説明

一つのレーザ光源を用いたダブル光ピンセットの光干渉およびクロストークを低減させる方法、およびその装置

一分子の機構を実験的に研究するためには高い力感度と低ドリフト性が要求され、これらは力測定のための光ピンセット装置を用いた光ピンセットによって達成される。CW赤外レーザビームは、偏光子によって分離され、高開口数の対物レンズで集光され、二つのトラップを生み出す。同じレーザが、両方のトラップを生み出し、かつ、後ろ焦点面干渉法による力測定にするのに使用される。光学顕微鏡部分に入射する二つのビームは互いに直交する偏光になるようにされるのであるが、それにも関らず、干渉および大きな寄生シグナルが生じてしまう。実験の結果を光線光学的モデルに対比したところ、干渉パターンは、光学顕微鏡部分のレンズ表面およびスライドガラスで偏光が回転することにより引き起こされている(ことが分かった)。クロストークを低減させるための二つの方法とは、光学顕微鏡部分を二回通過することによる偏光修正と、分離されたレーザの一方を振動数シフトさせること、である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一つのレーザ光源を用いたダブル光ピンセットを含む装置に生じる光干渉および/またはクロストークを低減あるいは最小化するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ここ20年ほどの間、大きくは細胞全体から小さくは個々のタンパク質に至る様々なサイズの生物学的な対象物を精査するのに光ピンセットが使用されるようになってきている。ダブル光ピンセットに基づく力測定装置は、当初はバクテリアなどの非球形物を操作するのに使用されていたが、次第に、核酸の単分子や核酸とタンパク質との相互作用を研究するのに重要なツールとなってきている。
【0003】
一つのレーザ光源を用いたダブル光ピンセットの主な特徴として、トラップの絶対位置は外部からの撹乱に影響されやすいものの、トラップの相対位置は正確に与えることができる点が挙げられる。レーザビームの操作(steering)は、ガルバノメータ(検流計)や、圧電駆動による微小傾斜ステージ、音響光学的偏向器によって達成されうる。後ろ焦点面法によって力信号をトラップの変位、すなわち外部からの振動、から分離できるところ、一の微粒子(bead)に作用する力は後ろ焦点面法によって測定されることが多い。二つのトラップとする場合、検出のためにそれらを容易に識別できるようにすることはもちろん、互いの干渉を低減させるために直交偏光を示すようにすることが通常である。異なった波長のレーザも検出に使用できるが、トラップレーザと検出レーザとの相対ドリフトにより寄生信号が生じる恐れがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
二つのトラップビームのうち一方が力測定に使用された場合、その一方は、このダブルトラップに使用される第2のビームから区別されなければならない。この目的のため、直交偏光が使用されうる。しかしながら、直線偏光された光が光ピンセット装置に設けられるような顕微鏡対物レンズ系を通過するとき、その直線偏光光は回転してしまい、光学顕微鏡部分から射出されるときには揃った直線偏光とは違ってきている。結果として、このような構成で力測定を行ってしまうと、重大なクロストークが生じてしまう恐れがある。
【0005】
本発明の目的は、一つのレーザ光源を用いたダブル光ピンセットによる力測定の際に生じるクロストークを低減させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一の実施態様において、上記目的は、顕微鏡レンズおよびコンデンサーを二回通し、さらに、4分の一波長板によって偏光の回転を補償することにより偏光(の精度)を修正するという本発明に従った方法によって達成される。
【0007】
他の態様において、上記目的は、音響光学的振動数シフターを用いて、一つのレーザ光源から発射された二つのビームのうちの一方の振動数をシフトさせるという本発明に従った方法によって達成される。
【0008】
本発明は、また、上記二つの方法のうちの少なくとも一方を実現するダブル光ピンセット装置に関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】二つのレンズからなるシステムを光が伝播する様子を示す図。
【図2】図1の二つのレンズからなるシステムを通過するガウシアンビームの偏光が回転する様子を示す図。
【図3】本発明に係るダブル光ピンセット装置の構成を示す図。
【図4】光学顕微鏡部分の構成を示す図。
【図5】図3および図4の装置中の圧電駆動ミラーによって可動側のトラップ光が受ける偏位を記述するための幾何学的パラメータを示す図。
【図6】図3および図4の装置中の第2対物レンズの後ろ焦点面における干渉パターンを示す図。
【図7】所定開口数で、二つのビームのうちの可動側ビームが偏向されるときに、理論的に期待される位置敏感型検出器の規格化された出力信号を示す図。
【図8】二つのトラップのスティフネスおよび分離に対する寄生信号の依存性を示す図。
【図9】本発明に係る装置の一実施形態において、偏光修正手段を示す図。
【図10】本発明の振動数シフターを有する他の実施形態でトラップされた二つの粒子の力測定の結果を示す図。
【図11】一つのDNA分子に対して力測定を行った結果を示す図。
【図12】173ヌクレオチドRNA断片をほどいて伸ばしたことによって誘導される力の測定を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
最初に、我々は、顕微鏡における偏光の回転について説明する。従来の偏光顕微鏡では、レンズ表面やスライドガラスによって偏光面が回転作用を受け、その結果、サンプルの像を取得するにあたりコントラストが減じられてしまうということがあった。偏光の回転を簡単に説明すると次のようになる。直線偏光ビームがレンズ表面で屈折する場合、レンズの位置や姿勢により、(光線の)電場は、入射面に対して平行な成分と入射面に対して直交する成分とに分けられる。フレネルの式によりそれら二つの成分は異なる屈折をするので、(光線の)全体の電場は回転することになる。詳細に後述するように、ダブル光ピンセットで力測定をする場合、上記の現象により種々の困難が生じてしまう。
【0011】
説明を簡単にし、偏光の回転が光ピンセットに及ぼす影響を定量的に理解するため、光の伝搬を単純モデルで説明する。これらの影響は、点対称操作系(centered systemsを点対称操作系と解釈した)に対して有効であるとともに、場の対称性に関する主要な結果は複合的な対物レンズ(complex objectives)にも当てはまる。図1に示すように、トラップされた粒子からの光を集光するトラップ対物レンズとコンデンサーとは、互いに対向配置された二つの平凸レンズ(LaとLb)でモデル化される。ここで、二つの平凸レンズの半径をrLとし、ガラス屈折率をiGRとする。二つのレンズは実質同質であり、同じ軸上に配置され、一方のレンズの後ろ焦点面は他方のレンズの前焦点面に一致する。この二つのレンズからなる系に入射するガウシアンビームは、平行で、直線偏光とされ(図2aに示される入射場)、フレネルの式に従った屈折を示すものとする。光の伝搬は、光線光学の範囲で考え、球面収差については無視する。
【0012】
第2レンズLbの後ろ焦点面に生じる電場は、図2bに示されるようになる。x軸とy軸を除き、偏光面が回転を受ける。ここで、x軸とy軸とは光軸に対して垂直であり、入射偏光面に対して一方は直交し他方は平行である。図2bにおいて、等高線のラインは、偏光面の回転角−8°、−6°、−4°、−2°、2°、4°、6°、8°に対応し、見やすいように色の濃淡をつけてある。x1軸とy軸とは、第1の二等分線と第2の二等分線である。後ろ焦点面上で中心から離れる任意の方向において、偏光の回転の大きさは開口数に正相関して大きくなる。(図2cでは、二つのレンズからなるシステムで、y1軸(y1>0)上に生じる偏光面の回転を図示している。)偏光回転の最大値は、開口数に依存して決まる。
なお、最大値は、x1軸およびy1軸の極近傍において生じ、厳密にはこれら軸上ではなく、軸の極近傍で生じるものである。(図2dにおいて、偏光面の回転を示す。実線は開口数が0.20の場合、点線は開口数が0.30の場合、鎖線は開口数が0.45の場合、一点鎖線は開口数が0.49の場合である。)
【0013】
図3および図4を参照し、本発明に係るダブル光ピンセット装置を説明する。図3の装置は、特別設計の上下反転させた顕微鏡である。光学的捕捉および力測定のために、この装置は、CW直線偏光でダイオード励起のNd:YVO4レーザ光源(1.064μm、10W)を備える。レーザビームは、L1およびL2の二つのレンズを有するビーム拡大器を通って広がる。そして、二つの独立したトラップを生じさせるために、半波長板(λ/2)と第1偏光ビームスプリッタ(C1)との組み合わせを用いてレーザビームを偏光させ、レーザビームを分離させる。この二つのビームのうちの一方は、フィードバックループで作動する位置センサと組み合わせされた圧電駆動のミラーによってその方向が変えられる(図3中の圧電駆動ステージ)。二つのビームが第2偏光ビームスプリッタ(C2)によって再合成されるところ、二つのビームは互いに直交する偏光となっており、二つの離れたトラップを得るために、二つのビームの方向は互いに少し傾いている。レンズ(L3)と(L4)はビームの操作(操舵)を可能にし、圧電駆動ステージに取り付けられたミラーの中心の像をトラップ対物レンズ(図3の顕微鏡対物レンズ)の後ろ焦点面に結像させる。二つのビームは、それから、第2の対物レンズ(図3のコンデンサーレンズ)によって平行光とされる。最後に、グランレーザー偏光子が二つのビームの一方を反射し、レンズ(L5)が前記第2対物レンズの後ろ焦点面を位置敏感型検出器(PSD)に結像させる。図3に示されるように、本発明の装置における光路の一部は、CCDカメラによる撮像にも使用し得る。空気流による振動を避けるため、光路は完全に外界から密封される。機械的部分のほとんどは、ドリフトや振動を減じるように設計されている。変形例として、他の適切な偏光子がグランレーザー偏光子に代えて使用可能である。
【0014】
光ピンセットにおける力測定において、一般的に、光干渉位置検出においては、(微)粒子を通過するとともに第1対物レンズで捉えられるレーザ光が使用され、また、ビデオ撮像においては、白色光が使用される。本発明に係る装置では、力測定にあたって、後ろ焦点面光干渉を使用する。本発明の方法は、トラップされた微粒子の一つによって回折されたレーザ光がコンデンサーレンズ(第2対物レンズ)の後ろ焦点面に示すパターンを四象限光ダイオードかその他の好適な位置敏感型検出器(PSD)に結像させることによって評価することを含む。
【0015】
トラップ対物レンズに入射する二つのビームが互いに直交する偏光面を有するので、もし、トラップしている微粒子のうちの一つについてその位置を分離独立して検出したいとするならば、トラップに使用している二つのビームを偏光子によって分けることが必要である。直線偏光のビームは、 顕微鏡内の光学素子を通過する際に、不均一な偏光面の回転作用を受けてしまうので、偏光手段によって前記二つのビームを正確に分離させることは困難なことである。もし、第2対物レンズの後ろ焦点面の後で一のビームの偏光状態を偏光子を用いてチェックすると、図2bで示した計算の通り、入射光に対して直交する偏光面を有する伝播光のパターンは十字型になることが観測され得る。すなわち、偏光面の回転によって二つのビームの干渉が生じることになり、生じるクロストークは各ビームから得られるそれぞれの信号を単純に加算したものとはならなくなる。
【0016】
第2対物レンズの後ろ焦点面に現れる干渉パターンを理解するために、図1のモデルを参照する。説明を簡単にするために、理論的考察として微粒子がトラップされない場合を考える。干渉パターンを表すためには、検出面における二つの光の振幅と位相とが必要である。このため、顕微鏡とその検出面(図4参照)について詳細に考察し、特に、像面(A1)、(A2)、(B)、(C)、(D)について考える。
【0017】
第2対物レンズの後ろ焦点面(C)は、検出面(D)と対の関係(conjugated)にある。また、二つの対物レンズの後ろ焦点面(B)と(C)とは対の関係にある。さらに、レンズL3とL4とにより、対物レンズの後ろ焦点面(B)は、第1ビームに関しては、圧電駆動ステージ(x'軸とy'軸とで方向づけられる)に設けられたミラーの中心に位置する像面(A)に対になる。同様に、レンズL3とL4とにより、対物レンズの後ろ焦点面(B)は、第2ビームに関しては、対物レンズの後ろ焦点面(B)が像面(A)と距離的に等価な像面(A2)と対の関係になる。すなわち、像面A1と像面A2とは検出面(D)と対の関係になる。
【0018】
捕捉(traps)が重なる場合には、その二つのビームは正確に同じ角度で顕微鏡に入射する。像面A1の位相(ΔφA1)と像面A2の位相(ΔφA2)との間の位相差(位相変動)(ΔφA)は、像面A1に関して一定であり、すなわち、ΔφA = ΔφA1 −ΔφA2 = Δφ0.である。この位相差(位相変動)(ΔφA)は、二つのビームが進む光路長の相対的距離差に依存するものであり、無くすことは難しい。なぜならば、それは、光学素子の設置位置が光の波長以下(すなわち、サブミクロンオーダー)でずれているかどうかに関係し、熱的なドリフトにも鋭敏に影響されてしまうものである。二つのトラップを分離させるために、圧電駆動ステージに設けられたミラーをy`軸回りに角度θ傾斜させなければならない。二つのビームが平行であるとき、回転軸が光路の中心にあり、かつ、θ<<1であるならば、その位相は光伝播方向に対して垂直なすべての面に対して一定になり、特に、その位相は図5の線分OHに対して一定である。Oがミラーの回転軸であるとき、Oで反射する光線1の位相は、ビームの方向が変わったとしても、像面A1に対して一定である。光線1とは違って、点J(その座標をx'とする)を通る光線2は、像面A1に達する前に、光路HJ(= 2θx')をさらに通過しなければならず、そのため、その位相は、φA1(x',θ) =φA1(0,θ) + 2θx'2π/λのようになる。像面A2がそれでもなお一定であるとき、像面A1と像面A2との間の位相差(位相変動)は、簡単な式であらわされる。
【0019】
【数1】

【0020】
ここで、λは、光の波長である。像面(A1、A2)と検出面との間の拡大率がαであるとするならば、検出面(D)における二つのビーム間での位相差(位相変動)は、次の式で得られる。
【0021】
【数2】

【0022】
実際の顕微鏡対物レンズを通過する光の振幅と位相を計算することは困難であり、各要素の曲率、材質、皮膜などの情報が必要になってくる。それでも、場の対称性は図1に示したシンプルな例と同じである。したがって、面(D)における二つのビームの電場振幅を記述するとともに偏光子によって伝えられる成分を評価にあたり、図1に示したモデルを使用する。
【0023】
二つのビーム間の位相変動とそれらの電場振幅とが与えられたとき、検出面(D)上に現れる干渉パターンを求めることができる。ここで我々は、特定のもっとも利用価値の高いケースを考えることとし、第2対物レンズの後の偏光子を回転させて、動くトラップから生来する光の最大値を避けるようにする場合を考える。ベクトルε1=E1eiωtは、止まっているトラップから来る光の検出面における電場を表し、ベクトルε2=E2eiωtは、動くトラップから来る光の検出面における電場を表す。検出面における光強度I は次のように表される。
【0024】
【数3】

【0025】
式(1)の第1項と第2項との和は、ガウシアンビームの振幅にほぼ等しく、我々はそれを次のように書き直すことにする。
【0026】
【数4】

【0027】
もし、(総ての)光学素子が正確に光軸に中心を合わせて配置され、二つのガウシアンビームが対物レンズの後ろ焦点面の中心に照射されるようになっていれば、系の対称性により、A(x, y, θ) = A(x, -y, θ)が成り立つ。しかしながら、θがゼロではないとき、動くトラップに関し、偏光の回転は、x>0とx<0とで対称ではない。図1に示されるように、ビームが空気中からLaの球面状の界面に入射して屈折されるとき、上側の光線は下側の光線に比べて大きな角度で屈折する。ビームがLbの球面状の界面から空気中に出る際に屈折するとき、前記で上側光線とした光は、今度は、前記で下側光線とした光よりも小さいアングルで屈折を受ける。光が空気中からガラスに入射する際と光がガラスから空気中に出る際とではフレネル係数が異なってくるので、二つの光線の光路が対称性を持っていたとしても、二つの光線が受ける偏光面の回転(量)は前記二つのレンズを通過した後では同一にはならない。すなわち、数か所を除いて、A (x, y, θ) ≠ A (-x, y, θ)ということになる。
【0028】
式(1)の最後の項は干渉縞を表すものであり、我々はこれを次のように書き直すことにする。
【0029】
【数5】

【0030】
繰り返しになるが、もし光学素子の配置が完璧に正確であれば、系の対称性により、B(x, y, θ)=−B(x, -y, θ)が成り立つ。他方、上記に説明したように屈折は非対称であるので、やはり、数か所を除いて、B(x, y, θ) ≠ B(-x, y, θ)ということになる。
【0031】
光学素子の配置が完璧に正確であることを仮定すると、計算される明度は図6のようになる。(この図は、1ミリラドで開口数が0.47の二つのビーム間の角度差から得られる。)干渉縞はy軸に対して平行であり、4分割の各象限において、隣り合う縞同士の間隔は、αλ/2θである。干渉縞のコントラストは偏光の回転の絶対量に伴って増加し、コントラスト反転は、電場に相対的方向性により、左から右へ、上から下へ行くにときに生じる。
【0032】
位置敏感型検出器からの期待され得る規格化された出力信号値を計算するために、x>0の明度とx<0の明度との差分を取り、この差分を全体の明度で割る。二つのビーム間の角度を増大させるとき、系の対称性により、干渉縞は検出信号に対して影響を与えることはなく、非対称の屈折のみによって角度に対する線形的な依存性が生じることがわかる(2.5ミリアドのとき、規格化された差分は-5 ×10-6になる)。
【0033】
実際的には、ビームは、数マイクロメータ単位の正確度でしか位置合わせできない。このような限界の影響を説明するにあたり、次のような場合を考えることとする。すなわち、二つのビームのうちの一方がその中心位置からわずかに平行移動したとする。典型的な例として、もし、固定されたトラップを生じさせるビームが、トラップ対物レンズの後ろ焦点面(B)においてy軸に沿って5マイクロメータ分平行移動したとしても、検出面における像は、依然として、正確に位置合わせされた場合とほぼ同等になる。検出器から出る信号は、しかしながら、図7に示されるようにかなり異なってくる。図7においては、二つのビームがあって、その可動側のビームが偏位され、開口数NAが0.47である場合における位置敏感型検出器の理論的に正規化された出力信号が示されている。固定されたトラップは、検出面(D)上でy軸に沿って5マイクロメール移動させられる。二つのビーム間の位相差φ0は、0(鎖線)、π/3(点線)、π/2 (実線)、π (一点鎖線)である。寄生信号の大きさは、ビームの移動にともなってより大きくなり(データは不図示)、位相差φ0に依存していることが示されている。トラップが動いて離れるときの信号の変化は、検出面における新たな干渉縞の出現に密接に関連している。その結果、寄生信号は、素子の設置ずれや開口数に依存して、複雑な態様を示す。
【0034】
力測定のときに生じるクロストークを評価するため、我々は次のことを仮定する。すなわち、二つの光ピンセットで二つの微粒子をトラップし、一の粒子は固定され、他方は単一分子実験のように分離移動させられるとする。力は、固定されたトラップ内の微粒子に関して測定される。力は、トラップ粒子のブラウン運動の力スペクトルをスペクトルアナライザーを用いて測定し、これを校正することによって求められる。可動トラップと固定トラップとを別々に励起し、検出パスにおいて対応する偏光を選択することで、我々は、二つのピンセットのそれぞれのトラップの剛性(スティフネス)を測定する。これら二つの剛性(スティフネス)の差は5%以下であり、不確かさは、よく知られた微粒子―微粒子振動によって生じるものとほぼ同じ程度である。二つの微粒子が数マイクロメータ分離されるとき、観察される光の干渉パターンは、前述の理論的説明で述べた特徴を示す。位置敏感型検出器(PSD)上での光パターンの評価から得られる力測定は、異なるレーザーパワーにおいて実行される。すなわち、図8a、b、cにあるように、粒子の動きが信号に与える影響を求めるため、各力に対して測定曲線を示す。図8において、剛性(スティフネス)および二つのトラップの分離に対して寄生信号がもつ依存性が示されている。これらの例において、連結されていない二つの微粒子を用い、固定トラップに関する力が測定されている。固定トラップの剛性(スティフネス)kf、捕捉対物レンズの後ろ焦点面におけるレーザーパワーPは、次のようになる。
(a) kf = 192 pN/μm, P = 800 mW
(b) kf = 339 pN/μm, P = 1.40 W
(c) kf = 593 pN/μm, P = 2.05 W.
二つのトラップ間の変位速度は1 μm/sであり、サンプリングは、352Hzのアンチエイリアスフィルタを用い、800Hzで行われた。各曲線は、分かりやすいように、縦方向にずらして移動させた((a)において曲線間は1.5pNであり、(b)では2pN、(c)では4pNである。)(a)、(b)、(c)で縦軸のスケールが異なることに注意してほしい。干渉パターンは寄生信号を生じさせる。寄生信号の大きさは微粒子の移動距離が増すと下がっていき、レーザーパワーにほぼ比例している。実際、後ろ焦点面法が力測定に用いられるとき、二つの検出部分において、力は明度の差に比例することが容易にわかる。結果として、干渉パターンはレーザーパワーに比例する信号を生じさせるが、検出器の出力電圧は、一般に、レーザーパワーとは関係なく、力に比例する。信号のパターンは、部品の配置や粒子のドリフトに依存するため、再現性を持つことは難しい。
【0035】
装置の微調整は注意を払うべき重要事項である。まず、x>0側とx<0側とで干渉縞の数が同じになるように、二つのビームの位相差を調整しなければならない。位相を調整するための一つの方法としては、二つのビームが混合される前に、一方のビームの光路に平行スライドガラス(parallel glass slide)を入れることである。前記スライドガラスを回転させてこのビームに位相を加算し、二つの検出領域で正確に同じ数の干渉縞が生じるようにする。この回転によってビームがわずかに移動することになるが、大きな寄生信号が発生しない程度に移動を十分小さく抑えることは可能である。次に、圧電駆動ミラーの回転中心の像は、ミラーを回転させたときでも対称性が保たれるように、正確に検出器の中心にくるようにしなければならない。最後に、前段落でも既に述べたように、二つのビームは、両対物レンズの後ろ焦点面(B、C)の中心にくるようにしなければならず、第2対物レンズの後ろ焦点面(C)は検出面(D)の中心にこなければならない。
【0036】
本発明の一実施形態において、干渉は偏光の回転によって生じ、クロストークを低減させる本方法は、回転を低減させるステップを含む。このステップは、顕微鏡部分を二回通過する工程からなり、とくに、トラップ対物レンズと第2対物レンズを通過するにあたって、四分の一波長板によって偏光の回転を補償する。構成は図9に示される通りである。
【0037】
直線偏光とされ、系に入射するガウシアンビームを考える(α)。このビームが二つの対物レンズを一回目に通過するとき、電場は、偏光の回転を受けるために、第1の変形(transformation)を受ける(β)。ビームは、偏光修正手段の上側パートによって反射され、四分の一波長板を二回通過する。これにより、再度、最初の回転とは逆方向に二倍の回転が加わることになる(γ)。最後に、ビームがこの顕微鏡装置を二回するとき、再び最初の変形を受ける(δ)。電場が同じ角度で二回、さらに、逆方向に二倍の角度で一回の回転を受けるとき、偏光修正手段から出る電場は、理論的に、完全に直線偏光である。正確な偏光を用いた第2対物レンズの後ろ焦点面における光パターンの像(β)を得られるので、後ろ焦点面干渉法による粒子位置の検出は維持される。前記偏光修正手段は、レンズL8とレンズL9との組み合わせで構成され、これにより、面Cの像を得ることができ、面(C)と面(D)とが対の関係にあるので、検出に使用される光パターン(β)は、最終的に面(D)で観察される。この偏光修正手段で偏光が修正されるので、面(D)における光パターンは後ろ焦点面干渉法に好適である。
【0038】
しかしながら、本実施形態に関し、いくつかの重要事項について言及せねばならない。まず、顕微鏡部分を戻ることにより、二つのビームは、もうひとつの複製された光ピンセットを生み出すことになるところ、これがトラップしている側の光ピンセットを乱してはならない。我々の構成にあっては、まず最初に光軸に沿って顕微鏡部分のなかを進み、それから、極わずかにミラー(M)を傾斜させ、これにより、複製光ピンセットが十分に離れて、トラップしている側の光ピンセットを乱さないようにできる。第二に、最初に二つのビームが顕微鏡部分に入射するとき、かなりの割合の光は、表面、例えば特に、ガラス/水境界での反射作用を受ける。これにより、反射光が生じるところ、この反射光は、我々が検出したい光から分離するのが難しい。第三に、二つのビームは、顕微鏡部分を一回目に通過するときにだけ粒子をトラップし、戻りのときには粒子をトラップしないので、二つの方向で光路が違ってくる。最後に、光がガラスから空気に出るときと空気からガラスに入るときとで屈折のフレネル係数が違ってくるので、ビームが対物レンズを同じ光路で逆に進むときに偏光の回転が違ってくる。結果として、トラップ対物レンズとコンデンサーレンズとが全く同じである場合にのみ、対物レンズを逆方向に進んでも偏光の回転は同じになるであろう。もしこれが事実でないとすれば、(上記に説明したような偏光の)修正変形は完全には達成できなくなってくる。
【0039】
実験において、上記に説明した対物レンズを使用するとともに、大開口数(N.A.)のオイル浸漬した対物レンズ(100X/1.3 oil, EC Plan-NeoFluar; Carl Zeiss, Thornwood, NY)をコリメート対物レンズとして使用し、これにより、クロストークを四分の一に減じることができた。互いに直交偏光である二つのビームの強度比をグランレーザー偏光子を用いて測定したところ、偏光修正手段が無い場合には4×10-3であり、開口数1.3で偏光修正手段を用いた場合には1×10-3であった。上記の方法は、開口数が大きいときに適していると考えられる。下記の二つの改良は、0.9未満の開口数に対して見いだされたものである。
【0040】
本発明の他の実施形態において、干渉から生じるクロストークを低減するための第2方法は、二つのビームのうちの一方の振動数をシフトさせるステップを含む。振動数シフトを行うこのステップは、種々の手段で実現可能であり、例えば、音響光学的もしくは電気光学的装置によって達成されうる。我々の装置においては、可動側のトラップ光は、圧電駆動傾斜ステージで偏位される前に、音響光学的振動数シフターを通過する。この方法において、この音響光学装置の一次光を回収すると、可動側トラップから来るビームは、このシフターの音響周波数f0だけシフトされる。
【0041】
すると、検出面における強度は、次のようになる。
【0042】
【数6】

【0043】
位置敏感型検出器の電気構造としては、シフターの音響周波数f0よりもはるかに小さいバンド幅を有している。高速に動く干渉縞から得られる信号は、それゆえ、前記位置敏感型検出器の電気構造にはじかれ、干渉パターンのクロストークはもはや測定されない。我々の実験においては、f0は約80MHzであり、位置敏感型検出器のバンド幅は約100kHzである。図10は、振動数シフターを用いた場合と用いなかった場合とで力測定を行った例を示す図である。振動数シフターを用いた場合に測定された信号は、粒子の近接効果が検出に影響を与えている最初の600nmを除き、粒子分離に対する依存性を示していない。これらの例において、力測定は、トラップされた二つの0.97μmのシリカ粒子に対し、振動数シフター有り(下; kf = 213 pN/μm, P = 910 mW)と無し(上; kf = 192 pN/μm, P = 800 mW)とで行われた。二つの粒子の相対変位速度は1μm/sであり、サンプリングは、352Hzのアンチエイリアスフィルタにより800Hzで行われた。振動数シフター無しで測定された信号は、見やすいように、縦方向にずらして示している。
【0044】
振動数シフターによってたしかに我々は干渉効果を平均化できる一方、注意すべきことは、偏光の回転は依然として生じるのであり、二つのビームは検出面上で観察される、ということである。我々は次の実験により、固定側トラップにおける力の検出に対して可動側のトラップが与える影響を見積もった。力と検出器の出力電圧とを関係づける変換係数は、そのトラップにおける一つの0.97μmのシリカ粒子のブラウン運動から生じる力スペクトルを測定することによって決定される。この測定は、二つのトラップに対して別々に行われる。(測定の間、他方のトラップはスイッチオフされる)可動側トラップから来るレーザ光が偏光子で反射される。これらの測定から、我々は次のように見積もりを得た。すなわち、固定トラップに対する変換係数は0.26 V/pNであり、可動側トラップに対しては5.4×10-3 V/pNであった。これは、可動トラップにおける粒子に加えられた力の2%が固定トラップで検出されたことを意味する。力測定の絶対値を正確に得る必要がある場合には、上記の影響は考慮されるべきである。干渉効果とは対照的に、このダイレクトクロストークはレーザーパワーには依存しない。
【0045】
結論として、ダブル光ピンセットにおける偏光の回転は、注意して対処すべき寄生信号を生じさせるのであり、高いトラップの剛性(スティフネス)または高いレーザーパワーを必要とするような場合には特にそれが顕著である。たしかに、検出器の出力電圧は、一般的には、レーザーパワーに関係なく、力に比例するものであるが、ある特定の干渉パターンはレーザーパワーに比例した信号を生み出してしまう。その結果、この現象の重要な特徴は、この現象が、レーザーパワーが高いとき(例えば0.5 W かそれ以上)に通例観察されてしまうことである。低いパワーのトラップレーザに関しては、寄生信号は依然として出現するが、それはノイズに隠れてしまう程度である。
【0046】
偏光を修正することにより、二つのトラップ間のクロストークを、完全に消滅させるほどではないものの、低減させることができる。さらに簡便でかつ効果的である方法は二つのビームのうちの一方の振動数をシフトさせることである。仮に二つのトラップ間でクロストークが依然として起こったとしても、たいていの実用レベルに対しては十分に小さいものになる。
【0047】
図11と図12とを参照し、本発明の方法および装置の適用を二例ほど簡単に説明する。これに関し、溶液中のDNA(3)分子とRNA(4)分子とに対し、一分子の力測定を行った。図11に示されるように、前者の例では、DNA分子(3)は延ばされ、そのメカニカルレスポンスが測定される。DNA分子(3)は、ここでは、10000塩基対の長さのDNA分子であり、図11中に示されるように、二つの粒子(1、2)に取り付けられている。二つの粒子(1、2)は、本発明のダブル光トラップによってホールドされる。一方のトラップ(2)が他方(1)に対して変位させられ、これにより分子が伸び、動かないトラップである粒子(1)の変位に基づいて力が決定される。図11におけるカーブは、得られたメカニカルレスポンスの測定結果を示す。
【0048】
図12に示される後者の例については、図12に示されるように、折りたたみRNA構造(4)を含む構造に対してメカニカルな拘束を加えた。折りたたみRNA構造(4)は、ここでは、173のヌクレオチドRNA断片を有する。図12の変位と力との関係では、この173のヌクレオチドRNA断片をほどいて伸ばしたことによって誘導される力は、ここでは、三つの主要なステップ(S1, S2, S3)を含み、各ステップは、8から7.5pNへの急激な力減少(ステップ1)、7.5から6.7pNへの減少(ステップ2)、7から6.3pNへの力減少(ステップ3)となっている。このような力と変位との特徴的関係は、塩基対によってもたらされる局所構造の安定性や動的特性など、DNAおよびRNA塩基列に関して重要な情報を明らかにしているのである。このような適用的事例は、文献(例えば、U. Bockelmann, Cur. Opin. Struct. Biol. 14, 368 (2004)およびその引用文献)に見いだされる。これら二つの事例は、一般的使用を制限することなく、技術的実行可能性および二つの可能な適用例を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つのレーザ光源を有するダブル光ピンセットの光干渉およびクロストークを低減させる方法は、
a. レーザビームを偏光させることにより分離し、
b. 前記分離された二つのビームがトラップ対物レンズを通過し、さらに、集光レンズを通過し、
b1. 前記ステップbの通過に起因する偏光の回転量を反対方向にしてさらに二倍した回転量を前記分離された二つのビームに加え、
b2. 前記分離された二つのビームが逆戻りに集光レンズを通過し、さらにトラップレンズを通過し、
c. 分離された二つのビームのうちの一方を反射し、
d. 分離された二つのビームのうちの他方の像を位置敏感検出器で取得する。
【請求項2】
一つのレーザ光源を有するダブル光ピンセットの光干渉およびクロストークを低減させる方法は、
a. レーザビームを偏光させることにより分離し、
a1. 分離されたビームのうちの一方を振動数シフトさせ、
b. 前記分離された二つのビームがトラップ対物レンズを通過し、さらに、集光レンズを通過し、
c. 分離された二つのビームのうちの一方を反射し、
d. 分離された二つのビームのうちの他方の像を位置敏感検出器で取得する。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の方法において、
前記ステップaの前に、レーザビームは拡大され、
さらに、ステップbの前に分離された二つのビームが操舵される。
【請求項4】
一つのレーザ光源と、レーザビームスプリッタと、トラップ手段と、偏光子と、位置敏感検出器と、を備えるダブル光ピンセット装置であって、
さらに、前記トラップ手段からのビームを集光し、そのビームを前記トラップ手段に反射する偏光修正手段を備える。
【請求項5】
請求項4に記載の装置において、
前記偏光修正手段は、1/4波長板と、二つのレンズと、ミラーと、を備える。
【請求項6】
一つのレーザ光源と、レーザビームスプリッタと、トラップ手段と、偏光子と、位置敏感検出器と、を備えるダブル光ピンセット装置であって、
レーザビームスプリッタは、分離された二つのビームのうちの一方の振動数をシフトさせる光振動数シフターを有する。
【請求項7】
請求項6に記載の装置において、
前記レーザビームスプリッタは圧電駆動の傾斜ミラーを有し、
前記光振動数シフターは、前記圧電駆動の傾斜ミラーの前に配置されている。
【請求項8】
請求項4から請求項7のいずれかに記載の装置において、
装置は、さらに、ビーム拡大器と、ビーム操舵装置と、を備える。

【図1】
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【図2a】
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【図2c】
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【図2d】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図2b】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−528616(P2011−528616A)
【公表日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−519162(P2011−519162)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【国際出願番号】PCT/EP2009/059428
【国際公開番号】WO2010/010121
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(502205846)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク (154)
【Fターム(参考)】