説明

ワイヤ操作デバイス

【課題】ロック解除動作を独立して実施することなくワイヤ操作デバイスのセット位置を変更することができ、もって、快適なワイヤ操作性を実現し得るワイヤ操作デバイスを提供する。
【解決手段】ワイヤ操作デバイス20は、ワイヤ10を挿通する通孔31が形成された本体部30を有している。本体部は、通孔の内径寸法を少なくとも拡大自在な弾性体50から形成されている。本体部は、通孔に沿う長手方向の少なくとも一部においてワイヤの外面に接触する接触部32を有している。本体部は、長手方向の端部33、34から接触部に向かう方向に作用する押込み力F1を接触部における内径を拡径する方向の力f1に変換自在である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ、例えばガイドワイヤを移動させたり回転させたりするときに使用するワイヤ操作デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の医療において、カテーテルと呼ばれる細長い中空管状の医療器具を用いて様々な形態の治療や検査が行われている。このような治療方法としては、カテーテルの長尺性を利用して直接患部に薬剤を投与する方法、加圧によって拡張するバルーンを先端に取り付けたカテーテルを用いて体腔内の狭窄部を押し広げて開く方法、先端部にカッターが取り付けられたカテーテルを用いて患部を削り取って開く方法、逆にカテーテルを用いて動脈瘤や出血箇所あるいは栄養血管に詰め物をして閉じる方法などがある。また、体腔内の狭窄部を開口した状態に維持するために、側面が網目状になっている管形状をしたステントをカテーテルを用いて体腔内に埋め込んで留置する治療方法などがある。さらに、体内の体にとって過剰となった液体を吸引することなどがある。
【0003】
カテーテルを用いて治療・検査などを行う場合には、一般的に、カテーテルを誘導するためのガイドワイヤが目的部位付近まで挿入される。ガイドワイヤには、当該ガイドワイヤを移動させたり回転させたりするときに使用するワイヤ操作デバイスが着脱自在に取り付けられている(特許文献1を参照)。そして、ガイドワイヤに沿ってカテーテルを移動させ、カテーテルの先端部を目的部位まで誘導する。
【0004】
ワイヤ操作デバイスは、トルクデバイスとも指称され、ガイドワイヤを挿通する通孔を有するハンドル部と、ハンドル部に取り付けられるキャップ部とを有している。キャップ部を捩じ込むことによって、キャップ部およびハンドル部をガイドワイヤに対して固定することができる。一方、キャップ部を緩めることによって、キャップ部およびハンドル部のガイドワイヤに対する固定を解除することができる。
【0005】
術者は、まず、キャップ部を捩じ込んでキャップ部およびハンドル部をガイドワイヤに固定する。その後、術者は、ハンドル部を把持し、ガイドワイヤを押し進めるための押圧力や回転させるための回転力を、ガイドワイヤに作用させる。ガイドワイヤの先端が血管壁や病変部の凹凸物を擦ったときには、ガイドワイヤ先端から伝わってきたトルクが、ガイドワイヤおよびワイヤ操作デバイスを通して術者の手指に力を与える。術者は、自身の手指に作用する力に基づいて、血管壁に触れているかどうかや、病変部の形状や狭窄状況などの情報を取得している。
【0006】
ワイヤ操作デバイスをセットした位置を変更するときには、術者は、キャップ部を緩め、キャップ部およびハンドル部のガイドワイヤに対する固定を解除する。その後、術者は、所望のセット位置までキャップ部およびハンドル部を移動し、その位置でキャップ部を再び捩じ込んでキャップ部およびハンドル部をガイドワイヤに固定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−173465号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された技術では、ワイヤ操作デバイスのセット位置を変更する度に、キャップ部を緩め、キャップ部およびハンドル部のガイドワイヤに対する固定を解除する動作、つまりロック解除動作が必要である。ワイヤ操作デバイスのセット位置を変更する動作とは別に、ロック解除動作を独立して実施しなければならないため、快適なワイヤ操作性が阻害されることになる。
【0009】
本発明の目的は、ロック解除動作を独立して実施することなくワイヤ操作デバイスのセット位置を変更することができ、もって、快適なワイヤ操作性を実現し得るワイヤ操作デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明のワイヤ操作デバイスは、ワイヤを挿通する通孔が形成され前記通孔の内径寸法を少なくとも拡大自在な弾性体から形成された本体部を有している。前記本体部は、前記通孔に沿う長手方向の少なくとも一部において前記ワイヤの外面に接触する接触部を有し、前記長手方向の端部から前記接触部に向かう方向に作用する押込み力を前記接触部における内径を拡径する方向の力に変換自在である。
【発明の効果】
【0011】
本体部は、長手方向の端部から接触部に向かう方向に作用する押込み力を接触部における内径を拡径する方向の力に変換自在となっているので、ワイヤ操作デバイスのセット位置を変更する動作が、ワイヤ操作デバイスをワイヤに対して固定するロック機構の解除動作を兼ねることができる。したがって、ロック解除動作を独立して実施することなくワイヤ操作デバイスのセット位置を変更することができ、もって、快適なワイヤ操作性を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1(A)は、ワイヤ操作デバイスを示す正面図、図1(B)は、ワイヤ操作デバイスを示す概略断面図、図1(C)は、ワイヤ操作デバイスにワイヤを挿通した状態を示す概略断面図である。
【図2】図2(A)は、編組体を示す正面図、図2(B)は、弾性体としての編組体から構成される本体部を示す正面図、図2(C)は、図2(B)に2点鎖線によって囲まれる部分2Cを拡大して示す図である。
【図3】図3(A)(B)は、本体部の接触部における内径を拡径する動作を説明するための説明図である。
【図4】図4(A)(B)は、本体部の接触部における内径を縮径する動作を説明するための説明図である。
【図5】図5(A)(B)(C)は、本実施形態のワイヤ操作デバイスの使用状況を説明するための説明図である。
【図6】図6(A)〜(E)は、対比例のワイヤ操作デバイスの使用状況を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のワイヤ操作デバイスを添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。なお、理解を容易にするため、ワイヤの太さを誇張して模式的に図示しており、ワイヤ操作デバイスにおける各部の比率は実際とは異なる。また、図において符号11は、術者の手指を模式的に示している。図1(C)に付した軸Xは、本体部30における長手方向を示し、軸Yは、本体部30における長手方向に対して交差する方向を示している。
【0014】
図1(A)(B)(C)を参照して、ワイヤ操作デバイス20は、トルクデバイスとも指称され、ワイヤ10を挿通する通孔31が形成され通孔31の内径寸法を少なくとも拡大自在な弾性体50から形成された本体部30を有している。そして、本体部30は、通孔31に沿う長手方向の少なくとも一部においてワイヤ10の外面に接触する接触部32を有し、長手方向の端部33、34から接触部32に向かう方向に作用する押込み力を接触部32における内径を拡径する方向の力に変換自在となっている。以下、詳述する。
【0015】
ワイヤ10は、例えば、カテーテル(内視鏡も含む)の内腔に挿入して用いられるカテーテル用ガイドワイヤ10である。ガイドワイヤ10は、柔軟性または弾性を有する線材から形成されている。また、ガイドワイヤ10の先端部分は、狭窄部を通過し得る程度の剛性(曲げ剛性や、ねじり剛性)を有している。体腔内やカテーテルの管腔内における摺動性を良くするために、ガイドワイヤ10は親水性表面を備えている。ガイドワイヤ10の全長は、特に限定されないが、例えば、200〜5000mm程度である。
【0016】
本実施形態にあっては、本体部30を形成する弾性体50は、通孔31の内径寸法を縮小自在にも構成されている。そして、本体部30は、長手方向の端部33、34を接触部32に対して離反させる方向に作用する引張り力を接触部32における内径をさらに縮径する方向の力に変換自在となっている。
【0017】
ワイヤ操作デバイス20は、本体部30における長手方向の端部33、34のそれぞれに取り付けられて、長手方向の端部33、34から接触部32に向かう方向に作用する押込み力を本体部30に伝達する操作部41、42をさらに有することが好ましい。接触部32における内径を拡径する方向に作用する力を本体部30に伝達し易くするためである。
【0018】
ここで、操作部41、42のそれぞれは、本体部30における長手方向の端部33、34よりも内側位置において径方向外方に向けて拡がるフランジ部43、44をさらに有している。長手方向の端部33、34から接触部32に向かう方向に作用する押込み力をフランジ部43、44に付与して、接触部32における内径を拡径する方向に作用する力を本体部30に伝達し易くするためである。
【0019】
フランジ部43、44の両面のうち、本体部30における長手方向の端部33、34の側に臨む面43a、44aは、断面円弧形状を有し、反対側の面43b、44bは、断面平板形状を有している。つまり、フランジ部43、44の両面のうち、本体部30における長手方向の端部33、34の側に臨む面43a、44aの曲率が、反対側の面43b、44bの曲率に比べて大きく形成されている。操作部41、42は、長手方向の端部33、34に向けて先細りとなる形状を有し、前記端部33、34からフランジ部43、44にかけての外周面が手指11の外観に合致するような曲面形状を有している。このような操作部41、42の外観形状によって、術者は、先細りとなった端部33、34寄りを把持するのではなく、フランジ部43、44を押し込むことによって動かす形態であることを認識することができる。
【0020】
操作部41、42は、例えば樹脂材料から構成することができるが、これに限られるものではない。
【0021】
本体部30の両端部33、34のそれぞれは、操作部41、42の中心孔41a、42aに挿入され、操作部41、42に取り付けられている。
【0022】
弾性体50は、多数の貫通部51がその形状を変形自在に配置されている。弾性体50は、長手方向の端部33、34から接触部32に向かう方向に作用する押込み力F1を、貫通部51の形状が変形して長手方向に対して交差する方向に沿う貫通部51の寸法L(図2(C)を参照)が変形前の寸法に比べて大きくなることによって、接触部32における内径を拡径する方向の力f1に変換する(図3(A)(B)を参照)。
【0023】
弾性体50はまた、長手方向の端部33、34を接触部32に対して離反させる方向に作用する引張り力F2を、貫通部51の形状が変形して長手方向に対して交差する方向に沿う貫通部51の寸法Lが変形前の寸法に比べて小さくなることによって、接触部32における内径をさらに縮径する方向の力f2に変換する(図4(A)(B)を参照)。
【0024】
図2(A)には、編組体53の一例が示され、図2(B)には、弾性体50としての編組体53から構成される本体部30が示されている。
【0025】
弾性体50は、線状部材52を編み込むことによって貫通部51が網目状に配置されている。このような弾性体50は、例えば編組体53によって容易に形成することができる。
【0026】
まず、ガイドワイヤ10の外径よりもやや大きい内径を有する編組体53を準備する(図2(A))。次に、編組体53を、その内径がガイドワイヤ10の外径よりも細くなるように長手方向に引っ張る。これによって、本体部30を構成する弾性体50を得ることができる。細くする部分は、編組体53の一部でもよいし、長手方向に沿うすべての範囲でもよい。また、中央部分を最も細くし、端部33、34を中央部分よりも若干大径にする等のように、細くする割合を長手方向に沿って異ならせてもよい。
【0027】
編組体53は、線径0.01〜0.2mm程度のステンレス、Ni−Ti、弾性金属、超弾性合金、形状記憶合金等の金属線によって形成することができる。または、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維等の合成繊維によって形成してもよい。使用する金属線や合成繊維の断面形状は特に限定されず、円形状や平板状など適宜の形状を採用できる。また、条数も限定されず、8条や16条など適宜の条数を採用できる。
【0028】
図3(A)(B)に、本体部30の接触部32における内径を拡径する動作が示され、図4(A)(B)に、本体部30の接触部32における内径を縮径する動作が示されている。図2(B)(C)に示したように、本体部30が、弾性体50としての編組体53から構成される場合を例に挙げて説明する。本体部30は、長手方向の中央部分に、ガイドワイヤ10の外面に接触する接触部32を有している。弾性体50としての編組体53は、多数の貫通部51が網目状に配置され、さらに、貫通部51のそれぞれがその形状を変形自在に配置されている。
【0029】
図3(A)(B)を参照して、編組体53の長手方向の端部33、34を把持し、中央部分の接触部32に向かう方向に押込む。図3(A)では、図中左側の端部33を把持して図中右側に押込み、図3(B)では、図中右側の端部34を把持して図中左側に押込んでいる。この押込み力F1によって、把持した部分から接触部32までの貫通部51の形状が変形し、長手方向に対して交差する方向(ガイドワイヤ10の径方向)に沿う貫通部51の寸法L(図2(C)をも参照)が変形前の寸法に比べて大きくなる。このようにして、押込み力F1が、接触部32における内径を拡径する方向の力f1に変換される。編組体53がガイドワイヤ10の外周面から離れるので、編組体53を押込んだ方向に自由に移動させることができる。つまり、図3(A)では図中右側に編組体53を自由に移動させることができ、図3(B)では図中左側に編組体53を自由に移動させることができる。編組体53の押込みを止めると、編組体53は、その弾性力によって接触部32が縮径し、ガイドワイヤ10の外周面に接触した状態となる。編組体53の把持を解除すると、編組体53は、接触部32におけるガイドワイヤ10との摩擦抵抗によって、ガイドワイヤ10に対する位置が保持される。
【0030】
図4(A)(B)を参照して、編組体53の長手方向の端部33、34を把持し、中央部分の接触部32に対して離反する方向に引っ張る。図4(A)では、図中右側の端部34を把持して図中右側に引っ張り、図4(B)では、図中左側の端部33を把持して図中左側に引っ張っている。この引張り力F2によって、接触部32から把持した部分までの貫通部51の形状が変形し、長手方向に対して交差する方向(ガイドワイヤ10の径方向)に沿う貫通部51の寸法Lが変形前の寸法に比べて小さくなる。このようにして、引張り力F2が、接触部32における内径をさらに縮径する方向の力f2に変換される。編組体53がガイドワイヤ10の外周面にさらに密着するので、編組体53を引っ張る方向に移動させることができない。つまり、図4(A)では図中右側に編組体53を移動させることができず、図4(B)では図中左側に編組体53を移動させることができない。編組体53の引っ張りを止めると、編組体53は、その弾性力によってやや拡径し、接触部32のみがガイドワイヤ10の外周面に接触した状態となる。編組体53の把持を解除すると、編組体53は、接触部32におけるガイドワイヤ10との摩擦抵抗によって、ガイドワイヤ10に対する位置が保持される。
【0031】
図1(A)を参照して、弾性体50は、表面が凹凸形状55を有していることが好ましい。術者の手指11との間の摩擦を増やして、手指11の滑り止めの役割を発揮させるためである。編組体53に樹脂材料54を比較的薄肉に塗布し、塗布した樹脂材料54の表面側に貫通部51の形状を浮き出させることによって、表面が凹凸形状55を有するようにしてある。なお、弾性体50としての編組体53は、貫通部51を備えることから、編組体53単体だけでも、表面は凹凸形状を有することになる。このため、編組体53に樹脂材料54を塗布しなくても、弾性体50の表面に凹凸形状を備えることができる。また、編組体53に塗布した樹脂材料54にエンボス加工などを施して、表面が凹凸形状を有するようにすることもできる。
【0032】
樹脂材料54は、編組体53の伸縮性を阻害せず、かつ、手指11の滑り止めの役割を果たし得る限りにおいて適宜の材料を適用することができる。樹脂材料54には、例えば、熱可塑性エラストマーが好ましい。例としては、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー等がある。また、樹脂に限定されず、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンーブタジエンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等の各種ゴム材料を適用することもできる。なお、これらのうちの2種類以上を混合して用いることもできる。
【0033】
上記樹脂材料を編組体53に被覆する方法としては、以下のような方法が挙げられる。
まず、あらかじめ外表面に上記樹脂材料54が被覆された芯金に複数本の線状部材を一定間隔で編みこんでゆくことによって、筒状の編組体53を形成する。そして形成された編組体53を液状の上記樹脂材料54で満たされている細径のダイスを通すことによって編組体53の内側および外側に厚さが均一の樹脂材料54を被覆することが可能となる。そしてその後、芯材を抜去する。また、樹脂材料54の被覆の方法はこれに限らず、形成された筒状の編組体53に樹脂材料54を塗布後、上から熱収縮チューブで被覆し加熱することで、樹脂材料54を溶解させ編組体53に固着させる方法でも良く、形成された筒状の編組体53に上記樹脂材料54からなる樹脂テープを巻きつけておき、加熱後、冷却することで樹脂材料54を固着させる方法を用いても良い。
【0034】
次に、上記樹脂材料54を被覆した筒状の編組体53の接触部32を縮径する方法について説明する。上記方法により形成された筒状の編組体53の内径はガイドワイヤ10の外径に対して、多少大きく設定される。そして形成された筒状の編組体53の両端部33、34を把持し、外側に引っ張るように力を加えながら接触部32を加熱することによって、筒状の編組体53の中央部分(接触部32)を縮径することができる。これにより、外力を加えられない状態(自然状態)で中央部分のみ縮径し、両端が拡径した形状を作製することが可能となる。このとき、接触部32はガイドワイヤ10の外径に応じた内径を設定されることが好ましい。このように設定することにより、自然状態で接触部32のみがガイドワイヤ10の外表面に接触するよう構成でき、ガイドワイヤ10の外表面に対して適切な摩擦抵抗を与えることができる。また、接触部32の縮径部分を形成するための異なる方法として、上記方法により形成された樹脂部材54を被覆した筒状の編組体53の内径をガイドワイヤ10の外径と同程度に作製し、編組体53の両端部33、34の開口部分に先端がテーパ形状に形成された芯材を挿入し、加熱することで形状付けを行い、両端部33、34の拡径部分を作製してもよい。この場合、編組体53の線状部材は長手方向に予め伸びた状態で編みこまれていることが好ましい。
【0035】
ワイヤ操作デバイス20の使用に際しては、術者は、ガイドワイヤ10を本体部30の通孔31に挿通する。術者は、本体部30のうち接触部32の付近を把持し、ガイドワイヤ10を押し進めるための押圧力や回転させるための回転力を、ガイドワイヤ10に作用させる。ガイドワイヤ10の先端が病変部の凹凸物や血管壁を擦ったときには、ガイドワイヤ10先端から伝わってきたトルクが、ガイドワイヤ10およびワイヤ操作デバイス20を通して術者の手指11に力を与える。術者は、自身の手指11に作用する力に基づいて、病変部の形状、硬さ、狭窄状況、血管壁に接触しているかどうかなどの種々の情報を取得している。
【0036】
図5(A)(B)(C)には、本実施形態のワイヤ操作デバイス20の使用状況が示され、図6(A)〜(E)は、対比例のワイヤ操作デバイス100の使用状況が示されている。
【0037】
図6を参照して、対比例のワイヤ操作デバイス100は、ガイドワイヤ110を挿通する通孔121を有するハンドル部120と、ハンドル部120に取り付けられるキャップ部130とを有している。キャップ部130を捩じ込むことによって、キャップ部130およびハンドル部120をガイドワイヤ110に対して固定することができる。一方、キャップ部130を緩めることによって、キャップ部130およびハンドル部120のガイドワイヤ110に対する固定を解除することができる。
【0038】
通常操作のとき、術者は、まず、キャップ部130を捩じ込んでキャップ部130およびハンドル部120をガイドワイヤ110に固定する。その後、術者は、ハンドル部120を把持し、ガイドワイヤ110を押し進めるための押圧力や回転させるための回転力を、ガイドワイヤ110に作用させる(図6(A))。
【0039】
ワイヤ操作デバイス100をセットした位置を変更するときには、術者は、まず、キャップ部130を緩め、キャップ部130およびハンドル部120のガイドワイヤ110に対する固定を解除する。このロック解除動作においては、術者は、一方の手指11でハンドル部120を持ち、他方の手指11でキャップ部130を持って緩めている(図6(B))。ガイドワイヤ110を押し進めている途中つまりプッシュ状態においてロック解除するときには、ガイドワイヤ110の位置を保持しつつ、ロック解除をしなければならない。しかしながら、ロック解除には両手が必要であることから、ガイドワイヤ110の位置を保持するための作業として、ガイドワイヤ110を小指などに引っ掛けて握ったり、ガイドワイヤ110を手首などで押さえつけたりするなどの別途の作業を追加しなければならない。
【0040】
術者は、ガイドワイヤ110を一方の手指11で持ち、所望のセット位置までキャップ部130およびハンドル部120を他方の手指11で持って移動する(図6(C))。
【0041】
所望の位置まで移動すると、術者は、両手を使って、キャップ部130を再び捩じ込んでキャップ部130およびハンドル部120をガイドワイヤ110に固定する(図6(D))。ロック時においても両手が必要であることから、ガイドワイヤ110の位置を保持するための作業として、ガイドワイヤ110を小指などに引っ掛けて握ったり、ガイドワイヤ110を手首などで押さえつけたりするなどの別途の作業を追加する。
【0042】
ワイヤ操作デバイス100のロックが終わると、ガイドワイヤ110の位置を保持するために行っていた別途の作業を終了し、通常操作に移行する(図6(E))。
【0043】
このように対比例のワイヤ操作デバイス100にあっては、ワイヤ操作デバイス100のセット位置を変更する度に、ロック解除動作およびガイドワイヤ110の位置を保持するための作業が必要である。ワイヤ操作デバイス100のセット位置を変更する動作とは別に、ロック解除動作を独立して実施しなければならないため、快適なワイヤ操作性が阻害されることになる。
【0044】
図5を参照して、本実施形態のワイヤ操作デバイス20にあっては、本体部30は、ワイヤ10の外面に接触する接触部32を有しており、接触部32におけるガイドワイヤ10との摩擦抵抗によって、ガイドワイヤ10に対する位置が保持されている。
【0045】
通常操作のとき、術者は、本体部30のうち接触部32の付近を把持し、ガイドワイヤ10を押し進めるための押圧力や回転させるための回転力を、ガイドワイヤ10に作用させる(図5(A))。
【0046】
ワイヤ操作デバイス20をセットした位置を変更するときには、術者は、一方の手指11によってガイドワイヤ10を持ってガイドワイヤ10の位置を保持する。術者は、本体部30を移動させる方向(図において左側)の上流側(図において右側)に位置する操作部42に他方の手指11を押し当て、この操作部42を下流側に向けて押し込む(図5(B))。この押込み力F1によって、図において右側の操作部42から接触部32までの貫通部51の形状が変形し、長手方向に対して交差する方向(ガイドワイヤ10の径方向)に沿う貫通部51の寸法Lが変形前の寸法に比べて大きくなる。このようにして、押込み力F1が、接触部32における内径を拡径する方向の力f1に変換される。本体部30がガイドワイヤ10の外周面から離れるので、術者は、本体部30を押込んだ方向、つまり図中左側に本体部30を自由に移動させることができる。このように、ワイヤ操作デバイス20のセット位置を変更する動作がロック解除動作を兼ねており、術者は、ロック解除動作について意識する必要がない。
【0047】
本体部30の押込みを止めると、本体部30は、その弾性力によって接触部32が縮径し、ガイドワイヤ10の外周面に接触した状態となる。図中右側の操作部42から手指11を離すと、本体部30は、接触部32におけるガイドワイヤ10との摩擦抵抗によって、ガイドワイヤ10に対する位置が保持される。このように、ワイヤ操作デバイス20のセット位置を変更する動作の終了がロック動作を兼ねており、術者は、ロック動作について意識する必要がない。
【0048】
ワイヤ操作デバイス20のセット位置を変更する一連の動作において、術者は、常に、片方の手指11によってガイドワイヤ10を把持して、ガイドワイヤ10の位置を保持することができる。このためガイドワイヤ10が不用意に動くことを防止でき、手技そのものを行い易くなる。
【0049】
その後、術者は、本体部30のうち接触部32の付近を把持し、通常操作に移行する(図5(C))。
【0050】
以上説明したように、本実施形態のワイヤ操作デバイス20によれば、本体部30は、長手方向の端部33、34から接触部32に向かう方向に作用する押込み力F1を接触部32における内径を拡径する方向の力f1に変換自在となっている。ワイヤ操作デバイス20のセット位置を変更する動作がロック解除動作を兼ねることから、術者はロック解除動作について別段意識する必要がない。したがって、ロック解除動作を独立して実施することなくワイヤ操作デバイス20のセット位置を変更することができ、もって、快適なワイヤ操作性を実現することが可能となる。
【0051】
本体部30の押込みを止めると、本体部30は、その弾性力によって接触部32が縮径し、接触部32におけるガイドワイヤ10との摩擦抵抗によってガイドワイヤ10に対する位置が保持される。ワイヤ操作デバイス20のセット位置を変更する動作の終了がロック動作を兼ねることから、術者はロック動作について別段意識する必要がない。したがって、ロック動作を独立して実施することなくワイヤ操作デバイス20のセット位置を変更することができる観点からも、快適なワイヤ操作性を実現することが可能となる。
【0052】
本発明のワイヤ操作デバイス20を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、ワイヤ操作デバイス20を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0053】
例えば、弾性体50としての編組体53から本体部30を構成した形態を図示したが、本発明は、編組体53を使用する場合に限定されるものではない。本体部30は、長手方向の端部33、34から接触部32に向かう方向に作用する押込み力F1を接触部32における内径を拡径する方向の力f1に変換自在である限りにおいて、適宜の形態に改変することが可能である。例えば、貫通部が形成されていないチューブ形状の弾性体、薄肉部位と厚肉部分とを備えることにより弾性力を部位ごとに調整した弾性体、あるいは、コイルスプリングのようにピッチ間に隙間を有する弾性体など、適宜の形態に改変できる。
【符号の説明】
【0054】
10 ワイヤ、
20 ワイヤ操作デバイス、
30 本体部、
31 通孔、
32 接触部、
33、34 長手方向の端部、
41、42 操作部、
43、44 フランジ部、
43a、44a 長手方向の端部の側に臨む面、
43b、44b 反対側の面、
50 弾性体、
51 貫通部、
52 線状部材、
53 編組体、
54 樹脂材料、
55 凹凸形状、
F1 押込み力、
F2 引張り力、
f1 接触部における内径を拡径する方向の力、
f2 接触部における内径をさらに縮径する方向の力、
L 長手方向に対して交差する方向に沿う貫通部の寸法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤを挿通する通孔が形成され前記通孔の内径寸法を少なくとも拡大自在な弾性体から形成された本体部を有し、
前記本体部は、前記通孔に沿う長手方向の少なくとも一部において前記ワイヤの外面に接触する接触部を有し、前記長手方向の端部から前記接触部に向かう方向に作用する押込み力を前記接触部における内径を拡径する方向の力に変換自在である、ワイヤ操作デバイス。
【請求項2】
前記本体部を形成する前記弾性体は、前記通孔の内径寸法を縮小自在に構成され、
前記本体部は、前記長手方向の端部を前記接触部に対して離反させる方向に作用する引張り力を前記接触部における内径をさらに縮径する方向の力に変換自在である、請求項1に記載のワイヤ操作デバイス。
【請求項3】
前記本体部における前記長手方向の端部のそれぞれに取り付けられ、前記長手方向の端部から前記接触部に向かう方向に作用する押込み力を前記本体部に伝達する操作部をさらに有する、請求項1または請求項2に記載のワイヤ操作デバイス。
【請求項4】
前記操作部のそれぞれは、前記本体部における前記長手方向の端部よりも内側位置において径方向外方に向けて拡がるフランジ部をさらに有する、請求項3に記載のワイヤ操作デバイス。
【請求項5】
前記フランジ部の両面のうち、前記本体部における前記長手方向の端部の側に臨む面の曲率が、反対側の面の曲率に比べて大きい、請求項4に記載のワイヤ操作デバイス。
【請求項6】
前記弾性体は、多数の貫通部がその形状を変形自在に配置され、前記長手方向の端部から前記接触部に向かう方向に作用する押込み力を、前記貫通部の形状が変形して前記長手方向に対して交差する方向に沿う前記貫通部の寸法が変形前の寸法に比べて大きくなることによって、前記接触部における内径を拡径する方向の力に変換する、請求項1〜請求項5の何れか1つに記載のワイヤ操作デバイス。
【請求項7】
前記弾性体は、多数の貫通部がその形状を変形自在に配置され、前記長手方向の端部を前記接触部に対して離反させる方向に作用する引張り力を、前記貫通部の形状が変形して前記長手方向に対して交差する方向に沿う前記貫通部の寸法が変形前の寸法に比べて小さくなることによって、前記接触部における内径をさらに縮径する方向の力に変換する、請求項2に記載のワイヤ操作デバイス。
【請求項8】
前記弾性体は、線状部材を編み込むことによって前記貫通部が網目状に配置されてなる、請求項6または請求項7に記載のワイヤ操作デバイス。
【請求項9】
前記弾性体は、表面が凹凸形状を有している請求項1〜請求項8の何れか1つに記載のワイヤ操作デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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