説明

ワーク固定治具

【課題】大型化することなく、工作機にワークを固定するときの拘束力を算出できるワーク固定治具を提供することを課題とする。
【解決手段】クランプ部14からワークテーブル3に載置されるワーク2に印加される拘束力を算出する荷重算出部17を備えるワーク固定治具1であって、荷重算出部17には、クランプ部14がワーク2をワークテーブル3に押し付けているときにクランプ本体15に発生する圧縮ひずみを計測するひずみ計が備わる。そして、荷重算出部17は、クランプ部14がワーク2をワークテーブル3に押し付けているときにクランプ本体15に発生する圧縮ひずみに基づいて拘束力を算出する。さらに、荷重算出部17は、圧縮ひずみの測定値の誤差を補正するための補正データを利用して誤差を吸収して、拘束力を算出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機の作業用テーブルにワークを固定するワーク固定治具に関する。
【背景技術】
【0002】
NC(Numerical Control)工作機などの工作機で、被加工物(ワーク)を加工する際には、ワークを好適な拘束力で工作機の作業用テーブルに固定する必要がある。
従来、作業者は、ワークを作業用テーブル等に固定するワーク固定治具の締結具(ボルト等)を締め付ける工具(トルクレンチ等)によって締結トルクを調節し、この締結トルクを拘束力に換算してワークを固定している。
【0003】
しかしながら、治具を固定するボルトの締結トルクを換算して得られる拘束力は、主に経験値に基づく推定値であるため、ワークの素材や形状等によっては正確な拘束力を得ることができず、ワークを好適な拘束力で作業用テーブルに固定できない場合がある。
【0004】
このような問題を解決するため、例えば、特許文献1には、ワークを作業用テーブルに固定する治具を締結固定する締結具にひずみ測定機能を付け、締結具のひずみに基づいてワークの拘束力を算出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−294122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される締結具は、半導体ひずみセンサ等のひずみ測定機能を備える必要があるため、締結具が大型化し、ひいては、ワークを工作機に固定する治具が大型化するという問題がある。
【0007】
そこで本発明は、大型化することなく、作業用テーブルにワークを固定するときの拘束力を算出できるワーク固定治具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、ワークを作業用テーブルに押し付けるクランプ部のひずみに基づいて、ワークを作業用テーブルに固定するときの拘束力を算出するワーク固定治具とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、大型化することなく、作業用テーブルにワークを固定するときの拘束力を算出できるワーク固定治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ワークテーブルにワークが固定された状態を示す斜視図である。
【図2】(a)は、クランプ部が腕部に取り付けられる状態を示す図、(b)は、クランプ部の構成を示す斜視図である。
【図3】(a)は、荷重算出部および外部端末装置の機能ブロックを示すブロック図、(b)は、クランプ本体にひずみ計を取り付ける状態を示す図、(c)は、補正データの一例を示す図である。
【図4】クランプ部の組み立て状態を示す図である。
【図5】(a)は、外部端末装置を磁石で吸着保持する状態を示す図、(b)は、ヘッド部と本体部に別れた外部端末装置のヘッド部を磁石で吸着保持する状態を示す図である。
【図6】(a)は、本発明の変形例1に係る荷重算出部および外部端末装置の機能ブロックを示すブロック図、(b)は、本発明の変形例2に係る荷重算出部および外部端末装置の機能ブロックを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、適宜図を参照して詳細に説明する。
図1に示すように、図示しないNC工作機等の工作機で加工される被加工物(ワーク2)は、ワーク固定治具1で作業用テーブル(ワークテーブル3)に固定され、当該ワークテーブル3を工作機に取り付けることによって、ワーク2が工作機に固定される。
【0012】
ワーク2を載置するワークテーブル3の盤面には、複数の固定孔31が形成され、複数のワーク固定治具1を任意の位置に取り付けられるように構成される。
また、ワークテーブル3には、複数の高さ調節部材30が取り付け可能である。
ワークテーブル3にワーク2を固定する作業者は、ワーク2の形状に合わせて、ワークテーブル3の好適な位置、例えば、ワークテーブル3に載置されるワーク2の周囲となる位置に複数のワーク固定治具1を取り付け、さらに、適宜、複数の高さ調節部材30を取り付けてワーク2の高さを調節し、複雑な形状のワーク2を、任意の位置、高さ、傾斜(ワークテーブル3に対する傾斜)で固定する。
【0013】
ワーク2は、ワークテーブル3の盤面上に、直接もしくは必要に応じて高さ調節部材30を介して載置され、ワークテーブル3にワーク2を押し付けるように構成されるワーク固定治具1がワーク2を固定する。
なお、ワーク2が高さ調節部材30に載置される場合、ワーク2は、ワーク固定治具1によって、高さ調節部材30を介してワークテーブル3に押し付けられることになる。
【0014】
ワーク固定治具1は、ワークテーブル3の盤面上でワーク2の周囲になる位置に起立する脚部10と、脚部10の頂部からワーク2の上方に延伸する腕部12と、脚部10に腕部12を締結固定する締結具13と、を含み、締結具13が脚部10に締め付けられるときの締結力によって腕部12がワーク2をワークテーブル3に押し付けるように構成される。
作業者は、ワークテーブル3にワーク2を固定するとき、締結具13をトルクレンチ等の工具で締め付け、腕部12でワーク2をワークテーブル3に押し付ける。
【0015】
より詳しくは、腕部12は脚部10の頂部から浮上するように支持部11で支持される。そして、支持部11とワーク2側の先端部との間に備わる締結具13で、腕部12が脚部10に締結固定されるように構成される。
ワーク2がワークテーブル3に載置された状態で締結具13が脚部10に締め付けられると、ワーク2と支持部11で締結具13の両側が支持される腕部12が微小に撓み、その撓みで発生する荷重でワーク2をワークテーブル3に押し付けるように構成される。
【0016】
図2の(a)、(b)に示すように、ワーク固定治具1の脚部10からワーク2の上方に向かって延伸する腕部12の、例えば先端部には、ワーク2をワークテーブル3に押し付けるクランプ部14が、クランプ取付ネジ12aによって取り付けられている。
クランプ部14は、クランプ取付ネジ12aに締結固定されるクランプ本体15と、クランプ本体15からワーク2に向かって延びる棒状部材のクランプピン16を含んで構成され、クランプピン16の先端部にクランプヘッド16aを有する。
このようにワーク固定治具1は構成され、図2の(a)に示すようにクランプ部14がワーク2とクランプ取付ネジ12aの間に配設される。
【0017】
クランプヘッド16aは、ワーク2と対向するように広がる板状の部材で、ワーク2の面に対して揺動自在にクランプピン16の先端部に取り付けられており、ワークテーブル3に対してワーク2の面が傾斜する状態であってもワーク2と対向可能に構成されている。
この構成によって、クランプピン16は、複雑な形状のワーク2を確実にワークテーブル3に押し付けることができる。
【0018】
クランプ本体15は、例えば、鉄などの金属を素材とする中実の四角柱形状を呈する部材であり、腕部12の側にはクランプ取付ネジ12aが締結固定され、ワーク2と対峙する側にはクランプピン16が取り付けられている。
そして、本実施形態に係るクランプ本体15には、例えばインジケータ17aを有する荷重算出部17が備わっている。
なお、クランプ本体15の形状は四角柱形状に限定されるものではなく、円柱形状、多角柱形状などであってもよい。
【0019】
ワークテーブル3にワーク2が載置された状態で作業者が締結具13を締め付けると、前記したように腕部12が微小に撓み、その撓みによって発生する荷重がクランプ取付ネジ12aからクランプ部14に入力荷重として印加され、クランプヘッド16aがワーク2をワークテーブル3に押し付ける。
このとき、クランプヘッド16aからワーク2に印加される荷重を拘束力と称する。そして、荷重算出部17は、クランプヘッド16aからワーク2に印加される拘束力を算出する。
また、クランプ取付ネジ12aはクランプヘッド16aをワーク2に押し付ける荷重をクランプ部14に印加する荷重入力部として機能する。
【0020】
図3の(a)に示すように、荷重算出部17は、クランプ本体15(図2の(b)参照)のひずみを検出するひずみ検出手段としての2つのひずみ計17b、クランプ本体15のひずみに基づいて、クランプヘッド16a(図2の(b)参照)がワーク2(図2の(a)参照)をワークテーブル3(図2の(a)参照)に押し付けて固定するときの拘束力を算出する制御手段(計測制御部17d)、後記するID番号17e1や補正データ17e2を記憶するメモリ17e、拘束力の状態を表示する状態表示手段としてのインジケータ17a、荷重算出部17の駆動電力を発生する電源部として機能する受電部17f等を含んで構成される。
そして、荷重算出部17は、外部端末装置18から非接触に電力を供給されて動作する。
【0021】
外部端末装置18は、荷重算出部17に備わる受電部17fのアンテナ(ループアンテナ)を共振させる電磁波(起動電波)を発信する電力供給部18a、電池等の端末電源部18b等を含んで構成される。
【0022】
荷重算出部17の受電部17fは、外部端末装置18から送信される起動電波によってアンテナ(ループアンテナ)が共振するときの電磁誘導による起電力で、荷重算出部17を駆動する電力を発生する。
このように荷重算出部17は、外部端末装置18から非接触に電力を供給される。
【0023】
荷重算出部17が備わるクランプ本体15(図2の(a)参照)は、図示しない工作機がワーク2(図2の(a)参照)を加工する作業中に、潤滑油、冷却水、各種気体、切削屑等にさらされることから、高い耐環境性が要求される。
荷重算出部17を駆動する電力が外部端末装置18から非接触に供給される構成によって、例えば、外部電源との電気接点をクランプ本体15に設ける必要がなくなり、電気接点の腐食などの不具合の発生を抑えることができる。
換言すると、クランプ本体15に高い耐環境性を付与することができる。
なお、荷重算出部17の電源部は、無線によって電源供給される形態に限定されず、外部端末装置18などの外部電源から有線で電源が供給される形態であってもよいし、図示しない電池を内部に備える形態であってもよい。
【0024】
2つのひずみ計17bは、クランプ本体15(図2の(a)参照)に発生するひずみの検出値を電気信号に変換して出力する装置であり、クランプ本体15がワーク2(図2の(a)参照)とクランプ取付ネジ12a(図2の(a)参照)との間で圧縮される方向のひずみ(以下、圧縮ひずみと称する)を検出するように備わっている。
【0025】
ひずみ計17bは、図2の(a)に示すようにクランプ部14がワーク2をワークテーブル3に押し付けているときに、クランプ取付ネジ12aとクランプピン16の間で圧縮荷重が発生するクランプ本体15の圧縮ひずみを検出できる位置に取り付けられる。
その位置は限定するものではないが、例えば、図3の(b)に示すように、中実の四角柱形状を呈するクランプ本体15に、クランプ取付ネジ12aとクランプピン16を結ぶ線に直交する方向に貫通する貫通孔15aを形成し、貫通孔15aの対向する2つの側面(内面)にそれぞれひずみ計17bが取り付けられる構成が好適である。
【0026】
クランプ本体15に貫通孔15aを形成するとその周囲が肉薄になり、クランプ取付ネジ12aとクランプピン16の間でクランプ本体15に圧縮荷重が発生するとき、貫通孔15aの周囲の肉薄部では圧縮荷重に対する圧縮ひずみが大きくなる。
したがって、ひずみ計17bが圧縮ひずみを検出するときの分解能を高めることができ、ひいては、ひずみ計17bによる圧縮ひずみの検出精度を向上できる。
【0027】
また、図3の(b)に示すように、貫通孔15aの対向する側面(内面)に2つのひずみ計17bを備えることによって、クランプ本体15の撓みによる影響を好適に排除できる。
例えば、クランプ本体15の圧縮ひずみを検出している一方のひずみ計17bの検出値が他方のひずみ計17bの検出値と大きく異なる場合、クランプ本体15が、検出値の大きなほう(すなわち、強く圧縮されているほう)に大きく撓んでいることを、荷重算出部17の計測制御部17dが判定できる。
したがって、クランプ本体15の圧縮ひずみに基づいて拘束力を算出する計測制御部17dは、例えば、2つのひずみ計17bの検出値の平均値をひずみ計17bの検出値とするなど、クランプ本体15の撓みの影響を好適に排除して拘束力を算出できる。
【0028】
図3の(a)に示すように、2つのひずみ計17bが出力する電気信号は、それぞれアンプ17cで増幅されて計測制御部17dに入力される。
計測制御部17dは、ひずみ計17bが出力する電気信号(ひずみの検出値)と、メモリ17eに記憶される補正データ17e2と、に基づいて、クランプ本体15に発生している圧縮ひずみを算出する。
【0029】
さらに計測制御部17dは、算出した圧縮ひずみに基づいて、ワーク固定治具1(図2の(a)参照)がワーク2(図2の(a)参照)をワークテーブル3(図2の(a)参照)に固定するときの拘束力を算出する。
例えば、計測制御部17dは、クランプ本体15のヤング率とひずみの関係からクランプ本体15に発生している応力を算出可能であり、さらに算出した応力に基づいて、クランプ本体15に加わっている圧縮荷重を算出可能である。
そして、クランプ本体15に加わっている圧縮荷重がワーク2から入力されていることを考えると、その圧縮荷重に相当する反力がワーク2を固定する拘束力といえる。
そこで、本実施形態に係る計測制御部17dは、クランプ本体15の圧縮ひずみに基づいて算出する圧縮荷重を、ワーク2を固定する拘束力とする。
【0030】
メモリ17eには、おもに補正データ17e2とID番号17e1が記憶されている。
まず、補正データ17e2を説明する。
例えば、クランプ本体15の寸法誤差やひずみ計17bの検出誤差等によって、クランプ本体15に同じ圧縮荷重が印加された場合であっても、ひずみ計17bが圧縮ひずみを検出するときの検出値に誤差が生じる。
このように、検出値に誤差が生じると、ひずみ計17bの検出値に基づいて計測制御部17dが算出する拘束力に誤差が生じる。
つまり、計測制御部17dが算出する拘束力の精度が低下する。
【0031】
そこで、クランプ本体15に入力される圧縮荷重とひずみ計17bの検出値との関係に基づく補正データ17e2をメモリ17eに記憶しておく。
例えば、予め設定される、基準となる複数の拘束力の値(拘束力の基準値)を、クランプ部14(図2の(a)参照)がワーク2(図2の(a)参照)に印加するときの、ひずみ計17bの検出値(電気信号の電圧)を実験等によって取得する。
そして、拘束力の基準値とひずみ計17bの検出値(電気信号の電圧)の関係をマップ形式で示した補正データ17e2をメモリ17eに記憶しておく。
【0032】
例えば、図3の(c)に示すように、拘束力の基準値をP1,P2,P3としたとき、クランプ部14(図2の(a)参照)がワーク2(図2の(a)参照)にP1の拘束力を印加するときのひずみ計17bの検出値V1と、クランプ部14がワーク2にP2の拘束力を印加するときのひずみ計17bの検出値V2と、クランプ部14がワーク2にP3の拘束力を印加するときのひずみ計17bの検出値V3の関係を示すマップを補正データ17e2とする。
【0033】
拘束力の基準値に対するひずみ計17bの検出値は、前記したように、クランプ本体15(図2の(b)参照)の寸法誤差やひずみ計17bの測定誤差等によって、クランプ部14(図2の(b)参照)ごとに異なる。
したがって、クランプ部14ごとに固有の補正データ17e2が設定され、荷重算出部17(図2の(b)参照)は、自身が備わるクランプ部14の補正データ17e2をメモリ17eに記憶しておく構成が好適である。
なお、このような補正データ17e2は、例えばクランプ部14の製造時に、実験計測等で容易に求められる。
【0034】
荷重算出部17が起動すると、計測制御部17dは、ひずみ計17bから入力されるひずみの検出値に基づき、メモリ17eに記憶される補正データ17e2を利用して拘束力を算出する。
例えば、ひずみ計17bから入力されるひずみの検出値(電気信号の電圧)が図3の(c)の補正データ17e2に示す検出値V1とV2の間の値の場合、計測制御部17dは、比例配分等によって拘束力の基準値P1とP2の間の拘束力を算出する。
このように、補正データ17e2を利用して拘束力を算出することによって、ひずみの検出値の誤差を好適に吸収できる。
【0035】
次に、図3の(a)に示すID番号17e1を説明する。
荷重算出部17は、クランプピン16(図2の(a)参照)がワーク2(図2の(a)参照)をワークテーブル3(図2の(a)参照)に固定するときの拘束力を、クランプ本体15(図2の(a)参照)に発生する圧縮ひずみに基づいて算出する。
この拘束力は、クランプピン16からワーク2に入力される外力であることから、拘束力がワーク2の耐力以上であるとワーク2が塑性変形する。
また、拘束力が弱いと図示しない工作機の作業によってワークテーブル3とワーク2の固定が解除され、ワーク2に対する工作機の加工作業に支障が生じる。
【0036】
そこで、クランプピン16がワーク2に印加する拘束力は、ワーク2に塑性変形が発生せず、且つ工作機の作業によってワークテーブル3とワーク2の固定が解除されない力として設定されることが好適であり、ワーク2の素材や形状によって適宜決定されることが好ましい。
【0037】
例えば、ワーク固定治具1(図1参照)は、それぞれに拘束力の固有値(以下、固有拘束力と称する)が設定されるように構成される。
そして、ワーク2(図1参照)をワークテーブル3(図1参照)に固定する作業者は、ワーク2の素材や形状に応じて最適な拘束力を決定するとともに、最適な拘束力が固有拘束力として設定されているワーク固定治具1を選択して使用する。
【0038】
メモリ17eに記憶されるID番号17e1は、当該メモリ17eが備わる荷重算出部17が組み込まれたワーク固定治具1に設定される固有拘束力を識別するためのデータ(識別データ)であり、例えば、1つの固有拘束力の値に対応して1つのID番号17e1が割り付けられる。
そして、荷重算出部17の計測制御部17dは、前記したように算出する拘束力とID番号17e1に基づいてインジケータ17aを制御する。
【0039】
計測制御部17dは拘束力を算出すると、メモリ17eからID番号17e1を読み出し、当該ID番号17e1に対応する固有拘束力を取得する。
そして、算出した拘束力が固有拘束力より大きい場合、等しい場合、小さい場合に場合分けしてインジケータ17aを制御する。
このように、本実施形態に係る計測制御部17dは算出した拘束力とワーク固定治具1に設定される固有拘束力との大小関係を判定する。
【0040】
例えば、インジケータ17aが、図3の(a)に示すように、上向きの三角形の発光部(上昇指示部17aU)、四角形の発光部(最適指示部17aC)、下向きの三角形の発光部(下降指示部17aD)を備える場合、計測制御部17dは、算出した拘束力が固有拘束力と等しいときは最適指示部17aCを発光させ、算出した拘束力が固有拘束力より大きいときは下降指示部17aDを発光させ、算出した拘束力が固有拘束力より小さいときは上昇指示部17aUを発光させる。
このように、計測制御部17dは、算出した拘束力と固有拘束力の大小関係の判定結果をインジケータ17aを介して表示する。
【0041】
図1に示すワーク2をワークテーブル3に固定する作業者は、上昇指示部17aU(図3の(a)参照)が発光しているときは締結具13をさらに締め付けて、クランプピン16がワーク2を固定する拘束力を高める。
一方、下降指示部17aD(図3の(a)参照)が発光しているとき、当該作業者は締結具13を緩めて、クランプピン16がワーク2を固定する拘束力を低くする。
そして、最適指示部17aC(図3の(a)参照)が発光した状態で、当該作業者は締結具13の締め付け作業を止める。
【0042】
ワーク2は、ワーク固定治具1(図2の(a)参照)に設定される固有拘束力でワークテーブル3に固定される。
つまり、作業者は、インジケータ17aの最適指示部17aCが発光するように締結具13の締め付け作業をすることで、ワーク2をワーク固定治具1(図1参照)の固有拘束力で、容易にワークテーブル3に固定できる。
【0043】
なお、固有拘束力は、所定の幅を持って設定されていてもよい。
この場合、計測制御部17dは、算出した拘束力が固有拘束力の範囲内にあるときは最適指示部17aCを発光させ、算出した拘束力が固有拘束力の上限より大きいときは下降指示部17aDを発光させ、算出した拘束力が固有拘束力の下限より小さいときは上昇指示部17aUを発光させる。
【0044】
また本実施形態の状態表示手段は、上昇指示部17aU、最適指示部17aC、下降指示部17aDからなるインジケータ17aとしたが、例えば、赤色、緑色、オレンジ色の3色で発光可能なLED(Light Emitting Diode)からなる状態表示手段としてもよい(図示せず)。
この場合、計測制御部17dは、例えば、算出した拘束力が固有拘束力と等しい場合は図示しないLEDを緑色で発光させ、算出した拘束力が固有拘束力より大きいときは図示しないLEDを赤色で発光させ、算出した拘束力が固有拘束力より小さいときは図示しないLEDをオレンジ色で発光させるように構成されればよい。
【0045】
その他、例えばブザー音の違いによって、算出した拘束力と固有拘束力の大小関係を示す状態表示手段であってもよい。
つまり、算出した拘束力が固有拘束力と等しい場合と、算出した拘束力が固有拘束力より大きい場合と、算出した拘束力が固有拘束力より小さい場合と、を識別可能であれば、状態表示手段の形態は限定されない。
【0046】
本実施形態に係るクランプ本体15(図3の(b)参照)は、例えば図4に示すように組み立てられる。
インジケータ17aと、回路基板17PWBと、が取り付けられたパネル部材17PNLが、2つのひずみ計17bが取り付けられている貫通孔15aを塞ぐようにクランプ本体15に取り付けられる。
なお、回路基板17PWBには、ひずみ計17bが接続されるコネクタ17CN、受電部17f、荷重算出部17の機能を実現するためのワンチップマイコンやメモリなどの電子部品(図示せず)が実装されていることが好適である。そして、受電部17fは、外部端末装置18(図3の(a)参照)から送信される起動電波を受信しやすいように、例えば、クランプ本体15の背面(パネル部材17PNLが固定される面と対向する面)の側に備わることが好ましい。
【0047】
回路基板17PWBは、インジケータ17aと電気的に接続され、さらに、パネル部材17PNLから貫通孔15aに向かって起立するように取り付けられる。このような構成によって、パネル部材17PNLが貫通孔15aを塞ぐようにクランプ本体15に取り付けられたとき、回路基板17PWBを貫通孔15a内に収納することができる。
また、パネル部材17PNLは、ネジなどの締結部材SCでクランプ本体15に固定される。
【0048】
2つのひずみ計17bは、例えばフィルム基板で構成され、端子部17btがフレキシブルケーブルとして形成される構成とすれば、貫通孔15aに収納された回路基板17PWBに実装されるコネクタ17CNと2つのひずみ計17bの端子部17btを容易に接続できる。
【0049】
そして、一方がパネル部材17PNLで閉塞された貫通孔15aにモールド材を充填すると、貫通孔15a内に備わる2つのひずみ計17bおよび回路基板17PWBが外部環境から遮断されたクランプ本体15を構成できる。
このように、2つのひずみ計17bおよび回路基板17PWBが外部環境から遮断されると、図示しない工作機がワーク2(図2の(a)参照)を加工する作業中に発生する、潤滑油、冷却水、各種気体、切削屑等から2つのひずみ計17bおよび回路基板17PWBを保護することができ、高い耐環境性を備えたクランプ部14を構成できる。
【0050】
なお、貫通孔15aに充填する素材は、図示しない工作機がワーク2(図2の(a)参照)を加工する作業中に発生する、潤滑油、冷却水、各種気体、切削屑等に対する耐性を有し、かつ、電気的に絶縁性能を有する素材であれば、モールド材に限定するものではない。
【0051】
以上のように構成されるクランプ部14の荷重算出部17(図3の(a)参照)は、外部端末装置18の電力供給部18a(図3の(a)参照)が受電部17f(図3の(a)参照)に接近して起動電波を発信し、受電部17fの起電力で電力が発生すると起動する。
例えば、ワークテーブル3(図1参照)にワーク2(図1参照)を固定する作業者が、図3の(a)に示す外部端末装置18の電力供給部18aを荷重算出部17の受電部17fに近接させて外部端末装置18に備わる図示しないスイッチをONすると、電力供給部18aから受電部17fに向けて起動電波を発振する構成とすれば、作業者は、ワーク2をワークテーブル3に固定するときに荷重算出部17を起動できる。
そして、計測制御部17dは、ひずみ計17bからアンプ17cを介して入力される電気信号(ひずみの検出値)に基づいて拘束力を算出し、算出した拘束力に基づいてインジケータ17aを制御する。
【0052】
ワークテーブル3(図1参照)にワーク2(図1参照)を固定する作業者は、前記したようにインジケータ17a(図2の(b)参照)の表示を確認しながら、締結具13(図2の(a)参照)の締め付け作業をすることで、容易に、ワーク固定治具1(図2の(a)参照)に設定される固有拘束力でワーク2をワークテーブル3に固定できるという優れた効果を奏する。
【0053】
また、本実施形態に係る荷重算出部17(図3の(a)参照)は、電源用の部品を備えることなく、外部端末装置18から無線による電磁誘導で電力が供給されることから、荷重算出部17が備わるクランプ本体15(図2の(a)参照)を小型化することができ、ひいては、ワーク固定治具1(図1参照)を小型化できる。
【0054】
なお、本実施形態に係る荷重算出部17(図3の(a)参照)は、作業者が、ワーク2を固定する作業の間、外部端末装置18の電力供給部18a(図3の(a)参照)を荷重算出部17の受電部17f(図3の(a)参照)の近傍に保持しておくことが好ましい。
【0055】
そこで、例えば図5の(a)に示すように、クランプ本体15の背面(パネル部材17PNL(図4参照)が固定される面と対向する面)に磁石15mを備え、外部端末装置18を磁力で吸着保持可能に構成してもよい。この構成によると、作業者は、ワーク2を固定する作業の間、外部端末装置18を手に持った状態でいることが不要となり、作業者の負担を軽減できる。
【0056】
また、図5の(b)に示すように、外部端末装置18を、例えば端末電源部18b(図3の(a)参照)を内蔵する本体部18BDと電力供給部18a(図3の(a)参照)を内蔵する小型のヘッド部18HDに分離し、ヘッド部18HDのみをクランプ本体15の背面に磁石15mで吸着する構成であってもよい。小型のヘッド部18HDは軽量化することができ、ヘッド部18HDを磁石15mで確実に吸着保持することができる。この構成によっても、作業者の負担を軽減できる。
【0057】
《変形例1》
本発明は、発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜設計変更が可能である。
例えば、図6の(a)に示すように、荷重算出部17に、外部端末装置18に向けてデータを無線送信可能な本体側送受信部17gを備え、外部端末装置18に、本体側送受信部17gが送信するデータを受信する端末側送受信部18dを備える構成としてもよい。
なお、図6の(a)において、図3の(a)に示す構成要素と同じ要素には同じ符号を付し、詳細な説明は適宜省略する。
【0058】
荷重算出部17の本体側送受信部17gは、計測制御部17dが算出する拘束力をデータとして外部端末装置18の端末側送受信部18dに送信する。
そして、外部端末装置18に、端末制御部18cと表示部18eを備え、端末側送受信部18dが受信したデータを端末制御部18cがデータ処理し、表示部18eに拘束力を数値として表示するように構成してもよい。この構成の場合、外部端末装置18の表示部18eは、例えば液晶表示装置などを備えて数値を表示可能であることが好適である。
また、本体側送受信部17gは、外部端末装置18にデータを送信しやすい位置に備わることが好ましく、例えば、受電部17fと同様に、クランプ本体15(図4参照)の背面(パネル部材17PNL(図4参照)が固定される面と対向する面)の側に配置されることが好適である。
【0059】
この構成によると、ワークテーブル3(図1参照)にワーク2(図1参照)を固定する作業者は、外部端末装置18の表示部18eに表示される拘束力を確認しながら、締結具13(図1参照)を締め付けることができ、容易に好適な拘束力でワークテーブル3にワーク2を固定できる。
【0060】
また、外部端末装置18に、メモリカードなど、着脱式の記憶媒体18mを装着可能なスロット18sを備える構成としてもよい。そして、端末制御部18cが、端末側送受信部18dが受信したデータをデータ処理し、拘束力を記憶媒体18mに書き込む構成とすれば、荷重算出部17の計測制御部17dが算出する拘束力を記憶媒体18mに保存できる。このとき、ID番号17e1をともに記憶媒体18mに書き込む構成としてもよい。
【0061】
また、端末制御部18cが、記憶媒体18mに保存されている拘束力やID番号17e1を読み出し、表示部18eに表示可能な構成とすれば、作業者は、後日、記憶媒体18mに保存されている拘束力を確認できる。このような構成によると、作業者は、記憶媒体18mに保存されている拘束力を、ワークテーブル3(図1参照)にワーク2(図1参照)を固定するときの情報として利用することができる。したがって、作業者がワーク2を常に同じ拘束力でワークテーブル3に固定でき、作業品質を均一に維持できる。
【0062】
さらに、ワーク固定治具1(図1参照)を校正したときの校正データを本体側送受信部17gを介して送信する構成とし、端末側送受信部18dが受信した校正データを端末制御部18cが記憶媒体18mに書き込む構成とすれば、校正データを記憶媒体18mに保存できる。そして、ワーク固定治具1の設定を変更するときや再度校正するときに、記憶媒体18mに保存した校正データを使用できる。
【0063】
また、外部端末装置18に表示部18eを備える場合、荷重算出部17にインジケータ17aを備えない構成であってもよい。
【0064】
また、図示はしないが、表示部18eの代わりに、上昇指示部、最適指示部、下降指示部からなるインジケータを備える外部端末装置18とし、荷重算出部17の計測制御部17dは、算出した拘束力と固有拘束力の大小関係の判定結果をデータとして本体側送受信部17gから送信する構成としてもよい。
外部端末装置18の端末制御部18cが、荷重算出部17の本体側送受信部17gから送信される当該データに基づいて外部端末装置18のインジケータを制御し、荷重算出部17の計測制御部17dが算出した拘束力と固有拘束力の大小関係を外部端末装置18に備わるインジケータで表示する構成とすれば、ワークテーブル3(図1参照)にワーク2(図1参照)を固定する作業者は、外部端末装置18のインジケータを確認しながら、締結具13(図1参照)を締め付けることができる。
【0065】
《変形例2》
また、図6の(b)に示すように、外部端末装置18の端末側送受信部18dから荷重算出部17の本体側送受信部17gにデータ送信可能な構成としてもよい。
なお、図6の(b)において、図6の(a)に示す構成要素と同じ要素には同じ符号を付し、詳細な説明は適宜省略する。
【0066】
そして、外部端末装置18に、例えば、ワーク固定治具1(図1参照)の固有拘束力を入力可能な入力部18g(テンキーなど)を備え、端末制御部18cは、入力部18gから入力されたデータを端末側送受信部18dを介して荷重算出部17に向けて送信可能な構成とする。
【0067】
ワークテーブル3(図1参照)にワーク2(図1参照)を固定する作業者が、入力部18gから、ワーク固定治具1(図1参照)に設定する固有拘束力と、当該固有拘束力に対応するID番号17e1を入力すると、端末制御部18cは、入力された固有拘束力とID番号17e1を端末側送受信部18dを介して荷重算出部17の本体側送受信部17gに送信する。
荷重算出部17の本体側送受信部17gは、受信したデータ(固有拘束力とID番号17e1)を計測制御部17dに入力し、計測制御部17dは入力されたデータに基づいて、メモリ17eに記憶される固有拘束力とID番号17e1を更新する。
すなわち、メモリ17eに記憶される固有拘束力とID番号17e1を、外部端末装置18から送信された固有拘束力とID番号17e1で更新する。
【0068】
この構成によると、作業者は、ワーク固定治具1(図1参照)に設定される固有拘束力とID番号17e1を、外部端末装置18を利用して容易に変更することができる。
【0069】
さらに、図6の(a)に示す着脱式の記憶媒体18mを装着可能なスロット18sを備え、記憶媒体18mに記憶された拘束力をワーク固定治具1(図1参照)に設定する固有拘束力として読み出し、当該固有拘束力に対応するID番号17e1とともに端末側送受信部18dを介して荷重算出部17の本体側送受信部17gに送信する構成とすれば、記憶媒体18mに記憶された拘束力を、固有拘束力としてワーク固定治具1に設定できる。
【0070】
また、表示部18e(図6の(a)参照)に荷重算出部17の計測制御部17d(図6の(a)参照)が算出する拘束力を表示し、さらに、入力部18g(図6の(b)参照)から入力される固有拘束力とID番号17e1に基づいてメモリ17e(図6の(a)参照)が更新される構成であってもよい。
【0071】
さらに、図1に示すように、ワーク2を上方からワークテーブル3に押し付けるワーク固定治具1に限定されず、図示はしないが、ワークテーブル3に起立する係止部等に向かって、ワーク2を側面から押し付けて固定する固定治具に本実施形態、変形例1および変形例2を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 ワーク固定治具
2 ワーク
3 ワークテーブル(テーブル)
10 脚部
12 腕部
12a クランプ取付ネジ(荷重入力部)
14 クランプ部
17 荷重算出部
17a インジケータ(状態表示手段)
17b ひずみ計(ひずみ検出手段)
17d 計測制御部(制御手段)
17e1 ID番号(識別データ)
17e2 補正データ
17f 受電部(電源部)
18 外部端末装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テーブルに載置されるワークと荷重入力部の間に配設され、前記荷重入力部から印加される入力荷重で前記ワークを前記テーブルに押し付けて固定するクランプ部と、
前記クランプ部から前記ワークに印加される拘束力を算出する荷重算出部と、を備えるワーク固定治具であって、
前記荷重算出部は、
前記クランプ部が前記ワークを前記テーブルに押し付けているときに当該クランプ部に発生する圧縮ひずみを検出するひずみ検出手段と、
前記ひずみ検出手段が検出する前記圧縮ひずみの検出値に基づいて前記拘束力を算出する制御手段と、を含んで構成されることを特徴とするワーク固定治具。
【請求項2】
前記制御手段は、前記ひずみ検出手段が前記圧縮ひずみを検出するときの誤差を、前記クランプ部ごとに設定される補正データによって吸収して、前記拘束力を算出することを特徴とする請求項1に記載のワーク固定治具。
【請求項3】
前記荷重算出部は、
前記クランプ部ごとに個別に設定される前記拘束力の固有値を識別するための識別データを有し、
前記制御手段は、前記クランプ部に設定される前記拘束力の固有値を、前記識別データに基づいて取得することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のワーク固定治具。
【請求項4】
前記制御手段は、前記識別データに基づいて取得した前記拘束力の固有値と前記圧縮ひずみの検出値に基づいて算出した前記拘束力の大小関係を判定し、
前記大小関係の判定結果を、前記荷重算出部に備わる状態表示手段を介して表示することを特徴とする請求項3に記載のワーク固定治具。
【請求項5】
前記荷重算出部は、
外部端末装置から送信される電磁波を受信して電磁誘導によって起電力を発生する電源部を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のワーク固定治具。
【請求項6】
前記クランプ部は、
前記テーブルに起立する脚部から前記ワークの上方に伸延する腕部に備わる前記荷重入力部と前記ワークの間に備わり、
前記腕部が前記脚部に締結されたときに前記荷重入力部から前記入力荷重が印加されることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のワーク固定治具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−200975(P2011−200975A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70623(P2010−70623)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000233044)株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス (276)
【Fターム(参考)】