説明

ワイヤハーネスの製造方法

【課題】折り曲げ成形の形状保持に対する硬化性長尺部材の強度を大きくすることができ、ワイヤハーネスを高精度に折り曲げ成形することが可能なワイヤハーネスの製造方法を提供する。
【解決手段】ワイヤハーネス11を所定の配索経路に沿って成形する経路規制治具31に固定して配索経路の形状のくせ付けをした後に、経路規制治具31から取り外し、取り外した状態のワイヤハーネス11のくせ付け部位20に水又は光で硬化する硬化性長尺部材18を巻き付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に対し、所定の配索経路で配索するためのワイヤハーネスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に配索されるワイヤハーネスは、その配索経路に沿って折り曲げ成形する必要がある。この折り曲げ成形に際し、ワイヤハーネスに硬化性長尺部材を巻き付け、硬化性長尺部材の巻き付け状態でワイヤハーネスを折り曲げ成形する技術が特許文献1に記載されている。
【0003】
図8は折り曲げ成形を行うために特許文献1に記載されたワイヤハーネス100を示す。ワイヤハーネス100は複数本の電線からなる導電路集合体(図示省略)がコルゲートチューブ等の柔軟性を有した管体110に挿入されることにより管体110に覆われた状態となっている。ワイヤハーネス100は真っ直ぐな状態となっており、このワイヤハーネス100の管体110の外周に対し、水又は光によって硬化する硬化性長尺部材120が巻き付けられる。硬化性長尺部材120はテープ状となっており、配索経路に沿った折り曲げが必要な部位に巻き付けられる。 従来では、この硬化性長尺部材120の巻き付けの後、図9に示すように所定の配索経路に沿ってワイヤハーネス100を折り曲げ成形し、この折り曲げ成形状態で硬化性長尺部材120を水又は光によって硬化する。この硬化によりワイヤハーネス100の折り曲げ形状が保持される。これによりワイヤハーネス100を自動車等の配索経路に沿って配索することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−226587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の製造方法では、ワイヤハーネス100の外周に硬化性長尺部材120を巻き付け、硬化性長尺部材120の硬化前に折り曲げ成形するため、折り曲げ成形の径が大きい場合に、曲げに伴う内外周差により曲げの内側に弛みが発生する一方、曲げの外側に隙間が発生する。図9はこの状態を示し、曲げの内側部分130に弛みが発生し、この弛みにより硬化性長尺部材120の内側部分130がジクザグの蛇腹形状の変形するため、硬化性長尺部材120の形状保持ができなくなる。一方、曲げの外側部分140では、隣接する硬化性長尺部材120の間に隙間が発生する。隙間が発生することにより硬化性長尺部材120の強度が低下し、変形や座屈が発生する。
【0006】
このように曲げの内側部分130では硬化性長尺部材120の形状保持ができないのに加えて、曲げの外側部分140では硬化性長尺部材120の変形や座屈が発生することから、硬化性長尺部材120の強度を保持することができず、目的とした形状保持ができなくなる。これに加えて、ワイヤハーネス100の剛性や配索による外力が硬化性長尺部材120に作用する。これにより図10に示すように、目的とした曲率よりも大きな曲げ成形状態となるため、ワイヤハーネス100の配索に支障が生じる問題がある。
【0007】
そこで本発明は、折り曲げ成形の形状保持に対する硬化性長尺部材の強度を大きくすることができ、ワイヤハーネスを高精度に折り曲げ成形することが可能なワイヤハーネスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、複数本の電線からなる導電路集合体と、この導電路集合体の外周を覆う柔軟性を有する管体とからなり、所定の配索経路に沿って折り曲げ成形されるワイヤハーネスの製造方法であって、前記ワイヤハーネスを所定の配索経路に沿って成形する経路規制治具に固定して前記配索経路の形状のくせ付けをした後に、前記経路規制治具から取り外し、取り外した状態のワイヤハーネスのくせ付け部位に水又は光で硬化する硬化性長尺部材を巻き付けることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のワイヤハーネスの製造方法であって、前記経路規制治具は、くせ付け部位に前記硬化性長尺部材を巻き付けた状態のワイヤハーネスを固定することでくせ付け部位を保護することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、ワイヤハーネスに対して配索経路の形状のくせ付けを行った後、くせ付け部位に硬化性長尺部材を巻き付けるため、硬化性長尺部材はくせ付け部位への巻き付け時の形状と硬化後の形状とが同じとなっており、ムラのない巻き付け状態を保持することができる。これにより硬化性長尺部材による形状保持の強度を大きくすることができる。又、硬化性長尺部材の巻き付け時には、ワイヤハーネスの反力が作用しないため、高精度な折り曲げ成形状態を保持することができる。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、くせ付け部位に硬化性長尺部材を巻き付けた状態のワイヤハーネスを得た後、このワイヤハーネスを経路規制治具に固定するため、硬化性長尺部材が完全硬化するまでワイヤハーネスが保持される。このため、くせ付け部位が元に戻ることなく、くせ付け部位の形状を確実に保持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】自動車に対するワイヤハーネスの配索状態を示す側面図である。
【図2】配索経路に沿って折り曲げた状態のワイヤハーネスの斜視図である。
【図3】経路規制治具を示す斜視図である。
【図4】経路規制治具によりワイヤハーネスを固定する工程を示す斜視図である。
【図5】くせ付けした後のワイヤハーネスを示す斜視図である。
【図6】くせ付けした後のワイヤハーネスに硬化性長尺部材を巻き付けた状態を示す斜視図である。
【図7】硬化性長尺部材を巻き付けた後にワイヤハーネスを経路規制治具に固定する工程を示す斜視図である。
【図8】ワイヤハーネスに硬化性長尺部材を巻き付けた従来構造を示す側面図である。
【図9】図8の従来構造に対し曲げ成形させた状態を示す側面図である。
【図10】図8の従来構造に対して曲げ成形させた状態を示す別の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を図示する実施形態により具体的に説明する。図1は本発明のワイヤハーネスが配索される自動車1を示す。自動車1はエンジン2及びモータユニット3からの動力をミックスして走行するハイブリッド車両であり、エンジン2及びモータユニット3は前輪側のエンジンルーム6内に搭載されている。モータユニット3はエンジンルーム6内に設けられたインバータユニット4を介して車体7の後部側に設けられたバッテリ5に接続されている。
【0014】
モータユニット3はモータ及びジェネレータを備え、これらがシールドケース内に配置されている。インバータユニット4は、インバータ及びコンバータを備え、これらがシールドケース内に配置されている。モータユニット3とインバータユニット4は、従前より用いられている高圧ワイヤハーネス8によって接続されている。
【0015】
バッテリ5は、Ni−MH系やLi−ion系のバッテリ或いはキャパシタ等の蓄電装置が用いられる。バッテリ5にはジャンクションブロック9が設けられており、インバータユニット4はこのジャンクションブロック9と本発明のワイヤハーネス11を介して接続されている。
【0016】
ワイヤハーネス11は一端部11aがインバータユニット4にコネクタ接続され、他端部11bがバッテリ5のジャンクションブロック9にコネクタ接続されている。ワイヤハーネス11はこれらの端部11a,11bを除く中間部11cが車体フロア7aの下部の外側に配索されている。このようにワイヤハーネス11の中間部11cが車体フロア7aの外側に配索されることにより車室内におけるワイヤハーネス11の配索スペースを削減することが可能となる。このようにワイヤハーネス11を車体フロア7aの外側に配索するために、ワイヤハーネス11は所定の配索経路に沿って折り曲げ成形される。
【0017】
図2はワイヤハーネス11を示す。ワイヤハーネス11は鎖線で示す真っ直ぐな状態から実線で示すように所定の配索経路に沿うように折り曲げ成形される。
【0018】
図2に示すようにワイヤハーネス11は、導電路集合体12と、導電路集合体12の外周を覆う柔軟性を有した管体13とを備えている。
【0019】
導電路集合体12は複数本(2本)の高圧電線14と、複数本(2本)の低圧電線15とを束ねた集合体である。この導電路集合体12の外周にはシールド部材16が被覆されており、シールド部材16の被覆状態で管体13によって覆われる。
【0020】
高圧電線14は銅や銅合金、アルミニウムやアルミニウム合金からなる素線を撚り合わせた導体や、銅や銅合金、アルミニウムやアルミニウム合金の単線からなる導体を絶縁被覆によって被覆した構造となっている。この高圧電線14の端末にはコネクタが接続される。低圧電線15は銅や銅合金、アルミニウムやアルミニウム合金からなる細い導体が絶縁被覆によって被覆されて形成されている。
【0021】
シールド部材16は高圧電線14に対する電磁波シールドを行うものであり、導電路集合体12を略全長にわたって覆うように設けられている。シールド部材16は金属シート又は金属筒体が用いられる。金属シートの場合には導電路集合体12の外周に巻き付けることによりシールド部材16となり、金属筒体の場合には導電路集合体12を挿通させることによりシールド部材16となる。また、金属からなる網目体を用いることができる。網目体の場合には、網目体からなるシートを導電路集合体12の外周に巻き付けてシールド部材16としても良く、網目体からなる筒体に導電路集合体12を挿通させてシールド部材16としても良い。かかるシールド部材16はコネクタを介して、又は直接にインバータユニット4のシールドケース等に接続される。
【0022】
管体13は樹脂やゴム等の柔軟性を有する材料によって管状(チューブ状)に形成されている。管体13としては、外周面に凹凸を有したコルゲートチューブ、外周面に凹凸が形成されていないチューブ等が用いられる。これらのチューブは、内面に導電路集合体12が挿通する円形等の断面形状に成形されている。管体13としてはスリットを有していない水密構造のチューブを用いることが好ましい。
【0023】
管体13の外周面には硬化性長尺部材18が巻き付けられている。硬化性長尺部材18は所定の配索経路に沿って折り曲げ成形する部位に巻き付けられるものである。図2において、符号20は折り曲げ成形する部位であり、この部位に硬化性長尺部材18が巻き付けられる。この実施形態において、折り曲げ成形する部位20は折り曲げられたくせ付けがなされた後に硬化性長尺部材18が巻き付けられるものであり、折り曲げ成形する部位20がくせ付け部位20となる。
【0024】
硬化性長尺部材18は水又は光によって硬化する特性を有した長尺部材であり、テープの状態でくせ付け部位20に巻き付けられる。くせ付け部位20への巻き付け時においては硬化性長尺部材18は未硬化の状態となっている。
【0025】
くせ付け部位20への巻き付けの後、水又は光を硬化性長尺部材18に供給することにより硬化性長尺部材18を硬化する。図2において符号21は、水や光を硬化性長尺部材18に供給する供給手段を示す。
【0026】
このような硬化性長尺部材18の硬化により、くせ付け部位20の強度を確保することができる。又、強度の確保により、くせ付け部位20の形状を保持することができるばかりでなく、石跳ね等に対する保護が可能となっている。
【0027】
硬化性長尺部材18が光の供給によって硬化する部材の場合には、ガラスウール、ガラスクロス、ポリエステルクロス、不織布等の基材に光硬化性樹脂組成物を含浸させて硬化性長尺部材18を形成することができる。硬化性長尺部材18が水の供給によって硬化する部材の場合には、上述した基材に水硬化性ウレタン樹脂を含浸させることにより形成することができる。なお、水の供給は硬化性長尺部材18に対し、水の噴射、滴下や水中への浸漬によって行うことができる。
【0028】
次に上述したワイヤハーネス11の折り曲げ成形を説明する。図3〜図6はワイヤハーネス11の折り曲げ成形の手順を示す。
【0029】
ワイヤハーネス11の折り曲げ成形に際しては、経路規制治具31が用いられる。図3に示すように、経路規制治具31は一対の型部材32、33によって形成されている。
【0030】
一対の型部材32、33はワイヤハーネス11を所定の配索経路に沿って成形するための形状に成形されている。この実施形態において、所定の配索経路はクランク状となっており、このためワイヤハーネス11をクランク状に折り曲げ成形することができるように型部材32、33はクランク形状に折り曲げられた外形となっている。型部材32、33は閉作動することにより、相互に組み付けられる。これらの型部材32、33には、ワイヤハーネス11を嵌め込んで固定するための成形用溝32a、33aが形成されている。成形用溝32a、33aは型部材32,33の外形に沿っており、それぞれの型部材32,33の外形と同様にクランク状に屈曲されて形成されている。
【0031】
ワイヤハーネス11は導電路集合体12の外周をシールド部材16が覆い、このシールド部材16を管体13が覆った状態で一対の型部材32、33に供給される(図3参照)。図4に示すように、ワイヤハーネス11は一方の型部材32の成形用溝32aに嵌め込まれ、この嵌め込み状態で一方の型部材32を他方の型部材33に移動させて型部材32、33を突き合わせる。型部材32、33の突き合わせにより、ワイヤハーネス11は型部材32、33に挟まれて固定される。この固定によりワイヤハーネス11に対し配索経路に沿った形状のくせ付けが行われ、ワイヤハーネス11には、くせ付け部位20が形成される。このくせ付けの後、ワイヤハーネス11は経路規制治具31から取り外される。
【0032】
図5はくせ付けの後に、ワイヤハーネス11を一対の型部材32、33から取り外した状態を示している。一対の型部材32、33から取り外した後においても、ワイヤハーネス11にはくせ付け部位20がそのままの状態となっている。くせ付けされたワイヤハーネス11に対し、硬化性長尺部材18をくせ付け部位20に巻き付ける。
【0033】
図6は図5のワイヤハーネス11に対して硬化性長尺部材18を巻き付けた状態を示す。硬化性長尺部材18はくせ付け部位20の外周を覆うと共に、くせ付け部位20の両側から延びている領域を覆うようにワイヤハーネス11に巻き付けられる。すなわち硬化性長尺部材18はワイヤハーネス11におけるくせ付け部位20の周囲にわたるように巻き付けられる。
【0034】
硬化性長尺部材18を巻き付けた後においては、水又は光を硬化性長尺部材18に供給して硬化性長尺部材18を硬化させる。この硬化により、硬化性長尺部材18がくせ付け部位20の形状、すなわち配索経路の形状を固定することができる。従って、ワイヤハーネス11を自動車1の配索経路に沿って配索することができ、この配索を簡単に行うことができる。
【0035】
このような製造方法では、ワイヤハーネス11をくせ付けした後、硬化性長尺部材18をくせ付け部位に20に巻き付け、このまき付けの後に硬化性長尺部材18を硬化させるため、硬化性長尺部材18はくせ付け部位20への巻き付け時の形状と硬化後の形状とが同じとなっている。従って、硬化性長尺部材18の巻き付け後に折り曲げ成形することがないため、折り曲げ成形の内側部分に弛みが発生することがないばかりでなく、折り曲げ成形の外側部分で硬化性長尺部材18間の隙間が発生することがなく、ムラのない巻き付け状態を保持することができる。これにより硬化性長尺部材18による形状保持の強度を大きくすることができる。又、硬化性長尺部材18の巻き付け時には、ワイヤハーネス11の反力が作用しないため、高精度な折り曲げ成形状態を保持することができる。これにより自動車1等の配索経路に沿ったワイヤハーネス11の配索を簡単且つ円滑に行うことができる。
【0036】
図7は硬化性長尺部材18をくせ付け部位20の外周に巻き付けた図6の状態のワイヤハーネス11を経路規制治具31の一対の型部材32、33に再度、保持させるものである。型部材32、33にワイヤハーネス11を保持させることにより、硬化性長尺部材18が巻き付けられた状態のワイヤハーネス11を固定する。そして、この固定状態で硬化性長尺部材18が完全硬化するまでワイヤハーネス11を保持する。これにより硬化性長尺部材18が完全に硬化するまでくせ付け部位20が元に戻ることなく、くせ付け部位20の形状を保持する保護が行われる。なお、かかる図7の工程は省略することが可能である。
【符号の説明】
【0037】
11 ワイヤハーネス
12 導電路集合体
14 高圧電線
15 低圧電線
16 シールド部材
18 硬化性長尺部材
20 くせ付け部位
31 経路規制治具
32,33 型部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の電線からなる導電路集合体と、この導電路集合体の外周を覆う柔軟性を有する管体とからなり、所定の配索経路に沿って折り曲げ成形されるワイヤハーネスの製造方法であって、
前記ワイヤハーネスを所定の配索経路に沿って成形する経路規制治具に固定して前記配索経路の形状のくせ付けをした後に、前記経路規制治具から取り外し、取り外した状態のワイヤハーネスのくせ付け部位に水又は光で硬化する硬化性長尺部材を巻き付けることを特徴とするワイヤハーネスの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のワイヤハーネスの製造方法であって、
前記経路規制治具は、くせ付け部位に前記硬化性長尺部材を巻き付けた状態のワイヤハーネスを固定することでくせ付け部位を保護することを特徴とするワイヤハーネスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−174467(P2012−174467A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34864(P2011−34864)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】