説明

一酸化窒素用吸着材の製造方法

【課題】従来よりも高温で一酸化窒素の吸着性能を有する、強度が高い一酸化窒素用吸着材を、効率よく、低い製造コストで製造できる一酸化窒素用吸着材の製造方法を提案する。
【解決手段】 イオン交換樹脂の粉末を、石油系ピッチまたはポリビニルアルコール等のバインダーと混合して成型した成型物を、200〜300℃の空気中で焼成し、焼成物を600〜700℃の不活性ガス中で炭化し、炭化物を800〜1000℃で賦活して一酸化窒素用吸着材を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場等から排出される燃焼排ガスや自動車排ガスなどのガス中に含まれる一酸化窒素を除去するための一酸化窒素用吸着材を製造する方法、特に従来よりも高温で一酸化窒素の吸着性能を有する一酸化窒素用吸着材を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工場等から排出される燃焼排ガスや自動車排ガスなどの排ガス中には、NOxで表示される窒素酸化物が含まれるので、この窒素酸化物を除去するために排ガス処理が行われている。このような排ガス中に含まれる窒素酸化物は、NOxで包括的に表示される場合が多く、これらを除去するための排ガス処理も、NOx全体に対して包括的に行われている。処理方法としては、触媒を用いる酸化または還元処理、吸着材による吸着処理などが行われている。
【0003】
ところがNOxで包括的に表示される窒素酸化物としては、NO、NO、NOなどがあり、それぞれ酸化の度合いによる処理特性に差がある。このうちNOで表される一酸化窒素は処理が困難であり、これを除去するために、アンモニア脱硝装置により分解処理されているが、触媒を用いて高温でアンモニアと反応させる必要があるため、処理が困難である。
【0004】
また吸着材により一酸化窒素を吸着除去する分野では、活性炭等の通常の吸着材は一酸化窒素を吸着除去できないので、一酸化窒素の除去には、NOをオゾン等の酸化剤を用いてNO2に酸化した後、吸着材に吸着させて除去しているのが通常である。しかしNOをオゾン等で酸化して吸着材で吸着すると、設備上も操作上も複雑となり、処理コストも高くなる。
【0005】
特許文献1(特開平05−76753号公報)には、一酸化窒素吸着材として、フェノール樹脂からなる平均粒径が200μm以下の粉末もしくはその焼結体を、還元性気体,不活性気体あるいは弱酸化性気体雰囲気中、400〜1200℃で1〜100時間熱処理して炭化と賦活を行った一酸化窒素吸着材が示されており、この一酸化窒素吸着材を処理容器に充填し、50℃未満の温度で一酸化窒素含有気体を通して一酸化窒素を吸着させる一酸化窒素の吸着除去法が示されている。しかしこの一酸化窒素吸着材は、一酸化窒素の吸着除去を目的としているが、原ガスを50℃未満に冷却しなければ、吸着容量や吸着除去率が低下するので、適用条件が狭いという欠点がある。
【0006】
特許文献2(特開平11−171522号公報)には、脱硝性能の高い脱硫脱硝用活性炭として、石炭を予備乾留して半成コークスとしたものを主原料とし、これに副原料として粘結性の石炭および結合剤、さらに必要に応じて成型助剤を加えて粘結性を調整した成型原料により成型した成型物を炭化・賦活して強度と吸着性能、触媒活性が付与された成型活性炭とし、この成型活性炭に前工程で発生する乾留ガスを吸着させて表面の酸性官能基・窒素官能基等を含む揮発分を増加させた活性炭が示されている。しかしこの活性炭は脱硝性能が高いとされているが、NOxで包括的に表示される窒素酸化物の全体を除去対象としており、一酸化窒素の吸着除去については示されていない。
【0007】
一方、特許文献3(特開平07−165407号公報)には、粒状有機ゲルイオン交換体を実質的に不活性な雰囲気中で600〜900℃の温度で炭化し、その後それを酸化性雰囲気中で800〜900℃の温度で活性化した活性炭が記載されており、炭化する前にゲルタイプイオン交換体を酸化性雰囲気中、400℃までの温度で前酸化すること、ならびに二酸化炭素を実質的に不活性な雰囲気中に活性化する間加えることも記載されている。しかし、このような粉砕、バインダー混合、成型を行うことなく、有機ゲルイオン交換体を炭化、活性化したものは強度が小さく、指で軽くつまむとすぐに崩壊する程度の強度しか有していない。粉砕を行うことなくバインダー混合、成型、炭化、活性化したものも同様である。またこのような活性炭は、空気中の低濃度汚染物に対するフィルタとして使用できることが記載されているが、一酸化窒素吸着については示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平05−76753号公報
【特許文献2】特開平11−171522号公報
【特許文献3】特開平07−165407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般的に一酸化窒素が排出される環境は、火力発電所、ごみ焼却場など、数百度の高温環境下がほとんどであり、大気温度であることは少ない。従って高い温度で一酸化窒素を吸着除去できる一酸化窒素用吸着材が求められている。従来の一酸化窒素の吸着材は、吸着温度は50℃が上限とされているが、少しでも高温で使用できる吸着材の方が、ガス冷却のためのエネルギーを節約することができ、性能として有利である。このため吸着温度が50℃を超える高温まで一酸化窒素の吸着性能を有し、強度が高く、製造コストが低い一酸化窒素用吸着材が求められている。
【0010】
本発明の目的は、このような要望に応えるため、従来よりも高温で一酸化窒素の吸着性能を有する、強度が高い一酸化窒素用吸着材を、効率よく、低い製造コストで製造できる一酸化窒素用吸着材の製造方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は次の一酸化窒素用吸着材の製造方法である。
(1) イオン交換樹脂の粉末をバインダーと混合して成型した成型物を、200〜300℃の空気中で焼成し、焼成物を600〜700℃の不活性ガス中で炭化し、炭化物を800〜1000℃で賦活することを特徴とする一酸化窒素用吸着材の製造方法。
(2) イオン交換樹脂の粉末が、ジビニルベンゼンで架橋されたスチレン系イオン交換樹脂の廃樹脂を粉砕したものである上記(1)記載の方法。
(3) バインダーが、石油系ピッチまたはポリビニルアルコールである上記(1)または(2)記載の方法。
(4) 一酸化窒素用吸着材の比表面積が700〜1600m/gである上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の方法。
【0012】
本発明において製造される吸着材により吸着除去の対象となる一酸化窒素は、NOで表される窒素酸化物であり、原ガス中にNO単独で含まれていてもよく、またNO、NOなどの他の窒素酸化物とともに含まれていてもよく、さらに窒素酸化物以外の成分とともに含まれていてもよい。このような一酸化窒素を含む原ガスは、0℃以上60℃以下の温度が好ましいが、120℃までなら、冷却することなく、そのまま吸着除去の対象とすることができる。
【0013】
本発明において製造される一酸化窒素用吸着材は、従来よりも高温で一酸化窒素の吸着性能を有する、強度の高い吸着材である。このため50℃を超える高温でも一酸化窒素の吸着除去が可能であり、被処理ガス冷却のためのエネルギーを節約できる。
【0014】
このような本発明の一酸化窒素用吸着材は、イオン交換樹脂の粉末をバインダーと混合して成型した成型物を、200〜300℃の空気中で焼成し、焼成物を600〜700℃の不活性ガス中で炭化し、炭化物を800〜1000℃で賦活することにより製造することができる。
【0015】
イオン交換樹脂としては、ジビニルベンゼンで架橋されたスチレン系イオン交換樹脂が用いられ、廃樹脂を用いることができる。イオン交換樹脂は陰、陽イオン交換樹脂のいずれでもよいが、陰イオン交換樹脂が好ましく、またゲル状、多孔質状のいずれでもよいが、多孔質状のもの、特にMR型イオン交換樹脂と呼ばれる巨大網目構造(Macro reticular structure)のイオン交換樹脂が好ましい。イオン交換樹脂の粉末としては、これらのイオン交換樹脂を粉砕した粉末が用いられるが、粉砕に先立って100〜200℃、好ましくは100〜150℃、空気雰囲気の条件で乾燥して水分除去し、粉砕したものが好ましい。
【0016】
バインダーとしては、粘結性のものとして、好ましくは石油系ピッチまたはポリビニルアルコールが用いられ、これらのバインダーをイオン交換樹脂の粉末と混合して成型した成型物を焼成し、炭化し、さらに賦活するが、焼成に先立って100〜200℃、好ましくは100〜150℃、空気雰囲気の条件で乾燥して水分除去し、乾燥成型物を焼成し、炭化し、さらに賦活したものが好ましい。
【0017】
吸着材の製造方法をさらに詳細に説明すると、まず原料となるイオン交換樹脂として、例えば廃樹脂を粉末化する。イオン交換樹脂は通常の水処理に用いられた粒状のものをそのまま用いることができる。使用後の廃樹脂を再生することなく、そのまま用いることができるが、樹脂に付着した汚染物などは洗浄により除去しておくのが好ましい。粉末化は湿式粉砕でもよいが、乾式粉砕が好ましい。
【0018】
乾式粉砕は、100〜200℃、好ましくは100〜150℃、空気雰囲気の条件で、10〜30時間、好ましくは12〜24時間乾燥して水分除去し、粉砕する。乾燥した原料のイオン交換樹脂は、乾燥状態で粉砕して粉末とすることができる。粉砕の手段は限定されず、一般的な粉砕機を用いて粉末化することができる。粉末の粒径は0.2mm以下、好ましくは0.1mm以下、含水率は5%以下、好ましくは1%以下とすることができる。粒径の下限は限定されず、一般的な粉砕機で粉砕される範囲でよい。
【0019】
原料のイオン交換樹脂を粉砕して得られたイオン交換樹脂粉末を、バインダーと混合して成型し、成型物とする。バインダーはイオン交換樹脂粉末を結合して塊状に成型できる粘結性のものであればよいが、200〜300℃の空気中で焼成したときに強固な焼成物を形成できる有機系のものが好ましく、特に石油系ピッチまたはポリビニルアルコールを用いるのが好ましい。石油系ピッチとしては、石油または石油製品から得られるピッチであればよく、特にストレートアスファルトが好ましい。ポリビニルアルコールとしては重合度200〜3000、好ましくは300〜2000のものが好ましい。
【0020】
イオン交換樹脂粉末に対するバインダーの量は粘結による成型ができる量であればよく、イオン交換樹脂粉末の粒径や形状、ならびにバインダーの種類等により異なるが、一般的にはイオン交換樹脂粉末とバインダーの合計量100重量部中、石油系ピッチの場合5〜15重量部、好ましくは7〜12重量部、ポリビニルアルコールの場合1〜10重量部、好ましくは2〜7重量部とすることができる。バインダーはそのまま、または溶媒に溶かして混合することができる。溶媒としては、石油系ピッチの場合はケロシン等の有機溶媒、ポリビニルアルコールの場合は水などを用いることができ、その量は成型に必要な量とすることができる。
【0021】
イオン交換樹脂粉末をバインダーと混合し、成型する手段も限定されず、成型物の形状、大きさ等に応じて任意に選択することができる。成型物の形状としては、球形、筒形、ペレット状、不定形など、一酸化窒素の吸着処理に適した形状とすることができる。成型物の大きさとしては、一酸化窒素の吸着処理に適した大きさとすることができるが、一般的には直径5〜30mm、好ましくは5〜10mmで、高さ5〜30mm、好ましくは5〜10mmの円柱形とすることができる。
【0022】
このようにして成型した成型物を焼成し、炭化し、さらに賦活して吸着材を製造するが、焼成に先立って100〜200℃、好ましくは100〜150℃、空気雰囲気の条件で、10〜30時間、好ましくは12〜24時間乾燥するのが好ましい。この乾燥により溶媒が除去され、成型物は固形の成型状態を維持可能となるが、このままでは崩壊し易いので、乾燥成型物に強度を付与するために焼成し、焼成物をさらに炭化し、賦活する。
【0023】
乾燥成型物の焼成は、200〜300℃、好ましくは220〜280℃の空気中で、1〜10時間、好ましくは3〜5時間維持することにより、強度を付与された強固な焼成物が得られる。焼成の雰囲気は重要であり、空気中で焼成することにより、樹脂成分とバインダー成分が酸素の介在の下に反応して結合するものと推測され、不活性雰囲気での焼成では得られない強度が付与される。
【0024】
焼成物は、600〜700℃、好ましくは620〜680℃の不活性ガス中で0.5〜3時間、好ましくは1〜2時間維持することにより炭化を行う。焼成物を上記温度の不活性ガス中に導入することにより、焼成物の温度が徐々に上昇し、これにより焼成物に含まれる炭素以外の元素が放出され、重量が減少して炭化物が得られる。焼成物に含まれる炭素以外の元素が完全に放出されて炭化物となることにより、重量減少および温度上昇は停止する。不活性ガスとしては窒素ガスが用いられるが、他の不活性ガスであってもよい。
【0025】
炭化物は一般的な賦活方法で賦活することができるが、好ましくは800〜1000℃、特に850〜950℃の炭酸ガス中で、1〜5時間、好ましくは2〜3時間維持することにより、賦活して活性炭を生成させ、これを一酸化窒素の吸着材として用いることができる。賦活に用いる雰囲気は炭酸ガスを主体とするが、水蒸気、その他、通常賦活に用いられるガスを含んでいてもよい。
【0026】
上記によって製造される一酸化窒素用の吸着材は、比表面積が700m/g以上であり、2nm以下の孔径の細孔が主体を占める活性炭である。この吸着材の60℃におけるNO吸着量は0.113〜0.198m/mであり、一般的な活性炭の2.5〜13倍のNO吸着量を有し、一酸化窒素用の吸着材として優れた特性を有する。
【0027】
上記の吸着材は、イオン交換樹脂の粉末をバインダーと混合して成型した成型物を焼成、炭化、賦活して製造するため、強度が高い一酸化窒素用吸着材を効率よく製造できる。特に原料となるイオン交換樹脂は、廃イオン交換樹脂を用いることができるため、低い製造コストで吸着材を製造することができる。
【0028】
本発明において製造される一酸化窒素用吸着材による一酸化窒素の除去方法は、上記の吸着材に、一酸化窒素を含む原ガスを接触させて、原ガスから一酸化窒素を吸着除去する。原ガスは120℃以下の温度の原ガスであっても、有効に一酸化窒素を吸着除去することができるが、60℃以下の温度の原ガスの方が吸着量を多くできるので好ましい。このため50℃を超える高温の原ガスを処理する場合でも、従来のようにガスを冷却する必要はないので、ガス冷却のためのエネルギーを節約できる。また50℃以下の低温の原ガスが供給される場合には、50℃以下の温度でそのまま原ガスを供給して処理することが可能である。このように50℃以下の温度で処理する場合も、吸着した一酸化窒素が脱離しないで吸着性能を高く維持できるため、従来の吸着材よりも一酸化窒素の吸着量が大きくなり、従来の吸着材を使用する場合よりも有利である。
【0029】
一酸化窒素を除去するための具体的な手段は、従来のものと同様であり、一般的には吸着塔に吸着材を充填し、原ガスを吸着材の充填層に通過させて一酸化窒素を吸着除去する方法が一般的であるが、他の方法でもよい。原ガスとしては、工場等から排出される燃焼排ガスや自動車排ガス等の排ガスのほか、環境、大気中に存在する一酸化窒素含有ガスなどがあげられるが、これらの排ガス処理系に組み込んで処理を行うことができる。
【0030】
一酸化窒素を吸着した吸着材は、熱サイクル、圧力サイクル等の一般的な活性炭と同様の再生方法で再生し、繰り返し使用が可能である。熱サイクルの場合、50〜300℃、好ましくは100〜250℃に加熱することにより、吸着した一酸化窒素を脱着させることができ、キャリヤガスを送ることにより吸着剤層から排出することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の一酸化窒素の吸着材の製造方法によれば、イオン交換樹脂の粉末をバインダーと混合して成型した成型物を、200〜300℃の空気中で焼成し、600〜700℃の不活性ガス中で炭化し、さらに800〜1000℃の炭酸ガス中で賦活することにより、従来よりも高温で一酸化窒素の吸着性能を有する、強度が高い一酸化窒素用吸着材を、効率よく、低い製造コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例1の炭化工程における焼成物の重量および温度の経時変化を示すグラフである。
【図2】比較例1の炭化工程における焼成物の重量および温度の経時変化を示すグラフである。
【図3】実施例1の賦活物、ならびに比較例3の細孔径の分布を示すグラフである。
【図4】実施例1と比較例3の水蒸気の吸着特性を示すグラフである。
【図5】実施例1における吸着材(賦活物)のNO吸着特性(吸着曲線)を示すグラフである。
【図6】実施例1のNOの脱離特性を示すグラフである。
【図7】参考例1の焼成工程の重量および温度の経時変化を示すグラフである。
【図8】参考例2の焼成工程の重量および温度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態を実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【実施例】
【0034】
〔実施例1〕:
発電所等で使用されているMR型陰イオン交換樹脂であるアンバーライトIRA900CP(ロームアンドハース社製、商品名)の廃樹脂を未再生の状態で、110℃で24時間乾燥させ、ミルにより微細に粉砕し、バインダーと混合した。ここでバインダーとして石油系ピッチ(ストレートアスファルト)10重量部に、ケロシン5重量部を加え、粉砕樹脂90重量部と均一混合した。その後、110℃で12時間乾燥させ、4〜5tで圧縮して直径10mm、高さ10mmの円柱形に成型したところ、成型性は良好であった。成型後さらに110℃で12時間乾燥した。乾燥後、引き続き250℃の空気中で4時間維持して焼成し、焼成物を650℃の窒素ガス中で1時間維持して炭化し、炭化物を900℃の炭酸ガス中で2時間維持して賦活し吸着材を製造した。
【0035】
得られた吸着材は硬く、収率は25.9重量%であった。ここで収率は、処理前の重量と比較して、調製試料の重量より下記の式(1)で求めた。式(1)中、(処理前の重量)は、炭化・賦活等の処理前の重量を表し、(調製試料の重量)は、炭化もしくは賦活後の重量を表す。
収率(重量%)=〔(調製試料の重量)/(処理前の重量)〕×100・・・・(1)
【0036】
上記実施例1の炭化工程における試料の重量および温度の経時変化を図1に示す。
図1中、左の縦軸は試料の重量を示し、右の縦軸は温度を示しており、温度の変化による試料の重量減少を示す図である。
原料にバインダーを添加し、空気中250℃で4時間焼成した試料を、窒素ガス中で徐々に昇温し、炭化工程を進めた場合の重量変化を示している。この図より、温度が約100℃から約350℃までは重量の変化は認められていない。約350℃から重量が減量し、温度が約650℃になるまでこの現象が継続している(図中Aの範囲)。650℃まで重量変化が認められたことは、試料が反応していることを示しており、窒素ガス中での炭化工程が吸着材の安定化と不溶化を促進していることを示している。
後述の比較例1(空気の替わりに窒素ガス中で焼成工程を行った例)の結果を図2に示す。
原料にバインダーを添加し、窒素ガス中250℃で4時間焼成した試料を、窒素ガス中で徐々に昇温し、炭化工程を進めた場合の重量変化を示している。この図より、温度が約100℃から約350℃までは重量の変化は認められていない。約350℃から重量が減量し、温度が約600℃になるまでこの現象が継続している(図中Bの範囲)。600℃まで重量変化が認められたことは、試料が反応していることを示しており、窒素ガス中での炭化工程では安定化・不溶化が、空気中で焼成した場合と比較して進行しないことを示している。
実施例1の空気中での焼成工程は、炭化時に650℃の高温まで重量変化していることと、その後の炭酸ガス中での賦活後の吸着材は硬質化しており、さらに比較例1の収率20.3%と比べると28.1%と高い結果である。よって、吸着材の硬質化と収率の向上のためには、空気中での焼成工程、窒素ガス中での炭化工程、炭酸ガスでの賦活工程が有効な手法であることを示している。
ここで、調製した試料の量が異なるため、異なる重量で表示されている。
後述の図7、8に示す参考例1、2(前乾燥、粉砕、バインダー混合、成型のない例)の場合と比較しても、有効な手法であることを示している。
【0037】
吸着材の特性として、吸着材の比表面積を、BET法で測定される液体窒素の沸点(−196℃)における窒素吸着量から求めたところ、実施例1における賦活前の炭化物の比表面積は427m/gであったのに対し、賦活後の吸着材は986m/gであった。このことから賦活により比表面積が増大することが分かる。
【0038】
吸着材の特性としての細孔分布を、窒素ガスを加圧することにより細孔内に圧入される窒素ガスの体積を求め、その体積と圧力の関係より細孔径の分布を調査した。実施例1の賦活物について、細孔径の分布を調査した結果を、後述の比較例3(ヤシガラ活性炭)の結果とともに図3に示す。図3より、実施例1の賦活物は、細孔径は2nm以下の細孔径がほとんど占めていた。
【0039】
以上のことから実施例1のものは比較例3(ヤシガラ活性炭)よりも比表面積が大で、微細な細孔も発達していることが分かる。このように微細な細孔が発達していることにより、原子半径および原子間隔が小さいNOの吸着特性が優れることが推測される。また炭化後と賦活後の比表面積を比較すると、427m/gから986m/gに増加しているので、賦活処理は有効であることが分かる。このような比表面積の増加は、微細な細孔の数が増加していることを示している。
実施例1の吸着材は比表面積が大で、2nm未満の細孔を多く有するので、NOの吸着特性も増加することが推測される。
【0040】
実施例1の吸着材の水蒸気の吸着特性を、比較例3(ヤシガラ活性炭)と比較した結果を図4に示す。試験方法は試料に水蒸気を供給し、圧力を上昇させて吸着させ、その後減圧により圧力を低下させて脱離させて試験した。図4において、実施例1の吸着材が水蒸気を吸着することは、他のガスも吸着することが示されているが、実施例1の吸着材は比較例3(ヤシガラ活性炭)より水蒸気の吸着性は低い。このことは調製できた吸着材の表面がより疎水性であり、水分吸着によるNOガス吸着阻害が低い性状であることを示している。
【0041】
吸着材の一酸化窒素に対する吸着特性を調べるために、内径12mmの円筒形カラムに1mLの吸着材を充填し、被処理ガスとしてNO:25ppm、O:5%、CO:14%、HO:10%、N:残部、温度60℃の原ガスをSV12000h−1で通過させて吸着を行った。このときの吸着材(賦活物)の経時的なNO吸着特性(吸着曲線)を図5に示す。図5より、被処理ガス中にO、CO、HO、N等の他のガスが含まれている場合でも、NOに対する吸着性能に優れることが分かる。
【0042】
実施例1において、処理ガスが原ガスと同組成となって飽和した後、温度を50℃から300℃まで徐々に上昇させてNOを脱離させ、吸着材単位容積当りのNO吸着量を求めた。実施例1の吸着材のNO吸着量は0.198m/mであった。このときNO吸着後の吸着材を対象に50℃から徐々に温度を上げ、NOの脱離特性を調査した結果を図6に示す。図6より、吸着したNOは50〜300℃で脱離し、特に100〜250℃の範囲で効率的に脱離することがわかる。また図6では、60〜120℃の範囲でNOの脱離が少ないことが示されているが、これはこの温度範囲でNOが吸着されることを示している。また図6では、60〜120℃の範囲でNOの脱離が低い値でなだらかに延びており、60℃以下でも吸着が可能なことを示している。
【0043】
上記の実施例1の条件および結果を、後述の参考例1、2(前乾燥、粉砕、バインダー混合、成型のない例)のものとともに表1に示す。
【0044】
【表1】

※ P:石油系ピッチ,K:ケロシン
※ P10:石油系ピッチ10重量部を示す。
【0045】
〔参考例1、2〕:
実施例1において、前乾燥、粉砕、バインダー混合、成型を行うことなく、樹脂単体を空気中で、実施例1と同条件で焼成した焼成物(参考例1)の重量および温度の経時変化を図7に、ならびに前乾燥、粉砕、バインダー混合、成型を行うことなく、樹脂単体を窒素ガス中で、実施例1と同条件で焼成した焼成物(参考例2)の重量および温度の経時変化を図8に示す。図7、8中、左の縦軸は試料の重量を示すが、調製した試料の量が異なるため、異なる重量で表示されている。図8において、樹脂単体を窒素ガス中で4時間焼成した試料(参考例2)は炭化時に500℃まで重量変化が認められたが、図7の空気焼成した試料(参考例1)は、窒素ガス雰囲気で処理するよりも炭化時に高温(600℃)まで重量変化が認められた。これは250℃空気中で焼成した試料が炭化時に高温部C、Dにおいて重量が減少していることから、高温(600℃)まで熱分解が進んでいることを示しており、見掛け上材料が安定化し、不溶化が進行していることが分かる。以上の結果より、廃樹脂を空気中で焼成することにより不溶化が進行し、吸着材に必要な特性が得られることが推測できる。しかし参考例1および2の試料は脆く、いずれも指で軽くつまむとすぐに崩壊する程度の強度しか有していなかった。このことから吸着材に必要な強度を得るためには、樹脂を前乾燥、粉砕、バインダー混合、成型した後に、炭化、賦活する必要があることが分かる。
【0046】
〔実施例2〕:
実施例1において、バインダーとして石油系ピッチ7.5重量部、ケロシン5重量部、樹脂90重量部を用いたほかは実施例1と同様に成型したところ、成型性は良好であり、得られた吸着材の比表面積は780m/g、NO吸着量は0.171m/mであった。
【0047】
上記の実施例2の条件および結果を、後述の実施例3、4(バインダーとしてポリビニルアルコールを用いた例)のものとともに表2に示す。
【0048】
【表2】

※ P:石油系ピッチ,K:ケロシン,PVA:ポリビニルアルコール
※ P10:石油系ピッチ10重量部を示す。
【0049】
〔実施例3〕:
実施例1において、バインダーとして重合度500のポリビニルアルコール3重量部、水5重量部、樹脂97重量部を用いたほかは実施例1と同様に成型したところ、成型物は比較的脆く、得られた吸着材の比表面積は1511m/g、NO吸着量は0.113m/mであった。
【0050】
〔実施例4〕:
実施例1において、バインダーとして重合度1500のポリビニルアルコール5重量部、水5重量部、樹脂95重量部を用いたほかは実施例1と同様に成型したところ、成型性は可能であり、得られた吸着材の比表面積は899m/g、NO吸着量は0.128m/mであった。
【0051】
〔比較例1〕:
実施例1において、空気の替わりに窒素ガス中で焼成する以外は同様に行った。上記比較例1の焼成工程における焼成物の重量および温度の経時変化を図2に示す。比較例1はバインダーを添加することにより、炭化時にさらに高温(650℃)の高温部(図2のB)まで重量変化が認められているので、前述の図7,8に示す参考例1、2(前乾燥、粉砕、バインダー混合、成型のない例)の場合よりも、安定、不溶化がさらに促進されているが、得られた吸着材は脆く、収率は20.3重量%と低かった。また実施例1と同様にしてNO吸着量を求めたところ、NO吸着量は0.043m/mであり、実施例1より低かった。
【0052】
上記比較例1の条件および結果を、後述の比較例2(焼成を行わない例)および比較例4(重油フライアッシュ系活性炭の例)のものとともに表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
〔比較例2〕:
実施例1において、焼成工程を行わなかった吸着材は脆く、収率は11.7重量%であり、実施例1より低かった。よって乾燥後、空気中で焼成後、炭化処理を採用することにより、効率よく吸着材が得られることが分かる。
【0055】
〔比較例3〕:
比較例3として、市販のヤシガラ活性炭(和光純薬工業(株)製、034−02125)について、細孔径の分布を調査した結果を図3に示す。図3より、比較例3のヤシガラ活性炭は2nm未満の細孔を有していないことが示されている。また比較例3のヤシガラ活性炭の水蒸気の吸着特性を図4に示す。さらに比較例3のヤシガラ活性炭を用いて、実施例1と同様にしてNO吸着量を求めたところ、NO吸着量は0.037m/mであり、実施例のものより低かった。
【0056】
〔比較例4〕:
比較例4として、石油系ピッチ(ストレートアスファルト)10重量部に、ケロシン5重量部を加え、重油フライアッシュ60重量部と均一混合し、実施例1と同様に乾燥、成型、焼成した重油フライアッシュ系活性炭を用いて、実施例1と同様にしてNO吸着量を求めたところ、NO吸着量は0.013m/mであり、実施例のものより低かった。
【0057】
以上の結果より、実施例の吸着材の一酸化窒素NOの吸着量は0.113〜0.198m/mであり、NOは60℃以下、SV:12,000h−1の条件でも吸着可能であり、また吸着したNOは50〜300℃で脱離可能であり、特に100〜250℃で効率的に脱離することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、工場等から排出される燃焼排ガスや自動車排ガスなどのガス中に含まれる一酸化窒素を除去するための一酸化窒素の吸着材を製造する方法、特にイオン交換樹脂から、従来よりも高温で一酸化窒素の吸着性能を有する一酸化窒素用吸着材を製造する方法として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換樹脂の粉末をバインダーと混合して成型した成型物を、200〜300℃の空気中で焼成し、焼成物を600〜700℃の不活性ガス中で炭化し、炭化物を800〜1000℃で賦活することを特徴とする一酸化窒素用吸着材の製造方法。
【請求項2】
イオン交換樹脂の粉末が、ジビニルベンゼンで架橋されたスチレン系イオン交換樹脂の廃樹脂を粉砕したものである請求項1記載の方法。
【請求項3】
バインダーが、石油系ピッチまたはポリビニルアルコールである請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
一酸化窒素用吸着材の比表面積が700〜1600m/gである請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−147895(P2011−147895A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12071(P2010−12071)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【出願人】(390027188)栗田エンジニアリング株式会社 (26)
【Fターム(参考)】