説明

ワーク保持装置

【課題】被加工物の研削や研磨加工において、被加工物の位置ずれや脱落を発生させることなく安定に保持して高精度の加工を実現する。
【解決手段】被加工レンズ2を工具皿1に押圧するレンズ保持装置H1において、被加工レンズ2を保持する受けホルダー3の背面に斜面3kを設け、この斜面3kに接する弾性体6を介して当該受けホルダー3を押えホルダー5にて支持する構成とするとともに、受けホルダー3の斜面3kは、被加工レンズ2の被加工面2aと外周面2bの交線上の点である最外周aにおける接線L1と被加工レンズ2の中心軸Lcとの交点O2と、前記押えホルダーに取り付けた弾性体6の斜面3kに対する接触部cを結んだ基準線L2に対して約90°になる角度で形成され、加圧時に受けホルダー3の斜面3kが交点O2を中心に可動構造となるようにして、工具皿1の加工支点を交点O2の一点に集中させる構造とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワーク保持技術に関し、たとえば、レンズ等の光学素子を研削あるいは研磨加工する装置に使用されるレンズ保持技術に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、レンズ等の光学素子の製造工程では、精密な光学面を形成する加工方法として、研磨や研削加工が行われている。
従来のレンズ研削装置あるいは研磨装置においては、レンズ保持機構部のシャフトを固定させ、その先端部を常に球心方向に加圧しながら、研磨皿を回転および揺動させてレンズの加工を行なう技術が知られており、これらの研削装置あるいは研磨装置では、レンズ保持機構をコイルばね等にて加圧しているのが一般的である。
【0003】
この種のレンズ研磨装置におけるレンズ保持機構の一例としては、例えば、特許文献1に開示された技術が知られている。
すなわち、この特許文献1には、弾材を介して被研磨レンズの背面を保持する下段ホルダーと、この下段ホルダーを背面側から弾材を介して支持し、背面にホルダースピンドルが結合された上段ホルダーとで研磨ホルダー機構を構成する技術が開示されている。
【0004】
そして、この構成によって、ホルダースピンドルにより押圧された圧力が、上段ホルダーの弾材を介して下段ホルダーの全体を均一に押圧し、さらに下段ホルダーの弾材を介して被研磨レンズを弾性的に押圧することにより、被研磨レンズの横転や脱落といったトラブルが生じることがなく、良好な加工面が得られるとしている。
【0005】
しかしながら、上記の従来技術では、上段ホルダーの下面を、凸形状の下段ホルダーの背面と接触しないように凹形状にしただけであるため、研磨加工中に加工される被研磨レンズと研磨皿が接触する加工作用面上で摩擦力により生じる回転モーメントの中心(以下、加工支点という)が一点に集中していないために、回転モーメントのかかる方向が一定でない。
【0006】
したがって、研磨皿の加工作用面にならう方向以外に被研磨レンズを動かす力が生じ、加工作用面上を滑らかに動くことができなくなる現象が発生する。
この現象は、被研磨レンズの形状精度や粗さが悪化する一因となり、最悪の場合にはレンズが位置ずれ(横転)したり、脱落したりする可能性もある。
【特許文献1】特公平6−65460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、被加工物の研削や研磨加工において、被加工物の位置ずれや脱落を発生させることなく安定に保持して高精度の加工を実現することが可能なワーク保持技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点は、被加工物が保持されるワーク保持部の背面側に斜面が形成された第1保持部材と、
前記第1保持部材の前記斜面に当接する弾性体を介して、当該第1保持部材を支持する第2保持部材と、
を含み、
前記第1保持部材の前記斜面は、当該斜面における前記弾性体の当接位置の法線が、前記被加工物の最外周における接線と当該被加工物の中心軸との交点を通過する角度に設定されているワーク保持装置を提供する。
【0009】
本発明の第2の観点は、被加工物が保持されるワーク保持部の背面側に弾性体を保持する第1保持部材と、
前記第1保持部材に保持された前記弾性体に当接する斜面を備え、前記斜面を介して、当該第1保持部材を支持する第2保持部材と、
を含み、
前記第2保持部材の前記斜面は、当該斜面における前記弾性部材の当接位置の法線が、前記被加工物の最外周における接線と当該被加工物の中心軸との交点を通過する角度に設定されているワーク保持装置を提供する。
【0010】
本発明の第3の観点は、被加工物が保持される保持部の背面側に凸球面が形成された第1保持部材と、
前記第1保持部材の前記凸球面に弾性体を介して当接される凹球面を備え、当該第1保持部材を支持する第2保持部材と、
を含み、
前記凸球面および前記凹球面の曲率中心は、前記被加工物の最外周における接線と当該被加工物の中心軸との交点に近接あるいは一致しているワーク保持装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被加工物の研削や研磨加工において、被加工物の位置ずれや脱落を発生させることなく安定に保持して高精度の加工を実現することが可能なワーク保持技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本実施の形態の第1態様は、被加工レンズを保持して工具皿の球心を通る軸と平行方向(軸方向)に加圧し、前記工具皿を回転かつ揺動させることにより被加工レンズを研磨または研削するレンズ加工装置におけるレンズ保持装置において、被加工レンズと前記工具皿とが接触する加工作用面に対して前記被加工レンズを押圧するための押えホルダーと被加工レンズを保持するための受けホルダーと、押えホルダーに取り付けた弾性体とを有している。
【0013】
前記押えホルダーに取り付けた弾性体と、前記受けホルダーに設けられた斜面が対向され、前記押えホルダーに取り付けた弾性体を介して、前記受けホルダーの斜面を弾性的に押圧する。
【0014】
前記受けホルダーの斜面には、被加工レンズの最外周における接線と被加工レンズの中心軸との交点O2と、前記押えホルダーに取り付けた弾性体の接触部を結んだ線に対して、約90°になる角度を付ける。前記押えホルダーで前記弾性体と受けホルダーを介して、被加工レンズを前記加工作用面に対して押圧することを特徴とする。
【0015】
また、本実施の形態の第2態様は、被加工レンズを保持して工具皿の球心を通る軸と平行方向(軸方向)に加圧し、前記工具皿を回転かつ揺動させることにより被加工レンズを研磨または研削するレンズ加工装置におけるレンズ保持装置において、被加工レンズと前記工具皿とが接触する加工作用面に対して前記被加工レンズを押圧するための押えホルダーと被加工レンズを保持するための受けホルダーと、受けホルダーに取り付けた弾性体と、を有している。
【0016】
前記受けホルダーに取り付けた弾性体と、前記押えホルダーに設けられた斜面が対向され、前記受けホルダーに取り付けた弾性体を介して、前記押えホルダーの斜面で受けホルダーを弾性的に押圧する。
【0017】
前記押えホルダーの斜面には、被加工レンズの最外周における接線と被加工レンズの中心軸との交点O2と、前記押えホルダーに取り付けた弾性体の接触部を結んだ線に対して、約90°になる角度を付ける。前記押えホルダーで前記弾性体と受けホルダーを介して、被加工レンズを前記加工作用面に対して押圧することを特徴とする。
【0018】
本実施の形態の各態様のレンズ保持装置によれば、被加工レンズの最外周における接線と被加工レンズの中心軸との交点O2を中心に、受けホルダーと被加工レンズが可動な構造となるために、加工作用面(特に被加工レンズ外周部)で生じた摩擦力による回転モーメントとつりあう方向にかかるので、被加工レンズを互いに異なる方向へ回転させるような無理な力は生じさせず、位置ずれや脱落が防止されるとともに、被加工レンズは滑らかに回転でき加工結果を安定させることができる。
【0019】
つまり、被加工レンズは工具のさまざまな形状に十分追従することができ、そして、加工作用面にならう方向以外に被加工レンズを回転させようとするモーメントを生じさせないことにより、加工作用面の圧力分布は均一に保たれ、被加工レンズの被加工面をアスや、クセ等の形状むらのない高精度な状態に加工することができる。
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
[実施の形態1]
図1は、本発明の一実施の形態であるワーク保持装置の構成の一例を示す断面図であり、図2は、本実施の形態のワーク保持装置が装着される研磨装置の構成の一例を示す斜視図である。
【0021】
本実施の形態では、ワーク保持装置の一例として、被加工レンズの研磨加工に用いられるレンズ保持装置に適用した場合を例にとって説明する。
図1に例示されるように、本実施の形態のレンズ保持装置H1は、受けホルダー3(第1保持部材)、弾性体4、押えホルダー5(第2保持部材)、弾性体6を備えている。
【0022】
そして、レンズ保持装置H1は、被加工レンズ2(被加工物)を保持して、後述の研磨装置Mの側の工具皿1に被加工レンズ2の被加工面2aを押圧する動作を行う。
工具皿1は、たとえば鋳鉄等で球面状に作製された台皿に弾力性のある図示しない研磨シートを貼り付けた凹球面を加工作用面1aとする研磨工具である。
【0023】
加工対象の被加工レンズ2は、凸球面からなる光学機能面としての被加工面2aと、この被加工面2aを取り囲む円筒状の外周面2bからなる。
凸球面からなる被加工面2aが研磨加工される被加工レンズ2は、その凸球面からなる被加工面2aと工具皿1の凹球面(加工作用面1a)が接触し、工具皿1に対し相対的に回転かつ揺動運動することにより、研磨加工される。
【0024】
また、工具皿1の加工作用面1aは、図示しない研磨シートを貼り付けた後にその曲率半径の精度が悪ければ、追加工される場合もある。
なお、上述のように、本実施の形態の説明においては、被加工レンズ2の研磨加工を例にとって説明し、また、工具皿1の形状を凹球面とし、加工される被加工レンズ2の形状が凸球面の場合について説明する。
【0025】
レンズ保持装置H1において、受けホルダー3は、凹形のワーク保持部3hに被加工レンズ2の背面を嵌合させて保持することにより、被加工レンズ2の位置を拘束する。
受けホルダー3において、ワーク保持部3hの反対側の背面の外周部には円錐台形の斜面3kが全周に形成されている。
【0026】
受けホルダー3の下面の被加工レンズ2を受けるワーク保持部3hの内部にはレンズ保持用の研磨シート等の弾性体4が取り付けられている。この弾性体4は、被加工レンズ2を弾性的に押圧し、被加工レンズ2の受け面(被加工面2aと反対側の面)が受けホルダー3と直接接触して傷つくことを防ぎ、さらに加工中に工具皿1の側から発生する振動を軽減することにより、被加工レンズ2の被加工面2aのひび、欠けや表面粗さの悪化を防ぐためのものである。
【0027】
この受けホルダー3の背面側には、押えホルダー5が設けられている。この押えホルダー5は、受けホルダー3の動きを規制する凹部5aを備えている。
この押えホルダー5の凹部5aの下面内周部には、たとえば、Oリング等の弾性体6が取り付けられる弾性体保持部5bが形成されており、弾性体6を介して受けホルダー3の外周部に設けられた斜面3kを弾性的に押圧する。
【0028】
押えホルダー5の上面にはホルダースピンドル7が取り付けられており、このホルダースピンドル7は図示しない軸受によってそのラジアル方向およびスラスト方向を保持されている。
【0029】
そして、以上のように構成されたレンズ保持装置H1(以下、単にホルダーともいう)により、被加工レンズ2を保持して工具皿1へ押圧して加圧する動作が行われる。
この場合、受けホルダー3の斜面3kは、被加工レンズ2の被加工面2aと外周面2bの交線上の点である最外周aにおける接線L1と被加工レンズ2の中心軸Lcとの交点O2と、前記押えホルダーに取り付けた弾性体6の斜面3kに対する接触部cを結んだ基準線L2に対して、約90°になる角度で形成されている。
【0030】
すなわち、受けホルダー3の斜面3kは、弾性体6との接触部cを通る法線(この場合、基準線L2)が、前記交点O2を通る角度に形成されている。
また、被加工レンズ2、受けホルダー3、押えホルダー5および弾性体6等の部材は、ホルダースピンドル7の中心軸(すなわち、中心軸Lc)上にほぼ対称的に保持されている。
【0031】
このように構成されたレンズ保持装置H1を研磨装置に取り付けてレンズの研磨加工を行なう。
図2は、本実施の形態のレンズ保持装置を取り付けうる研磨装置Mの代表的な一例を示している。
【0032】
この図2の研磨装置Mにおいて、本実施の形態のレンズ保持装置H1は保持具121に相当する。また、押えホルダー5のホルダースピンドル7は後述の上軸122に固定され、工具皿1の工具軸1bは、砥石スピンドル115に固定される。
【0033】
図2に例示されるように、本実施の形態1の研磨装置Mは、装置本体150と、この装置本体150の上部に設けた揺動板151と、揺動板151の下方に設けた例えば上部が開口し、下辺部161bが円弧状に形成され、かつ、半円状の両側板162を備えた砥石用揺動体161と、この砥石用揺動体161の下辺部161bを一体で支持するハウジング171とを有している。
【0034】
前記ハウジング171には、砥石モータ116と、この砥石モータ116により回転駆動される砥石スピンドル115が取り付けられ、さらに砥石スピンドル115の上端に球面研磨用の工具皿1が取り付けられている。前記砥石スピンドル115は球心104を通る軸線の回りに回転するように設定されている。
【0035】
前記ハウジング171は、さらに、前記砥石モータ116に隣接する位置に、Y軸方向に沿って配置した揺動モータ112を備えている。
一方、前記装置本体150からは、前記砥石用揺動体161を一対の軸受163によって支持する平行配置の一対の支持アーム164が突出形成されており、さらに、一対の支持アーム164の下側には、前記ハウジング171を揺動させるための円弧状揺動ギヤ部181を備えた固定突出体180を設けている。
【0036】
そして、前記揺動モータ112の原動軸に取り付けた歯車114と前記円弧状揺動ギヤ部181とを噛合させ、揺動モータ112により回転する歯車114と円弧状揺動ギヤ部181との噛み合いにより、前記ハウジング171、砥石用揺動体161を、前記球心104を揺動中心として図2に示す矢印方向(Y軸の回り)に揺動させるようになっている。
【0037】
前記装置本体150の上部に設けた揺動板151の突出端には、Z軸方向に沿ってシリンダ120、このシリンダ120の伸縮するロッド120aに連結した上軸122、この上軸122の下端部に取り付けた保持具121が配置され、さらに保持具121により被加工レンズ2を保持するようになっている。即ち、被加工レンズ2は、光学素子を上下方向で変位させる変位機構としてのシリンダ120の動作により保持具121に支持されつつZ軸方向に変位(上下動)可能で、前記工具皿1に押圧可能となっている。
【0038】
また、前記揺動板151の基部は、装置本体150上に固定配置した軸受箱体191によりX軸(揺動板151の基部の揺動中心を通るX軸方向の軸線は前記球心104を通るように設定している)の回りを揺動可能に支持され、軸受箱体191に連結したX軸揺動モータ190により駆動されるようになっている。即ち、被加工レンズ2は、揺動板151、上軸122、保持具121を介して支持されつつX軸の回りに揺動可能となっている。
【0039】
本実施の形態1の研磨装置Mは、さらに、全体の制御を行う制御装置106と、前記揺動モータ112に接続した砥石揺動制御部107と、前記砥石モータ116の回転数制御用のインバータ108とを具備している。前記制御装置106は、前記X軸揺動モータ190及びシリンダ120の駆動制御をも行うようになっている。
【0040】
次に上述した研磨装置Mによる被加工レンズ2の球面研磨方法について説明する。
前記工具皿1は、砥石モータ116により駆動される砥石スピンドル115を介して回転駆動される。また、前記揺動モータ112の回転により歯車114が円弧状揺動ギヤ部181と噛み合いつつ回転し、これにより、前記ハウジング171、砥石用揺動体161とともに工具皿1は球心104を中心にY軸の回りを揺動する。
【0041】
一方、被加工レンズ2を保持した保持具121は、シリンダ120のロッド120aの伸動作によりZ軸に沿って下方に変位し、被加工レンズ2を工具皿1に一定押圧力にて押圧接触させる。
【0042】
さらに、保持具121により保持された被加工レンズ2は、X軸揺動モータ190により駆動される前記揺動板151の揺動に連動して、工具皿1に接触しつつ被加工面2a(光学機能面)の曲率中心(すなわち、被加工面2aの球心)を工具皿1の球心104に一致させてX軸の回りを揺動する。
【0043】
このようにして、前記球心104を中心として、前記工具皿1がY軸の回りを揺動し、被加工レンズ2がX軸の回りを揺動して、被加工レンズ2の研磨面である被加工面2aと加工作用面1aとの相対的な摺動動作により、被加工面2aの所望の球面研磨が実行される。
【0044】
次に、このような研磨加工において、図1に図示した本実施の形態1のレンズ保持装置H1(保持具121)の作用を説明する。
加圧時のレンズ保持装置H1において、受けホルダー3の上面外周部の斜面3kが、被加工レンズ2の最外周aにおける接線L1と被加工レンズ2の中心軸Lcとの交点O2と、前記押えホルダー5に取り付けた弾性体6と当該斜面3kとの接触部cを結んだ基準線L2に対して、約90°になる角度に形成されているので、加圧時に受けホルダー3の上面外周部の斜面3kが交点O2を中心に可動構造となるため、加工支点を交点O2の一点に集中させることができる。
【0045】
したがって、被加工レンズ2の被加工面2a(特に被加工レンズ2の外周部)で生じた摩擦力による回転モーメントも、工具皿1の加工作用面1aにならう一定方向にのみかかるので、被加工レンズ2を互いに異なる方向へ回転させるような無理な力は生じず、受けホルダー3に安定に保持された被加工レンズ2は滑らかに回転し、研磨加工結果も安定する。
【0046】
そのため、被加工レンズ2の光学機能面としての被加工面2aの形状精度や粗さは悪化せず、工具皿1からの被加工レンズ2の横転あるいは脱落という障害も起こりにくい。
さらに、従来例において弾材として使用するOリングは部分的に摩耗していたが、本実施の形態1においては、上述の受けホルダー3の斜面3kの作用により、被加工面2aの摩擦力の方向が一定でかつ均一に加わるため、斜面3kに接する弾性体6の全体が均等に摩耗するようになり、弾性体6の寿命も伸びる。
【0047】
同様に工具皿1について、被加工レンズ2が横転あるいは脱落したりせず、加工作用面1aにならうように安定して動くため、加工作用面1aの損傷や摩耗が少なく、工具皿1の寿命を長くすることができる。
[実施の形態2]
図3は本発明の他の実施の形態であるワーク保持装置としてのレンズ保持装置の一例を示す断面図である。
【0048】
本実施の形態2のレンズ保持装置H2は、斜面5kを押えホルダー5の側に設けるとともに、受けホルダー3の側に弾性体6を保持させる点が上述のレンズ保持装置H1と異なっている。
【0049】
したがって、本実施の形態2においては、上述の実施の形態1のレンズ保持装置H1と共通する構成要素については、共通の符号を付して重複した説明は割愛する。
本実施の形態2のレンズ保持装置H2において、被加工レンズ2の位置を拘束するための受けホルダー3では、その上面の外周部には、Oリング等からなる弾性体6が取り付けられる弾性体保持部3aが形成され、下面の被加工レンズ2を受けるワーク保持部3hの内面にはレンズ保持用の研磨シート等の弾性体4が取り付けられている。
【0050】
押えホルダー5は受けホルダー3の動きを規制する凹部5aを備え、その下面の凹部5aの外周部には斜面5kが形成されていて、受けホルダー3の側に保持された弾性体6に当接して押圧する。押えホルダー5の上面にはホルダースピンドル7が取り付けられている。
【0051】
そして、以上のように構成されたレンズ保持装置H2により、被加工レンズ2を保持して工具皿1へ押圧し加圧する。
この場合、前記押えホルダー5の斜面5kは、被加工レンズ2の最外周aにおける接線L1と被加工レンズ2の中心軸Lcとの交点O2と、前記受けホルダー3に取り付けた弾性体6の接触部cを結んだ基準線L2に対して、約90°になる角度に形成されている。
【0052】
すなわち、斜面5kにおける弾性体6との接触部cを通る法線(基準線L2)が、前記交点O2を通るように、斜面5kの角度が設定されている。
次に、図3に例示される本実施の形態2のレンズ保持装置H2の作用を説明する。
【0053】
上述のように、被加工レンズ2の加圧時において、レンズ保持装置H2の押えホルダー5の下面の凹部5aの外周部に形成された斜面5kが被加工レンズ2の最外周aにおける接線L1と被加工レンズ2の中心軸Lcとの交点O2と、前記受けホルダー3に取り付けた弾性体6との接触部cを結んだ基準線L2に対して、約90°になる角度を形成されている。
【0054】
このため、被加工レンズ2の加圧時に受けホルダー3は前記交点O2を中心に可動の構造となるので、加工支点を前記交点O2の一点に集中させることができることになる。
したがって、工具皿1の加工作用面1a(特に被加工レンズ2の外周部)で生じた摩擦力による回転モーメントも、加工作用面1aにならう一定方向にのみかかるので、被加工レンズ2を互いに異なる方向へ回転させるような無理な力は生じず、受けホルダー3に保持された被加工レンズ2は工具皿1に対して相対的に滑らかに回転し、被加工面2aの研磨加工結果も安定する。
【0055】
本実施の形態2のレンズ保持装置H2では、上述の実施の形態1の作用および効果に加えて、弾性体6を受けホルダー3の上面に設けられた弾性体保持部3aに保持する構造としたために交換が容易となるという効果を奏する。
【0056】
[実施の形態3]
次に、図4を参照して、本発明の実施の形態3のワーク保持装置としてのレンズ保持装置について説明する。
【0057】
本実施の形態3のレンズ保持装置H3においては、被加工レンズ2を工具皿1へ押圧して加圧するときに、押えホルダー5と受けホルダー3の係合部の構成要素を球面で形成した点が、上述の実施の形態1および実施の形態2と相違し、その他の構成や部材は実施の形態1の構成要素と同じであり、同一部材には同じ符号を付し、それらの構成や作用についての説明は省略する。
【0058】
レンズ保持装置H3の受けホルダー3は、被加工レンズ2の位置を拘束するために設けられ、その上面は凸球面部3bに形成されている。
一方、押えホルダー5は、受けホルダー3と対向する下面に、受けホルダー3の動きを規制する凹球面部5cを備えている。押えホルダー5の凹球面部5cには、欠球状のシートからなる弾性体6aが取り付けられており、受けホルダー3の凸球面部3bを弾性的に保持して押圧可能になっている。
【0059】
そして、上述のように構成されたレンズ保持装置H3により、被加工レンズ2を工具皿1へ押圧し加圧するときに、押えホルダー5の凹球面部5cの曲率半径R3が、受けホルダー3の凸球面部3bの曲率半径R2と弾性体6aの厚さtとの和に等しくなるように、弾性体6aの厚さtは調整されている。
【0060】
なお、図3において、R1は工具皿1の加工作用面1aの曲率半径であり、点O1は加工作用面1aの曲率半径R1の曲率中心とし、点O3は受けホルダー3の凸球面部3bの曲率半径R2および押えホルダー5の凹球面部5cの曲率半径R3の各々の曲率中心とする。
【0061】
本実施の形態3のレンズ保持装置H3では、受けホルダー3の凸球面部3bの曲率半径R2および押えホルダー5の凹球面部5cの曲率半径R3の各々の曲率中心である点O3は、被加工レンズ2の最外周aにおける接線L1と被加工レンズ2の中心軸Lcとの交点O2とほぼ一致させる位置に設定されている。
【0062】
次に、本実施の形態3のレンズ保持装置H3の作用を説明する。
上述のように、押えホルダー5の凹球面部5cの曲率半径R3が、受けホルダー3の凸球面部3bの曲率半径R2と弾性体6aの厚さtとの和に等しくなるように構成されているので、被加工レンズ2の工具皿1に対する加圧時に、受けホルダー3の凸球面部3bの球心(O3)が、押えホルダー5の凹球面部5cの球心(O3)に一致し、工具皿1の加工支点を点O3の一点に集中させることができる。
【0063】
しかも、凹球面部5cと凸球面部3bの球心O3を、被加工レンズ2の最外周aにおける接線L1と被加工レンズ2の中心軸Lcとの交点O2とほぼ一致させることによって、加工作用面1a(特に被加工レンズ2の外周部)で生じた摩擦力による回転モーメントも、加工作用面1aにならう一定方向にのみかかるので、被加工レンズ2を互いに異なる方向へ回転させるような無理な力は生じず、受けホルダー3に保持された被加工レンズ2は工具皿1に対して滑らかに回転し、被加工面2aの研磨加工結果も安定する。
【0064】
本実施の形態3のレンズ保持装置H3においては、押えホルダー5、受けホルダー3、弾性体6aの接触部を球面(凹球面部5c、凸球面部3b)にするので、受けホルダー3と被加工レンズ2の加工支点を一点に集中させることができ、研磨加工中におけるレンズ保持装置H3による被加工レンズ2の安定保持の効果が大きい。
【0065】
以上説明したように、本発明の各実施の形態のレンズ保持装置によれば、押えホルダー5または受けホルダー3に設けられた斜面または球面が弾性体を介して受けホルダー3または押えホルダー5に設けた斜面または球面を弾性的に押圧し、この受けホルダー3の下面のワーク保持部3hにて被加工レンズ2を保持しかつ押圧するようになし、さらに、斜面または球面による押圧は被加工レンズ2の最外周aにおける接線L1と被加工レンズ2の中心軸Lcとの交点O2にほぼ一致させることにより、工具皿1の被加工レンズ2に対する加工支点を一点に集中させることができ、加工作用面1aで生じた摩擦力による回転モーメントが加工作用面1aにならう一定方向にのみ被加工レンズ2にかかるので、被加工レンズ2を互いに異なる方向へ回転させるような無理な力は生じず、被加工レンズ2は工具皿1に対して滑らかに回転でき、被加工面2aの研磨加工結果も安定する。
【0066】
すなわち、被加工レンズ2等の被加工物の研削や研磨加工において、被加工物の位置ずれや脱落を発生させることなく安定に保持して高精度の加工を実現することが可能となる。
【0067】
なお、本発明は、上述の実施の形態に例示した構成に限らず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
たとえば、被加工物としては、被加工レンズ等の光学素子に限らず、精密加工を必要とする一般の物品に広く適用することができる。
【0068】
(付記1)
被加工レンズを保持して工具皿の球心を通る軸と平行方向(軸方向)に加圧し、前記工具皿を回転かつ揺動させることにより被加工レンズを研磨または研削するレンズ加工装置におけるレンズ保持装置において、被加工レンズの最外周における接線と被加工レンズの中心軸と交わる点と、前記押えホルダーに取り付けた弾性体の接触部を結んだ線に対して、約90°になる角度の斜面を有した被加工レンズを保持するための受けホルダーと、被加工レンズと前記工具皿とが接触する加工面に対して前記被加工レンズを押圧するための弾性体を取り付けた押えホルダーと、前記押えホルダーに設けられた弾性体と前記受けホルダーに設けられた斜面が対向され、前記押えホルダーに設置された前記弾性体を介して、前記受けホルダーの斜面を弾性的に押圧して、被加工レンズを前記加工面に対して押圧することを特徴とするレンズ保持装置。
【0069】
(付記2)
被加工レンズを保持して工具皿の球心を通る軸と平行方向(軸方向)に加圧し、前記工具皿を回転かつ揺動させることにより被加工レンズを研磨または研削するレンズ加工装置におけるレンズ保持装置において、被加工レンズの最外周における接線と被加工レンズの中心軸と交わる点と、受けホルダーに取り付けた弾性体の接触部を結んだ線に対して、約90°になる角度の斜面を有した押えホルダーと、被加工レンズを保持するための受けホルダーと被加工レンズと前記工具皿とが接触する加工面に対して前記被加工レンズを押圧するための弾性体を取り付けた受けホルダーと、前記押えホルダーに設けられた弾性体と前記受けホルダーに設けられた斜面が対向され、前記受けホルダーに設置された前記弾性体を介して、前記押えホルダーの斜面で弾性的に押圧して、被加工レンズを前記加工面に対して押圧することを特徴とするレンズ保持装置。
【0070】
(付記3)
被加工レンズを保持して工具皿の球心を通る軸と平行方向(軸方向)に加圧し、前記工具皿を回転かつ揺動させることにより被加工レンズを研磨または研削するレンズ加工装置におけるレンズ保持装置において、被加工レンズと前記工具皿とが接触する加工面に対して前記被加工レンズを押圧するための押えホルダーと被加工レンズを保持するための受けホルダーとを有し、前記押えホルダーに設けられた凹球面と前記受けホルダーに設けられた凸球面が対向され、前記押えホルダーの凹球面に弾性体を装着して、前記受けホルダーの凸球面を弾性的に押圧し、かつ、前記押えホルダーの球面部の曲率半径を、前記受けホルダーの球面部の曲率半径と前記弾性体の厚さとの和に等しくして、その曲率中心を被加工レンズの最外周における接線と被加工レンズの中心軸と交わる点とそれぞれ接近あるいは一致させて、被加工レンズを前記加工面に対して押圧することを特徴とするレンズ保持装置。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の一実施の形態であるワーク保持装置の構成の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態であるワーク保持装置が装着される研磨装置の構成の一例を示す斜視図である。
【図3】本発明の他の実施の形態であるワーク保持装置の一例を示す断面図である。
【図4】本発明のさらに他の実施の形態であるワーク保持装置の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0072】
1 工具皿
1a 加工作用面
1b 工具軸
2 被加工レンズ
2a 被加工面
2b 外周面
3 受けホルダー
3a 弾性体保持部
3b 凸球面部
3h ワーク保持部
3k 斜面
4 弾性体
5 押えホルダー
5a 凹部
5b 弾性体保持部
5c 凹球面部
5k 斜面
6 弾性体
6a 弾性体
7 ホルダースピンドル
104 球心
106 制御装置
107 砥石揺動制御部
108 インバータ
112 揺動モータ
114 歯車
115 砥石スピンドル
116 砥石モータ
120 シリンダ
120a ロッド
121 保持具
122 上軸
150 装置本体
151 揺動板
161 砥石用揺動体
161b 下辺部
162 両側板
163 軸受
164 支持アーム
171 ハウジング
180 固定突出体
181 円弧状揺動ギヤ部
190 X軸揺動モータ
191 軸受箱体
H1 レンズ保持装置
H2 レンズ保持装置
H3 レンズ保持装置
L1 接線
L2 基準線
Lc 中心軸
M 研磨装置
R1 曲率半径
R2 曲率半径
R3 曲率半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物が保持されるワーク保持部の背面側に斜面が形成された第1保持部材と、
前記第1保持部材の前記斜面に当接する弾性体を介して、当該第1保持部材を支持する第2保持部材と、
を含み、
前記第1保持部材の前記斜面は、当該斜面における前記弾性体の当接位置の法線が、前記被加工物の最外周における接線と当該被加工物の中心軸との交点を通過する角度に設定されていることを特徴とするワーク保持装置。
【請求項2】
被加工物が保持されるワーク保持部の背面側に弾性体を保持する第1保持部材と、
前記第1保持部材に保持された前記弾性体に当接する斜面を備え、前記斜面を介して、当該第1保持部材を支持する第2保持部材と、
を含み、
前記第2保持部材の前記斜面は、当該斜面における前記弾性部材の当接位置の法線が、前記被加工物の最外周における接線と当該被加工物の中心軸との交点を通過する角度に設定されていることを特徴とするワーク保持装置。
【請求項3】
被加工物が保持される保持部の背面側に凸球面が形成された第1保持部材と、
前記第1保持部材の前記凸球面に弾性体を介して当接される凹球面を備え、当該第1保持部材を支持する第2保持部材と、
を含み、
前記凸球面および前記凹球面の曲率中心は、前記被加工物の最外周における接線と当該被加工物の中心軸との交点に近接あるいは一致していることを特徴とするワーク保持装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のワーク保持装置において、
前記被加工物は、被加工レンズであり、前記被加工レンズを保持して工具皿の球心を通る軸と平行方向に加圧し、前記被加工レンズに対して前記工具皿を相対的に回転かつ揺動させることにより前記被加工レンズを研磨または研削するレンズ加工装置に備えられることを特徴とするワーク保持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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