説明

一酸化窒素測定方法及び装置

被検体の下気道における一酸化窒素NOの産生に関連する少なくとも1つのパラメータ値を決定する方法が提供される。方法は、通常呼吸を行っている被検体の複数呼気の最中に、呼気中のNOレベル及び空気流量の複数の測定値を得るステップと、下気道に産生されるNOが他のソースからのNO寄与を制する呼気を識別するために、複数の測定値を解析するステップと、識別された呼気の最中に得られたNOレベル及び/又は空気流量の測定値から、被検体の下気道のNOに関連する少なくとも1つのパラメータ値を決定するステップと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼気中の一酸化窒素(NO)を測定する方法及び装置に関し、特に、通常呼吸(tidal breathing)運動を行っている被検体によって吐き出される空気中の一酸化窒素(NO)を測定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
呼気一酸化窒素(eNO)は、気道炎症に関する非侵襲マーカである。気道の炎症は、喘息患者に存在し、患者は、下気道(気管支及び肺胞部分)において上昇するレベルのNOを産生する。従って、eNOの高い値は、喘息を診断するために他の肺検査と組み合わされて使用されることができる。更に、eNOは、吸入されたコルチコステロイド(ICS)の効果を監視するために及びICS投与量を滴定するために抗炎症喘息管理において、使用されることができる。
【0003】
eNOを測定する標準化された方法は、被検体が単一呼気実験に参加することを必要とし、その実験において、被検体は、50ml/sの固定流量及び少なくとも5cmHOの過圧力で息を吐き出す。米国胸部学会(American Thoracic Society)及び欧州呼吸器学会(European Respiratory Society)による標準化された方法の勧告は、文献"ATS/ERS Recommendations for Standardized Procedures for the Online and Offline Measurement of Exhaled Lower Respiratory Nitric Oxide and Nasal Nitric Oxide, 2005" American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine Vol. 171, pp 912-930 2005に記述されている。
【0004】
固定流量測定を実施する例示の装置が、図1に示されている。装置2は、一般に「Y」形状で構成されるチューブ3を含み、チューブ3は、空気入口4、空気出口6及びマウスピース8をそれぞれ形成する3つの端部を有する。第1の一方向弁10は、空気入口4とマウスピース8との間のチューブ3に設けられ、第2の一方向弁12は、マウスピース8と空気出口6との間のチューブ3に設けられる。一方向弁10、12は、被検体が吸気する際、空気が空気入口4及びマウスピース8を通じてチューブ3に引き入れられるように、及び被検体が呼気する際、空気がマウスピース8及び空気出口6を通じてチューブ3を出て行くように、構成される。
【0005】
装置2は、更に、第2の一方向弁12と空気出口6との間に位置する支流15に接続され、呼気中のNOレベルを測定するセンサ14と、第2の一方向弁12と空気出口6との間に位置する支流17に接続される圧力センサ16と、を有する。圧力センサ16は、フロー制限器20を通る呼気から生じる圧力を測定し、被検体に対し、呼気のフロー及び圧力が測定に適当であるかどうか(すなわち50ml/sの固定流量及び少なくとも5cmHOの圧力)に関する音響的及び/又は視覚的フィードバックを、フィードバック装置18を通じて提供する。プロセッサ19は、センサ14に接続され、呼気又はその一部の中のNOレベルを決定するために、NO測定値を処理する。
【0006】
フロー制限器20は、被検体が必要とされるフロー及び過圧力に到達することをより容易にするために、空気出口6に設けられる。必要とされる圧力が達成されると、軟口蓋(velum)−嚥下及びくしゃみの行為の間、鼻通路をふさぐ役目を担う粘膜メンブレンで包まれた筋線維からなる軟口蓋(soft palate)−が閉じられて、NOが被検体の鼻腔から口腔に入ることを防ぐ。
【0007】
NOフィルタ22は、空気入口4と第1の一方向弁10との間のチューブ3に設けられることができ、被検体が吸気する際、周囲環境から装置2に引き込まれる空気からNOを除去する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この装置に関する問題は、それが、少なくとも10秒の所与の期間中、一定の呼気フローを必要とし、これは、特に幼児、高齢の被検体又は呼吸の問題を有する被検体にとって、実施するのが平易でないことである。医師のオフィスの訓練されたオペレータの管理下で、7−18歳の子供及び成人の標準化されたeNO測定のために、米国食品医薬品局(FDA)から承認を受けた市販のシステムが、図1に示される装置に基づいて利用可能であるが、幼児に使用するためのFDA承認されたシステムは現在のところない。
【0009】
被検体による経口の通常呼吸の間にeNO値を測定するための技法が存在する。通常呼吸は、固定フローの単一の呼気を使用するテスト又は特定の時間の間息止めを必要とするテストよりも、ずっと単純な自然呼吸プロセスであり、従って、被検体が実施するのもずっと平易である。通常呼吸運動は、ガイダンスなしに、及びおそらく3歳からの子供に関しても協調的に、被検体自身によって実施されることができうる。通常呼吸は、概して、成人の場合1分あたり4−20呼吸、子供の場合1分あたり20−40呼吸の呼吸頻度と、成人の場合1呼吸あたり300−1000ml、子供の場合100−500mlの呼気ボリュームと、を含む。
【0010】
しかしながら、通常呼吸eNO測定方法に関する問題は、関係する増大された流量(一般に100−500ml/s)が、センサにおける空気中の一酸化窒素(NO)の濃度を低減することであり、これは、環境中のNOからの汚染又は被検体の鼻領域からのNOのようなさまざまな外乱に対して測定を一層敏感なものにする。
【0011】
この問題は、2つの事項に関連する。第1に、標準化された固定流量運動は、深い吸気から始まるが、通常呼吸は、より浅い吸気を伴う。これは、以前の吸気からの空気の一部のみが通常呼吸において交換されることを意味する。更に、通常呼吸サイクルに関与するより短い時間の間、吸気中のNOが、被検体の肺の肺胞によって部分的にのみ除去される。従って、NOフリーな空気が、通常呼吸動作において口腔を通じて吸気される場合でも、吸気された鼻腔NOが、呼気を「汚染」する可能性がある。
【0012】
第2に、標準化された固定流量運動の呼気の間は、軟口蓋は過圧力のため閉じられるので、鼻腔からのNOは口腔に入り込むことができない。しかしながら、通常呼気(tidal exhalation)の間は、軟口蓋は、開いていることがあり、鼻腔からのNOは、拡散して、口腔を通じて吐き出される空気に入りうる。
【0013】
従って、通常呼吸(tidal breathing)運動の間、呼気中のNOを測定する方法及び装置であって、上述の不利益の少なくとも一部が軽減される方法及び装置の必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
複数の呼吸サイクルにわたる通常呼吸の間の一酸化窒素(NO)の測定において、ある呼気が、下気道に産生されるNOの正確な決定を提供する一方で、他の呼気が不正確な値を提供することが分かった。本発明は、複数の呼吸を含む通常呼吸動作において、下気道に産生されるNOが、例えば環境又は被検体の鼻腔のような他のソースからのNO測定寄与を制する呼気又は呼気の一部の選択が行われることを提供する。
【0015】
従って、本発明の第1の見地によれば、被検体の下気道における一酸化窒素NOの産生に関連する少なくとも1つのパラメータ値を決定する方法であって、通常呼吸を行っている被検体の複数呼気の最中、呼気中のNOレベル及び空気流量の複数の測定値を取得するステップと、下気道に産生されるNOが他のソースからのNO寄与を制する呼気を識別するために、複数の測定値を解析するステップと、識別された呼気の間に得られたNOレベル又は空気流量の測定値から、被検体の下気道におけるNOに関連する少なくとも1つのパラメータ値を決定するステップと、を含む。
【0016】
好適な実施形態において、解析するステップ及び/又は決定するステップは、呼気中のNOレベルのフロー依存を記述するモデルを使用することを含み、下気道におけるNOに関連する少なくとも1つのパラメータは、モデルのフローに依存しないパラメータ(以下、フロー非依存パラメータ)である。別の実施形態において、解析するステップは、呼気中のNOレベルのフロー依存を記述するモデルを使用することを含み、単一のフロー非依存パラメータが、下気道のNOに関して使用される。下気道に産生されるNOは、他のソースからのNOが存在する場合に乱される特定のフロー依存を有し、従って、このフロー依存を記述するモデルの使用は、下気道に産生されるNOが他のソースからのNO寄与を制する当該呼気が識別されることを可能にする。
【0017】
上述の実施形態のモデルは、好適には、2コンパートメントモデル、3コンパートメントモデル又はトランペットモデルを含む。
【0018】
モデルが2コンパートメントモデルである実施形態において、呼気NOであるCが、

によって与えられ、ここで、Calvは、肺胞内濃度であり、Dawは、気道拡散係数であり、

は、空気流量であり、Calv/Cの比及びDawの値は、定数値に設定される。壁濃度Cは、NOレベル及び空気流量の測定値から決定されることができる。モデルは、それがすべての関連する流量、すなわち通常呼吸レジメ以上から50ml/s以下までにあてはまるので、通常呼吸レジメのために使用されることができる。このモデルの使用は、特に、解析するステップの間、有利である。
【0019】
好適には、本実施形態において、モデルのCalv/Cの比及びDawは、集団値又は被検体の以前の個人値に基づいて、それぞれの定数値に設定される。
【0020】
モデルが、トランペットモデルである好適な実施形態において、呼気NOであるCは、

によって与えられ、ここで、

は、空気流量を示し、Daxは、一酸化窒素の軸方向拡散定数であり、c及びcは、正の定数である。更に、解析するステップは、NOレベル及び空気流量の測定値から、最大気道壁NOフラックスであるJawの値を決定することを含む。このモデルは、NOの最大気道壁フラックスという1つの炎症パラメータにのみ基づいて、フロー依存のNO産生の正確な記述を提供し、これは、通常呼吸データの1パラメータ解析が可能になることを意味する。このモデルの使用は、解析するステップの間に特に有利である。
【0021】
好適には、本実施形態において、パラメータDaxは定数値であり、c及びcは、集団値又は被検体の以前の個人値に基づいて、それぞれの定数値に設定される。
【0022】
ある実施形態において、解析するステップは、各呼気を、複数の呼気部分に分けるステップと、各呼気部分ごとに、当該呼気部分の最中に得られたNOレベル及び流量の測定値を使用して、フロー非依存パラメータの値を決定するステップと、各呼気部分ごとに、フロー非依存パラメータの決定された値の開き(スプレッド)を計算するステップと、計算された開きが予め決められた値から閾値を超えて逸脱する呼気部分が捨てられる、第1の廃棄ステップを実施するステップと、を含み、被検体の下気道におけるNOに関連する少なくとも1つのパラメータの値を決定するステップが、第1の廃棄ステップの後に残る呼気部分のNOレベル及び/又は空気流量の測定値を使用する。これは、結果的に、汚染されていない呼気について期待されうる値を超えてパラメータ値が大きく変化する捨てられる呼気部分をもたらす。
【0023】
好適には、閾値は、空気流量及びNOレベルの測定値のノイズに基づいて決定される。
【0024】
ある種の実施形態において、解析するステップは更に、各々の残りの呼気部分について、フロー非依存パラメータの決定された値の平均値を決定するステップと、フロー非依存パラメータについて最小平均値を有する残りの呼気部分を識別するステップと、パラメータ値の平均値が、識別された呼気部分のパラメータの平均値から閾値を超えて逸脱する呼気部分が、捨てられる、第2の廃棄ステップを実施するステップと、を含み、被検体の下気道のNOに関連するパラメータの値を決定するステップは、第2の廃棄ステップの後に残る呼気のNOレベル及び/又は空気流量の測定値を使用する。パラメータ値の最小平均値を有する呼気部分は、他のソースからの最も少ないNO汚染を有する(又はNO汚染を有しない)呼気からのものである見込みであるので、それは、呼気全体にわたって一貫したNO汚染がある呼気部分を識別し廃棄するための基礎として、使用されることができる。
【0025】
本発明の他の見地は、コンピュータ、プロセッサ又はコンピュータシステムに上述の方法を実行させるように構成されるコンピュータ可読コードを含むコンピュータプログラム製品を提供する。
【0026】
本発明の他の見地は、被検体の下気道における一酸化窒素NOの産生に関連する少なくとも1つのパラメータの値を決定する装置であって、通常呼吸運動の複数呼気の最中に被検体によって吐き出された空気中のNOレベルの複数の測定値を取得するNOセンサと、通常呼吸運動の複数の呼気の最中に空気流量の複数の測定値を取得する流量センサと、NOレベル及び流量の測定値を受け取り、測定値を解析して、下気道に産生されるNOが他のソースからのNO寄与を制する呼気を識別し、識別された呼気部分の最中に得られたNOレベル及び/又は空気流量の測定値から、被検体の下気道のNOに関連するパラメータの値を決定するように構成されるプロセッサと、を有する装置を提供する。
【0027】
ある実施形態において、プロセッサは、各呼気を複数の呼気部分に分けることによって、測定値を解析し;各呼気部分ごとに、当該呼気部分の最中に得られたNOレベル及び流量の測定値を使用して、フロー非依存パラメータの値を決定し;各呼気部分ごとに、フロー非依存パラメータの決定された値の開きを計算し;計算された開きが予め決められた値から閾値を超えて逸脱する呼気部分が捨てられる、第1の廃棄ステップを実施するように構成され、被検体の下気道のNOに関連するパラメータの値を決定するステップが、第1の廃棄ステップの後に残る呼気部分のNOレベル及び/又は空気流量の測定値を使用する。
【0028】
ある実施形態において、プロセッサは、各々の残りの呼気部分について、フロー非依存パラメータの決定された値の平均値を決定することによって、測定値を解析し;フロー非依存パラメータの決定された値の最小平均値を有する残りの呼気部分を識別し;パラメータ値の平均値が、識別された呼気部分のパラメータ値の平均値から閾値を超えて逸脱する呼気部分が、捨てられる、第2の廃棄ステップを実施するように構成され、被検体の下気道のNOに関連するパラメータの値を決定するステップが、第2の廃棄ステップの後に残る呼気部分のNOレベル及び/又は空気流量の測定値を使用する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】固定流量技法を使用してNOレベルを測定する従来の装置のブロック図。
【図2】通常呼吸技法を使用してNOレベルを測定するための本発明による装置のブロック図。
【図3】本発明による例示の方法のフローチャート。
【図4】(a)―(c)は、呼気が複数部分に分割されることが可能な方法を示すグラフ。
【図5】図3の解析ステップを更に詳しく示すフローチャート。
【図6】a)及びb)は、幾つかの呼気について測定された一酸化窒素レベル及び計算された一酸化窒素レベルを示すグラフ。
【図7】a)及びb)は、図6a)及び図6b)の呼気のヒストグラムをそれぞれ示す図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の好適な実施形態は、添付の図面を参照して単なる例示によって記述される。
【0031】
通常呼吸の間の呼気中のNOレベルを測定するための本発明の実施形態による装置が、図2に示されている。装置30は、空気入口32、空気出口34及びマウスピース36をそれぞれ形成する3つの端部を備える一般に「Y」字形のチューブ31を有する。第1の一方向弁38が、空気入口32とマウスピース36との間のチューブ31に設けられ、第2の一方向弁40が、マウスピース36と空気出口34との間のチューブ31に設けられる。一方向弁38、40は、被検体が吸気する際、空気が、空気入口32及びマウスピース36を通じてチューブ31に引き込まれ、被検体が呼気する際、空気が、マウスピース36及び空気出口34を通じてチューブ31を通過されるように、構成される。
【0032】
例えば呼気パス内の最小の制約を通じた圧力降下を測定する差圧センサである流量センサ41が、呼気の流量を測定するために、マウスピース36の近くに設けられている(代替として、流量センサ41は、マウスピースと空気出口34との間のチューブ31に位置してもよい)。差圧を測定する代わりに、流量センサ41は、超音波センサに基づくものでもよく、その場合、制約は、フローパスに必要とされない。呼気中のNOのレベルを測定するNOセンサ42は、好適にはマウスピースの近くの主呼気ストリームと連絡する支流44に接続される。NOセンサ42は、通常呼吸パターンの間のNOレベルの変動を正確に捕えるために、十分に高い時間分解能でNOの低い濃度を測定できなければならない。好適な実施形態において、NOセンサ42は、化学発光分析計である。代替として、NOレベルは、NOからNOへのコンバータと組み合わせて、光音響NOセンサを使用して測定されることができる。
【0033】
NOセンサ42及び流量センサ41までの異なる経路の長さ、並びにNO検出の遅れは、結果としてこれらのセンサの動作の相対的な遅れを生じさせることがあり、従って、測定が互いに対応することを確実にするために、相対測定のタイミングに補正を適用する必要がありうることに注意すべきである。
【0034】
プロセッサ46は、それが、呼気の流量及び呼気中のNOレベルの時間連続の測定値を受け取るように、流量センサ41及びNOセンサ42に接続される。プロセッサ46は、更に後述されるように、これらの測定値を処理して、被検体の下気道におけるNO産生に関連する1又は複数のフロー非依存パラメータの値を決定する。
【0035】
装置30が使用中であるとき、被検体は、通常通りに呼吸し、NOレベル及び対応する流量が、複数の呼気について記録される。好適には、測定値は、解析のための十分なNO及びフロー測定データを使用可能にするために、約30秒から1分の測定期間の間に取得される。
【0036】
プロセッサは、データを記憶するためのメモリ47に結合されることができる。検査下にある被検体が以前に検査されていた場合、メモリ47は、その被検体に関する個人情報を記憶することができ、その被検体に適当であるさまざまなモデルパラメータの値を記憶することができる。メモリ47は更に、さまざまなモデルパラメータの汎用の値又は特定集団の平均値を記憶することができる。メモリ47は、プロセッサ46と一体化されることができ、又は着脱可能なメモリ装置でありうる。
【0037】
NOフィルタ48は、空気入口32と第1の一方向弁38との間のチューブ31に設けられることができ、被検体が吸気するとき、周囲環境から装置30に引き込まれる空気からNOを除去する。
【0038】
図1に示される固定流量装置2とは異なり、固定流量装置2のように第2の一方向弁40と空気出口34との間のチューブ31にフロー制限器を提供することは必須でない。しかしながら、NOセンサ42によってサンプリングされる空気の圧力及びゆえに空気中のNO濃度を高めるために、小さい制約が、含められることができ、それにより、プロセッサ出力の正確さを増大する。
【0039】
図2に示されないが、装置2が、リアルタイムに又は略リアルタイムにNOレベルの測定値を提供する場合、装置2は、十分な数の呼吸又は許容できる数のデータポイントが収集される場合に、音響的及び/又は視覚的フィードバックを被検体に提供するためのフィードバックユニットを備えることができる。
【0040】
以下、図3及び図4に示されるフローチャートを参照して、本発明によるプロセッサ46の処理について更に詳しく説明する。第1に、図3のステップ101において、プロセッサ46は、通常呼吸動作を行っている被検体による幾つかの呼気をカバーするNOレベル及び対応する空気流量の複数の測定値を得る。
【0041】
上述したように、通常呼吸の間の幾つかの呼気は、下気道に産生されるNOの正確な表現を提供する一方で、通常呼吸の間の他の呼気は、他のソースからのNOによって汚染され、不正確な値を提供することが分かった。従って、本発明によれば、プロセッサ46は、下気道に産生されるNOが、例えば環境又は被検体の鼻腔のような他のソースからのNO測定寄与を制する呼気又は呼気の一部を識別するために、測定値を解析する(ステップ103)。
【0042】
プロセッサ46は、識別された呼気(すなわち、下気道に産生されるNOが他のソースからのNO測定寄与を制する呼気)の一部又は全体の測定値を使用して、被検体の下気道におけるNO産生に関連する1又は複数のフロー非依存パラメータの値を決定する(ステップ105)。
【0043】
本発明の好適な実施形態において、ステップ103における識別及びそれに続くステップ105における決定は、被検体の下気道におけるNOの産生、拡散及び/又は除去を記述するモデル又はモデルの組み合わせを使用することができる。識別ステップにおいて、下気道に産生されるNOには、他のソースからのNOが存在する場合に乱される特定のフロー依存があるという事実が使用されることができる。好適には、単一の自由パラメータを有するモデルが、識別ステップにおいて使用され、統計的手段が、下気道からのNOが他のソースからのNO測定寄与を制する呼気部分を識別するために適用される。決定ステップの間、呼気のすべての識別された部分が、同じ単一パラメータモデル又はより多くの自由パラメータを有するモデルによる解析において使用される。
【0044】
肺内のNO産生及び拡散のさまざまな異なるモデルが知られており、呼気NOのフロー依存を記述するモデルとして使用されることができる。これらのモデルの重要な要素は、以下の通りである:i)しばしば簡略化されたコンパートメントの形での、肺系統のジオメトリの記述、ii)NO産生、及びiii)NO拡散。例えば、NO交換力学の2コンパートメントモデルは、剛性気道コンパートメント及び可撓性肺胞コンパートメントによって肺を表現する。例えばTsoukias他の「A two-compartment model of pulmonary nitric oxide exchange dynamics」(J. Appl. Physiol, Vol. 85, pp 653-999, 1998)を参照されたい。3コンパートメントモデルは、P. Condorelli他の「Characterizing airway and alveolar nitric oxide exchange during tidal breathing using a three-compartment model」(J. Appl. Physiol. Vol 96, pp 1832-1842, 2004)に記述されている。他のモデルは、気道のトランペット形状を考慮し、軸方向拡散が支配的なNO拡散メカニズムであると仮定する軸方向拡散を有するトランペットモデルである。例えば、米国特許出願公開第2007/0282214号明細書又はP.Condorelli他の文献(J.Appl. Physiol. Vol 102,pp 417-425, 2007)を参照されたい。軸方向拡散を有するトランペットモデルは、肺のフロー依存のNO産生の良好な記述を提供することができるが、2及び3コンパートメントよりも数学的に複雑であり、近似解析解又は数値解の使用を必要とする。すべての上述したモデルは、三次元非対称の気道構造が、変化する直径を有する軸対称の管体を通るフローにマップされる偏微分移流拡散方程式によって、気道系統におけるさまざまなガスの産生及び輸送を記述するより一般的なモデルに対する近似を形成する。
【0045】
呼気NOのフロー依存を記述するモデルは、一般に、さまざまなフロー非依存パラメータに基づく。2コンパートメントモデルは、例えば定常状態肺胞内濃度、気道壁拡散能力、気道壁濃度の3つのフロー非依存パラメータを有する(代替として、気道壁濃度パラメータに代わって、NOの最大気道壁フラックスが使用されることもできる)。定常状態肺胞内濃度及び気道壁濃度は、気道炎症の重症度によって変化し、他方、気道壁拡散能力は、気道壁とガス流との間のNOの輸送に関連するガス拡散パラメータであり、健康な人と喘息の人ではわずかに異なる。軸方向拡散を有するトランペットモデルに対するCondorelli近似は、3つのフロー非依存パラメータを有し、それらのうち2つ、すなわち定常状態肺胞内濃度及びNOの最大気道壁フラックスは、肺炎の重症度によって変化し、1つは、軸方向ガス拡散を記述する。2コンパートメントモデル及び軸方向拡散支配のトランペットモデルからの、炎症の重症度にリンクされるフロー非依存パラメータが、同様な名前を有するが、それらの実際の値は、モデル依存であり、値は、特定のフローレンジ内で簡単に変換されることができるだけである。
【0046】
一般に、下気道におけるNO産生を記述するモデルのさまざまなパラメータの値は、特定の被検体について前もって知られてるわけではない。従って、本発明の実施形態において、プロセッサ46によって使用されるモデルは、フロー依存のNO産生が単一の未知パラメータによって合理的な正確さで記述されるように、セットアップされることができる。
【0047】
これは、単一の炎症関連のパラメータを残りの未知パラメータとして残すように、小さい可変性をもつパラメータを平均値に設定することによって、達成されることができる。例えば、ガス拡散に関連するモデルのパラメータの少なくとも1つ及び/又は炎症に関連する少なくとも1つの他のパラメータは、定数値に設定されることができる。パラメータの少なくとも1つは、集団平均値に、すなわち当該集団について以前に決定された平均値に、設定されることができる。あるパラメータについて、それぞれ異なる集団平均値が、性別、年齢、その他に基づいて存在することができ、被検体にとって適当な値が、選択されることができる。これらのパラメータを集団平均値に設定することは、明らかに不正確さをもたらすが、フロー非依存パラメータの十分に正確な値がなお得られることができることが分かった。加えて又は代替として、フロー非依存パラメータの少なくとも1つが、特定のテスト被検体について以前に得られた又は算定された個人値に設定されることができる。1又は複数のフロー非依存パラメータの値が、被検体について決定されることができ、すべての連続する測定において使用されることができる。
【0048】
従って、モデルは、呼気NOのレベル及び対応する流量の測定値から決定される炎症によって変化する1又は複数のフロー非依存パラメータを組み込む。残りのパラメータは、定数、被検体に関連した集団平均値、又は被検体について以前に算定された又は決定された値として、設定されることができる。
【0049】
前述の2コンパートメントモデルは、肺を、約150mlボリュームを有する円筒状の剛性気道コンパートメント及び可撓性肺胞コンパートメントとして記述する。気道コンパートメントは、2つのパラメータ、すなわち気道拡散能力、及びNOの気道壁濃度又はNOの最大気道壁フラックスによって記述される。肺胞コンパートメントは、NOの定常状態肺胞内濃度である単一パラメータによって記述される。2コンパートメントモデルによるフロー、

の関数としての呼気NO濃度Cが、以下によって与えられる:

【0050】
こうして、呼気NO濃度は、気道拡散係数Daw及びフローに依存する項によって重み付けされる壁濃度C及び肺胞内濃度Calvに依存する。解析の式は、すべての関連したフローに、すなわち通常呼吸レジメ以上から50ml/s以下までのフローにあてはまる。
【0051】
臨床試験において、気道拡散能力は、炎症重症度に直接関連しないことが認められている。従って、気道拡散能力は、集団平均値に基づいて算定されることができる。通常呼吸NO測定装置が、すでに診断されている喘息個人の反復測定のために使用される場合、Dawの喘息個人の集団平均値が、使用されることができる。代替として、特定の被検体の気道拡散能力は、例えば異なる測定から、事前に導き出されることができ、プロセッサ46に入力され又はメモリ47から得られることができる。
【0052】
一実施形態において、肺胞コンパートメントの定常状態NO濃度Calvは更に、別個に決定された個人値に設定されることができ、これは、プロセッサ46が、NOレベル(C)及び空気流量、

の測定値を使用して、残りのフロー非依存の炎症関連パラメータ(壁濃度C)の値を決定することができる。
【0053】
しかしながら、2コンパートメントモデルは、肺胞内濃度の事前知識により満足な結果を与えることができる一方で、軸方向拡散を含むモデルは、それが、NOの最大気道壁フラックスである1つの炎症パラメータに基づいて、フロー依存のNO産生の十分に正確な記述を提供することができるので、現在好適である。軸方向ガス拡散定数は、ほぼ、一般的なガス拡散定数である。炎症が1つの支配的パラメータによって記述されるモデルの適用は、通常呼吸データに対する1パラメータ解析が可能になるという主な利点がある。後者は、選択された呼気又は呼気部分の範囲のデータの最終解析の間の有利なフィーチャであるが、それは、汚染部分及び非汚染部分の選択の第1ステージのための非常に好適な解析方法を形成する。
【0054】
米国特許出願公開第2007/0282214号明細書に記述されるトランペットモデルが、軸方向拡散、NOの最大気道壁フラックス及び定常状態肺胞内濃度を含むモデルの一例である。このモデルは、気道拡散能力及び例えば気道樹の軸方向位置に依存するNOの最大気道壁フラックスを含むように更に拡張されることができる。軸方向拡散を含むモデルのNOの最大気道壁フラックス、定常状態肺胞NO濃度及びNO拡散能力の値が、例えば軸方向拡散をもたない2コンパートメントモデルの値と直接比較されることができないことに注意する必要がある。
【0055】
軸方向拡散を含むトランペットモデルは、微分方程式、NO産生を記述するソース項、肺胞及び口腔領域に対する境界条件、及びトランペット形状の記述によって規定される。一般解は分からないが、すべてのパラメータ値が知られる場合、数値解が得られることができる。実験データからの1又は複数のパラメータ値の決定は、近似解析解又は時間がかかり複雑な反復的数値解法に基づいてのみ可能になる。
【0056】
米国特許第2007/0282214号明細書は、NOの最大気道壁フラックス、定常状態肺胞値及び軸方向拡散を含むトランペットモデルに関するフロー依存のNO産生の線形近似を開示する。線形近似は、100−250ml/sのフローレンジ内で有効である。大部分の通常呼吸運動はこのフローレンジ内であるが、ある被検体については、通常呼吸がより高いフローを伴う。
【0057】
トランペットモデルパラメータの典型値について数値解及び解析近似を比較することによって、本発明の発明者は、以下の解析式が、25ml/s及びそれ以上のフローに関するフロー、

の関数として、NO産生Cを非常に正確に記述することを見出した:

ここで、

は、呼気の流量を示し、Dawは、気道壁拡散係数を示し、Daxは、一酸化窒素の軸方向拡散定数を示す。Calvは、定常状態肺胞NO濃度に関連するフロー独立の寄与である。
【0058】
、c、c及びcは、気道樹における一酸化窒素の産生、対流及び拡散を記述する微分方程式の数値解に対する適合から導出される正の定数である。1つのモデルにおいて、cは、ほぼ1の値を有することができ、cは、0.4の値を有することができ、cは、約2200ml/cmの値を有することができ、cは、約0.25の値を有することができる。
【0059】
約50ml/s及びそれ以上のフロー並びに通常呼吸に関係するタイムスケールについて、Daw及び定常状態肺胞値Calvは、ゼロにセットされることができる。0.23cm/sが、Daxの典型値として使用されることができる(The Properties of Gases and Liquids, RC Reid et al., New York: McGraw-Hill, 1988)。
【0060】
awは、被検体に特化したフロー非依存パラメータである最大気道壁NOフラックスであり、プロセッサ46は、呼気NOレベル及び流量の測定値から、Jawを決定する。
【0061】
上記で与えられた近似の解析解は、式(3)の拡散項(の積)、

が、k及びkが定数であるとして、トランペット形状の気道のフロー依存のNO産生の良好な記述を提供するという発見に基づくものである。解析近似は、それが、実験データからの1又は複数のフロー非依存パラメータの簡単且つ高速な決定を可能にするので、測定データの解析において非常に強力である。
【0062】
一実施形態において、本発明による装置30が、さまざまな被検体の肺炎症を評価するために専門ケア状況において使用されることができる場合、フロー非依存パラメータDaw及びCalvは、集団平均化された値に設定されることができ、単一の未知の炎症関連パラメータとしてJawを残す。代替として、装置30が、個人の被検体によって(すなわち、自宅環境においてそれらの喘息を監視する被検体によって)使用される場合、被検体のDax、Daw及びCalvの値は、(おそらく通常の固定フロー呼気測定技法を使用することにより、)呼吸器科医による被検体の解析後に導き出されることができる。更に別の方法として、喘息の診断の後、パラメータDax及びDawが、喘息のある人々の集団平均化された値に設定されることもできる。
【0063】
2コンパートメントモデルの場合、単一の炎症関連パラメータによる解析は、肺胞内濃度及び壁濃度の固定比Calv/C(又はCalv/Jaw)を使用することにより可能になる。この比は、集団平均値に基づくことができ、又は軸方向拡散から、すなわち、通常呼吸フローレンジにおいて2コンパートメントモデルパラメータをトランペットモデルパラメータに結び付けることによって、導き出されることができる。
【0064】
以下、図4のグラフ及び図5のフローチャートを参照して、図3のステップ103について更に詳しく説明する。
【0065】
解析及び決定ステップについて、各呼気は、予め規定されたやり方で、複数部分(例えば初期部分、中間部分及び終了部分)に分割される。好適な実施形態が図4に示されている。呼気iについて測定されたeNO及びフロープロファイルが、時間の関数として、図4(a)及び4(b)に示されている。ガス輸送から生じるeNOとフロー測定値の間の時間遅延、デッドボリューム及びNOセンサ遅延が、考慮されるべきである。図4(c)に示される呼気ボリューム対時間は、tの開始から終了tまでのフロープロファイルの積分によって得られる。呼気iの最大呼気ボリュームVmaxは、tに達成される。その後、呼気のプロファイルを3つの部分に分割するために、呼気の初期部分の終わりを示す時間t及び呼気の終了部分の始まりを示す時間tが、それぞれ例えば最大呼気ボリュームの30%及び80%に対応するように決定されることができる。eNO及びフロープロファイルの第1部分は、時間フレームt−tに対応し、第2部分は、t−tに対応し、第3部分は、t−tに対応する。有利である場合、最大ボリューム又は複数部分の割合は、異なって選択されることができる。
【0066】
図5は、解析ステップを更に詳しく示す。最初に、ステップ120において、すべての呼気は、図4に示されるように予め規定された複数部分に分けられる。図5のステップ121において、プロセッサ46は、通常呼吸運動の第1の呼気のすべての部分、及び例えば初期部分及び終了部分のような各々の後続の呼気の一部を捨てる。呼気NOレベルが時間に対してプロットされている図6(a)及び(b)のグラフにおいて、(破線によって表される)測定されたNOレベルが、しばしば呼気の開始時に比較的高いことが分かる。気道の増大された滞留時間のため、モデルと一致する小さい増加が、吸気から呼気への遷移の付近で予期される。しかしながら、より大きいピークが、しばしば呼気の開始時及び終了時に観察され、低い呼気フローの間の鼻NO汚染により、吸気から呼気への遷移及び呼気から吸気への遷移の付近にある。従って、後続の解析から、各呼気の開始時と終了時の測定値を捨てることが有用である。測定値又はその一部を「捨てる」ことは、メモリ47から当該部分の測定値を削除することができ、又はメモリ47の当該部分の測定値にラベル付けすることができ、それにより、それらが後続の処理ステップの間に使用されないようにする。ステップ121において捨てられない各呼気部分は、図5の以下の説明において、残りの部分と呼ばれる。
【0067】
ステップ123において、プロセッサ46は、フロー非依存パラメータの値を決定するために、各呼気の残りの(すなわち捨てられなかった)部分の呼気NOレベル及び流量の測定値を、選択されたモデルに適用する。例えば、上述のトランペットモデルが使用される場合、プロセッサ46は、このステップにおいて、最大気道壁NOフラックスJawの値を決定する。
【0068】
次に、各呼気部分について、プロセッサ46は、呼気部分全体のパラメータ値のバリエーション又は開きを決定する(ステップ125)。一組のデータ値のバリエーション又は開きを決定する技法は、数学の分野で良く知られており、本願明細書に更に詳しくは記述されない。
【0069】
呼気NOの測定値が、下気道に産生されるNOによって支配される場合、呼気部分全体のパラメータ値の比較的小さい開きがあることが予期される。特に、汚染されていない呼気について、パラメータ値の開きは、流量及びNO測定値のノイズ、及びモデルの他のパラメータの近似値から生じる不正確さに、略対応すべきである。従って、或る呼気部分のパラメータ値の開きが、予め決められた値を上回る場合、プロセッサ46は、更なる解析から、その呼気部分を捨てる(ステップ127)。例えば、呼気部分は、標準偏差が、NO及びフロー測定値のノイズレベルに基づく標準偏差の2倍より大きい場合、捨てられることができる。
【0070】
本発明のある実施形態において、ステップ127は、解析ステップを終えることができ(図3のステップ103)、プロセッサ46は、残りの部分を有する呼気の測定値を使用して、図3のステップ105において、要求されるパラメータ値を決定することができる。
【0071】
しかしながら、本発明の他の実施形態において、プロセッサ46は、他の呼気(部分)が除外される必要があるかどうかを判定するために、付加の解析を実施することができる。具体的には、ステップ129において、プロセッサ46は、解析において残っている各呼気部分について、パラメータ値の平均の大きさを決定する。
【0072】
最小NO値に対応するパラメータ値を有する呼気は、汚染されていない可能性が最も高いことが理解される。従って、特定の残りの呼気部分のパラメータ値の平均の大きさが、他の残りの(捨てられない)部分のパラメータ値の平均の大きさと比較され、平均パラメータ値は、呼気部分が更なる解析から捨てられるこの値から大きく逸脱する。
【0073】
特に、ステップ131において、プロセッサ46は、最小の呼気NO測定値に対応するパラメータ値を有する残りの部分を識別し、ステップ133において、パラメータ値の平均の大きさが、識別された部分のパラメータ値の平均の大きさから閾値を超えて逸脱する場合、他の残りの部分を捨てる。例えば、或る呼気部分の平均パラメータ値が、識別された呼気部分の平均パラメータ値と比べて、識別された呼気部分の平均パラメータ値の0.3倍より多く異なる場合、当該呼気部分は、捨てられることができる。
【0074】
プロセッサ46は、図3のステップ105において要求されるパラメータ値を決定するために、呼気の残りの部分の測定値を使用することができる。
【0075】
本発明の別の実施形態において、環境及び吸気中の気道の鼻腔NOの除去は、肺胞部分の混合及び拡散プロセスを表すモデルによって記述されることが可能であるので、プロセッサ46が、呼気又は呼気の拡張された初期部分が他の解析から捨てられなければならないかどうか判定するために、吸気を考慮することが可能である。
【0076】
上述の処理方法の動作は、図6(a)及び(b)において理解されることができる。これらのグラフは、5つの呼気を含む2つの別個の通常呼吸運動に関する呼気NO測定データを示す。呼気eNOの測定値は、破線によって表される。
【0077】
この図示の実施形態において、プロセッサ46は、トランペットモデルを使用しており、フロー非依存パラメータの全ての値は、別個に決定されたものであり、流量の測定値は、呼気NO測定の期待値を計算するために、モデルへの入力として使用される。
【0078】
従って、上述の図5の方法に従って、プロセッサ46は、残りの部分の流量測定値及びモデル(決定された値は、実線によって図6(a)及び(b)に示される)を使用して、呼気NOの値を決定する。
【0079】
図6から分かるように、重要な偏差が、図6(a)の第4の呼気及び図6(b)の第1の呼気について、測定されたNOレベルと期待されるNOレベルとの間に生じる。図5のステップに従って、プロセッサ46は、次の解析からは、これらの呼気の測定値を捨てる。
【0080】
図6(a)の第4の呼気において、決定されたNO値からの偏差は、呼気の始まりにおいて大きく、呼気の終わりに向かって小さくなっていくことが分かる。この場合、小さいパーセンテージの空気が、おそらく鼻を通じて吸気され、NO除去に効果的である肺のより低い部分まで到達しなかった。
【0081】
図6(b)の第1の呼気のオフセットは、浅い吸気、及び以前の呼吸サイクルから吸気された環境又は鼻NOの、肺の肺胞部分のNOの不完全な除去に起因するものとして理解される。
【0082】
図7は、ヒストグラムによる方法を示す。単一未知パラメータとしてJawを有する2コンパートメントモデル又はトランペットモデルを使用することによって(Jawは式(1)のDawによって与えられる)、Jawの値は、呼気ボリュームの特定のレンジ(例えば各呼気の最大呼気ボリュームの30―80%)内の呼気NO及び流量測定値を使用して、決定されることができ、ヒストグラムは、呼気(又は呼気部分)ごとに、Jaw値からコンパイルされることができる。図7(a)及び図7(b)は、それぞれ、図6(a)及び図6(b)に示される測定データのヒストグラムを示す。
【0083】
図示されるヒストグラムにおいて、0.15ピコリットル/秒(pl/s)のビンが使用される。各呼気部分のJawの値が、関連するビンに入れられ、グラフの線は、図6に示される個別の呼気部分を表す。
【0084】
呼気部分は、特定の値の範囲内にある当該呼気部分のヒストグラムの幅、及び/又はすべての残りの呼気部分の全体平均Jaw(又は最小平均Jaw)の特定のレンジ内にある当該呼気部分のJawの平均値に基づいて、汚染されていないものとして受け入れられることができる。例えば、図7(a)から分かるように、第4の呼気の残りの部分のJaw値の開きは大きいので、被検体のJawパラメータの知識なしに、この呼気は、他の解析から捨てられることができる。
【0085】
図7(b)の第1の呼気の残りの部分のJaw値の開きは、他の呼気の残りの部分の開きよりわずかに高いが、これは、この呼気を捨てるための判定を行うには十分でないことがある。この場合、この呼気が捨てられるべきかどうか判定するために、他の呼気部分の平均値との比較を実施することが必要でありうる。
【0086】
上述の本発明は、今日利用可能なeNO測定システムのセンサが、通常呼吸の最中にNOパターンを測定するために十分な時間解像度(すなわち十分に短い応答時間)を有する場合、これらのeNO測定システムによって使用されることができるが分かるであろう。上述したように、このようなセンサは、化学発光分析計を含む。
【0087】
本発明は、測定装置のプロセッサによって実施される方法に関して記述されたが、本発明は、適切にプログラムされたコンピュータによって実施されることができ、従って、本発明が、適切なコンピュータ又はコンピュータシステム上でランし、データ入力として複数の測定地を与えられるとき、上述の方法を実施するコンピュータプログラムを更に含むことができることが分かるだろう。コンピュータプログラムは、例えばハードディスク、光学ディスク又はメモリカードのようなコンピュータ可読記憶媒体に記憶されることができる。
【0088】
従って、通常呼吸運動の間、呼気中のNOを測定することができ、鼻腔からの吸気NOによる呼気の汚染に関する問題を軽減する方法及び装置が提供される。
【0089】
本発明は、図面及び上記の記述において詳しく示され記述されたが、このような図示及び記述は、限定的なものではなく、説明的又は例示的なものとして考えられるべきである。本発明は、開示された実施形態に限定されない。
【0090】
開示された実施形態の変更は、図面、開示及び添付の請求項の検討から、請求項に記載の本発明を実施する際に当業者によって理解され、達成されることができる。請求項において、「含む、有する」という語は、他の構成要素を又はステップを除外せず、不定冠詞「a」又は「an」は、複数性を除外しない。単一のプロセッサ又は他のユニットが、請求項に列挙される幾つかのアイテムの機能を果たすことができる。特定の手段が相互に異なる従属請求項に列挙されているという単なる事実は、これらの手段の組み合わせが有利に使用されることができないことを示さない。コンピュータプログラムは、例えば他のハードウェアと共に又はその一部として供給される光学記憶媒体又はソリッドステート媒体のような、適切な媒体に記憶され/分散されることができるが、他の形態で、例えばインターネット又は他のワイヤード又はワイヤレス通信システムを通じて、分散されることもできる。請求項における参照符号は、本発明の範囲を制限するものとして解釈されるべきでない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の下気道における一酸化窒素(NO)の産生に関連する少なくとも1つのパラメータ値を決定する方法であって、
通常呼吸を行っている被検体の複数呼気の最中、呼気中のNOレベル及び空気流量の複数の測定値を得るステップと、
下気道に産生されるNOが他のソースからのNO寄与を制する呼気を識別するために、前記複数の測定値を解析するステップと、
前記識別された呼気の最中に得られたNOレベル及び/又は空気流量の測定値から、被検体の下気道のNOに関連する少なくとも1つのパラメータ値を決定するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記解析するステップ及び/又は前記決定するステップは、呼気中のNOレベルのフロー依存を記述するモデルを使用することを含み、下気道のNOに関連する前記少なくとも1つのパラメータは、前記モデルのフロー非依存パラメータである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記解析するステップは、呼気中のNOレベルのフロー依存を記述するモデルを使用することを含み、単一のフロー非依存パラメータが、下気道のNOに関連して使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記モデルは、2コンパートメントモデル、3コンパートメントモデル又はトランペットモデルのうち1つを含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記モデルは、2コンパートメントモデルであり、前記呼気NOが、

によって与えられ、ここで、Calvは、肺胞濃度であり、Dawは、気道拡散係数であり、

は、空気流量であり、Calv/Cの比及びDawの値は、定数値に設定され、
前記解析するステップは、前記NOレベル及び前記空気流量の前記測定値から、壁濃度の値を決定することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記モデルのCalv/Cの比及びDawは、集団値又は被検体の以前の個人値に基づいて、個々の定数値に設定される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記モデルは、トランペットモデルであり、前記呼気NOは、

によって与えられ、ここで、

は、空気流量を示し、Daxは、一酸化窒素の軸方向拡散定数であり、c及びcは、正の定数であり、
前記解析するステップは、前記NOレベル及び前記空気流量の前記測定値から、最大気道壁NOフラックスJawの値を決定することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
パラメータDaxは、定数値であり、c及びcは、集団値又は被検体の以前の個人値に基づいて、個々の定数値に設定される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記解析するステップが、
各呼気を、複数の呼気部分に分割し、
各呼気部分について、当該呼気部分の最中に得られたNOレベル及び空気流量の測定値を使用して、フロー非依存パラメータの値を決定し、
各呼気部分について、前記フロー非依存パラメータの前記決定された値の開きを計算し、
前記計算された開きが予め決められた値から閾値を超えて逸脱する呼気部分が、捨てられる、第1の廃棄ステップを実施する、
ことを含み、前記決定するステップが、前記第1の廃棄ステップの後に残る呼気部分のNOレベル及び/又は空気流量の測定値を使用する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記閾値は、空気流量及びNOレベルの測定値のノイズに基づいて決定される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記解析するステップが、
各々の残りの呼気部分について、前記フロー非依存パラメータの前記決定された値の平均値を決定し、
前記フロー非依存パラメータの最小平均値を有する残りの呼気部分を識別し、
前記パラメータ値の平均値が前記識別された呼気部分の前記パラメータ値の平均値から閾値を超えて逸脱する呼気部分が捨てられる、第2の廃棄ステップを実施する、
ことを含み、前記決定するステップが、前記第2の廃棄ステップの後に残る呼気部分のNOレベル及び/又は空気流量の測定値を使用する、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の方法をコンピュータ、プロセッサ又はコンピュータシステムに実施させるためのコンピュータ可読命令を含むコンピュータプログラム。
【請求項13】
被検体の下気道における一酸化窒素(NO)産生に関連する少なくとも1つのパラメータの値を決定する装置であって、
通常呼吸運動の複数呼気の最中に、被検体の呼気中のNOレベルの複数の測定値を取得するNOセンサと、
前記通常呼吸運動の複数呼気の最中に、呼気の空気流量の複数の測定値を取得する流量センサと、
プロセッサであって、
前記NOレベル及び前記空気流量の前記測定値を受け取り、
下気道に産生されるNOが他のソースからのNO寄与を制する呼気を識別するために、前記測定値を解析し、
前記識別された呼気の最中に得られたNOレベル及び/又は空気流量の測定値から、被検体の下気道のNOに関連するパラメータの値を決定する、ように構成されるプロセッサと、
を有する装置。
【請求項14】
前記プロセッサが、
各呼気を複数の呼気部分に分割し、
各呼気部分について、当該呼気部分の間に得られたNOレベル及び空気流量の測定値を使用して、フロー非依存パラメータの値を決定し、
各呼気部分について、前記フロー非依存パラメータの前記決定された値の開きを計算し、
前記計算された開きが予め決められた値から閾値を超えて逸脱する呼気部分が捨てられる、第1の廃棄ステップを実施する、
ことによって、前記測定値を解析するように構成され、
前記パラメータの値の前記決定が、前記第1の廃棄ステップの後に残る呼気部分のNOレベル及び/又は空気流量の測定値を使用する、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記プロセッサが更に、
各々の残りの呼気部分について、前記フロー非依存パラメータの前記決定された値の平均値を決定し、
前記フロー非依存パラメータの前記決定された値の最小平均値を有する前記残りの呼気部分を識別し、
前記パラメータ値の平均値が前記識別された呼気部分の前記パラメータ値の平均値から閾値を超えて逸脱する呼気部分が、捨てられる、第2の廃棄ステップを実施する、
ことによって、前記測定値を解析するように構成され、
前記パラメータの値の前記決定が、前記第2の廃棄ステップの後に残る呼気部分のNOレベル及び/又は空気流量の測定値を使用する、請求項14に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−519896(P2013−519896A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553424(P2012−553424)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際出願番号】PCT/IB2011/050566
【国際公開番号】WO2011/101776
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】