説明

一酸化炭素酸化触媒

【課題】一酸化炭素を常温で長時間にわたって効率よく除去することができる一酸化炭素酸化触媒を提供すること。
【解決手段】本発明の一酸化炭素酸化触媒は、酸化セリウムにパラジウムまたは白金を担持してなる一酸化炭素酸化触媒であって、該酸化セリウムが成型体の形態であり、該成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層に担持されている該パラジウムの担持量が、触媒1個あたりの質量に対して、0.5質量%以上、2質量%以下であるか、あるいは、該成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層に担持されている該白金の担持量が、触媒1個あたりの質量に対して、0.2質量%以上、2質量%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化炭素を常温で長時間にわたって効率よく除去することができる一酸化炭素酸化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化炭素(CO)は、肺で血液中のヘモグロビン(Hb)と結合し、Hb本来の機能である体内への酸素供給能力を妨げ、体内組織細胞の酸素不足を招く結果として、中毒症状が現れると考えられている。一酸化炭素の中毒指数は、例えば、CO濃度(ppm)×暴露時間(hr)で表され、300以下では、作用が認められないが、600になると、多少の作用(異常感)が現れ始め、900になると、頭痛や吐き気が起こり、1,500以上になると、生命が危険になるとされている。
【0003】
それゆえ、一酸化炭素は、例えば、火災現場や災害現場において、消火活動や救助活動を妨げるので、消防士や救助隊員は火災用または防毒用マスクの着用が望ましい。従来の火災用または防毒用マスクは、CuO−MnO触媒を用いて、一酸化炭素を二酸化炭素に酸化する方法が採用されている。しかし、この方法では、金属酸化物の酸素を用いて、一酸化炭素を二酸化炭素に酸化するので、触媒に寿命があり、長時間の連続使用ができないという問題点がある。しかも、低温ではCuO−MnO触媒の性能が低いので、一酸化炭素や水分などの吸着熱を利用して、触媒層の温度を上昇させ、性能を維持しているが、マスク装着初期は触媒層の温度が低く、一酸化炭素を完全に除去することができないので、未反応の一酸化炭素が吸気側で検出されるという問題点がある。
【0004】
また、パラジウム(Pd)や白金(Pt)などの貴金属を酸化アルミニウムや活性炭などの担体に分散させた触媒も知られているが、常温では活性が極めて低く、ガス温度を上昇させて、CO除去率を向上させているので、火災用または防毒用マスクに適用することができない。
【0005】
さらに、特殊活性炭やCO吸着剤、ゼオライトなどで吸着除去する方法もあるが、吸着量が小さく、使用時間が著しく短いので、やはり火災用または防毒用マスクに適用することができない。
【0006】
一方、工場などでは、排ガス中に含まれる一酸化炭素を除去する必要がある。その方法としては、排ガスを補助燃料と共に800℃以上の高温で燃焼させる方式や、燃焼方式より低い350℃以上の温度で触媒を用いた方式などがあるが、いずれも燃料代が莫大になり、省エネルギーの観点から望ましくない。
【0007】
ところで、最近、ガス浄化用触媒として、例えば、還元処理によって酸素欠損が導入された酸化物に貴金属を担持してなる常温触媒が特許文献1に開示され、50℃以下で活性な活性酸素を40μモル/g以上含有することを特徴とする常温触媒が特許文献2に開示され、さらに、酸素欠損が導入された酸化物に貴金属を担持してなり、該貴金属はその90%以上が粒径2nm以下の微粒子状態で担持されていることを特徴とする常温触媒が特許文献3に開示されている。これらの常温触媒は、いずれも、一酸化炭素や環境汚染物質を常温で効率よく除去することができると記載されている。
【特許文献1】特許第3799945号公報
【特許文献2】特開2002−102700号公報
【特許文献3】特開2002−102701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、本発明者らの検討によれば、特許文献1〜3のように酸化物の粉末担体に貴金属を担持してなる触媒は、粉体状であるので、製造後に所望の形状に成型しても、一酸化炭素を効率的に除去することができず、実用的ではないということが判明した。
【0009】
上述した状況の下、本発明が解決すべき課題は、一酸化炭素を常温で長時間にわたって効率よく除去することができる一酸化炭素酸化触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、担体としての酸化セリウムを粉末ではなく成型体の形態にすると共に、該成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層に所定量のパラジウムまたは白金を担持させれば、一酸化炭素を常温(ここで、「常温」とは、15℃以上、40℃以下の範囲内の温度を意味するものとする。)で長時間にわたって効率よく除去することができることを見出して、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、酸化セリウムにパラジウムまたは白金を担持してなる一酸化炭素酸化触媒であって、該酸化セリウムが成型体の形態であり、該成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層に担持されている該パラジウムの担持量が、触媒1個あたりの質量に対して、0.5質量%以上、2質量%以下であるか、あるいは、該成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層に担持されている該白金の担持量が、触媒1個あたりの質量に対して、0.2質量%以上、2質量%以下であることを特徴とする一酸化炭素酸化触媒を提供する。
【0012】
本発明の一酸化炭素酸化触媒において、前記パラジウムまたは白金の90%以上は、好ましくは、粒径2nm以上、5nm以下の微粒子状態で担持されている。
【0013】
本発明の一酸化炭素酸化触媒は、火災用または防毒用マスクに好適である。この場合、消防法に基づく関係通達「火災避難用保護具等に関する基準等について(昭和55年11月17日 消防予第248号)」で規定されている性能測定法に準拠した測定法において、温度20℃、湿度65%RH、一酸化炭素の入口濃度2,500ppm(体積基準)、ガス線速度10cm/secの条件下で用いた場合に、一酸化炭素の出口濃度を200ppm(体積基準)以下に60分間以上維持することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一酸化炭素酸化触媒は、一酸化炭素を常温で長時間にわたって効率よく除去することができる。さらに詳しくは、使用初期から連続して60分間以上にわたって一酸化炭素の出口濃度を200ppm(体積基準)以下という低濃度に維持することができる。それゆえ、本発明の一酸化炭素酸化触媒は、特に高濃度の一酸化炭素を除去する必要がある火災用または防毒用マスクに用いることができる。しかも、一酸化炭素の除去効率が高いので、火災用または防毒用マスクのサイズを小型で軽量にすることができる。また、本発明の一酸化炭素酸化触媒は、工場などの排ガスに含まれる一酸化炭素を除去する装置に充填して用いることもできる。しかも、触媒を加熱することなく、一酸化炭素を常温で除去することができるので、補助加熱用の燃料代を必要とせず、省エネルギーの観点から極めて望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
≪一酸化炭素酸化触媒≫
本発明の一酸化炭素酸化触媒(以下、単に「本発明の触媒」ということがある。)は、酸化セリウムにパラジウムまたは白金を担持してなる一酸化炭素酸化触媒であって、該酸化セリウムが成型体(以下、単に「酸化セリウム成型体」または「成型体」ということがある。)の形態であり、該成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層(以下、単に「表層」ということがある。)に担持されている該パラジウムの担持量が、触媒1個あたりの質量に対して、0.5質量%以上、2質量%以下であるか、あるいは、該成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層に担持されている該白金の担持量が、触媒1個あたりの質量に対して、0.2質量%以上、2質量%以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明の触媒が一酸化炭素を除去するメカニズムは、例えば、以下のように推定されるが、いかなる限定を意図するものではない。本発明の触媒は、自らの酸素で酸化して除去する従来の金属酸化物触媒や自ら捕捉して除去する従来の吸着剤と異なり、空気やガス中に存在する一酸化炭素をいったん吸着した後、空気中に存在する酸素で酸化して、二酸化炭素に変換した後、放出すると考えられる。この場合、本発明の触媒は、酸化セリウム成型体にパラジウムまたは白金を担持させるだけでなく、成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層に担持されているパラジウムの担持量が、触媒1個あたりの質量に対して、0.5質量%以上、2質量%以下であるか、あるいは、該成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層に担持されている該白金の担持量が、触媒1個あたりの質量に対して、0.2質量%以上、2質量%以下であることが重要である。
【0017】
本発明者らの検討によれば、酸化セリウム粉体にパラジウムまたは白金を担持させた後に所望の形状に成型した場合には、一酸化炭素を効率よく除去することができない。これは、おそらく、常温のような低温では、一酸化炭素を含むガスが成型された触媒の内部にまで拡散しにくいので、成型された触媒の表面部分に存在する活性点しか利用できないためであると考えられる。これに対し、本発明の触媒は、酸化セリウム粉体にパラジウムまたは白金を担持させた後に所望の形状に成型するのではなく、酸化セリウムを成型体の形態とし、成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層に所定量のパラジウムまたは白金を担持させることにより、活性点が成型体の表層に高濃度に存在して有効に利用されるので、常温のように低温であっても、一酸化炭素を効率よく吸着して酸化することができるのである。
【0018】
本発明の触媒において、活性成分を担持するための担体となるのは、酸化セリウム成型体である。成型体の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、球状、楕円体状、円柱状、角柱状、顆粒状、ペレット状、円盤状など、得られた触媒が一酸化炭素を効率よく除去することができる限り、いかなる形状であってもよい。ただし、通気抵抗が高くなるので、粉体状は除外される。成型体の寸法は、使用形態に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、その下限が好ましくは1mmであり、また、その上限が好ましくは5mmである。成型体の寸法が小さすぎると、通気抵抗が大きくなり、ガスの流れが悪くなることがある。逆に、成型体の寸法が大きすぎると、通気抵抗は小さいが、ガスの吹き抜けが起こり、触媒とガスとの反応性が低下することがある。ここで、成型体の寸法とは、成型体の中心を通る最短部の距離を意味し、例えば、成型体の形状が球状であれば、球の直径を意味し、成型体の形状が楕円体状であれば、短径および長径のうち短径を意味し、成型体の形状が円柱状または角柱状であれば、軸方向に対して垂直方向に測定される成型体の中心を通る最短の長さを意味し、成型体が顆粒状またはペレット状であれば、成型体の中心を通る最短の長さを意味し、成型体が円盤状であれば、板面方向に垂直な方向(すなわち、厚さ方向)において、成型体の中心を通る最短の長さ(=厚さ)を意味する。なお、本発明者らの検討によれば、製造条件を適宜調整すると、酸化セリウム成型体の寸法にかかわらず、触媒活性を有するパラジウムまたは白金は、成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層に担持されるが、成型体の表面から深さ0.8mmを超える内核(以下、単に「内核」ということがある。)には担持されないことが判明している。
【0019】
本発明の触媒において、一酸化炭素を酸化して二酸化炭素に変換する活性成分は、パラジウムまたは白金である。
【0020】
活性成分としてパラジウムを用いる場合、成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層に担持されているパラジウムの担持量は、触媒1個あたりの質量に対して、その下限が通常は0.5質量%、好ましくは0.55質量%、より好ましくは0.6質量%であり、また、その上限が通常は2質量%、好ましくは1.5質量%、より好ましくは1質量%である。表層におけるパラジウムの担持量が0.5質量%未満であると、充分な触媒性能が発揮できないことがある。逆に、表層におけるパラジウムの担持量が2質量%を超えると、触媒性能が飽和すると共に、必要以上にパラジウムを用いることになり、製造コストが上昇することがある。
【0021】
活性成分として白金を用いる場合、成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層に担持されている白金の担持量は、触媒1個あたりの質量に対して、その下限が通常は0.2質量%、好ましくは0.25質量%、より好ましくは0.3質量%であり、また、その上限が通常は2質量%、好ましくは1.5質量%、より好ましくは1質量%である。表層における白金の担持量が0.2質量%未満であると、充分な触媒性能が発揮できないことがある。逆に、表層における白金の担持量が2質量%を超えると、触媒性能が飽和すると共に、必要以上に白金を用いることになり、製造コストが上昇することがある。
【0022】
本発明の触媒において、成型体の表面から深さ0.8mmを超える内核に担持されているパラジウムまたは白金の担持量は、触媒1個あたりの質量に対して、その下限が好ましくは0質量%であり、また、その上限が好ましくは2質量%、より好ましくは1.5質量%、さらに好ましくは1質量%である。内核におけるパラジウムまたは白金の担持量が2質量%を超えると、触媒性能に対する寄与が小さく、必要以上にパラジウムまたは白金を用いることになり、製造コストが上昇することがある。
【0023】
なお、本発明において、成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層に担持されているパラジウムまたは白金の担持量、および、成型体の表面から深さ0.8mmを超える内核に担持されているパラジウムまたは白金の担持量は、製造した複数個の触媒がすべて同一の担持量でパラジウムまたは白金を担持していると仮定して、成型体に含浸させたパラジウム化合物の溶液に含まれるパラジウム量、または、成型体に含浸させた白金化合物の溶液に含まれる白金量と、成型体の質量とから算出した1個の触媒全体におけるパラジウムまたは白金の担持量を、下記の実施例に記載する担持されたパラジウムまたは白金の分布測定により得られた、表層におけるパラジウムまたは白金の濃度、および、内核におけるパラジウムまたは白金の濃度に応じて、比例配分することにより求めるものとする。
【0024】
例えば、比較例1の場合、1個の触媒全体におけるパラジウムの担持量は、パラジウム化合物に含まれるパラジウムの含有量(1.949質量%=0.01949)×パラジウム化合物の使用量(11.20g)/[成型体の質量(30g)+パラジウム化合物に含まれるパラジウムの含有量(1.949質量%=0.01949)×パラジウム化合物の使用量(11.20g)]×100≒0.722質量%となる。一方、パラジウムの分布測定により、表層におけるパラジウム濃度は0.69質量%、内核におけるパラジウム濃度は0.47質量%であった。それゆえ、表層におけるパラジウムの担持量は、0.722質量%×[0.69質量%/(0.69質量%+0.47質量%)]≒0.43質量%となり、内核におけるパラジウムの担持量は、0.722質量%×[0.47質量%/(0.69質量%+0.47質量%)]≒0.29質量%となる。
【0025】
本発明の触媒において、パラジウムまたは白金の90%以上は、好ましくは、粒径2nm以上、5nm以下、より好ましくは、粒径2.5nm以上、4.5nm以下の微粒子状態で担持されている。ここで、パラジウムまたは白金の粒径とは、触媒を電界放出型透過電子顕微鏡(FE−TEM)で観察し、得られたHAADF像を画像解析することにより求めた投影面積円相当径を意味する。本発明の触媒は、パラジウムまたは白金の90%以上が粒径2nm以上、5nm以上の微粒子状態で担持されていれば、一酸化炭素を常温でより一層効率よく除去することができる。
【0026】
本発明の触媒は、上記したように、一酸化炭素を常温で長時間にわたって効率よく除去することができるが、より具体的には、消防法に基づく関係通達「火災避難用保護具等に関する基準等について(昭和55年11月17日 消防予第248号)」で規定されている性能測定法に準拠した測定法において、温度20℃、湿度65%RH、一酸化炭素の入口濃度2,500ppm(体積基準)、ガス線速度10cm/secの条件下で用いた場合に、一酸化炭素の出口濃度を200ppm(体積基準)以下に60分間以上維持することができる。
【0027】
≪一酸化炭素酸化触媒の用途≫
本発明の触媒は、例えば、火災現場や災害現場において用いる火災用または防毒用マスクなどに用いたり、あるいは、ガスや石油を用いた温風ファンヒーターに組み込んだり、あるいは、通常の空気浄化装置を始めとして、家庭用エアコンや業務用空調機、工場などの排ガス処理装置などに組み込んだりして、一酸化炭素を常温で効率よく除去することができる。これらの用途のうち、火災用または防毒用マスクが特に好適である。この場合、例えば、本発明の触媒と、活性炭、添着活性炭、ゼオライトなどと組み合わせた一酸化炭素吸収缶を製作し、火災用または防毒用マスクに装着して用いる。
【0028】
≪一酸化炭素酸化触媒の製造≫
本発明の触媒を製造するには、まず、酸化セリウム粉体を従来公知の成型法により成型して、担体となる酸化セリウム成型体を調製する。成型法としては、特に限定されるものではないが、例えば、押出成型法、打錠成型法、転動造粒法などが挙げられる。これらの成型法のうち、押出成型法が特に好適である。また、成型の条件は、成型法に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。なお、成型に際しては、水や、バインダなどの成型助剤を用いてもよい。バインダとしては、特に限定されるものではないが、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、デンプン、リグニン、酢酸アセテートなどの有機バインダ;コロイダルシリカ、コロイダルアルミナなどの無機バインダ;が挙げられる。
【0029】
次いで、得られた酸化セリウム成型体を空気中で焼成することにより、焼成した成型体に充分な機械的強度を持たせる。焼成手段としては、従来公知のいかなる手段を用いてもよく、例えば、電気炉、ガス炉、赤外線炉、誘導加熱炉などが挙げられる。
【0030】
焼成の温度や時間は、その手段に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、焼成温度は、その下限が好ましくは450℃、より好ましくは500℃であり、また、その上限が好ましくは650℃、より好ましくは600℃であり、焼成時間は、その下限が好ましくは30分間、より好ましくは1時間であり、また、その上限が好ましくは6時間、より好ましくは3時間である。焼成温度が450℃未満であるか、あるいは、焼成時間が30分間未満であると、焼成した成型体が充分な機械的強度を有しないことがある。逆に、焼成温度が650℃を超えるか、あるいは、焼成時間が6時間を超えると、成型体に充分な機械的強度を持たせることはできるが、必要以上にエネルギーや時間を浪費することになり、製造コストが上昇することがある。なお、焼成温度が650℃を超えると、理由は定かではないが、酸化セリウムに対して吸着速度が速いパラジウムまたは白金の化合物を用いても、成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層に所定量のパラジウムまたは白金を担持させることができず、成型体の表面から深さ0.8mmを超える内核にまでパラジウムまたは白金が担持されることがある。
【0031】
次いで、空気中で焼成した酸化セリウム成型体にパラジウム化合物または白金化合物を固着させる。成型体にパラジウム化合物または白金化合物を固着させるには、成型体にパラジウム化合物または白金化合物を含む溶液を含浸させた後、乾燥させればよい。
【0032】
パラジウム化合物としては、例えば、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、テトラアンミンパラジウム水酸塩、テトラアンミンパラジウム二塩化物などが挙げられる。これらのパラジウム化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0033】
白金化合物としては、塩化白金酸、ヘキサヒドロキシ白金酸、ジニトロジアンミン白金、テトラアンミン白金二塩化物などが挙げられる。これらの白金化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0034】
高い表層濃度でパラジウムまたは白金を担持させるには、上記のような化合物のうち、酸化セリウムに対して吸着速度が速いものを選択する必要がある、例えば、活性成分としてパラジウムを用いる場合は、酸性である硝酸パラジウムが特に好適であり、活性成分として白金を用いる場合は、酸性であるジニトロジアンミン白金が特に好適である。しかし、酸化セリウムに対して吸着速度が遅いパラジウム化合物または白金化合物であっても、例えば、パラジウム化合物または白金化合物の溶液に非イオン系界面活性剤を添加したり、アルコール類を併用したりするなどの方法を採用することにより、高い表層濃度でパラジウムまたは白金を担持させることができる。
【0035】
パラジウム化合物または白金化合物を溶解する溶媒としては、用いる化合物に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、取り扱いが容易であり、環境を汚染する可能性が少ないことから、水や硝酸などが特に好適である。
【0036】
成型体にパラジウム化合物または白金化合物の溶液を含浸させる温度や時間は、溶液中におけるパラジウムまたは白金の含有量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、含浸温度は、その下限が好ましくは5℃、より好ましくは10℃であり、また、その上限が好ましくは35℃、より好ましくは30℃であり、含浸時間は、その下限が好ましくは10分間、より好ましくは30分間であり、また、その上限が好ましくは6時間、より好ましくは3時間である。
【0037】
パラジウム化合物または白金化合物の溶液を含浸した成型体は、乾燥させて溶媒を蒸発させて、成型体の外表面や細孔内の表面にパラジウム化合物または白金化合物を固着させる。乾燥法としては、従来公知のいかなる方法を用いてもよく、特に限定されるものではないが、例えば、自然乾燥法、熱風乾燥法、赤外線照射法などが挙げられる。これらの乾燥法のうち、熱風乾燥法が特に好適である。
【0038】
乾燥の温度および時間は、その方法、溶液中におけるパラジウムまたは白金の含有量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、乾燥温度は、その下限が好ましくは40℃、より好ましくは50℃であり、また、その上限が好ましくは180℃、より好ましくは170℃であり、乾燥時間は、その下限が好ましくは1時間、より好ましくは2時間であり、また、その上限が好ましくは24時間、より好ましくは12時間である。乾燥温度が40℃未満であるか、あるいは、乾燥時間が1時間未満であると、溶液の乾燥が不充分になり、成型体の外表面や細孔内の表面にパラジウム化合物または白金化合物を充分に固着させられないことがある。逆に、乾燥温度が180℃を超えるか、あるいは、乾燥時間が24時間を超えると、溶液の乾燥は充分であり、成型体の外表面や細孔内の表面にパラジウム化合物または白金化合物を充分に固着させることはできるが、必要以上にエネルギーや時間を浪費することになり、製造コストが上昇することがある。
【0039】
次いで、パラジウム化合物または白金化合物を固着した成型体は、空気中で焼成して、成型体の外表面や細孔内の表面にパラジウムまたは白金を担持させる。焼成手段としては、従来公知のいかなる手段を用いてもよく、特に限定されるものではないが、例えば、電気炉、ガス炉、赤外線炉、誘導加熱炉などが挙げられる。
【0040】
焼成の温度や時間は、その手段、成型体に固着されたパラジウム化合物または白金化合物の種類や固着量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、焼成温度は、その下限が好ましくは300℃、より好ましくは400℃であり、また、その上限が好ましくは900℃、より好ましくは800℃であり、焼成時間は、その下限が好ましくは30分間、より好ましくは1時間であり、また、その上限が好ましくは6時間、より好ましくは3時間である。焼成温度が300℃未満であるか、あるいは、焼成時間が30分間未満であると、焼成前におけるパラジウム化合物または白金化合物が充分にパラジウムまたは白金に変化しないことがある。逆に、焼成温度が900℃を超えるか、あるいは、焼成時間が6時間を超えると、焼成前におけるパラジウム化合物または白金化合物を充分にパラジウムまたは白金に変化させることができるが、成型体の物性を変化させ、触媒性能を低下させることや、必要以上にエネルギーや時間を浪費することになり、製造コストが上昇することがある。
【0041】
次いで、パラジウムまたは白金を担持させた成型体は、水素を含む雰囲気ガス中で加熱処理を行う。加熱手段としては、従来公知のいかなる手段を用いてもよく、特に限定されるものではないが、例えば、電気炉、ガス炉、赤外線炉、誘導加熱炉などが挙げられる。
【0042】
加熱処理を行う際の雰囲気ガスとしては、水素を含む限り、特に限定されるものではないが、例えば、水素、または、水素と、ヘリウム、アルゴン、窒素などの不活性ガスとの混合ガスなどが挙げられる。混合ガスを用いる場合、これらの不活性ガスのうち、経済性の観点から、窒素が特に好適である。雰囲気ガス中における水素の濃度は、雰囲気ガスの全体積に対して、その下限が好ましくは0.1体積%、より好ましくは1体積%であり、また、その上限が好ましくは100体積%である。水素の濃度が0.1体積%未満であると、成型体に担持されたパラジウムまたは白金が充分な触媒活性を発現しないことがある。
【0043】
加熱処理の温度や時間は、その手段、成型体に担持されたパラジウムまたは白金の担持量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、加熱温度は、その下限が好ましくは100℃、より好ましくは200℃であり、また、その上限が好ましくは800℃、より好ましくは700℃であり、加熱時間は、その下限が好ましくは30分間、より好ましくは1時間であり、また、その上限が好ましくは6時間、より好ましくは3時間である。加熱温度が100℃未満であるか、あるいは、加熱時間が30分間未満であると、成型体に担持されたパラジウムまたは白金が充分な触媒活性を発現しないことがある。逆に、加熱温度が800℃を超えるか、あるいは、加熱時間が6時間を超えると、成型体に担持されたパラジウムまたは白金が充分な触媒活性を発現するが、触媒性能を低下させる可能性があることや、必要以上にエネルギーや時間を浪費することになり、製造コストが上昇することがある。
【0044】
最終的に、水素を含む雰囲気ガス中での加熱処理が終了した後、例えば、室温まで冷却すれば、本発明の触媒が得られる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、以下では、便宜上、「質量%」を「wt%」、「体積%」を「vol%」と表すことがある。また、比表面積はBET比表面積法、結晶子径はX線回折法で測定した。
【0046】
まず、担持されたパラジウムまたは白金の分布を測定する方法、担持されたパラジウムまたは白金の粒径を測定する方法、および、触媒性能を評価する方法について説明する。
【0047】
<担持されたパラジウムまたは白金の分布測定>
製造した各触媒について、9個の試料を用意した。各試料の中心を通る面で横方向に切断し、得られた断面について、成型体の表面から0.2mm(深さ方向)×0.35mm(深さ方向に垂直な方向)の面積単位で、エネルギー分散型X線分析装置(EDAX製、製品名:Genesis)を装着した走査電子顕微鏡(日立製作所製、製品名:S−3000)を用いて、パラジウムまたは白金の濃度を測定し、パラジウムまたは白金/セリウムの質量比を求め、成型体の表面からの深さに対してプロットした。
【0048】
<担持されたパラジウムまたは白金の粒径測定>
製造した各触媒を電界放出型透過電子顕微鏡(日本電子製、製品名:JEM−2010F)で観察し、得られたHAADF像をスキャナ(EPSON製、製品名:GT−7600S;解像度200dpi)で読み取り、解析装置(ナノシステム製、製品名:NanoHunter NS2K−Pro)で画像解析することにより、投影面積円相当径を求めた。
【0049】
<触媒性能の評価>
製造した各触媒または市販のCuO−MnO触媒20mLを内径36mmの反応管に充填し、20℃の恒温槽に設置した。空気に一酸化炭素(CO)を2,500ppm(体積基準)混合したガスを温度20℃、湿度65%RHに調整し、ガス線速度10cm/secで反応管に流通させた。反応管の出口CO濃度を非分散型赤外線式CO濃度計(ベスト測器製、製品名:BCO−61)で逐次測定し、触媒性能を下記基準で評価した。
◎:ガス流通開始から60分後の出口CO濃度が100ppm以下;
○:ガス流通開始から60分後の出口CO濃度が100ppm超、200ppm以下;
×:ガス流通開始から60分後の出口CO濃度が200ppm超。
【0050】
≪実施例1≫
まず、酸化セリウム(第一稀元素化学工業製、製品名:HS;比表面積151m/g、結晶子径73Å)粉体1,000gに、適当な有機バインダ80g、無機バインダとしてコロイダルシリカ(日産化学工業製、製品名:スノーテックスC)550g、適量の水を添加し、充分に混練し、一般粉体用の押出成型機を用いて、押出成型した後、空気中、600℃で1時間焼成して得られた円柱状の成型体(直径3mm×長さ3mm)30gに、硝酸パラジウム水溶液(Pd含有量8.275wt%)2.64gを純水で11.36gに希釈した溶液を室温で30分間含浸させた。次いで、含浸した成型体を60℃で12時間乾燥後、空気中、430℃で1時間焼成した。その後、水素5vol%/窒素95vol%の雰囲気ガス中、450℃で1時間加熱処理を行った後、室温に冷却することにより、一酸化炭素酸化触媒を製造した。
【0051】
得られた触媒について、触媒性能を評価した。結果を表1および図1に示す。また、担持されたパラジウムの分布を測定した。結果を図2に示す。図2から明らかなように、9個の試料すべてについて、担持されたパラジウムは、成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層にのみ担持されていた。このことは、得られた触媒の外観および断面を示す図3(断面の黒い部分(成型体の表面から深さ0.6mmまでの表層)がパラジウムの担持された部分であり、断面の白い部分(成型体の表面から深さ0.6mmを超える内核)がパラジウムの担持されていない部分である。)からも明らかである。なお、パラジウムの担持量は、触媒1個あたりの質量に対して、成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層が0.72wt%であり、成型体の表面から深さ0.8mmを超える内核が0wt%であった。さらに、担持されたパラジウムの粒径を測定したところ、パラジウムの90%以上が粒径2nm以上、5nm以下の微粒子状態で担持されていた。
【0052】
≪実施例2≫
実施例1において、含浸した成型体を60℃で12時間乾燥後、空気中、430℃で3時間焼成したこと以外は、実施例1と同様にして、一酸化炭素酸化触媒を製造した。
【0053】
得られた触媒について、触媒性能を評価した。結果を表1および図1に示す。また、実施例1と同様にして、担持されたパラジウムの分布を測定したところ、担持されたパラジウムは、成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層にのみ担持されていた。なお、パラジウムの担持量は、触媒1個あたりの質量に対して、成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層が0.72wt%であり、成型体の表面から深さ0.8mmを超える内核が0wt%であった。さらに、担持されたパラジウムの粒径を測定したところ、パラジウムの90%以上が粒径2nm以上、5nm以下の微粒子状態で担持されていた。
【0054】
≪実施例3≫
実施例1において、含浸した成型体を60℃で12時間乾燥後、空気中、800℃で1時間焼成したこと以外は、実施例1と同様にして、一酸化炭素酸化触媒を製造した。
【0055】
得られた触媒について、触媒性能を評価した。結果を表1および図1に示す。また、実施例1と同様にして、担持されたパラジウムの分布を測定したところ、担持されたパラジウムは、成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層にのみ担持されていた。なお、パラジウムの担持量は、触媒1個あたりの質量に対して、成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層が0.72wt%であり、成型体の表面から深さ0.8mmを超える内核が0wt%であった。さらに、担持されたパラジウムの粒径を測定したところ、パラジウムの90%以上が粒径2nm以上、5nm以下の微粒子状態で担持されていた。
【0056】
≪実施例4≫
実施例1において、硝酸パラジウム水溶液(Pd含有量8.275wt%)2.64gに代えて、ジニトロジアンミン白金硝酸溶液(Pt含有量4.558wt%)4.79gを純水で11.25gに希釈した溶液を用いたこと、および、含浸した成型体を60℃で12時間乾燥後、空気中、430℃で3時間焼成したこと以外は、実施例1と同様にして、一酸化炭素酸化触媒を製造した。
【0057】
得られた触媒について、触媒性能を評価した。結果を表1および図1に示す。また、実施例1と同様にして、担持された白金の分布を測定したところ、担持された白金は、成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層にのみ担持されていた。なお、白金の担持量は、触媒1個あたりの質量に対して、成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層が0.72wt%であり、成型体の表面から深さ0.8mmを超える内核が0wt%であった。さらに、担持された白金の粒径を測定したところ、白金の90%以上が粒径2nm以上、5nm以下の微粒子状態で担持されていた。
【0058】
≪実施例5≫
実施例1において、硝酸パラジウム水溶液(Pd含有量8.275wt%)2.64gに代えて、ジニトロジアンミン白金硝酸溶液(Pt含有量4.558wt%)2.40gを純水で11.07gに希釈した溶液を用いたこと、および、含浸した成型体を60℃で12時間乾燥後、空気中、430℃で3時間焼成したこと以外は、実施例1と同様にして、一酸化炭素酸化触媒を製造した。
【0059】
得られた触媒について、触媒性能を評価した。結果を表1および図1に示す。また、実施例1と同様にして、担持された白金の分布を測定したところ、担持された白金は、成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層にのみ担持されていた。なお、白金の担持量は、触媒1個あたりの質量に対して、成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層が0.36wt%であり、成型体の表面から深さ0.8mmを超える内核が0wt%であった。さらに、担持された白金の粒径を測定したところ、白金の90%以上が粒径2nm以上、5nm以下の微粒子状態で担持されていた。
【0060】
≪比較例1≫
実施例1において、硝酸パラジウム水溶液(Pd含有量8.275wt%)2.64gに代えて、テトラアンミンパラジウム水酸塩水溶液(Pd含有量1.949wt%)11.20gを純水で11.32gに希釈した溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、一酸化炭素酸化触媒を製造した。
【0061】
得られた触媒について、触媒性能を評価した。結果を表1および図1に示す。また、実施例1と同様にして、担持されたパラジウムの分布を測定したところ、担持されたパラジウムは、成型体の内部全体に担持されていた。このことは、得られた触媒の外観および断面を示す図4(断面の黒い部分(断面の全体)がパラジウムの担持された部分である。)からも明らかである。なお、パラジウムの担持量は、触媒1個あたりの質量に対して、成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層が0.43wt%であり、成型体の表面から深さ0.8mmを超える内核が0.29wt%であった。
【0062】
≪比較例2≫
実施例1において、硝酸パラジウム水溶液(Pd含有量8.275wt%)2.64gに代えて、硝酸パラジウム水溶液(Pd含有量8.275wt%)1.32gを純水で11.13gに希釈した溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、一酸化炭素酸化触媒を製造した。
【0063】
得られた触媒について、触媒性能を評価した。結果を表1および図1に示す。また、実施例1と同様にして、担持されたパラジウムの分布を測定したところ、担持されたパラジウムは、成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層のみに担持されていた。なお、パラジウムの担持量は、触媒1個あたりの質量に対して、成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層が0.18wt%であり、成型体の表面から深さ0.8mmを超える内核が0wt%であった。
【0064】
≪比較例3≫
実施例1において、押出成型した酸化セリウム成型体を、空気中、600℃で1時間焼成することに代えて、押出成型した酸化セリウム成型体を、空気中、800℃で1時間焼成した以外は、実施例1と同様にして、一酸化炭素酸化触媒を製造した。
【0065】
得られた触媒について、触媒性能を評価した。結果を表1および図1に示す。また、実施例1と同様にして、担持されたパラジウムの分布を測定したところ、担持されたパラジウムは、成型体の内部全体に担持されていた。このことは、得られた触媒の外観および断面を示す図5(断面の黒い部分(断面の全体)がパラジウムの担持された部分である。)からも明らかである。なお、パラジウムの担持量は、触媒1個あたりの質量に対して、成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層が0.49wt%であり、成型体の表面から深さ0.8mmを超える内核が0.24wt%であった。
【0066】
≪比較例4≫
実施例1において、硝酸パラジウム水溶液(Pd含有量8.275wt%)2.64gを純水で11.36gに希釈した溶液に代えて、ジニトロジアンミン白金硝酸溶液(Pt含有量4.558wt%)1.20gを純水で10.98gに希釈した溶液を用いたこと、および、含浸した成型体を60℃で12時間乾燥後、空気中、430℃で3時間焼成したこと以外は、実施例1と同様にして、一酸化炭素酸化触媒を製造した。
【0067】
得られた触媒について、触媒性能を評価した。結果を表1および図1に示す。また、実施例1と同様にして、担持された白金の分布を測定したところ、担持された白金は、成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層のみに担持されていた。なお、白金の担持量は、触媒1個あたりの質量に対して、成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層が0.18wt%であり、成型体の表面から深さ0.8mmを超える内核が0wt%であった。
【0068】
≪比較例5≫
市販のCuO−MnO触媒(重松製作所製、濾過式避難用防煙マスクのケムラージュニアに用いられている一酸化炭素酸化触媒)を用いた。この触媒の性能評価の結果を表1および図1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1から明らかなように、実施例1〜5の触媒は、酸化セリウム成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層に所定量のパラジウムまたは白金を担持しているので、性能評価において、使用初期から60分後まで非常に低い出口CO濃度を示した。
【0071】
これに対し、比較例1〜3の触媒は、酸化セリウム成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層におけるパラジウムの担持量が少ないので、性能評価において、使用初期から60分後に非常に高い出口CO濃度を示した。また、比較例4の触媒は、酸化セリウム成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層における白金の担持量が少ないので、性能評価において、使用初期からわずか40分間後に、非常に高い出口CO濃度を示した。さらに、比較例5の市販のCuO−MnO触媒は、性能評価において、使用初期からわずか3分後に、非常に高い出口CO濃度を示した。
【0072】
かくして、酸化セリウム成型体に所定量のパラジウムまたは白金を担持させてなる一酸化炭素酸化触媒は、一酸化炭素を常温で長時間にわたって効率よく除去することができること、より具体的には、消防法に基づく関係通達「火災避難用保護具等に関する基準等について(昭和55年11月17日 消防予第248号)」で規定されている性能測定法に準拠した性能評価において、60分後であっても、出口CO濃度が200ppm(体積基準)以下に抑制できること、換言すれば、出口CO濃度を200ppm(体積基準)以下に60分間以上維持できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の一酸化炭素酸化触媒は、空気中に存在する一酸化炭素を常温で長時間にわたって効率よく除去することができるので、火災現場や災害現場における消火活動や救助活動を始めとして、家庭や職場、公共場所の空気浄化処理、工場などの排ガス処理など、一酸化炭素を含む空気やガスの浄化に関連する分野で多大の貢献をなすものである。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施例1〜5および比較例1〜5の触媒を用いて行った性能評価における出口CO濃度を経過時間に対してプロットしたグラフ図である。
【図2】実施例1で得られた触媒について、担持されたパラジウムの分布測定におけるパラジウム/セリウムの質量比を成型体の表面からの深さに対してプロットしたグラフ図である。
【図3】実施例1で得られた触媒の外観および断面を示す図面代用写真である。
【図4】比較例1で得られた触媒の外観および断面を示す図面代用写真である。
【図5】比較例3で得られた触媒の外観および断面を示す図面代用写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化セリウムにパラジウムまたは白金を担持してなる一酸化炭素酸化触媒であって、該酸化セリウムが成型体の形態であり、該成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層に担持されている該パラジウムの担持量が、触媒1個あたりの質量に対して、0.5質量%以上、2質量%以下であるか、あるいは、該成型体の表面から深さ0.8mmまでの表層に担持されている該白金の担持量が、触媒1個あたりの質量に対して、0.2質量%以上、2質量%以下であることを特徴とする一酸化炭素酸化触媒。
【請求項2】
前記パラジウムまたは白金の90%以上が粒径2nm以上、5nm以下の微粒子状態で担持されている請求項1記載の一酸化炭素酸化触媒。
【請求項3】
火災用または防毒用マスクに用いられる請求項1または2記載の一酸化炭素酸化触媒。
【請求項4】
温度20℃、湿度65%RH、一酸化炭素の入口濃度2,500ppm(体積基準)、ガス線速度10cm/secの条件下で用いた場合に、一酸化炭素の出口濃度を200ppm(体積基準)以下に60分間以上維持することができる請求項1〜3のいずれか1項記載の一酸化炭素酸化触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−264737(P2008−264737A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114771(P2007−114771)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(000156961)関西熱化学株式会社 (117)
【出願人】(591265459)株式会社ケイエヌラボアナリシス (8)
【Fターム(参考)】