説明

ワイヤボンディング装置

【課題】不活性ガス雰囲気中でFABを形成する際に、FABの酸化を抑制しつつFABの安定化を図り、キャピラリとスパークロッドとの放電ギャップ長、不活性ガス雰囲気の大きさを容易に設定可能としたワイヤボンディング装置を提供すること。
【解決手段】キャピラリ3の先端を介して開口部13、21が対向し、各々の開口部はキャピラリの先端の貫通可能な切り欠き部13a、21aを有し、該切り欠き部に不活性ガスを排出する一対のガス排出チューブ11、20と、該ガス排出チューブ内に前記キャピラリから繰り出されたワイヤにスパーク放電させてボールを形成することができるよう位置決めされているスパークロッド5と、前記一対のガス排出チューブの各々の開口部間の距離を変更する位置調整手段を備え、一対のガス排出チューブの開口部間の空間の大きさを可変して、不活性ガスにより形成される不活性ガス雰囲気の空間の大きさを可変するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅ワイヤ、アルミワイヤ等を用いたワイヤボンディング装置に関し、特に、銅ワイヤの先端に安定したボールを形成することが可能なワイヤボンディング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の組立工程では、金ワイヤを使用したワイヤボンディングが主流であるが、金ワイヤに比べ材料コストが安い銅ワイヤを使用したボンディングが行われつつある。しかしながら、銅ワイヤを使用したボンディングでは、スパーク放電によるボール形成時に銅と酸素が反応して酸化銅の銅ボールが形成される。酸化銅は銅と比較して硬度が大きいため、銅ボールとICチップのパッドとの接合において、パッド下にダメージを与えることがある。また、酸化した銅ボールは変色や偏芯が発生し、ボンディング品質に悪影響を与えことがある。なお、スパーク放電によりワイヤの先端に形成されるボールをフリーエアーボール(以下にFABと記す。)という。
【0003】
これらの悪影響を排除するにはFAB形成過程での酸素の混入を防ぐことが必要である。このため主に窒素ガス、窒素水素混合ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスの領域内でFABの形成を行うようにしている。図11及び図12は、従来のワイヤボンディング装置におけるキャピラリとスパークロッド及びそれらの周辺を示す斜視図である。
【0004】
図11に示すワイヤボンディング装置では、キャピラリ3の先端とスパークロッド5との間の空間の左右の位置にガスノズル81、83を配置し、FAB形成工程での酸素の混入を防止すべく、前記空間に左右のガスノズル81、83から不活性ガスを供給しながら不活性ガス雰囲気内で、キャピラリ3から繰り出された銅ワイヤの先端にスパークロッド5によりスパーク放電してFABを形成するようにしている。
【0005】
また、図12は、特許文献1に開示された他のワイヤボンディング装置のキャピラリとスパークロッド及びそれらの周辺を示す斜視図であり、ガス閉じ込めチューブを用いて不活性ガス雰囲気内でボールの形成を行うワイヤボンディング装置が開示なされている。
【0006】
特許文献1に開示された従来の他のワイヤボンディング装置は、図12に示すように、先端3aから銅ワイヤ74を繰り出すキャピラリ3と、キャピラリ3の先端3aが貫通することができるように設けられた上部インラインオリフィス86及び下部インラインオリフィス87を有するガス閉じ込めチューブ85と、ガス閉じ込めチューブ85の内部に配置され、キャピラリ3の先端3aから繰り出された銅ワイヤ74の先端74aにスパーク放電するスパークロッド5とを有している。ガス閉じ込めチューブ85の内部に不活性ガスを流しながら不活性ガス雰囲気を形成して、スパークロッド5の先端5aから銅ワイヤ74の先端74aにスパーク放電してFABを形成する。
【0007】
このように図12の従来のワイヤボンディング装置では、FAB形成工程で酸素の混入を防ぐべく、ガス閉じ込めチューブ85内に不活性ガスを流しながら、キャピラリ3の先端を上部インラインオリフィス86からガス閉じ込めチューブ85内に挿入し、キャピラリ3から繰り出された銅ワイヤ74の先端74aにスパークロッド5の先端5aからスパーク放電して不活性ガス雰囲気内でFABを形成するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】US6234376
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図11に示す左右にガスノズルを配置した構造では、均一な不活性ガス雰囲気を保つために、左右のガスノズルのガス噴出口を最適な位置に設定して左右のガスノズルの位置バランスを保つ必要がある。しかしながら、各ガスノズルは独立しているため、ガス噴出口の位置調整が容易に行うことができないため、左右のガスノズルのガス噴出口の位置バランスが悪くなる恐れがある。左右のガスノズルの位置バランスが悪いとガスの乱流が起こり不活性ガス雰囲気内のガス濃度が一定にならなくなり、また、周りの空気を巻き込むことにより、形成されるボールが酸化しやすくなるという問題があった。さらに、図11に示す構造では、左右のガスノズルからの不活性ガスが空間に噴出されて散乱するため、一定濃度の不活性ガス雰囲気を保つためのガス流量の調整が難しいという問題があった。
【0010】
また、図12に示すガス閉じ込めチューブの構造では、不活性ガスの流速を一定に保ちつつ、放電電流の大小を規定するスパークパワーに応じた不活性ガス雰囲気の大きさを可変することができないため、スパークパワーの小さい銅ワイヤの細線から大きなスパークパワーを必要とする銅ワイヤの太線までの共用が難しいという問題があった。
【0011】
そこで本発明は、不活性ガス雰囲気中でFABを形成する際に、FABの酸化を抑制しつつFABの安定化を図り、また、位置調整機構により、キャピラリとスパークロッドとの放電ギャップ長、不活性ガス雰囲気の大きさを容易に設定できるようにして、銅ワイヤの細線から太線までのFAB形成に対応可能なワイヤボンディング装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目標達成のため、本発明のワイヤボンディング装置は、先端からワイヤを繰り出すキャピラリと、該キャピラリの前記先端を介して開口部が対向し、各々の開口部はキャピラリの先端が貫通可能な切り欠き部を有し、該切り欠き部に不活性ガスを排出する一対のガス排出チューブと、該ガス排出チューブ内に前記キャピラリから繰り出されたワイヤにスパーク放電させてボールを形成することができるよう位置決めされているスパークロッドと、前記一対のガス排出チューブの各々の開口部間の距離を変更する位置調整手段と、を備えたものである。
【0013】
また、本発明のワイヤボンディング装置の前記一対のガス排出チューブは、スパークロッドを内蔵し、開口部の弧状の切り欠き部への不活性ガスの排出及びスパークロッドによるワイヤへのスパーク放電を行う第1のガス排出チューブと、該第1のガス排出チューブの開口部と対向する開口部の弧状の切り欠き部への不活性ガスの排出行う第2のガス排出チューブから成り、前記一対のガス排出チューブの各々の開口部間に不活性ガス雰囲気の空間を形成するようにしたものである。
【0014】
また、本発明のワイヤボンディング装置は、前記第1のガス排出チューブの開口部と前記第2のガス排出チューブの開口部との間に間隙を有するようにしたものである。
【0015】
また、本発明のワイヤボンディング装置の前記第2のガス排出チューブは、開口部の弧状の切り欠き部への不活性ガスの排出に代えて、開口部の弧状の切り欠き部の不活性ガスを吸引することが可能に構成されているものである。
【0016】
また、本発明のワイヤボンディング装置の前記位置調整手段は、一対のガス排出チューブの一方をスライドさせて、各々の開口部間の距離を変更し、一対のガス排出チューブの開口部間の空間の大きさを可変して、不活性ガスにより形成される不活性ガス雰囲気の空間の大きさを可変するようにしたものである。
【0017】
また、本発明のワイヤボンディング装置の前記位置調整手段は、一対のガス排出チューブのうちスパークロッドを位置決めしているガス排出チューブをスライドさせて、キャピラリ先端のワイヤとスパークロッドとの放電距離を可変するようにしたものである。
【0018】
また、本発明のワイヤボンディング装置の前記位置調整手段は、前記一対のガス排出チューブの各々の開口部間の距離が所定の長さになるように一対のガス排出チューブの一方の位置を自動で制御するように構成したものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、一対のガス排出チューブを位置調整手段で連結したことにより、第1のガス排出チューブの開口部及び第2のガス排出チューブの開口部とのギャップ調整が可能となり、従来の左右に独立に配置したガスノズル形態に比べ必要な不活性ガス雰囲気の空間を限定的に形成することができる。これにより、同一のガス排出チューブで細線から太線までのボール形成が可能となる。例えば、銅ワイヤの細線の場合、スパーク放電時の放電電流値が小さいためアーク放電が小さくなり、不活性ガス雰囲気の空間も限定的でよい。従って一対のガス排出チューブの各々の開口部間のギャップを狭めた状態でガス流量も低く押さえられる。
【0020】
一方、銅ワイヤの太線のボール形成では、大きな放電電流値が必要となりアーク放電も大きくなるため、ガス流量を細線に比べ大きくする必要がある。従来は銅ワイヤの太線の場合にはガス流速を速くしてガス流量を上げる必要があり、このためガス流によりスパーク放電が不安定になることがあった。本発明のワイヤボンディング装置は、ガス流速を速くする代わりに、銅ワイヤの太さに応じて一対のガス排出チューブの各々の開口部間のギャップ長を大きくすることにより、ガス流速はそのままで不活性ガス雰囲気の空間のみ大きくすることが可能となる。このため、銅ワイヤの太さに影響されずに安定したスパーク放電状態を維持することができる。
【0021】
また、本発明によれば、必要な不活性ガス雰囲気の空間を限定的に形成することができるため、ガス流量を低く押さえられるため、使用する不活性ガスの量を減らすことができる。
【0022】
また、本発明によれば、一対のガス排出チューブの開口部間に左右の間隙を設けることにより、ガス流が乱れることがないため、安定した不活性ガス雰囲気内でボール形成が可能となる。
【0023】
また、本発明によれば、位置調整機構を設けたことにより、キャピラリの外形の大きさに応じてギャップ長を可変できるため、様々な外形の大きさのキャピラリに対応することができる。
【0024】
また、本発明によれば、第2のガス排出チューブで第1のガス排出チューブからの不活性ガスを吸引する場合には、位置調整機構により第1のガス排出チューブの開口部と第2のガス排出チューブの開口部とを密着させることが可能である。これにより、一対のガス排出チューブの開口部間の左右の間隙からの空気の流入が少なくなり、効率良く不活性ガスを回収することができる。
【0025】
また、本発明によれば、一対のガス排出チューブで形成されているため、従来のように左右のガスノズルのガス噴出口を最適な位置に設定して左右のガスノズルの位置バランスを保つ必要がないため、作業効率が向上する。
【0026】
また、本発明によれば、位置調整手段により一対のガス排出チューブの一方が移動可能であるため、移動可能なガス排出チューブにスパークロッドを内蔵することにより、キャピラリとスパークロッドとの放電ギャップ調整が容易に行える。
【0027】
また、本発明によれば、位置調整手段により一対のガス排出チューブの各々の開口部間の距離が所定の長さになるように一対のガス排出チューブの一方の位置を自動で制御することが可能であるため、ワイヤサイズ、FABの大きさ等の条件に応じて、開口部間の距離の設定が短時間で行えるため、作業効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ワイヤボンディング装置の構成を示すブロック図である。
【図2】ワイヤボンディング装置のキャピラリ、クランパ、スパークロッドを内蔵したガス排出装置の位置関係を示す説明図である。
【図3】ガス排出装置の構成を示す斜視図であり、(a)は主に左側面を示す斜視図、(b)は主に右側面を示す斜視図である。
【図4】(a)は、一対のガス排出チューブの第1のガス排出チューブの平面図、(b)は、一対のガス排出チューブの第1のガス排出チューブの正面図である。
【図5】(a)は、一対のガス排出チューブの第2のガス排出チューブの平面図、(b)は、一対のガス排出チューブの第2のガス排出チューブの正面図である。
【図6】(a)は、位置調整手段によって一対のガス排出チューブの開口部の距離を長くした例を示す一対のガス排出チューブの断面図、(b)は、位置調整手段によって一対のガス排出チューブの開口部の距離を短くした例を示す一対のガス排出チューブの断面図である。
【図7】位置調整手段による一対のガス排出チューブの開口部の距離の可変を説明する図である。
【図8】第2のガス排出チューブによる不活性ガスの吸引を説明する図である。
【図9】一対のガス排出チューブの第2のガス排出チューブの位置を制御する機構を有するガス排出装置の平面図である。
【図10】一対のガス排出チューブの開口部間の距離を調整するための手順を示すフローチャートである。
【図11】従来のワイヤボンディング装置における左右のガスノズル、キャピラリ及びスパークロッドの位置関係を示す斜視図である。
【図12】従来の他のワイヤボンディング装置のおけるガス閉じ込めチューブ、キャピラリ及びスパークロッドの位置関係を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下図面を参照して、本発明によるワイヤボンディング装置を実施するための最良の形態について説明する。なお、本発明のワイヤボンディング装置は、不活性ガス雰囲気中でFABを形成する際に、FABの酸化を抑制しつつFABの安定化を図り、また、位置調整機構により、キャピラリとスパークロッドとの放電ギャップ長、不活性ガス雰囲気の空間の大きさを容易に設定できるようにして、銅ワイヤの細線から太線までのFABを形成可能にしたものである。
【0030】
[装置構成の概要]
最初に図1及び図2を参照してワイヤボンディング装置の構成を説明する。図1は、ワイヤボンディング装置の構成を示すブロック図、図2は、図1に示すワイヤボンディング装置のキャピラリ、クランパ、スパークロッド(放電電極)を内蔵したガス排出装置の位置関係を示す説明図である。
【0031】
図1に示すように、ワイヤボンディング装置1は、ボンディングツールとしてのキャピラリ3が先端に装着された超音波ホーンからなるボンディングアーム2と、ボンディングアーム2を上下方向、すなわちZ方向に駆動する駆動手段としてのリニアモータ(図示せず)を有するボンディングヘッド6と、ボンディングアーム2及びボンディングヘッド6からなるボンディング手段を搭載してX方向及びY方向に二次元的に相対移動させて位置決めするXY位置決め手段としてのXYテーブル60と、半導体チップ70を搭載しキャピラリ3、ボンディングアーム2及びボンディングヘッド6によるボンディング作業が行なわれ架台上にヒータプレートを有するヒータ部61と、ワイヤボンディング装置1全体の制御を行うマイクロコンピュータを有する制御装置63と、この制御装置63からの指令信号に応じてボンディングヘッド6及びXYテーブル60への駆動信号を発する駆動装置62とを備えている。キーボード67は、制御装置63のマイクロコンピュータに接続されており、データの入力、実行指示等を行うものである。制御装置63のマイクロコンピュータの記憶装置には、プログラムが内蔵されており、ワイヤボンディング等の動作は、プログラムを実行することにより行われる。なお、半導体チップ70をマウントしたリードフレーム72は、ヒータ部61のヒータプレート上に搭載されて、ヒータ部61のヒータにより加熱されるようになっている。
【0032】
[主要な装置の働き等]
ボンディングアーム2をZ方向の上下に駆動するボンディングヘッド6には、ボンディングアーム2の位置を検出する位置検出センサ7を備えており、位置検出センサ7は、ボンディングアーム2の予め設定された原点位置からのボンディングアーム2先端に装着されたキャピラリ3の位置を制御装置63に出力するようになっている。また、ボンディングヘッド6のリニアモータは、制御装置63によってボンディングアーム2を上下に駆動する他に、ボンディング時にキャピラリ3に対して荷重の大きさ、荷重の印加時間の制御がなされる。
【0033】
また、このワイヤボンディング装置1は、超音波発振器65を備えており、超音波ホーン2に組み込まれた振動子に電圧を印加して、超音波ホーン2の先端に位置するキャピラリ3に振動を発生させ、制御装置63からの制御信号を受けて、キャピラリ3に超音波振動を印加できるように構成されている。
【0034】
また、キャピラリ3先端のボール形成は、ボール形成装置66を制御して行われる。ボール形成装置66は、制御装置63からの制御信号を受けて、キャピラリ3から送り出されたワイヤの先端とガス排出装置10のガス排出チューブ11に内蔵されたスパークロッドとの間に高電圧を印加することによりスパーク放電を起こさせ、その放電エネルギーによりワイヤの先端部を溶融してキャピラリ3内に挿通されたワイヤの先端にボールを形成するものである。
【0035】
図1に示すワイヤボンディング装置1は、リードフレームを加熱しつつ、半導体チップ70上のパッドとリードフレーム等のリード間をワイヤで接続するものである。パッド又はリードでのワイヤの接続は、ボンディングツールとしてのキャピラリ3に超音波振動及び荷重を印加して行うものである。
【0036】
なお、XYテーブル60に搭載されたボンディングヘッド6のボンディングアーム2の先端に位置するキャピラリ3は、XYテーブル60によるXY軸上及びボンディングヘッド6によるZ軸上の位置に移動可能に構成されているが、ボンディングヘッド6を筐体に固定して、被ボンディング部品を搭載するヒータ部61をXYテーブル60に搭載して、ボンディングヘッドはZ軸方向の上下移動のみを行い、被ボンディング部品をXYテーブル上に搭載して、被ボンディング部品をキャピラリ3に対してXY軸の2次元の相対移動を行う構成にしてもよい。
【0037】
図2に示すように、クランパ4は、ボンディングアーム2(図1に示す)の上下動作と連動し、開閉機構(図示せず)によりワイヤ74を挟んだり、解放するものであり、制御装置63によって制御される。ワイヤ74は、クランパ4の開閉機構のクランプ面を通り、キャピラリ3に設けられたホールを通り、キャピラリ3の先端から繰り出されている。また、キャピラリ3の下側には、不活性ガスにより形成される酸化防止用ガス雰囲気中でFABを形成するガス排出装置10が設けられている。ガス排出装置10には、スパークロッド5が内蔵されており、スパーク放電によりキャピラリ3の先端から繰り出されワイヤ74の先端にFAB75を形成するようになっている。
【0038】
なお、図1及び図2に示すワイヤボンディング装置の構成は、一般的な構成を示したものであり、本発明は、これに限定されるものではない。
【0039】
[ガス排出装置の概要]
次に図3乃至図7を用いてガス排出装置について詳述する。ガス排出装置は、不活性ガスにより形成される酸化防止用ガス雰囲気中でFABを形成する際に、FABの酸化を抑制しつつFABの安定化を図るためのものである。なお、不活性ガスにより酸化防止用雰囲気が形成されるが、以後、不活性ガスにより形成される酸化防止用雰囲気を不活性ガス雰囲気と記す。
【0040】
図3は、ガス排出装置の構成を示す斜視図であり、図3(a)は主に左側面を示す斜視図、図3(b)は主に右側面を示す斜視図である。図4(a)は、一対のガス排出チューブの第1のガス排出チューブの平面図、図4(b)は、一対のガス排出チューブの第1のガス排出チューブの正面図である。図5(a)は、一対のガス排出チューブの第2のガス排出チューブの平面図、図5(b)は、一対のガス排出チューブの第2のガス排出チューブの正面図である。
【0041】
図3(a)、(b)に示すように、ガス排出装置10は、一対のガス排出チューブ11、位置調整手段としての連結板29及びボンディングヘッドに取り付けるための本体取付金具37等から構成されている。なお、ガス排出装置10の主要部は、一対のガス排出チューブ11及び位置調整手段である。
【0042】
[第1のガス排出チューブの構造]
最初に、ガス排出装置10の一対のガス排出チューブ11について説明する。図3(a)、(b)に示すように、一対のガス排出チューブ11は、第1のガス排出チューブ12と第2のガス排出チューブ20とから構成されている。最初に、第1のガス排出チューブについて述べる。
【0043】
図3及び図4に示すように、第1のガス排出チューブ12は、角形の外形を有している。図4(a)に示すように、第1のガス排出チューブ12は、内部に不活性ガスを導入する中空のガス導入孔15が設けられおり、ガス導入孔15内にキャピラリ3(図2に示す)から繰り出されたワイヤにスパーク放電させてボールを形成するスパークロッド5を内蔵している。また、第1のガス排出チューブ1は、先端に開口部13有し、開口部13は、キャピラリ3の先端の接触を防止するべく弧状の切り欠き部13aを備えている。また、図4(b)に示すように、開口部13の中心付近には、ガス導入孔15のガス排出口14が位置している。図4(a)に示すように、第1のガス排出チューブ12は、ガス導入孔15に内蔵されているスパークロッド5の先端5aが切り欠き部13aの面にわずかに突出するように配されている。
【0044】
また、第1のガス排出チューブ12の後端は、図3(a)、(b)に示すガス排出チューブ保持部35に固着されており、ガス排出チューブ保持部35から供給される不活性ガスを流入するガス流入口(図示せず)を有している。ガス排出チューブ保持部35への不活性ガスは矢印で示すように外部から供給する。第1のガス排出チューブ12の内部は、ガス流入口と開口部13のガス排出口14とがガス導入孔15を介して連通するように形成されている。第1のガス排出チューブ12のガス流入口から供給された不活性ガスは、ガス導入孔15を通って、スパークロッド5の外周及びガス導入孔15に沿って流れ、ガス排出口14から切り欠き部13aの成す空間に排出される。
【0045】
第1のガス排出チューブ12は、絶縁性、耐熱性に優れたセラミック、耐熱ガラス、ガラスエポキシ樹脂等から形成されている。また、第1のガス排出チューブ12の外形は、角形以外にも例えば、丸形の外形であってもよい。
【0046】
また、切り欠き部13aは、キャピラリ3との接触を防止するべく平面視(図4(a))において弧状の形状を有しているが、円弧、三角形の斜辺、四角形の3辺、台形形状の下底及び斜辺のいずれかの形状であってもよい。更に、切り欠き部13aは、正面視(図4(b))において第1のガス排出チューブ12の上面から下面まで鉛直方向に弧状で同一に形成されているが、その他の構成として、第1のガス排出チューブ12の上面から下面までの間で上面と下面の中央部分が最も切り欠かれる弧状の曲面形状を有するようにして、切り欠き部13aにより形成される空間に膨らみを持たせるようにしてもよい。このように、切り欠き部13aは、ガス排出口14から排出される不活性ガスの流れの乱れを発生させない形状が望ましい。また、不活性ガスを切り欠き部13aの空間に均一に拡散するために、ガス排出口14の径をガス導入孔15の径より大きめにして、ガス導入孔15からガス排出口14までの径を徐々に増大するようにしてもよい。なお、不活性ガスは、窒素ガス、窒素水素混合ガス又はアルゴンガスなどが用いられる。
【0047】
[第2のガス排出チューブの構造]
次に、一対のガス排出チューブの第2のガス排出チューブについて説明する。第2のガス排出チューブは、第1のガス排出チューブと対をなすものである。図3に示すように、第2のガス排出チューブ20は、角形の外形を有し、第1のガス排出チューブ12の開口部13と対向する位置に設けられている。図5(a)に示すように、第2のガス排出チューブ20は、内部に不活性ガスを導入する中空のガス導入孔24が設けられており、先端に開口部21有している。第2のガス排出チューブ20の開口部21は、キャピラリ3の先端の接触を防止するべく弧状の切り欠き部21aを備えている。また、図5(b)に示すように、開口部21の中心付近には、ガス導入孔24のガス排出口22が位置している。図5(a)に示すように、第2のガス排出チューブ20の側面には、不活性ガスを流入するガス流入口23を有しており、略L字型に形成されたガス導入孔24によって、ガス流入口23と開口部21のガス排出口22とが連通するようになっている。また、ガス流入口23は、不活性ガスを供給するガス供給管31が接続金具26を介して接続されており、ガス供給管31の他端に外部から不活性ガスを供給するようにする。ガス供給管31から供給された不活性ガスは、図5(a)に示す矢印のように、ガス流入口23からガス導入孔24に沿って流れ、ガス排出口22から切り欠き部21aの成す空間に排出される。
【0048】
第2のガス排出チューブ20は、絶縁性、耐熱性に優れたセラミック、耐熱ガラス、ガラスエポキシ樹脂等から形成されている。なお、第2のガス排出チューブ12の外形は、角形以外にも、例えば、丸形の外形であってもよい。
【0049】
また、切り欠き部21aは、キャピラリ3との接触を防止するべく平面視(図5(a))において弧状の形状を有しているが、円弧、三角形の斜辺、四角形の3辺、台形形状の下底及び斜辺のいずれかの形状であってもよい。更に、切り欠き部21aは、正面視(図5(b))において第2のガス排出チューブ20の上面から下面まで鉛直方向に弧状で同一に形成されているが、その他の構成として第2のガス排出チューブ20の上面から下面までの間で上面と下面の中央部分が最も切り欠かれる弧状の曲面形状を有するようにして、切り欠き部21aにより形成される空間に膨らみを持たせるようにしてもよい。このように、切り欠き部21aは、ガス排出口22から排出される不活性ガスの流れの乱れを発生させない形状が望ましい。また、不活性ガスを切り欠き部21aの空間に均一に拡散するために、ガス排出口22の径をガス導入孔24の径より大きめにして、ガス導入孔24からガス排出口22までの径を徐々に増大するようにしてもよい。なお、不活性ガスは、窒素ガス、窒素水素混合ガス又はアルゴンガスなどが用いられる。
【0050】
また、図3に示すように、一対のガス排出チューブ11の第1のガス排出チューブ12及び第2のガス排出チューブ20は、各々の開口部13、21間に図3に示す隙間(ギャップ)33を有するように、分離した構成となっている。このように、ガス排出チューブ11は、第1のガス排出チューブ12及び第2のガス排出チューブ20とからなり、キャピラリ3の先端を介して開口部が対向し、各々の開口部13、21はキャピラリ3の先端の接触を防止するべく弧状の切り欠き部13a、21aを備えている。第1のガス排出チューブ12及び第2のガス排出チューブ20の弧状の切り欠き部13a、21aにより形成される空間は、キャピラリ3が切り欠き部13a、21aに接触することなく貫通できる大きさを有している。また、各々の開口部13、21の左右に、隙間(ギャップ)33を有している。これにより、ガス排出チューブ11の第1のガス排出チューブ12及び第2のガス排出チューブ20の各々の開口部13、21間には、不活性ガス雰囲気の空間が形成される。
【0051】
また、第1のガス排出チューブ12及び第2のガス排出チューブ20の開口部13、21の左右に隙間(ギャップ)33を有することにより、第1のガス排出チューブ12及び第2のガス排出チューブ20から排出された不活性ガスは、開口部13、21の切り欠き部13a、21aを流れ、隙間(ギャップ)33にも流れるため乱流の発生を減らして安定した不活性ガスの空間を形成することができる。
【0052】
以上説明したガス排出チューブ11は、第1のガス排出チューブ12にスパークロットを内蔵した構成について述べたが、第1のガス排出チューブ12に代えて第2のガス排出チューブ20にスパークロットを内蔵することも可能である。
【0053】
[位置調整手段の構造]
次に、一対のガス排出チューブの各々の開口部間の距離を変更する位置調整手段について図6及び図7を用いて詳述する。位置調整手段は、第1のガス排出チューブ及び第2のガス排出チューブから成る一対のガス排出チューブの各々の開口部間の距離を変更するためのものである。図6(a)は、位置調整手段によって一対のガス排出チューブの開口部の距離を長くした例を示す一対のガス排出チューブの断面図、図6(b)は、位置調整手段によって一対のガス排出チューブの開口部の距離を短くした例を示す一対のガス排出チューブの断面図である。図7は、位置調整手段による一対のガス排出チューブの開口部の距離の可変を説明する図である。
【0054】
図6(a)、(b)及び図7に示すように、位置調整手段は、第1のガス排出チューブ12の側面及び第2のガス排出チューブ20の側面に取り付けられており、前記第1のガス排出チューブ12の開口部13と前記第2のガス排出チューブ20の開口部21とが対向するように連結するものである。位置調整手段としての連結板29は、板状の形状を成し、連結板29の両端付近には、ボルト30を挿入するための長穴29aが設けられており、中心付近に左右に延びる棒状の突起部29bが設けられている。また、第1のガス排出チューブ12の側面及び第2のガス排出チューブ20の側面のそれぞれにねじ穴が設けられている。更に、第1のガス排出チューブ12のねじ穴を有する側面には、スライド用溝16が設けられており、第2のガス排出チューブ20のねじ穴を有する側面には、スライド用溝25が設けられている。連結板29の突起部29bを第1のガス排出チューブ及び第2のガス排出チューブ20のスライド用溝16、25に係合するようにする。
【0055】
また、第2のガス排出チューブ20に不活性ガスを供給するガス供給管31は、第1のガス排出チューブ保持部35(図3(b)に示す)の側面に設けられたL字金具38の底面に搭載されているため、第2のガス排出チューブ20が水平方向にスライド時に、ガス供給管31がL字金具38の底面を摺動できるようになっている。
【0056】
図7に示すように、連結板29に設けられた長穴29aにより、第2のガス排出チューブ20を水平方向にスライドすることが可能となる。第1のガス排出チューブ12の開口部13と第2のガス排出チューブ20の開口部21の間のギャップ長d(図7に示す)が所定の長さになるように、第2のガス排出チューブ20をスライドさせて位置を決定して、ボルト30を使用して連結板29により第1のガス排出チューブ12及び第2のガス排出チューブ20を固定する。
【0057】
このように、位置調整手段によって第2のガス排出チューブ20の位置をスライドさせることにより、第1のガス排出チューブ12の開口部13と第2のガス排出チューブ20の開口部21とが成す空間の大きさを可変することができる。これにより、放電電流の大きさに応じて不活性ガス雰囲気の空間を可変できるため、最適な放電環境を得ることができる。
【0058】
[ガス排出装置の他の構成要素]
次に、ガス排出装置10の一対のガス排出チューブ11及び位置調整手段をボンディングヘッドに取り付けるための構成部品について図3(a)、(b)を用いて説明する。
【0059】
一対のガス排出チューブ11及び位置調整手段をボンディングヘッドに取り付けるために、一対のガス排出チューブ11の第1のガス排出チューブ12の開口部13と反対側の面はガス排出チューブ保持部35に固着されている。ガス排出チューブ保持部35は内部が空洞を成し、端部の一方は第1のガス排出チューブ12を固着して、第1のガス排出チューブ12のガス導入孔15に連通している。また、ガス排出チューブ保持部35の他端は、ガス供給金具35aを有しており、矢印で示すように外部から不活性ガスを供給するようにする。
【0060】
また、第1のガス排出チューブ12内のスパークロッド5は、ガス排出チューブ保持部35の上部に設けられたスパークロッド接続端子36と電気的に接続されている。スパークロッド接続端子36には、ボール形成装置66(図1に示す)の高電圧出力端子に接続された一方の線が配線される。また、ボール形成装置66の高電圧出力端子に接続された他方の線は、図2に示すクランパ4に接続される。
【0061】
また、ガス排出チューブ保持部35の上部には、ボンディングヘッドに取り付けるための本体取付金具37が設けられている。本体取付金具37によりガス排出装置10がボンディングヘッドに固定される。
【0062】
このように、ガス排出装置10は、キャピラリ3から繰り出されたワイヤの先端に不活性ガスを流出し、不活性ガス雰囲気中でFABを形成する。
【0063】
また、一対のガス排出チューブ11の第2のガス排出チューブ20にスパークロット5を内蔵することにより、位置調整手段によって第2のガス排出チューブ20の位置を変更することによりスパークロット5の位置を可変できる。これにより、キャピラリ3の先端から繰り出されたワイヤの先端とスパークロット5先端との距離を変更することができるため、キャピラリ3とスパークロッド5との放電ギャップ調整が容易に行える。
【0064】
また、ワイヤサイズ、FABの大きさ等の条件に応じて、開口部間の距離の設定が容易に行えるため、作業効率が向上する。
【0065】
[FABの形成動作]
次に、一対のガス排出チューブ11による不活性ガス雰囲気中でのFABの形成について図1及び図2を参照して説明する。最初に、一対のガス排出チューブ11の位置調整手段により第1のガス排出チューブ12の開口部13と前記第2のガス排出チューブ20の開口部21とのギャップ長d(図7に示す)を設定する。ギャップ長は、放電電流の大きさに基づいた放電空間の大きさ、ワイヤ先端とスパークロッド5との放電ギャップ長等により決定する。また、ボンディング開始前に不活性ガスを第1のガス排出チューブ12及び前記第2のガス排出チューブ20に供給するようにする。これにより、第1のガス排出チューブ12の開口部13と前記第2のガス排出チューブ20の開口部21間の空間に不活性ガス雰囲気が形成される。
【0066】
次に、キャピラリ3の先端から必要な長さのワイヤを繰り出すようにする。そして、キャピラリ3を制御して、スパーク放電位置まで移動させて、ワイヤの先端が、一対のガス排出チューブ11の開口部13、21により形成されている空間内に位置するようにする。制御装置63(図1に示す)は、ボール形成装置66(図1に示す)を制御して、一対のガス排出チューブ11に内蔵されているスパークロット5とクランパ4(図2に示す)に高電圧を印加して、キャピラリ3の先端のワイヤとスパークロット5のスパーク放電により、ワイヤ74(図2に示す)の先端にFABを形成する。
【0067】
半導体チップ70(図2に示す)を搭載したリードフレーム72(図2に示す)を自動ボンディングを行う際には、所定のタイミングでワイヤの先端にFABを形成するようにする。なお、ワイヤボンディングの工程に関しては、一般に知られており、説明は省略する。
【実施例】
【0068】
[第2のガス排出チューブによるガス吸引]
以上述べたガス排出チューブは、第1のガス排出チューブ及び第2のガス排出チューブ20から不活性ガスを流出して不活性ガス雰囲気を形成するものであるが、実施例として第1のガス排出チューブから不活性ガスを流出して、対向する第2のガス排出チューブ20からガスを吸引することも可能となっている。図8は、第2のガス排出チューブによる不活性ガスの吸引を説明する図である。
【0069】
図8に示すように、第2のガス排出チューブ20に接続されているガス供給管31から吸引することにより、矢印で示すガスの流れとなり、第1のガス排出チューブ12から排出された不活性ガスは、不活性ガス雰囲気の空間を流れて、第2のガス排出チューブ20のガス排出口22から吸引される。
第1のガス排出チューブ12から不活性ガスを流出して、対向する第2のガス排出チューブ20からガスを吸引することにより、不活性ガスの流れが一定となり、安定した不活性ガス雰囲気を形成することができる。また、不活性ガスを効率よく回収することが可能である。
【0070】
更に、第1のガス排出チューブ12の開口部13及び第2のガス排出チューブ20の開口部21とを位置調整手段の連結板29によって密着させることにより左右の間隙からの空気の流入がなくなり、安定したガス雰囲気を形成することができる。
【0071】
[位置調整手段の自動制御機構の構成]
以上説明したガス排出装置10は、第1のガス排出チューブ12及び第2のガス排出チューブ20から成る一対のガス排出チューブ及び位置調整手段から構成されており、第2のガス排出チューブ20の位置をスライドさせることにより、第1のガス排出チューブ12の開口部13と第2のガス排出チューブ20の開口部21が成す空間の大きさを可変するようにしている。位置調整手段は、手動にて第2のガス排出チューブ20の位置をスライドさせているが、位置調整手段にモータ等の動力源を用いることにより、第2のガス排出チューブ20の位置を自動でスライドさせることが可能となる。以下に、第2のガス排出チューブ20の位置の制御を自動で行うことが可能な位置調整手段について図9を用いて説明する。図9は、一対のガス排出チューブの第2のガス排出チューブの位置を制御する機構を有するガス排出装置の平面図である。
【0072】
図9に示すように、位置調整手段は、ガス排出チューブ保持部35の側面に、LM(Linear Motion)ガイド51に連結されたガス供給管31を駆動するモータ50を備えている。パルスモータ等から成るモータ50は、ガス排出チューブ保持部35の側面に固着された固定金具52を介して取り付けられている。固定金具52は、モータ50とガス排出チューブ保持部35と接する面との間に、ガス供給管31が図9に示す矢印の方向に非接触で移動できるように空洞が設けられている。LMガイド51のLMレール51aは、ガス排出チューブ保持部35の側面に固着されており、LMガイド51のLMブロック51bは、ガス供給管31を保持している。また、LMガイド51のLMブロック51bはねじ穴を有し、ねじ穴にはねじ軸53が配設されており、ねじ軸53の先端部はモータ50の先端部と直結されている。ガス供給管31の一方の端部は、接続金具26を介して第2のガス排出チューブ20に連結されている。
【0073】
また、ガス排出チューブ保持部35の他方の側面には、LMガイド56のLMレール56aが固着されている。LMガイド56のLMブロック56bは、第2のガス排出チューブ20の側面に連結された連結棒55の他端を固定している。
【0074】
これにより、第2のガス排出チューブ20は、ガス排出チューブ保持部35の側面のLMガイド51に連結されたガス供給管31及びガス排出チューブ保持部35の他の側面のLMガイド56に連結された連結棒25を介して、維持固定される。
【0075】
モータ52が回転することにより、LMガイド51のLMブロック51bが図9に示す矢印で示す方向に移動し、同時にガス供給管31も移動する。これにより、第2のガス排出チューブ20が、図9に示す矢印で示す方向に移動し、第1のガス排出チューブ12の開口部13と第2のガス排出チューブ20の開口部21とが成す空間の大きさを可変することができる。
【0076】
このように位置調整手段は、モータ50の回転運動をガス供給管31の並進運動に変換して、ガス供給管31の先端に連結した第2のガス排出チューブ20の位置を移動するように構成されている。
【0077】
位置調整手段の駆動手段にモータを用いたガス排出装置を説明したが、モータに変えて
直線的に移動するシリンダ又はソレノイドを用いることも可能である。モータは回転数により第2のガス排出チューブ20の位置を連続して可変することができるが、シリンダ、ソレノイドでは、第2のガス排出チューブ20の2カ所の所定位置のどちらかに設定する場合に好適である。なお、シリンダ又はソレノイドを用いる場合には、ねじ軸を用いないでLMガイド51のLMブロック51bとシリンダ又はソレノイドの先端部とを結合するようにする。
【0078】
[ギャップ調整の自動制御]
次に、位置調整手段にモータを使用した開口部のギャップ調整について、図10に示すフローチャートを用いて説明する。図10は、一対のガス排出チューブの開口部間の距離を調整するための手順を示すフローチャートである。
【0079】
図10に示すように、最初に、図2で示すキャピラリ3をスパークロッド5でスパーク放電する位置(スパーク放電位置)まで移動させる(ステップS1)。キャピラリ3は、一対のガス排出チューブ11の各々の開口部13、21間のほぼ中心付近の直上に位置する。次に、開口部間のギャップ調整を手動で設定を行うか、自動で設定を行うかを選択する(ステップS2)。手動設定とは、ギャップ長d(図7に示す)のデータが確定していない状態で、オペレータがキーボード67(図1に示す)を操作して第2のガス排出チューブ20の位置を移動させて最適なギャップ長を設定するものである。自動設定とは、ギャップ長データが前もって確定しており制御装置63(図1に示す)の記憶装置にデータが格納されている状態で、オペレータがキーボードを操作して制御装置63がギャップ長データに基づいて自動でギャップ長を設定するものである。
【0080】
手動設定の場合には、キーボード67からモータ50の連続回転の指示を行い、第2のガス排出チューブ20の位置を移動させる。なお、開口部のギャップ長は、ボンディング時の放電電流値の大きさ等に基づいて、必要な不活性ガス雰囲気が確保できる長さとなるようにする(ステップS3)。制御装置63は、モータ50の回転中に、モータ50による第2のガス排出チューブ20の移動量をカウントする(ステップS4)。開口部の最適なキャップ長が設定されるまで、ステップS3からを繰り返す。開口部のキャップ長の設定が終了した場合には、制御装置63はステップS6に移行する(ステップS5)。制御装置63は、カウントした移動量をギャップ長データとして制御装置63の記憶装置に記憶する(ステップS6)。以上で、手動設定が終了する。
【0081】
ステップS2で、自動設定を選択した場合には、制御装置63の記憶装置に格納されている現在のギャップ長データの読み出す(ステップS7)。制御装置63は、オペレータの指示により設定する新たなギャップ長データを制御装置63の記憶装置から読み出す(ステップS8)。設定するギャップ長データと現在のギャップ長データから、第2のガス排出チューブ20の移動量を算出する(ステップS9)。算出した移動量に基づいて、モータ50を制御するようにする(ステップS10)。これにより、一対のガス排出チューブの開口部間の距離が設定される。
【0082】
このように、位置調整手段は、第2のガス排出チューブ20の位置をモータ等によりスライドさせることにより、第1のガス排出チューブ12の開口部13と第2のガス排出チューブ20の開口部21が成す空間の大きさを可変することができる。これにより、不活性ガス雰囲気の空間を放電電流の大きさにより可変できるため、最適な放電環境を得ることができる。
【0083】
また、位置調整手段により一対のガス排出チューブの一方が移動可能であるため、移動可能なガス排出チューブにスパークロッドを内蔵することにより、キャピラリとスパークロッドとの放電ギャップ調整も容易に行える。
【0084】
また、位置調整手段により一対のガス排出チューブの各々の開口部間の距離が所定の長さになるように一対のガス排出チューブの一方の位置を自動で制御することが可能であるため、ワイヤサイズ、FABの大きさ等の条件に応じて、開口部間の距離の設定が短時間で行えるため、作業効率が向上する。
【符号の説明】
【0085】
1 ワイヤボンディング装置
2 超音波ホーン(ボンディングアーム)
3 キャピラリ(ボンディングツール)
3a キャピラリ先端
4 クランパ
5 スパークロッド(放電電極)
5a スパークロッドの先端
6 ボンディングヘッド
7 位置検出センサ
10 ガス排出装置
11 一対のガス排出チューブ
12 第1のガス排出チューブ
13 開口部
13a 切り欠き部
14 ガス排出口
15 ガス導入孔
16 スライド用溝
20 第2のガス排出チューブ
21 開口部
21a 切り欠き部
22 ガス排出口
23 ガス流入口
24 ガス導入孔
25 スライド用溝
26 接続金具
29 連結板
29a 長穴
29b 突起部
30 ボルト
31 ガス供給管
33 隙間(ギャップ)
35 ガス排出チューブ保持部
35a ガス供給金具
36 スパークロッド接続端子
37 本体取付金具
38 L字金具
50 モータ
51 LMガイド
51a LMレール
51b LMブロック
52 固定金具
53 ねじ軸
55 連結棒
56 LMガイド
56a LMレール
56b LMブロック
60 XYテーブル
61 ヒータ部
62 駆動装置
63 制御装置
65 超音波発振器
66 ボール形成装置
67 キーボード
70 半導体チップ(ICチップ)
72 リードフレーム
74 ワイヤ(銅ワイヤ)
74a 銅ワイヤの先端
75 フリーエアーボール(FAB)
81 83 ガスノズル
85 ガス閉じ込めチューブ
86 上部インラインオリフィス
87 下部インラインオリフィス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端からワイヤを繰り出すキャピラリと、
該キャピラリの前記先端を介して開口部が対向し、各々の開口部はキャピラリの先端が貫通可能な切り欠き部を有し、該切り欠き部に不活性ガスを排出する一対のガス排出チューブと、
該ガス排出チューブ内に前記キャピラリから繰り出されたワイヤにスパーク放電させてボールを形成することができるよう位置決めされているスパークロッドと、
前記一対のガス排出チューブの各々の開口部間の距離を変更する位置調整手段と、
を備えたことを特徴とするワイヤボンディング装置。
【請求項2】
前記一対のガス排出チューブは、スパークロッドを内蔵し、開口部の弧状の切り欠き部への不活性ガスの排出及びスパークロッドによるワイヤへのスパーク放電を行う第1のガス排出チューブと、該第1のガス排出チューブの開口部と対向する開口部の弧状の切り欠き部への不活性ガスの排出行う第2のガス排出チューブから成り、前記一対のガス排出チューブの各々の開口部間に不活性ガス雰囲気の空間を形成するようにしたことを特徴とする請求項1記載のワイヤボンディング装置。
【請求項3】
前記第1のガス排出チューブの開口部と前記第2のガス排出チューブの開口部との間に間隙を有するようにしたことを特徴とする請求項2記載のワイヤボンディング装置。
【請求項4】
前記第2のガス排出チューブは、開口部の弧状の切り欠き部への不活性ガスの排出に代えて、開口部の弧状の切り欠き部の不活性ガスを吸引することが可能に構成されていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のワイヤボンディング装置。
【請求項5】
前記位置調整手段は、一対のガス排出チューブの一方をスライドさせて、各々の開口部間の距離を変更し、一対のガス排出チューブの開口部間の空間の大きさを可変して、不活性ガスにより形成される不活性ガス雰囲気の空間の大きさを可変するようにしたことを特徴とする特徴とする請求項1乃至請求項4いずれか1に記載のワイヤボンディング装置。
【請求項6】
前記位置調整手段は、一対のガス排出チューブのうちスパークロッドを位置決めしているガス排出チューブをスライドさせて、キャピラリ先端のワイヤとスパークロッドとの放電距離を可変するようにしたことを特徴とする請求項1乃至請求項5いずれか1に記載のワイヤボンディング装置。
【請求項7】
前記位置調整手段は、前記一対のガス排出チューブの各々の開口部間の距離が所定の長さになるように一対のガス排出チューブの一方の位置を自動で制御するように構成したことを特徴とする請求項1乃至請求項6いずれか1に記載のワイヤボンディング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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