説明

ワイヤハーネス

【課題】電線保護具を備えたワイヤハーネスにおいて、二次元形状の状態での取り扱いが可能であり、電線を曲面に沿って保持する柔軟性と、電線の振動を吸収する緩衝性とを併せ持つ電線保護具を実現し、さらに、電線保護具の取り付け作業を簡素化できること。
【解決手段】ワイヤハーネス1において、電線保護具10は、配線部11及び板状硬化部12を備える。配線部11は、二次元に広がって電線9を挟んで重なり、電線9の出口13が形成された二重の不織布からなる部分である。板状硬化部12は、配線部11の側方に連なって電線保護具10の縁部を形成し、二重の不織布に対するホットプレス成形によって二重の不織布が一体化して板状に硬化した部分である。板状硬化部12に、支持体8の取付孔81に挿入されることによって取付孔81の縁部に保持される留め具2が挿入される貫通孔122が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線及び電線の一部を覆う電線保護具を備えたワイヤハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に代表される車両に搭載されるワイヤハーネスは、電線を予め定められた配線経路に沿って正しく配線することが容易なこと、及び、電線が振動などにより周囲の部材に接触することが原因で破損しないことが要求される。そこで、車載用のワイヤハーネスは、電線の周囲をその長手方向に沿って覆う電線保護具が設けられる。この場合、電線保護具は、電線を自動車のボディなどの支持体における予め定められた配線経路に沿って配線しやすい形状に保持する役割と、電線が周囲の部材に接触して破損することを防止する役割とを果たす。
【0003】
また、自動車の室内における座席の下側に敷設されるワイヤハーネスは、座席を動かすためのモータ、換気ファン及び制御ユニットなどの複数の電装機器を相互に電気的に接続する。このようなワイヤハーネスは、狭い隙間において予め定められた経路に沿って複数の電線を容易に配線できることが要求される。さらに、車両の室内に配置されるワイヤハーネスは、電線の振動により生じる異音を防止できることが要求される。一般に、異音は、振動する電線が近傍に存在する物又は電線保護具の内側の面に衝突することにより生じる。
【0004】
従来の一般的なワイヤハーネスにおいては、コルゲートチューブなどの保護チューブ及び粘着テープによって電線の保護及び経路規制が実現されることが多い。電線の経路規制のためのテーピングは、通常、複数の電線を予め定められた経路に沿って支持する治具を用いて行われる。その治具は、板状の基材及びその基材に形成された複数の突起部を有し、それら突起部は、複数の電線が引っ掛けられることにより、複数の電線を予め定められた経路に沿って保持する。また、保護チューブは、複数の経路各々に沿う電線又は電線束ごとに設けられる。
【0005】
また、特許文献1に示されるワイヤハーネスは、硬質な基板と柔軟で緩衝性のある被覆体とからなる電線保護具を備え、車両の室内に配置される。特許文献1に示される電線保護具において、基板及び被覆体は、電線束を挟むようにして重ねられて固着され、電線の経路を規制するとともに電線を保護する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−027242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、車両に搭載されるワイヤハーネスにおいて、電線を曲面に沿って敷設したい場合がある。例えば、自動車の室内における座席の下側に敷設されるワイヤハーネスにおいては、電線を、電装機器を跨ぐアーチ状の湾曲面沿って敷設したい場合がある。
【0008】
しかしながら、特許文献1に示されるワイヤハーネスにおいて、電線を曲面に沿って敷設するためには、電線保護具における硬質な基板が、曲面に沿った形状で形成されていることが必要である。この場合、電線保護具の本来の形状が曲面に沿った立体的な形状となるため、ワイヤハーネスの取り扱い、例えば搬送及び保管など、が困難になるという問題が生じる。さらに、ワイヤハーネスが敷設される場所に存在する機器の配置の寸法公差、又は電線保護具の寸法公差により、ワイヤハーネスと機器との干渉が生じ、ワイヤハーネスを適切に敷設することができないという問題も生じやすい。
【0009】
また、従来の一般的なワイヤハーネスは、その製造のために、多数の保護チューブの取り付け及びテーピングなどの煩雑な作業を要するという問題点を有している。
【0010】
本発明は、電線保護具を備えたワイヤハーネスにおいて、二次元形状の状態での取り扱いが可能であり、電線を曲面に沿って保持する柔軟性と、電線の振動を吸収する緩衝性とを併せ持つ電線保護具を実現し、さらに、電線保護具の取り付け作業を簡素化できることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るワイヤハーネスは、電線と、電線の一部を覆う電線保護具と、を備える。さらに、電線保護具は、以下の構成要素を備える。
(1)第1の構成要素は、二次元に広がって電線を挟んで重なり、電線の出口が形成された二重の不織布からなる配線部である。
(2)第2の構成要素は、配線部に連なって電線保護具の縁部を形成し、二重の不織布に対するホットプレス成形によって二重の不織布が一体化して板状に硬化した部分である板状硬化部である。
【0012】
また、本発明に係るワイヤハーネスにおいて、配線部を構成する二重の不織布のうちの一方の不織布に、その一方の不織布の一部に対するホットプレス成形によって成形された溝が、電線の経路に沿って形成されていることが考えられる。
【0013】
また、本発明に係るワイヤハーネスにおいて、板状硬化部に、支持体の取付孔に挿入されることによって取付孔の縁部に保持される留め具が挿入される貫通孔が形成されていることが考えられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るワイヤハーネスにおいて、電線が、柔らかな二重の不織布の間に挟まれているため、電線の振動は、二重の不織布によって吸収される。即ち、本発明における電線保護具は、電線の振動を吸収する緩衝性を有する。また、本発明において、二重の不織布からなる配線部に連なって板状硬化部が形成された構造を有する電線保護具は、柔軟性に優れ、二次元状に広げられた状態から大きく曲げられた状態へ変形可能である。即ち、本発明における電線保護具は、二次元形状の状態での取り扱いが可能であり、電線を曲面に沿って保持する柔軟性を有する。そのため、本発明に係るワイヤハーネスは、搬送及び保管などの取り扱いが容易である。さらに、電線保護具の柔軟性が、ワイヤハーネスが敷設される場所に存在する機器の配置の寸法公差、及び電線保護具の寸法公差を許容し、ワイヤハーネスを適切に敷設することが容易となる。
【0015】
また、本発明に係るワイヤハーネスは、二重の不織布の間に電線を挟み、その二重の不織布の縁部に対して金型によるホットプレス成形を施す、という簡易な工程により製造可能である。即ち、本発明によれば、電線保護具の取り付け作業を簡素化しつつ、電線の保護と経路規制とを実現することができる。
【0016】
また、配線部を構成する二重の不織布のうちの一方の不織布に、電線の経路に沿う溝が形成されていれば、ワイヤハーネスの製造工程における電線の配線作業がより容易となり好適である。
【0017】
また、板状硬化部に、留め具が挿入される貫通孔が形成されていれば、電線保護具を支持体に取り付ける作業が容易となり好適である。また、留め具用の貫通孔が、電線の出口から伸び出た電線の端部の留め具付きコネクタが届く位置に設けられていればより好適である。この場合、作業者は、留め具付きコネクタの留め具を、支持体の取付孔に挿入する際に、その取付孔に重ねられた留め具用の貫通孔にも同時に挿入することが可能である。その作業により、支持体に対する電線保護具の固定と、支持体に対するコネクタの固定とが同時に完結する。
【0018】
なお、不織布が成形された部材からなる電線保護具は、樹脂成形部材からなる従来の電線保護具に比べ軽量である。そのため、本発明における電線保護具は、ネジなどの特に強固な固定具を用いることなく、支持体への固定が容易な留め具による支持体への固定が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るワイヤハーネス1の斜視図である。
【図2】ワイヤハーネス1における電線保護具10の元となる不織布100及び電線の斜視図である。
【図3】ワイヤハーネス1の製造に用いられるホットプレス成形装置30及びその装置にセットされる不織布及び電線の一例を示す斜視図である。
【図4】ワイヤハーネス1の製造工程におけるホットプレス成形工程が行われているときのホットプレス成形装置30の第1の部分の断面図である。
【図5】ワイヤハーネス1の製造工程におけるホットプレス成形工程が行われているときのホットプレス成形装置30の第2の部分の断面図である。
【図6】ワイヤハーネス1の電線保護具10の元となる不織布100A及び電線の斜視図である。
【図7】ワイヤハーネス1の電線保護具10の元となる不織布100における電線の出口部分の一例を示す平面図である。
【図8】ワイヤハーネス1の電線保護具10における電線の出口部分の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。以下に示される本発明の実施形態に係るワイヤハーネス1は、自動車などの車両に搭載され、コネクタ付きの電線9及び電線保護具10を備える。
【0021】
<実施形態>
まず、図1を参照しつつ、本発明の実施形態に係るワイヤハーネス1の構成について説明する。図1は、ワイヤハーネス1の斜視図である。図1に示されるように、ワイヤハーネス1は、複数の電線9と、複数の電線9各々の端部に取り付けられた留め部付きコネクタ20と、電線保護具10とを備える。
【0022】
<電線>
電線保護具10による保護の対象となる電線9は、長尺な導体である芯線と、その芯線の周囲を覆う絶縁体である絶縁被覆とを有する。電線9の芯線は、例えば、銅又はアルミニウムを主成分とする金属の線材である。また、電線9の絶縁被覆は、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、フッ素樹脂又はポリエステルなどの合成樹脂からなる絶縁体である。
【0023】
<留め具付きコネクタ>
留め具付きコネクタ20は、電線9の端部に取り付けられ、コネクタ21と留め具22とが一体に形成された部材である。コネクタ21は、電線9の接続相手のコネクタに対して取り外し可能に装着される部分である。コネクタ21は、相手側端子と接触する接続端子を備え、その接続端子は、電線9の芯線と電気的に接続されている。
【0024】
また、留め具22は、車両のフレーム又はパネルなどの支持体8に形成された取付孔81に挿入されることによって取付孔81の縁部に保持される用具である。留め具22は、支持体8の取付孔81に挿入される挿入部と、取付孔81に挿入されない基部とを備える。
【0025】
挿入部は、基部に立設された支柱部の両側に張り出して設けられた2つの係止部を備える。2つの係止部は、可撓性を有し、支柱部の両側に張り出した幅が、取付孔81の幅よりも大きな幅で形成されている。挿入部が取付孔81に挿入される際に、2つの係止部は、取付孔81の縁部(支持体)に接して押圧され、支柱部の両側に張り出す幅が、取付孔81の幅まで収縮する。挿入部が取付孔81の内側へさらに押し込められると、2つの係止部の形状は、取付孔81の縁部の裏側において、取付孔81の幅よりも大きな幅になるまで復帰する。その結果、2つの係止部が、取付孔81の縁部の裏側に引っ掛かり、係止部と基部とが、取付孔81の縁部を表裏両側から挟み込む。その結果、留め具22が支持体8における取付孔81の縁部に保持される。
【0026】
<電線保護具>
電線保護具10は、不織布が成形された部材からなり、電線9の一部を覆う保護具である。また、電線保護具10は、電線9の一部の周囲をその長手方向に沿って覆い、電線9の出口13が形成された配線部11と、配線部11から張り出して形成された薄い板状硬化部12とを有する。図1に示されるように、電線保護具10は、それ本来の形状として二次元状に広がった形状を有している。また、板状硬化部12の厚みは、例えば、約1mmから約2mm程度の範囲である。
【0027】
なお、図1に示される例では、電線保護具10は、二次元状に広がったL字状に形成されている。しかしながら、電線保護具10の形状は、二次元状に広がった形状であれば、矩形状、円盤状又は分岐部を有する形状など、他の形状であることも考えられる。
【0028】
電線保護具10の配線部11は、二次元に広がって形成され、電線9を挟んで重なる二重の不織布からなる部分である。例えば、電線保護具10の配線部11は、ホットプレス成形が施されていない柔らかな不織布が二重に重ねられた部分である。このように、電線9が、柔らかな二重の不織布に挟まれた状態で保持されることにより、電線9又は電線保護具10に加わった振動は、柔らかな配線部11によって吸収される。従って、電線9と配線部11との衝突、及び配線部11とその周囲に存在する物との衝突による騒音(異音)の発生が防止される。
【0029】
また、柔らかな配線部11は、大きく曲げることが可能であるため、電線9を大きく曲がった経路に沿って保持することが可能である。図1に示される例では、配線部11が概ね90°曲げられることにより、電線9は、概ね90°曲がった経路に沿って保持される。
【0030】
また、図1に示される例では、両端に電線9の出口13が形成された配線部11と、その配線部11の両端の間の部分に対して一端が連通し、他端に電線9の出口13が形成された配線部11とが存在している。このような2種類の配線部11は、電線9の分岐経路を形成している。
【0031】
一方、板状硬化部12は、不織布に対するホットプレス成形によって不織布が板状に硬化した部分である。電線保護具10の板状硬化部12は、重ねられた二重の不織布の縁部に対してホットプレス成形が施されることにより、二重の不織布が一体化して板状に硬化した部分である。二重の不織布の縁部、即ち、配線部11の側方の縁部に板状硬化部12が形成されることにより、配線部11は、電線9の出口13を有する筒状に形成されている。
【0032】
なお、二重の不織布からなる配線部11の側方に板状硬化部12が形成された構造を有する電線保護具10は、不織布がホットプレス成形されることによって筒状に成形された部材よりも柔軟性に優れ、より大きく曲げることができる。
【0033】
また、電線保護具10の板状硬化部12には、留め具22が挿入される貫通孔122が形成されている。図1に示される例では、留め具用の貫通孔122は、板状硬化部12における、電線の出口13から伸び出た電線9の端部の留め具付きコネクタ20が届く部分121に形成されている。図1に示される留め具用の貫通孔122は、支持体の取付孔81と重ねられて留め具22が挿入される孔である。
【0034】
以下、複数の留め具付きコネクタ20のうち、留め具用の貫通孔122に対して最寄りの位置に存在する留め具付きコネクタ20のことを第一留め具付きコネクタ20Aと称し、その他の留め具付きコネクタ20のことを第二留め具付きコネクタ20Bと称する。
【0035】
図1に示されるように、第一留め具付きコネクタ20Aの留め具22は、支持体8の取付孔81に挿入される際に、その取付孔81に重ねられた留め具用の貫通孔122にも挿入される。即ち、第一留め具付きコネクタ20Aの留め具22は、まず、留め具用の貫通孔122に挿入され、続いて支持体8の取付孔81に挿入される。これにより、第一留め具付きコネクタ20Aの留め具22は、第一留め具付きコネクタ20Aのコネクタ21と電線保護具10との両方を支持体8に固定する。
【0036】
一方、第二留め具付きコネクタ20Bの留め具22は、留め具用の貫通孔122には挿入されず、支持体8の取付孔81にのみ挿入される。これにより、第二留め具付きコネクタ20Bの留め具22は、第二留め具付きコネクタ20Bのコネクタ21のみを支持体8に固定する。
【0037】
<電線保護具:不織布>
以下、電線保護具10の材料について説明する。電線保護具10の元となる不織布は、例えば、絡み合う基本繊維とバインダと称される接着樹脂とを含む不織布が採用される。接着樹脂は、基本繊維の融点よりも低い融点(例えば、約110[℃]から約150[℃]の融点)を有する樹脂である。このような不織布は、基本繊維の融点よりも低く、かつ、接着樹脂の融点よりも高い温度に加熱されることにより、接着樹脂が溶融して基本繊維の隙間に溶け込む。その後、不織布の温度が、接着樹脂の融点よりも低い温度まで下がると、接着樹脂は、周囲に存在する基本繊維を結合した状態で硬化する。これにより、不織布の形状は、加熱前の状態よりも硬くなり、加熱時に型枠によって成形された形状で維持される。
【0038】
ホットプレス成形は、加工対象である不織布を金型の間に挟み込んで加圧しつつ、その不織布を加熱することにより、不織布を金型の内面形状に成形することである。
【0039】
接着樹脂は、例えば、粒状の樹脂又は繊維状の樹脂などである。また、接着樹脂は、芯繊維の周囲を覆うように形成されることも考えられる。このように、芯繊維が接着樹脂で被覆された構造を有する繊維は、バインダ繊維などと称される。芯繊維の材料は、例えば、基本繊維と同じ材料が採用される。
【0040】
また、基本繊維は、接着樹脂の融点において繊維状態が維持されればよく、樹脂繊維の他、各種の繊維が採用され得る。また、接着樹脂は、例えば、基本繊維の融点よりも低い融点を有する熱可塑性樹脂繊維が採用される。不織布を構成する基本繊維と接着樹脂との組合せとしては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)を主成分とする樹脂繊維が基本繊維として採用され、PET及びPEI(ポリエチレンイソフタレート)の共重合樹脂が接着樹脂として採用されることが考えられる。そのような不織布において、基本繊維の融点は概ね250[℃]であり、接着樹脂の融点は約110[℃]から約150[℃]の間の温度である。そのような不織布は、ホットプレス成形において、型枠内で約110[℃]から約250[℃]までの範囲内の温度に加熱された後に冷却されると、接着樹脂が溶融して周囲の基本繊維を結合するため、型枠の内面に沿う形状に成形され、型枠に接触した面が硬化する。
【0041】
不織布がホットプレス成形によって硬化した部材は、その部材自体ある程度の可撓性を有しているが、ホットプレス成形が施される前の不織布に比べ、一定の形状を保持する硬さが強化される。
【0042】
<効果>
ワイヤハーネス1において、電線9は、配線部11を構成する柔らかな二重の不織布の間に挟まれているため、電線9の振動は、配線部11によって吸収される。即ち、電線保護具10は、電線9の振動を吸収する緩衝性を有する。さらに、配線部11は、電線9を保護するとともに、電線9の経路を規制する。
【0043】
また、電線保護具10は、不織布の一部がホットプレス成形により成形された部材であるため、非常に軽く、緩衝性に優れている。そのため、電線保護具10は、内包される電線9との接触による異音を発しにくいことに加え、周囲の他の部材との接触による異音も発しにくい。
【0044】
また、二重の不織布からなる配線部11に連なって板状硬化部12が形成された構造を有する電線保護具10は、柔軟性に優れ、二次元状に広げられた状態から大きく曲げられた状態へ変形可能である。即ち、電線保護具10は、二次元形状の状態での取り扱いが可能であり、電線9を曲面に沿って保持する柔軟性を有する。そのため、ワイヤハーネス1は、搬送及び保管などの取り扱いが容易である。さらに、電線保護具10の柔軟性が、ワイヤハーネス1が敷設される場所に存在する機器の配置の寸法公差、及び電線保護具の寸法公差を許容する。そのため、ワイヤハーネス1を適切に敷設することが容易となる。
【0045】
また、ワイヤハーネス1において、電線保護具10の板状硬化部12に、取り付け作業が容易な留め具22が挿入される貫通孔122が形成されている。そのため、電線保護具10を支持体8に取り付ける作業は容易である。
【0046】
また、図1に示される例では、留め具用の貫通孔122は、電線9の出口13から伸び出た電線9の端部の第一留め具付きコネクタ20Aが届く位置に設けられている。そして、作業者は、第一留め具付きコネクタ20Aの留め具22を支持体8の取付孔81に挿入する際に、その取付孔81に重ねられた留め具用の貫通孔122にも同時に挿入する。その作業により、支持体8に対する電線保護具10の固定と、支持体8に対する第一留め具付きコネクタ20Aのコネクタ21の固定とが同時に完結する。
【0047】
従って、ワイヤハーネス1が採用されることにより、支持体8に対して電線保護具10及びコネクタ21を固定する作業が簡略化される。また、不織布が成形された部材からなる電線保護具10は、樹脂成形部材からなる電線保護具に比べ軽量である。そのため、電線保護具10は、ネジなどの特に強固な固定具を用いることなく、支持体8への固定が容易な留め具22による支持体8への固定が可能である。
【0048】
また、ワイヤハーネス1は、電線9を二重に重ねた不織布で挟み込み、その二重の不織布の縁部に成形用の型を押し当てて加熱するホットプレス成形により、容易にかつ安価に製造できる。
【0049】
<ホットプレス成形装置>
次に、図2から図5を参照しつつ、ワイヤハーネス1の製造に用いられるホットプレス成形装置30の一例について説明する。
【0050】
なお、図2は、ワイヤハーネス1における電線保護具10の元となる不織布100及び電線9の斜視図である。図3は、ワイヤハーネス1の製造に用いられるホットプレス成形装置30及びその装置にセットされる不織布100及び電線9の一例を示す斜視図である。図4及び図5は、ワイヤハーネス1の製造工程におけるホットプレス成形工程が行われているときのホットプレス成形装置30の一部の断面図である。また、図4に示される断面は、図3に示されるD−D断面であり、図5に示される断面は、図3に示されるE−E断面である。
【0051】
電線保護具10の元となる不織布100は、例えば、図2に示されるように、一点鎖線で示される中心線を基準に線対称の形状の1枚の不織布である。そして、電線9が、不織布100における中心線から片側の部分に配置された後、不織布100が、中心線を折り目として折り返される。これにより、電線9は、二つ折りされることによって二重に重ねられた不織布100の両半面の間に挟まれる。なお、図2において符号101によって示される部分は、不織布100に対するホットプレス成形によって板状硬化部12となり、留め具用の貫通孔122が形成される部分である。
【0052】
そして、図3に示されるように、電線9を挟んで二重に重ねられた不織布100は、電線9が配置されない領域において、ホットプレス成形装置30によってホットプレス成形が施される。ホットプレス成形装置30は、二重に重ねられた不織布100における硬化対象領域を金型の間に挟み込んで加圧しつつ、その硬化対象領域を加熱することにより、不織布100の一部を金型の内面形状に成形する。
【0053】
図3に示されるように、ホットプレス成形装置30は、下型部材40と、上型部材50とを備える。
【0054】
下型部材40は、第一下型部材40Aと第二下型部材40Bとが一体に組み合わされた部材である。なお、図3において、ハッチングが施されている部分は、第二下型部材40Bを示している。
【0055】
第一下型部材40Aは、熱伝導性に優れた金属などの材料からなる部材であり、不織布100における、電線保護具10の板状硬化部12の下方部分を形作る型枠として機能する部材である。また、第一下型部材40Aは、加熱装置60を内蔵している。なお、加熱装置60は、図4及び図5に示されているが、図3においては記載が省略されている。
【0056】
一方、第二下型部材40Bは、比較的熱伝導性の低い樹脂などの材料からなる部材であり、不織布100における、電線保護具10の配線部11となる部分を支持する部材である。従って、第二下型部材40Bは、電線9の配線経路に沿って形成されている。
【0057】
そして、第一下型部材40A及び第二下型部材40Bが合体した物である下型部材40は、その上面において、電線9を挟んで二つ折りされた不織布100が嵌め入れられる溝41を形成している。また、下型部材40には、電線保護具10における電線9の出口13に相当する部分において欠け部43が形成されている。この欠け部43は、下型部材40が形成する溝41と下型部材40の外側とを連通する。
【0058】
第一下型部材40Aにおける、溝41の内面の一部を形成する部分は、不織布100における、電線保護具10の板状硬化部12となる部分を支持する。以下、その部分のことを硬化部支持面42と称する。
【0059】
上型部材50は、熱伝導性に優れた金属などの材料からなる部材であり、土台となる基部51と、基部51の一方の面(下面)に突出する上型突起部52とが形成された部材である。上型突起部52は、下型部材40の硬化部支持面42に対向して突出している。上型部材50が、下型部材40に接近すると、上型部材50の上型突起部52は、下型部材40の溝41に嵌り込む。
【0060】
また、上型部材50には、凹み部53が形成されている。この凹み部53は、第二下型部材40Bに対向する位置、即ち、不織布100における、電線保護具10の配線部11及び電線9の出口13となる部分に対向する位置に形成されている。
【0061】
第一下型部材40A及び上型部材50の各々に設けられた加熱装置60は、電線保護具10の元となる不織布100の一部を、基本繊維の融点よりも低く、かつ、接着樹脂の融点よりも高い温度に加熱する装置である。
【0062】
なお、加熱装置60は、第一下型部材40A及び上型部材50の各々に埋設されることの他、第一下型部材40A及び上型部材50の各々の外面に熱伝達可能な態様で取り付けられることも考えられる。
【0063】
<ワイヤハーネス1の製造方法>
続いて、ワイヤハーネス1の製造方法の一例について説明する。ワイヤハーネス1の製造工程では、まず、不織布囲繞工程が実行され、次に、ホットプレス成形工程が実行される。
【0064】
<不織布囲繞工程>
不織布囲繞工程は、保護対象となる電線9の周囲を不織布100で覆う工程である。本工程により、シート状の不織布100は、図3に示されるように、下型部材40の溝41に嵌め入れられるとともに、電線9を挟む状態で二重に折り返される。
【0065】
不織布囲繞工程は、例えば、以下の手順で実行される。まず、不織布100における中心線から一方の片側の部分が、下型部材40の溝41に嵌め入れられる。次に、電線9が、下型部材40の溝41の中における不織布100の片側の部分の上に載置される。最後に、不織布100における中心線から他方の片側の部分が、不織布100の中心線で折り返され、不織布100における中心線から一方の片側の部分に重ねられる。これにより、電線9は、二重に重ねられた不織布100の間に挟まれる。
【0066】
<ホットプレス成形工程>
不織布囲繞工程の次に行われるホットプレス成形工程は、電線9を挟んで二重に重ねられた不織布100の一部を、第一下型部材40Aと上型部材50とによって形成される型枠内で加熱することにより、不織布100の一部を薄い板状に成形して硬化させる工程である。このホットプレス成形工程により、板状硬化部12が形成され、電線9の一部を覆う状態の電線保護具10が製造される。
【0067】
図4及び図5は、ホットプレス成形工程において、電線9を挟んで二重に重ねられた不織布100の一部が、第一下型部材40Aの硬化部支持面42と上型突起部52との間で圧縮されつつ、加熱装置60によって加熱されている様子を表す。
【0068】
より具体的には、電線9の一部を挟む状態で二重に重ねられた不織布100が、下型部材40の溝41に嵌め入れられた状態で、上型部材50の上型突起部52が下型部材40の溝41内に嵌め込まれる。このとき、第一下型部材40A及び上型部材50各々の加熱装置60は、硬化部支持面42の周辺部分及び上型突起部52を加熱する状態(ON状態)である。
【0069】
ホットプレス成形工程により、二重に重ねられた不織布100は、電線9が挟み込まれた領域の側方の縁部において、第一下型部材40Aの硬化部支持面42と上型突起部52とにより上下両側から圧縮されつつ加熱され、薄い板状に成形される。このとき、二重に重ねられた不織布100は、加熱によって溶融した接着樹脂によって接着され、これにより電線保護具10の板状硬化部12が形成される。
【0070】
一方、不織布100における、第一下型部材40Aの硬化部支持面42と上型突起部52とによって挟まれる部分以外の部分は、ホットプレイス成形が施されない元の二重の不織布の状態のままで、電線保護具10の配線部11となる。
【0071】
ホットプレス成形工程では、不織布100は、加熱装置60により、不織布100に含まれる基本繊維の融点よりも低く、かつ、不織布100に含まれる接着樹脂の融点よりも高い温度に加熱される。加熱の温度及び時間は、板状硬化部12に要求される堅さ及び可撓性に応じて適宜設定される。一般に、ホットプレス成形工程において、加熱の温度が高いほど、加熱の時間が長いほど、また、加える圧力が高いほど、不織布100は、より堅く、形状保持の性能の高い部材に成形される。一方、ホットプレス成形工程において、加熱の温度が低いほど、加熱の時間が短いほど、また、加える圧力が低いほど、不織布100は、より柔らかく、可撓性及び緩衝性に優れた部材に成形される。
【0072】
ホットプレス成形工程により得られた電線保護具10を含むワイヤハーネス1は、ホットプレス成形装置30内から取り出されることによって冷却される。その冷却は、強制空冷及び常温の室内で所定時間放置する自然冷却のいずれであってもよい。強制冷却としては、ファンによって常温の空気を電線保護具10に対して送風する空冷、又は、スポットクーラーなどの冷却器から出力される冷気を電線保護具10に対して送風する空冷などが考えられる。
【0073】
また、ホットプレス成形工程により形成された板状硬化部12における、予め定められた第一留め具付きコネクタ20Aが届く部分には、支持体の取付孔81と重ねられて留め具22が挿入される留め具用の貫通孔122が形成される。留め具用の貫通孔122は、例えば、板状硬化部12が形成された後に穿孔機によって作られる。
【0074】
また、留め具用の貫通孔122は、ホットプレス成形によって板状硬化部12を形成する際に作られてもよい。この場合、不織布100を突き破って留め具用の貫通孔122を形成する突起部が、ホットプレス成形装置30における板状硬化部12を成形する部分、例えば、第一下型部材40Aにおける硬化部支持面42の部分に設けられる。
【0075】
<第1の変形例>
次に、図6を参照しつつ、ワイヤハーネス1の電線保護具10の第1の変形例について説明する。図6は、電線保護具10の元となる不織布100A及び電線の斜視図である。以下、不織布100A及びその不織布100Aから作製された電線保護具10について、図2に示された不織布100及びその不織布100から作製された電線保護具10と異なる点についてのみ説明する。
【0076】
図6に示される不織布100Aは、中心線から一方の片側における配線部11となる部分に、電線9が挿入される溝102が予め形成されている。この溝102は、不織布100Aにおける中心線から一方の片側の部分に対するホットプレス成形によって成形された溝であり、電線9の経路に沿って形成されている。また、溝102は、不織布囲繞工程及び板状硬化部12を作るためのホットプレス成形工程が行われる前に、ホットプレス成形によって予め作られる。
【0077】
不織布100Aを用いた不織布囲繞工程では、まず、不織布100Aにおける溝102の部分が、下型部材40の溝41に嵌め入れられる。次に、電線9が、不織布100Aの溝102内に挿入される。最後に、不織布100Aにおける中心線から他方の片側の部分が、不織布100Aの中心線で折り返され、不織布100Aにおける中心線から一方の片側の部分に重ねられる。これにより、電線9は、不織布100Aの溝102に挿入された状態で、二重に重ねられた不織布100Aの間に挟まれる。不織布100Aが採用されることにより、不織布囲繞工程において、電線9の配線作業がより容易となる。
【0078】
また、不織布100Aを用いた不織布囲繞工程の後、前述したホットプレス成形工程が実行されることにより、溝102を有する電線保護具10を備えたワイヤハーネス1が製造される。
【0079】
不織布100Aを用いて作製されたワイヤハーネス1においては、電線保護具10の配線部11を構成する二重の不織布のうちの一方の不織布、即ち、配線部11における下側の不織布に、電線9の経路に沿う溝102が形成されている。
【0080】
<第2の変形例>
次に、図7及び図8を参照しつつ、ワイヤハーネス1の電線保護具10の第2の変形例について説明する。以下、図7に示される不織布100及びその不織布100から作製された電線保護具10を備えるワイヤハーネス1について、図2に示された不織布100及び図1に示されたワイヤハーネス1と異なる点についてのみ説明する。
【0081】
図7は、ワイヤハーネス1の電線保護具10の元となる不織布100における電線9の出口13の部分の一例を示す平面図である。また、図8は、図7に示される不織布100が採用された場合の電線保護具10における電線9の出口13の部分の一例を示す平面図である。なお、図7に示される不織布100は、電線9を挟んで二つ折りされた状態における電線9の出口13の部分を示している。
【0082】
図7に示される不織布100は、電線9の出口13となる部分に、両側の部分よりも外側へ突出した突出部103が形成されている。図7に示される例では、不織布100における電線9の出口13となる部分の両側に切り欠き部104が形成され、これにより、不織布100における電線9の出口13となる部分は、その両側の切り欠き部104の底の部分よりも外側へ突出した突出部103となっている。なお、切り欠き部104のない状態で突出部103が形成されることも考えられる。
【0083】
突出部103は、図7に示される不織布100に対するホットプレス成形により作製された電線保護具10における電線9の出口13の部分においても形成されている。そして、図7に示される不織布100が採用されたワイヤハーネス1において、電線9は、粘着テープ又は電線結束用のバンドなどの結束部材により、突出部103に対して留められる。図8は、ワイヤハーネス1において、電線9が、粘着テープ7によって突出部103に対して留められている状態を示している。
【0084】
図8に示されるように、ワイヤハーネス1において、電線9が、結束部材によって突出部103に対して留められることにより、電線9に対する電線保護具10の位置ずれが防止される。
【0085】
<その他>
以上に例示されたワイヤハーネス1の電線保護具10において、板状硬化部12及び留め具用の貫通孔122が、縁部ではない部分、例えば、複数の配線部11の間の部分などにも形成されていてもよい。また、電線保護具10は、コネクタ21と一体となっていない留め具が留め具用の貫通孔122及び支持体8の取付孔81に挿入されることによって支持体8に固定されてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 ワイヤハーネス
8 支持体
9 電線
10 電線保護具
11 電線保護具の配線部
12 電線保護具の板状硬化部
13 電線の出口
20 留め具付きコネクタ
21 コネクタ
22 留め具
30 ホットプレス成形装置
40 下型部材
40A 第一下型部材
40B 第二下型部材
41 下型部材の溝
42 硬化部支持面
43 欠け部
50 上型部材
51 上型部材の基部
52 上型突起部
53 上型部材の凹み部
60 加熱装置
81 支持体の取付孔
100,100A 不織布
103 不織布の突出部
104 不織布の切り欠き部
122 留め具用の貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線と、
前記電線の一部を覆う電線保護具と、を備えたワイヤハーネスであって、
前記電線保護具は、
二次元に広がって前記電線を挟んで重なり、前記電線の出口が形成された二重の不織布からなる配線部と、
前記配線部に連なって前記電線保護具の縁部を形成し、前記二重の不織布に対するホットプレス成形によって前記二重の不織布が一体化して板状に硬化した部分である板状硬化部と、
を有する電線保護具と、を備えることを特徴とするワイヤハーネス。
【請求項2】
前記配線部を構成する前記二重の不織布のうちの一方の不織布に、該一方の不織布の一部に対するホットプレス成形によって成形された溝が、前記電線の経路に沿って形成されている、請求項1に記載のワイヤハーネス。
【請求項3】
前記板状硬化部に、支持体の取付孔に挿入されることによって前記取付孔の縁部に保持される留め具が挿入される貫通孔が形成されている、請求項1又は請求項2のいずれかに記載のワイヤハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−155990(P2012−155990A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13881(P2011−13881)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】