説明

一体型流体操作カートリッジ

【課題】容積の大きな流体試料を迅速に処理することを可能し、低コピー濃度な分析物の検出において感度を増大させる流体操作カートリッジを提供する。
【解決手段】カートリッジ101は試料孔103と試料流路とを含む。試料流路は濾紙や微小チップ等の構成部品を含んで、試料から所望の分析物を捕獲する。カートリッジ101は溶離流路を含み、構成部品で捕獲された分析物は溶離流体に放出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1997年12月24日に出願された米国出願番号08/998,188号と、1998年7月14日に出願された米国出願番号09/115,454号とを基礎に優先権主張する。
【0002】
本発明は流体試料の処理用カートリッジに関する。
【背景技術】
【0003】
臨床または環境流体の分析は、通例、流体試料への化学的、光学的、電気的、機械的または熱的な一連の処理段階を含む。このような処理は、ベンチトップ機器や使い捨て型カートリッジ、または、これら2つを合わせたものと一体であっても、複雑な流体アッセンブリと処理演算を含んでいる。
【0004】
現在の生物医学処理機器は、1つの処理域から別の処理域へと大量の液体を自動的に動かす、典型的に複雑な、機械的に動かす装置である。従来のカートリッジはまた、通例、液体試料を液体プラグやボールスとして処理し、少量の試料を1つの処理域から別の処理域へと動かした後、さらなる処理を行う。例えば、アンダーソン等が、そのような試料処理装置を、論文「微細流体生化学分析システム」トランスデューサ '97、1997年ソリッドステートセンサとアクチュエータに関する国際会議、シカゴ、1997年6月16〜19日、477−480頁で開示している。
【0005】
多くの分析手続においては、比較的大量の液体(マイクロリットル(μL)からミリリットル(mL)まで)が分析されなくてはならない。上記ボールス法を使うと、そのような量は各操作が行われる間、容器内で保持されてなければならない。ボールス法は複雑な処理が行えるが、処理できる流体試料量は、個々の処理領域の大きさにより制限され、特に試料が短期間で処理される処理領域の場合には制限される。よって、ボールス法に基づいた分析での分析物の最低検出濃度、すなわち感度も制限される。
【0006】
容器が一体型回路チップ技術(微細流体チップ)で加工成型されている場合、その微細加工チップは、低濃度の分析物を検出するのに必要なかなり大量の液体を容れるため、とても大きくなくてはならない。例えば100マイクロリットルの量に対し、一辺が少なくとも1cmのチップが、各ボールス処理領域に必要である。このように大きなチップは、高額なだけでなく小型化という目的を損ね、特に、多くの使い捨てタイプの医療や環境診断に用いるものに対しては小型化という目的を損ねる。
【0007】
現在の微細流体技術は、ピコリットル、ナノリットル、マイクロリットルの流体量に焦点を当ててきた。これら少量の液体は、多くの現実の診断へ適用するには実用的ではない。図1に示すように、生物試料中の検出に必要な化学濃度の全範囲は、少なくとも20段階(6コピー/mLから6×1020コピー/mL)ある。故に、潜在する分析物(特に、大抵の生物試料に非常に低濃度で存在するDNA)の全範囲を検出するカートリッジは、大小の試料量を処理できなければならない。
【0008】
特に重要なのは、DNAのような低コピー濃度の検出であり、この検出の場合、多量の試料が必要である。例えば、DNA調査分析物の理論上検出可能な最低濃度を得るには、多量の試料、例えば、約10-4リットル以上の試料が必要である。伝染病の検出では、グラム陰性のバクテリアは血液1ミリリットルあたり10コピー以下で存在し、クリプトスポリジウムは通常飲料水1ガロンにつきほんの2,3コピー、濃度の高い生体危険因子、例えば炭疽菌は、水1ミリリットルにつき100コピー以下、そして食中毒因子、例えば、大腸菌とサルモネラ菌は、食物1グラムにつき10コピー以下で現れる。
【0009】
よって、このような伝染病分析物を検出するのに要する試料量は、大抵の臨床分析や免疫化学分析におけるようにより高い濃度で存在する分析物を検出するのに必要とされる量よりも多い。加えて、免疫分析や臨床化学分析でみられるようなより濃度の高い分析物の場合、大量の試料を使うことで、感度のより低い検出手段を選択できる随意選択幅が広がると共に、試料を分けて複数の分析物を検出する能力が得られる。一方、大量試料の利点にもかかわらず、特異な機能は、概して多量とは適合しない微細流体構造で実現されることが一般的に認められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】アンダーソン他著「微細流体生化学分析システム」トランスデューサ '97、1997年ソリッドステートセンサとアクチュエータに関する国際会議、シカゴ、1997年6月16〜19日、477−480頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の処理装置と方法は、マイクロからマクロの大きさのチャネルと、チェンバと、貯蔵槽と、検出処理領域とのあらゆる望ましい組み合わせをもつより大きなカートリッジ内に、微細流体チップや要素を組み入れることで、大量試料と微細流体構造間のジレンマを上手く解消する。これにより、従来のカートリッジタイプの物理環境で、微細加工チップと他の細かな流体や分析要素の、重要特性の利用が可能となる。このような組み合わせは、表面的には「ラブオンチップ(lab-on-a-chip)」技術より洗練されていないが、デザイン、製造、使用面での効率と利便の優れた融合が得られる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
好ましい実施形態では、本発明は、流体試料から所望の分析物を分離し、元の試料量より少ない量の溶離流体内へその分析物を注ぐ装置を提供する。所望の分析物は、例えば、有機体、細胞、タンパク質、核酸、炭水化物、ウィルス粒子、バクテリア、化学物資または生化学物質を構成してもよい。好ましい使用においては、所望の分析物は核酸を構成する。
【0013】
本装置は内部に、試料をカートリッジ内へ導く入口と、入口からカートリッジ本体を通って伸びる試料流路を形成したカートリッジから成る。試料流路は、試料から所望の分析物を捕らえるための、少なくとも1つの貫流構成部品を有する分析物捕獲領域を含む。
【0014】
貫流構成部品は、好ましくは、チェンバを有する微細加工チップであり、チェンバ内部に内部微細構造を形成する。上記微細構造は、試料がチップ内を流れるとき、分析物を捕らえるための充分に広い表面領域と、所望の分析物との結合親和力を有する。上記微細構造は、チェンバの少なくとの1つの壁と一体になり、チェンバの中へと伸びる一列のコラムから成るのが好ましい。また別の実施形態では、貫流構成部品はカートリッジ内のチャネルまたはチェンバを備え、カートリッジは分析物を捕らえるための少なくとも1つの固体支持体を含む。適した固体支持体には、例えば、フィルター、ビーズ、ファイバー、膜、ガラスウール、濾紙、ポリマー(重合体)やゲルが含まれる。
【0015】
溶離流体を通す流路はまた、カートリッジ内に形成される。溶離流体流路は貫流構成部品内を通っており、よって、捕らえた分析物を要素から溶離流体内へと放出する。溶離流体流路は要素内を通過後、試料流路から分岐する。好ましい実施形態では、カートリッジは要素を熱する発熱体を含み、あるいは、発熱体に連結でき、これによって溶離効率が高まる。
【0016】
カートリッジはまた、例えば1つ以上のバルブや分流加減器や流体ダイオードといった少なくとも1つの流れ制御装置を含み、流れ制御装置は、流体試料が捕獲要素を流れた後、その試料を試料流路内へと導き、溶離流体が捕獲要素を流れた後、溶離流体と溶離された分析物を溶離流体流路内へと導く。好ましい実施形態では、カートリッジはさらに、試料流路の端に、残っている流体試料を集めるための廃棄チェンバと、溶離流体流路の端に、溶離された分析物を受けるための第2チェンバを含んでいる。第2チェンバは、あるいは、さらなる処理用に溶離された分析物を受けるため、カートリッジに連結された別の反応管内に形成された反応チェンバであってもよい。
【0017】
流体試料をボールスとして処理する従来の流体カートリッジと対照的に、本発明の連続流型カートリッジは、カートリッジ内のどの相互作用領域よりも多量の流体試料を迅速に処理できる。より多くの量の試料を処理できることによって、核酸のような低コピー濃度の分析物の検出感度を高めることができる。
【0018】
好ましい操作形態において、カートリッジはDNAやRNAなどの核酸を流体試料から分離し、その核酸をより少量の溶離流体内へと凝縮するのに使われる。このように使用する場合、カートリッジ内に形成された試料流路は、流体試料中の細胞や胞子や微生物を溶解するために、チャネルやチェンバなどの溶解領域を含む。好ましくは、溶解領域内の流体試料に超音波エネルギーを伝達するために、例えば超音波ホーンなどの超音波変換器(超音波トランスデューサ)がカートリッジに連結されており、このことにより、細胞や胞子や微生物の溶解効果が上がる。溶解チャネルやチェンバは、超音波エネルギーを適用するとき、細胞や胞子や微生物を破裂するために粒子やビーズをさらに含んでもよい。
【0019】
溶解チャネルやチェンバは、好ましくは、試料がチェンバ内を流れるとき細胞や胞子や微生物を捕らえる固相を含む。適した固相としては、例えば、フィルター、ビーズ、ファイバー、膜、ガラスウール、濾紙、ポリマーやゲルが含まれる。溶解は、超音波エネルギーを、固相上に捕えられた細胞や胞子や微生物に当てることによりなされる。超音波エネルギーは、例えば、溶解チェンバの壁に連結された超音波ホーンまたはカートリッジ内に組み込まれた超音波ホーンから供給できる。カートリッジはまた、超音波エネルギーを当てながら流体試料を熱するために、溶解チェンバと熱接触する発熱体を含むか、あるいは上記発熱体に連結してもよい。
【0020】
カートリッジの別の実施形態では、溶解領域は捕獲領域の上流に位置する溶解チェンバを備え、カートリッジはさらに、溶解試薬を保つための、溶解チェンバと流体接触している試薬チェンバを含む。本実施形態では、ポンプのような流体動力源がまた、溶解試薬を溶解チェンバ内へ流し込んで、試料と接触させるために、設けられる。溶解試薬は、上述した超音波溶解の実施形態と組み合わせて使ってもよい。
【0021】
好ましい実施形態では、本発明はまた、1つ以上のカートリッジを収容する外部機器を提供する。外部機器は1つ以上のポンプ、または真空機器、または圧力発生源等の流体動力源を含み、流体動力源は、カートリッジ内に形成された1つ以上の出入口や通気穴と接続して、試料をカートリッジ内へ強制的に流す。機器またはカートリッジは、1つ以上のマイクロプロセッサやマイクロコントローラやメモリチップといった処理エレクトロニクスを、カートリッジの操作を制御するのに含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】試料量に対する分析物の濃度(コピー数)のグラフであり、分析物の統計的に有意な検出に必要な試料最低量を示す。
【図2】本発明の第1実施形態によって流体試料を処理するカートリッジの概略平面図である。
【図3】いくつかの処理用カートリッジを含む機器の透視図である。
【図4】逆流防止用流体ダイオードの分解図である。
【図5A】図5Aは、電解ポンプの概略平面図である。
【図5B】図5Bは、図5Aのポンプの概略側面図である。
【図6】本発明の好適な実施形態による、流体試料から分析物を抽出する貫流チップの概略断面図である。
【図7】図6のチップの底面図である。
【図8】図6のチップの抽出チェンバ内に形成された微小コラムの3次元図である。
【図9】図6のチップ内の微小コラムの概略平面図である。
【図10】図6のチップ内の2つの隣接する微小コラムの平面図である。
【図11】図6のチップの製造に使われるチェンバのパターンとコラムのパターンを定めるエッチマスクの概略図である。
【図12】流体試料から分析物を抽出するための他の微細加工チップの概略断面図である。
【図13】流体試料から分析物を抽出するための別の微細加工チップの概略断面図である。
【図14】本発明のさらなる実施形態による、流体試料から分析物を抽出するための微細加工チップの概略断面図である。
【図15】プラスチックカートリッジに嵌め込まれた微細加工チップの部分分解断面図である。
【図16】別のカートリッジの部分分解図であり、底面と、相互作用領域と、連結チャネルと、可撓線と、流体パウチと流体入口を有する上板とを示す。
【図17】分析物を捕らえるための濾紙を含む、図16のカートリッジの1領域の断面図である。
【図18】図16のカートリッジの分流加減器域の概略図である。
【図19】本発明の別の実施形態による、試料成分を溶解するためにカートリッジに連結された超音波ホーンの概略側面図である。
【図20】本発明のさらなる実施形態による、試料成分を溶解するために、ビーズを含むカートリッジに連結された超音波変換器の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、カートリッジ内の一連の、相互に連結し作用する領域を流体試料が流れるときに、その試料に様々な操作を行うカートリッジを提供する。上記領域は、カートリッジを通る流体流路に沿って連続して位置しているため、流体の流れの一部は、1領域で特定の操作を、そして、次の領域では別の操作を受ける。試料は相互作用領域を通って流れることで、与えられた時間で、同時に2つ以上の領域と接触する。試料の流れは、連続的であるのが好ましく、そのことにより、各領域での操作が流体流の上で同時に、連続的に起こる。
【0024】
本発明のカートリッジは、生物分子のような試料中の化学成分の検出及び/または分析のための流体試料の処理を大変改善できる。従来の技術と比して、先駆的改善点は、カートリッジ内でどの相互作用領域よりも多量の流体試料を迅速に処理でき、よって核酸のような低コピー濃度の分析物の検出感度が高まる点である。カートリッジはまた、試薬と流体試料を混ぜたり、上記混合物を溶解したり、漉したり、分析物の検出、拡張などのさらなる処理に適した反応チェンバや別個の反応導管に導くといった処理を自動的に行うように設計され得る。
【0025】
流体試料への操作は試料がカートリッジの様々な領域を流れるとき流体試料上で行われるので、あらゆる一体型微細流体処理チップや他の要素は非常に小さく、ボールスを基本とする手段の100分の1程小さくできる。これにより処理設備全体を小さくしながら、相当多くの流体試料(例えば0.1から10mL)の処理ができ、よって非常に小さな微細流体チップや他の流体処理要素の特有の特性を利用できる。
【0026】
好ましい実施形態では、本発明は、流体試料から所望の分析物を分離し、その分析物を元の試料量より少量の溶離流体内へと凝縮する装置を供給する。所望の分析物は、例えば、有機体、細胞、タンパク質、核酸、炭水化物、ウィルス粒子、バクテリア、化学物質または生化学物質を構成してもよい。好ましい使用においては、所望の分析物は核酸を構成する。
【0027】
ここで使われているように、用語“核酸”は、あらゆる可能な形態、即ち、二重撚り核酸、一撚り核酸またはその2つのあらゆる組み合わせの形をとった、DNAやRNAなどのあらゆる人造または自然発生する核酸を示す。また、ここで使われているように用語“流体試料”は気体と液体の両方、好ましくは、後者を含む。流体試料は、粒子、細胞、微生物、イオン、タンパク質や核酸などの大小の分子等を含む水溶液であってもよい。特定の使用においては、流体試料は、血液や尿といった体液や粉状食品などの懸濁液であってもよい。流体試料には、例えば、化学物質との混合、遠心分離、ペレット化等の前処理をしてもよく、また流体試料は未処理のままでもよい。
【0028】
図2は、本発明の好ましい実施形態によるカートリッジ101の例を示す。カートリッジは流体試料を処理して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などにより核酸を拡張するように作られている。カートリッジ101は、流体試料をカートリッジ内へと導く試料入口103と、試料入口103からカートリッジ本体内へと伸びる試料流路を含む。
【0029】
試料流路は、試料と溶解試薬の混合のため、試料入口103から混合チェンバ107へと通じるチャネル105を含む。試料流路はまた溶解チェンバ119を含み、溶解チェンバ119では、試料がフィルターと接して試料内の例えば、細胞や胞子や微生物といった構成成分を捕える。捕えられた構成成分はチェンバ119内で溶解される。試料流路はさらに、例えば、試料が要素122を流れるとき、試料から核酸などの望みの分析物を捕えるための、貫流構成部品122を含む。
【0030】
貫流構成部品122は、好ましくは、微細加工チップであり、チップはその内部に、内部微細構造を形成するチェンバを有する。上記微細構造は、試料がチップ内を流れるとき、分析物を捕らえるための充分に広い表面領域と、所望の分析物との結合親和力を有する。また上記微細構造は、好ましくは、チェンバの少なくとも1つの壁と一体に形成され、チェンバの中へと伸びるコラムの配列を備える。上記微細加工チップの様々な実施形態は以下、図6〜図14を参照して詳細に述べる。
【0031】
また別の実施形態では、貫流構成部品122はカートリッジ内に形成されたチャネルまたはチェンバを備える。上記チャネルまたはチェンバは少なくとも1つの固体支持体を含み、固体支持体は、流体試料が固体支持体を通って流れるとき、試料から所望の分析物を捕らえる。適した固体支持体には、フィルター、ビーズ、ファイバー、膜、ガラスウール、濾紙、ポリマーやゲルが含まれる。
【0032】
試料流路はまた、流れ制御装置41A,41Bへと通じるチャネル135と、通気孔つきの廃棄チェンバ139へと通じるチャネル136を含む。流れ制御装置41A,41Bは、試料が捕獲要素122を流れた後、試料を廃棄チェンバ139へ導くように配置されている。流れ制御装置41A,41Bは、例えば、バルブ、分流加減器や流体ダイオードでもよい。
【0033】
溶離流体を運ぶ流路はまた、カートリッジ101内に形成されている。好ましい実施形態では、カートリッジは溶離流体を貯蔵する貯蔵チェンバ127を含む。溶離流体流路は貯蔵チェンバ127からチャネル131を通って伸び、貫流構成部品122を通過して、捕えた分析物を要素から溶解流体内へと放出する。また別の実施形態では、カートリッジは貯蔵チェンバ127の代わりに、またはそれに加えて、別個の入口を含み、溶離流体を外部源からカートリッジ内へと導く。
【0034】
溶離流体流路は要素122を通った後、試料流路から分岐する。この例では、溶離流体流路はチャネル135と辿って、流れ制御装置41A,41Bへと続いている。流れ制御装置41A,41Bは、溶離流体と溶離された分析物を、PCR試薬を含む試薬チェンバ141内へと導くように配置されている。試薬チェンバ141はPCR拡張するため、反応チェンバ143と流体接触している。
【0035】
反応チェンバ143は、カートリッジ101内に形成されるチェンバでもよい。あるいは、反応チェンバ143は、溶離された分析物を受けるためにカートリッジに連結されるよう作られた、別個の反応導管内に形成してもよい。この目的に適した反応導管は1998年3月2日出願の国際出願番号 PCT/US98/03962、発明の名称“熱交換、光学信号送信化学反応アッセンブリ”にて開示されているが、その開示内容はこの言及でここに組み込まれる。上記出願は、反応チェンバを受け、熱循環させる熱スリーブを開示している。このため、反応チェンバがカートリッジ本体の他の部分から突き出しているのは、反応チェンバを熱スリーブ内へ挿入させるのに都合がよい。
【0036】
カートリッジ101はまた、溶解試薬を貯蔵する貯蔵チェンバ109と、洗浄試薬を貯蔵する貯蔵チェンバ125を含む。カートリッジ101はさらに、バルブや流体ダイオードといった、カートリッジ内の流体の流れを制御する流れ制御装置123を含む。カートリッジ101はまた、好ましくは、様々なチャネルや領域内の流体の存在を感知するための抵抗センサ115を含む。
【0037】
図3では、カートリッジ101は、好ましくは、1つまたは1つ以上のカートリッジ101を受けるように設計られた携帯可能な、即ち、手持ち式の、あるいはデスクトップの外部機器211と組み合わせて使われる。使い捨て式カートリッジ101と外部機器211間の連結は、好ましくは、カートリッジ101の薄いカードのような部分と、機器211内の交接コネクタを用いて行われる。このタイプの連結は、例えばパーソナルコンピュータやカードケージ内のプリント配線基板に使われる、標準カードエッジコネクタと同様である。
【0038】
図2に示すように、カードまたは金属薄片上の、伝導物質でできた小幅なフィンガ151は,カートリッジ101が処理のために挿入されたとき、機器内の金製コネクタと接触する。本実施においては、複数の連結がカートリッジの狭い幅内でなされることができる。本カートリッジの場合、カードは塑形プラスチックの薄い部分やシートでよく、その上に伝導物質が置かれる。
【0039】
電気連結は情報を、カートリッジ101上の記憶メモリおよび/または知能部の内外へ移すのに使われてもよい。例えば、メモリやマイクロプロセッサチップは、カートリッジの一部として組み入れてもよい。本チップはカートリッジのタイプなどの情報、カートリッジの処理のための特定プロトコル、受諾と拒絶の許容誤差、品質追跡のための通し番号やロットコード、処理結果保存規定等のプログラム情報を好ましくは含む。
【0040】
カートリッジ101上の一体型電子メモリは、異なる流体処理プロトコル用に、機器211を迅速、簡単、間違えのなくセットアップすることを可能とする。カートリッジが機器に挿入されると、機器は、カートリッジ上のメモリに電気的にアドレスを送って指令し、それにより、挿入カートリッジによって実行される流体操作の時系列を制御するための、適切な指令一式を自動的に受けることができる。機器211は、カートリッジメモリ内の各段階を単純に、連続的に検索し、実行し、または、その内容をダウンロードするので、ユーザは、例えばキーボード213を使って上記時系列を編集できる。
【0041】
書き込み可能なメモリ(例えば、消去及び書き込み可能な読み出し専用メモリ(EPROM)、電気的消去及び書き込み可能な読み出し専用メモリ(EEPROM)などの、適切なメモリがカートリッジ上に含まれれば、カートリッジ内に導入された試料に基づいて、中間結果と最終結果は、処理後、物質試料と同場所に保存するために、機器によってカートリッジメモリ内へ書き込まれることができる。これは、法医学など、試料や結果の記録保管が必要とされるような使用の場合に特に有効である。
【0042】
さらに、他の情報をカートリッジ上のメモリに、変更不可能(または変更可能)な形で保存できる。例えば、カートリッジ通し番号、ロット製造情報や関連情報は、前もってプログラムし、且つ、変更不可能にできる。使用者データ、技術者識別番号、試験日、試験地や機器通し番号は変更不可能な形でカートリッジ内に書き込むことができる。このことにより、検体処理における“一連の管理”を簡単に確認することができる。データ保存技術に熟知した技術者なら、光学アドレスプリント領域(例えば、インクジェットや熱の)、磁気ストリップ等、電子以外の他の記憶手段を使えることがわかる。
【0043】
電力は外部機器211からカートリッジ101へ供給される。あるいは、多数の試料を処理するのに連続して使用される複数のカートリッジの電力需要に応えるために、バッテリーを付けることによって機器をより大きくより重くするのではなく、各カートリッジのための電源をカートリッジに含めて、機器及びカートリッジに充分な電力を供給してもよい。
【0044】
機器211は、好ましくは、カートリッジ101の働きを制御するために、プロセッシングエレクトロニクス、例えば1つ以上のマイクロプロセッサ、多重変換装置、動力制御回路、及びセンサ回路を含む。プロセッシングエレクトロニクスは、コンタクトフィンガ151及び電気導線147によって、カートリッジ101中の様々な領域や貯蔵エリア、ポンプ、センサ及びチャネルに接続されている。あるいは、無線周波数又は赤外線のリンクのような、カートリッジから機器への他のデータリンクがあってもよい。好ましい実施形態において、プロセッシングエレクトロニクスは物理的に外部機器211に設置されているが、プロセッシングエレクトロニクスはカートリッジ101上に設置されてもよいということは理解されるべきである。
【0045】
外部及び内部流体動力源のいずれもが、本明細書中に開示されているカートリッジとともに使用するのに適している。流体動力源は、カートリッジ101自身の中あるいは上に収容されているか、又は、例えばカートリッジ101が処理のために挿入されている外部機器211に含まれるなどして、カートリッジの外部にある。本明細書中に述べられている一つの類型の流体動力源は、カートリッジ101の内部に設置された電解質ポンプ(eポンプ)である。密封されたパウチ(袋状のもの)の内部の流体は、電流によって気体成分へと分解され、それによってパウチに圧力を加え、パウチを膨張させる。この密封されたポンプ動作をするパウチ、あるいはeポンプは、試薬パウチに接触して置かれ、ポンプ動作をするパウチが膨らむにつれて、試薬パウチの内容物を、流体回路内へ押し出す。
【0046】
他の類型の流体動力源が、本発明のカートリッジとともに使用されてもよい。例えば、ステッピングモータあるいはソレノイドは、カートリッジ内部の試薬パウチに対して力及び圧力を与えるために用いられ、それによって試薬パウチの内容物を流体回路内へ押し出す。あるいは、カートリッジ内部又は外部機器の内部に設置された機械ばねは、試薬パウチに圧力をかけ、試薬を流体回路内へ押し出すための動力源を提供する。ばねに蓄積される機械的なエネルギは、生成の間カートリッジに内蔵されるか、又は、カートリッジを機器へ差し込む間に(すなわち、カートリッジを手動で差し込む際にばねを張ることによって)発生する。
【0047】
他の潜在的な流体動力源は、カートリッジ内部又は機器内部に設置された空気圧源(又は真空源)を含む。そのような流体動力源は、圧力を加えられた(又は真空にされた)缶やチップ、あるいは他の容器によって生じさせられる。動力源は、カートリッジ内部又は機器内部に設置された圧縮機又は真空ポンプであり得る。外部の圧力動力源又は真空動力源が使用される場合、カートリッジは動力源と接続するのにふさわしい孔(ポート)や通気孔(ベント)やチャネル(溝)を備えている。同様に、電気泳動性動力源又は電気浸透性動力源が利用される。圧電的に、磁気的に、あるいは静電的に駆動される薄膜ポンプ又はバルブは、カートリッジの中に組み込まれるかカートリッジが機器の中に挿入される時に上記装置が機械的にカートリッジと接続するように、機器の中に恒久的に設置される。
【0048】
作動工程において、例えば核酸といった望まれる分析物を含む流体試料は、カートリッジ101の試料ポート103に添加され、例えば電気分解ポンプ、あるいは機械的ポンプによって、間断無くチャネル105を下って、ミキシングチャンバ107内へ流れ込む。溶解試薬は同時に貯蔵チャンバ109から放出され、チャネル111を下ってチャンバ107内へ流れ込む。ふさわしい溶解試薬は、例えばグアニジン塩化水素、グアニジンチオシアン酸塩、グアニジンイソチオシアン酸塩、ヨウ化ナトリウム、尿素、過塩素酸塩ナトリウム、及び臭化カリウムのような、カオトロピズム塩を含有する溶液を含む。
【0049】
チャネル105及び111の中をそれぞれ移動する流体試料及び溶解試薬は、抵抗性のセンサ115によって検知される。溶解試薬が流体試料に接触すると、流体試料内に存在する細胞や胞子あるいは微生物が溶解され始める。流体試料及び溶解試薬は、試料がフィルタに接触して細胞や胞子あるいは微生物が捕獲される溶解チャンバ119内へと流れ続ける。溶解試薬は、捕獲された試料の成分を溶解し続ける。フィルタはまた、流体試料からその残骸を取り去る役目を果たす。本発明のもう一つの重要な実施形態において、超音波変換器が溶解チャンバ119の隣のカートリッジ101に連結され、例えばチャンバ119の壁に連結されており、試料の成分は変換器によってもたらされる超音波エネルギによって溶解される。様々な超音波溶解の実施形態は、図19及び図20を参照して、以下に非常に細部にわたって論じられている。
【0050】
溶解された試料は溶解チャンバ119からチャネル121へと進み、捕獲構成部品122を通るよう強制的に流される。流体試料及び溶解試薬が部品122を通って流れるとき、流体試料中の核酸が部品122に結びつく。部品122を通る流体試料の流速は、好ましくは0.1μL/秒から50μL/秒の範囲である。部品122を出ると流体試料及び溶解試薬は、チャネル135へ進み、フローコントローラ41Aを通り、チャネル136を通って、廃棄チャンバ139へ流れる。他の実施形態において、部品122を通って流れた後、流体試料はさらに数回、部品を通って再循環するように方向が変えられる。
【0051】
流体試料が部品122を通って強制的に流された後、貯蔵領域125内の浄化試薬はチャネル129を下って、部品122を通って流れるように強制される。浄化試薬の流速は、好ましくは0.5μL/秒から50μL/秒の範囲である。流体は、チャネル121,129及び131内のフローコントローラ123によって、カートリッジの中で逆流することを妨げられている。浄化試薬は、カオトロピズム塩のような残留汚染物質を、部品122から洗い流す。pHや溶解構造やイオン濃度の異なる様々な適している浄化試薬が、この目的のために使用され、当該技術においてよく知られている。例えば、適している浄化試薬は、80mMのポタジウムアセテートと、8.3mMのTRIS塩化水素、pHは7.5で、40uMのEDTA及び55%のエタノールの溶液である。浄化試薬は、フローコントローラ41Aを通って、廃棄チャンバ139の中へと流れ続ける。
【0052】
部品122の洗浄後、貯蔵領域127からの溶離流体は、チャネル131を下り、部品122を通って押し流される。このようにして核酸が部品から溶離流体の中へと放される。この時点で、フローコントローラ41A及び41Bは、再設定されて、溶離流体がフローコントローラ41Aを通って流れるのを妨げ、そして溶離流体がフローコントローラ41Bを通って試薬チャンバ141へと流れるようにする。部品122を通る溶離流体の流速は、好ましくは0.1μL/秒から10μL/秒である。溶離流体の流速は、より多くの分析物が部品から放されるように、流体試料の流速と比べると遅い。
【0053】
一般に、あらゆる適した溶離流体が、部品122から核酸を溶離させるのに使用される。そのような溶離流体は、当該技術においてよく知られている。例えば、溶離流体は分子等級純水(molecular grade pure water)あるいは代わりにバッファ溶液を含み、バッファ溶液はTRIS/EDTA、TRIS/アセテート/EDTA、例えば4mMのTRIS‐アセテート(pH7.8)と0.1mMのEDTAと50mMの塩化ナトリウム、TRIS/ホウ酸塩、TRIS/ホウ酸塩/EDTA、リン酸塩カリウム/DMSO/グリセロール、塩化ナトリウム/TRIS/EDTA、塩化ナトリウム/TRIS/EDTA/TWEEN、TRIS/塩化ナトリウム/TWEEN、リン酸塩バッファ、核酸ハイブリダイゼーションバッファなどの溶液を含むが、それに限定されない。
【0054】
溶離流体が部品122を通って流れるよう強制するのに先立って、中間エア・ギャップ段階が選択的に行われる。気体、好ましくは空気は、浄化溶液が通って流れた後、溶離流体が通って流れる前に、部品を通って流れるよう押し出される。エア・ギャップ段階は液相の明確な分離をもたらし、少なくとも、溶離に先立って部品122からすべての残留浄化溶液を充分に乾かすのに役立つ。
【0055】
部品122は、溶離流体がその中を押し流されるとき、溶離の効率を上げるために、好ましくは加熱される。加熱は、好ましくは、カートリッジ内のプロセシングエレクトロニクスの制御下で、閉回路フィードバックシステム中の抵抗性加熱要素に電力を供給することによって行われる。好ましい実施形態において、部品122は、溶離流体がその中を流れるとき、60〜95℃の範囲にまで熱せられる。
【0056】
核酸を含む溶離流体は、部品122を出て、チャネル135を下って試薬チャンバ141へと進む。溶離流体及び核酸は、チャンバ141の中に含有されている乾燥PCR試薬に接触し、再形成する。そして、溶離流体、核酸及びPCR試薬は、PCRの増幅及び検出のために、反応チャンバ143内へと流れ続ける。代わりの実施形態において、溶離溶液は既にPCR試薬を含んでおり、その結果試薬はチャンバ141の中で乾燥される必要が無い。廃棄チャンバ139及び反応チャンバ143に連絡している通気口145は、この過程の間中、気体の放出が可能である。
【0057】
好ましい実施形態の連続流出カートリッジの一つの利点は、例えば核酸といった分析物が、数ミリリットルかそれ以上の比較的容量の大きな流体試料から、25μLかそれ以下のかなり小さな容量の溶離流体へと凝縮されるのを可能にするということである。先行技術の装置と対照的に、本発明のカートリッジは、ミリリットル単位の量の流体試料から能率的に分析物を抽出し、分析物をマイクロリットル単位の量の溶離剤中に溶離することによって、驚くべき凝縮係数を可能にする。好ましい実施形態において、カートリッジの中を強制的に流れる試料の容量は、1〜100mLの範囲であり、100あるいはそれ以上の凝縮係数を可能にする。例えば、1mLの流体試料からの分析物は、上記装置で捕獲され、10μLあるいはそれ以下の溶離流体へと凝縮される。
【0058】
流体試料は手動や自動の様々な方法でカートリッジ内に投入される。手動での添加の場合、計量された物質が投入口を通ってカートリッジの収容領域内へ投入され、それから蓋が投入口の上にはめられる。あるいは、分析に必要な量よりも多量の試料物資がカートリッジに添加されると、カートリッジ内の装置は、明記された規定書(プロトコル)に対して必要とされる試料の正確な計量と分割化(アリコート)をもたらす。
【0059】
組織生検物質や土、沈殿物、浸出物及び他の複合物質のような或る試料を、別の装置又は付属物へ入れ、それから、その2次的な装置又は付属物を、混合や分類、又は抽出のような機能をもたらす機械作用を生じさせながら、カートリッジの中へ入れることが望ましい。例えば一片の組織は、注入口の蓋の役目を果たす2次的な装置の管腔に置かれる。蓋が注入口の中へ押し込まれると、組織は、強制的に網の中に通されて組織を薄く切ったり又は分割する。
【0060】
自動化された試料挿入の場合、付加的なカートリッジの設計上の特徴が用いられ、多くの場合において、検体の到達機能を直接にカートリッジの中へ与える。人間のレトロウィルス病原体のような、操作者あるいは環境への危害を及ぼす危険性がある試料の場合、試料のカートリッジへの移動が危険となり得る。したがって、一実施形態においては、注入器が装置へ統合されて、外部の流体試料を直接カートリッジの中へ移動する手段を提供している。あるいは、静脈に穴をあける針及び空の血管がカートリッジに付けられて、血液の試料を捕獲するのに使用されるアセンブリを形成する。採取後、管と針は取り外されて捨てられ、その後カートリッジは処理を実施するために機器の中に設置される。このような取り組み方の利点は、操作者及び環境が病原体にさらされないことである。
【0061】
注入口は、適当な人類の因子を考慮しながら、意図される検体の本質の機能として設計される。例えば、呼吸器官の検体は、下方の呼吸管から、せきをしたときの痰として得られたり、あるいはのど又は鼻孔の奥から綿棒あるいはブラシの試料として得られる。前者の場合では、注入口は患者がカートリッジの中に直接せきばらいができるように、又はそうでなければ、カートリッジの中に喀出された試料を吐き出すのを容易にするように設計されている。ブラシあるいは綿棒の検体の場合、検体は注入口内部に置かれ、ポートが閉じるという特徴によって、カートリッジの収容領域の中の綿棒やブラシの端を折ったり保持したりするのを容易にしている。
【0062】
他の実施形態では、カートリッジは入力管及び出力管を含み、これらの管は水の流れる川のような非常に大きな容量の試料の水たまりの中に設置され、その結果、試料物質がカートリッジを通って流れる。あるいは、親水性の毛管作用物質は、カートリッジ全体が検体に直接浸されるように、相互作用領域として働き、十分な量の検体が中に吸収される。カートリッジはその後取り外され、研究所へ移されたり、あるいは携帯用の機器を用いて直接分析される。他の実施形態では、管の一方の端が、流体接触面に少なくとも一つの相互作用領域をもたらすためにカートリッジと直接連絡しており、またもう一方の端が、試料受取口として働くために外部環境と連絡可能になるように、管類が利用される。管はその後検体の中に設置され、ストロー的な役割をする。
【0063】
カートリッジ自身もまた、事実上の検体収集装置の役割を果たし、それにより手間と不便さを軽減する。法的な争いや犯罪調査に関わりがある検体の場合、試験物質を流体カートリッジへ直接的に入れることは有利である。なぜなら、一連管理は便利に、確実に保たれるからである。
【0064】
カートリッジを一般的に適用する場合、1つあるいはそれ以上の試薬との流体試料の化学的相互作用が必要とされており、したがって化学試薬を備える相互作用領域を含むことが望ましく、明確で分析的なプロトコルによって決まるその数と型は、簡易化されるべきである。複合相互作用領域は、それぞれ異なった試薬を含んでおり、試料の順次的な処理を可能にするよう、連続して配置される。
【0065】
試薬は、使用前に例えばカートリッジの各領域内の密封可能な入り口を通して、カートリッジ内に外部から入れられる。あるいは、試薬は製造中にカートリッジの中へ入れられてもよい。試薬は、そのために試薬が使用されるであろう働きを行う相互作用領域の中へ設置されてもよく、あるいは、特定の相互作用領域へ通じる区域の中へ設置されてもよい。あるいは、試薬は相互作用領域と流動体で連絡している貯蔵チャンバの中へ設置されてもよい。
【0066】
相互作用領域で利用される試薬の種類は、とりわけ、試料の流体特性及び大きさや、目標とする成分の特質及び濃度や、望ましい加工プロトコルによって決まる。液相相互作用の場合において、試薬は水性の溶液あるいは再形成が必要な乾燥試薬でもよい。特定のフォーマットが、相互作用は液相なのか固相なのかを含めて、試薬の固有の温度安定性や、再形成の速度や、反応速度などの、様々なパラメータを基に、選択される。
【0067】
液体試薬は、限定されるものではないが、サリンやTRISや酸や塩基というようなバッファ溶液や、洗剤溶液やカオトロピズム溶液を含み、これらは通常DNA及びRNAの浄化及び洗浄に用いられる。乾燥試薬は、再構成及び液相相互作用の前駆物質として、あるいは固相の試薬として用いられ、pH指示薬、酸化還元指示薬、 ホースラディシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、逆トランスクリプターゼ、DNA 重合酵素、 制限酵素、酵素基質、抗体酵素、 共役抗原酵素、DNAプライマー、 プローブ、 バッファ塩、 洗浄剤を含む。さらに、血清アルブミンやストレプトアビジンや多糖類のような様々な交差結合なたんぱく質といった、固相の試薬のコーティング(剤皮)は相互作用領域で利用される。
【0068】
乾燥試薬はまた膜材料の中に含まれ膜材料は、材料を流体チャネルと連絡している区域へ物理的に混入させることによって、相互作用領域として用いられ得る。通常細胞膜材料として使用されるセルロースやニトロセルロースやポリカーボネートやナイロン及び他の材料は、試薬を含むことができる。このような膜は、目標細胞を捕獲し、宿主細胞の溶解をもたらし、目標核酸を解放し、重合酵素の連鎖反応あるいは他の分解反応を妨げる汚染物質を分離する構造になっている。これらのペーパは、区域の中に置かれて流体の交差流れあるいは接線方向の流れを可能にする。ペーパは同時に、目標細胞を物理的に捕らえ、細胞を分解し、目標分析物あるいは競合汚染物質あるいは分解反応抑制剤と結び付くので、それらはカートリッジ内の単一の相互作用領域で多数の活性モードに対応するものである。
【0069】
試薬は、カートリッジ内の特定の領域に、従来のパウチ状にしたり梱包技術を用いて液体として含まれ、その構造はカートリッジ内への統合を可能にするために最適化されている。溶液中で熱的に不安定な混合物を含む試薬は、凍結乾燥法のような一般的な技術を用いて乾燥することによって、安定化される。単アルコール糖やメチルセルロースやバルキングタンパク質のような添加物は、安定性あるいは再構成性を高めるために、乾燥の前に試薬に添加される。これらの試薬の場合、予混合により或いは好ましくは試料が流れている間に、流体試料あるいは分離再構成流体をともなう再水和作用によって、試薬の活性は再構成される。
【0070】
一様な再構成を促進する固体試薬の沈殿物のパターンを規定する、様々な技法が利用される。試薬は、広狭なチャネル内で流体前部の流れの形状を反映させて、放物線状のパターンを描いて沈殿させてもよい。それによって試料の内容物を試薬へ均一に接触させる可能性が高まる。シート状の乾燥試薬か、層状の試薬か個々の点状配列の試薬かの選択は、望まれる再構成の事象と、再構成の速度と、付加的な混合が用いられるかどうかとによって決まる。
【0071】
試薬の点の配列に関しては、インクジェット式印刷の先端部及び圧電結合マイクロピペットの先端部は、活性領域の表面上に、様々な均一あるいは不均一な形状で液体試薬の水滴を投与することができる。また、流体試料が連続的に変化することが望まれるならば、あるいは結合試薬が単一試薬のように乾燥されることができなければ、活性領域の分離した区域において、分離した試薬が沈殿する。もし活性領域が、表面積対容積の割合が高い構造ならば、上記領域は、試薬の中に浸漬されてもよく、あるいは試薬を用いて吹き付けてもよく、そうでなければ、試薬にさらされてもよい。そして上記活性領域はカートリッジ内に組み込まれる前に乾燥される。
【0072】
特定の化学相互作用によって可能にされる作用は、検体容量希釈と、pH調整と、生化学的可溶化と、分子集合と、細胞又はウイルスの溶解と、目標細胞又は獲得粒子の凝集と、濾過と、中和と、特定の分析物の抽出及び浄化と、汚染物質の抽出及び分離と、特定分子の沈殿と、レポーター成分への分析物の結合と、及び乾燥試薬の再構成とを含む。
【0073】
カートリッジ全体の外面形状は多くの形態をとる。例えば、カートリッジは、例えば連続して配列されているチャネルあるいはチャンバ及び貯蔵領域といった相互作用領域を多数包含していて、その結果流体試料は領域を連続して通って流れ、上記各作用はこれらの領域においてなされる。
【0074】
あるいは、カートリッジは、周辺の試薬領域あるいは希釈剤貯蔵チャンバに接続された中央流体相互作用領域を含んでもよい。
【0075】
一般に、一つのカートリッジは少なくとも2つの別個の相互作用領域を含み、好ましくは、少なくとも3つかそれ以上の別個の相互作用領域を含む。個々の領域及び複数の領域は、領域の特定の機能に応じてあるいは領域に応じて、大きさや形状が変化し得る。細長の或いは球形の相互作用領域またはチャンバが用いられる場合がある。一般に、相互作用領域は、寸法に関してマイクロスケール(μm)から中間スケール(1mm以下)まで、さらにマクロスケール(mm)まで様々である。
【0076】
独立した領域が、例えば正確に流体を測定して隣接する領域へ入れるために、容積測定の領域として使用される場合がある。このような場合では、領域の容積は、定められた反応の容積測定の必要性によって指示される。さらにカートリッジは、互いに比較して様々な寸法及び容積を持つ、一連の領域を含むように構成されている。
【0077】
領域の断面積は、流体の抵抗力と圧力と容積測定による流量とを指示する。容積測定による流量や、領域内に存在する時間や、基板上に予め組み込まれた試薬の処理効率や、センサ及び検知器の効率を、正確に制御する大きさあるいは特性(例えば内径、表面摩擦、材料、埋め込まれたチップ、温度、あるいは他の要因)を上記領域がもっている。その結果、正確な存在時間と、試薬の再構成速度と、流量と、流れの方向と、全ての貫流構成部品及びパラメータとが実行される。
【0078】
カートリッジは、微小加工の技術に適した一つの方法あるいは2つ以上の様々な方法と材料を用いて製作されている。例えば好ましい側面において、カートリッジは数多くの平面部材を含み、それらは個々には、様々なポリマー物質から製作されるシートあるいは射出成形部品であり、あるいはケイ素やガラスなどである。シリカやガラスあるいはケイ素のような基板の場合、エッチングや平削りや穿孔などの方法は、穴や窪みを生じさせるために使用され、カートリッジ内の様々な領域やチャンバや流体チャネルを形作る。そして、そこには、パウチやチップやペーパやビーズやゲルや多孔性物質やタブレットなどのような挿入物を収容することができる、
【0079】
半導体及びマイクロエレクトロニクスの業界において普通に使用されているような微細加工の技術は、特にこれらの材料及び方法に適している。これらの技術は、例えば電着、低圧蒸着、ガラス接着、フォトリソグラフィ、湿式化学エッチング、反作用イオンエッチング(RIE)、レーザ穿孔などを含む。これらの方法が使用される場合、半導体産業で使用される材料に類似している材料から、すなわちシリカガラス、ケイ素、ガリウムヒ化物、ポリイミド、金属膜などから、カートリッジの平面部材が製作されるのが通常は望ましい。付加的な実施形態において、カートリッジは上記に述べたような材料及び加工技術の組合せを含む。場合によっては、カートリッジは射出形成されたプラスチックなどでできた部品をいくつか含み、一方で本体の他の部分はエッチングされたガラス又はケイ素部材などを含む。
【0080】
カートリッジはまた、試料成分、例えば細胞や胞子あるいは微生物といった溶解されるものを獲得するために、一つあるいはそれ以上のフィルタを含む。フィルタはまた、試料から微粒子と細胞の破片と固形タンパク質とを除去するために使用される。フィルタはどの領域の中にあってもよく、例えば領域間をつなぐ流体通路内あるいはチャネル内や、又は特定の相互作用領域の中にある。様々なフィルタ媒体が使用されており、例えばセルロースやニトロセルロース、ポリスルホン、ナイロン、ビニール高分子化合物、ガラス繊維、微細機械加工構造体などを含む。同様に、例えばイオン交換樹脂や、親和性樹脂などの分離媒体が、カートリッジ中に含まれる。
【0081】
流体試料及び試薬に接触する流体相互作用領域の表面は、個々の適用に依って疎水性あるいは親水性に作られる。特別な分析物に伴う試薬が、例えばケイ素またはガラスまたはポリマーの部品といったカートリッジを作るために使用される材料と相性が悪い場合、様々なコーティングが、試薬に接触するこれらの部品の表面に施される。例えば、ケイ素要素をもつ成分は、これらの試薬との反応を避けるために、窒化シリコン層あるいは金又はニッケルの金属層を表面にスパッタあるいはめっきをしてコーティングされる。
【0082】
同様に、不活性のポリマーコーティングやパリレン(登録商標)コーティングあるいは表面のシラン化変異(silanation modificaiton)が、カートリッジの内側表面にも施されて、装置全体を実施される化学反応に適合させている。例えば、核酸の分析の場合、核酸が表面へ接着するのを防ぐために、例えばこびりつかない塗装で表面を覆うのが望ましい。加えて、アクチュエータと加熱器とセンサなどの働きを活発にするために、パターン化された金属電気コンダクタが使用される。そのようなコンダクタは、電線が流体に接触して設置されている場合には、ショートや又は電気分解によるガス生成を防ぐために、絶縁体塗装で覆われる。そのような絶縁体は当該技術ではよく知られており、例えばスクリーン印刷されたポリマーやエポキシやセラミックなどである。
【0083】
好適な実施形態は例えば弁などの流量制御部を含むが、連続的に流れる流体流は、弁を組込むことなく、カートリッジ内の様々な領域に案内され、分割され、方向転換され得る。一実施形態において、流体流は、比較的流体抵抗を受けずにチャネルを下って第2の領域、例えば廃棄チャンバへと流れる。廃棄チャンバは、ゴアテックス(登録商標)のような疎水性の多孔質膜で閉塞された出入口を通してガス抜きされる。廃棄チャンバが満たされ、廃棄チャンバ内の全空気が膜のベントを通して放出されると、流体試料は膜を通過することができず、背圧が生じる。
【0084】
背圧は十分に大きく、第1チャンバより上流に設置された小さいチャネル、第二チャネル、細管チャネル、感圧フィルタ、または他の流体抵抗に停滞した流体流を通すことができる。いったん流体流動が小さいチャネルを通り始めると、追加の流体は第1チャネルに全く流れず、流体流は第2チャネルへと完全に方向転換される。オプションとして、大きい領域またはチャンバが満たされる前に流体試料を小さいチャネルへと方向転換させるために、小さいチャネルが局部的に熱されてもよい。
【0085】
さらに、流体は、流体ダイオードにより上流へ逆流するのを防止される。図4は、このような流体ダイオードの一例を示している。流体は、AからBの方向に流れるようになっており、反対方向のBからAへ流れることはできない。ダイオード91は、出入口45と隣接窪み47を有する上部部材43と、フラップ51を有する可撓性回路プレート49と、チャネル55を有する下部部材53からなる。ダイオード91が作動されないとき、フラップ51上の磁気ディスク57は、例えば外部機器などにより生じる外部磁力によって上部部材43の方に引きつけられる。フラップは、上部部材43内で窪み47に対して傾いており、こうして、流体が出入口45からフラップ51の下を通って下部部材53のチャネル55へと流れるようにしている。
【0086】
ダイオード91が作動されるとき、磁力は無能化され、フラップのばね定数によりフラップ51は封止位置に戻り、流体が出入口45からフラップ51の下を通過してチャネル55を通るのを防ぐ。こうして、下部部材53にある流体が上部部材の出入口45を通って逆流するのを防ぐ。
【0087】
カートリッジは、流体の背圧を開放する通気要素を有するのが好ましい。通気孔は、外的環境への開口部(例えば、疎水性通気孔付または疎水性通気孔無しの入口や出口)を含む。好都合なことに、通気孔は、波形膜や弾性ラテックス膜のような内部の拡張可能な空洞であってもよい。通気孔を通しての流体の放出は、受動的でも、或いはカートリッジの出入口を真空にする場合のように能動的であってもよい。
【0088】
カートリッジ内に、不完全にぬれたフィルタプラグや疎水膜のような通気性流体バリアを含むことはまた、流体方向と制御システムを形成するためにも用いられる。このようなフィルタプラグは、流体入口と反対側の化学的相互作用領域の先端に組込まれている場合、液状成分を領域内に導入する間に、相互作用領域内にある空気または他の気体を放出する。流体試料が領域を満たすと、流体試料は疎水プラグに接触し、正味の流体流動を止める。流体抵抗もまた、これと同様の結果を得るために通気性バリアとして用いられる。例えば、過度の抵抗を生じるのに十分細い流体通路を用い、それによって、空気または気体が流れ込む間に、液体の流れを効率的に止めたり遅らせたりする。
【0089】
例えば多孔質の疎水性ポリマー材料などを含む様々な材料が、不完全にぬれた状態または通気性フィルタプラグとして使用するのに適する。多孔質の疎水性ポリマー材料は、例えば、アクリル樹脂やポリカーボネートの紡績繊維、テフロン(登録商標)、加圧されたポリプロピレン繊維、またはかなり多数の市販のフィルタプラグなどである。一方、疎水膜は、類似した構造を提供するために通し孔を覆うように接合されている。改質アクリル共ポリマー膜は、例えばゲルマン・サイエンス(Gelman Sciences、アン・アーバー市、ミシガン州)から商業的に入手可能であり、粒子飛跡をエッチングしたポリカーボネート膜は、ポーティックス社(Poretics, Inc.、リバーモア市、カリフォルニア州)から入手可能である。加熱されたチャンバの通気は、還流チャンバなどの試料の蒸発を阻むものを含む。試料からの流体の過度の蒸発は、蒸発を制御する一方で気体を発生させるように、チャンバ内および試料の上表面上に鉱油層を配置して防ぐことができる。
【0090】
カートリッジ内の溶解領域は、物理的手段または化学的手段またはそれ以外の手段またはそれらの手段の組み合わせによって、標的細胞の溶解をもたらすよう設計され得る。物理的手段とは、ガラスやプラスチックビーズや他の粒子の振動による細胞の機械的破壊、または、鋭いミクロ構造体上での標的細胞やウイルスの衝突による細胞の機械的破壊を含む。ウイルスを95℃に熱することによる熱エネルギーの伝達、または、細胞壁を粉砕するために活性細菌胞子の凍解を繰り返すことによる熱エネルギーの伝達も用いられる。
【0091】
化学的溶解は、単独で、または、物理的溶解または超音波溶解との組み合わせで利用される。典型的な化学的溶解剤は、酵素や洗剤やカオトローペ(chaotropes)などのいくつかの部類に分けられる。リゾチーム(lysosyme)は、多くの細菌の細胞壁に加水分解の作用を及ぼす酵素であり、トリプシンは、たいていの真核細胞の細胞膜を破壊するプロテアーゼ酵素である。一定のペプチド序列の特異性をもつ他のプロテアーゼは、使用することができ、標的部分が決まったプロテアーゼに服するのが好ましい。プロテナイーゼKは、核タンパク質とポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を妨げるホスト細胞酵素をも同様に消化するのでしばしば用いられる。真核細胞について、トリトンX−100やドデシル硫酸ナトリウムなどの洗剤は、細胞膜を可溶化し、細胞間含有物を解放する。イソチオシアン酸グアニジンや尿素などのカオトローペは、細胞を溶解するのに用いることができ、標的RNAを破壊するRNアーゼ(リボヌクレアーゼ)を抑制するというさらなる利点を持つ。
【0092】
標的細胞やウイルスの機械的破壊は相互作用領域において遂行され、相互作用領域はせん断または振動によって標的有機体の表膜や細胞壁を引き裂くように設計されている。振動は、ガラスや他のビーズをチャンバ内に含むことによってなされ、また、同様にカートリッジ内に取込まれている圧電膜をチャンバに連結してなされる。一方、超音波ホーンのような超音波変換器は、超音波エネルギを細胞に伝達するようチャンバの壁に連結されている。超音波の振動数と振幅は、標的細胞の共鳴振動数と対応するように調整されており、最小量の加熱やキャビテーションで溶解をもたらすように最適化されている。とはいっても、後者は能率的な溶解が要求されている。
【0093】
微細加工チップは、ホスト細胞壁やホスト細胞膜の一つ以上の様式の物理的または化学的破壊を達成するよう設計される。一実施形態において、チップは、一体型ヒータとアミノ−シランで作られた大表面積ミクロ構造体を持ち、標的細胞やウイルスの表面タンパク質に対する特異性と親和性をもった抗体の化学的共役をさせている。標的細胞やウイルスを含む流体試料がチップを通って流れるとき、標的細胞やウイルスは、大表面積ミクロ構造体に連結した抗体により結合され、流動する流体流から除去される。ミクロ構造体は、ウイルスを溶解させるために後に95℃に熱される。
【0094】
他の細胞抽出法も用いられる。例えば、試料がかなりの高圧でチャネルを通り抜けるときにせん断応力が細胞の溶解を引き起こすように、断面寸法の制限されたチャネルを用いる。一方、細胞抽出や汚染タンパク質の変性は、試料に交流電流を掛けることによって実施されてもよい。多数の他の方法が、カートリッジ内で溶解や抽出をもたらすのに利用できる。
【0095】
抽出に続いて、例えば、変性タンパク質や細胞膜粒子や塩のような原抽出物のその他の要素から核酸を分離することが、しばしば望まれる。特定物質の除去は、一般的にろ過や凝集などにより行なわれる。様々なフィルタタイプが、カートリッジの化学的かつ/または機械的相互作用領域に容易に取込まれる。さらに、化学的変性法が用いられている場合、次の段階に進む前に試料を脱塩するのが望ましい。試料の脱塩と核酸の単離は、例えば、核酸を固相に結合させ、汚染された塩を洗い落としたり、試料にゲルろ過クロマトグラフィを行なったり、塩を透析膜に通したりして実施される。核酸の結合に適する固体支持材とは、例えば、フィルタ、ビーズ、繊維、膜、グラスウール、濾紙、ポリマー、ゲル排除媒体などである。
【0096】
いくつかの実施形態において、ポリメラーゼ酵素のような酵素は、増幅領域内にあり、適する固体支持材や領域の壁または表面に結合されている。適する固体支持材とは、当該技術において周知のアガロース、セルロース、シリカ、ジビニルベンゼン、ポリスチレンなどである。酵素の固体支持材への結合は、当該酵素に安定性を与え、酵素活性の本質的な損失や酵素の凍結乾燥の必要もなく、数日、数週間、数ヶ月もの貯蔵を可能にすると報告されている。モノクローナル抗体は、そのポリメラーゼ活性に影響せずに酵素に結合するので利用できる。従って、活性ポリメラーゼ酵素の固体支持材または増幅領域の壁への共有結合は、酵素と支持材の間の連結体としての抗体を用いて実施することができる。
【0097】
本発明の別の局面において、配位子結合法は、比細胞タイプかつ/または他の分析物を結合し捕獲するためにカートリッジ内で使用される。核酸やタンパク質などの配位子結合体は、特定の分析物反応領域を形成するために、選択された捕獲領域に配置され、分析物捕獲部材の表面に取付けられる。シラン基礎化学などの配位子結合化学が、用いられる。内表面に結合する一方の官能価と試験試料内の標的に対するもう一方の官能価をもつホモまたはヘテロの二官能価の連結体が、用いられてもよい。標的分析物を含む試料は、カートリッジを連続的に通過して、表面を覆う配位子に分析物が結合する。続いて一つ以上の洗浄溶液で洗浄された後、配位子分析物錯体は溶離される。一方、レポーター(報告)分子と共役の第2反分析物分子は、カートリッジを通り、共役が分析物によって捕獲されるようにする。この錯体もまた溶離される。
【0098】
特に好適な実施形態において、カートリッジは、射出成形またはプレス成形または機械加工された少なくとも一つのポリマー部品から作られており、該ポリマー部品は、その表面に加工された一つ以上の竪穴すなわち窪みを持ち、相互作用領域のいくつかの壁を形成する。射出成形や機械加工に適するポリマーの例としては、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリル、市販ポリマーのカプトン(登録商標)、バロックス(登録商標)、テフロン(登録商標)、ABS、デルリン(登録商標)などがある。形状が補間的な第2部品は第1部品の表面と結合して、カートリッジの残る壁を形成する。この結合部分または第3部品は、流体と直接的にまたはカートリッジを介して間接的に電気的接続を行うための印刷回路板となる。
【0099】
カートリッジは、特定の領域あるいは領域が電磁線のやりとりを介して外部機器と相互作用するよう製作されている。このようなカートリッジに通例用いられる多くのプラスチック(例えば、ポリプロピレンやポリカーボネート)は、光学的に透明である。一般に、絶縁材料は、広い周波数範囲に渡って電磁線を通過させる。このような電磁線は、意図する適用と一致するならばどんな周波数であってもよい。例えば、ラジオ波は、カートリッジに情報を伝達するための代替手段として用いられる。ラジオ波はまた、カートリッジ内のあらゆる内部回路に少量の力を供給するのにも用いられる。マイクロ波周波数は、流体試料の加熱を誘発するために用いられる。赤外線信号は、パーソナルコンピュータに用いられる場合と同様に、加熱のために、またはIRリンク(赤外線連結)を介してのデータ交換のために用いられる。
【0100】
発光ダイオード(LEDs)や例えばフォトダイオードのような光検出器を用いた光学的周波数は、(光学的透過率の変化の検出による)流体の存在の検出や、(例えば、比波長での吸収や蛍光やルミネセンスの測定による)化学的反応の監視に有効である。紫外線周波数と同様に光学的周波数は、検出用の反応生成物の蛍光を励起するために用いられる。この周波数はまた、化学反応を誘発または促進するためにも用いられる。
【0101】
強度の紫外線やX線などの高い周波数の電磁線はまた、特定の適用に対して可能であるが、上記タイプの電磁線の線源が、必ずしも小さい機器に実用的であるとは限らない。(放射性物質のような)電離放射線の線源は、無理なく機器に組込まれ、このような電磁線は、カートリッジ内で、例えば特定の流体成分の反応や検出の向上あるいは流体特性の向上などの、特定の目的に使用されることも可能である。
【0102】
カートリッジは、特定の領域または領域が磁力を介して外的環境と相互作用するように製作される。例えば、カートリッジの領域は、磁気ビーズの貯蔵器を含んでもよい。このようなビーズは、様々な結合材と機能することができる。一連の磁界をカートリッジに当てることにより、これらのビーズは、振動またはある領域から別の領域へと移動する。AC電磁界を用いると、このようなビーズは、カートリッジの小さい領域内で循環させられて、カートリッジ内の流体を混合する。
【0103】
磁力はまた、流体制御のためにカートリッジ内で小さい弁を作動するのにも用いられる。磁性体の小さなストリップ(小片)は、ある特定の流路に沿って流体流を方向転換させるためにカートリッジ内に取込まれている。他の可能性としては、磁界が取り除かれたときに最初の位置に戻るように磁気ストリップを製作する。ストリップは、機械的に双安定となるように製作される。磁気パルスをストリップに与えることは、最初の双安定状態から第2の状態へ機械的転移を引き起こす。この第2の状態において、ストリップは、別の流路へと流体流動を方向転換させる。このような弁の配置は、流体の動きを完全に制御できる。
【0104】
カートリッジは、特定の領域が電界を介して外部機器と相互作用するように製作される。カートリッジ内に非常に薄い領域を製作することにより、かつ、機器内の対応する導電領域を上記領域と結合させることにより、カートリッジ自体への電気的接続の必要なしに、電界が流体に与えられる。このような電界は、カートリッジ内で荷電分子を一表面から別の表面へと移動させるのに用いられる。チャネルの適切な設計により、このような形状は、荷電分子を非荷電分子から分離するために用いられたり、荷電分子を引き付けて保持する一方で他の不要な分子を装置からフラッシュ(排除)するのに用いられる。
【0105】
カートリッジの様々な相互作用領域により実施される多くの作業は、制御し得る温度を必要とする。例えば、PCR増幅は、ストランド分離温度とアニール反応温度と拡張反応温度の間で試料が循環することを必要とする。等温DNA増幅技法、配位子結合、酵素反応、拡張反応、転写反応、混成反応などを含む多くの他の反応もまた、通例、最適化され制御された温度で実施される。
【0106】
温度制御は、通例、当該技術において周知の手段を用いて準備された制限的なヒータにより提供される。例えば、これらのヒータは、チャネルやチャンバの内部或いは隣接したところに貼り付けられた薄い金属フィルムから製作され、これにはスパッタリングや制御蒸着やスクリーン印刷などの周知の手段を用いる。ヒータは、ヒータに電流を送出する電源に接続されている。電気接続部は、ヒータに対して説明された方法と同様の方法を用いて製作される。
【0107】
一実施形態において、制御可能なヒータは、試料の温度制御領域の内部や隣接したところに配置されている。温度制御は、反応の特定段階で望まれる温度を達成するために、ヒータに供給される電流の変動により実施される。もしくは、温度制御は、異なる一定温度を持った多数の異なる反応領域や同一カートリッジ内の領域の間で流体試料を移送することにより、または、多数の変動温度帯を進む蛇行チャネルを通して試料を流すことにより達成されてもよい。一方、加熱は、領域をレーザや他の放射線源にさらすことにより提供される。
【0108】
抵抗加熱要素はまた、領域内にシリコンを拡散させることにより、或いは選択された領域に薄い金属フィルムや炭素やポリシリコンを付着させることにより、カートリッジの領域内に取込まれる。制御された加熱は、混合、固体試薬の分解、溶解、タンパク質や核酸や細胞溶解の熱変性、結合分子の溶離、試料内での分子の拡散率の増大、表面結合係数の改質などのさらなる機能的能力を提供し、同様に、ポリメラーゼやリガーゼの連鎖反応のために能率のよい熱循環を提供する。冷却特徴もまた、例えば外部冷却フィンをもつ大表面帯領域で利用される。
【0109】
ヒータは、加熱による悪影響を受けることなく100℃を上回る温度を生成できるのが好ましい。ヒータは、相互作用領域または他の領域の一表面上に層として提供されるか、領域内に組込むために射出成形されたインサートまたは機械加工されたインサートとして提供される。電源の制御は、典型的には、外部機器のプロセッサのような適切にプログラムされたプロセッサにより実施される。ヒータは、カートリッジ表面に抵抗性導電膜やインサートを付着させることによりカートリッジ内に取込まれるか、あるいは、機器内などの外部に設けられてカートリッジの外面に取り付けられ、特有の領域に隣接することにより、熱をその領域内に伝導する。
【0110】
温度制御領域はまた、温度を監視するための小型温度センサを有し、これによってヒータを横切る電流の印加を制御する。幅広い種類のマイクロセンサが温度測定に利用できる。マイクロセンサには、例えば、温度従属起電力(EMF)を生じるバイメタル接点をもつ熱電対や、物質の温度と比例する電気抵抗をもつ物質を含む抵抗温度計や、サーミスタや、IC温度センサや、石英温度計などがある。一方、ヒータ自体の抵抗の温度係数は、加熱入力を制御するよう監視されている。
【0111】
温度センサにより測定される温度と電源入力は、典型的には、外部機器内のマイクロプロセッサやマイクロコントローラのようなプロセッサに入力され、プロセッサは入力データを受取り記録するようプログラムされている。同プロセッサは、相互作用領域や他の領域の温度を上げたり下げたりするために、適切な電流の送出を指示するプログラミングを典型的に含む。例えば、プロセッサは、PCRのための温度循環のような多くの前もって決定された時間/温度分布を通して相互作用領域を得るようプログラムされる。本発明の小型カートリッジを仮定すると、相互作用領域の冷却は、典型的には、周囲温度に暴露して起こる。しかしながら、もし望まれるのであれば、冷却液システムや、ペルチェ冷却器や、ウォーターバスや、熱パイプなどの追加的な冷却要素が含まれる。
【0112】
別の局面において、混合は、装置に隣接したコイルに交流を流すことにより振動する強磁性要素をカートリッジ内へ組み込むことによって行なわれる。振動電流は、コイルの中心を通る振動磁界を創り出し、結果として、カートリッジ内の磁気粒子が振動運動や振動回転をして、流体成分の混合を生じる。
【0113】
温度を監視するセンサに加えて、カートリッジは、装置の一つ以上の運転の進行を監視するセンサを含む。例えば、光学センサや圧力センサが、一つ以上の領域に組込まれて様々な反応の進行を監視したり、チャネル内にあって流体の進行を監視したり、あるいは、pH、温度、電導度、キャパシタンス、蛍光、粘性、(化学)ルミネセンス、色彩などの流体の特性を検出したりする。
【0114】
カートリッジは、温度センサと制御部を典型的に含む。例えば、加熱要素または温度制御ブロックは化学的相互作用領域の外表面に隣接して配置され、熱を領域に移送する。この場合、好適なカートリッジは、温度制御が望まれる領域のための薄い外壁を含む。この薄壁は、ポリカーボネート板やカプトン(登録商標)テープ(3M社などから商業的に入手可能)に接着されたシリコンといった高温テープなどの薄いカバー要素である。一実施形態において、カートリッジは、個々に製作されてから互いに結合された二つ以上の部品からなる。この部品の表面の一部は、最終的に、流体流動領域またはチャネルの内部となる。
【0115】
このような表面上に、導電層が付着され得る。この導電層は、例えば、金、クロム、白金、銀、炭素、銅、または他の金属など、いくつかの金属のうちの一つであり、めっき、蒸発、スパッタリングなどの標準薄手フィルム付着技法により付着される。このような導電材料の他の付着方法は、厚手フィルムの技術による。この方法では、導電ペーストや導電インクをスクリーン印刷により付着して、ベーキングして溶剤を排除し、最終導体を残す。最後に、炭素の薄手フィルムは、一般的に安価な導電材料として用いられる。これらの導電材料もまた、導電層を形成するために、スクリーン印刷をして低温でベーキングされる。
【0116】
上記方法のいずれもが、外的環境から流体封止面を通してカートリッジ内部へと電気的信号を伝導させるのに有効である。上記導体は、非常に薄く作られ、必要な導電率によってのみ制限される。カートリッジの場合、導体の厚さは0.0254mm程度である。
【0117】
このような導体を通る電気的信号は、カートリッジへの入力としてもカートリッジからの出力としても、多くの方法で用いられる。いくつかの信号は、回路の作成を含み、回路の一部はカートリッジ内の流体自体である。一実施形態において、このような回路は、単に流体の存在または不在を検知するために用いられる。二つの導電端子は、互いに接近しているが接触していない状態で、流体チャネル内の領域に送られる。外部エレクトロニクスは、例えば、導体間に弱い電圧をかけて電流の流れを監視することにより、これら導体間のインピーダンスを監視する。流体が全く存在しないとき、インピーダンスは非常に高くなる。しかしながら、流体がチャネル内の上記地点を通過するとき、流体は二端子間のギャップを埋める。生物学的適用または化学的適用において典型的に用いられる流体は少なくとも穏やかに導電するので、この流体は、回路内のインピーダンスを劇的に減少させる。このインピーダンスの減少は、エレクトロニクスにより検知され、この入力に基づいて決定がなされる。流体チャネルの長さに沿っていくつかのこのような回路を設置することにより、外部エレクトロニクスは、流体速度を監視するのに用いられ、こうして目的の流体処理の進行が監視される。
【0118】
流体と接触している電極も、流体の特定の性質を監視するのに用いられる。キャパシタンス、流体導電率、流体pH、反応領域湿度(例えば、紙が基材のカートリッジにおいて)は全て、電子的手段により監視される特定流体パラメータの例である。特定の電極構造はまた、反応生成物の電気化学的検出を可能にすることができる。
【0119】
他の例は、DNAのような生体分子を操作するために、流体内でのこのような電気接続部を使用することである。このような分子は、DC電気泳動により流体を通って移動することができる。この場合、一電極は、対向電極としての流体と接触する。多くの他の電極は、荷電分子を引き付けるために対向電極に対してバイアスされている。例えば、DNAのようないくつかの巨大分子は、マイナスの電荷を帯びている。電極を対向電極に対してプラス側にバイアスすることにより、これらの巨大分子は、プラス電極に引き付けられる。これは、このような分子を他の流体成分から隔離したり、カートリッジ内の特定の反応領域に引き付けるのに有用である。
【0120】
生体分子の移動や隔離に有用な他の電気的技法は、AC誘電電気泳動である。この場合、二つ以上の電極は、典型的には互いに接近するよう配列されており、不均一な電界を生じる物理的配置にある。周波数が数十MHzまでのAC電界は、電気的分極を誘発することで知られていて、このような分子を移動させたり、分離やさらなる処理がなされる領域に引き付ける。分子はまた、特定の分子が特定の励起周波数に反応するという、独特な特徴をもつ。このように、特定の分子は、AC励起の周波数を変えることによって流体試料から分離される。一連の電極に沿った進行波励起を用いることにより、これらの特定の分子は、所々に移動される。
【0121】
電気接続のその他の利用法は、電気分解反応をさせて流体の移動を実現するというものである。流体貯蔵室への電気接続は、電解ポンプ(eポンプ)を実現するために使用される。このような装置において、電流は電解液の貯蔵室を通る。この電流は気体を発生させる。というのは、電解液が酸素および水素のような気体に分解されるからである。これらの気体は、局部的な圧力を強め、動力源として使える。この圧力は、例えば、柔軟な薄膜を介してカートリッジ内の処理流体に伝導され、それゆえ、処理されるべき流体の流動を実現することができる。
【0122】
図5Aおよび図5Bは、このような電解ポンプ25の1つを示す。図5Aの平面図に示されているように、ポンプ25は星形の形状を有する電極27を含んで、気泡が貯蔵室29の内部に形成し始めた後でさえも電流路がいつも利用できるのを確実にしている。密閉リング4は、貯蔵室29内で電解液を捕らえる。図5Bの概略側面図に示されているように、流体39は、膨張可能な薄膜37を有するパウチ35内に入れられている。流体は電極27と接触し、電流が電極に加えられると分解する。分解する流体は、パウチ35内で圧力の増大を引き起こす。増大した圧力によってパウチが膨張するため、パウチは液体試薬パウチ(図示せず)に対して片寄る。それゆえ、液体パウチ内に含まれている液体試薬は、強制的に放出される。流体流の速度を測定するための前述の手段と共に、電極27への電流(電力)を制御することによって、閉鎖ループ流体流制御システムが実現され得る。これを実現することにより、処理サイクル中の様々な点における流速(そしてそれ故に、様々な反応領域における滞留時間)が、自由に制御され監視され得るので、非常にうまく制御された反応にとって多くの可能性が広がる。
【0123】
図6は、好ましい微細加工されたチップ20の概略断面図であり、チップは図2のカートリッジ内の貫流構成部品として使用されるべきものである。チップ20は、流体試料から例えば核酸などの所望の分析物を捕獲するために使用されたり、分析物の高濃縮溶離液を提供するために使用される。チップ20は、入口28と出口30と抽出チャンバ26とを形成する本体をその中に含み、上記抽出チャンバ26は流体試料が本体を通って流れるときに流体試料から分析物を抽出する。チャンバ26は、入口28と出口30とを流体で連通しており、これらの出入口は、好ましくは、チャンバを通って連続的に流体が流れるように、チャンバ26の互いに対向する側に配置される。
【0124】
本体は、好ましくは、ベース基板22と、このベース基板22に接合されたトップ基板24とを備えている。基板22と24とは、例えば、ケイ素、ガラス、二酸化ケイ素、プラスチック、あるいはセラミックスのような適した基板材料を備えている。好ましい実施形態においては、チャンバ26はベース基板22に形成されており、流体出入口28および30は、トップ基板24に形成されている。しかしながら、代替の実施形態においては、多くの異なる形状が可能である。例えば、チャンバ26は、部分的あるいは完全にトップ基板24に形成されてもよく、流体出入口は、ベース基板22の底部あるいは側部に形成されてもよい。これらの代替の実施形態のいくつかは、以下に記載される。
【0125】
チャンバ26は、内部付着面を有し、その内部付着面は、流体試料がチャンバを通って流れるときに分析物を捕らえるために、十分に大きな表面積を有し、標的分析物に対し結合親和性を有する。好ましい実施形態において、内部付着面は、内部微小構造体の配列、好ましくは高いアスペクト比のコラム32によって形成されており、そのコラム32はチャンバ26の壁に一体に形成されてチャンバ内へと延びている。図を簡略にするために、25本のコラムのみが図6の概略図に示されている。しかしながら、理解されるべきことは、本発明のチップは、もっと多くのコラムを含んでいるということである。概して、少なくとも100本のコラムでチップを製造することが好ましく、さらに好ましいのは、1,000本から10,000本のコラムでチップを製造することである。コラムの数は、とりわけ、試料中の分析物の量と濃度、チャンバの寸法、コラムの間隔、チャンバを通る流体の流速などに左右される。チップを成形加工するための特定の技術は、以下に記述される。
【0126】
図8は、抽出チャンバの底部壁23から延びているコラム32の配列の一部を示している。コラム32は、好ましくは少なくとも2:1のアスペクト比(高さと幅あるいは直径との比)を有し、さらに好ましくは、少なくとも4:1のアスペクト比を有する。高いアスペクト比のコラム32は、分析物を捕獲するために大きな表面積を提供する。流体試料がチャンバを通って流れるとき、分析物はコラム32の表面に接触し付着する。分析物を溶離するために、溶離流体は、チャンバを通って強制的に流され、コラム32の表面から溶離流体内へと、例えば核酸などの分析物を放出する。好ましい実施形態において、コラム32は、抽出チャンバの深さ、好ましくは少なくとも100μmと等しい高さを有する。代替の実施形態において、抽出チャンバの深さはもっと浅いが、100μmよりも浅い深さは、チャンバを通る流体流を過度に遅くさせる。
【0127】
図9は、チャンバ26に配置されたコラム32の配列の概略図を示している。流体は、入口28を通ってチャンバ26に入り、コラム32の間を流れて出口30に至る。コラム32は、好ましくは、流体がチャンバ26を通って流れるとき、コラム表面との流体の相互作用を最適化する配列で配置される。コラムの配置の最適化によって、抽出の効率を損なうことなく、チャンバを通る、流体の流動速度をより速くすることができる。
【0128】
好ましい実施形態において、コラム32は列をなして配置され、一列の中の各コラムはその列の隣接するコラムから均一な間隔に配置されている。すなわち、一列中のコラムは好ましくは、中心から中心まで均一な間隔を有している。例えば、図9は水平な10列の均一間隔のコラム32を示している。さらに、各列のコラムが、隣接する列のコラムと一直線上に並ばないように、隣接する列は、好ましくは互いにずらされている。例えば、図9のコラムの各列は、隣接する列から水平にずれている。
【0129】
さらに、好ましい実施形態において、各列のコラムが少なくとも2つ前および/または後ろの列のコラムと一直線上に並ばないように、列がずらされている。この中心のずれは、連続する列のパターンであり、チャンバは一つのパターンあるいは反復パターンを含んでいる。例えば、パターンは3列から10列毎に繰り返される。代替の実施形態においては、コラムの中心のずれは、列から列に不規則である。
【0130】
一般的に、配列におけるいかなる隣接する2つの列は、1列目のコラムが2列目のコラムとコラムの間のちょうど中間点で並ぶようには、互いにずらされるべきではない。それよりむしろ、目下のところ好ましいのは、隣接する列をコラム間の中心から中心までの間隔の50%以上あるいは以下の距離ずらすことである。この配列は、流体流の各支流がコラムの表面と出来るだけ強力に相互作用するのを確実にするために、チャンバを通って非対称な分裂流のパターンを与える。
【0131】
コラムの適切な配置の特定例は、今、図9に関して与えられている。各列において、隣接するコラム間の中心から中心への間隔は15μmである。コラムは、5列毎に繰り返されるというパターンで配置されている。特に、上部の各5列は、前および/または後に続く列から6μmずれている。下部の5列(6列目から10列目)は、上部の5列のパターンを繰り返し、6列目は最前列と一直線上にあり、例えば、コラム32Aはコラム32Bと一直線に並んでいる。もちろん、これは、コラムの適切な配列のほんの一例であり、本発明の範囲を限定する意図はない。この説明から、好ましくは、上記で述べられた一般的なガイドライン内で、コラムが他の多くのパターンで配列され得ることは、当業者には明らかであろう。
【0132】
図10は、一列中の隣接する2つのコラム32の平面図を示している。コラム32は、好ましくは、コラムの表面と流体の接触を最大化する断面形状と大きさを持ち、同時に、なおも流体がチャンバを通って円滑に流れるようにしている。好ましい実施形態において、長く薄い断面形状、好ましくは図10において示されている六角形のような流線形を有するコラムを成形加工することによって、このことは達成される。特に、各コラム32は、断面の長さLと断面の幅Wの比が、好ましくは少なくとも2:1、より好ましくは少なくとも4:1である。さらに、断面の長さLは、好ましくは、2μmから200μmの範囲内で、断面の幅Wは好ましくは0.2μmから20μmの範囲内である。
【0133】
一列中の隣接するコラム間の間隙距離Sは、好ましくは、出来るだけ小さくなるように選択され、同時に、なおも流体が過度の抵抗なくコラム間を流れることが出来るようにしている。一般的には、間隙距離Sは、0.2μmから200μmの範囲であり、さらに好ましくは、2μmから20μmの範囲である。2μmから20μmの範囲は、現在好ましい。なぜならば、その範囲は、チャンバを通る流体流に過度の抵抗を引き起こすことなく、コラムの表面に実質的な流体の接触を与えるからである。一列中の隣接するコラム間の中心から中心までの間隔Cは、断面の幅Wと間隙距離Sとの合計であり、好ましくは、2.0μmから40μmの範囲内にある。
【0134】
図9における縦の寸法である抽出チャンバ26の長さは、好ましくは、100μmから5000μmの範囲内にあり、より好ましくは、少なくとも1000μmである。抽出チャンバ26の幅は、好ましくは、100μmから3000μmの範囲内である。流体出入口28および30はそれぞれ、好ましくは、少なくとも100μmの幅あるいは直径を有している。現在のところ、チャンバ26は、コラム32の配列と流体出入口28および30とに対して十分な空間を与えるために、最小限の長さ1000μmを有していることが好ましい。特に、現在のところ、好ましいのは、コラム32の配列をチャンバ26の中央域に限定して、チャンバ26の端部に広い空間を残すことであり、その端部には流体出入口28と30とがチャンバにつながっている。この配置は、流体がコラム32の間を流れるのに先だって、チャンバ26内へ流れ込む流体の均一性を高める。
【0135】
再び図6を参照すると、例えばコラム32やチャンバ壁のようなチャンバ26の内部表面は、標的分析物との高い結合親和性を有する物質で被覆される。適当な材料としては、例えば、ケイ素や二酸化ケイ素のようなケイ素誘導体や、ポリマーやポリアミドのようなポリマー誘導体や、核酸や、ある種の金属や、ポリペプチドや、たんぱく質や、多糖類を含んでいる。
【0136】
ガラスのケイ酸塩(SiO2)の特性は、核酸を引きつけ、結合する。ケイ素は酸化されるとき、同じような表面の化学反応をもたらす。このような表面への非永続的な(非共有結合的な)付着(吸収)は、典型的に、その表面と捕獲されるべき部分との間の弱い双極分子や、水素結合、あるいはイオンの相互作用に基づく。これらの相互作用は、溶媒および/または表面のイオン特性の変化や、熱あるいはその他の物理化学的な手段によって、可逆的である。多くの物質は、溶液中の溶媒と溶質との様々な相互作用をするように適応させられる。ポリマーは、特定の相互作用力を与える活性表面群を有し、また、それらは、イオン的あるいは水素的な結合能力さえも与える共重合体、あるいはドーパントを有することができる。可逆的な両極性あるいは調整可能な伝導性を有するポリマーもある。合成およびいくつかの天然のポリペプチドやたんぱく質は、溶質分子と様々な相互作用をするために同様の能力を示してきた。金のような金属は、DNAを捕獲する能力を有することが良く知られており、その電子特性によって、溶質とのイオン的な相互作用を変化させることができる。
【0137】
チャンバ26の内部表面は、例えば、ウイルスからのRNAの特定配列、あるいはバクテリアからのDNAの特定の配列など、特に目標化された分析物との高い結合親和性を有する物質でも被覆される。このことは、目標の核酸の配列に対して相補的な特定の核酸の配列で内部表面を被覆することによって、達成される。表面はチップの形成中、あるいは使用の直前に被覆される。
【0138】
微小流体チップ20は、好ましくは、抽出チャンバ26を加熱するためのヒーターを含んでいる。ヒーターによってチャンバから分析物を高効率で溶離できるため、大量の分析物が小さい体積の溶離流体内へと放出される。ヒーターは、分析物の捕獲を容易にするためにも使用される。小さな容積の微細チャンバ内でヒーターを使用することの利点の一つは、チップを熱するのに微量のエネルギーを要するだけであるという点である。
【0139】
一般に、ヒーターはチャンバ26を加熱するための適切なメカニズムを備え、そのメカニズムには、抵抗ヒーターや、可視光線または赤外線を伝えるための光学ヒーターや、あるいは電磁ヒーターが含まれる。もし、チップ20の本体が、電気的に伝導性のある材料、好ましくはケイ素から成形加工されるならば、ヒーターは、チャンバ26を形成している本体の一部に電圧を印加するための電源および電極を簡単に備えることができる。また、材料の高い熱伝導率によって、加熱時間は短くなり、電力の必要性は減少し、非常に均一な温度となる。この実施形態は、より詳しく以下に記述される。
【0140】
好ましい実施形態において、ヒーターは、チャンバ26の底部壁と連結した抵抗加熱要素34を含んでいる。図7において示されているように、抵抗加熱要素34は、好ましくは、基板22の底面上にパターン化された金属や炭素あるいはポリシリコンの薄膜である。代わりに、加熱要素は、エッチングされた箔状加熱要素のような、基板22に結合された薄層化された加熱源を含んでいる。電気的に伝導性のある結合パッド38Aおよび38Bも、加熱要素34の対向する端部に電気的に接触するために、基板22上にパターン化されている。
【0141】
結合パッド38Aおよび38Bは、加熱要素34に電圧を印加するために電気リード線によって電源に接続される。電源の制御は、好ましくは、カートリッジあるいは外部機器内にある、適切にプログラミングされた制御装置、例えば、コンピュータや、マイクロプロセッサや、マイクロコントローラなどによって実行される。制御装置は、加熱要素34に供給される電力量を変化させることによって、かなり多くの予め決定された時間/温度のパターンを、チャンバ26に与えるようにプログラミングされている。
【0142】
微小流体チップは、好ましくは、抽出チャンバ26の温度を測定するために制御装置と連通している一つ以上の温度センサを含んでいる。一般的に、温度センサは、温度を測定するためのいかなる適切な装置でもあり得る。例えば、熱伝対や、抵抗温度計、サーミスター、IC温度センサ、クオーツ温度計などである。これに代わって、加熱要素34の抵抗温度係数は、チャンバの温度を測定する手段として利用され、また、温度を示しているものとして抵抗を監視することによって入熱を制御するために利用される。
【0143】
好ましい実施形態において、温度センサは、基板22上にパターン化された電気的に伝導性のある材料のストリップ36を含んでいる。ストリップ36は、材料の温度に依って電気抵抗を有する材料を含んでいるので、チャンバ26の温度は、ストリップ36の抵抗を測定することによって測定される。電気的に伝導性のある結合パッド40Aおよび40Bも、センサストリップ36の対向する端部を電気的に接触させるために基板22上にパターン化されている。
【0144】
代替の実施形態において、基板22は、基板22にバルク接触を提供するために基板22上にパターン化された付加的な結合パッド42も有する。このバルク接触は、チャンバ26の内部付着面を、核酸を誘引および/または溶離する電圧で充電させるために使用される。抵抗加熱要素と、センサストリップと、結合パッドとを形成するための適当な金属は、アルミニウムと、金と、銀と、銅と、タングステンとを含む。
【0145】
結合パッド40Aおよび40Bは、電気リード線によって制御装置に接続され、制御装置は、好ましくは、センサストリップ36の抵抗によって加熱要素34に供給される電力量を調整するようにプログラミングされている。制御装置と電源と加熱要素と温度センサとは、それゆえ、チャンバ26の温度を制御するために閉鎖ループ温度制御システムを形成している。閉鎖ループシステムは、目下のところ、好ましいものではあるが、代わりの実施形態においては、温度センサは除去され、チップは開放ループの形態で作動されてもよい。さらに、例えば、一つ以上のマイクロプロセッサとマルチプレクサーと電力制御サーキットリーとセンササーキットリーなどを含むプロセッシングエレクトロニクスは、チップの中に含まれるか、あるいはチップの本体の外部に配置されて、チップ本体に接続される。
【0146】
微小流体チップは、前に図2に関して記述されたように、好ましくはカートリッジと結合して使用される。貫流チップの一つの利点は、例えば数ミリリットル以上の比較的大きな容積の流体試料からの分析物が、例えば25μL以下のはるかに小さな容積の溶離流体内へと濃縮されるようにできるということである。特に、装置を通って強制的に流される流体試料の容積と、抽出チャンバの容量との比は、好ましくは、少なくとも2:1であり、より好ましくは少なくとも10:1である。好ましい実施形態において、抽出チャンバは、0.1μLから25μLまでの範囲の容積を有し、装置を通って強制的に流される流体試料の容積は、1mLから100mLの範囲であり、100以上の濃縮率を可能にしている。
【0147】
微細加工チップのその他の利点は、チャンバの内部付着面の迅速且つ直接的な加熱を可能にする点である。チャンバ壁およびコラム構造の一体性と高い熱伝導性とは、チャンバ内の流体の加熱を必要とすることなく、加熱要素から直接的に付着面への迅速な熱の移動を可能にする。この効率性の改善は、加熱の速度と精度と正確性の点で、加熱に要する電力の減少と同様に重要である。特に、分析物が結合する内部表面の迅速且つ直接的な加熱は、溶離の程度と効率性を大きく増大させ、先行技術の方法と装置に関して重要な改善を与える。
【0148】
チップのさらなる利点は、一体的に形成された微小構造の配列、好ましくは、高いアスペクト比のコラムを含むことであり、そのことは、流体試料から分析物を分離するときに高度の効率性と制御とを与える。付着面の直接且つ迅速な加熱ができることに加えて、微小構造は分析物を捕獲し溶離するために使用されるチャンバの有効な表面積を大きく増大させる。
【0149】
さらに、規則的に間隔をおいて配置されたコラムによって、コラム間の拡散距離は一定であり、ビーズおよび繊維の不ぞろいの性質とは対照的に、各分析物が同じ「微小環境」に属するように流体流の均一性がある。この均一性によって、各プロセス段階に要する時間と、流速と、加熱量と、流体容積などを含んだ抽出パラメーターが予測可能となる。さらに、内部微小構造の配列を用いることによって得られる効率性の増大、および迅速且つ直接的に付着面を加熱することによって得られる効率性の増大は、チャンバを通る比較的高い流体流速とともに、分析物の効率的な抽出と溶離とを可能にしている。このことは、抽出と溶離とのために要する全体的な時間を減少させる。
【0150】
本発明の微細加工チップは、オリゴヌクレオチドやポリペプチドのようなバイオポリマーの組み合わせ合成にも有効である。組み合わせ合成は、モノマーを運搬し、濃縮し、反応させることと、試薬を連結し非ブロック化することと、個々にアドレスできる反応・抽出微小構造における触媒とによって、非常に多くの配列を装置内で合成させる。この使用法は、選択された微小構造を互いから絶縁し、また、近くの試薬から絶縁するという、装置の能力を利用している。
【0151】
チップ20は、フォトリソグラフィーおよび/またはマイクロマシニングを含む様々な技術を用いて成形加工される。成形加工は、好ましくはケイ素上で、あるいはガラスや二酸化ケイ素やプラスチックやセラミックスなどのその他の適した基板材料上で行われる。深部反応イオンエッチング(DRIE)を用いる微小流体装置を成形加工する好ましい方法は、次に記述される。
【0152】
100mmのn型(100)の0.1〜0.2オームcmの両側面研磨シリコンウエハは、ベース基板22のスターティング材料として用いられる。ウエハの厚さは、好ましくは、所望の構造に依って、350μmから600μmの範囲にある。チップを製作する一つの実施形態において、後部の領域へ3価のリンを含むイオンを好ましくは0.2μmから5μmの深さまで注入することによって、オーム接触は行われる。代わりに、p型シリコンウエハが使用されて、オーム接触はホウ素イオンの注入を用いて行われる。注入の次に、基板を加熱してドーパントを活性化させる。
【0153】
次に、ウエハは、前面側で(例えば、シップレー(Shipley)から入手可能な)フォトレジストを用いて回転され、DRIEプロセスをマスクするのに十分なフォトレジストの厚みを得る。この厚みは、エッチングの最終所望深さで決まる。シリコンエッチングの速度とフォトレジストの腐食の速度との比は、典型的に50:1以上である。200μmの深さの構造をエッチングするには、通常、4μmのフォトレジストで十分である。フォトレジストは、90℃で約30分間ソフトベイクされ、それから所望のマスクパターンによって感光され、現像され、シリコンウエハ加工の技術において良く知られているプロセスを用いてハードベイクされる。
【0154】
図11は、ウエハの前面側の試料マスクパターンを示している。エッチングマスクは、基板22に抽出チャンバを形成するためのチャンバパターン44の範囲と、対応するコラムの配列を基板に形成するためのコラムパターン46の配列の範囲とを限定している。図面サイズにおける空間的な制限によって、エッチングマスクは、数百のコラムパターン46のみによって図示される。しかしながら、好ましい実施形態では、この配列は、対応する数のコラムを基板22に形成するための1,000から10,000のコラムパターンを含んでいる。
【0155】
パターン化されたウエハは、次に、抽出チャンバと一体型コラムとを形成するために、DRIEプロセスを使用してエッチングされる。DRIEプロセスは、誘導的に連結されたプラズマエッチングと蒸着とを交互に使用することを含み、フッ素を基礎とした化学的性質を利用する。エッチングされた構造における20:1のアスペクト比は、容易に実現される。エッチングの速度は、典型的には毎分2μm以上である。
【0156】
エッチング後、残りのフォトレジストは、例えば酸素プラズマエッチングあるいは硫酸中での湿式化学ストリッピングによって、ウエハから除去される。基板は、次に、チャンバの内部表面、すなわちチャンバ壁およびコラム表面を被覆するように酸化物層で酸化される。酸化物層は、好ましくは、1nmから100nmの厚さで、例えば、熱成長または化学成長または電気化学成長、あるいは蒸着などの良く知られた技術を使用して形成される。
【0157】
次に、例えば、アルミニウム、金、あるいは銅などの電気的に伝導性のある材料は、基板の後部に蒸着されパターン化されて、抵抗加熱要素と温度センサと結合パッドとを形成する。上記加熱要素およびセンサを形成するために、異なった材料が使用されてもよい。基板上に金属をパターニングするための特定の技術は、当該技術分野において良く知られている。次に、基板は、例えば500μmの薄いパイレックス(登録商標)ガラスカバーに、陽極接合される。ガラスカバーは、その中に例えば超音波ミリングによって成形された穴を有し、その穴はチャンバへの流体出入口を形成する。接合後、基板の対は、ダイヤモンドソーを使ってさいの目状に切られる。生じる構造は、図6に概略的に示されている。
【0158】
微小流体チップの正確な寸法および構造は、特別な利用法にチップを適合させるように変化される。本発明による可能な装置の具体例は、次のようなものである。装置は、4.0mm角で厚さ0.9mmである。抽出チャンバは、200μmの深さと、2.8mmの長さおよび幅を有する。流体出入口はそれぞれ、0.4mmの幅を有する。装置は、チャンバ内に2.0mm×2.8mmの面積を占めるコラムの密集した配列を有する。コラムは、200μmの高さと、50μmの断面の長さと、7μmの断面幅と、一列中の隣接するコラム間の8μmの間隙距離と、15μmの中心から中心までの間隔とを有する。配列中には、約7,000本のコラムがある。もちろん、これらの寸法は、ほんの一つの可能な実施形態の典型例であり、本発明の範囲を限定する意図はない。装置の各材料の特定寸法は、代替の実施形態では、好ましくは、この明細書の初期に述べられた一般的なガイドライン内で変化し得る。
【0159】
チップは、シリコングルーなどの柔軟なポリマーコーティングを施したカートリッジの領域に組み込むことができる。また、ガスケットは、チップの流体口に合わせて整合穴を設けて、密封された流体アセンブリをミクロ流体領域(チップ)とマクロ流体領域(カートリッジ本体)との間に設けるようにして、成形加工することができる。別のプラスチック片をチップに結合させることによって、チップをガスケット材料に対して強く押し付けて密封することができ、こうして完全にチップをカートリッジ内に封じ込めることができる。
【0160】
また、ガスケットを使用せずに、チップをカートリッジに直接溶接させてもよい。特に有利な実施例では、カバーを形成するために、単独の基板、例えば、パイレックスガラス(登録商標)を用いるよりもむしろ、カートリッジ自体の部分が、チップのカバーとなっていてもよい。この実施例において、基板22が、カートリッジに挿入され、カートリッジの壁部に封止される。上記壁部は、その中に穴を有し、抽出チャンバへの流体口を形成している。
【0161】
一体形成されたチップとプラスチックカートリッジを作るのに用いられるある技法は、プラスチックにおける凹部領域を使って、シリコン/ガラスの微細加工チップを収容する。この凹部領域は、シリコン/ガラスのチップを収容して正確に配置するために、精密に寸法形成されている。この技法により、微小なシリコン/ガラスのミクロ流体チップを、マクロ流体のチャネルや出入口、およびプラスチックに成形されたその他の流体領域に容易に整合させることができる。凹部自体も、シリコン/ガラスのチップの底部の流体口と連絡する流体口を備えていてもよい。
【0162】
さらに、凹部領域を使用することによって、第1のシリコン/ガラス/プラスチックの順になっているアセンブリの上に、他のプラスチック成形部品を容易に積層することができる。この第2の技法は、プラスチック内の成形流体通路を、シリコン/ガラスのチップの(チップのどちらかの側の)平面上に現れる微小流体の開口(通常直径約0.5mm)に整合させる場合に特に適している。また、この技法は、必要ならば、微小流体チップ上の電気接点に達するのに便利な手段を提供する。この場合、積層されたプラスチック内の領域は、開いた状態にされており、シリコン/ガラスのチップにワイヤ結合するのに到達しやすいようになっている。
【0163】
第3の技法は、(100)シリコンにおける異方性腐蝕角錐形ピットの反対の形をした成形プラスチック領域の形成である。この技法には、いくつかの利点がある。この技法は、シリコンとプラスチックの容易な整合を可能にすると同時に、プラスチックがシリコンチップの異方性腐蝕流体ピットに接続されないといけなくなるような流体死容量を最小限にする。
【0164】
第4の技法は、種々のプラスチックとシリコン/ガラス片の間の液密封止を行うために、積層あるいはパターン化された接着フィルムを用いることである。ポリイミド樹脂やマイラー(登録商標)などの材料は、非常に薄いシート(0.0254mm程度)に形成して、両面に接着剤(紫外線あるいは温度により硬化可能)を塗布することができる。接着剤は、2つの部材を接合するだけでなく、液密封止を形成する。このようなシートは、種々の形に切ったり、打ち抜くことができ、これによって、アクセスホールや他の形を提供し、そしてプラスチックやシリコン/ガラスの上に積層させることができる。用途によっては、スクリーン印刷された接着剤が、液密封止としてはより適当な場合もある。
【0165】
図15は、カートリッジ1内のシリコン微小流体チップ7と凹部3の組込みの一例を示している。精密に寸法形成された凹部3は、中央プラスチック部5に成形され、その中央プラスチック部に上記チップ7が挿入される。チップ7は、ガラス部分9とシリコン部分11を有し、ワイヤ接続部13にアクセス可能である。チャネル15は、中央プラスチック部5と下プラスチック部17に成形される。積層境界面19は、中央と下のプラスチック素子のチャネルを整合する。ガスケットあるいは接着剤93により、プラスチック部分とシリコンガラスチップ7の液密な積層、封止、組み込みが可能になる。
【0166】
図12は、微細加工されたチップの他の実施例を示しており、この実施例では、チップは、上層基板24ではなく、支持基板22に形成された流体口28と30を有している。チップはまた、チャンバ26の内面を加熱するための電極48Aと48Bを有している。これらの電極は、好ましくは、上記抽出チャンバ26の底面壁23の互いに対向する側に配置されている。支持基板22は、熱伝導性材料、好ましくはシリコンから成形加工されるため、底面壁23および一体形成されたコラムは、電極48Aと48Bに適当な電圧を印加することによって加熱され得る。
【0167】
前の実施例と同様に、チップは、図2を参照して既に述べたようにカートリッジと組み合わせて用いることができる。チップの取り扱いは、チャンバ26の内面が電極48Aおよび48Bに電圧を印加することによって加熱されることを除いては、上述の取り扱いと似ている。底面壁23は、チャンバ26を加熱するための抵抗発熱体の働きをする。
【0168】
図12の微小流体チップは、フォトリソグラフィや微細加工を含む種々の技法を使って成形加工することができる。チップを成形加工するための好適な方法をこれから説明する。
【0169】
100mm、n型(100)シリコンウエハが、支持基板22の出発材料として用いられる。このウエハは、電極48Aと48Bの間の望ましい最終的な抵抗によって、好ましくは1〜100Ω−cmの抵抗率を有している。ウエハの厚さは、所望の構造によって、好ましくは350〜600μmの範囲である。オーム接触は、裏側の領域、好ましくは0.2〜5μmの深さへのリンイオンの注入によって行われる。また、p型のシリコンウエハを用いてもよく、オーム接触は、ホウ素イオンの注入でもって行われる。イオン注入に続いて、ドーパントを活性化するために、基板が加熱される。
【0170】
次に、適当なマスク材、例えば窒化珪素をウエハの裏側に付着させてパターニングし、このマスクを使って、シリコンを異方性エッチングすることによって、流体口28と30が形成される。そして、DRIE工程のためのエッチマスクを得るために、ウエハはその表側にフォトレジストが施されてパターニングされる。図11に示されるように、エッチマスクは、基板22内に抽出チャンバを形成するためのチャンバパターン44と、対応するコラムパターンを基板に形成するためのコラムの配列パターン46とを形成する。そして、パターニングされたウエハは、DRIE工程を用いてエッチングされ、抽出チャンバおよび一体型のコラムを形成する。ウエハは、抽出チャンバ26が流体口28と30に合流するのに十分な深さにまでエッチングされる。
【0171】
エッチングした後、残留しているフォトレジストがウエハから除去され、そして、基板を酸化させて、チャンバ26の内面を好ましくは1〜100nmの厚さの酸化皮膜で被覆する。そして、例えばアルミニウム、金、あるいは銅などの導電性材料を基板の裏側のドープ領域に付着させてパターニングし、電極48Aと48Bを形成する。そして、基板22は、カバー24、好ましくは薄いパイレックスガラス(登録商標)に陽極接合される。接合された後、基板は、さいの目に切断され、図12に示される最終構造を形成する。
【0172】
図13は、本発明の他の実施例のフロースルーチップ21を示しており、ここで、分析物を捕獲し、溶離するための内部付着面が、上記チャンバ26内に含まれる1つ以上の固体支持材によって形成されている。液体試料がチャンバ26を流れると、分析物は、上記固体支持材に接触し、付着する。この分析物を溶離するために、チャンバ26は、溶離液がチャンバ内を流されている間加熱され、こうして分析物が固体支持材から溶離液に引き離される。分析物を捕獲するのに適した固体支持材には、フィルタ、ビーズ、繊維、膜、ガラスウール、濾紙、ゲルなどがある。
【0173】
図13の実施例において、固体支持材は、チャンバ26内に充填されたガラスビーズ50からなる。固体支持材としてビーズや繊維、ウール、ゲルを用いる実施例において、デバイスは、好ましくは、出口30に隣接してチャンバ26に配置され、固体支持材の材料がチャンバから流出するのを防止するための隔壁52を備えている。この隔壁52は、コームフィルタなど、固体支持材の材料をチャンバ26内に保持するのに適当な保持膜あるいはフィルタであってもよい。あるいはまた、隔壁52は、チャンバ26内に形成され、固体支持材の材料を保持するために充分に狭い間隔をもった複数の内部構造、例えばコラムからなっていてもよい。
【0174】
チップ21は、前述の通り、目標の分析物を捕獲して溶離するために、本発明のカートリッジと組み合わせて用いることができる。チップ21の取り扱いは、チャンバ26内の分析物捕獲面が、一体的に形成された微細構造の配列によるよりも、ビーズ50などの固体支持材により提供されることを除いては、上述の取り扱いと似ている。
【0175】
チップ21は、フォトリソグラフィや微細加工を含む、ここまでの実施例で述べた技法と同様の技法を用いて成形加工される。次に、好適なチップ成形加工方法について述べる。100nm、n型(100)、0.1〜0.2Ω−cmのシリコンウエハが、好ましくは、支持基板22の出発材料として用いられる。DRIE工法のためのエッチマスクを得るために、ウエハは、その表側にフォトレジストが施されてパターニングされる。このエッチマスクは、基板22にチャンバ26を形成するためのチャンバパターンと、チャンバ26内に内部隔壁構造、好ましくは狭く間隔をあけて設けられたコラムを形成するための隔壁パターンとを形成する。その後、パターニングされたウエハは、DRIE工法を用いてエッチングされ、チャンバ26と内部隔壁構造を形成する。当然、上記構造は、ビーズをチャンバ26内に保持するために、ビーズ50の直径よりも小さい間隔を有する。
【0176】
エッチング後、残留しているフォトレジストがウエハから除去され、そして、1つ以上の導電性材料が基板の裏側に付着およびパターニングされて、抵抗発熱体、温度センサおよび接続パッドを形成する。次に、基板は、流体口28と30を形成する穴を有するガラスカバーに陽極接合される。ビーズ50は、カバー取り付ける前または後にチャンバ26に充填することができ、好ましくはカバー取り付け後に充填される。ビーズ50は、入口28を通って挿入される。当然、隔壁52は、ビーズがチャンバ26から流出するのを防ぐために、ビーズ50を充填する前に適所に配置される。
【0177】
図14は、本発明の他の実施例のフロースルーチップ31を示しており、ここでは、チャンバ26内に含まれる固体支持材は、目標の分析物を捕獲するための膜あるいはフィルタ60からなる。上記チップ31は、支持基板58、上層基板54、および上層基板および支持基板の間に挟まれた中央基板56を含む。抽出チャンバ26は、上層基板54と支持基板58に形成され、フィルタ60は、好ましくはヒータ34と熱接触している。あるいはまた、フィルタ60は、出口30に隣接した支持基板58に配置されていてもよい。
【0178】
上記抵抗発熱体34は、好ましくは、チャンバ26を加熱するための中央基板56に配置される。上記発熱体34をチャンバ26を流動する流体から保護するために、発熱体34は、例えば二酸化珪素、炭化珪素、窒化珪素、プラスチック、ガラス、グルーまたは他のポリマー、レジスト、あるいはセラミックなどの絶縁体層62によって被覆されていてもよい。中央基板56は、入口28から出口30へチャンバ内の連続液体流を可能にするために、発熱体34の周辺に配置された穴(図14の側面図には図示せず)を有している。
【0179】
上記発熱体34は、基板56にパターニングされた金属薄膜またはポリシリコンであってもよい。一方、基板56は、発熱体34を有する薄いプラスチック製のフレキシブル回路であってもよい。他の実施例において、発熱体34は、基板56に貼り付けられた、エッチングされた薄膜発熱体などの積層ヒータ源を備えていてもよい。ヒータが積層構造の一部である実施例において、基板56はヒータの支持体である。さらに別の実施例では、基板56と58は、発熱体34と絶縁体層62とともに、例えば薄膜加工など当業者に周知の技法を使って単一の基板から成形加工される。
【0180】
上記チップ31は、前述の通り、本発明のカートリッジと組み合わせて用いられる。作業工程において、液体試料はチップ内を流される。液体試料がチャンバ26内を流れると、目標の分析物、例えば核酸などがフィルタ60に接触し、付着する。チャンバは、不要な粒子を取り除くために、選択的に洗浄される。分析物を溶離するために、溶離液がチャンバ内を流されている間、チャンバ26は発熱体34で加熱され、分析物がフィルタ60から溶離液に引き離される。
【0181】
上層基板54と支持基板58は、好ましくは安価な成形プラスチック部品であり、中央基板56は、好ましくはプラスチックのフレキシブル回路である。デバイス31は、フィルタ60を予め所定の寸法に切断し、次に、グルーなどの接着剤を用いるか、あるいは超音波溶接などの溶接を行うことにより、フィルタ60と基板54,56および58を接合することによって成形加工することができる。
【0182】
図16は、本発明の他の例のカートリッジを示している。カートリッジ161は、上部163と底部165と、それらの間の中央部分167とからなる。この中央部分167は、好ましくは電気回路網169を有する印刷回路板(あるいはフレキシブル回路)である。この回路板167を上記底部165に貼り合わせることにより、液体流領域の1つの壁を形成する。試料流路には、下流方向に、溶解チャンバ173、フロースルーチップ177およびベント式排水チャンバ203が含まれている。溶離流路には、フロースルーチップ177、試薬チャンバ179および反応チャンバ181が含まれている。
【0183】
図16および図17の詳細図に示されるように、溶解チャンバ173は、試料を受ける化学処理された濾紙183を有している。キャップ185は、フレキシブルアーム187によって上部に接続されており、試料が加えられた後に、溶解チャンバ173を覆うようになっている。キャップは、気体の透過はみとめても、液体流は防止するゴアテックス(登録商標)などの材料で作られた膜189を含んでいる。乾燥剤191は、キャップ内の膜189の上に位置している。ヒータ193は、フレキシブル回路167上において試料の出入口の下に位置しており、キャップが閉じられた位置にあるとき、濾紙183と試料を加熱する。
【0184】
作業工程において、試料が濾紙183に加えられると、ヒータが試料を乾燥させて、水分が膜189を通過して上昇し、乾燥剤191に吸収される。同時に、濾紙に含浸された化学薬品が細胞を溶解し、濾紙自体に種々の生物分子を凝集する。カートリッジの底部は、チャネル197によって濾紙183の真下の領域にある試料出入口に接続された洗浄貯蔵チャンバ195を含む。したがって、試料が乾燥された後、洗浄液が図17に示されるように、濾紙183を通ってCからDに流され、濾紙に存在する加工化学物質を洗浄あるいは溶離する。廃棄加工化学物質と洗浄液は、膜189によって乾燥剤への流入を妨げられており、出口Dを通って試料出入口から出る。
【0185】
図16および図18の詳細図に示されるように、廃液は、試料流路から洗い流され、分流加減器174によって廃棄チャンバ201に再び導かれる。分流加減器174,175は、限界背圧がダイバータの直前の領域において発生した際、流体を通過させるための毛管あるいは疎水性の膜からなっていてもよい。廃棄チャンバ201を満たしている廃液は、領域176に圧力を発生する。一旦廃棄チャンバ201が廃液でいっぱいになると、領域176の圧力によって、ダイバータ174は流体を通過させ始める。同時に、溶解チャンバ173内の試料がヒータ193によって加熱され、これにより核酸が濾紙183から引き離され、出口Dを通って流出させられる。
【0186】
試料は、試料流路を流れて、ダイバータ174を通過し、チップ177に入り、ここで目標の分析物が抽出される。チップ177から流れてくる廃棄成分は、分流加減器175によって、第2廃棄チャンバ203に流入するように再び方向付けられる。第2廃棄チャンバ203に集まる廃棄成分は、領域178に背圧を発生する。一旦第2廃棄チャンバ203が廃棄成分でいっぱいになると、領域178の圧力は、ダイバータ175を解放し、流体を通過させるのに十分となる。同時に、電圧あるいは熱が、フレキシブル回路167のコネクタを通じてチップ177に加えられて、目標の分析物を解放する。こうして、分析物は、溶離流路を流れて、試薬チャンバ179に入り、ここで、予備乾燥された試薬が再構成され、この分析物と混ぜ合わされる。この混合物は、反応チャンバ181に流入し続けて満杯にする。溶離流路は、反応チャンバ181で終結し、ここで、例えばPCRなどの増幅が行われる。
【0187】
従来より、試料加工における溶解段階は、特に胞子やある細胞構造については、時間のかかる難しい作業であった。さらなる実施例において、本発明は、超音波を使って、例えば細胞、胞子あるいは微生物などの試料成分を急速溶解するための方法および装置を提供することによってこの問題にあたる。超音波溶解は、図2のカートリッジのような完全に一体形成されたカートリッジで行ってもよいし、あるいはまた、試料成分の溶解のみを行うカートリッジを用いて行ってもよい。
【0188】
図19は、例えば細胞、胞子、あるいは微生物などの試料成分を溶解するための装置の一例を示している。この装置は、試料をカートリッジに導入するための入口72を有するカートリッジ70と、この入口72と流体接続して試料を受ける溶解チャンバ74とを含んでいる。カートリッジはまた、チャンバ74から試料を出すための出口76を含んでいる。
【0189】
上記チャンバ74は、溶解する試料の成分を捕獲するための固相を含んでいる。細胞、胞子、あるいは微生物を捕獲するのに適した固相には、例えば、フィルタやビーズ、繊維、膜、ガラスウール、濾紙、ポリマー、ゲルなどがある。上記固相は、例えばサイズ除外などの物理的保持や、親和的保持、あるいは化学的選別を通じて所望の試料成分を捕獲することができる。現在好ましいとされる実施例において、固相は、溶解する成分を捕獲するための膜あるいはフィルタ86からなる。適当なフィルタ材料には、ガラスや、ガラス繊維、ナイロン、ナイロン誘導体、セルロース、セルロース誘導体、そして他のポリマーなどがある。他の実施例では、固相は、ポリスチレンやシリカ、ゼラチン、セルロース、あるいはアクリルアミドのビーズからなる。
【0190】
上記装置はまた、超音波ホーン88などの超音波変換器を含んでおり、この超音波ホーンは、固相に捕獲された、例えばフィルタ86に捕獲された成分に超音波エネルギを移すためにカートリッジに連結されている。小型の超音波ホーンが、超音波エネルギを固相に捕獲された成分に集中させることができるので、変換器として現在好ましいとされている。このため、ホーン88はまた、ホーン88の長手方向の軸がフィルタ86に対して垂直となるように、カートリッジ70に連結されることが好ましい。その上、ホーン88は、好ましくはチャンバ74の壁に直接連結されている。
【0191】
作業工程において、試料液体は、入口72に導入され、チャンバ74に流入させられる。この試料がチャンバ74に流れ込むと、溶解される試料成分がフィルタ86によって捕獲される。試料がチャンバ74を連続的に流れるようにしてもよいし、あるいは、カートリッジ70が、溶解のために試料液体をチャンバ74に保持するための、例えばバルブなどの流れ制御部を含んでいてもよい。連続流れ加工は、より大きな試料容積、例えば1mL以上の場合に適している一方、チャンバ74に試料を保持するのは、より小さな試料容積、例えば100μLの場合に適当である。
【0192】
フィルタ86に捕獲された試料成分は、次に、超音波エネルギをホーン88から捕獲成分に移すことによって溶解される。超音波エネルギは、フィルタに捕獲された細胞や胞子、あるいは微生物の急速溶解を引き起こす。特定の例として、100μLの試料中の胞子の急速溶解は、47Hzの周波数かつ50ワットの超音波出力で超音波を30秒間放射することによって完了した。10〜60ワットの範囲の超音波出力が、現時点では好適とされている。超音波溶解は、例えばカオトロペースや洗浄剤、塩、還元剤などの溶解試薬を用いて行っても、用いずに行ってもよい。超音波溶解は、例えばPCRを阻害しないバッファなど、後の溶解プロトコールに関係したバッファあるいは再懸濁溶液のどちらかの選択を可能にする。
【0193】
典型的に、超音波変換器は、カートリッジから独立した構成部品であり、オペレータによってあるいは機械でカートリッジに連結される。また、変換器は、加工するカートリッジを収容する外部機器に配置してもよい。この実施例では、変換器は、カートリッジが加工のために上記外部機器に挿入されたときに、溶解チャンバの壁を加圧するように上記外部機器に配置されるのが好ましい。他の実施例では、変換器をカートリッジに内蔵してもよい。この実施例では、カートリッジは、変換器を電源に接続するのに適した電気コネクタを含んでいる。変換器がカートリッジに内蔵されている実施例では、変換器は、当然液体試料に直接接触しないように防止されているべきであり、例えば、チャンバの壁によって、変換器は覆われたり、試料から隔離されたりしている。
【0194】
上記カートリッジ70は、先に図2のカートリッジで述べた技法を用いて成形加工される。特に、カートリッジ70は、好ましくは、フィルタ86を支持する第1と第2の成形プラスチック部品78と80を備えている。フィルタ86は、プラスチック部品78と80に選択的に熱密封されていてもよい。カートリッジはまた、部品78と80にそれぞれ接合された第1と第2のプラスチックフィルム82と84を含んでいる。プラスチック部品78と80およびフィルム82と84に適した材料の例としては、例えば、ポリカーボネートや、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリル、商用ポリマーなどがある。試料成分への超音波エネルギの移動を促進するために、フィルム82と84を比較的薄くするのが好ましい。フィルム82と84は、好ましくは0.01〜0.5mmの範囲の厚さを有し、より好ましくは約0.05mmの厚さを有している。
【0195】
図20は、試料成分を超音波で溶解するカートリッジの他の実施例を示している。カートリッジ90は、その溶解チャンバに、固相に捕獲された成分を破裂させるためのビーズ94を含んでいる。カートリッジ90はまた、溶解チャンバの壁に連結されたディスク形の超音波変換器92を含んでいる。作業工程において、変換器92は、超音波エネルギを捕獲された試料成分に移動して溶解を行う。超音波エネルギはまた、ビーズが試料成分を破裂させて溶解を行うように、ビーズを攪拌する。試料成分を破裂させるのに適したビーズには、ポリスチレンやシリカなどがある。ビーズは、多孔性でも無孔性でもよく、好ましくは1〜200μmの範囲の直径を有している。特定の例として、超音波溶解チャンバは、110μLの収容容積を有し、10μLのガラスビーズを含んでいる。
【0196】
図19と20の実施例は、溶解作用のみを行うカートリッジを示しているが、本発明の超音波溶解は、種々の他の作用を行うカートリッジに取り入れることができることが分かる。例えば、再度図2を参照して、液体試料中の細胞や胞子、微生物を溶解するために、超音波変換器を溶解チャンバ119に連結してもよい。さらにまた、試料成分を破裂させるために、ビーズを溶解チャンバ119に入れてもよい。他の実施例では、固相に捕獲された試料成分を溶解するために、超音波変換器に代えて、あるいは超音波変換器と組み合わせて加熱素子を用いてもよい。
【0197】
上記説明は多くの特性を含んでいるが、これらは、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではなく、単に現在好適とされる実施例のいくつかの実例として解釈されるべきである。本発明に対する多くの可能な変化や変更は、この開示を考慮すれば当業者には明らかである。したがって、本発明の範囲は、以下のクレームおよびそれらの法律上の同価値のものによって限定されるべきである。
【符号の説明】
【0198】
26 抽出チャンバ
101 カートリッジ
103 試料ポート
119 溶解チェンバ
122 貫流構成部品
139 廃棄チェンバ
41A,41B 流れ制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体試料から所望の分析物を分離すると共に、上記分析物を或る量の溶離流体に濃縮するための方法において、
a)上記試料をカートリッジに導入するステップを備え、
上記カートリッジは
i)試料孔と、
ii)上記試料孔から伸びる試料流路と、
iii)上記試料流路内に抽出チャンバとを有し、上記抽出チャンバは上記試料から上記所望の分析物を捕獲するために少なくとも1つの固体支持体を含有し、
iv)上記分析物を上記抽出チャンバから溶離させるために溶離流路を有し、上記溶離流路は上記チャンバを通過し、上記チャンバを通過した後に上記試料流路から分岐し、
b)上記試料流路を通って上記試料を強制的に流すステップを備え、これによって上記試料が上記チャンバを通って流れるときに上記固体支持体で上記分析物を捕獲し、上記チャンバを通って強制的に流される試料の容積と上記チャンバの収容容積との比は少なくとも2:1であり、上記チャンバを通って強制的に流される試料の容積は少なくとも0.1ミリリットルであり、
c)溶離流路を通って溶離流体を強制的に流すステップを備え、これによって上記捕獲された分析物を上記固体支持体から上記溶離流体の中に放出することを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
抽出チャンバを通って上記溶離流体を流す間に上記固体支持体を加熱するステップを更に備えていることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、
固体支持体は60〜95℃の温度範囲に加熱されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、
上記抽出チャンバを通って上記試料を強制的に流すステップの後で、かつ、上記抽出チャンバを通って上記溶離流体を強制的に流すステップの前に、上記抽出チャンバを通ってガスを強制的に流すステップを更に備えていることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、
上記抽出チャンバを通って流す試料の容積と上記チャンバの収容容積の比は、少なくとも10:1であることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、
上記チャンバを通って流す試料の容積は、少なくとも1ミリリットルであることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、
上記カートリッジは試料流路の中に溶解チャンバを更に含み、上記溶解チャンバは上記試料中の細胞または胞子または微生物を捕獲するためにフィルタを含有し、上記方法は、
a)上記試料が上記溶解チャンバを通って流れるときに上記細胞または胞子または微生物を捕獲するステップと、
b)上記溶解チャンバの壁に超音波変換器を連結するステップと、
c)上記捕獲された細胞または胞子または微生物を溶解するために、超音波エネルギーを変換器から上記溶解チャンバに伝達するステップとを
備えていることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、
溶解チャンバ内のビーズを攪拌させるステップを更に備えていることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−236933(P2009−236933A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170254(P2009−170254)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【分割の表示】特願2008−210329(P2008−210329)の分割
【原出願日】平成10年12月24日(1998.12.24)
【出願人】(500065565)
【氏名又は名称原語表記】CEPHEID
【Fターム(参考)】