説明

ワイヤレス給電装置およびワイヤレス電力伝送システム

【課題】磁気共振型のワイヤレス給電における電力伝送効率を高める。
【解決手段】ワイヤレス給電装置200は、キャパシタCと給電コイルLを共振させることにより、給電コイルLと受電コイルLを磁気共振させる。このときの共振周波数をfとする。ワイヤレス給電装置200は、スイッチングトランジスタQとスイッチングトランジスタQを交互にオン・オフさせることにより、給電コイルLに共振周波数fの交流電力を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤレスにて電力を送るためのワイヤレス給電装置、および、ワイヤレス電力伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電源コードなしで電力を供給するワイヤレス給電技術が注目されつつある。現在のワイヤレス給電技術は、(A)電磁誘導を利用するタイプ(近距離用)、(B)電波を利用するタイプ(遠距離用)、(C)磁場の共振現象を利用するタイプ(中距離用)の3種類に大別できる。
【0003】
電磁誘導を利用するタイプ(A)は、電動シェーバーなどの身近な家電製品において一般的に利用されているが、数cm程度の近距離でしか使えないという課題がある。電波を利用するタイプ(B)は、数10mW程度の微小な電力しか伝送できないという課題がある。共振現象を利用するタイプ(C)は、比較的新しい技術であり、数m程度の遠距離でも比較的高い電力伝送効率を実現できることから特に期待されている。たとえば、EV(Electric Vehicle)の車両下部に受電コイルを埋め込み、地中の給電コイルから非接触にて電力を送り込むという案も検討されている。以下、タイプ(C)を「磁気共振型」とよぶ。
【0004】
磁気共振型は、マサチューセッツ工科大学が2006年に発表した理論をベースとしている(特許文献3参照)。二つのコイルを向かい合わせ、一方のコイルに交流電流を流すと、他方のコイルにも交流電流が流れる。給電コイルを受電コイルの固有振動数と共振させると、給電コイルから受電コイルに特に高い効率にて電力を送り込むことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−230032号公報
【特許文献2】国際公開2006/022365号公報
【特許文献3】米国公開2008/0278264号公報
【特許文献4】米国公開2009/0072629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図10は、磁気共振型のワイヤレス電力伝送システムの一般的な構成図である。図10は、特許文献3のFIG.14を模式的に示したものである。このシステムには、4つのコイルが含まれる。それぞれ、「エキサイトコイルL」、「給電コイルL」、「受電コイルL」および「ロードコイルL」とよぶことにする。エキサイトコイルLと給電コイルLは近距離にて向かい合わされ、電磁結合する。同様に、受電コイルLとロードコイルLも近距離にて向かい合わされ、電磁結合する。これらの距離に比べると、給電コイルLから受電コイルLまでの距離は「中距離」であり、比較的大きい。このシステムの目的は、給電コイルLから受電コイルLにワイヤレス給電することである。
【0007】
エキサイトコイルLに交流電力を供給すると、電磁誘導の原理により給電コイルLにも電流が流れる。給電コイルLが磁場を発生させ、給電コイルLと受電コイルLが磁気的に共振すると、受電コイルLには大きな電流が流れる。電磁誘導の原理によりロードコイルLにも電流が流れ、ロードコイルLと直列接続される負荷Rから電力が取り出される。磁気共振現象を利用することにより、給電コイルLから受電コイルLの距離が大きくても高い電力伝送効率を実現できる。
【0008】
現在、給電コイルLから受電コイルLへの電力伝送についてはさまざまな検討がなされている。しかし、給電コイルL自体に電力を効率的に供給する方法については、あまり提案がなされていないのが現状である。特許文献4も磁気共振型のワイヤレス給電技術を開示するが、こちらも受電コイルLへ電力伝送効率の向上を目的としている。
【0009】
本発明は、上記課題に基づいて完成された発明であり、磁気共振型のワイヤレス給電技術における給電コイルへの電力伝送効率、特に、高周波数帯における電力伝送効率を高めることを主たる目的とする。また、別の目的は、ワイヤレス給電に必要なコイルの数を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明におけるワイヤレス給電装置は、給電コイルと受電コイルの共振周波数にて、給電コイルから受電コイルにワイヤレス送電するための装置である。この装置は、コイルおよびキャパシタが直列接続された共振周波数にて共振する共振回路と、共振回路への第1の方向からの電流の供給を制御する第1のスイッチングトランジスタと、共振回路への第2の方向からの電流の供給を制御する第2のスイッチングトランジスタと、を備える。第1および第2のスイッチングトランジスタを共振周波数にて交互に導通させることにより共振回路を共振させ、コイルを給電コイルとして、コイルから受電コイルにワイヤレス送電する。
【0011】
給電コイルにいわゆるスイッチング電源を用いることにより、給電コイルへの電力供給効率を高めることができる。また、この装置は、共振周波数にて動作するため、システム全体としての電力伝送効率が高くなる。さらに、この装置は、エキサイトコイルを用いることなく、直接給電コイルを駆動できる。したがって、製造コストを抑え構成をコンパクトにしやすい。
【0012】
第1および第2のスイッチングトランジスタそれぞれに対して第1および第2のキャパシタを並列接続してもよい。このような構成によれば、ワイヤレス給電装置を高周波数帯で動作させるときにもスイッチング損失を効果的に抑制できる。また、共振回路のコイルを給電コイルとして動作させるのではなく、エキサイトコイルとして動作させ、別のコイルとして設けられる給電コイルに電力を供給させてもよい。
【0013】
本発明におけるワイヤレス電力伝送システムは、上述したワイヤレス給電装置と、受電コイルと、受電コイルと磁気結合して、受電コイルが給電コイルから受電した電力を供給されるロードコイルと、を備える。
【0014】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせ、本発明の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、磁気共振型のワイヤレス給電技術における電力伝送効率を高めることができる。また、そのために必要なコイルの数を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態におけるワイヤレス電力伝送システムのシステム構成図である。
【図2】第1のスイッチングトランジスタが導通するときの電流経路を示す図である。
【図3】第2のスイッチングトランジスタが導通するときの電流経路を示す図である。
【図4】2つのスイッチングトランジスタにおける電圧および電流の変化過程を示すタイムチャートである。
【図5】調整キャパシタを取り除いたときの電流電圧波形のタイムチャートである。
【図6】調整キャパシタを取り除いたときの第2期間におけるソース・ドレイン間の電圧および電流の関係を示すタイムチャートである。
【図7】調整キャパシタを取り付けたときの第2期間におけるソース・ドレイン間の電圧および電流の関係を示すタイムチャートである。
【図8】受電コイル回路等における電流の変化過程を示すタイムチャートである。
【図9】変形例におけるワイヤレス電力伝送システムのシステム構成図である。
【図10】磁気共振型のワイヤレス電力伝送システムの一般的な構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は、本実施形態におけるワイヤレス電力伝送システム100のシステム構成図である。ワイヤレス電力伝送システム100は、ワイヤレス給電装置200と、受電コイル回路130およびロード回路140を含む。ワイヤレス給電装置200は、その一部に給電コイルLを含む。給電コイルLと受電コイル回路130の間には数m程度の距離がある。ワイヤレス電力伝送システム100の主目的は、給電コイルLから受電コイル回路130に電力を送ることである。また、本実施の形態におけるワイヤレス電力伝送システム100は、ISM(Industry-Science-Medical)周波数帯にて動作させることを想定したシステムである。本実施の形態においては、ワイヤレス給電装置200をISM周波数帯内の13.56MHzにて動作させる。給電コイルLと受電コイルLの共振周波数fも13.56MHzに設定される。
【0019】
ワイヤレス給電装置200は、エキサイトコイルLを介すことなく、共振周波数fにて給電コイルLに交流電力を直接供給するハーフブリッジ型の電源制御回路である。給電コイルLを流れる電流Iは交流であり、同図矢印にて示す方向を正方向、反対方向を負方向とする。給電コイルLの巻き数は7回、導線の直径は5mm、給電コイルL自体の直径は280mmである。
【0020】
受電コイル回路130は、受電コイルLとキャパシタCが直列接続された回路である。給電コイルLと受電コイルLは互いに向かい合っている。給電コイルLと受電コイルLの距離は、0.2m〜1m程度と比較的長い。受電コイルLの巻き数は7回、導線の直径は5mm、受電コイルL自体の直径は280mmである。受電コイル回路130の共振周波数fも13.56MHzとなるように、受電コイルLとキャパシタCそれぞれの値が設定されている。したがって、給電コイルLと受電コイルLは同一形状である必要はない。給電コイルLが共振周波数fにて磁界を発生させると、給電コイルLと受電コイルLは磁気的に共振し、受電コイル回路130にも大きな電流Iが流れる。同図矢印に示す方向を正方向、反対方向を負方向とする。電流Iの向きと電流Iの向きは逆(逆相)である。
【0021】
ロード回路140は、ロードコイルLと負荷Rが直列接続された回路である。受電コイルLとロードコイルLは互いに向かい合っている。受電コイルLとロードコイルLの距離は10mm以下と比較的近い。このため、受電コイルLとロードコイルLは電磁的に強く結合している。ロードコイルLの巻き数は1回、導線の直径は3mm、ロードコイルL自体の直径は210mmである。受電コイルLに電流Iが流れることにより、ロード回路140に起電力が発生し、ロード回路140に電流Iが流れる。同図矢印に示す方向を正方向、反対方向を負方向とする。電流Iの向きと電流Iの向きは逆(逆相)である。すなわち、電流Iは、電流Iと同相である。こうして、ワイヤレス給電装置200が供給する電力は、給電コイルLにより送電され、受電コイル回路130とロード回路140により受電され、負荷Rにより取り出される。
【0022】
負荷Rを受電コイル回路130に直列接続すると、受電コイル回路130のQ値が悪くなる。このため、受電用の受電コイル回路130と電力取り出し用のロード回路140を分離している。また、電力伝送効率を高めるためには、給電コイルL、受電コイルLおよびロードコイルLの中心線を揃えることが好ましい。
【0023】
ワイヤレス給電装置200の各回路パラメータは、共振周波数fでの動作を想定して値設定されている。ゲート駆動用トランスT1の一次側には、オシレータ202が接続される。オシレータ202は、共振周波数fにて交流電圧を発生させる。電圧波形は正弦波でもよいが、ここでは矩形波であるとして説明する。この交流電圧により、トランスT1一次コイルLには正負の両方向に交互に電流が流れる。トランスT1一次コイルLとトランスT1二次コイルL、トランスT1二次コイルLはゲート駆動用の結合トランスT1を形成する。電磁誘導により、トランスT1二次コイルLとトランスT1一次コイルLにも正負の両方向に交互に電流が流れる。
【0024】
トランスT1二次コイルLの一端は、スイッチングトランジスタQのゲートと接続され、他端はスイッチングトランジスタQのソースと接続される。トランスT1二次コイルLの一端は、別のスイッチングトランジスタQのゲートと接続され、他端はスイッチングトランジスタQのソースと接続される。オシレータ202が共振周波数fにて交流電圧を発生させると、スイッチングトランジスタQとスイッチングトランジスタQの各ゲートには、電圧Vx(Vx>0)が共振周波数fにて交互に印加される。このため、スイッチングトランジスタQとスイッチングトランジスタQは共振周波数fにて交互にオン・オフする。スイッチングトランジスタQとスイッチングトランジスタQは同一特性のエンハンスメント型MOSFET(Negative-Metal Oxide Semiconductor Field effect transistor)であるが、バイポーラトランジスタなど他のトランジスタでもよい。
【0025】
スイッチングトランジスタQのドレインは、電源Vdd1の正極に接続される。電源Vdd1の負極は、キャパシタCと給電コイルLを介して、スイッチングトランジスタQのソースに接続される。電源Vdd1の負極の電位は接地電位である。スイッチングトランジスタQのソースは、電源Vdd2の負極に接続される。電源Vdd2の正極は、キャパシタCと給電コイルLを介して、スイッチングトランジスタQのドレインに接続される。電源Vdd2の正極の電位は接地電位である。
【0026】
スイッチングトランジスタQのソース・ドレイン間にはキャパシタCQ1が並列接続され、スイッチングトランジスタQのソース・ドレイン間にはキャパシタCQ2が並列接続される。キャパシタCQ1とキャパシタCQ2も同一特性のキャパシタである。以下、キャパシタCQ1とキャパシタCQ2をまとめていうときには「調整キャパシタ」とよぶ。
【0027】
スイッチングトランジスタQのソース・ドレイン間の電圧をソース・ドレイン電圧VDS1、スイッチングトランジスタQのソース・ドレイン間の電圧をソース・ドレイン電圧VDS2とよぶ。また、スイッチングトランジスタQのソース・ドレイン間を流れる電流をソース・ドレイン電流IDS1、スイッチングトランジスタQのソース・ドレイン間を流れる電流をソース・ドレイン電流IDS2とする。同図矢印に示す方向を正方向、反対方向を負方向とする。
【0028】
ワイヤレス給電装置200は、図1に示すように上下対称形の電気回路である。キャパシタCと給電コイルLは共振周波数fにて電流共振するように値設定される。いいかえれば、キャパシタCと給電コイルLは、共振周波数fの「共振回路」を形成している。キャパシタCと給電コイルLはソース・ドレイン電流IDS1、IDS2の電流波形を変化させる。
【0029】
キャパシタCQ1はソース・ドレイン電圧VDS1の電圧波形を変化させ、キャパシタCQ2はソース・ドレイン電圧VDS2の電圧波形を変化させるために挿入される。詳細については後述する。
【0030】
図2は、スイッチングトランジスタQが導通するときの電流経路を示す図である。スイッチングトランジスタQが導通(オン)するとき、スイッチングトランジスタQは非導通(オフ)となる。このときのメインの電流経路(以下、「第1電流経路」とよぶ)は、電源Vdd1からスイッチングトランジスタQ、給電コイルL、キャパシタCを経由して帰還する経路となる。スイッチングトランジスタQは、第1電流経路の導通・非導通を制御するスイッチとして機能する。
【0031】
図3は、スイッチングトランジスタQが導通するときの電流経路を示す図である。スイッチングトランジスタQが導通(オン)するとき、スイッチングトランジスタQは非導通(オフ)となる。このときのメインの電流経路(以下、「第2電流経路」とよぶ)は、電源Vdd2からキャパシタC、給電コイルL、スイッチングトランジスタQを経由して帰還する経路となる。スイッチングトランジスタQは、第2電流経路の導通・非導通を制御するスイッチとして機能する。
【0032】
図4は、スイッチングトランジスタQおよびスイッチングトランジスタQの電圧および電流の変化過程を示すタイムチャートである。時刻t〜時刻tの期間(以下、「第1期間」とよぶ)は、スイッチングトランジスタQがオン、スイッチングトランジスタQがオフとなる期間である。時刻t〜時刻tの期間(以下、「第2期間」とよぶ)は、スイッチングトランジスタQがオフ、スイッチングトランジスタQがオンとなる期間、時刻t〜時刻tの期間(以下、「第3期間」とよぶ)は、スイッチングトランジスタQがオン、スイッチングトランジスタQがオフとなる期間、時刻t〜時刻tの期間(以下、「第4期間」とよぶ)は、スイッチングトランジスタQがオフ、スイッチングトランジスタQがオンとなる期間である。
【0033】
電源Vdd1の値は、スイッチングトランジスタQのゲート・ソース電圧VGS1が所定の閾値Vを超えたとき、スイッチングトランジスタQが飽和状態となるように設定されている。したがって、第1期間の開始タイミングである時刻tにスイッチングトランジスタQがオン(導通)となると、Vによって決まる一定値のソース・ドレイン電流IDS1が流れ始める。第1電流経路に挿入されている共振回路(給電コイルLとキャパシタC)が電流共振するため、ソース・ドレイン電流IDS1の第1期間における電流波形は矩形波とはならず、立ち上がりと立ち下がりが緩やかになる。このためには、ソース・ドレイン電流IDS1が第1期間の中間地点で最大値となり、第1期間の終了時点(時刻t)でローレベルに戻るように、給電コイルLとキャパシタCの値をあらかじめ適切に設定しておく必要がある。具体的には、ワイヤレス給電装置200の動作中にソース・ドレイン電流IDS1の電流波形を計測し、給電コイルLとキャパシタCの最適値を求めればよい。
【0034】
第2期間の開始タイミングである時刻tにスイッチングトランジスタQがオフ(非導通)となると、ソース・ドレイン電流IDS1は流れなくなる。スイッチングトランジスタQのソース・ドレイン間にはキャパシタCQ1が並列接続されているため、ソース・ドレイン電圧VDS1の第2期間における電圧波形は矩形波とはならず、立ち上がりと立ち下がりが緩やかになる。このためには、ソース・ドレイン電圧VDS1が第2期間の中間地点で最大値となり、第2期間の終了時点(時刻t)でローレベルに戻るように、キャパシタCQ1の値をあらかじめ適切に設定しておく必要がある。具体的には、ワイヤレス給電装置200の動作中にソース・ドレイン電圧VDS1の電圧波形を計測し、キャパシタCQ1の最適値を求めればよい。
【0035】
第1期間はスイッチングトランジスタQのオフ期間であるから、第1期間におけるVGS2、IDS2、VDS2の変化は、第2期間におけるVGS1、IDS1、VDS1の変化と同様である。第2期間はスイッチングトランジスタQのオン期間であるから、第2期間におけるVGS2、IDS2、VDS2の変化は、第1期間におけるVGS1、IDS1、VDS1の変化と同様である。第3期間、第4期間以降についても同様である。
【0036】
次に、調整キャパシタCQ1、CQ2の役割を明確にするため、調整キャパシタを取り除いた場合の電流電圧特性について説明し、その問題点を指摘する。
【0037】
図5は、調整キャパシタを取り除いた場合の電流電圧波形のタイムチャートである。スイッチングトランジスタQとスイッチングトランジスタQの動作は基本的に同じであるため、ここでは、スイッチングトランジスタQのソース・ドレイン電圧VDS1およびソース・ドレイン電流IDS1に注目して説明する。スイッチングトランジスタQのソース・ドレイン間に並列接続されるキャパシタCQ1を取り除くと、ソース・ドレイン電圧VDS1の電圧波形は矩形波となる。
【0038】
第1期間の開始タイミングである時刻tにスイッチングトランジスタQがオン(導通)となると、スイッチングトランジスタQのソース・ドレイン電圧VDS1はローレベルとなる。キャパシタCQ1を取り除いているため、スイッチングトランジスタQのオン・オフに連動して、ソース・ドレイン電圧VDS1はハイレベルとローレベルの間を急峻に変化する。ただし、スイッチングトランジスタQの内部的な遅延により、スイッチングトランジスタQがオンとなっても、ソース・ドレイン電圧VDS1はすぐにローレベルにはならない。時刻tから所定の遅延時間が経過してからソース・ドレイン電圧VDS1はローレベルとなる。
【0039】
第1期間の終了タイミングである時刻tにスイッチングトランジスタQがオフ(非導通)となると、スイッチングトランジスタQのソース・ドレイン電圧VDS1はハイレベルとなる。この場合にも、スイッチングトランジスタQの内部的な遅延によりソース・ドレイン電圧VDS1はすぐにハイレベルには至らない。したがって、ソース・ドレイン電圧VDS1の電圧波形は台形状となる。
【0040】
図6は、調整キャパシタを取り除いたときの第2期間(時刻t〜t)におけるVDS1とIDS1の関係を示すタイムチャートである。同図では、わかりやすさのため、ソース・ドレイン電圧VDS1とソース・ドレイン電流IDS1を重ねて描いている。ソース・ドレイン電圧VDS2とソース・ドレイン電流IDS2の関係も基本的に同じであるため、ここでは、ソース・ドレイン電圧VDS1とソース・ドレイン電流IDS1の関係に注目して説明する。第2期間の開始タイミングである時刻tに至り、スイッチングトランジスタQがオフとなると、ソース・ドレイン電圧VDS1は増加し始め、所定の遅延時間T後にハイレベルに安定する。一方、ソース・ドレイン電流IDS1は、給電コイルLとキャパシタCの電流共振により、時刻tに至る前に減少し始める。時刻tに、ソース・ドレイン電流IDS1はローレベルに到達するのが理想である。しかし、実際には時刻tが経過したあとにもわずかながらソース・ドレイン電流IDS1が流れる可能性がある。したがって、遅延時間T中に「VDS1>0、かつ、IDS1>0」となる期間が存在する。この期間においては、スイッチングトランジスタQにおいて無駄な電力P(=IDS1×VDS1)が消費される。すなわち、スイッチング損失が発生している。
【0041】
第2期間の終了タイミングである時刻tに至り、スイッチングトランジスタQがオンとなるとソース・ドレイン電圧VDS1は減少し始め、所定の遅延時間T後にローレベルに安定する。一方、ソース・ドレイン電流IDS1は増加し始め、遅延時間T後にハイレベルに安定する。遅延時間T中には、「VDS1>0、かつ、IDS1>0」となるため、ここでもスイッチング損失が発生する。
【0042】
以上のように、スイッチングトランジスタQのオン・オフを切り換えるごとに、スイッチングトランジスタQからはわずかながら電力が消費される。ISM周波数帯のような高周波数帯でワイヤレス給電装置200を動作させる場合には、スイッチング損失の影響が特に大きくなる。
【0043】
一般的には、周波数が高くなると、スイッチング損失の影響が大きくなる。スイッチング損失を抑制するためには、スイッチングトランジスタQやスイッチングトランジスタQの遅延時間T、Tを短くするための工夫が必要であるが物理的な限界もあるため遅延時間をゼロにするのは難しい。本実施の形態では、ワイヤレス給電装置200に調整キャパシタCQ1、CQ2を挿入し、いわゆるソフトスイッチング方式に基づいてスイッチング損失を抑制している。
【0044】
図7は、調整キャパシタを取り付けたときの第2期間(時刻t〜t)におけるVDS1とIDS1の関係を示すタイムチャートである。この図でも、わかりやすさのため、ソース・ドレイン電圧VDS1とソース・ドレイン電流IDS1を重ねている。ソース・ドレイン電圧VDS2とソース・ドレイン電流IDS2の関係も基本的に同じであるため、ここでは、ソース・ドレイン電圧VDS1とソース・ドレイン電流IDS1の関係に注目して説明する。第1期間(時刻t〜t)の後半に、ソース・ドレイン電流IDS1は減少し始め、時刻tに到達するときにはローレベル近辺まで到達している。時刻tにスイッチングトランジスタQがオフとなると、ソースドレイン電圧VDS1は徐々に増加し、第2期間の途中でハイレベルに到達する。図8に示した場合に比べてソースドレイン電圧VDS1の増加が緩やかであるため、スイッチング損失を抑制できる。
【0045】
時刻tに至り、スイッチングトランジスタQがオンとなるとき、ソース・ドレイン電圧VDS1はローレベル近辺まで減少している。一方、ソース・ドレイン電流IDS1は徐々に増加する。したがって、オフからオンへの切り換え時において「VDS1>0、かつ、IDS1>0」となる期間がほとんど存在しなくなる。また、この期間におけるソース・ドレイン電圧VDS1とソース・ドレイン電流IDS1は図8に示した場合に比べて十分に小さくなる。調整キャパシタを接続することにより、スイッチングトランジスタQをオフからオンに切り換えるときのスイッチング損失を特に抑制しやすくなる。
【0046】
図8は、電流I、IおよびIの変化過程を示すタイムチャートである。第1期間においては、ソース・ドレイン電流IDS1が流れ、ソース・ドレイン電流IDS2は流れない。このため、給電コイルLには電流Iが正方向に流れる。第2期間においては、ソース・ドレイン電流IDS1は流れず、ソース・ドレイン電流IDS2が流れる。このため、給電コイルLには、電流Iが負方向に流れる。受電コイル回路130には電流Iの逆相の電流Iが流れる。ロード回路140には、電流Iと同相、電流Iと逆相の電流Iが流れる。
【0047】
以上、実施形態に基づいてワイヤレス電力伝送システム100を説明した。ワイヤレス電力伝送システム100は、給電コイルLと受電コイルLを共振させた状態でワイヤレス送電するためのシステムである。ワイヤレス給電装置200は、ハーフブリッジ型の電源制御回路であり、給電コイルLから受電コイルLへの電力伝送効率を高めるために共振周波数fにて動作する。トランジスタにバイアスをかけた状態を動作点とする、いわゆるリニア・アンプ(A級、AB級等)などにより電力を供給する場合、電源から供給された電力のうち、給電コイルLに実際に供給される電力はその40%にも満たないため、全体としての電力供給効率は15%程度にすぎない(特許文献3参照)。これに対して、本実施形態におけるワイヤレス給電装置200の場合には80〜90%程度の電力を給電コイルLに供給できる。特に、調整キャパシタCQ1、CQ2を挿入することにより、スイッチングトランジスタQとスイッチングトランジスタQのオン・オフを切り換えるときのスイッチング損失を効果的に抑制できる。
【0048】
本実施の形態におけるワイヤレス給電装置200では、エキサイトコイルLが不要化するためにハーフブリッジ型の電源制御回路としている。これにより、図10に示した従来のシステムと異なり、ワイヤレス給電装置200にて給電コイルLを直接駆動できる。エキサイトコイルLが不要であることから、システムに必要なコイル数を削減できることになる。これにより、ワイヤレス電力伝送システム100、特に給電側の製造コストやサイズを抑制する上で有効である。
【0049】
図9は、変形例におけるワイヤレス電力伝送システムのシステム構成図である。図1のワイヤレス電力伝送システム100では、ワイヤレス給電装置200が給電コイルLと直接駆動したが、変形例におけるワイヤレス給電装置204は給電コイルLではなくエキサイトコイルLを駆動する。ワイヤレス給電装置204の基本的な構造は図1と同様である。図1と同一の符号を付した構成は、図1で説明した構成と同一または同様の機能を有する。
【0050】
ワイヤレス給電装置204は、エキサイトコイルLに共振周波数fにて交流電力を供給する。給電コイル回路120は、給電コイルLとキャパシタCが直列接続された回路である。エキサイトコイルLと給電コイルLは互いに向かい合っている。エキサイトコイルLと給電コイルLの距離は10mm程度と比較的近い。このため、エキサイトコイルLと給電コイルLは電磁気的に強く結合している。エキサイトコイルLに電流Iを流すと、給電コイル回路120に起電力が発生し、給電コイル回路120には電流Iが流れる。同図矢印にて示す方向を正方向、反対方向を負方向とする。電流Iの向きと電流Iの向きは逆(逆相)である。電流Iは電流Iよりも格段に大きい。給電コイルLとキャパシタCそれぞれの値は、給電コイル回路120の共振周波数fが13.56MHzとなるように設定すればよい。
【0051】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0052】
100、102 ワイヤレス電力伝送システム
120 給電コイル回路
130 受電コイル回路
140 ロード回路
200、204 ワイヤレス給電装置
202 オシレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給電コイルと受電コイルの共振周波数にて、前記給電コイルから前記受電コイルにワイヤレス送電するための装置であって、
直列接続されたコイルおよびキャパシタを含み、前記共振周波数にて共振する共振回路と、
前記共振回路への第1の方向からの電流の供給を制御する第1のスイッチングトランジスタと、
前記共振回路への第2の方向からの電流の供給を制御する第2のスイッチングトランジスタと、
前記第1および第2のスイッチングトランジスタそれぞれに対して並列接続され、前記第1および第2のスイッチングトランジスタのソース・ドレイン電圧の周期が前記第1および第2のスイッチングトランジスタのオフ期間に対応するように調整された第1および第2のキャパシタと、を備え、
前記第1および第2のスイッチングトランジスタを前記共振周波数にて交互に導通させることにより前記共振回路を共振させ、前記コイルを前記給電コイルとして、前記コイルから前記受電コイルにワイヤレス送電することを特徴とするワイヤレス給電装置。
【請求項2】
前記共振回路を構成するコイルとキャパシタは、前記第1および第2のスイッチングトランジスタを流れる半波交流電流のライズエッジおよびフォールエッジが曲線となるように調整されていることを特徴とする請求項1に記載のワイヤレス給電装置。
【請求項3】
前記共振周波数は、ISM(Industry-Science-Medical)周波数帯に設定されることを特徴とする請求項1または2に記載のワイヤレス給電装置。
【請求項4】
前記第1および第2のスイッチングトランジスタを前記共振周波数にて交互に導通させることにより前記共振回路を共振させ、前記コイルから、前記コイルとは別のコイルである前記給電コイルに前記共振周波数の交流電力と供給することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のワイヤレス給電装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のワイヤレス給電装置と、
前記受電コイルと、
前記受電コイルと磁気結合し、前記受電コイルが前記給電コイルから受電した電力を供給されるロードコイルと、を備えることを特徴とするワイヤレス電力伝送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−9592(P2013−9592A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−180722(P2012−180722)
【出願日】平成24年8月17日(2012.8.17)
【分割の表示】特願2009−185062(P2009−185062)の分割
【原出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】