説明

一級アミンの製造法

【課題】縮合生成物を与える副反応を抑制して高い収率でニトリルから一級アミンを製造する方法を提供する。
【解決手段】ニッケル、コバルトおよび鉄から選ばれる一種以上の金属を含有する水素化触媒の存在下、水素とニトリルを反応させて一級アミンを製造するに際して、反応に用いて活性が低下した触媒を水素化分解による再生処理を実施するたびに、処理剤を用いて気相で前処理することで常に高い収率で一級アミンを得る製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はニトリルの接触水素化により一級アミンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニトリルをニッケル、コバルト、鉄から選ばれる金属を含有する触媒の存在下水素化し一級アミンを製造する方法は良く知られている。ニトリルの水素化による一級アミンの製造に際しては分子間縮合反応により二級および三級アミン等の縮合生成物が副生し、収率が低下しやすい(非特許文献1参照)。
また、これら縮合生成物が触媒に付着することで触媒の活性低下をもたらすだけでなく、触媒層の閉塞原因になりうる。したがって、これらの反応を継続的に行うためには定期的な再生操作を必要とする。
【0003】
このような縮合反応による二級および三級アミンの生成を抑制するために、アンモニアを溶媒として使用する方法(たとえば特許文献3〜6参照)、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水酸化物を添加して反応を行う方法(たとえば特許文献1〜2、7、8参照)等が古くから良く知られている。しかしアンモニアを溶媒としての使用する場合にはアンモニアが高い蒸気圧を有するために高圧の装置が必要となる。またアルカリ金属を用いた場合はアルカリ金属を含有する廃液が発生するため工業的実施に際してはその処理に困難が伴う。さらに、これらは方法では副反応を完全に抑制することは困難であり、更なる改善手段が求められている。
【0004】
副反応を抑制し、収率を向上する手段としては液体分散媒中ホルマリン等で触媒を改変する方法(特許文献9参照)、メタノールやエチレンを用いて触媒を改変する方法(特許文献10参照)、などが提案されている。これらの方法は、上記アンモニアを溶媒とする方法やアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の共存下反応を行う方法と組み合わせて実施可能であることが開示されており、一定の収率改善効果を有している。これらの有機物を触媒の改変に用いる方法では、触媒上に有機物が付着していることが示されている(特許文献11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−518900号公報
【特許文献2】特開平7−517801号公報
【特許文献3】特公昭53−20969号公報
【特許文献4】特開平8−299799号公報
【特許文献5】特表2002−505192号公報
【特許文献6】特開昭51−6971号公報
【特許文献7】特公昭38−8719号公報
【特許文献8】特開昭54−41804号公報
【特許文献9】特開2001−212461号公報
【特許文献10】特開2008−63326号公報
【特許文献11】特表2008−519677号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Handbook of Heterogeneous Catalytic Hydrogenation for Organic Synthesis, Shigeo Nishimura, John Wiley&Sons, Inc., Chapter 7 Hydrogenation of Nitriles p254-285
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記方法は、工業的に必要とされる長期の触媒寿命に関して何ら記載はない。一般に縮合生成物が触媒に付着すると触媒の活性が低下するため、反応を継続するためには何らかの再生操作が必要となる。再生操作として一般的に用いられているのは、水素化分解処理である。しかしながら、ホルマリンなどで触媒を液相改質する方法、メタノールやエチレンを用いて触媒を改質する方法など有機物を改質剤として用いる方法は、高温水素化による再生処理を実施すると、触媒上から表面改質物が除去されるため、収率改善効果は失われ長期間の反応において1級アミンを高収率で得ることが出来ない。
【0008】
また従来知られているこれらの方法をもってしても長期間にわたり縮合生成物を与える副反応を完全に抑制することは困難である。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点を解消し、常に縮合生成物を与える副反応を抑制することで高い収率でニトリルから一級アミンを製造し、かつ縮合生成物による触媒層の閉塞を抑制する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ニトリル水素化反応に用いる水素化触媒を使用する際に、反応に用いて活性が低下した触媒を水素化分解による再生処理を実施するたびに、処理剤を用いて気相で前処理することにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
即ち本発明は、ニッケル、コバルトおよび鉄から選ばれる一種以上の金属を含有する水素化触媒の存在下、水素とニトリルを反応させて一級アミンを製造するに際して、(1)触媒の再生、(2)触媒の前処理および(3)ニトリルの水素化反応をこの順で実施し、且つ該前処理が炭化水素化合物、アルコール、エーテルおよびエステルから選ばれる少なくとも一種の処理剤を触媒に気相で接触させることで実施されることを特徴とする一級アミンの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、ニトリル水素化反応に用いる水素化触媒を使用する際に、活性の低下した触媒を水素化分解による再生処理を行った後、反応に先立って特定の処理剤で前処理することにより、副生成物である縮合生成物の生成量を常に低い状態で、目的物である一級アミンを高収率で得られる状態を維持する。また工業的観点からは、本発明の再生から前処理操作はきわめて簡便であり、前処理後煩雑な操作を経ずにひきつづいてニトリル水素化反応を実施できる。さらに前処理用の処理剤としては入手容易で安価なメタノール、ジメチルエーテル、エチレン、天然ガス等が使用できる。よって本発明の工業的意義は大きい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明では触媒の存在下ニトリルを水素と反応させて一級アミンを製造する。対象となるニトリルは脂肪族ニトリル、脂環式ニトリル、芳香族ニトリルのいずれでも良い。また複数ニトリル基を有するニトリルでも良い。さらにアミノ基、ハロゲノ基、アルキル基、フェニル基、水酸基、エステル基、エーテル基等の官能基を有していてもよい。またアルデヒド基またはケトン基、イミノ基のような水素化可能な官能基を有していても良い。ニトリルの水素化反応において、ニトリルの水素化と同時にこれらの官能基が水素化されて、水酸基もしくはアミノ基に転換される場合もある。脂肪族ニトリルの例としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブタンニトリル、ペンタンニトリル、ヘキサンニトリル、ヘプタンニトリル、オクタンニトリル、ブタンジニトリル(アジポニトリル)、ペンタンジニトリル、ヘキサンジニトリル、ヘプタンジニトリル、オクタンジニトリル、ベンジルシアニド等を挙げることができる。脂環式ニトリルとしてはシクロヘキサンニトリル、シクロヘキサンジニトリル、3−シアノー3,5,5,−トリメチルシクロヘキサノン、3−シアノー3,5,5,−トリメチルシクロヘキシルイミン、トリシクロデカンジカルボニトリル等を挙げることができる。芳香族ニトリルの例としてはベンゾニトリル、メチルベンゾニトリル、ジシアノベンゼン、トリシアノベンゼン、ビフェニルニトリル、シアノナフタレン、ジシアノナフタレン等が挙げられる。このほかピリジンカルボニトリル、ピリミジンカルボニトリル等の複素環ニトリルも例示される。中でも芳香族ニトリルの水素化、特にイソフタロニトリル、テレフタロニトリル等、ジシアノベンゼン類の水素化に本発明は適している。それぞれ水素化により対応する一級アミンが得られる。ジニトリルの水素化においては片方のニトリル基のみを一級アミンに転化するアミノニトリルの製造、たとえばアジポニトリルの水素化によるアミノカプロニトリルの製造やジシアノベンゼンの水素化によるシアノベンジルアミンの製造にも本発明は適用可能である。
【0014】
本発明において、水素化は気相または液相で実施されるが、アセトニトリル等比較的低沸点のニトリルの場合除いて、一般的には液相で反応が実施されることが多い。液相での水素化においては反応溶媒を用いることもできる。反応溶媒としては水素化反応条件下で安定な種々の溶媒を使用することができる。具体的にはトルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等の炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等の低級脂肪族アミド系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒;アンモニア等が挙げられる。またこれらの溶媒から2種類以上を選択して併用してもよい。アンモニアを用いることで一級アミンの収率を高めることができるため、反応溶媒の一部にアンモニアを選択するのが好ましい。反応溶媒の使用量はニトリルや触媒の種類にもよるが、ニトリル1重量部に対して好ましくは0.5〜99重量部の範囲、より好ましくは1〜98重量部、さらに好ましくは1〜30重量部であるである。
【0015】
ニトリルの水素化に用いられる水素は反応に関与しない不純物、例えばメタン、窒素等を含んでいても良いが、不純物濃度が高いと必要な水素分圧を確保するために反応全圧を高める必要があり工業的に不利となるため、水素濃度は50mol%以上が好ましい。
【0016】
本発明では水素化触媒の存在下で水素とニトリルを反応させて一級アミンを製造する。本発明における水素化触媒としては活性金属成分としてニッケル、コバルトおよび鉄から選ばれる少なくとも一種の金属を含有する触媒を用いる。中でもニッケルおよび/またはコバルトを含有する触媒が好適に用いられ、ニッケル含有触媒が特に好ましい。触媒の形態は担持触媒(たとえば米国特許公開2002−177735号公報)、非担持金属触媒(たとえば特開平8−299799号公報、特表2002−505192号公報等)、スポンジメタル触媒(ラネーニッケル、ラネーコバルト等)のどの形態でもよい。担持触媒の場合には活性金属成分の濃度は10〜98重量%が好ましく、さらに20〜90重量%が好ましく、特に30〜80重量%が好ましい。また担持触媒の場合、使用される担体としては、アルミナ、シリカ、珪藻土、シリカ−アルミナ、マグネシア、チタニア、ジルコニア、シリカ−ジルコニア、炭素等が挙げられる。触媒は必要に応じてアルカリ金属(Li,Na,K,Rb、Cs)、アルカリ土類金属(Mg、Ca、Sr、Ba)、B、Al、Si、P、Ti、V、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、In、Sn、Sb、Te、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Tl、Pb、BiおよびCeからなる群より選ばれる少なくとも一種の成分を添加して変性することができる。
【0017】
また、本発明においては、水素化反応に際し、反応促進や収率向上等の目的で公知の助触媒を併用してもよい。助触媒としては、例えばアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物やアルコラート等が挙げられる。これらの助触媒を用いた場合加算的に選択性を上昇させる効果が得られる場合もある。
【0018】
水素化反応の形式は固定床、懸濁床のいずれも可能であり、また回分式、連続式の何れの方式も可能であるが、特に反応を液相で行う場合は工業的には固定床灌液型連続流通方式(いわゆるトリクルベッドリアクターの使用)が簡便で好適である。触媒やニトリルの種類にもよるが、水素化反応の反応温度は好ましくは20〜250℃、より好ましくは20〜200℃であり、反応圧力は水素分圧として、好ましくは0〜30MPaG、より好ましくは0.2〜20MPaG、特に好ましくは0.5〜15MPaGである。触媒の使用量は触媒やニトリルの種類にもよるが、懸濁床回分式水素化の場合、原料ニトリル100重量部に対して、0.1〜100重量部であるのが好ましい。これより触媒が少ないと十分に反応が進行せず、これより触媒が多いと触媒費がかさみ経済的ではない。固定床連続式水素化の場合は、触媒100重量部に対して、原料ニトリルを0.01〜1000重量部/時間の速度で供給するのが好ましい。
【0019】
本発明では、上記反応に使用した触媒を再生し、その後、該反応に再使用する。触媒の再生操作として、水素化分解処理が用いられる。水素化分解処理は、触媒層に水素、もしくは不活性ガスで希釈された水素を供給することで実施される。水素化分解処理の温度は具体的には150〜500℃、好ましくは180〜400℃、特に好ましくは200〜300℃である。これより温度が低いと再生の効果が得られず、これより温度が高いと触媒のシンタリングを加速し反応活性を減じる可能性がある。水素化分解処理の終了は、例えば、水素化分解生成物(メタン等)の生成量から判断できる。通常は出口ガス(処理ガス)中のメタン濃度が供給ガス中の水素濃度に対して1%以下になるまで実施する。出口ガス中にメタンが検出されなくなるまで水素化分解処理操作を行うことがより好ましい。
【0020】
本発明では、触媒再生後のニトリル水素化反応に先立ち、特定の処理剤による水素化触媒の前処理を行うことが好ましい。前処理の実施により縮合生成物を与える副反応が抑制されて一級アミンの収率が向上する効果が得られる。前処理に用いられる処理剤としては炭化水素化合物、アルコール、エーテルおよびエステルが挙げられる。中でも炭化水素化合物とアルコールが好ましい。
【0021】
本発明における処理剤としての炭化水素化合物は炭素数が12以下のアルカン類、アルケン類およびアルキン類が例示され、中でも炭素−炭素不飽和結合を有する化合物であるアルケン類、アルキン類が好ましく、アルケン類が特に好ましい。アルカン類としてはメタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンやこれらの骨格異性体(イソブタン、イソペンタン等)、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等が例示される。天然ガスを利用することもできる。アルケン類としてはエチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテンやこれらの骨格異性体(イソブテン、イソペンテン等)、シクロペンタジエン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキサンが例示される。アルキン類としてはアセチレン、メチルアセチレン、エチルアセチレン等が例示される。芳香族化合物としてはベンゼン、トルエン、キシレン等が例示される。これらの中でも炭素数4以下のアルケン類であるエチレン、プロピレンおよびブテンが特に好ましく、エチレンがさらに好ましい。
【0022】
本発明における処理剤としてのアルコールは炭素数が6以下のアルコールが好ましく、具体的にはメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、エチレングリコール、アリルアルコール等が例示される。中でもメタノールまたはエタノールが好ましく、メタノールが特に好ましい。アルコールは水酸基以外の官能基としてカルボニル基、カルボキシル基、アミド基を含有しないものが好ましい。
【0023】
本発明における処理剤としてのエーテルは炭素数が12以下のエーテルが好ましく、炭素数が6以下のエーテルがより好ましい。具体的にはジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジグライム等が例示される。中でもジメチルエーテルまたはジエチルエーテルが好ましく、ジメチルエーテルが特に好ましい。エーテルはエーテル基以外の官能基としてカルボニル基、カルボキシル基、アミド基を含有しないものが好ましい。
【0024】
本発明における処理剤としてのエステルはメチルエステルまたはエチルエステルが好ましく、具体的には蟻酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル等が例示される。エステルはエステル基以外の官能基としてカルボニル基、カルボキシル基、アミド基を含有しないものが好ましい。
【0025】
以上の処理剤は単独もしくは2種以上を組み合わせて使用される。
【0026】
触媒が酸素や二酸化炭素で安定化処理を施された安定化触媒である場合等、前処理に先立ち触媒の水素による予備還元が実施されることもある。
【0027】
また酸素の共存は触媒を失活させるため、前処理は好ましくは酸素の非存在下で行われる。
【0028】
気相で前処理を行う場合、処理剤の蒸気を触媒と接触させる。この際、窒素、アルゴン、ヘリウム、水蒸気等の希釈ガスを用いることも可能である。希釈ガスを用いることで処理剤濃度を適当な条件に調整することができる。固定床形式の場合、触媒層に気体状処理剤を含むガスを流通させる方法が極めて簡便であり、溶媒置換等煩雑な操作を経ずとも、ニトリル水素化反応の実施へと移行できる。
【0029】
水素化分解による再生後に多量の水素が存在すると前処理の効果が弱まるだけでなく、水素との反応による発熱が起こる傾向があるため、前処理時の水素の共存量は低い方が好ましく、水素非存在条件が最もこのましい。気相で前処理を実施する場合、気相中の水素と処理剤の濃度比(モル比)を、好ましくは6以下、さらに好ましくは3以下、特に好ましくは1.5以下に保つのが良い。また、前処理操作終了後に処理剤の非存在下、高温で水素含有ガスと触媒を接触させると前処理の効果が弱まることがある。よって前処理工程終了後は水素非存在下でいったん触媒を冷却してからニトリル水素化反応を開始する操作手順が好ましい。
【0030】
前処理時の温度は、触媒種や処理剤の種類等の条件にもよるが、ニトリル水素化反応温度より高い温度が好ましい。具体的には150〜500℃、好ましくは180〜400℃、特に好ましくは200〜300℃である。これより温度が低いと十分な効果が得られず、これより温度が高いとかえって活性や選択性が低下する場合がある。
【0031】
前処理の時間は、処理剤種や温度等の条件にもよるが、5秒〜50時間、好ましくは1分〜20時間、特に好ましくは5分〜10時間である。これより時間が短いと十分な効果が得られず、これより時間が長いとかえって活性や選択性が低下する場合がある。
【0032】
気相で前処理を行う場合、処理剤の濃度は0.1〜100vol%、より好ましくは0.2〜20vol%、特に好ましくは0.5〜10vol%が好ましい。気相で処理剤含有ガスを流通させる形式で前処理を行う場合、空間速度(GHSV)は30〜10000h−1、好ましくは50〜5000h−1、特に好ましくは50〜3000h−1、である。
【0033】
処理剤の総使用量は処理剤種や温度等の条件にもよるが、触媒1kgに対して0.1〜100モル、好ましくは0.2〜50モル、特に好ましくは0.3〜20モルである。
【0034】
前処理時の圧力は処理剤種等の条件にもよるが、通常は常圧から水素化反応の反応圧の間から選択され、あえて例示するならば0〜30MPaGの範囲より選ばれるが、通常は常圧〜1MPaGの低圧条件での処理で十分な効果が得られる。
【0035】
かかる前処理を施した触媒はニトリル水素化反応に供される。ニトリル水素化における分子間縮合反応による二級および三級アミン等の縮合生成物生成が著しく抑制され、一級アミンの選択率が向上する。前処理の実施による縮合生成物の生成量が、前処理未実施の場合と比較して、少なくとも15%、好適な例においては、30%以上、さらには50%以上減少する。
かかる前処理は、新規触媒を水素化反応に供する時にも実施することが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下に実施例および比較例を示し、本発明を具体的に説明する。ただし本発明はこれら実施例に制限されるものではない。尚、反応成績はAgilent(J&W)社製DB−1カラムを備え付けたガスクロマトグラフィーによる分析により決定した。高沸点副成物については主な生成物である(NHCH−Ar−CH(NH)−)(ここでArはフェニレン基である)換算で収率を表記した。また、水素化分解時の出口ガス中のメタン分析はGC−TCDにより行った(検出下限:100ppm)。
【0037】
<触媒調製>
硝酸ニッケル6水和物Ni(NO・6HO 305.0g、硝酸銅3水和物Cu(NO・3HO 6.5gおよび硝酸クロム9水和物Cr(NO・9HO 7.1gを40℃の純水1kgに溶解し、さらに珪藻土29.6gをこの水溶液に懸濁させながら40℃で撹拌した。このスラリーに、炭酸ナトリウムNaCO 128.6gを40℃の純水1kgに溶解した水溶液をよく撹拌しながら注加して沈殿スラリーを調製した。このスラリーを80℃まで昇温し、30分同温度で保持した。こうして得られた沈殿スラリーを濾過洗浄し、沈殿物を得た。この沈殿物を110℃で1晩乾燥し、380℃18時間空気雰囲気下で焼成した。この焼成粉に3重量%グラファイトを混合し、3.0mmφ×2.5mmに打錠成型した。この成型品を水素気流中400℃で還元した。還元後の成型品を希薄酸素ガス(酸素/窒素=1/99(体積比))流通下、室温〜40℃以下の温度で一晩酸化処理して安定化させた。さらにこの安定化成型品を破砕して60〜80meshに粒度を揃えた破砕触媒を得た。これを触媒Aとした。また、破砕前の安定化成型品そのものを触媒Bとした。
【0038】
<比較例1>
触媒A0.6gを内径4mmのステンレス製管状反応管に充填した。触媒層に100%水素ガスを流通させ、常圧、250℃、ガス流量0.6NL/hなる条件のもと10時間還元して活性化させた。水素ガスの流通を止め、反応管を50℃まで冷却したのち、反応装置を水素で10MPaGに昇圧し、触媒層に液体アンモニアを供給し、触媒層を液体アンモニアで濡れた状態とした。反応管上部から0.6NL/hの水素、およびイソフタロニトリル(IPN)、プソイドクメン(PCM)、液体アンモニア(NH3)の混合液で組成がIPN:PCM:NH3=8:8:84(重量比)のものを2g/hで供給し、連続的に水素化反応を行った。全圧は10MPa、反応温度は80℃とした。反応開始後24時間目の反応成績はイソフタロニトリルの転化率が100%、メタキシリレンジアミンの収率が92.1mol%、高沸点の縮合生成物の収率が7.8mol%であった。
累積で320時間反応を継続したところ、触媒層内の差圧が上昇した。そこで液体アンモニアで触媒層を洗浄した後、触媒層に100%水素を流通させ、常圧、290℃、ガス流量0.6NL/hなる条件のもと13時間水素化分解処理を行い、出口ガス中のメタンが検出されなくなるまで再生操作を実施した。再生後、前記同様の条件でイソフタロニトリルの水素化反応を行った。反応開始後24時間目の反応成績はイソフタロニトリルの転化率が100%、メタキシリレンジアミンの収率が88.3mol%、高沸点の縮合生成物の収率が11.7mol%であった。
累積で495時間経過後、再び触媒層内の差圧上昇が見られたため、前記同様の再生操作を実施した。再生後、前記同様の条件でイソフタロニトリルの水素化反応を行った結果、反応再開後24時間目の反応成績はイソフタロニトリルの転化率が100%、メタキシリレンジアミンの収率が88.7mol%、高沸点の縮合生成物の収率が11.2mol%であった。
【0039】
<実施例1>
(処理剤としてエチレン)
触媒A0.6gを内径4mmのステンレス製管状反応管に充填した。触媒層に100%水素を流通させ、常圧、250℃、ガス流量0.6NL/hなる条件のもと10時間還元して活性化させた。引き続き流通ガスをエチレン:窒素=4:96vol%なる混合ガスに切り替え前処理を実施した。常圧、250℃、ガス流量0.6NL/hなる条件のもと混合ガスの流通を1時間継続した。ガスの流通を止め、反応管を50℃まで冷却したのち、反応装置を水素で10MPaGに昇圧し、触媒層に液体アンモニアを供給し、触媒層を液体アンモニアで濡れた状態とした。反応管上部から0.6NL/hの水素、およびイソフタロニトリル(IPN)、プソイドクメン(PCM)、液体アンモニア(NH3)の混合液で組成がIPN:PCM:NH3=8:8:84(重量比)のものを2g/hで供給し、連続的に水素化反応を行った。全圧は10MPa、反応温度は80℃とした。反応開始後24時間目の反応成績はイソフタロニトリルの転化率が100%、メタキシリレンジアミンの収率が97.8mol%、高沸点の縮合生成物の収率が2.1mol%であった。
累積で880時間反応を継続したところ、触媒層内の差圧が上昇した。そこで液体アンモニアで触媒層を洗浄した後、触媒層に100%水素を流通させ、常圧、290℃、ガス流量0.6NL/hなる条件のもと、出口ガス中のメタンが検出されなくなるまで13時間水素化分解処理を行い、再生操作を実施した。水素化分解による再生後、引き続き流通ガスを常圧、250℃、ガス流量0.6NL/hなる条件のもとエチレン:窒素=4:96vol%なる混合ガスに切り替え、気相による前処理を実施した。前処理を実施後、前記同様の条件でイソフタロニトリルの水素化反応を行った。反応再開後24時間目の反応成績はイソフタロニトリルの転化率が100%、メタキシリレンジアミンの収率が99.2mol%、高沸点の縮合生成物の収率が0.8mol%であった。
累積で1150時間経過後、触媒層内の差圧上昇が見られ、前記同様の再生操作および前処理を実施した。前処理を実施後、前記同様の条件でイソフタロニトリル水素化反応を行った。反応開始後24時間目の反応成績はイソフタロニトリルの転化率が100%、メタキシリレンジアミンの収率が97.0mol%、高沸点の縮合生成物の収率が3.0mol%であった。
水素化分解による触媒再生処理の後に気相による前処理を追加することで、目的物質であるメタキシリレンジアミンを常に高収率で得られるだけでなく、高沸点化合物による触媒層の閉塞も抑制し、長時間の連続運転をすることが出来た。
【0040】
<実施例2>
(処理剤としてメタノール)
触媒量を0.6g、前処理時の流通ガスをメタノール:窒素=4:96vol%なる混合ガスとし、前処理条件を常圧、200℃、ガス流量0.18NL/h、3時間とした以外は実施例1と同じ条件で触媒の還元、前処理、ニトリルの水素化反応を行った。反応開始後24時間目の反応成績はイソフタロニトリルの転化率が100%、メタキシリレンジアミンの収率が98.5mol%、高沸点の縮合生成物の収率が1.5%であった。
累積で1370時間経過後、触媒層内の差圧上昇が見られたため、液体アンモニアで触媒層を洗浄した。その後、実施例1と同様の再生操作を実施した。水素化分解による再生後、引き続き前記混合ガスを常圧、200℃、ガス流量0.18NL/hで流通させ、3時間気相による前処理を実施し、その後前記同様の条件でイソフタロニトリルの水素化反応を行った。イソフタロニトリル水素化反応再開後24時間目の反応成績はイソフタロニトリルの転化率が100%、メタキシリレンジアミンの収率が97.8mol%、高沸点の縮合生成物の収率が2.2mol%であった。
【0041】
<比較例2>
触媒B14gを内径17mmのステンレス製管状反応管(前段)に、触媒A1.0gを内径4mmのステンレス製管状反応管(後段)に充填した。2つの反応管を接続し、触媒層に100%水素を流通させ、常圧、250℃、ガス流量3NL/hなる条件のもと12時間還元して活性化させた。ガスの流通を止め、反応管を50℃まで冷却したのち、反応装置を水素で10MPaGに昇圧し、触媒層に液体アンモニアを供給し、触媒層を液体アンモニアで濡れた状態とした。前段の反応管上部から3NL/hの水素、およびイソフタロニトリル(IPN)、プソイドクメン(PCM)、液体アンモニア(NH3)の混合液で組成がIPN:PCM:NH3=8:8:84(重量比)のものを15g/hで供給し、連続的に水素化反応を行った。全圧は10MPa、反応温度は55℃とした。反応開始直後から100時間目の平均反応成績はイソフタロニトリルの転化率が99.7%、メタキシリレンジアミンの収率が93.6mol%、高沸点の縮合生成物の収率が5.8mol%であった。
【0042】
<実施例3>
(処理剤としてエチレン、メタノール)
触媒B14gを内径17mmのステンレス製管状反応管(前段)に、触媒A1.0gを内径4mmのステンレス製管状反応管(後段)に充填した。2つの反応管を接続し、触媒層に100%水素を流通させ、常圧、250℃、ガス流量3NL/hなる条件のもと12時間還元して活性化させた。引き続き流通ガスをエチレン:窒素=10:90vol%なる混合ガスに切り替え前処理を実施した。常圧、200℃、ガス流量1NL/hなる条件のもと混合ガスの流通を8時間継続した。ガスの流通を止め、反応管を50℃まで冷却したのち、反応装置を水素で10MPaGに昇圧し、触媒層に液体アンモニアを供給し、触媒層を液体アンモニアで濡れた状態とした。前段の反応管上部から3NL/hの水素、およびイソフタロニトリル(IPN)、プソイドクメン(PCM)、液体アンモニア(NH3)の混合液で組成がIPN:PCM:NH3=8:8:84(重量比)のものを15g/hで供給し、連続的に水素化反応を行った。全圧は10MPa、反応温度は前段の反応管出口でのイソフタロニトリル転化率が95%以上になるように、55〜70℃の範囲で調節した。反応開始直後から100時間目の平均反応成績はイソフタロニトリルの転化率が99.8%、メタキシリレンジアミンの収率が95.8mol%、高沸点の縮合生成物の収率が3.4mol%であった。
累積で100時間反応を継続したところで、液体アンモニアにより触媒層を洗浄した後、触媒層に100%水素を流通させ、常圧、290℃、ガス流量3NL/hなる条件のもと、出口ガス中のメタンが検出されなくなるまで13時間水素化分解処理を行い、再生操作を実施した。水素化分解による再生後、引き続き流通ガスを常圧、250℃、ガス流量2NL/hなる条件のもとエチレン:窒素=6:94vol%なる混合ガスに切り替え3時間、気相による前処理を実施した。前処理を実施後、前記同様の条件でイソフタロニトリルの水素化反応を行った。反応再開直後から100時間目(累積で100〜200時間)の平均反応成績はイソフタロニトリルの転化率が99.9%、メタキシリレンジアミンの収率が96.7mol%、高沸点の縮合生成物の収率が3.1mol%であった。
累積で200時間反応を継続したところで、液体アンモニアで触媒層を洗浄した後、触媒層に100%水素を流通させ、常圧、290℃、ガス流量3NL/hなる条件のもと13時間水素化分解処理を行い、再生操作を実施した。再生後、前処理を実施せず前記同様の条件でイソフタロニトリルの水素化反応を行った結果、反応再開直後から100時間目(累積で200〜300時間)の平均反応成績はイソフタロニトリルの転化率が99.7%であり、メタキシリレンジアミンの収率が92.3mol%まで低下し、高沸点の縮合生成物の収率が7.5mol%と増加した。
累積で300時間反応を継続したところで、液体アンモニアで触媒層を洗浄した後、触媒層に100%水素を流通させ、常圧、290℃、ガス流量3NL/hなる条件のもと13時間水素化分解処理を行い、再生操作を実施した。水素化分解による再生後、引き続き流通ガスを常圧、250℃、ガス流量2NL/hなる条件のもとメタノール:窒素=4:96vol%なる混合ガスに切り替え10時間、気相による前処理を実施した。前処理を実施後、前記同様の条件でイソフタロニトリルの水素化反応を行った。反応再開直後から100時間目(累積で300〜400時間)の平均反応成績はイソフタロニトリルの転化率が100%、メタキシリレンジアミンの収率が98.2mol%まで向上し、高沸点の縮合生成物の収率が1.8mol%まで減少した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明で得られる一級アミン類はポリアミド樹脂、エポキシ硬化剤等の原料、およびイソシアネート、有機溶媒、農薬、医薬、洗剤等の中間原料として産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル、コバルトおよび鉄から選ばれる一種以上の金属を含有する触媒の存在下、水素とニトリルを反応させて一級アミンを製造するに際して、(1)触媒の再生、(2)触媒の前処理および(3)ニトリルの水素化反応をこの順で実施し、且つ該前処理が炭化水素化合物、アルコール、エーテルおよびエステルから選ばれる少なくとも一種の処理剤を触媒に気相で接触させることで実施されることを特徴とする一級アミンの製造方法。
【請求項2】
処理剤が炭化水素化合物およびアルコールから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
炭化水素化合物が炭素数4以下のアルケン類である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
炭化水素化合物がエチレンである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
アルコールが炭素数6以下のアルコールである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
アルコールがメタノールである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前処理が150〜500℃の気相条件下で実施される、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
触媒の再生が150〜500℃の範囲で、触媒層に水素、もしくは不活性ガスで希釈された水素を供給し、出口ガス中のメタン濃度が供給ガス中の水素濃度に対し1%以下になるまで実施される、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
水素化触媒がニッケル含有触媒である、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ニトリルが芳香族ニトリルである、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
ニトリルがジシアノベンゼンである、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
ニトリルの水素化反応が固定床連続流通式で行われる、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2011−1304(P2011−1304A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146117(P2009−146117)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】