説明

ワイヤリーリング設備のアキュムレータ装置

【課題】アンコイラから巻き出されるワイヤの巻出速度と、巻取・巻出装置に巻き取られるワイヤの巻取速度との間に差が生じたとしても、ワイヤに弛みが生じたり或いは無理な力が加わることを防止し得、円滑な運転を継続的に行うことができ、且つ運転の高速化への要求にも対応し得るワイヤリーリング設備のアキュムレータ装置を提供する。
【解決手段】アンコイラ16と張力付与装置19との間に立設した塔本体29に固定シーブ34と動シーブ35とを配設し、ラン巻コイル2から上方へ巻き出されるワイヤ1を固定シーブ34と動シーブ35との間に複数回掛け回し、固定シーブ34から張力付与装置19側へ送り出すことにより、アンコイラ16から巻き出されるワイヤ1の巻出速度と、巻取・巻出装置18に巻き取られるワイヤ1の巻取速度との差に伴って生じるワイヤ1の長さ変動を動シーブ35の昇降動作により吸収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアスピニング工法により吊橋ケーブルを架設する際に、ラン巻コイルにラン巻きされたワイヤを予め整巻リールに整列して巻き取っておくためのワイヤリーリング設備のアキュムレータ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エアスピニング工法により吊橋ケーブルを架設するに当たっては、先ず、工場又は架設現地等において吊橋ケーブル用のワイヤ(亜鉛メッキ鋼線の素線)がラン巻状態に筒状に巻かれたラン巻コイルからワイヤを巻き出して、整巻リールに整列状態でしかも所要の巻き絞め状態となるように巻き直すワイヤリーリングを実施している。前記ラン巻コイルは、鉛直な中心ガイドの回りに上部からワイヤを周回するように垂下させて下部から上方に向けて積層させることで筒状に形成している。ラン巻コイルは上記したようにラフな状態に巻かれているために、このラン巻コイルからワイヤを巻き出してエアスピニング工法によって吊橋ケーブルを架設しようとしても、ワイヤの巻き出しが安定せず、引っ掛かる等の問題が生じるために、前記整巻リールに巻き直すワイヤリーリングが実施される。
【0003】
図4及び図5は吊橋架設現場に設けられる従来のワイヤリーリング設備の一例を示したもので、前記したようにラン巻状態に巻かれたラン巻コイル2は、クレーン又はレッカー等を用いてワイヤリーリング設備の非駆動のアンコイラ3に対してセットする。該アンコイラ3は鉛直軸を中心に回転が自在な回転台3aの上部中心にガイド3bを有しており、前記筒状のラン巻コイル2は中心の開口が前記ガイド3bに嵌合するようにセットされる。次いで、アンコイラ3にセットしたラン巻コイル2からワイヤ1を巻き出して張力付与装置4を介し巻取・巻出装置5に二個備えられた整巻リール6a,6bの一方(図5では整巻リール6a)にワイヤ1の先端部をセットし、巻取・巻出装置5の整巻リール6aを巻取駆動装置15で駆動することで、張力付与装置4を介してアンコイラ3の回転を追随させ、ラン巻コイル2の側部から引き出されるワイヤ1を一方の整巻リール6aにより必要量整列状態に巻き取るようにしている。
【0004】
エアスピニング工法にて吊橋ケーブルを架設する際には、既にワイヤリーリング設備でワイヤ1の整列巻き取りが終了した他方の整巻リール6bから繰り出させたワイヤ1を、図6の素線緊張塔7のフローティングシーブ8、素線ガイドローラ9、スピニングホイール10、ストランド調整装置11に取り付けられたストランドシュー12に順次掛けて、ワイヤ1の先端部をアンカー13に仮固定し、前記フローティングシーブ8の上下動を観察しながら巻取・巻出装置5の整巻リール6bの回転にブレーキング操作を加えることにより、曳索駆動装置14の駆動、即ちスピニングホイール10の架設速度に巻取・巻出装置5における整巻リール6bの送出速度を追従させて巻き出しを行い、続いて、この間にワイヤ1の整列巻き取りが終了した一方の整巻リール6aによる前記アンリーリング作業を行うようにして、整巻リール6a,6bから交互に巻き出すようにしていた。
【0005】
尚、上記したワイヤリーリング設備の従来装置としては、例えば特許文献1に示されるようなものがある。
【特許文献1】特開昭51−52636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に示されるような従来のワイヤリーリング設備においては次のような種々の問題があった。
【0007】
即ち、ラン巻コイル2は、ワイヤ1を上方から下方へ向け落下させるようにして巻き取ったものであって、その軸線が鉛直になるようにアンコイラ3にセットされているが、該ラン巻コイル2の巻き戻しを行う際には、アンコイラ3の側部から接線方向即ち略水平方向へワイヤ1を巻き出すようにしているため、比較的緩くラン巻きされているラン巻コイル2は、ワイヤ1の引き出しにより巻き絞めされてワイヤ1が引っ掛かる場合が発生し、このためにワイヤ1の巻き出しが不能になる問題が生じていた。このようにワイヤ1の巻き出しが不能になると、巻取・巻出装置5を停止し、ラン巻コイル2に締って引っ掛かったワイヤ1を弛めて再び巻き取りが行える状態にする必要があるが、このための復旧作業が非常に大変で時間が掛る問題を有していた。しかも、ワイヤ1が無理に引っ張られて絞られることにより、その表面の亜鉛メッキ等のコーティングが剥がれたりする虞もあった。
【0008】
又、巻取・巻出装置5の一方の整巻リール6aでワイヤ1を巻き取っている状態の時に、急激に整巻リール6aの駆動が停止した場合には、追従して回転しているラン巻コイル2は重量が大きいために慣性によって回り続け、このためにラン巻コイル2からワイヤ1が乱雑に巻き出されることになり、この場合にも復旧作業が非常に大変で時間が掛る問題を有していた。
【0009】
上記したトラブルの発生を防止するために、従来のワイヤリーリング設備による実際の巻き取り速度は200〜250m/min程度が限度となっていた。
【0010】
一方、エアスピニング工法による吊橋ケーブルの架設時には、一般に150〜200m/min前後の架設速度を保持するようにワイヤ1を巻き出して架設を行っており、この架設時にワイヤ1に作用する張力は70〜100kgf(≒70×9.8〜100×9.8N)程度となっている。従って、前記従来のワイヤリーリング設備においては、前記吊橋ケーブルの架設時と略同等の70〜100kgf(≒70×9.8〜100×9.8N)程度の張力が保持されるようにしてワイヤ1の巻き取りを行っている。
【0011】
そして、前記従来のワイヤリーリング設備によれば、巻取・巻出装置5に二個備えた一方の整巻リール6aにより200〜250m/min程度の巻取速度でワイヤ1を巻き取っている時に、他方の整巻リール6bでワイヤ1の巻き出しを行うようにすることで、150〜200m/min前後で架設される吊橋ケーブルの架設速度に対応して、ワイヤ1を連続して繰り出させて供給することができる。
【0012】
しかし近年、吊橋ケーブルの架設速度を400m/min前後まで高めることが検討されており、このように架設速度が高速化されると、従来のように巻取速度を高めることができないワイヤリーリング設備では巻き取りが間に合わなくなってしまい、このために複数のワイヤリーリング設備を設置する必要が生じて、設備費が増加するという問題がある。
【0013】
本発明は、斯かる実情に鑑み、アンコイラから巻き出されるワイヤの巻出速度と、巻取・巻出装置に巻き取られるワイヤの巻取速度との間に差が生じたとしても、ワイヤに弛みが生じたり或いは無理な力が加わることを防止し得、円滑な運転を継続的に行うことができ、且つ運転の高速化への要求にも対応し得るワイヤリーリング設備のアキュムレータ装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、回転駆動可能なアンコイラに対し軸線が鉛直となるようにセットされたラン巻コイルからワイヤを上方へ巻き出し、巻き出したワイヤを巻取・巻出装置の整巻リールに整列させて巻き取るようにしたワイヤリーリング設備のアキュムレータ装置であって、
前記アンコイラと巻取・巻出装置との間に塔本体を立設し、該塔本体の上部に固定シーブを固定配置すると共に、前記塔本体内に動シーブを昇降自在に配設し、前記アンコイラにセットされたラン巻コイルから上方へ巻き出されるワイヤを前記固定シーブと動シーブとの間に複数回掛け回し、該固定シーブから巻取・巻出装置側へ送り出すことにより、前記アンコイラから巻き出されるワイヤの巻出速度と、前記巻取・巻出装置に巻き取られるワイヤの巻取速度との差に伴ってアンコイラと巻取・巻出装置との間に生じるワイヤの長さの変動を前記動シーブの昇降動作により吸収するよう構成したことを特徴とするワイヤリーリング設備のアキュムレータ装置にかかるものである。
【0015】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0016】
前記ラン巻コイルの径と整巻リールの径は巻き取りの進行に従ってそれぞれ変化し、前記アンコイラから巻き出されるワイヤの巻出速度が前記巻取・巻出装置に巻き取られるワイヤの巻取速度より遅い場合には、前記動シーブが上昇し、又、前記アンコイラから巻き出されるワイヤの巻出速度が前記巻取・巻出装置に巻き取られるワイヤの巻取速度より速い場合には、前記動シーブが下降し、該動シーブの昇降動作によって、前記アンコイラから巻き出されるワイヤの巻出速度と、前記巻取・巻出装置に巻き取られるワイヤの巻取速度との差に伴ってアンコイラと巻取・巻出装置との間に生じるワイヤの長さの変動は吸収されるので、ワイヤが弛むことによって引っ掛かるといった問題や逆にワイヤが無理に引っ張られるようなことを未然に防止することが可能となる。
【0017】
前記ワイヤリーリング設備のアキュムレータ装置においては、前記動シーブの上限位置と下限位置を検出する位置検出センサと、
前記巻取・巻出装置により一定の巻取速度でワイヤを巻き取っている状態において、前記位置検出センサで検出される動シーブの位置が前記上限位置と下限位置との間に位置するよう前記アンコイラによるワイヤの巻出速度を制御すると共に、前記位置検出センサで検出される動シーブの位置が上限位置又は下限位置の範囲を越えた場合は、アンコイラによるワイヤの巻き出しと巻取・巻出装置によるワイヤの巻き取りを停止するワイヤ長さ制御装置と
を備えることができ、このようにすると、前記動シーブが上限位置まで上昇することによって位置検出センサが作動した場合は、アンコイラによるワイヤの巻き出しが不足しているので、その巻出速度を高めるよう制御が行われる一方、前記動シーブが下限位置まで下降することによって位置検出センサが作動した場合は、アンコイラによるワイヤの巻き出しが過多になっているので、その巻出速度を低めるよう制御が行われ、又、前記動シーブの位置が上限位置又は下限位置の範囲を越えた場合は、ワイヤ長さ制御装置は、アンコイラによるワイヤの巻き出しと巻取・巻出装置によるワイヤの巻き取りとを停止し、これによって、ワイヤに弛みを生じさせることなく作業を停止できるので、復旧作業を容易に行うことが可能となる。
【0018】
又、前記ワイヤリーリング設備のアキュムレータ装置においては、前記動シーブの重量にて巻取・巻出装置より上流側におけるワイヤの張力を調節するよう構成することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のワイヤリーリング設備のアキュムレータ装置によれば、アンコイラから巻き出されるワイヤの巻出速度と、巻取・巻出装置に巻き取られるワイヤの巻取速度との間に差が生じたとしても、ワイヤに弛みが生じたり或いは無理な力が加わることを防止し得、円滑な運転を継続的に行うことができ、且つ運転の高速化への要求にも対応し得るという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0021】
図1〜図3は本発明を実施する形態の一例であって、ワイヤリーリング設備は、図1及び図2に示す如く、ワイヤ1をラン巻きしたラン巻コイル2を装着してワイヤ1の巻き出しを行うアンコイラ16と、該アンコイラ16からのワイヤ1を上側に向かって巻き出させるように案内すると共に、ワイヤ1の長さの変動を吸収するようにしたアキュムレータ装置17と、該アキュムレータ装置17からのワイヤ1を二個の整巻リール6a,6bのうちの一方の整巻リール6aに巻き付けて巻取駆動装置15の駆動により整列状態に巻き取り、又、同時に他方の整巻リール6bに巻き取られているワイヤ1を吊橋ケーブルの架設のために巻き出すようにした従来と略同様に構成された巻取・巻出装置18と、巻取・巻出装置18の整巻リール6a,6bに巻き取られるワイヤ1に張力を付加する張力付与装置19とを備えている。図中、20は前記巻取・巻出装置18の整巻リール6a,6bに巻き取られるワイヤ1を案内して整巻リール6a,6bの幅方向にスライドすることにより整列状態での巻き取りを行わせるための案内装置である。
【0022】
前記アンコイラ16は、ラン巻コイル2の軸線が鉛直になるようにラン巻コイル2を保持して水平回転する水平回転部21と、該水平回転部21を回転駆動する巻出駆動装置22とから構成されている。更に、前記水平回転部21の軸心部上部には、前記ラン巻コイル2から上側に引き出されるワイヤ1がラン巻コイル2の外周方向に巻き出されるように案内するためのガイド21aが着脱可能に備えられている。前記アンコイラ16は、巻出駆動装置22を駆動してラン巻コイル2からワイヤ1を巻き出す操作と、前記巻取駆動装置15を駆動して巻取・巻出装置18の整巻リール6a,6bによりワイヤ1を巻き取りる操作とを同時に行うようにしている。
【0023】
前記巻取・巻出装置18の整巻リール6a,6bに巻き取られるワイヤ1に張力を付加する張力付与装置19は、隔置した巻付シーブ23,24間にワイヤ1を少なくとも1回掛け回して摩擦力を高めるようにした摩擦力増加手段25と、前記巻付シーブ24に備えたブレーキディスク26の回転を制動アクチュエータ27aによって作動するブレーキシュー27の押圧力により制動して整巻リール6a,6bに巻き取られるワイヤ1の張力を調整する張力調整手段28とから構成されている。
【0024】
更に、前記アンコイラ16と張力付与装置19との間に備えるようにしたアキュムレータ装置17は、所要高さの塔本体29を備えており、該塔本体29の上端には前記アンコイラ16の上部まで延びる架台30が設けてあり、該架台30の先端部の下面には円錐状を有する篭形の案内コーン31の上端部に設けた導管32が固定されている。更に、前記架台30の先端部の上側には変向シーブ33が設けられ、更に、前記塔本体29の上部には複数(図3の例では五条)の案内溝34aを備えて回転する固定シーブ34が固定されている。そして、前記アンコイラ16のラン巻コイル2から上側に巻き出させたワイヤ1の先端は、前記案内コーン31の内部を通して導管32から前記変向シーブ33に導いた後、前記固定シーブ34に導き、該固定シーブ34と、該固定シーブ34と同様に複数(図3の例では四条)の案内溝35aを備えた動シーブ35との間に複数回掛け回すことにより、動シーブ35を塔本体29の空間36に昇降自在に吊り下げるようにしている。この時、前記動シーブ35には必要に応じて重り37を取り付け、該重り37と動シーブ35の重量にて張力付与装置19より上流側におけるワイヤ1の張力を調節するよう構成している。尚、前記重り37を設けずに動シーブ35のみの重量にて張力付与装置19より上流側におけるワイヤ1の張力を調節することも可能である。
【0025】
これにより、前記アキュムレータ装置17は、アンコイラ16から巻き出されるワイヤ1の巻出速度と、前記巻取・巻出装置18に巻き取られるワイヤ1の巻取速度との差に伴ってアンコイラ16と張力付与装置19との間に生じるワイヤ1の長さの変動を前記動シーブ35の昇降動作により吸収するようにしてある。
【0026】
前記アキュムレータ装置17の固定シーブ34から導出したワイヤ1の先端は、前記張力付与装置19の巻付シーブ23,24間に少なくとも一回巻き付けた後、前記巻取・巻出装置18の整巻リール6a,6bの一方に巻付けるようにしている。
【0027】
一方、上記したワイヤリーリング設備においては、図1に示すように、張力付与装置19と巻取・巻出装置18との間に、ワイヤ1に加圧ローラ39を押し付けてその反力を計測することによって巻取・巻出装置18で巻き取るワイヤ1の張力を検出するようにした張力計40を設け、該張力計40による検出張力41が張力設定値42になるように前記張力付与装置19における張力調整手段28の制動アクチュエータ27aを制御する張力制御装置43を設けてある。
【0028】
又、前記アキュムレータ装置17に動シーブ35の上限位置Aと下限位置Bとを検出する位置検出センサを設ける。即ち、動シーブ35に設けたストライカ44が所定高さの上部に移動した時に作動する上限スイッチ45aと、動シーブ35に設けたストライカ44が所定高さの下部に移動した時に作動する下限スイッチ45bとを塔本体29に取付けることにより、前記位置検出センサ45を構成している。更に、前記巻取・巻出装置18により一定の巻取速度でワイヤ1を巻き取っている状態において、前記位置検出センサ45で検出した動シーブ35の高さ位置が前記上限位置Aと下限位置Bとの間に常に位置するようにアンコイラ16の巻出駆動装置22の駆動を制御するワイヤ長さ制御装置46を設ける。即ち、前記動シーブ35が上下動することによって上限スイッチ45aが作動した場合は、アンコイラ16によるワイヤ1の巻き出しが不足しているので、巻出駆動装置22による巻出速度を高めるよう制御し、前記動シーブ35が上下動することによって下限スイッチ45bが作動した場合は、アンコイラ16によるワイヤ1の巻き出しが過多になっているので、巻出駆動装置22による巻出速度を低めるよう制御するようにしている。
【0029】
又、前記ワイヤ長さ制御装置46は、アキュムレータ装置17の動シーブ35の位置が上限位置A又は下限位置Bの範囲を越えて戻らない場合には、非常状態としてアンコイラ16によるワイヤ1の巻き出しと巻取・巻出装置18によるワイヤ1の巻き取りを停止する制御を行うようになっている。この時、上限スイッチ45aの上部と下限スイッチ45bの下部に非常検出スイッチを備えて非常を検出するようにしても良い。
【0030】
次に、上記図示例の作動を説明する。
【0031】
工場又は架設現地等において吊橋ケーブル用のワイヤ1(亜鉛メッキ鋼線の素線)がラン巻状態に巻かれてなる筒状のラン巻コイル2を形成し、このラン巻コイル2は、クレーン又はレッカー等により吊橋架設現場に設られた前記ワイヤリーリング設備のアンコイラ16の水平回転部21に、軸線が鉛直になるようにセットし、水平回転部21の軸心部上部にガイド21aを装着する。
【0032】
前記ラン巻コイル2の外周からワイヤ1を巻き出し、該ワイヤ1の先端は、前記アキュムレータ装置17に設けた案内コーン31の内部を通して導管32から変向シーブ33に導いた後、固定シーブ34に導き、該固定シーブ34と動シーブ35との間に複数回掛け回すことにより動シーブ35を塔本体29の空間36に吊り下げ、固定シーブ34から導出したワイヤ1の先端は、張力付与装置19の巻付シーブ23,24間に少なくとも1回巻き付け、即ち、巻付シーブ24に180゜巻き付けた後、巻付シーブ23に180゜巻き付け、続いて、前記巻取・巻出装置18の整巻リール6a,6bの一方、例えば整巻リール6aに巻付ける。この時、前記アキュムレータ装置17の固定シーブ34から吊り下げられた動シーブ35の位置が位置検出センサ45による上限位置Aと下限位置Bとの間に位置するように調整しておく。
【0033】
この状態から、アンコイラ16の巻出駆動装置22を駆動してラン巻コイル2からワイヤ1を巻き出す操作と、前記巻取・巻出装置18の巻取駆動装置15を駆動して整巻リール6aによりワイヤ1を巻き取る操作とを同時に行うことによりワイヤ1の整巻作業を開始する。この時、巻取・巻出装置18の整巻リール6aに巻き取られるワイヤ1の張力が張力計40により検出されてその検出張力41が張力制御装置43に入力されており、張力制御装置43は前記検出張力41が張力設定値42になるように張力付与装置19の張力調整手段28を制御する。これにより、巻取・巻出装置18の整巻リール6aに巻き取られるワイヤ1の張力は、エアスピニング工法により吊橋ケーブルを架設する際の張力の増加に対応するように、例えば130kgf以上、或いは150kgf以上の任意の高い張力設定値42に保持した状態で安定した整巻作業を行うことができる。
【0034】
上記したように、張力付与装置19によって巻取・巻出装置18で巻き取るワイヤ1の張力を130kgf以上に調整し、且つアンコイラ16のラン巻コイル2を巻出駆動装置22により回転駆動してワイヤ1の巻き出しを助けるようにしているので、張力付与装置19とアンコイラ16との間のワイヤ1の張力は、例えば10〜30kgf程度の低い値に安定して保持できるようになる。このように、ラン巻コイル2から巻き出すワイヤ1に作用する張力を低減し、且つワイヤ1をラン巻コイル2から上側に巻き出させることによって、ラン巻コイル2が巻き絞められてワイヤ1が引っ掛かるといった問題の発生を確実に防止することができ、従って、エアスピニング工法により吊橋ケーブルを架設する架設速度の高速化に伴って、巻取・巻出装置18によるワイヤ1の巻取速度を300m/min以上、或いは400m/min以上の高速で行うようにしても、ワイヤ1が引っ掛かる問題を生じることなく安定した整巻作業が行えるようになる。更に、上記において、水平なラン巻コイル2から単に上側にワイヤ1を引っ張って巻き出させる場合には、特にワイヤ1の直径が大きいとワイヤ1が捻れによって大きく歪んで曲げられることにより引っ掛かるという問題が生じ易くなるが、巻出駆動装置22よってラン巻コイル2を巻き出し方向に水平回転駆動させてワイヤ1の巻き出しを助けているため、例えば、5mm以上或いは7mm以上のような太いワイヤ1であっても、捻れによって引っ掛かるといった問題の発生を防止することができる。
【0035】
一方、前記ラン巻コイル2の径と整巻リール6aの径は巻き取りの進行に従ってそれぞれ変化し、前記アンコイラ16から巻き出されるワイヤ1の巻出速度が前記巻取・巻出装置18に巻き取られるワイヤ1の巻取速度より遅い場合には、前記アキュムレータ装置17の動シーブ35が上昇し、又、前記アンコイラ16から巻き出されるワイヤ1の巻出速度が前記巻取・巻出装置18に巻き取られるワイヤ1の巻取速度より速い場合には、前記アキュムレータ装置17の動シーブ35が下降し、該アキュムレータ装置17の動シーブ35の昇降動作によって、前記アンコイラ16から巻き出されるワイヤ1の巻出速度と、前記巻取・巻出装置18に巻き取られるワイヤ1の巻取速度との差に伴ってアンコイラ16と張力付与装置19との間に生じるワイヤ1の長さの変動は吸収されるので、ワイヤ1が弛むことによって引っ掛かるといった問題や逆にワイヤ1が無理に引っ張られるようなことを未然に防止することが可能となる。
【0036】
尚、前記動シーブ35が上昇することによって上限スイッチ45aが作動した場合は、アンコイラ16によるワイヤ1の巻き出しが不足しているので、巻出駆動装置22による巻出速度を高めるよう制御が行われる一方、前記動シーブ35が下降することによって下限スイッチ45bが作動した場合は、アンコイラ16によるワイヤ1の巻き出しが過多になっているので、巻出駆動装置22による巻出速度を低めるよう制御が行われる。
【0037】
又、前記アキュムレータ装置17の動シーブ35の位置が上限位置A又は下限位置Bの範囲を越えた場合は、ワイヤ長さ制御装置46は、アンコイラ16によるワイヤ1の巻き出しと巻取・巻出装置18によるワイヤ1の巻き取りとを停止し、これによって、ワイヤ1に弛みを生じさせることなく作業を停止できるので、復旧作業を容易に行うことが可能となる。
【0038】
更に又、前記張力付与装置19より上流側におけるワイヤ1の張力は、重り37と動シーブ35の重量、或いは動シーブ35単独の重量を調節することにより、所要の値に保持される。
【0039】
こうして、アンコイラ16から巻き出されるワイヤ1の巻出速度と、巻取・巻出装置18に巻き取られるワイヤ1の巻取速度との間に差が生じたとしても、ワイヤ1に弛みが生じたり或いは無理な力が加わることを防止し得、円滑な運転を継続的に行うことができ、且つ運転の高速化への要求にも対応し得る。
【0040】
尚、本発明のワイヤリーリング設備のアキュムレータ装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、巻取・巻出装置の上流側に張力付与装置を配設していないワイヤリーリング設備にも適用可能なこと等、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す全体側面図である。
【図2】本発明を実施する形態の一例を示す全体平面図である。
【図3】本発明を実施する形態の一例におけるアキュムレータ装置の斜視図である。
【図4】従来におけるワイヤリーリング設備の一例を示す側面図である。
【図5】従来におけるワイヤリーリング設備の一例を示す平面図である。
【図6】従来におけるリーリング設備の一例を使用してエアスピニング工法により架線を行っている状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 ワイヤ
2 ラン巻コイル
5 巻取・巻出装置
6a 整巻リール
6b 整巻リール
7 素線緊張塔
15 巻取駆動装置
16 アンコイラ
17 アキュムレータ装置
18 巻取・巻出装置
19 張力付与装置
21 水平回転部
22 巻出駆動装置
23 巻付シーブ
24 巻付シーブ
29 塔本体
33 変向シーブ
34 固定シーブ
34a 案内溝
35 動シーブ
35a 案内溝
36 空間
44 ストライカ
45 位置検出センサ
45a 上限スイッチ
45b 下限スイッチ
46 ワイヤ長さ制御装置
A 上限位置
B 下限位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動可能なアンコイラに対し軸線が鉛直となるようにセットされたラン巻コイルからワイヤを上方へ巻き出し、巻き出したワイヤを巻取・巻出装置の整巻リールに整列させて巻き取るようにしたワイヤリーリング設備のアキュムレータ装置であって、
前記アンコイラと巻取・巻出装置との間に塔本体を立設し、該塔本体の上部に固定シーブを固定配置すると共に、前記塔本体内に動シーブを昇降自在に配設し、前記アンコイラにセットされたラン巻コイルから上方へ巻き出されるワイヤを前記固定シーブと動シーブとの間に複数回掛け回し、該固定シーブから巻取・巻出装置側へ送り出すことにより、前記アンコイラから巻き出されるワイヤの巻出速度と、前記巻取・巻出装置に巻き取られるワイヤの巻取速度との差に伴ってアンコイラと巻取・巻出装置との間に生じるワイヤの長さの変動を前記動シーブの昇降動作により吸収するよう構成したことを特徴とするワイヤリーリング設備のアキュムレータ装置。
【請求項2】
前記動シーブの上限位置と下限位置を検出する位置検出センサと、
前記巻取・巻出装置により一定の巻取速度でワイヤを巻き取っている状態において、前記位置検出センサで検出される動シーブの位置が前記上限位置と下限位置との間に位置するよう前記アンコイラによるワイヤの巻出速度を制御すると共に、前記位置検出センサで検出される動シーブの位置が上限位置又は下限位置の範囲を越えた場合は、アンコイラによるワイヤの巻き出しと巻取・巻出装置によるワイヤの巻き取りを停止するワイヤ長さ制御装置と
を備えた請求項1記載のワイヤリーリング設備のアキュムレータ装置。
【請求項3】
前記動シーブの重量にて巻取・巻出装置より上流側におけるワイヤの張力を調節するよう構成した請求項1又は2記載のワイヤリーリング設備のアキュムレータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−138389(P2008−138389A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323454(P2006−323454)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】