定の金属格子が得られる。そのため、金属格子の欠陥が少なくなり、良好な偏光特性が得られる。
【0006】
また、本発明のワイヤグリッド偏光子の製造方法は、光透過性の基材上に真空成膜によって金属膜層を形成する金属膜形成工程と、該金属膜形成工程で前記金属膜層が形成された前記基材上に、液体に金属微粒子を分散させた金属微粒子分散液を塗布し、乾燥させて前記金属微粒子が凝集された金属微粒子層を形成する金属微粒子層形成工程と、該金属微粒子層形成工程で形成された前記金属微粒子層上に、樹脂によって微細凹凸パターンを形成する微細凹凸パターン形成工程と、該微細凹凸パターン形成工程で形成された前記微細凹凸パターンをマスクとしてエッチングを行い、前記微細凹凸パターンの凹部の下側の前記金属微粒子層を、または前記金属微粒子層と前記金属膜層とを前記基材まで除去して、前記基材上に金属格子を形成するエッチング工程とを備える方法とする。
この発明によれば、金属微粒子層形成工程を備えることにより、金属膜形成工程において形成された金属膜層に層厚の不均一性や、ピンホールや傷などの欠陥があっても、凹部となる金属膜層上に金属微粒子が凝集される。このため、表面が平坦化され、金属微粒子層を含めた金属層としての層厚が均一化される。これにより、微細凹凸パターン形成工程において、樹脂による微細凹凸パターンが良好に形成される。そして、エッチング工程によって、金属微粒子層を、または前記金属微粒子層と前記金属膜層とを基材まで除去して、層厚が略均一な金属格子を形成することができる。そのため、金属格子の欠陥が少なくなり、良好な偏光特性を有する金属格子を形成することができる。
なお、この発明は、請求項1に記載のワイヤグリッド偏光子を製造する製造方法となっている。
【発明の効果】
【0007】
本発明のワイヤグリッド偏光子およびその製造方法によれば、金属格子の先端部が凝集された金属微粒子で覆われることによって、金属格子の形状を良好にすることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下では、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
本発明の実施形態に係るワイヤグリッド偏光子およびその製造方法について説明する。
図1(a)は、本発明の実施形態に係るワイヤグリッド偏光子の製造方法で製造されるワイヤグリッド偏光子の一例の概略構成を示す模式的な部分平面図である。図1(b)は、図1(a)におけるA−A断面図である。なお、これらの図面は見易いように、各部の数、形状、寸法比などは誇張されている(以下の図面も同様)。
【0009】
本実施形態のワイヤグリッド偏光子1は、図1(a)、(b)に示すように、光透過性を有する基材2の一方の面に、幅w、高さhの略矩形断面を有する複数の金属格子3がピッチp(ただし、p>w)で平行に形成され、各金属格子3上に、略同幅で厚さtの樹脂格子4がそれぞれ形成されてなる。このため、本実施形態の樹脂格子4は、金属格子3と同じピッチpの平行ライン群からなる格子状パターンを構成している。
【0010】
基材2の光透過性は、少なくとも、使用条件においてワイヤグリッド偏光子1が透過させるべき光の波長に対する光透過性を有していればよい。
基材2は、例えば、板状、シート状、フィルム状などの適宜の形態を取ることができる。図示では、平板状としているが、湾曲されていてもよい。
基材2の材質としては、例えば、ガラス、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂の一種であるポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)樹脂、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ノルボルネン系樹脂、ポリイミド樹脂などを採用することができる。
可撓性を有する樹脂フィルムを用いる場合には、いわゆるロールtoロールの製造工程を採用して製造効率を向上することができる。
【0011】
金属格子3のピッチpは、ワイヤグリッド偏光子1を使用する波長域によっても異なるが、例えば、可視光領域の波長に対して使用する場合、50nm〜200nmが好ましい。
また、金属格子3の厚さhは、150nm〜250nmであることが好ましく、より良好な光学性能を得るためには、175nm〜200nmであることが望ましい。
【0012】
本実施形態の金属格子3は、図1(b)に示すように、基材2の上面から金属膜部3A、金属微粒子部3Bがこの順に積層された金属格子3a(以下、タイプIと称する)、金属微粒子部3Bのみからなる金属格子3b(以下、タイプIIと称する)、および基材2の上面から高さhで金属微粒子部3Bと基材2の上面から高さhより低い範囲に形成された金属膜部3Aとからなる金属格子3c(以下、タイプIII)からなる。
このため、金属格子3は、タイプI〜IIIのいずれの場合でも、少なくとも基材2と反対側の端部(以下、先端部とも称する)が金属微粒子部3Bによって覆われている。
また、金属格子3は、金属格子3b、3cのように、基材2側の端部(以下から基端部とも称する)から基材2と反対側の端部まで金属微粒子部3Bからなる部分を備えている。
【0013】
金属膜部3Aは、真空成膜によって形成された金属部分である。このため、金属膜部3Aの内部は、金属原子が高さ方向に積層され、互いに緻密に金属結合されている。
金属膜部3Aの材質は、例えば、アルミニウム、銀、金、銅、モリブデン、タンタル、すず、ニッケル、インジウム、マグネシウム、鉄、クロム、シリコンなどの金属、またはこれらを含む合金などを採用することができる。またこれらの金属または合金を、複数を用いて高さ方向に積層させた構成としてもよい。
アルミニウムは、減衰係数が高いため、良好な偏光特性を発揮することができて、特に好適である。
【0014】
金属微粒子部3Bは、金属格子3の先端部の高さを揃えたり、平坦性を向上したりするために設けられた、金属原子より大きな金属微粒子を互いに電気的導通を保つように凝集させてなる金属部分である。
金属微粒子としては、金属ナノ粒子と称される程度のものが好適であり、金属格子3の先端部の凹凸の程度や、平坦化する凹部の寸法などに応じて、適宜の粒子径を採用することができる。例えば、粒径1nm〜100nmの範囲から選ぶことが好ましい。
また、金属微粒子の材質としては、金属膜部3Aと同種のものが好ましいが、異なる種類であってもよい。例えば、アルミニウム、銀、銅、モリブデン、タンタル、ニッケル、鉄、クロム、シリコンなどの金属微粒子を採用することができる。
このような金属微粒子部3Bは、拡大観察すれば、金属微粒子が観察可能であり、金属膜部3Aに比べて粗な凝集体組織を有するため、金属膜部3Aから識別することができるものである。
【0015】
樹脂格子4は、金属格子3を覆って設けられているため、金属格子3の表面を保護したり、金属格子3の酸化を防ぐ機能を有している。
樹脂の材質としては、特に限定されず、後述する製造方法に応じて、適宜の材質を採用することができる。
【0016】
次に、このようなワイヤグリッド偏光子1を製造する本実施形態のワイヤグリッド偏光子の製造方法について説明する。
図2(a−1)は、本発明の実施形態に係るワイヤグリッド偏光子の製造方法の金属膜形成工程の平面視の模式的な工程説明図である。図2(a−2)は、図2(a−1)におけるB−B断面図である。図2(b−1)は、本発明の実施形態に係るワイヤグリッド偏光子の製造方法の金属微粒子層形成工程の平面視の模式的な工程説明図である。図2(b−2)は、図2(b−1)におけるC−C断面図である。図3(c−1)は、本発明の実施形態に係るワイヤグリッド偏光子の製造方法の微細凹凸パターン形成工程の平面視の模式的な工程説明図である。図3(c−2)は、図3(c−1)におけるD−D断面図である。図3(d−1)は、本発明の実施形態に係るワイヤグリッド偏光子の製造方法のエッチング工程の平面視の模式的な工程説明図である。図3(d−2)は、図3(d−1)におけるE−E断面図である。
【0017】
本方法は、金属膜形成工程、金属微粒子層形成工程、微細凹凸パターン形成工程、およびエッチング工程を備え、これらの工程を、以下に述べる順序で行うことで、ワイヤグリッド偏光子1を製造する方法である。
なお、これらの工程は、基材2が、可撓性を有する樹脂フィルムからなる場合には、連続フィルムを用いて、ロールtoロールに張架された状態で搬送方向に沿って順次実施することができる。
【0018】
金属膜形成工程は、図2(a−1)、(a−2)に示すように、基材2上の一定範囲(以下、成膜範囲と称する)に真空成膜によって金属膜層6を形成する工程である。
本実施形態の成膜範囲は、図2(a−1)に部分拡大した矩形領域よりも大きいため、成膜範囲の境界は特に図示していない。
なお、本明細書では、「成膜範囲」は、金属格子3を形成するために金属膜層6が形成されるべき範囲を意味する。成膜範囲は、例えばマスク部材や遮蔽板などを用いた開口などにより設定される。成膜範囲内でも、製造上の欠陥などによって金属膜層6が一部で欠損する場合があり、このような欠陥を除く「成膜された領域」とは区別する。
【0019】
真空成膜方法としては、周知の種々の方法を適宜採用することができる。例えば、抵抗加熱、誘導加熱、電子ビーム(EB)加熱などを用いた真空蒸着法、イオンアシスト蒸着法、イオンプレーティングやスパッタリングなどを採用することができる。また、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition、CVD)法として、熱CVD法やプラズマCVD法なども採用することができる。
このような真空成膜法では、基材2の表面状態や製造条件によっては、ピンホールや傷などの欠陥が生じる場合がある。また、真空成膜法による膜厚は、巨視的な均一性は期待できるものの、基材2に到達した金属材料が粒子成長することで成膜が進むので、微視的には粒子成長速度にムラが生じ、結果として膜厚にムラが生じたり、表面に凹凸形状が形成されたりする。
【0020】
本実施形態では、このような真空成膜法によって、基材2上に高さ(層厚)hを目標とした金属膜層6を成膜する。ここで、高さhは、上記のような膜厚のムラや表面の凹凸形状などが発生したとしても、金属膜層6の表面6aが、基材2からの高さhを越えないような目標値とする。
表面6aは、図2(a−2)に模式的に示すように、金属膜層6の目標高さhに対して無視できない凹凸形状を備えるものとなる。そして、これらの凹凸形状は、平面視では図2(a−1)に模式的に示すように、傾斜方向や湾曲量が異なる滑らかな凹凸面が境界部で接して、全体として不規則な模様を描くように2次元的に分布したものとなる。
また、金属膜層6の凹凸形状は、金属の付着量の差により部分的に膜厚が増減して形成される場合がある。また、基材2上の傷や異物などの欠陥によって表面側に凹凸形状が生じたり、ピンホール5のように、基材2から表面6aまでの間に金属膜層6が欠損したりする場合もある。
従来の製造方法では、ピンホールが発生すると金属格子が欠損し、吸収軸方向の偏光成分が透過してしまい、偏光度(消光比)が低下する原因となる。
【0021】
次に、金属微粒子層形成工程を行う。
本工程は、図2(b−1)、(b−2)に示すように、金属膜層6が形成された基材2上の成膜範囲を覆うように、金属微粒子分散液7を塗布し、乾燥させて金属微粒子が凝集された金属微粒子層8を形成する工程である。
【0022】
金属微粒子分散液7は、金属微粒子部3Bを構成するための金属微粒子を、液体中に混合して分散させたものである。また、必要に応じて、乾燥後に、金属微粒子同士を結合して凝集体を形成するバインダーとなる樹脂を混合してもよい。
混合する金属微粒子の粒径は、表面6aやピンホール5などからなる凹凸形状の凹部に、金属微粒子が侵入して、凹部を許容範囲内の平坦度に平坦化できるような大きさの平均粒径、あるいは粒径分布を選択する。
液体としては、例えば、水、アルコール、トルエン、キシレン、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)などから一種類以上を選択した液体または混合液体を採用することができる。
バインダーとなる樹脂としては、例えば、アクリル系、ポリエステル系、ウレタン系、シリコーン系、エポキシ系、合成ゴム系樹脂などを採用することができる。
金属微粒子分散液7の配合は、金属微粒子分散液7が、塗布後に流動して、表面7aが平坦化できるような適宜の流動性を備えるように設定する。
【0023】
金属微粒子分散液7の塗布方法は、周知のコーティング方法を採用することができる。
基材2が、平板状またはシート状の場合には、例えば、スピンコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、インクジェット法、ワイヤーバー法などが好適である。
また、基材2が、連続フィルムからなる場合には、例えば、マイクログラビア、ダイコーティング、コンマコーティング、リップコーティングなどが好適である。
本工程では、これらのいずれかのコーティング方法を用いることにより、成膜範囲を覆うように、基材2から高さhまで、金属微粒子分散液7を塗布する。高さhは、乾燥後に表面が下降して、基材2から高さhに位置するように、高さhより大きな値に設定する。
これにより、表面6aの凹凸形状の凹部に金属微粒子分散液7が侵入し、さらに凸部をも越え、成膜範囲の表面6aおよびピンホール5が、金属微粒子分散液7によって覆われる。
【0024】
金属微粒子分散液7は、適宜の流動性を備えるため、表面7aでは、初め、塗布ムラなどによって、ある程度凹凸が発生しても、凸部から凹部に金属微粒子分散液7が流動することで、この表面7aの凹凸が緩和され、表面7aが平坦化されていく。
また、ピンホール5では、ピンホール5内に金属微粒子分散液7が侵入することで、基材2から表面7aまで金属微粒子分散液7によって満たされる。
このようにして、基材2上に、金属膜層6と金属微粒子分散液7とによって、高さhで平坦な表面7aを備える金属層部分が形成される。
【0025】
次に、この状態の金属微粒子分散液7を乾燥させる。
乾燥手段は、金属微粒子分散液7に含まれる液体や樹脂に応じて、適宜の手段を採用することができる。
例えば、液体を蒸発、または揮発させる場合には、加熱して乾燥することが好ましい。例えば、ホットプレートによる基板加熱による乾燥、オーブンを用いた加熱乾燥、あるいは、熱風を吹き付ける熱風乾燥などの周知の乾燥手段を用いることができる。
また、金属微粒子分散液7の樹脂が、紫外(UV)光や、EBによって、重合硬化乾燥を起こす場合には、UV光やEBを照射して乾燥させることができる。バインダー樹脂を用いた場合、金属微粒子の分散状態を良好にすることが容易で、金属微粒子分散液7中の金属微粒子の含有割合を増やすことが可能で、結果として、少ない金属微粒子分散液7で済むため、材料コストを低減し、工程時間を短縮することが可能となる。
金属微粒子分散液7の表面7aは、このように乾燥されることで、体積の減少にともなって高さhに比べてやや低くなるものの、液体は、表面7aから略一様に蒸発、揮発するので、平坦化された状態が保たれる。
【0026】
次に、乾燥された金属微粒子分散液7を、さらに加熱して、金属微粒子同士が結合した凝集体を形成する。加熱手段としては、加熱乾燥を行う場合と同様の手段、すなわち、ホットプレート、オーブン、熱風の吹き付けなどの手段を採用することができる。
加熱条件は、金属の再結晶温度以上、例えば、アルミニウムの場合、金属微粒子が200℃となるように、30分程度、加熱することが好ましい。これにより、金属微粒子同士が結合して凝集体となり、基材2からの高さがhとなる金属微粒子層8が形成される。
このとき、表面8aは、金属微粒子分散液7が乾燥されたときと同様の平坦な状態が保たれている。
なお、金属微粒子分散液7にバインダー樹脂を含む場合には、この加熱によって、バインダー樹脂が昇華されることと相俟って、より強固に結合された金属微粒子層8が形成される。
この金属微粒子の凝集体を形成する加熱工程を省略して、乾燥した状態のままで用いても良い。この場合は金属微粒子凝集体の密度が低いため、若干偏光子としての性能は劣るものの、工程短縮の効果がある。
以上で、金属微粒子層形成工程が終了する。
【0027】
次に、微細凹凸パターン形成工程を行う。
本工程は、図3(c−1)、(c−2)に示すように、金属微粒子層8の表面8a上に樹脂格子4による微細凹凸パターンを形成する工程である。
樹脂格子4の形成方法としては、周知のフォトリソグラフィ法や、ナノインプリント法を採用することができる。
【0028】
例えば、フォトリソグラフィ法の場合には、まず、ポジ型またはネガ型のフォトレジストを、金属微粒子層8の表面8a上に一定膜厚に塗布する。塗布方法としては、金属微粒子層形成工程において、金属微粒子分散液7を塗布したのと同様な塗布方法を採用することができる。このとき、表面8aは平坦化されているため、フォトレジストを良好に塗布することができ、密着性を向上することができる。またフォトレジストの膜厚のバラツキを低減することができる。
次に、樹脂格子4の平行ライン群からなる格子状パターンに対応するフォトマスクを等倍露光或いは縮小露光する。このとき、表面8aは平坦であるため、表面8aでの散乱が少なく、また散乱されるとしても場所によるバラツキが少なくなくなるため、正確なパターンを露光することができる。また、フォトレジストの膜厚のバラツキも少ないので、露光ムラも少なくなる。
そして、現像、乾燥、リンス処理などを行うことで、フォトマスクのパターンが転写された、フォトレジストによる樹脂格子4が形成される。
【0029】
また、ナノインプリント法の場合には、まず、樹脂格子4の格子状パターンが反転された凹凸形状を有するモールドを用意しておく。そして、表面8a上に熱可塑性樹脂またはUV硬化性樹脂を塗布する。このとき、表面8aは平坦化されているため、熱可塑性樹脂またはUV硬化性樹脂を良好に塗布することができ、密着性を向上することができる。また熱可塑性樹脂またはUV硬化性樹脂の膜厚のバラツキを低減することができる。
そして、熱可塑性樹脂の場合には、塗布された熱可塑性樹脂に加熱したモールドを押し付けて、モールドの凹凸形状を熱可塑性樹脂に転写し、脱型する。
また、UV硬化性樹脂の場合には、塗布されたUV硬化性樹脂にモールドを押し付けた状態で、モールドを介してUV光を照射する。そして、UV硬化性樹脂がモールドの凹凸形状に沿って硬化してからモールドを脱型する。
このようにして、熱可塑性樹脂またはUV硬化性樹脂による樹脂格子4が形成される。
【0030】
なお、モールドの凹部形状に応じて、隣接する樹脂格子4の間の表面8a上に薄い樹脂層が残り、いわゆる残渣部が形成される場合には、例えば、酸素ガス等を用いた反応性イオンエッチングにて除去するなどして、除去することで、図3(c−2)に示すような樹脂格子4が形成される。
ただし、残渣部が次のエッチング工程で除去される場合には、本工程では、残渣部を残した状態としてもよい。
【0031】
次に、エッチング工程を行う。
本工程は、図3(d−1)、(d−2)に示すように、樹脂格子4で形成される微細凹凸パターンをマスクとしてエッチングを行い、微細凹凸パターンの凹部の下側の、金属微粒子層8または前記金属膜を基材2まで除去して、基材2上に金属格子3を形成する工程である。ただし、微細凹凸パターンの凹部が、ナノインプリント法における残渣部で形成される場合には、残渣部も金属微粒子層8などとともに除去する。
【0032】
本工程では、微細凹凸パターン形成工程で樹脂格子4を形成した状態の基材2を、真空度が1.33×10Pa(1Torr)以下にしたドライエッチング装置(不図示)の電極間に搬入する。そして、電極間に、反応性ガスとして、三塩化ホウ素と塩素の混合ガスを供給し、電極に例えば、400kHz、13.56MHz等の高周波電圧を印加することで、プラズマ100を発生させる。そして、基材2に対して、樹脂格子4が設けられた側からプラズマ100を噴射し、樹脂格子4をマスクとして、金属微粒子層8および金属膜層6を反応性イオンエッチングする。
隣り合う樹脂格子4の間にある金属微粒子層8または金属膜層6が基材2まで除去されたら、エッチング工程を終了する。
【0033】
これにより、図3(d−2)に示すように、基材2上の金属微粒子層8、金属膜層6は、樹脂格子4の下部のみで残存し、金属微粒子層8、金属膜層6の部分によってそれぞれ、金属微粒子部3B、金属膜部3Aが形成される。したがって、図1(a)、(b)に示すようなワイヤグリッド偏光子1が製造される。
【0034】
本実施形態のワイヤグリッド偏光子1によれば、金属格子3の先端部が、金属微粒子部3Bに覆われるので、金属膜層6の膜厚が不均一であったり、金属膜層6の製造上の欠陥や傷などがあったりしても、金属格子3の形状を良好にすることができる。すなわち、基材2からの高さhや断面形状が略一定となる。これにより、例えば、金属格子3の欠損に起因する偏光度(消光比)の低下を低減し、偏光特性を向上することができる。
【0035】
また、ワイヤグリッド偏光子1では、金属格子3の先端部に金属微粒子の凝集体からなる金属微粒子部3Bが形成されているため、先端部での反射率が低下し、結果として、液晶表示装置における液晶パネルよりも観察者側の偏光子、所謂上側偏光板として使用しても、外光の反射によるコントラストの低下を防ぐことが可能となる。
【0036】
また、本実施形態のワイヤグリッド偏光子1の製造方法によれば、金属微粒子分散液7を塗布して、金属微粒子層8を形成する金属微粒子形成工程を備えるので、真空成膜によって得られるよりも平坦化された表面8aが形成されるので、表面8a上での微細凹凸パターンのパターニングが容易となり、正確なマスクとなる樹脂格子4を形成することができる。このため、微細凹凸パターンの欠陥を低減し、ワイヤグリッド偏光子1の製造品質を向上することができる。
【0037】
次に、本実施形態の第1変形例について説明する。
図4(a)は、本発明の実施形態の第1変形例に係るワイヤグリッド偏光子の概略構成を示す模式的な断面図である。
【0038】
本変形例のワイヤグリッド偏光子1Aは、図4(a)に示すように、上記実施形態のワイヤグリッド偏光子1から、樹脂格子4を除去したものである。
樹脂格子4を除去するには、例えば、樹脂格子4を形成するための樹脂格子4の塗布厚さを適宜設定することにより、上記実施形態のエッチング工程によって、金属微粒子層8、金属膜層6がエッチングされる間に、金属格子3上の樹脂格子4も除去されるようにしておくことができる。
また、上記実施形態のエッチング工程後に、樹脂格子4を除去するために、例えば、酸素やCF等の反応性ガスを用いた反応性イオンエッチングなどのドライエッチングを行う樹脂格子除去工程を設けてもよい。この場合、樹脂格子4とともに、金属格子3の間に堆積したエッチング工程における反応性ガスとの反応生成物なども、同時に除去することができる。
【0039】
次に、本実施形態の第2変形例について説明する。
図4(b)は、本発明の実施形態の第2変形例に係るワイヤグリッド偏光子の概略構成を示す模式的な断面図である。
【0040】
本変形例のワイヤグリッド偏光子1Bは、図4(b)に示すように、上記第1変形例のワイヤグリッド偏光子1Aの複数の金属格子3の先端部に、それら複数の金属格子3を覆う保護層9を形成したものである。すなわち、保護層9は、金属格子3を挟んで、基材2と対向する層状部材となっている。
保護層9は、すべての金属格子3の先端部を覆う1層の構成としてもよいし、必要に応じて金属格子3上を複数の領域に分けて、複数の保護層9を設けてもよい。
【0041】
保護層9の材質としては、例えば、酸化ケイ素や酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等の透明誘電体が好適である。
保護層9の形成方法としては、上記実施形態の金属膜形成工程で説明したのと同様の真空成膜法を採用することができる。
ただし、この真空成膜時には、ワイヤグリッド偏光子1Bの光学性能を良好なものとするために、図4(b)に示すように、隣り合う金属格子3の間を埋めることなく金属格子3の先端部のみが覆われるように、保護層9を形成することが好ましい。
このため、真空蒸着やイオンアシスト蒸着、イオンプレートを用いる場合には、基材2の法線方向に対して斜め方向から成膜することが好ましい。
また、スパッタリングを用いる場合には、成膜粒子の方向性のバラツキが少なくなるように、比較的真空度の低い(圧力の高い)状態で成膜することが好ましい。
【0042】
本変形例のワイヤグリッド偏光子1Bによれば、保護層9が複数の金属格子3の先端部に設けられることにより、保護層9がない場合や、樹脂格子4のように複数の金属格子3に跨って設けられていない場合に比べて、ワイヤグリッド偏光子1Bの機械的強度を増すことができる。また、基材2と反対側の表面に、硬度や耐摩擦性が良好な保護層9を備えることにより、ワイヤグリッド偏光子1Bの硬度や耐摩擦性を向上することができる。
また、ワイヤグリッド偏光子1Bを、粘着剤によって、LCD基板に対して貼り合わせる場合などに、粘着剤によって隣り合う金属格子3の間の空間が埋められてしまうことを防止することができる。これにより、隣り合う金属格子3の間の空間が粘着剤などで埋められることによって光学性能が低下しないようにすることができる。
【0043】
次に、本実施形態の第3、4変形例について説明する。これらの変形例は、ワイヤグリッド偏光子の金属格子の形成パターンに関する変形例である。
図5(a)は、本発明の実施形態の第3変形例に係るワイヤグリッド偏光子の概略構成を示す模式的な平面図である。図5(b)は、本発明の実施形態の第4変形例に係るワイヤグリッド偏光子の概略構成を示す模式的な平面図である。
【0044】
第3変形例にワイヤグリッド偏光子1Cは、図5(a)に示すように、上記実施形態のワイヤグリッド偏光子1において、金属格子3、樹脂格子4の延設方向の一部に、不連続部10を設けたものである。
ただし、図示の不連続部10は一例である。不連続部10は、偏光特性が許容範囲であれば、延設方向にいくつ設けてもよいし、隣接する金属格子3の不連続部10の位置は、ずらされていてもよい。この不連続部10は、偏光特性の劣化が許容範囲内であるために、光の波長の10分の1以下の長さであることが必要で、前記ピンホールなどに比べると、サイズの小さいものである。
【0045】
第4変形例のワイヤグリッド偏光子1Dは、図5(b)に示すように、上記実施形態のワイヤグリッド偏光子1において、金属格子3、樹脂格子4が、平行線ではなく、ピッチが一定の曲線状の格子パターンとしたものである。
【0046】
なお、上記の説明では、金属格子3が、タイプI、II、IIIが混在する場合の例で説明したが、これは、金属膜層6にピンホール5などが存在した場合を例にとったためである。金属膜層6にピンホール5などの金属膜層6の欠損部が存在しない場合には、すべての金属格子3がタイプIからなっていてもよい。
【0047】
また、上記の実施形態、各変形例に記載された構成要素は、技術的に可能であれば、本発明の技術的思想の範囲内で適宜組み合わせて実施することができる。例えば、第1、第2変形例のワイヤグリッド偏光子1A、1Bにおいて、金属格子3のパターンを、第3変形例のように、延設方向に不連続としたり、第4変形例のように湾曲させる、といった変形を行ってもよい。
【0048】
ここで、上記実施形態の用語と特許請求の範囲の用語との対応関係について名称が異なる場合について説明する。
樹脂格子4は、微細凹凸パターンの一実施形態である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態に係るワイヤグリッド偏光子の製造方法で製造されるワイヤグリッド偏光子の一例の概略構成を示す模式的な部分平面図、およびそのA−A断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るワイヤグリッド偏光子の製造方法の金属膜形成工程および金属微粒子層形成工程の平面視の模式的な工程説明図、およびそれぞれのB−B断面図、C−C断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るワイヤグリッド偏光子の製造方法の微細凹凸パターン形成工程およびエッチング工程の平面視の模式的な工程説明図、およびそれぞれのD−D断面図、E−E断面図である。
【図4】本発明の実施形態の第1、2変形例に係るワイヤグリッド偏光子の概略構成を示す模式的な断面図である。
【図5】本発明の実施形態の第3、4変形例に係るワイヤグリッド偏光子の概略構成を示す模式的な平面図である
【符号の説明】
【0050】
1、1A、1B、1C、1D ワイヤグリッド偏光子
2 基材
3、3a、3b、3c 金属格子
3A 金属膜部
3B 金属微粒子部
4 樹脂格子(微細凹凸パターン)
3 ピンホール
6 金属膜層
7 金属微粒子分散液
8 金属微粒子層
6a、7a、8a 表面
9 保護層
10 不連続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性の基材上に微細な金属格子を形成してなるワイヤグリッド偏光子であって、
前記金属格子は、
前記基材上に形成された金属膜部と、金属微粒子を凝集させてなる金属微粒子部とを含み、少なくとも前記金属格子の前記基材と反対側の端部が前記金属微粒子部によって覆われてなることを特徴とするワイヤグリッド偏光子。
【請求項2】
前記金属格子は、
前記基材側の端部から前記基材と反対側の端部まで前記金属微粒子部からなる部分を備えることを特徴とする請求項1に記載のワイヤグリッド偏光子。
【請求項3】
光透過性の基材上に真空成膜によって金属膜層を形成する金属膜形成工程と、
該金属膜形成工程で前記金属膜層が形成された前記基材上に、液体に金属微粒子を分散させた金属微粒子分散液を塗布し、乾燥させて前記金属微粒子が凝集された金属微粒子層を形成する金属微粒子層形成工程と、
該金属微粒子層形成工程で形成された前記金属微粒子層上に、樹脂によって微細凹凸パターンを形成する微細凹凸パターン形成工程と、
該微細凹凸パターン形成工程で形成された前記微細凹凸パターンをマスクとしてエッチングを行い、前記微細凹凸パターンの凹部の下側の前記金属微粒子層を、または前記金属微粒子層と前記金属膜層とを前記基材まで除去して、前記基材上に金属格子を形成するエッチング工程とを備えることを特徴とするワイヤグリッド偏光子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−157071(P2009−157071A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334798(P2007−334798)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(500005066)チェイル インダストリーズ インコーポレイテッド (263)
【Fターム(参考)】