説明

ワサビの検出方法

【課題】ワサビを高感度に検出する方法を提供する。
【解決手段】ワサビのミロシナーゼに共通な配列を同定し、その塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むプライマーセット又はプローブを作成した。前記プライマーを用い、ミロシナーゼの遺伝子を検出することにより、ワサビの高感度な検出方法を確立した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワサビ(wasabi)の検出用プライマー及びプローブ、並びにそれらを用いたワサビの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワサビは、主にその根茎をすりおろして刺身、すし、そばなどの薬味として利用されている。ワサビが栽培されるようになったのは、約400年前くらいであり、食味や収量のよい品種を得るための品種改良が行われてきた。しかしながら、ワサビは他殖性が強いため、遺伝的な純度を高めると生育や収量が悪くなる傾向があり、経験的に純系分離による育種は困難を伴うと考えられていた(非特許文献1)。そのため、ワサビの実用的品種はある程度雑種性を保つ必要があり、遺伝的には不均一であると考えられている。このワサビの品種は、葉柄色、根茎の太さ及び形状、及び分けつの多少、更に、すりおろしたときの辛味、香り、及び粘り等の特徴により分類されている。例えば、一般に「だるま」と呼ばれている品種の1つである「ふじだるま」は葉柄が太く緑色を呈し、葉は大きく心臓型、草姿は旺盛、分けつは中程度である。一方、和歌山原産の形質の異なる7〜8種の混合集団から選抜されたと言われる「真妻」は、一般的に葉柄が紫色を呈し、葉数は多いが草丈は低く、分けつは少ない。草姿は全体的に小柄な印象を受ける品種で、収穫までに1年半から2年かかる。このようにワサビは品種によって、外見が非常に異なっており、耐暑性や耐寒性などの性質も品種により異なっている。更に、同じ品種であっても、各産地において長年独自に繁殖を繰り返している過程で、その地方及びその栽培されている沢ごとに、環境に適した個体選抜が行なわれてきたため、栄養要求性の異なる様々な系統があると考えられている。このようなワサビについての遺伝的な解析については、数個の遺伝子の報告があるが、品種や系統ごとの遺伝子の解析については、ほとんど研究されていない。
最近、ワサビからミロシナーゼのcDNAが分離された(GeneBank、Accession No.AB194903)。ミロシナーゼは西洋ナタネ、ホワイトマスタード、ダイコン、カラシナ、シロイヌナズナなどのアブラナ科の植物に存在し、それぞれ異なるミロシナーゼをもっており、cDNAの解析からMA、MB、MC、及びTGGの4つのサブタイプに分けることができる。例えば、西洋ナタネは、MA、MB、及びMCの3種類のミロシナーゼの遺伝子をもっているおり、MBはすべての生活環で発現しているが、MA及びMCは種子でわずかに発現していることが報告されている。今まで分離されたミロシナーゼ遺伝子の多くはMBに属するが、例えばハツカダイコンには、MBタイプのミロシナーゼの中にも、RMB1とRMB2の2種類のMBが存在することが報告されており、それらのアミノ酸レベルでの相同性は93%である(非特許文献2)。このようにミロシナーゼ遺伝子は、種間で多様性があり、同じ種でも何種類かのミロシナーゼ遺伝子をもっている。
一方、市販されている加工ワサビ製品は、ワサビ以外の辛み成分として、からしやワサビダイコン(セイヨウワサビ:horseradish)を含んでいるものも多い。加工食品は、農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)により、原材料の表示が義務づけられているが、加工ワサビ製品中のワサビの含有を確認するために、ワサビを高感度に検出する方法の開発が望まれている。加工ワサビ製品中のワサビの配合比率を分析する方法として、ELISA法によって、ワサビタンパク質を分析する方法が報告されている(非特許文献2)が、十分な感度を得られていなかった。
【非特許文献1】足立昭三著、「ワサビ栽培」、第1版、秀潤社、1987年8月1日、p.38−39
【非特許文献2】「プラント・アンド・セル・フィジオロジー(Plant & Cell Physiology」(英国)2000年、第41巻、第10号、p.1102−1109
【非特許文献3】永井雅、他5名「ELISAによる加工わさび製品中の本わさび配合比率の分析」、日本農芸化学会2002年度大会(仙台)講演要旨集、p.91
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者らは、高感度なワサビの検出方法を開発するために、鋭意研究を重ねた結果、形態やその性質の異なるワサビの2品種からミロシナーゼのcDNAを単離し、塩基配列を解析した。その結果、この2品種から得られたワサビのミロシナーゼをコードする塩基配列は、クローン間で若干の塩基の置換は見られたが、予想に反して高い相同性を示し、ワサビは同一の型のミロシナーゼを有しており、複数の型は存在しないことがわかった。更に、本発明者らは、この2品種間で保存されているミロシナーゼをコードしている塩基配列に基づいてプライマーを作成し、そのプライマーを用いて、多くの品種のワサビからミロシナーゼ遺伝子の検出を行なったところ、驚くべきことに、検査したすべての品種でワサビのミロシナーゼ遺伝子を特異的に検出することが可能であり、共通のミロシナーゼ遺伝子がワサビの品種間で保存されていることを見出した。
本発明はこのような知見に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
従って、本発明は、(A)(1a)配列番号1で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(1a);(1b)配列番号1で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(1b);(2a)配列番号2で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(2a);(2b)配列番号2で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(2b);(3a)配列番号3で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(3a);及び
(3b)配列番号3で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(3b);からなる群から選択される第1プライマーと、(B)(4a)配列番号6で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(4a);
(4b)配列番号6で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(4b);(5a)配列番号7で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(5a);(5b)配列番号7で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(5b);(6a)配列番号8で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(6a);及び(6b)配列番号8で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(6b);からなる群から選択される第2プライマーとの組み合わせからなり、前記第1プライマーが、前記DNAプライマー(1a)又は前記DNAプライマー(1b)である場合には、前記第2プライマーは、前記DNAプライマー(4a)、前記DNAプライマー(4b)、前記DNAプライマー(5a)、前記DNAプライマー(5b)、前記DNAプライマー(6a)、又は前記DNAプライマー(6b)であり、前記第1プライマーが、前記DNAプライマー(2a)又は前記DNAプライマー(2b)である場合には、前記第2プライマーは、前記DNAプライマー(5a)、前記DNAプライマー(5b)、前記DNAプライマー(6a)、又は前記DNAプライマー(6b)であり、そして、前記第1プライマーが、前記DNAプライマー(3a)又は前記DNAプライマー(3b)である場合には、前記第2プライマーは、前記DNAプライマー(6a)、又は前記DNAプライマー(6b)であることを特徴とする、ワサビの検出用プライマーセットに関する。
本発明によるワサビの検出用プライマーセットの好ましい態様においては、前記第1プライマーが、(A)配列番号2で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー、又は配列番号2で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマーであり、前記第2プライマーが、(B)配列番号8で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー、又は配列番号8で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマーであり、特には、前記第1プライマーが、配列番号12で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであり、前記第2プライマーが、配列番号13で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである。
また、本発明は、前記プライマーセット、被検試料及びDNAポリメラーゼを含む混合液を用いてDNA増幅工程を行い、得られた反応液のDNA検査工程を行うことを特徴とする、ワサビの検出方法に関する。
【0005】
また、本発明は、(A)配列番号1〜8で表される塩基配列のいずれか1つの塩基配列において、連続する少なくとも10塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分、又は(B)前記配列番号1〜8で表される塩基配列のいずれか1つの塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも10ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分、を含むオリゴヌクレオチドに標識を担持することを特徴とする、ワサビの検出用プローブに関する。
更に、本発明は前記プローブと被検試料を接触させ、前記標識からの信号を検出することを特徴とする、ワサビの検出方法に関する。
本明細書では、プラス鎖のDNAに対するプライマーであるセンスプライマーを第1プライマーと称し、マイナス鎖のDNAに対するプライマーであるアンチセンスプライマーを第2プライマーと称することがある。
【発明の効果】
【0006】
本発明のプローブは、ワサビのmRNA及びゲノムDNAに特異的にハイブリダイズし、他のアブラナ科又はアブラナ科以外の植物のmRNA及びゲノムDNAにはハイブリダイズしないため、本発明のプローブを用いた検出方法により、ワサビのゲノムDNA及びmRNAを特異的に検出することが可能である。また、本発明のプライマーセットもワサビのcDNAやゲノムDNAに特異的にハイブリダイズするため、ポリメレース重合反応(Polymerase Chain Reaction:以下、PCRと称する)法により、ワサビのcDNAやゲノムDNAを特異的に検出することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明者は、ミロシナーゼのcDNAの塩基配列の一部が、ワサビの品種間で保存されていることを見出した。その部分配列が配列番号14に表している塩基配列である。本発明者は、「真妻」から6クローン及び「ふじだるま」から8クローンの塩基配列を決定した。ふじだるまから得られた1クローンでは、配列番号14の250番から258番の連続するAのいずれかのAの欠失が見られ、他の1クローンでは250番から258番のAが連続する部分にAAA(アデニン三塩基)の挿入(インサーション)が見られた。また各クローン間で若干の塩基の置換は存在したが、驚くべきことに共通の塩基配列が保存されており、ワサビのミロシナーゼをコードする遺伝子は1つの型である可能性が示唆された。配列番号14で表される塩基配列は14クローンの共通の配列を示し、置換のある塩基は混合塩基で示している。本発明者は、この塩基配列の内、プライマーやプローブとして特異的に使用することができる領域として、ワサビの品種間では保存されているが、他のアブラナ科植物には保存されていない領域が4箇所存在することを見出した。これらの4箇所の領域の塩基配列とその相補鎖の塩基配列を示すと、以下の通りである。
【0009】
WAY1−S〔配列番号1〕:AACTAAAACA ATAGYTCCTC CGGAAMATCA
WAY1−AS(WAY1−Sの相補鎖)〔配列番号5〕:TGATKTTCCG GAGGARCTAT TGTTTTAGTT
WAY2−S〔配列番号2〕:TGYTTGCGAAA GAAGACGACC CAAAAAAAA
WAY2−AS(WAY2−Sの相補鎖)〔配列番号6〕:TTTTTTTTG GGTCGTCTTC TTTCGCAARCA
WAY3−S〔配列番号3〕:GGATCACTTC AGAASAAGAT ACTTTAACCC
WAY3−AS(WAY3−Sの相補鎖)〔配列番号7〕:GGGTTAAAGT ATCTTSTTCT GAAGTGATCC
WAY4−S〔配列番号4〕:TTAACYGGAM WGACSTCACT GATAGAAACC
WAY4−AS(WAY4−Sの相補鎖)〔配列番号8〕:GGTTTCTATC AGTGASGTCW KTCCRGTTAA
【0010】
前記塩基配列の記載で、Yはチミン又はシトシンを示し、Mはアデニン又はシトシンを示し、Kはグアニン又はチミンを示し、Rはグアニン又はアデニンを示し、Sはグアニン又はシトシンを示し、Wはアデニン又はチミンを示す。これらの塩基配列から本発明のプライマー及びプローブを作成する場合、混合塩基を含むオリゴヌクレオチドを用いることにより、広い品種のワサビを検出することが可能となり、検出感度や検出率が上昇すると考えられる。
【0011】
前記WAY1−Sの塩基配列は、配列番号14の塩基配列において、第130〜159番目の塩基配列に相当する。同様に、前記WAY2−Sの塩基配列は、配列番号14の塩基配列において、第228〜257番目の塩基配列に相当し、前記WAY3−Sの塩基配列は、配列番号14の塩基配列において、第295〜324番目の塩基配列に相当し、前記WAY4−Sの塩基配列は、配列番号14の塩基配列において、第549〜578番目の塩基配列に相当する。
【0012】
本発明のプライマーセットは、ワサビのミロシナーゼをコードするゲノムDNAやmRNAから合成されたcDNAをPCR法により、特異的に検出するためのプライマーのセットであり、センスプライマー(フォワードプライマー)及びアンチセンスプライマー(リバースプライマー)からなる一対のプライマーのセットである。
【0013】
本発明のプライマーセットの第1プライマーは、
(1a)配列番号1で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(1a);
(1b)配列番号1で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(1b);
(2a)配列番号2で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(2a);
(2b)配列番号2で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(2b);
(3a)配列番号3で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(3a);及び
(3b)配列番号3で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(3b);
からなる群から選択されるDNAプライマーである。
また、第2プライマーは、
(4a)配列番号6で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(4a);
(4b)配列番号6で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(4b);
(5a)配列番号7で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(5a);
(5b)配列番号7で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(5b);
(6a)配列番号8で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(6a);及び
(6b)配列番号8で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(6b);
からなる群から選択されるDNAプライマーである。
【0014】
本発明のプライマーセットの第1プライマーとして用いるプライマー(1a)は、WAY1−S領域(30塩基)に含まれる連続する15塩基又はそれ以上を含む。同様に、第1プライマーとして用いるプライマー(2a)は、WAY2−S領域(30塩基)に含まれる連続する15塩基又はそれ以上を含み、プライマー(3a)は、WAY3−S領域(30塩基)に含まれる連続する15塩基又はそれ以上を含む。これらの第1プライマーは、15〜35塩基を含むことができる。15塩基未満の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分しか含まない場合は、プライマーとハイブリダイズするDNAとの特異性が低下し、プライマーとして有用でないからである。一方、35塩基より多いと、ワサビ以外のミロシナーゼの遺伝子とハイブリダイズすることがある。
【0015】
プライマー(1a)においては、WAY1−S領域に由来する連続する少なくとも15塩基の塩基配列以外に、5’側及び/又は3’側に任意の塩基配列(例えば、WAY1−S領域に由来しない塩基配列)を含むことができる。例えば、プライマー(1a)の3’末端側は、WAY1−S領域に由来する連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるか、あるいは、WAY1−S領域の3’末端に隣接する配列番号14の塩基配列の1〜5塩基を含むことができる。
【0016】
同様に、プライマー(2a)及びプライマー(3a)は、それぞれ、WAY2−S領域及びWAY3−S領域に由来する連続する少なくとも15塩基の塩基配列以外に、5’側及び/又は3’側に任意の塩基配列(例えば、WAY2−S領域及びWAY3−S領域に由来しない塩基配列)を含むことができる。
【0017】
本発明のプライマーセットの第1プライマーとしては、前記のプライマー(1a)、プライマー(2a)、及びプライマー(3a)だけではなく、それらの変異体に相当する前記プライマー(1b)、前記プライマー(2b)、及び前記プライマー(3b)を用いることができる。これらのプライマー(1b)、プライマー(2b)、及びプライマー(3b)は、それぞれの配列番号で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする少なくとも15ヌクレオチド、より好ましくは20ヌクレオチドの部分を含んでいる。15ヌクレオチド未満のオリゴヌクレオチド部分しか含まない場合は、相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズしない可能性が高く、プライマーとして十分機能しなくなるからである。
【0018】
本発明のプライマーセットの第2プライマーとして用いるプライマー(4a)は、WAY2−AS領域(30塩基)に含まれる連続する15塩基又はそれ以上を含む。同様に、第2プライマーとして用いるプライマー(5a)は、WAY3−AS領域(30塩基)に含まれる連続する15塩基又はそれ以上を含み、プライマー(6a)は、WAY4−AS領域(30塩基)に含まれる連続する15塩基又はそれ以上を含む。これらの第1プライマーは、15〜35塩基を含むことができる。15塩基未満の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分しか含まない場合は、プライマーとハイブリダイズするDNAとの特異性が低下し、プライマーとして有用でないからである。一方、35塩基より多いと、ワサビ以外のミロシナーゼの遺伝子とハイブリダイズすることがあるからである。
【0019】
プライマー(4a)においては、WAY2−AS領域に由来する連続する少なくとも15塩基の塩基配列以外に、5’側及び/又は3’側に任意の塩基配列(例えば、WAY2−AS領域に由来しない塩基配列)を含むことができる。例えば、プライマー(4a)の3’末端側は、WAY2−AS領域に由来する連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるか、あるいは、WAY2−AS領域の3’末端に隣接する配列番号14の塩基配列の1〜5塩基を含むことができる。
【0020】
同様に、プライマー(5a)及びプライマー(6a)は、それぞれ、WAY3−AS領域及びWAY4−AS領域に由来する連続する少なくとも15塩基の塩基配列以外に、5’側及び/又は3’側に任意の塩基配列(例えば、WAY3−AS領域及びWAY4−AS領域に由来しない塩基配列)を含むことができる。
【0021】
本発明のプライマーセットの第2プライマーとしては、前記のプライマー(4a)、プライマー(5a)、及びプライマー(6a)だけではなく、それらの変異体に相当する前記プライマー(4b)、前記プライマー(5b)、及び前記プライマー(6b)を用いることができる。これらのプライマー(4b)、プライマー(5b)、及びプライマー(6b)は、それぞれの配列番号で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする少なくとも15ヌクレオチド、より好ましくは20ヌクレオチドの部分を含んでいる。15ヌクレオチド未満のオリゴヌクレオチド部分しか含まない場合は、相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズしない可能性が高く、プライマーとして十分機能しなくなるからである。
【0022】
本発明のプライマーセットの第1プライマー及び各第2プライマーの長さは、特に限定されないが、それぞれ15mer〜35merであること好ましく、より好ましくは20mer〜30merである。
【0023】
また、配列番号1〜8に記載された塩基配列には、Y、M、K、R、S、及びWの混合塩基が含まれている。これは、ワサビのミロシナーゼをコードする遺伝子に置換が存在することを示しているが、本発明のプライマーは、これらの混合塩基を含むディジェネレイテッドプライマーでもよいし、いずれかの塩基のみを含む単一の配列からなるプライマーでもよい。
【0024】
前記「ストリンジェントな条件」としては、特に限定されないが、例えば、6×SSC、0.5%SDS、5×デンハルト、0.01%変性サケ精子核酸を含む溶液中、〔Tm−25℃〕の温度で一晩保温する条件等が挙げられる。本発明のプライマーセットのDNAプライマーのTmは、60〜68、好ましくは、65〜68であることが望ましい。なお、前記Tmを計算する方法は、いくつかの方法が提案されているが、18ヌクレオチド以上の鎖長である場合、例えば、下記の式(I):
Tm=81.5−16.6log10[Na]+0.41(%G+C)−(600/N) (I)
(式中、Nはオリゴヌクレオチドプローブの鎖長であり、%G+Cはオリゴヌクレオチドプローブプライマー中のグアニン及びシトシン残基の含有量である)により求められる。この式で[Na]=50mMで計算すると、16.6log10[Na]は、およそ21.597098となりTm値を計算することができる。また、鎖長が18ヌクレオチドより短い場合、Tmは、例えば、A+T(アデニン+チミン)残基の含有量と2℃との積と、G+C残基の含有量と4℃との積との和〔(A+T)×2+(G+C)×4〕により推定することができる。
【0025】
前記第1プライマー及び第2プライマーは公知の任意の態様で修飾(例えばビオチン化又は発光物質によるラベル化)されていてもよい。例えば、各塩基がビオチン化又は発光物質により標識されていてもよい。また、5’末端が公知の任意の態様で修飾されていてもよい。例えば、標識したプライマーを用いることにより、TaqMan法などのリアルタイムPCRによる遺伝子の定量を行なうことが可能となる。本発明による前記の第1プライマー及び第2プライマーは、通常のDNA自動合成機(例えばアプライドバイオシステム社製)を用いて、公知のDNA合成法(例えばホスホアミダイド法)によって調製することができる。
【0026】
前記第1プライマーと第2プライマーの組み合わせは、ワサビのミロシナーゼを特異的に検出可能な組み合わせであれば、特に限定されない。例えば、第1プライマーとして前記プライマー(1a)及び/又はプライマー(1b)を選択した場合は、第2プライマーとしてプライマー(4a)及び/又はプライマー(4b)、プライマー(5a)及び/又はプライマー(5b)、又はプライマー(6a)及び/又はプライマー(6b)を使用することができる。第1プライマーとして前記プライマー(2a)及び/又はプライマー(2b)を選択した場合は、第2プライマーとしてプライマー(5a)及び/又はプライマー(5b)、又はプライマー(6a)及び/又はプライマー(6b)を使用することができる。第1プライマーとして前記プライマー(3a)及び/又はプライマー(3b)を選択した場合は、第2プライマーとしてプライマー(6a)及び/又はプライマー(6b)を使用することができる。好まししいプライマーの組み合わせは、第1プライマーがプライマー(2a)及び/又はプライマー(2b)であり、第2プライマーがプライマー(6a)及び/又はプライマー(6b)の組み合わせである。更に、好ましくは第1プライマーが、配列番号12で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであり、第2プライマーが配列番号13で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである。また、第1プライマー及び第2プライマーは、1種のプライマーを用いてもよいし、2種以上のプライマー、例えば、プライマー(2a)及びプライマー(2b)を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本発明のプローブは、ワサビのミロシナーゼをコードするゲノムDNA、mRNA又はmRNAから合成されたcDNAをハイブリダイズの原理を用いた方法で検出するためのオリゴヌクレオチドである。本発明のプローブには、PCRに用いる前記第1プライマー及び第2プライマーも含まれる。更に、DNAプローブのみではなくRNAプローブも含まれる。
【0028】
本発明のプローブは、(A)配列番号1〜8で表される塩基配列のいずれか1つの塩基配列において、連続する少なくとも10塩基、より好ましくは15塩基、最も好ましくは20塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むオリゴヌクレオチド(以下、Aプローブと称する)であるか、又は(B)前記配列番号1〜8で表される塩基配列のいずれか1つの塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも10ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分、より好ましくは15ヌクレオチド部分、最も好ましくは20ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むオリゴヌクレオチド(以下、Bプローブと称する)である。
【0029】
本発明のAプローブは、10塩基未満の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分しか含まない場合、ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションができず、特異性が低くなるためプローブとして有用でない。それぞれのプローブは、少なくとも10塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むため、例えば、その配列番号で表される塩基配列から選択される任意の連続する10〜30塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなることができる。更に、それぞれのプローブは、それぞれの配列番号で表される塩基配列以外に5’側及び/又は3’側に任意の塩基配列(例えば、WAY1−S領域に由来しない塩基配列)が付加されたオリゴヌクレオチドであってもよい。付加される塩基配列は、例えば、タグとして検出用オリゴヌクレオチドがハイブリダイズする塩基配列でもよい。また、プローブに含まれるオリゴヌクレオチド分の5’末端が、それぞれの配列番号で表された塩基配列の5’末端に位置する場合、又はオリゴヌクレオチド分の3’末端が、それぞれの配列番号で表された塩基配列の3’末端に位置する場合は、それぞれの配列番号で表された塩基配列に隣接する配列番号14で表される塩基配列が付加されたものでもよい。しかしながら、それぞれの配列番号で表される塩基配列以外のミロシナーゼをコードする塩基配列が付加される場合は、塩基配列の長さは5mer以下であることが好ましい。5merより長い場合は、ワサビ以外のアブラナ科のミロシナーゼと相同性の高い塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むことになるため、ワサビ以外のミロシナーゼをコードするDNAとハイブリダイズする可能性が高くなり、特異性が低下するためである。また、配列番号1〜8に記載された塩基配列には、Y、M、K、R、S、及びWの混合塩基が含まれている。これは、ワサビのミロシナーゼをコードする遺伝子に置換が存在することを示しているが、本発明のプローブは、これらの混合塩基を含むプローブの混合物でもよいし、いずれかの塩基のみを含む単一のプローブでもよい。
【0030】
本発明のBプローブは、それぞれの配列番号で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする少なくとも10ヌクレオチドを含む。10ヌクレオチド未満のオリゴヌクレオチド部分しか含まない場合、相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズしない可能性が高く、プローブとして機能しなくなるからである。
【0031】
本発明のプローブの長さの上限は特に制限されないが、35mer以下、より好ましくは30mer以下の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドが好ましい。35merを超える場合は、ワサビのミロシナーゼに特異的でない塩基配列を含むことになり、プローブとしての特異性が低くなるからである。
【0032】
前記「ストリンジェントな条件」としては、特に限定されないが、例えば、6×SSC、0.5%SDS、5×デンハルト、0.01%変性サケ精子核酸を含む溶液中、〔Tm−25℃〕の温度で一晩保温する条件等が挙げられる。本発明のプローブのTmは、300〜68、好ましくは、45〜68、より好ましくは、60〜68であることが望ましい。
【0033】
本発明のプローブの標識は特に限定されず、公知の方法で標識することができる。プローブの標識物質としては、従来公知の任意の物質、例えば32Pなどの放射性物質、好ましくは非放射性物質(酵素、蛍光色素、発光物質、ビオチン等)を用いることができる。この標識物質から信号を発生させ、更にその信号を測定する方法も、従来公知の任意の方法を用いる。
【0034】
本発明によるワサビの検出方法は、例えば、ワサビの植物体の品種を同定する方法、及びワサビの植物体由来部分の存在の有無を検出する方法を意味する。ワサビ(学名Eutrema japonica)の品種としては、例えば、真妻、ふじだるま、もちだるま、半原(緑茎種)、半原(赤茎種)、三宝、加茂自交−13、高光、山崎だるま、豊科在来の一種、信州新町在来の一種、伊豆在来の一種を挙げることができる。
【0035】
ワサビの植物体由来部分の存在の有無を検出する方法は、例えば、ワサビの根茎をすりつぶした部分を含む加工食品、例えば、練りワサビや粉ワサビの原料にワサビが含まれているか否かを検出することができる。
【0036】
本発明のプライマーセット、被検試料及びDNAポリメラーゼを含む混合液を用いてDNA増幅工程を行い、得られた反応液のDNA検査工程を行うことを特徴とする、ワサビの検出方法(以下、プライマーセット検出方法と称することがある)によって、ワサビのcDNA及びゲノムDNAを検出することが可能である。
【0037】
本発明のプローブと被検試料を接触させ、プローブに担持した標識からの信号を検出することを特徴とするワサビの検出方法(以下、プローブ検出方法と称することがある)により、ワサビのmRNA、mRNAから合成したcDNA、及びゲノムDNAを検出することが可能である。
【0038】
本発明の前記プライマーセット検出方法及びプローブ検出方法で用いる「被検試料」は、ワサビのミロシナーゼをコードしている塩基配列からなる遺伝子を含有している可能性のあるものであれば特に限定されない。ここで遺伝子とは、特に限定されないが、ゲノムDNA、mRNA、又はmRNAから合成されたcDNA等を挙げることができる。そのため、具体的には「被検試料」はワサビの入っている可能性のある加工食品、例えば、ねりワサビ、粉ワサビなどがある。このような加工食品を液状にしたものや、加工食品から核酸を抽出した核酸溶液も含まれる。また、ワサビの品種を確認する場合は、植物体を構成する細胞を含む分散液や、細胞から抽出した核酸を含む溶液も被検試料となる。
【0039】
公知の方法によりDNAやRNAを抽出し、被検試料として用いることが可能である。例えばゲノムDNAを抽出する方法は、公知のDNA抽出法を適用することができ、たとえばフェノール抽出法、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)法、アルカリSDS法などが挙げられる。また、市販のゲノムDNA抽出キットを用いることも可能である。また、mRNAを抽出する場合も、公知の方法でRNAを抽出することが可能であり、例えば、塩酸グアニジンフェノールクロロホルム(AGPC)法やAGPC変法、或いはRNAが結合するカラムを用いた市販のRNA抽出用キットなどを用いることが可能である。
【0040】
mRNAは、プローブと直接ハイブリダイズさせて検出する場合は、mRNAのまま使用することが可能である。一方、プライマーセット、DNAポリメラーゼと被検試料を混合し、PCR法により検出する場合は、mRNAからcDNAを合成しなければならない。cDNA合成は、公知の方法を利用することが可能であり、例えば、モレキュラークローニング・ア・ラボラトリーマニュアル第3版[ザンブルーク(Sambrook)ら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual 3rd ed.,コールドスプリングハーバーラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)発行,(2001)]等に記載の逆転写酵素を用いる逆転写反応により実施できる。逆転写酵素としては、MMLVリバーストランスクリプターゼ又はAMVリバーストランスクリプターゼ等を用いることが可能である。cDNA合成に用いるプライマーは、ミロシナーゼに特異的なアンチセンスプライマー、例えば、前記第2プライマーを用いることも可能であるし、6mer〜9merのランダムプライマ−を用いてcDNAを合成することも可能である。このようにして得られたcDNAを用いて、PCR法によりミロシナーゼをコードする遺伝子配列を検出することができる。
【0041】
プライマーセットを用いる本発明のプライマーセット検出方法は、(1)DNA増幅工程と、(2)DNA検出工程とからなる。プライマーセット検出方法においては、最初にDNA増幅工程を行うことが好ましい。本発明のDNA増幅工程(1)では、PCR法を用いることができる。本発明のDNA増幅工程(1)では、第1プライマー及び第2プライマーとともに、DNAポリメラーゼ、特に耐熱性ポリメラーゼを用いて増幅サイクルを繰り返す。耐熱性DNAポリメラーゼとしては、特に95℃までの温度で活性を維持することができるDNAポリメラーゼ、例えば、市販のTaqポリメラーゼを用いることができる。本発明のDNA増幅工程では、前記のプライマーセット、DNAポリメラーゼ及び液体被検試料を含む混合液を用いる。第1プライマー、第2プライマー及びDNAポリメラーゼの使用量は、液体被検試料の種類によって変化するが、PCR法によるDNA増幅工程を実施することができる範囲で容易に決定することができる。この混合液は場合により、緩衝液(例えば、トリス塩酸緩衝液)、安定化剤(例えば、ゼラチン)、又は塩類(例えば、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム)を含有することができる。
【0042】
プライマーセット検出方法では、前記の混合液を用いてPCR法の増幅サイクルを実施する。増幅サイクルは、例えば(i)DNAの変性工程(約90℃〜95℃、約10秒〜2分間)、(ii)1本鎖DNAと第1プライマー及び第2プライマーとのアニーリング工程(約37℃〜70℃、約30秒〜3分間)、及び(iii)DNAポリメラーゼによるDNA合成工程(約65℃〜80℃、約30秒〜5分間)とからなる。
【0043】
DNA検査工程としては、ゲル電気泳動後、エチジウムブロマイド染色を利用する方法、電気泳動後にフィルターに移してサザンブロットハイブリッド法を行う方法、増幅したDNAをそのままフィルターにブロットしてドットブロットハイブリッド法を行う方法、又は、ジデオキシ法による塩基配列決定法などを用いることができる。ゲル電気泳動法を行う場合には、例えば、アガロースゲルを担体としたサブマリーン型電気泳動、又はアクリルアミドを用いたスラブ型電気泳動を使用し、分子量により目的のPCR産物を検出することができる。
【0044】
PCRを行った後に、サザンブロットハイブリッド法、ドットブロットハイブリッド法等でPCR産物を検出する場合には、プライマーに用いた以外のワサビのミロシナーゼをコードする塩基配列からなる非放射性プローブ(例えば、酵素標識プローブ、ビオチン化プローブ、ジゴキシゲニン化プローブ、又は、化学発光物質、蛍光物質で標識したプローブ)を用いることができる。
【0045】
本発明のプローブ検出法は、プローブと被検試料を接触させプローブからの信号を検出することにより、ワサビの検出を行う。公知の方法で抽出したDNAやRNAを被検試料として、ノザンブロットハイブリダイゼーションやサザンブロットハイブリダイゼーションを行うことにより、ミロシナーゼをコードするmRNAやDNAの存在を解析することができる。また本発明のプローブは、慣用のin situハイブリダイゼーションに用いることも可能である。
【0046】
本発明のプローブと、ワサビの植物体、及びその類縁種の染色体とのハイブリダイゼーション条件は、前記「ストリンジェントな条件」が挙げられ、例えば、6×SSC、0.5%SDS、5×デンハルト、0.01%変性サケ精子核酸を含む溶液中、〔Tm−25℃〕の温度で一晩保温する条件が挙げられる。
【0047】
また、前記ストリンジェントな条件下におけるハイブリダイゼーションにおいて、より精度を高める観点から、より低イオン強度、例えば、0.1×SSC、0.2×SSC等の条件及び/又はより高温、例えば、用いられる核酸のTm値の25℃低い温度、好ましくは、22℃低い温度、より好ましくは、20℃低い温度、具体的には、用いられる核酸のTm値により異なるが、60℃以上、好ましくは、62℃以上、より好ましくは、65℃以上等の条件下でのハイブリダイゼーションを行い、より厳しい洗浄条件、具体的には、低イオン強度の緩衝液、例えば、1×SSC、2×SSC等を使用し、より高い温度、例えば、用いられる核酸のTm値の40℃低い温度、より好ましくは、30℃低い温度、さらに好ましくは、25℃低い温度、具体的には、用いられる核酸のTm値により異なるが、30℃以上、37℃以上、42℃以上、45℃以上等の条件下での洗浄等を行うことができる。
【0048】
本発明のプライマーセット及びプローブを含むワサビを検出するための試薬及びキットを調製することも可能である。前記試薬やキットは、本発明のプライマーセット検出方法やプローブ検出方法により、ワサビを検出することが可能である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0050】
《実施例1:ワサビのミロシナーゼのゲノムDNAの検出》
(1)オリゴヌクレオチドプライマーの合成
合成DNA機モデル394 DNA/RNAシンセサイザー(アプライドバイオシステムズ社)を用いホスホアミダイト法により、
WAY1:CTAAAACAAT AGYTCCTCCG G(配列番号11)、
WAY2:TTGCGAAAGA AGACGACCCA A(配列番号12)、及び
WAY4:GGTTTCTATC AGTGASGTCW K(配列番号13)を合成した。
【0051】
(2)ゲノムDNAの抽出
ワサビの10品種の真妻、ふじだるま、もちだるま、半原(緑茎種)、半原(赤茎種)、三宝、加茂自交−13、高光、山崎だるま、豊科在来の一種、信州新町在来の一種、伊豆在来の一種、並びに他のアブラナ科又はアブラナ科以外の植物である西洋ワサビ赤芽、西洋ワサビ青芽、カイワレダイコン、ホウレンソウ、及びトウミョウからゲノムDNAを抽出した。具体的には、それぞれの植物体を、葉、茎、及び根茎に分離し、液体窒素で凍結し、−70℃に保存した。保存したサンプルを液体窒素中で粉砕し、Nucleon Phytopure Kit(Amersham Biosciences社)を用いて、キットのプロトコールに従って、ゲノムDNAを抽出した。得られたDNAは、滅菌蒸留水50μLに溶解した。
【0052】
(3)PCRによる増幅
ゲノムDNA溶解液10μL(1μg)に10×PCR緩衝液5μL、第1プライマー(100pmol/μL)0.2μL、及び第2プライマー(100pmol/μL)0.2μL、Gene Taq(ニッポンジーン社)0.5μLを加え滅菌蒸留水で50μLにした。第1プライマーとしてWAY1、第2プライマーとしてWAY4の組み合わせ(WAY1−WAY4プライマーセット)、及び第1プライマーとしてWAY2、第2プライマーとしてWAY4の組み合わせ(WAY2−WAY4プライマーセット)で反応液を作成した。この反応液を、TaKaRa PCR Thermal Cycler Dice Gradient TP600(TAKARA)にセットし、PCR反応を行った。反応のプロファイルはDNA変性94℃で2分保持し、DNA変性94℃で30秒、アニーリング40℃又は60℃で30秒、伸張反応72℃で1分のサイクルを30回繰り返した。30サイクル終了後72℃で1.5分間保持し、4℃に冷却した。
【0053】
(4)PCR産物の解析
PCR反応終了した溶液を1.5%アガロースゲルで電気泳動した。WAY1からWA3のプライマーに対応するゲノムDNAにイントロンが存在しない場合は、WAY1−WAY4プライマーセットによって447bpのサイズのPCR産物が、WAY2−WAY4プライマーセットによって349bpのサイズのPCR産物が増幅されるはずである。図2に示すように、WAY2−WAY4プライマーセットを用いた場合、アニーリング温度が40℃及び60℃のいずれのPCRプロファイルを用いた場合も、ワサビの10種類の品種から抽出したDNAから、予測される約350bpの位置にPCR産物を確認することができた。一方、西洋ワサビ赤芽、西洋ワサビ青芽、カイワレダイコン、ホウレンソウ、及びトウミョウから抽出したDNAを用いた場合は、350bpのPCR産物を確認することはできなかった。また、WAY1−WAY4プライマーセットを用いたPCRでは、ワサビの10種類の品種から抽出したゲノムDNAから、予測される447bpのPCR産物は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のプライマーセット及びプローブを用いたワサビの検出方法は、加工ワサビ食品にワサビの含有の有無を高感度に検出することが可能である。またワサビの品種の同定に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】PCRによる、ワサビ及び西洋ワサビ赤芽、西洋ワサビ青芽、カイワレダイコン、ホウレンソウ、及びトウミョウのゲノムDNAからミロシナーゼ遺伝子を検出したアガロース電気泳動像である。それぞれのレーンは、もちだるま(1)、半原(緑茎種)(2)、半原(赤茎種)(3)、三宝(4)、豊科在来の一種(5)、信州新町在来の一種(6)、加茂自交−13(7)、高光(8)、伊豆在来の一種(9)、山崎だるま(10)、西洋ワサビ赤芽(11)、西洋ワサビ青芽(12)、カイワレダイコン(13)、ホウレンソウ(14)、及びトウミョウ(15)を示す。AはWAY1とWAY3のプライマーの組み合わせ、BはWAY2とWAY3のプライマーの組み合わせを示し、40はアニーリング温度が40℃、60はアニーリング温度が60℃でPCRを行ったことを示す。MはDNAマーカー(All Purpose Hi−LoTM DNA Marker 50bp−10,000bp:株式会社アベテック)を表している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(1a)配列番号1で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(1a);
(1b)配列番号1で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(1b);
(2a)配列番号2で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(2a);
(2b)配列番号2で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(2b);
(3a)配列番号3で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(3a);及び
(3b)配列番号3で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(3b);
からなる群から選択される第1プライマーと、
(B)(4a)配列番号6で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(4a);
(4b)配列番号6で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(4b);
(5a)配列番号7で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(5a);
(5b)配列番号7で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(5b);
(6a)配列番号8で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(6a);及び
(6b)配列番号8で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー(6b);
からなる群から選択される第2プライマーとの組み合わせからなり、
前記第1プライマーが、前記DNAプライマー(1a)又は前記DNAプライマー(1b)である場合には、前記第2プライマーは、前記DNAプライマー(4a)、前記DNAプライマー(4b)、前記DNAプライマー(5a)、前記DNAプライマー(5b)、前記DNAプライマー(6a)、又は前記DNAプライマー(6b)であり、
前記第1プライマーが、前記DNAプライマー(2a)又は前記DNAプライマー(2b)である場合には、前記第2プライマーは、前記DNAプライマー(5a)、前記DNAプライマー(5b)、前記DNAプライマー(6a)、又は前記DNAプライマー(6b)であり、そして、
前記第1プライマーが、前記DNAプライマー(3a)又は前記DNAプライマー(3b)である場合には、前記第2プライマーは、前記DNAプライマー(6a)、又は前記DNAプライマー(6b)であることを特徴とする、ワサビの検出用プライマーセット。
【請求項2】
前記第1プライマーが、
(A)配列番号2で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー、又は配列番号2で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマーであり、
前記第2プライマーが、
(B)配列番号8で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマー、又は配列番号8で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分を含むDNAプライマーである、請求項1に記載のプライマーセット。
【請求項3】
前記第1プライマーが、配列番号12で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであり、前記第2プライマーが、配列番号13で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである、請求項1又は2に記載のプライマーセット。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のプライマーセット、被検試料及びDNAポリメラーゼを含む混合液を用いてDNA増幅工程を行い、得られた反応液のDNA検査工程を行うことを特徴とする、ワサビの検出方法。
【請求項5】
(A)配列番号1〜8で表される塩基配列のいずれか1つの塩基配列において、連続する少なくとも10塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分、又は
(B)前記配列番号1〜8で表される塩基配列のいずれか1つの塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも10ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分、を含むオリゴヌクレオチドに標識を担持することを特徴とする、ワサビの検出用プローブ。
【請求項6】
請求項5に記載のプローブと被検試料を接触させ、前記標識からの信号を検出することを特徴とする、ワサビの検出方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−209287(P2007−209287A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−34477(P2006−34477)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000116297)ヱスビー食品株式会社 (40)
【Fターム(参考)】