説明

ワイヤ駆動装置及びそれを用いた基板の搬送装置

【課題】駆動プーリとテンションプーリとに掛け渡されたワイヤに生じる弛みを除去することができるワイヤ駆動装置を提供することにある。
【解決手段】可動体23を有するテンションユニット21と、可動体に揺動可能に枢支され中途部にテンションプーリが回転可能に設けられた揺動レバー31と、可動体に移動可能に設けられ先端部が揺動レバーの上端部に連結されたテンションロッド37と、テンションロッドの後端部に設けられた圧縮ばね41を圧縮させてテンションロッドに加わる圧縮ばねの復元力を設定するナット42と、テンションロッドに圧縮ばねの復元力を作用させたときにその力を揺動レバーに伝達するばね第1、第2の加圧体46,49と、圧縮ばねの復元力が付与されて張設されたワイヤに弛みが生じて揺動レバーがワイヤの弛みに応じて揺動したときに、可動体をワイヤの走行方向に沿って位置決め調整して揺動レバーをワイヤの弛みが除去される方向に揺動させるボルト27を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は駆動プーリと従動プーリとの間に張設されたワイヤを駆動するためのワイヤ駆動装置及びそれを用いた基板の搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、被駆動体を直線的に駆動して位置決めすることが要求される場合、上記被駆動体を駆動する駆動装置としてリニアモータやワイヤ駆動装置が知られている。リニアモータは上記被駆動体の駆動性能や位置決め精度に優れているものの、非常に高価であるため、駆動装置のコストアップを招くということある。
【0003】
これに対してワイヤ駆動装置は比較的安価に構成することができるため、使用される頻度が増大する傾向にある。しかしながら、ワイヤ駆動装置は周知のように駆動プーリと従動プーリとの間にワイヤを張設し、このワイヤを上記駆動プーリによって走行させることで、上記被駆動体をワイヤの走行に連動させて駆動させる構成となっている。
【0004】
そのような構成によると、上記ワイヤは使用に伴い伸びによる弛みが生じることが避けられないから、その弛みによって被駆動体の位置決め精度が低下したり、被駆動体が高重量物の場合には停止した状態の駆動プーリを回転させたときに、ワイヤの弛んだ部分が急激に引張られ、その部分に被駆動体の重量に応じた大きな荷重が衝撃的に加わるため、ワイヤが損傷するということがある。
【0005】
そこで、被駆動体の駆動にワイヤ駆動装置を用いる場合、使用に伴いワイヤに伸びが生じたならば、その伸びを吸収し、弛みを除去するということが行われている。たとえば、駆動プーリと従動プーリとに張設されたワイヤを上記被駆動体に引張りばねを介して連結し、ワイヤに伸びが生じたならば、上記引張りばねを弾性的に縮小させることでその伸びを吸収するということが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−231694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
駆動プーリと従動プーリとに張設されたワイヤと被駆動体との間に引張りばねを介在させれば、上記ワイヤに伸びが生じたときに上記引張りばねが弾性的に収縮するから、ワイヤの伸びを吸収することが可能となる。
【0008】
しかしながら、引張りばねを弾性的に収縮させてワイヤの伸びを吸収するだけでは、ワイヤの伸びが増大するにつれて駆動プーリと従動プーリとに張設されたワイヤの張力が徐々に低減してくるため、ワイヤの伸びを確実に吸収できなくなる。
【0009】
そのため、ワイヤによって駆動される被駆動体を精度よく位置決めすることができなくなったり、被駆動体が高重量物の場合にはワイヤに生じた弛みによって駆動プーリを回転させたとき、ワイヤの伸びによって弛んだ部分が急激に引張られ、その部分に大きな荷重が衝撃的に加わるため、ワイヤが損傷するということがある。
【0010】
この発明は、使用に伴いワイヤに伸びが生じても、その伸びを確実に除去して使用することができるようにしたワイヤ駆動装置及びそれを用いた基板の搬送装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、駆動プーリとテンションプーリとにワイヤを掛け渡し、上記駆動プーリを回転駆動して上記ワイヤを走行させるワイヤ駆動装置であって、
上記ワイヤの走行方向に沿って位置決め調整可能に設けられた可動体を有するテンションユニットと、
上記可動体に下端が揺動可能に枢支され中途部に上記テンションプーリが回転可能に設けられた揺動レバーと、
上記可動体に上記ワイヤの走行方向に沿って移動可能に設けられ先端部が上記揺動レバーの上端部に揺動可能かつ軸方向に移動可能に連結されたテンションロッドと、
このテンションロッドの後端部に上記可動体と上記テンションロッドとに作用するよう設けられたばね体と、
上記ばね体を圧縮させて上記テンションロッドに加わる上記ばね体の復元力を設定する第1のテンション調整手段と、
この第1のテンション調整手段によって上記テンションロッドに上記ばね体の復元力を作用させたときにこの復元力に対応する力を上記揺動レバーの上端部に伝達するばね力伝達手段と、
上記揺動レバーに設けられた上記テンションプーリによって上記ばね力伝達手段を介して上記圧縮ばねの復元力が付与されて張設された上記ワイヤに弛みが生じて上記揺動レバーが上記ワイヤの弛みに応じて揺動したときに、上記可動体を上記ワイヤの走行方向に沿って位置決め調整して上記揺動レバーを上記ワイヤの弛みが除去される方向に揺動させる第2のテンション調整手段と
を具備したことを特徴とするワイヤ駆動装置にある。
【0012】
上記第1のテンション調整手段によって上記ばね体を圧縮させて上記ワイヤに付与する張力となる上記テンションロッドに加わる上記ばね体の復元力を設定するとき、上記ばね体に生じる圧縮力を検出する第1の検出手段が上記ばね力伝達手段に設けられていることが好ましい。
【0013】
上記ばね力伝達手段は、上記揺動アームの上端部に一体的に設けられた第1の加圧体と、上記テンションロッドの先端に一体的に設けられ上記第1の加圧体よりも上記テンションロッドの軸方向の先端側に位置する第2の加圧体を有し、上記第1の検出手段は上記第1の加圧体と上記第2の加圧体との間に設けられていることが好ましい。
【0014】
上記ワイヤに弛みが生じて上記揺動レバーが揺動したときにその揺動を検出する第2の検出手段を有することが好ましい。
【0015】
上記可動体には支持孔を有する支持体が揺動可能に取付けられ、上記支持孔に上記テンションロッドの中途部が軸方向に移動可能に支持されていて、
上記テンションロッドの上記支持体の後端側に上記ばね体を支持する一対のばね受け体が上記テンションロッドに対して移動可能に設けられていることが好ましい。
【0016】
この発明は、基板の上面を吸着する吸着部を有する搬送体をワイヤ駆動装置によって駆動する基板の搬送装置であって、
上記ワイヤ駆動装置は請求項1に記載された構成であることを特徴とする基板の搬送装置にある。
【0017】
上記ワイヤ駆動装置のワイヤには1つの上記搬送体が連結され、この1つの搬送体には少なくとも1つの他の搬送体が連結されていて、上記ワイヤ駆動装置は複数の搬送体を同時に同じ方向に駆動する構成であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、第1のテンション調整手段によってばね体を圧縮してワイヤに付与する張力を設定し、ワイヤに伸びが生じてテンションプーリが設けられた揺動レバーが揺動したときには第2のテンション調整手段によって揺動レバーが設けられた可動体を移動させて上記揺動レバーをワイヤに弛みが生じて揺動したときと逆方向に揺動させれば、ワイヤに生じた弛みを除去することができる。
【0019】
そのため、ワイヤに弛みが生じても、その弛みを除去するとともに、ばね体によって設定された所定の張力を常に付与することができるから、上記ワイヤによって被駆動体を直線駆動する場合、その駆動を精密に行うことができるばかりか、ワイヤの駆動開始時などにワイヤに大きな衝撃力を与えて損傷させるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の一実施の形態を示す基板の搬送装置の正面図。
【図2】上記搬送装置に設けられた搬送体の取付け構造を示す断面図。
【図3】同じく搬送装置の駆動源が設けられた部分の断面図。
【図4】上記ワイヤ駆動装置の一部断面した正面図。
【図5】上記ワイヤ駆動装置の側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1はこの発明の一実施の形態のワイヤ駆動装置1が用いられた、たとえば液晶表示パネルに用いられるガラス製の基板を搬送する搬送装置の正面図である。この搬送装置は架台2によって水平に支持されたベース3を有する。このベース3の正面には上下方向に所定間隔で離間した一対のガイドレール4が設けられている。上記ガイドレール4には第1の搬送体6が図2に示すように背面に設けられた受け部材7を上記ガイドレール4に係合させて移動可能に設けられている。
【0022】
上記第1の搬送体6は、図2に示すように垂直部6a,上部水平部6b及び下部水平部6cを有する側面形状がクランク状の板材によって形成されていて、垂直部6aの内面に上記受け部材7が設けられている。上記下部水平部6cの下面には吸着部としての複数の吸着パッド10が設けられている。
【0023】
そして、上記第1の搬送体6が後述するように上記ワイヤ駆動装置1によって上記ガイドレール4に沿って駆動されて図示しないテーブルの上方で位置決めされたのち、上記テーブルが上昇方向に駆動されることで、上記テーブル上に載置された基板Wを吸着保持したり、或いは予め吸着保持した基板Wをテーブルの上面に受け渡すようになっている。
【0024】
図1に示すように、上記ガイドレール4には上記第1の搬送体6と同じ構成の第2の搬送体8が移動可能に設けられている。この第2の搬送体8の一端は上記第1の搬送体6の一端と連結部材9によって連結されている。
【0025】
それによって、上記第1の搬送体6が上記ワイヤ駆動装置1によってガイドレール4に沿って駆動されれば、この駆動に上記第2の搬送体8が連動するようになっている。そして、第2の搬送体8は上記第1の搬送体6と同様、図示しないテーブルから基板Wを吸着したり、テーブルに基板Wを供給するようになっている。
【0026】
つまり、上記構成の搬送装置は、第1、第2の搬送体6,8によって配設された複数のテーブルに対して基板Wを順送りすることができる構成となっている。
【0027】
なお、上記一実施の形態ではガイドレール4に2つの搬送体6,8を設けたが、上記ガイドレール4には3つ以上の搬送体を、これらの端部を互いに連結して連動するように設けてもよい。
【0028】
図3に示すように、上記ベース3の上面の、上記第1の搬送体6の移動方向の一端側にはハウジング11が設けられ、このハウジング11内には駆動プーリ12が軸線を上記ベース3の長手方向に対して直交させて回転可能に支持されている。
【0029】
上記ハウジング11の外面には駆動源13が設けられ、この駆動源13によって上記駆動プーリ12が正転方向及び逆転方向に対して選択的に回転駆動されるようになっている。
【0030】
上記駆動プーリ12には複数の素線を編んだワイヤ14の一端部と他端部とが逆方向に巻装されている。このワイヤ14のループ状をなした中途部は上記第1の搬送体6の移動範囲の他端側に後述するように回転可能に支持された、上記ワイヤ駆動装置1を構成するテンションプーリ15に係合されている。
【0031】
したがって、上記駆動源13によって上記駆動プーリ12が回転駆動されると、その回転方向に応じて上記ワイヤ14の一端部が上記駆動プーリ12によって巻き取られ、他端部が繰り出されるから、上記ワイヤ14は上記テンションプーリ15を折り返し点として一端部側と他端部側が逆方向に走行するようになっている。
【0032】
図1に示すように上記ワイヤ14の一端部側と他端部側は上下方向に位置していて、下側に位置する部分、たとえば一端部側の中途部は上記第1の搬送体6の上部水平部6bの上面に取付け具16によって連結固定されている。それによって、上記ワイヤ14が上記駆動源13によって走行駆動されれば、その走行に上記第1の搬送体6が連動するようになっている。
【0033】
図4に示すように、上記ワイヤ駆動装置1はテンションユニット21を有する。このテンションユニット21は上記ベース3の上面に固定された側面形状がL字状の固定体22を有し、この固定体22の上面には可動体23が上記ワイヤ14の走行方向に沿って位置決め調整可能に設けられている。
【0034】
すなわち、上記固定体22の上面には一対のガイド24(図4に一方のみ図示)が上記ワイヤ14の走行方向に沿って設けられていて、上記可動体23の下面には上記ガイド24に移動可能に係合する受け部材25が設けられている。
【0035】
上記固定体22の垂直壁には通孔26が形成され、この通孔26には第2のテンション調整手段を構成するボルト27が挿通されている。このボルト27は上記可動体23の逃げ孔28が形成された部分に螺合されている。さらに、ボルト27には、このボルト27が固定体22に対して移動するのを阻止する第1のロックナット29aと、上記可動体23に対して回転するのを阻止する第2のロックナット29bが螺合されている。
【0036】
上記第1、第2のロックナット29a,29bを緩めて上記ボルト27を回転させれば、その回転方向に応じて上記可動体23を上記固定体22に対して上記ガイド24に沿う方向、つまりワイヤ14の走行方向に移動させて位置決めすることができるようになっている。
【0037】
上記可動体23の先端部には逆U字状の揺動レバー31の開放した下端が第1の支軸32によって揺動可能に支持されている。この揺動レバー31の中途部内には上記テンションプーリ15が第2の支軸30によって回転可能に支持されている。
【0038】
上記揺動レバー31の上端部内には、図4と図5に示すように第1の支持孔33aが形成された第1の支持体33が設けられている。この第1の支持体33は直方体をなしていて、その両側面には図5に示すように支軸33bが突設され、これら支軸33bが上記揺動レバー31の上端部に枢支されて揺動可能に設けられている。
【0039】
上記可動体23の上端部には一対の支持片34が所定間隔でU字型に突設され、これら支持片34には第2の支持孔35aが穿設され両側外面に支軸35bが突設された第2の支持体35が上記支軸35bを上記支持片34に設けられた支持孔34aに支持されて揺動可能に設けられている。
【0040】
上記第1の支持体33の第1の支持孔33aと、上記第2の支持体35の支持孔35aとにはテンションロッド37の先端部と中途部とがそれぞれ移動可能に挿通支持されている。
【0041】
上記テンションロッド37の後端部、つまり第2の支持体35の後方には第1のばね受け体38と第2のばね受け体39とが軸方向に移動可能に装着されている。各ばね受け体38,39間にはばね体としての圧縮ばね41が設けられている。
【0042】
上記テンションロッド37の後端には第1のテンション調整手段を構成する一対のナット42が螺合されている。上記ナット42をねじ込んで第2のばね受け体39を第1のばね受け体38の方向に移動させれば、上記圧縮ばね41が圧縮されるようになっている。なお、上記テンションロッド37の後端に一対のナット42を螺合させることで、これらナット42を緩まないようロック状態とすることができる。
【0043】
上記テンションロッド37の後端部には、図4に示すように上記第1のばね受け体38の空間部38a内に入り込む鍔37aが設けられている。それによって、後述するようにワイヤ14が伸びて圧縮ばね41が非圧縮方向に伸びたときに、上記テンションロッド37の矢印Xで示す方向の移動は上記鍔37aが上記1のばね受け体38の空間部38aの閉塞端に当たることで制限されるようになっている。なお、圧縮ばね41は所定量以上伸びないようになっている。
【0044】
図4に示すように、上記テンションロッド37の先端には矩形板状の第1の連結体44が長手方向を上下方向に沿わせて設けられ、この第1の連結体44には一対の第1の連結軸45によって同じく矩形板状の第1の加圧体46が長手方向を上下方向に向けて連結されている。そのため、上記第1の加圧体46はテンションロッド37とともに移動可能となっている。
【0045】
上記揺動レバー31の上端部の先端側の面には矩形板状の第2の連結体47が長手方向を水平方向にして設けられ、この第2の連結体47の両端部には一対の第2の連結軸48(一方のみ図示)が設けられている。この第2の連結軸48には矩形板状の第2の加圧体49が長手方向を第2の連結体47と同じ方向に向けて連結されている。つまり、第2の加圧体49は第1の加圧体46に対して90度回転して設けられている。そのため、第2の加圧体49は揺動レバー31とともに移動するようになっている。
【0046】
上記第2の加圧体49は上記第1の加圧体46よりも上記テンションロッド37の軸方向後端側に位置していて、これら第1、第2の加圧体46,49の対向面間には第1の検出センサとしてのロードセル51が設けられている。
【0047】
上記テンションロッド37の後端に設けられたナット42を締め込んで上記圧縮ばね41を圧縮させると、上記テンションロッド37が図4に矢印Xで示す方向に移動する。そのとき、上記テンションロッド37の移動に上記第1の加圧体46が連動して上記第2の加圧体49に接近する方向に移動するから、これら第1、第2の加圧体46,49の間に設けられたロードセル51に圧縮荷重が加わる。この圧縮荷重は上記圧縮ばね41に発生する圧縮力に相当する。
【0048】
上記圧縮ばね41の圧縮力は上記テンションロッド37及び上記第1、第2の加圧体46,49を介して上記揺動レバー31の上端部に伝達される。つまり、上記第1、第2の加圧体46,49は上記圧縮ばね41が圧縮されたときに生じる復元力を上記揺動レバー31に伝達するばね力伝達手段を構成している。
【0049】
なお、上記ロードセル51が検出した圧縮荷重は図4に示す表示警報装置52に表示される。
一方、上記揺動レバー31の上部側面には帯板状のアクチュエータ53が設けられている。このアクチュエータ53に対向する上記可動体23の上端部には第2の検出センサとしてのU字状のフォトセンサ54が設けられている。
【0050】
上記揺動レバー31をほぼ垂直に起立させた状態において、上記アクチュエータ53の先端部は上記フォトセンサ54のU字状の部分に接近し、その状態から上端部が上記第1の支軸32を支点として図4に矢印Rで示す時計方向に揺動すると、上記アクチュエータ53の先端部が上記フォトセンサ54のU字状の部分に入り込んで、それまで通電状態(オンの状態)にあった上記フォトセンサ54の通電を遮断してオフとする。
【0051】
上記フォトセンサ54のオン或いはオフの状態、つまり後述するように上記ワイヤ14にたるみが生じて上記揺動レバー31が垂直状態から時計方向に回動したか否かは上記表示警報装置52に表示されると同時に、警報によって作業者に知らされるようになっている。
【0052】
なお、上記揺動レバー31が揺動するとき、上記テンションロッド37を支持した第1の支持体33と第2の支持体35も揺動する。つまり、揺動レバー31の揺動がテンションロッド37によって阻止されることがないようになっている。
【0053】
つぎに、上記構成の搬送装置に用いられたワイヤ駆動装置1を使用する場合について説明する。
まず、ワイヤ14に与える張力を圧縮ばね41に生じる復元力によって設定する。すなわち、第1のテンション調整手段である一対のナット42のロック状態を解除した後、先端側のナット42を締め込んでテンションロッド37を矢印Xで示す方向へ移動させながら、圧縮ばね41を一対のばね受け体38,39によって圧縮してゆく。
【0054】
上記ナット42を締めこむことによって上記圧縮ばね41に生じる圧縮荷重、つまり上記圧縮ばね41の圧縮によって生じる復元力は、テンションロッド37の先端に一体的に設けられた第1の加圧体46と、揺動レバー31の上端部に一体的に設けられた第2の加圧体49との間に向けられたロードセル51によって検出され、表示警報装置52に表示される。したがって、作業者は表示警報装置52を見ながら圧縮荷重を設定する。
【0055】
上記圧縮荷重、つまり上記圧縮ばね41の復元力はばね伝達手段を構成する上記第1、第2の加圧体46,49によって上記揺動レバー31の上端部に伝達される。
【0056】
このようにして圧縮荷重を設定したとき、ワイヤ14が弛んでいて、このワイヤ14を介して上記揺動レバー31に設けられたテンションプーリ15に加わる張力が上記圧縮ばね41の復元力以下の荷重であれば、上記揺動レバー31は上記復元力と上記張力との差によって垂直状態よりも時計方向に傾いた状態になる。
【0057】
上記圧縮ばね41を圧縮させてその復元力である圧縮荷重を設定したならば、固定体22の垂直壁の通孔26に通されて可動体23に螺合された、第2のテンション調整手段を構成するボルト27を締め込み、上記可動体23を矢印Xで示す上記テンションロッド37の移動方向と同方向(この方向を引張り方向という)に移動させる。
【0058】
このとき、ボルト27が固定体22に対して移動するのを阻止する第1のロックナット29aと、上記可動体23に対して回転するのを阻止する第2のロックナット29bのロック状態を解除する。
【0059】
上記可動体23を上記ボルト27によって引張り方向に移動させると、この移動に揺動レバー31及びこの揺動レバー31に設けられたテンションプーリ15が連動するから、このテンションプーリ15に加わるワイヤ14の張力が徐々に増大することになる。
【0060】
それによって、時計方向に揺動した状態にある上記揺動レバー31は下端が引張り方向に移動するから、下端を支点として時計方向に揺動した状態から垂直に起立する方向へ回動し始める。
【0061】
そして、上記揺動レバー31がほぼ垂直な状態となり、さらにワイヤ14に圧縮ばね41に生じた復元力と同等の張力が加わるまで、上記可動体23を引張り方向に移動させる。
【0062】
つまり、上記可動体23を引張り方向に移動させることで、上記テンションプーリ15に加わるワイヤ14の張力が増大するから、その張力によって上記揺動レバー31が垂直状態から反時計方向に倒れる直前まで、上記可動体23を引張り方向に移動させる。
【0063】
上記揺動レバー31が垂直状態から反時計方向に倒れる直前では、上記アクチュエータ53の先端はオン状態にある上記フォトセンサ54をオフにする直前の位置にある。
【0064】
なお、上記揺動レバー31を垂直状態から反時計方向に揺動させ、テンションプーリ15に加わるワイヤ14の張力が圧縮ばね41の復元力よりも大きくなると、上記揺動レバー31の先端にワイヤ14を介して圧縮ばね41の復元力よりも大きなワイヤ14の張力が加わる。
【0065】
その場合、上記ワイヤ14の張力によってばね力伝達手段を構成する第2の加圧体49が第1の加圧体46とでロードセル51をさらに圧縮する方向に変位して上記ロードセル51が検出し、その圧縮荷重が表示警報装置52に表示される。
【0066】
したがって、作業者は上記表示警報装置52に表示される圧縮荷重を見ながらから、上記可動体23を引張り方向に移動させれば、上記テンションプーリ15によって圧縮ばね41の復元力と同等の張力をワイヤ14に付与することができる。
【0067】
このようにしてワイヤ14に圧縮ばね41の復元力と同等の張力を付与したならば、ボルト27を固定体22及び可動体23に対して第1、第2のロックナット29a,29bによってロックした後、駆動源12を作動させて駆動プーリ12を回転駆動させる。
【0068】
それによって、ワイヤ14が上記駆動プーリ12の回転方向に応じて走行するから、上記ワイヤ14に連結された第1の搬送体6及びこの第1の搬送体6に連結部材9によって連結された第2の搬送体8が所定方向に駆動されて図示しないテーブルの上方に位置決めされる。
【0069】
そして、上記テーブルが上昇方向に駆動され、第1、第2の搬送体6,8の吸着パッド10に吸着保持された基板Wがそれぞれテーブルに供給載置されることになる。つまり、第1の搬送体6と第2の搬送体8によって並設された複数のテーブルに対して基板Wを順送りすることができる。
【0070】
このような動作が繰り返して行われると、上記第1の搬送体6が連結されたワイヤ14に弛みが生じ、上記第1の搬送体6及びこの第1の搬送体6に連結された第2の搬送体8の位置決め精度が低下したり、上記駆動プーリ12が回転駆動される際にワイヤ14に生じた弛みによってこのワイヤ14に衝撃的な荷重が加わり、ワイヤ14が損傷するということがある。
【0071】
ところで、搬送装置の運転が上述したように繰り返されることでワイヤ14に弛みが生じると、テンションプーリ15に加わるワイヤ14の張力が減少する。そのため、上記テンションプーリ15が設けられた揺動レバー31が圧縮ばね41の復元力によって図4にRで示す時計方向に揺動することになる。
【0072】
上記揺動レバー31が時計方向に揺動すると、この揺動レバー31に設けられたアクチュエータ53が可動体23に設けられたフォトセンサ54に向かう方向に移動する。そして、上記揺動レバー31の揺動角度が所定以上になると、上記アクチュエータ53の先端がフォトセンサ54のU字状の部分に入り込み、オン状態にあった上記フォトセンサ54をオフにする。
【0073】
フォトセンサ54がオフになると、そのことを表示警報装置52が表示すると同時に警報が出力されて作業者に知らせることになる。
【0074】
その場合、作業者は搬送装置の運転が作業者によって手動で、或いは表示警報装置52によって自動で停止された後、第2のテンション調整手段を構成するボルト27をロックした第1、第2のロックナット29a,29bを緩め、上記ボルト27をねじ込んで可動体23を矢印Xで示す方向と同方向である、引張り方向に移動させる。
【0075】
可動体23を引張り方向に移動させると、弛んだワイヤ14が上記テンションプーリ15によって引張られるから、ワイヤ14に加わる張力が増大する。それによって、垂直状態よりも時計方向に揺動した揺動レバー31を垂直方向、つまり反時計方向に揺動させることができる。
【0076】
上記揺動レバー31を反時計方向に揺動させてほぼ垂直状態に戻せば、上記ワイヤ14にはたるみが生じる前と同じ大きさの張力を付与することができる。なお、揺動レバー31を反時計方向に揺動させると、上記アクチュエータ53の先端がフォトセンサ54のU字状の部分から外れてこのフォトセンサ54がオフの状態からオンになる。
【0077】
したがって、フォトセンサ54がオンになってそのことが表示警報装置52に表示されたとき、上記揺動レバー31が垂直になったと判断すればよい。つまり、作業者の熟練度に頼らずにワイヤ14の張力を一定に設定することができる。
【0078】
以上のように、ワイヤ駆動装置1のワイヤ14に弛みが生じると、その弛みによって揺動レバー31が揺動するとともに、そのことがフォトセンサ54によって検出されることになる。
【0079】
そのため、ワイヤ14に弛みが生じたことを作業者は直ちに知ることができるばかりか、上記ワイヤ14の走行方向に沿って位置決め調整可能な可動体23を移動させることで、この可動体23に設けられた揺動レバー31を上記ワイヤ14に弛みが生じる前の状態である、ほぼ垂直な状態に戻すことができる。
【0080】
つまり、ワイヤ14に弛みが生じたならば、そのたるみを除去するとともに、圧縮ばね41を圧縮させることで生じた復元力に対応する張力を上記ワイヤ14に加えることができるから、上記ワイヤ14を常に一定の張力である、圧縮ばね41の復元力に相当する張力が加わった状態で走行させて基板Wを搬送する第1、第2の搬送体6,8を精密に位置決めすることができる。
【0081】
したがって、上記第1、第2の搬送体6,8による基板Wの搬送位置決めを精度よく行うことができるばかりか、ワイヤ14が弛んだ状態で駆動されることで、駆動開始時などにワイヤ14に衝撃的な荷重を加えてワイヤ14を損傷させるということも防止することができる。
【0082】
また、上記実施の形態では揺動レバー31を第1の支軸32を中心に揺動できる構成とし、揺動レバー31の上部(先端部)に荷重(復元力)を付加する圧縮ばね41を設け、上記揺動レバー31の中途部にテンションプーリ15が取付けられた第2の支軸30を設けてワイヤ14にテンションを付加できるようにした。
【0083】
そのため、圧縮ばね41の荷重はワイヤ14にテンション力として伝達されるが、このとき第1の支軸32から第2の支持体35の支持孔35aまでの距離と、第1の支軸32から第2の支軸30までの距離である、レバー比に応じて圧縮ばね41の荷重を増加させることができる。
【0084】
したがって、圧縮ばね41の荷重が小さくても、上記レバー比に応じてテンション力を大きくすることができるから、小さな圧縮ばね41であっても、所望するテンション力とすることができるため、装置の小型化やコストダウンを図ることができる。
【0085】
なお、上記実施の形態において、搬送する基板の品種の変更により基板の質量が変わった場合、第1のテンション調整手段によってワイヤに加わる荷重をその品種にあった荷重に変えることができる。
【0086】
また、第1の検出センサとしてのロードセルは、ワイヤに付加される荷重を測定するために用いることで説明したが、ワイヤが伸びることで圧縮ばねが復元方向に伸びれば、上記ロードセルに加わる荷重が小さくなるから、この荷重の変化によってワイヤが伸びたことを検知することもできる。
【0087】
また、ワイヤにテンションを付加するテンションロッドがワイヤとともに移動しないため、ワイヤを駆動する駆動源に余計な負荷が加わるのを防止することができる。そのため、ワイヤによって駆動される搬送体を高精度に位置決めすることができるばかりか、上記搬送体の移動速度を向上させることも可能となる。
【符号の説明】
【0088】
1…ワイヤ駆動装置、6…第1の搬送体、8…第2の搬送体、10…吸着パッド(吸着部)、12…駆動プーリ、13…駆動源、14…ワイヤ、15…テンションプーリ、21…テンションユニット、22…固定体、23…可動体、27…ボルト(第1のテンション調整手段)、31…揺動レバー、32…第1の支軸、37…テンションロッド、41…圧縮ばね(ばね体)、42…ナット(第2のテンション調整手段)、46…第1の加圧体(ばね力伝達手段)、49…第2の加圧体(ばね力伝達手段)、51…ロードセル(第1の検出センサ)、54…フォトセンサ(第2の検出センサ)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動プーリとテンションプーリとにワイヤを掛け渡し、上記駆動プーリを回転駆動して上記ワイヤを走行させるワイヤ駆動装置であって、
上記ワイヤの走行方向に沿って位置決め調整可能に設けられた可動体を有するテンションユニットと、
上記可動体に下端が揺動可能に枢支され中途部に上記テンションプーリが回転可能に設けられた揺動レバーと、
上記可動体に上記ワイヤの走行方向に沿って移動可能に設けられ先端部が上記揺動レバーの上端部に揺動可能かつ軸方向に移動可能に連結されたテンションロッドと、
このテンションロッドの後端部に上記可動体と上記テンションロッドとに作用するよう設けられたばね体と、
上記ばね体を圧縮させて上記テンションロッドに加わる上記ばね体の復元力を設定する第1のテンション調整手段と、
この第1のテンション調整手段によって上記テンションロッドに上記ばね体の復元力を作用させたときにこの復元力に対応する力を上記揺動レバーの上端部に伝達するばね力伝達手段と、
上記揺動レバーに設けられた上記テンションプーリによって上記ばね力伝達手段を介して上記圧縮ばねの復元力が付与されて張設された上記ワイヤに弛みが生じて上記揺動レバーが上記ワイヤの弛みに応じて揺動したときに、上記可動体を上記ワイヤの走行方向に沿って位置決め調整して上記揺動レバーを上記ワイヤの弛みが除去される方向に揺動させる第2のテンション調整手段と
を具備したことを特徴とするワイヤ駆動装置。
【請求項2】
上記第1のテンション調整手段によって上記ばね体を圧縮させて上記ワイヤに付与する張力となる上記テンションロッドに加わる上記ばね体の復元力を設定するとき、上記ばね体に生じる圧縮力を検出する第1の検出手段が上記ばね力伝達手段に設けられていることを特徴とする請求項1記載のワイヤ駆動装置。
【請求項3】
上記ばね力伝達手段は、上記揺動アームの上端部に一体的に設けられた第1の加圧体と、上記テンションロッドの先端に一体的に設けられ上記第1の加圧体よりも上記テンションロッドの軸方向の先端側に位置する第2の加圧体を有し、上記第1の検出手段は上記第1の加圧体と上記第2の加圧体との間に設けられていることを特徴とする請求項1記載のワイヤ駆動装置。
【請求項4】
上記ワイヤに弛みが生じて上記揺動レバーが揺動したときにその揺動を検出する第2の検出手段を有することを特徴とする請求項1記載のワイヤ駆動装置。
【請求項5】
上記可動体には支持孔を有する支持体が揺動可能に取付けられ、上記支持孔に上記テンションロッドの中途部が軸方向に移動可能に支持されていて、
上記テンションロッドの上記支持体の後端側に上記ばね体を支持する一対のばね受け体が上記テンションロッドに対して移動可能に設けられていることを特徴とする請求項1記載のワイヤ駆動装置。
【請求項6】
基板の上面を吸着する吸着部を有する搬送体をワイヤ駆動装置によって駆動する基板の搬送装置であって、
上記ワイヤ駆動装置は請求項1に記載された構成であることを特徴とする基板の搬送装置。
【請求項7】
上記ワイヤ駆動装置のワイヤには1つの上記搬送体が連結され、この1つの搬送体には少なくとも1つの他の搬送体が連結されていて、上記ワイヤ駆動装置は複数の搬送体を同時に同じ方向に駆動する構成であることを特徴とする請求項5記載の基板の搬送装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−247030(P2012−247030A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120698(P2011−120698)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000002428)芝浦メカトロニクス株式会社 (907)
【Fターム(参考)】