説明

ワークの位置決め方法と位置決め治具

【課題】内周に3個以上の凸部が周方向に間隔をあけて設けられているワークをセンタリングして高精度に位置決めすることができ、その位置決めを治具に対するワークの挿入性を高めて、かつワークが傷つかないようにして行えるようにすることを課題としている。
【解決手段】外周に径方向位置決め面2と逃げ部3を周方向に交互に配置して設けた柱状治具1を有する位置決め治具を使用し、ワーク6に設けられた歯などの凸部7が逃げ部3と対応して凸部7と柱状治具1との間に広い隙間が確保された位置で柱状治具1の外周にワーク6を挿入し、その後、ワーク6を凸部7が径方向位置決め面2の外周に嵌まるところまで回転させてワークを径方向位置決め面2で位置決めするようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内周や外周に歯などの凸部を有するワーク、例えば、内歯歯車や外歯歯車などをセンタリングされた位置に円滑に傷付けずに位置決めするためのワークの位置決め方法と位置決め治具に関する。
【背景技術】
【0002】
図7に示すように、外歯を有するインナーロータ11と内歯を有するアウターロータ12を偏心配置にして組み合わせた内接歯車ポンプのポンプロータ10は、ポンプの吐出量を安定させるために、インナーロータ11とアウターロータ12間のチップクリアランスg(歯先間隙間)を規定範囲内に納めることが要求される。そのチップクリアランスgは、アウターロータ12の精度に左右されるところが大きい。アウターロータ12はインナーロータ11に比べると製造過程で変形し易く、その変形によってチップクリアランスgが変動するからである。このため、歯数が偶数のアウターロータについては、全数の歯について対角位置にある歯の歯先間寸法(短径寸法)Dの良否を検査して管理することが行われている。
【0003】
その検査を効率良く、正確に行うために、本出願人は全ての対角位置の歯先間寸法の良否を同時に判別する検査方法を開発した。その検査方法では、アウターロータを柱状ゲージの外周に嵌め、ゲージに設けたエアー孔にエアーを流す。そのエアーを、ゲージの外周面とそれに対面したアウターロータの歯先との間の隙間から流出させてその流量を測定し、予め求めた隙間の大きさとエアー流量の関係と照らして歯先間寸法の良否を判断する。
【0004】
その方法を実施するときには、アウターロータを柱状ゲージの外周に嵌めて位置決めする必要があるが、検査精度を高めるためにゲージとアウターロータ間のクリアランスを可及的に小さくする(ほぼゼロにする)ので、ゲージに対するロータの挿入がし辛い。また、ロータが傾いた状態で挿入されたときにそのロータの内周面に擦り傷がついたり、エッジが傷ついたりする可能性もある。
【0005】
ここで、下記特許文献1、2は、鋼管とその鋼管に内挿する部品を溶接するときに用いる溶接用位置決め治具を開示している。特許文献1の位置決め治具は、下治具に中央ギヤとその中央ギヤで制御するカム機構を設けている。この位置決め治具は、前記下治具の小径部の外周に部品をセットし、その後、下治具を鋼管に挿入し、カム機構の複数のカムを同期して展開させて鋼管の内側に押し付ける。これによって下治具が鋼管の中心に位置決めされ、鋼管と下治具で支えた部品が同軸上に位置決めされる。
【0006】
また、特許文献2の位置決め治具は、特許文献1が採用したカム機構に代えて径方向に進退する拘束腕を設け、その拘束腕を下治具に設けた中央ギヤとラックとピニオンで駆動して鋼管の内側に押し付けるようにしており、この点のみが特許文献1の治具と異なるものになっている。
【0007】
ところが、特許文献1、2が開示している位置決め治具は、部品の心出し精度を高めようとすると下治具との間のクリアランスを小さくする必要があり、上述した挿入のし辛さの問題や挿入時の部品の傷つきの問題が発生する。
【0008】
一方、鋼管に対する下治具の心出しは、カム機構や類似の拘束腕を用いた機構を使用して行っており、その機構を用いれば挿入のし辛さや挿入時のワークの傷つきの問題を解消できるが、カム機構などを採用した治具は構造や操作が複雑になる。また、構造の複雑な機構は、その機構を構成する部品の加工精度が治具の性能に影響を及ぼし、位置決め精度を低下させる因子となる。
【特許文献1】特開平6−31488号公報
【特許文献2】特開平6−31489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
量産品のポンプロータなどについては、膨大な数の検査を行う必要があるので、治具に対するワークの挿入性をスムーズに行うことが望まれる。また、不良発生率を下げるために、ワークを傷つけずに位置決めすることが望まれる。さらに、上述したアウターロータの歯先間寸法の良否検査などでは、高精度の位置決めが望まれる。そこで、この発明は、その3つの要求に同時に応えることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、この発明においては、内周に3個以上の凸部が周方向に間隔をあけて設けられているワークについては、そのワークを、前記凸部が適合して嵌る径方向位置決め面と、前記凸部と前記径方向位置決め面との間より広い隙間をワークとの間に生じさせる逃げ部を外周に周方向に交互に設けた柱状治具の外側に、前記凸部が前記逃げ部と対応する位置で挿入し、その後、前記柱状治具とワークを前記凸部が前記径方向位置決め面の外周に嵌まるところまで相対回転させてワークを径方向位置決め面で位置決めするようにした。
【0011】
また、外周に3個以上の凸部が周方向に間隔をあけて設けられているワークについては、前記径方向位置決め面と前記逃げ部が内周に周方向に交互に設けられた筒状治具を用いてその筒状治具の内側に前記凸部が前記逃げ部と対応する位置で挿入し、その後、筒状治具とワークを前記凸部が前記径方向位置決め面の外周に嵌まるところまで相対回転させてワークを径方向位置決め面で位置決めするようにした。
【0012】
前者の方法で位置決めを行うときには、ワークの一面を支えるワーク支持部と、前記凸部の各々が嵌合する径方向位置決め面と、各凸部と前記径方向位置決め面との間より広い隙間をワークとの間にの間に生じさせる逃げ部を外周に周方向に交互に設けた柱状治具を有し、前記柱状治具が前記ワーク支持部のワーク支持面に対して垂直に設置され、この柱状治具の周囲に前記ワーク支持部が配置されている位置決め治具を使用する。
【0013】
また、後者の方法で位置決めを行うときには、前記柱状治具に代えて前記径方向位置決め面と前記逃げ部を内周に周方向に交互に設けた筒状治具を用い、その筒状治具がワーク支持部のワーク支持面に対して垂直に設置され、この筒状治具の内径側にワーク支持部が配置されている位置決め治具を使用する。
【0014】
この発明は、これらの位置決め治具も併せて提供する。なお、これらの位置決め治具には、径方向に位置決めされたワークを柱状治具や筒状治具に対して周方向に位置決めする周方向相対位置の位置決め部材を必要に応じてさらに設けることができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明の位置決め方法によれば、柱状治具の外周、或いは、筒状治具の内周にワークの凸部との間に隙間を生じさせる逃げ部を設け、ワークの凸部がその逃げ部と対応した位置でワークを柱状治具や筒状治具に挿入するので、治具との間に広い隙間がある状態でワークを治具に挿入することができる。そのために、挿入が簡単になり、ワークに擦り傷などが付くこともなくなる。
【0016】
また、ワーク挿入後にワークと治具を相対回転させると、ワークの凸部が柱状又は筒状治具の径方向位置決め面の位置に移動してワークが径方向に位置決めされる。このとき、ワークと治具との間の隙間が徐々に狭くなって凸部がセンタリングされ、前記治具の径方向位置決め面を形成した部位に嵌るので、径方向位置決め面とワークとの間の隙間を可及的に小さくしても位置決めを支障なく行うことができ、前記隙間を小さくすることで径方向位置決め面による位置決め精度を高めることも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の位置決め方法と位置決め治具の実施の形態を添付図面の図1〜図6に基づいて説明する。
【0018】
図1及び図2は、位置決め治具の一例の概要を表している。例示の位置決め治具は、内接歯車ポンプのアウターロータ(図2参照)をワーク6にしてセンタリングされたところに位置決めするものであって、柱状治具1とワーク支持部4を組み合わせて構成されている。
【0019】
柱状治具1には、径方向位置決め面2と逃げ部3が外周に周方向に交互に設けられている。径方向位置決め面2は、図2に示すワーク6の内周に設けられた凸部7(例示のワークは内歯)の各々に対応させて凸部7と同数設けられており、各径方向位置決め面2は、柱状治具1と同心の円上にある。また、逃げ部3は、中央が広くて周方向端部に向かって狭くなる隙間をワーク6との間に生じさせるものにしている。図の逃げ部3は、円の一部を周方向に飛び飛びに切り欠いて作り出しているが、隣り合う径方向位置決め面2、2間に、図3や図4に示すような凹部を設けて作り出したものであってもよい。
【0020】
例示の治具のワーク支持部4は定盤で形成されており、水平なワーク支持面5を有する。そのワーク支持面5は、起立させた柱状治具1の周囲を取り巻く位置に設けられており、このワーク支持面5でワーク6の一面を支える。
【0021】
このように構成した位置決め治具は、凸部7が逃げ部3と対応する位置(図5の鎖線を参照)でワーク6を柱状治具1の外周に挿入し、その後、ワーク6を凸部7が径方向位置決め面2の外周に嵌るところ(図5の実線位置)まで回転させてワークを径方向位置決め面2で位置決めする。このときのワーク回転を、ワーク支持面5でワーク6の一面を支えて行うとワークが傾かず、凸部7が径方向位置決め面2の外周にスムーズに嵌る。ワーク6を回転させる代わりに柱状治具1を回転させてもよい。
【0022】
この位置決め治具を使用すると、ワーク6を柱状治具の外周に挿入するときに凸部7と柱状治具1との間の隙間が広がるため、挿入性が向上して作業が楽になる。また、逃げ部3によって柱状治具1との間に作り出された隙間を徐々に狭めながら凸部7が径方向位置決め面2の外周に移動するので、センタリング時の干渉が回避されてワーク6に擦り傷などがつき難くなる。さらに、径方向位置決め面2とワークの凸部7との間の隙間を小さくしても作業性が悪くならないため、前記隙間を小さくして位置決めの精度を高めることも可能になる。
【0023】
なお、ワークは径方向だけでなく、周方向にも位置決めすることが要求される場合がある。そのときには、図5に示すような位置決め部材8を設けて柱状治具1との周方向の相対位置が定まった位置にワーク6を位置決めするとよい。位置決め部材8は、ワーク6が周方向に位置決めされた位置で凸部7などに接してそこからのワーク回転を規制するストッパピンなどでよく、それをワーク支持面5上に立設するなどしておけば周方向の位置決めも行える。
【0024】
この発明の位置決め方法及び位置決め治具は、外周に歯などの凸部を有するワークをセンタリング点に位置決めするときにも有効に利用できる。
【0025】
図6は、内接歯車ポンプのインナーロータをワークとして位置決めする例を示している。このときに用いる位置決め治具は、径方向位置決め面2と逃げ部3を内周に周方向に交互に設けた筒状治具1Aと、ワーク支持部4を組み合わせたものにする。ワーク支持部4は筒状治具1Aの内径側に配置し、そのワーク支持部4の上面、即ち、水平なワーク支持面5で筒状治具1Aの内径側に挿入されたワーク6の一面を支える。逃げ部3は、柱状治具に設けた逃げ部と同様に、中央が広くて周方向端部に向かって狭くなる隙間をワーク6との間に生じさせるものにし、その逃げ部3と凸部7(図のそれはインナーロータの外歯)が対応した位置でワーク6を筒状治具1Aの内側に嵌め、その後、凸部7が径方向位置決め面2の内側に嵌るところまでワーク6を回転させて径方向位置決め面2による位置決めを行う。
【0026】
なお、ワークの高精度位置決めは、内歯歯車や外歯歯車の歯先間寸法の測定や良否検査を行うときだけでなく、内周や外周に凸部(歯、キー、スプラインなど)を有するワークの加工や自動組み立てなどを行うときにも要求されることがある。そのようなときにこの発明の方法、治具を使用すると効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の位置決め治具の一例の概要を示す斜視図
【図2】図1の位置決め治具の平面図
【図3】柱状治具の他の例を示す平面図
【図4】柱状治具のさらに他の例を示す平面図
【図5】図1の位置決め治具による位置決め方法を示す平面図
【図6】筒状治具を有する位置決め治具の一例を示す平面図
【図7】位置決めされるワークの一例(ポンプロータ)を示す平面図
【符号の説明】
【0028】
1 柱状治具
1A 筒状治具
2 径方向位置決め面
3 逃げ部
4 ワーク支持部
5 ワーク支持面
6 ワーク
7 凸部
8 位置決め部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に3個以上の凸部(7)が周方向に間隔をあけて設けられているワーク(6)を、
前記凸部(7)が適合して嵌る径方向位置決め面(2)と、前記凸部(7)と前記径方向位置決め面(2)との間より広い隙間をワークとの間に生じさせる逃げ部(3)を外周に周方向に交互に設けた柱状治具(1)の外側に、前記凸部(7)が前記逃げ部(3)と対応する位置で挿入し、
その後、前記柱状治具(1)とワーク(6)を前記凸部(7)が前記径方向位置決め面(2)の外周に嵌まるところまで相対回転させてワーク(6)を前記径方向位置決め面(2)で位置決めするワークの位置決め方法。
【請求項2】
外周に3個以上の凸部(7)が周方向に間隔をあけて設けられているワーク(6)を、
前記凸部(7)が適合して嵌る径方向位置決め面(2)と、前記凸部(7)と前記径方向位置決め面(2)との間より広い隙間をワークとの間に生じさせる逃げ部(3)を内周に周方向に交互に設けた筒状治具(1A)の内側に、前記凸部(7)が前記逃げ部(3)と対応する位置で挿入し、
その後、前記筒状治具(1A)とワーク(6)を前記凸部(7)が前記径方向位置決め面(2)の内周に嵌まるところまで相対回転させてワークを前記径方向位置決め面(2)で位置決めするワークの位置決め方法。
【請求項3】
内周に3個以上の凸部(7)が周方向に間隔をあけて設けられているワーク(6)の一面を支えるワーク支持部(4)と、
前記凸部(7)の各々が嵌合する径方向位置決め面(2)と、各凸部(7)と前記径方向位置決め面(2)との間より広い隙間をワークとの間に生じさせる逃げ部(3)を外周に周方向に交互に設けた柱状治具(1)を有し、
前記柱状治具(1)が前記ワーク支持部(4)のワーク支持面(5)に対して垂直に設置され、この柱状治具(1)の周囲に前記ワーク支持部(4)が配置されているワークの位置決め治具。
【請求項4】
外周に3個以上の凸部(7)が周方向に間隔をあけて設けられているワーク(6)の一面を支えるワーク支持部(4)と、
前記凸部(7)の各々が嵌合する径方向位置決め面(2)と、各凸部(7)と前記径方向位置決め面(2)との間より広い隙間をワークとの間に生じさせる逃げ部(3)を内周に周方向に交互に設けた筒状治具(1A)を有し、
前記筒状治具(1A)が前記ワーク支持部(4)のワーク支持面(5)に対して垂直に設置され、この筒状治具(1A)の内径側に前記ワーク支持部(4)が配置されているワークの位置決め治具。
【請求項5】
径方向に位置決めされたワーク(6)を柱状治具(1)又は筒状治具(1A)に対して周方向に位置決めする周方向相対位置の位置決め部材(8)をさらに設けた請求項3又は4に記載のワークの位置決め治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−212188(P2007−212188A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−30061(P2006−30061)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【Fターム(参考)】