説明

丈夫な超多孔性ヒドロゲルの形成技術

【課題】物理的および機械的な特性を改良した超多孔性ヒドロゲルの形成方法の提供。
【解決手段】イオン平衡技術を用いて超多孔性ヒドロゲルを形成する。ヒドロゲル反応混合物の中にアニオン多糖類が含まれ、ヒドロゲルを形成する間あるいは形成後にカチオンを入れる。形成したヒドロゲルの特性を調整するため、ついで、カチオン複合体ゲルを平衡条件下で異なるカチオンあるいはカチオン混合物で処理する。カチオンと平衡条件下で反応させた超多孔性ヒドロゲルは、大きな吸収特性をもち、しかもまた、好ましい構造上の特性(強度、堅固、弾性)をもつ。また、適正な脱水処理を行うことにより、超多孔性ヒドロゲルをさらに安定化させることができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
この発明は、物理的および機械的な特性を改良した超多孔性ヒドロゲルの形成技術に関する。
【0002】
超多孔性ヒドロゲル(SPH)は、化学的に架橋結合した親水性ポリマーであり、マイクロメータからミリメータの範囲の直径をもつ多数の細孔を含み、それらの細孔によって、本のわずかの間にその10倍の重さの水(流体)を吸収する。SPH細孔は、ヒドロゲルマトリックス(組織)の中に相互に連結(あるいは、連絡)されている。その相互の連結によって、吸収水(流体)は通路(毛細管)を通して自由に動くことができ、同じ膨張度をもつ一般のヒドロゲルよりもはるかに速く膨張する。
【0003】
超多孔性ヒドロゲルを調製するとき、モノマー、架橋剤、溶剤(通常は水)、界面活性剤(気泡安定化のため)、および発泡助剤をまず混合し、その後反応開始剤を加える。そして、その混合物に発泡剤を添加し、たとえば炭酸ガスなどの気泡を発生させる。反応開始剤および発泡剤を加えると、発泡および重合(ゲル化ともいう)のプロセスが同時に起きる。重合が進むにつれて、反応混合物の粘度が増し、生成する気泡が高粘性のポリマー組織の内部に捕らえられる。ゲル化と気泡の発生とが同時に起こる結果、それらの両プロセスが止まるまで、発泡が続く。この段階において、製品はフレキシブルなフォーム(発泡体)の形態である。残留モノマー、未反応の架橋剤、および反応開始剤の不純物を取り除くため、そのフレキシブルなフォームを水で充分に洗浄する。この洗浄プロセスの後、水相溶性(混和性)のアルコール(たとえば、エタノール)を加えてからそれを除去し、
ヒドロゲルを脱水する。最終の乾燥工程は、通常オーブン中、好ましくは、低温度の真空オーブン中で行う。米国特許第6,271,278号は、各種のSPHの調製について詳しく示している。SPHについては、また、チェエンほかがJ. Biomed. Mater. Res. 44:53-62(1999)で示している。
【0004】
超多孔性ヒドロゲルは、一般に、親水性モノマーに基づいて調製される。その親水性モノマーとしては、アクリル酸およびその塩、アクリルアミド、スルフォプロピルアクリレイトのカリウム塩、ヒドロキシエチルアクリレイト、およびヒドロキシエチルメタアクリレイトがある。好ましい超多孔性ヒドロゲルは、大きな溶媒吸収特性をもち、さらに、外力(たとえば、張力、圧縮、および曲げ)に耐えることができる。ヒドロゲルの中には、膨張容量および膨張速度の両特性が好ましいものも調製されている。しかしながら、非常に大きな膨張特性を示す超多孔性ヒドロゲルは、通常、膨張すると非常に締まりがなく、小さな圧力で容易にばらばらに壊れる。また、ヒドロゲルの中には、ある程度の機械的特性(たとえば、強度、堅固、弾性)をもったものが調製されている。しかし、高い強度をもつ超多孔性ヒドロゲルは、限られた量の水を吸収するだけで、膨張特性が好ましくない。水による膨張性と機械的な特性との両特性を併せもつヒドロゲルを得るための調製方法は、今まで未解決である。
【発明の開示】
【発明のサマリ−】
【0005】
この発明は、超多孔性ヒドロゲル(SPH)の調製方法に特徴があり、その結果として生じる物理的および機械的な特性を、割合に簡単なイオン平衡(ion-equilibration)プロセスを用いることによって制御し、それによって、大きな吸収性をもつ上に、構造的に丈夫で弾力性がある超多孔性ヒドロゲルを得る。
【0006】
第1の見方からすれば、この発明は、特定の工程を含むヒドロゲルの形成方法に特徴がある。その工程には、(a)少なくとも一つのエチレン不飽和モノマー、架橋剤、およびイオン多糖類を組み合わせて混合物を形成する工程、(b)その混合物を重合条件にさらし、ヒドロゲルを形成する工程、および(c)そのヒドロゲルを平衡条件下で1または2以上のカチオンと反応させる工程(この場合、少なくとも一つのカチオンとして工程(a)で用いなかったものを用いるか、あるいは、工程(a)および(c)でカチオンの同じ混合物を用いるときには、それらの工程で用いるカチオンの割合を異ならせる)を含む。この方法で形成するヒドロゲルとしては、超多孔性ヒドロゲルが好ましい。
【0007】
一つの実施例において、混合物には、希釈剤、発泡安定剤、発泡助剤、還元剤(リダクタント)、酸化剤(オキシダント)および膨張剤(発泡剤)から構成されるグループの中の1または2以上のものを含む。好ましい混合物は、このグループのすべてのものを含む。
【0008】
もう一つの実施例では、工程(a)で用いるカチオンの少なくとも一つが1価であり、そして、工程(c)で用いるカチオンの少なくとも一つが2価である。好ましい1価のカチオンはNa,K,NHであり、また、好ましい2価のカチオンはCa2+ ,Mg2+ ,Ba2+ ,Cu2+ ,Zn2+ ,Mn2+ ,あるいはFe2+ である。
【0009】
さらに他の実施例では、工程(c)で形成した超多孔性ヒドロゲル(SPH)を1または2以上のカチオンと平衡条件下で反応させる付加的な工程を含む(その場合、工程(c)で用いなかった少なくとも一つのカチオンを用いるか、あるいは、工程(c)でカチオンの同じ混合物を用いるときには、この付加工程で用いるカチオンの割合を異ならせる)。好ましくは、付加工程で、ヒドロゲルとCa2+ ,Cu2+ ,Zn2+ ,Ba2+ ,Mg2+ ,Mn2+ ,Fe2+ ,Fe3+ ,Cr3+ ,Al3+ ,あるいはCe4+ との反応を含む。最も好ましくは、工程(c)で形成した超多孔性ヒドロゲル(SPH)と反応させるカチオンの少なくとも一つが、3価あるいはそれより大きな原始価をもつことである。
【0010】
この発明の多糖類としては、たとえば、カルボキシメチルセルロース、アルジネート、ヒアルロン酸、スターチグリコール酸塩(starch glycolate)、カルボキシメチルスターチ、硫酸デキストラン、ペクチネート(pectinate)、キサンタン、カラギーナン、およびキトサンがある。
【0011】
この発明のエチレン不飽和モノマーとしては、たとえば、メチル化(meth)アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)、N−シクロプロピルアクリルアミド、ジアリルジメチル塩化アンモニウム(DADMAC)、2−メタクリロルオキシエチル トリメチル塩化アンモニウム、N,N−ジメチルアミノエチル アクリレイト、2−ヒドロキシエチルアクリレイト(HEA)、2−ヒドロキシエチル メタクリエイト(HEMA)、 2−ヒドロキシプロピル メタクリレイト(HPMA)、N−ビニル ピロリドン(VP)、メチル化(meth)アクリル酸(AA)、メチル化(meth)アクリル酸の塩、メチル化(meth)アクリル酸のエステルの塩および酸、メチル化(meth)アクリル酸のアミド化合物、メチル化(meth)アクリル酸の N−アルキル アミド化合物、メチル化(meth)アクリル酸の N−アルキル アミド化合物の塩および酸、イタコン酸、2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルフォン酸(AMPS)、3−スルフォプロピル アクリレイト カリウム塩(SPAK)、3−スルフォプロピル メタクリレイト カリウム塩、あるいは2−(アクリロイル)エチルトリメチル−硫酸メチルアンモニウム(ATMS)がある。ヒドロゲルの形成に用いる混合物に、エチレン不飽和モノマーとして2−ヒドロキシエチルアクリレイトを含むのが好ましい。
【0012】
この発明の架橋剤としては、たとえば、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−エチレンビスアクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)ジメチル化(meth)アクリレイト、エチレングリコール ジメチル化(meth)アクリレイト、エチレングリコール ジグリシジル エーテル、グリシジル メタクリレイト、ポリアミドアミン エピクロロヒドリン 樹脂、トリメチロールプロパン トリアクリレイト(TMPTA)、ピペラジン ジアクリルアミド、グルタルアルデヒド、エピクロロヒドリン、1または2以上の1,2−ジオール構造を含む架橋剤、1または2以上の機能化ペプチドを含む架橋剤、あるいは1または2以上の機能化タンパク質を含む架橋剤がある。ヒドロゲルの形成に用いる混合物に、架橋剤としてポリ(エチレングリコール)ジアクリレイトを含むのが好ましい。
【0013】
第2の見方からすれば、この発明は、凍結乾燥によってヒドロゲル(好ましくは、超多孔性ヒドロゲル)を脱水する方法に特徴がある。その方法は、0.005〜0.1の水/SPHの重量比を得る。一つの実施例において、その脱水方法は、(a)超多孔性ヒドロゲルを約3℃/1時間の冷却速度で約−10℃に凍結する工程、(b)その超多孔性ヒドロゲルを16〜24時間約−10℃に保つ工程、(c)その超多孔性ヒドロゲルを約−10℃で、しかも約0.2Torr(トル)以下で60〜80時間凍結乾燥する工程、(d)その超多孔性ヒドロゲルを約3℃/1時間の速度で10℃まで温度上昇させる工程、および(e)その超多孔性ヒドロゲルを10℃で、しかも約200mTorr以下で少なくとも12時間保つ工程を含む。この観点からの他の実施例では、超多孔性ヒドロゲルをこの発明を適用して調製している。
【0014】
関連する見方において、この発明は、0.005〜0.1の水/SPHの重量比を得るため、ヒドロゲル(好ましくは、超多孔性ヒドロゲル)を脱水する方法に特徴があり、次の各工程を含む。すなわち、(a)ヒドロゲルに含有する水を非水溶媒、水混和性溶媒あるいは溶媒混合物と置換する工程、および(b)前記の非水溶媒あるいは溶媒混合物を50Torr以下の圧力あるいは加熱することによって除去する工程を含む。ある実施例では、非水溶媒は、たとえば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、蟻酸、酢酸、アセトニトリル、ニトロメタン、アセトン、あるいは2−ブタノンである。好ましくは、非水溶媒がエタノールを含むのが良い。他の実施例では、超多孔性ヒドロゲルをこの発明を適用して調製している。
【0015】
この発明によって脱水した超多孔性ヒドロゲルに、薬剤、栄養物質、あるいは受精媒介物を含ませることができ、形態としては、フィルム、シート、粒子、細粒、繊維、ロッド、あるいはチューブがある。好ましくは、その脱水した超多孔性ヒドロゲルにこれらの物質が徐放性をもって放出されるようにすると良い。
【0016】
「架橋剤」とは、組織(マトリックス)を形成するとき、他の基質(substrate)に化学結合することができる分子を意味する。
【0017】
「単糖類」とは、炭素原子が3〜10あるいはそれ以上で、アルデヒド群(たとえば、アルドース)あるいはケトン群(たとえば、ケトース)のいずれか、またはマスクドアルデヒドあるいはケトン群、あるいはそれらの誘導体を意味する。単糖類単位の例として、グリセルアルデヒド、エリトロース、スレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、ジヒドロキシアセトン、エリトロロース、リブロース、キシルロース、パスコース、フルクトース、ソルボース、および/またはタガトースがある。単糖類の例には、また、たとえばフコース、ラムノースおよびジギトキソースのような単糖類デオキシ糖、たとえばグルコサミン、マンノサミン、ガラクトサミンのようなデオキシアミノ糖、たとえばN−アセチルグルコサミン、N−アセチルマンノサミン、N−アセチルガラクトサミンのようなデオキシアシルアミノ糖、ならびに、たとえばグルコン酸あるいはグルクロン酸のようなアルドン酸、アルダリン酸および/またはウロン酸がある。単糖類には、さらに、アルコルビン酸、アミノ酸を伴う単糖類、および脂質、ホスファチジン酸あるいはポリオール残基を伴う単糖類がある。
【0018】
「ペプチド」とは、2〜100の天然あるいは天然でないアミノ酸残基を含み、そのアミノ酸残基があるアミノ酸のカルボキシル基とその隣りのアミノ基との間のアミド結合で結ばれている分子を意味する。架橋剤に言及するとき、「機能化ペプチド」とは、架橋反応を実行する上でふさわしい少なくとも2つの基をもつようなペプチドを指す。それらの基には、オレフィン、カルボニル、エステル、ハロゲン化アシル、ハロゲン化アルキルおよびその他の同種のものがある。
【0019】
「タンパク質」とは、100より大きな天然あるいは天然でないアミノ酸残基を含み、そのアミノ酸残基があるアミノ酸のカルボキシル基とその隣りのアミノ基から構成されるアミド結合で結ばれている分子を意味する。架橋剤に言及するとき、「機能化タンパク質」とは、架橋反応を実行する上でふさわしい少なくとも2つの基をもつようなタンパク質を指す。それらの基には、オレフィン、カルボニル、エステル、ハロゲン化アシル、ハロゲン化アルキルおよびその他の同種のものがある。
【0020】
「多糖類」とは、単糖類のいずれかのポリマー、あるいは単糖類ポリマーの混合物、あるいはその中の塩類を含み、そして二糖、オリゴ糖その他を含むことを意味する。多糖類には、デンプン、カラギーナン、キサンタン、デキストラン、セルロース、キトサン、グリコーゲン、ヒアルロン酸、アルギン酸、ペクチンおよびグリコシルアミノグリカンがある。この発明の多糖類は、変更せずに用いることができるし、一部を変更して用いることができる。ここで用いる多糖類は、それらの両方を含む。変更多糖類とは、たとえばエステル化、エーテル化、グラフト化(枝状結合)、酸化、酸加水分解、架橋結合、および/または酵素転化などの今までの定型的なプロセスによって多糖類を誘導したり(化学変化で誘導体を生成)、変更したものを意味する。一般に、変更多糖類には、たとえばジカルボン酸のアセテートおよび半エステル、特にはアルケニルコハク酸のようなエステル、また、たとえばヒドロキシエチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、および疎水性カチオンエポキシドと反応したデンプンのようなエーテル、次亜塩素酸塩で酸化したデンプン、さらに、たとえばオキシ塩化リン、エピクロロヒドリン、あるいは正リン酸ナトリウム、正リン酸カリウム、トリポリリン酸塩およびそれらの組合わせとの反応によって得るリンエステル誘導体のような架橋剤と反応したデンプンがある。これらおよび一般に受け入れられている他のデンプンの変更について、たとえばデンプン:化学と技術、第2版、編者ウィスラー、ビミラーおよびパスカル、Academic Press(アカデミック プレス)、1984年、第X章のような刊行物に記載されている。
【0021】
「ヒドロゲル」とは、水に溶けないが、水の存在で平衡する大きさまで膨張する、架橋ポリマーネットワークを意味する。
【0022】
「超多孔性ヒドロゲル」とは、相互に連絡する細孔をもつヒドロゲルを意味する。
【発明の詳細な説明】
【0023】
この発明の超多孔性ヒドロゲルを調製するため、エチレン不飽和モノマーにいくつかの材料(成分)を混合する。それらの材料には、重合反応における架橋剤、およびある量のイオン多糖類が含まれる。その混合物には、また、1または2以上のコモノマー、希釈剤、界面活性剤、発泡助剤、反応開始剤、および発泡剤を含めることができる。その混合物を重合するために、当業者に知られたいずれの方法をも用いることができる。オディアンの重合の原理、第3版(1991年)、ワイリー−インターサイエンスが、それを示す。重合技術には、たとえば、溶液、懸濁液、マイクロサスペンション、インバースサスペンション、分散、乳剤(エマルジョン)、マイクロエマルジョン、およびインバースエマルジョンによる重合を含めることができる。
【0024】
この発明の超多孔性ヒドロゲルを作るために用いるエチレン不飽和モノマーとして、メチル化(meth)アクリル酸、メチル化(meth)アクリル酸の塩、メチル化(meth)アクリル酸のエステル、メチル化(meth)アクリル酸のエステルの塩および酸、メチル化(meth)アクリル酸のアミド化合物、メチル化(meth)アクリル酸の N−アルキル アミド化合物、メチル化(meth)アクリル酸の N−アルキル アミド化合物の塩および酸、N−ビニルピロリドン、アクリルアミド、アクリルアミド誘導体(たとえば、N−1−プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド)、メタクリルアミド、メタクリルアミド誘導体(N−シクロプロピルメタクリルアミド)、およびその他の同種のもの、ならびにその混合物がある。好ましいモノマーとしては、アクリルアミド(AM)、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)、2−ヒドロキシエチルアクリレイト(HEA)、2−ヒドロキシエチル メタクリエイト(HEMA)、 2−ヒドロキシプロピル メタクリレイト(HPMA)、N−ビニル ピロリドン(VP)、アクリル酸(AA)、アクリル酸ナトリウム(NaAA)、アクリル酸カリウム(KAA)、アクリル酸アンモニウム(NH)、メタクリル酸およびその塩、N,N−ジメチルアミノエチル アクリレイト、ジアリルジメチル塩化アンモニウム(DADMAC)、2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルフォン酸(AMPS)、3−スルフォプロピル アクリレイト カリウム塩(SPAK)、3−スルフォプロピル メタクリレイト カリウム塩(SPMAK)、2−(アクリロイル)エチルトリメチル−硫酸メチルアンモニウム(ATMS)、その無機塩、あるいはその混合物がある。好ましくは、第1モノマーとして用いるとき、そのモノマー濃度は、全反応混合物容量の約5%〜約50%(容量百分率v/v)であり、第2コモノマーとして用いるとき、そのモノマー濃度は、全反応混合物容量の約0.5%〜約10%(容量百分率v/v)である。最も好ましくは、反応混合物が、第1モノマーとしての2−ヒドロキシエチルアクリレイト(HEA)、コポリマーとしての3−スルフォプロピル アクリルレイト カリウム塩の50%(重量百分率w/w)水溶液をそれぞれ4:1(容量百分率v/v)の割合で含み、それら2つを組み合わせた容量が全反応混合物の容量の約23%(容量百分率v/v)になる場合である。
【0025】
架橋剤(架橋物質)として、グルタルアルデヒド、エピクロロヒドリン、ならびに、1,2−ジオール構造(たとえば、N,N’−ジアリルタルタルジアミドおよびエチレン グリコール ジメタクリレイト)、機能化ペプチドおよびタンパク質(たとえば、ビニル基で変更したアルブミン)、エチレン グリコール ジメチル化(meth)アクリレイト、トリメチロールプロパン トリアクリレイト(TMPTA)、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(BIS)およびピペラジン ジアクリルアミドが入った架橋剤を含む分解可能な架橋物質を用いることができる。少なくとも2つのビニル基を含むマルチオレフィン架橋剤、たとえば、エチレングリコール ジメチル化(meth)アクリレイト、ポリ(エチレングリコール)ジメチル化(meth)アクリレイト、トリメチロールプロパン トリアクリレイト(TMPTA)、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(BIS)、ピペラジン ジアクリルアミド、1,2−ジオール構造および2つのビニル基を含む架橋剤(たとえば、N,N’−ジアリルタルタルジアミドおよびエチレン グリコール ジメタクリレイト)が好ましい。最も好ましい架橋剤は、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレイトである。また、好ましい架橋剤/モノマーの割合(容量百分率v/v)は、約0.01/100から約1/10である。最も好ましい架橋剤/モノマーの割合(容量百分率v/v)は、約1/100から約1/10である。
【0026】
ヒドロゲルを調製するとき、物理的あるいは化学的な方法によって、発泡作用(あるいは起泡作用)の安定化を図る。たとえば、急冷あるいは熱乾燥(たとえば、不活性雰囲気の下高温での気流乾燥)プロセスを用いることによって、発泡技術で形成する泡を安定化させる。望ましくは、界面活性剤を用いることによって、ゲル化プロセスが始まるまで泡を安定化させる。有用な界面活性剤として、トリトン界面活性剤、トウィーンおよびスパン界面活性剤、プルロニック(商品名)界面活性剤(ポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)−ポリ(エチレンオキシド)トリ−ブロック共重合体)(BASF)、シルウエット(商品名)界面活性剤(オーエスアイ スペシャリティーズ インコーポレイテッド)、ドデシル硫酸ナトリウム(バイオ−ラッド ラボラトリーズ)、アルブミン(シグマ ケミカル カンパニー)、ゼラチン、あるいはそれらの組合わせがある。好ましくは、プルロニック(商品名)F127(PF127)を用いる。界面活性剤の濃度は、全溶液の約0.2%〜約2%(重量対容量比百分率w/v)の範囲が適切であることが判明している。好ましい界面活性剤の濃度範囲は、約0.4%〜約1%(重量対容量比百分率w/v)である。最も好ましい界面活性剤の濃度は、約0.7%(重量対容量比百分率w/v)である。
【0027】
いずれかの発泡技術(たとえば、化学的あるいは物理的)を用いることによって、この発明の超多孔性ヒドロゲルを調製する。これらのヒドロゲルの調製に用いる発泡技術であるため、それらは、また、ヒドロゲル発泡とも呼ばれる。発泡技術によって超多孔性ヒドロゲルを製造するとき、発泡と重合とを同時に起きるようにしなければならず、それらの反応のタイミングを制御することが重要である。発泡剤としては、無機炭酸塩、たとえば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、あるいは最も好ましくは、重炭酸ナトリウムを用いる。超多孔性ヒドロゲルを大規模に製造するために、化学的な発泡方法に代えて1または2以上のアトマイザーにより機械的に発泡することを適用することができる。なぜなら、重合の際に生成する熱が、迅速に散逸しないからである。そういうわけで、反応開始剤をより少量にすることによって、ゲル化の時間を遅らす(たとえば、10分以上)。そして、機械的な発泡は必要な時間いつでも開始することができるので、必要に応じる発泡強度で望む時間に発泡プロセスを開始することができる。
【0028】
重合については、均一系あるいは不均一系の不飽和モノマーの重合に適したいずれかの重合開始方式によって開始することができる。一般的にいうと、この発明によるプロセスで用いる重合方式は、ポリマー化学の分野のいわゆる当業者に知られたものである。この発明を限定するわけではないが、そのような開始剤として好ましいものは、遊離基あるいは遊離基を構成する化合物または混合物であり、たとえば、ヒドロペルオキシド(好ましくは、クミル ヒドロペルオキシドあるいはtert.−ブチル ヒドロペルオキシド)、有機ペルオキシド(好ましくは、ジベンゾイル ペルオキシド、ジラウリル ペルオキシド、ジクミル ペルオキシド、ジ−tert.−ブチル ペルオキシド、メチル エチル ケトン ペルオキシド、tert.−ブチルベンゾイル ペルオキシド、ジイソプロピル ペルオキシドカーボネイト、ジシクロヘキシル ペルオキシドカーボネイト、ジ−tert.−ブチル ペルオキサレイト)、無機ペルオキシド(好ましくは、ペルオキソ硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、あるいは過酸化水素)、アゾ化合物(好ましくは、アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサン ニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)あるいはトリフェニル−メチルアゾベンゼン)、酸化還元(レドックス)系(好ましくは、過酸化物とアミンとの混合物、過酸化物と還元物質との混合物)であり、場合によって、金属塩および/またはキレート剤を入れる。重合開始方式は、単一にすることもできるし、2、3あるいはそれ以上の異なる開始方式を混合した形態にすることもできる。他の実施例では、開始方式の中の部分を固体、液体あるいは気体の形態で別々に反応に加えることができる。この手順は、レドックス開始方式に特に適している。この発明においては、酸化剤と還元剤との好ましい組合わせ(レドックス対)を開始剤として用いる。最も好ましいレドックス対は、ペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS)とN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)との組合わせである。
【0029】
以上の発泡技術で調製した超多孔性ヒドロゲルの細孔の大きさは、通常100μm以上であり、容易にミリメートルの範囲に及ぶ。通常、細孔が大きいので、それらを肉眼で見ることができる。
【0030】
使用するイオン多糖類としては、カチオン/アニオンの正/負の電荷に逆らうことができる負/正の電荷をもつ基を含むどの多糖類をも適用することができる。普通の場合は、超多孔性ヒドロゲル組織をもつイオン多糖類が最初に一次イオンを備え、引き続くイオン−平衡のプロセスにおいてその多糖類が重要な役割を果たす。好ましい多糖類として、カルボキシメチルセルロースナトリウム、デンプングリコラートナトリウム、カルボキシメチルデンプンナトリウム、硫酸デキストラン、キトサン、ヒアルロン酸、キサンタン、カラギーナン、ジェラン、アルギン酸ナトリウム、およびペクチネイトナトリウム(sodium pectinate)を含むリストから選択することができる。最も好ましい多糖類は、カルボキシメチルセルロースナトリウムである。全溶液に対する多糖類の比率は、0.1%〜10%(重量対容量比百分率w/v)の範囲である。最も好ましい範囲は、0.2%〜1.5%(w/v)である。
【0031】
イオン平衡は、基質(substrate)の組織内でイオン交換を生じるプロセスである。その交換プロセスは、原始価が異なるなら(たとえば、1価、2価、3価あるいはそれ以上)、どの種類のイオンとも生じる。たとえば、基質内の2価のカチオンは、3価のカチオンと一部が置き換わることができるし、その逆も同じである。イオン平衡のプロセスが完結すると、その産出物は、2またはそれより多くのカチオンの平衡量を含む。ここに述べた平衡によって、基質の特性がかなり変化することになる。たとえば、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩は水に可溶であるが、カルシウム処理による誘導体は水に不溶である。したがって、単純にナトリウムを部分的にカルシウムイオンと置き換えることによって、最終のポリマーを水にわずかだけ可溶にしたり不溶にしたりする。イオン交換に基づいて基質の特性を大幅に変える一般的なプロセスをも、この発明の超多孔性ヒドロゲル組成に利用することができる。
【0032】
ヒドロゲル基質は初めからイオンを含むことができるし、それを形成した後でイオン化することができる。塩、イオンモノマー、イオンポリマー、あるいはその他の成分が、原始のあるいは一次のカチオンをもつことができる。原始のカチオンは、それが他のカチオン(すなわち、二次)と置き換わらなければならないので、一次と称される。一次と二次との平衡した混合物は、また、第3のカチオン(たとえば、三次のカチオンなど)とも平衡することができる。ヒドロゲルの望ましい特性を得るため、イオン平衡プロセスをたくさんの異なるカチオンによって繰り返し行う。単なる塩、イオンモノマー、イオンポリマーあるいはその他のイオン源が、二次あるいは三次のカチオンを提供する。イオン平衡プロセスは、水あるいは水/アルコールの混合の媒体中で行うことができ、そこでは各イオンが自由に移動することができる。
【0033】
発泡および重合が完結した後、多糖類含有の超多孔性ヒドロゲルを即座に水あるいは水/アルコールの混合溶液中に入れる。その溶液は、2価のカチオン、3価のカチオン、または2価、3価あるいはそれより大きな価のカチオン(たとえば、セリウム)を含んでいる。好ましい2価のカチオンは、Ca2+ ,Ba2+ ,Mg2+ ,Cu2+ ,Zn2+ ,Mn2+ ,あるいはFe2+ である。最も好ましい2価のカチオンはCa2+ である。通常、1価と2価のカチオン間のイオン交換プロセスは迅速であり、ヒドロゲルが膨張する。イオン交換プロセスの速度は大きいが、そのイオン交換プロセスを確実に完結させるため、処理時間を0.5時間〜24時間の範囲にすることを勧める。付加的な望ましい特性を得るため、イオン平衡した超多孔性ヒドロゲルを三次のカチオンを含む溶液で再処理すると良い。好ましい3価のカチオンは、鉄あるいはアルミニウムである。二次カチオンによる平衡の場合と同様に、超多孔性ヒドロゲルを3価のカチオンを含む媒体に入れると、カチオン平衡が迅速に生じる。イオン交換を確実に完結させるため、ヒドロゲルを溶液中に非周期的な時間、好ましくは、0.5時間〜24時間放置する。イオン平衡したヒドロゲルをその後純水で充分に洗浄し、また、非水の水混和性溶媒で洗浄してから、オーブンあるいは真空オーブン中で乾燥させる。その代わりに、清浄にした超多孔性ヒドロゲルをオーブン/真空オーブン中あるいは凍結乾燥の技術によって乾燥することができる。
【0034】
製造した超多孔性ヒドロゲルの最終の物理的および機械的な特性がイオン平衡プロセスによっていかに大幅に変化するかについて、表1に例を示す。
【0035】
【表1】

【0036】
イオン平衡した超多孔性ヒドロゲルを非水溶媒を用いて脱水するための方法は、(a)連続洗浄によってヒドロゲル組織中の水を非水溶媒、水混和性溶媒あるいは溶媒混合物と置換する工程、および(b)前記の非水溶媒あるいは溶媒混合物を50Torr以下の圧力あるいは加熱することによって除去する工程を含む。非水溶媒には、たとえば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、蟻酸、酢酸、アセトニトリル、ニトロメタン、アセトン、あるいは2−ブタノンである。好ましくは、非水溶媒がエタノールを含むのが良い。凍結乾燥によって超多孔性ヒドロゲルを脱水するとき、好ましい方法は、(a)超多孔性ヒドロゲルのサンプルを約3℃/1時間の冷却速度で約23℃から約−10℃に凍結する工程、(b)そのサンプルを16〜24時間約−10℃に保つ工程、(c)そのサンプルを約−10℃で、しかも約0.2Torr(トル)以下で60〜80時間凍結乾燥する工程、(d)そのサンプルを約3℃/1時間の速度で10℃まで温度上昇させる工程、および(e)そのサンプルを10℃で、しかも約200mTorr以下で少なくとも12時間保つ工程を含む。
【0037】
この発明による脱水した超多孔性ヒドロゲルは、水の流体に接触すると、比較的に大きな大きさまで迅速に膨れる。しかし、その膨れた状態において、依然と機械的な強度を維持している。それらの特性がもつ利点を生かし、これらのヒドロゲルを薬剤放出システム(DDSs)に利用することができる。そのような薬剤放出システムについて、パークほか、「薬剤放出のための生物分解性ヒドロゲル」、Technomic Pub. Co.(テクノミック パブリケーション カンパニー)、あるいは「生物学的適用のためのヒドロゲルおよび生物分解性ポリマー」(ACS シンポジウム シリーズ、627)、1996年、編者オッテンブライトほか、アメリカ化学学会、が示している。
【0038】
多くの薬剤放出システム(DDSs)は、体の特定の位置から特定の期間(時間)にわたって薬物治療物質を放出する。消化管を通る通路を妨害するための追加手段を取ることなく、経口薬を小腸の内壁から吸収するまでは、通常最大10時間が限度である。加えて、いくつかの薬剤は、胃腸管(GI)の一定の領域で(多くは、上部消化管で)優先的に吸収される。それらの場合、薬の吸収を増進するため、上部消化管の中で薬剤放出システムの滞留(胃の保持力)を長くすることが望ましい。この目的のために、他のヒドロゲルもまた用いられている。たとえば、パークほかの米国特許第6,271,278号がそれらを示している。その米国特許を参照によって、ここに組み入れる。
【0039】
薬剤放出に対し、この発明の脱水した超多孔性ヒドロゲルのマトリックス(組織)の内部に徐放システムを与えることができる。これを順々にカプセル(たとえば、ゼラチンカプセル)あるいは胃の酸性状態で浸食される同様な被いシステムの中に入れる。超多孔性ヒドロゲルがもつ胃保持力は、それらの速い膨張特性に基づいている。この発明の超多孔性ヒドロゲルがひとたび胃液に晒されると、通常10倍以下の最大膨張容量(能力)まで
迅速に膨張する。ヒトにそれらを用いるとき、低pH条件で2cm以上の直径まで膨張する超多孔性ヒドロゲルが望ましい。なぜなら、その後それらは幽門括約筋を通過することができず、胃の中で長く滞留し上部消化管を通して薬を良く吸収するからである。
【0040】
薬剤放出のほかにも、この発明のヒドロゲルは、いろいろな適用をすることができる。その中には、たとえば、生物組織工学、導管外科(たとえば、血管形成)およびドレナージ(たとえば、腎臓から)がある。この発明のヒドロゲルを用いて作る装置(物)には、導管移植皮片、ステント、カテーテル、カニューレ、プラグ、圧迫器、生物組織骨格、および組織あるいは生物学的カプセルに包むための材料、ならびにその他の同種のものがある。
【0041】
それらは、多孔性、特には開いた細孔構造をもつヒドロゲルを必要とするどのような用途にも適用することができる。たとえば、それらの材料は、その中に細胞が移動するであろう組織あるいは骨格に利用することができる。細胞は、その中に適合し、成長して所期の機能を果たす。たとえば、組織の置換において、生物分解性を当てにすることができる組織にいつかは置き換わる。さらに、それらの材料は、細胞をすでに結合した組織を供給するのに用いることができ、後で体に外科的に移植することができる。さらにまた、それらの材料は、治療のための組織材料を巻き付けたり、生体外の細胞培養研究あるいはそのための同様の材料として利用することができる。この発明による材料は安定した構造であるので、理想的な細胞培養の条件(あるいは状態)を与える。
【0042】
この発明の材料は、また、細胞移植にも適用することができる。細胞移植には、肝細胞(ディー.ジェイ.ムーニイ、ピィー.エム.コーフマン、ケイ.サノ、ケイ.エム.マクナラマ、ジェイ.ピィー.ヴァカンチ、およびアール.ランガー、「多孔性の生物分解性スポンジを用いた肝細胞移植」、移植会報(Transplantation Proceedings)、1994年、26:3425-3426;ディー.ジェイ.ムーニイ、エス.パーク、ピィー.エム.コーフマン、ケイ.サノ、ケイ.マクナラマ、ジェイ.ピィー.ヴァカンチ、およびアール.ランガー、「肝細胞移植のための生物分解性スポンジ」、生物医学材料研究ジャーナル(Journal of Biomedical Materials Research)、1995年、29:959-965 を参照)、軟骨細胞および造骨細胞(エス.エル.イシアウグ、エム.ジェイ.ヤスゼムスキ、アール.ビショグ、エイ.ジィー.ミコス、「生物分解性合成ポリマーの造骨細胞機能」、生物医学材料研究ジャーナル(J. of Biomed. Mater. Res.)、1994年、28:1445-1453 を参照)を含む。
【0043】
表面が滑らかな筋肉細胞は、この発明によって作った材料に容易に付着し、特に、適切な細胞付着配位子がそれら多孔性構造の内部でヒドロゲル組織に結合し、それによって、細胞増殖に適した環境を与えるとき、三次元の組織を生み出す。
【0044】
この発明のヒドロゲルの他の有用な用途は、誘導組織再生(GTR)である。その用途は、組織再生の責務をもつ基となる細胞が下層の健康な組織に存在し、それが欠陥の中に移動し失った組織を再生するという前提に基づいている。GTR用の材料の重大な特徴は、材料の中に細胞を輸送することであり、細孔の大きさの分布および細孔の連続性(つまり、相互連絡性)によって命令する特性である。材料には、望ましい細胞がそれに侵入することを許し、他のタイプの細胞が接近することを妨げることが求められる。
【0045】
この発明のヒドロゲルは吸収特性をもつため、それらは吸収性の物品、特には、使い捨ての吸収性物品に用いるのに非常に適している。ここで「吸収性の物品」とは、消費製品であって、水やその他の流体(つまり、液体)、たとえば体液をかなりの量吸収することができるものを意味する。吸収性の物品の例を挙げると、使い捨ておむつ、生理用ナプキン、失禁パッド、ペーパータオル、化粧紙、およびその他の同種のものがある。
【0046】
この発明のヒドロゲルは、また、生きている植物の保護、保持、あるいは移植にも用いることができる。種、一本ごとの苗木、塊茎、挿し木にする切り穂、まとまった苗木、根、移植された苗、その他の同種のものの形態で用いることができる。これらのヒドロゲルは、それだけで、あるいは肥料、農芸用無機物、および全体に均一に分散したその他同種のものとの組合わせによって、その植物を援助する。
【0047】
次のものは、限定するわけではないが、この発明の実例である。
【0048】
例1.イオン平衡プロセスを用いる、ヒドロキシエチルアクリレイトを基礎にした超多孔性ヒドロゲルの形成(Na1+,Ca2+ およびFe3+ の多数イオン;多数処理)
【0049】
次の例における反応混合物の成分はすべて表2に示す量で用いた。
【0050】
ヒドロキシエチルアクリレイト、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレイト(ヒドロキシエチルアクリレイト中1:2(v/v)溶液)、水、プルロニック(商品名)F127、3−スルフォプロピル アクリルレイト カリウム塩(SPAK)およびカルボキシメチルセルロース(CMC)溶液をガラス管の中に入れた。それらの各成分を均一になるまで良くかき混ぜた。反応混合物を攪拌機の上に置き、連続的にかき混ぜた。氷酢酸を加え、ついで、テトラメチルエチレンジアミンおよびペルオキソ二硫酸アンモニウムを加えた。全ての成分を充分に混合した後、重炭酸ナトリウムを反応混合物中に良く分散させた。結果として生じる混合物は、発泡し始め、同時にゲル化し始め、その結果超多孔性ヒドロゲル発泡体(フォーム)を形成した。そのフォームを管から移し、塩化カルシウムの水溶液(蒸留水中1:200(w/v)の塩化カルシウム6水和物)中に入れた。懸濁液を2時間インキュベート(培養)した。そのカルシウム処理した超多孔性ヒドロゲルを、塩化鉄の水溶液(蒸留水中1:300(w/v)の塩化鉄6水和物)中に沈めた。懸濁液をさらに2時間インキュベート(培養)した。
【0051】
例2.イオン平衡プロセスを用いる、ヒドロキシエチルアクリレイトを基礎にした超多孔性ヒドロゲルの形成(Na1+,Ca2+ およびAl3+ の多数イオン;シングル処理)
【0052】
例1と同様であり、異なる点は、管から出したフォームを塩化カルシウム6水和物(1:200(w/v))と塩化アルミニウム6水和物(0.5:200(w/v))の水溶液の混合物に入れたことである。懸濁液は2時間インキュベート(培養)した。
【0053】
例3.イオン平衡プロセスを用いる、ヒドロキシエチルアクリレイトを基礎にした超多孔性ヒドロゲルの形成(Na1+およびFe3+ の多数イオン;シングル処理)
【0054】
例1と同様であり、異なる点は、管から出したフォームを塩化鉄6水和物(1:200(w/v))のエタノール水溶液に入れたことである。エタノール/水の割合は1/3v/vであった。懸濁液は2時間インキュベート(培養)した。
【0055】
【表2】

【0056】
各例について、イオン平衡した超多孔性ヒドロゲルを脱イオン水(100mL、5〜10分)で充分に洗浄し、不純物を除去した。清浄にしたイオン平衡超多孔性ヒドロゲルをついでエチルアルコール(100mL、1〜3分)で処理し脱水し、さらに空気加熱オーブン中40℃で乾燥した。その代わりに、清浄にしたイオン平衡超多孔性ヒドロゲルを直接オーブンあるいは真空オーブン中で乾燥することができる。その他にも、清浄にしたイオン平衡超多孔性ヒドロゲルを次の凍結乾燥工程を用いて凍結乾燥することができる。すなわち、(a)超多孔性ヒドロゲルを約−3℃/1時間の冷却速度で室温から約−10℃に凍結する工程、(b)そのサンプルを24時間の間−10℃の温度に保つ工程、(d)10〜100mTorrで72時間凍結乾燥する工程、(e)3℃/1時間の速度で10℃まで温度上昇させる工程、および(f)10℃で24時間乾燥する工程である。
【0057】
以上の説明から、ここで述べた発明に対し、変形および修正をし、いろいろな適用および条件に応じることができることは明らかであろう。そのような例もまたこの発明の考え方(次のクレーム記載事項)の範囲内にある。
【0058】
この明細書中に言及した全ての文献を参照によってこの中に含める。それは、個別の文献あるいは特許文献に対し明確にかつ個々に参照によって一体に含めるといった範囲と同じである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の各工程を備えるヒドロゲルの形成方法。
(a)少なくとも一つのエチレン不飽和モノマー、架橋剤、および1または2以上のカチオンをもつイオン多糖類を組み合わせて混合物を形成する工程
(b)その混合物を重合条件にさらし、ヒドロゲルを形成する工程
(c)そのヒドロゲルを平衡条件下で1または2以上のカチオンと反応させる工程
この場合、(i)少なくとも一つのカチオンとして工程(a)で用いなかったものを用いるか、あるいは、(ii)工程(a)および(c)でカチオンの同じ混合物を用いるときには、それらの工程で用いるカチオンの割合を異ならせる。
【請求項2】
前記混合物が、希釈剤、発泡安定剤、発泡助剤、還元剤(リダクタント)、酸化剤(オキシダント)および膨張剤(発泡剤)から構成されるグループの中の1または2以上のものを含む、請求項1の方法。
【請求項3】
前記混合物が、希釈剤、発泡安定剤、発泡助剤、還元剤(リダクタント)、酸化剤(オキシダント)および膨張剤(発泡剤)を含む、請求項2の方法。
【請求項4】
前記ヒドロゲルが超多孔性ヒドロゲルである、請求項1の方法。
【請求項5】
前記工程(a)で用いるカチオンの少なくとも一つが1価であり、しかも、前記工程(c)で用いるカチオンの少なくとも一つが2価である、請求項1の方法。
【請求項6】
前記(c)工程で形成したヒドロゲルを平衡条件下で1または2以上のカチオンと反応させる付加的な工程を備え、
その付加的な工程において、(i)少なくとも一つのカチオンとして工程(a)で用いなかったものを用いるか、あるいは、(ii)工程(a)および(c)でカチオンの同じ混合物を用いるときには、それらの工程で用いるカチオンの割合を異ならせる、請求項1の方法。
【請求項7】
前記(c)工程で形成したヒドロゲルと反応させるカチオンの少なくとも一つが3価である、請求項6の方法。
【請求項8】
前記多糖類が、カルボキシメチルセルロース、アルジネート、ヒアルロン酸、スターチグリコール酸塩(starch glycolate)、カルボキシメチルスターチ、硫酸デキストラン、ペクチネート(pectinate)、キサンタン、カラギーナン、あるいはキトサンである、請求項1の方法。
【請求項9】
前記多糖類が、カルボキシメチルセルロースナトリウムである、請求項8の方法。
【請求項10】
前記エチレン不飽和モノマーが、アクリルアミド(AM)、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)、2−ヒドロキシエチルアクリレイト(HEA)、2−ヒドロキシエチル メタクリエイト(HEMA)、 、N−ビニル ピロリドン(VP)、アクリル酸(AA)、アクリル酸のナトリウム/カリウム/アンモニウム塩、メタアクリル酸およびその塩、N,N−ジメチルアミノエチル アクリレイト、2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルフォン酸(AMPS)、3−スルフォプロピル アクリレイト カリウム塩(SPAK)、3−スルフォプロピル メタアクリレイト カリウム塩(SPMAK)、あるいは2−(アクリロイルエチル)トリメチル−硫酸メチルアンモニウム(ATMS)である、請求項1の方法。
【請求項11】
前記エチレン不飽和モノマーが、2−ヒドロキシエチルアクリレイトである、請求項10の方法。
【請求項12】
前記架橋剤が、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコール ジメチル化(meth)アクリレイト、ポリ(エチレングリコール) ジメチル化(meth)アクリレイト、トリメチロールプロパン トリアクリレイト(TMPTA)、ピペラジン ジアクリルアミド、グルタルアルデヒド、エピクロロヒドリン、1または2以上の1,2−ジオール構造を含む架橋剤、1または2以上の機能化ペプチドを含む架橋剤、あるいは1または2以上の機能化タンパク質を含む架橋剤である、請求項1の方法。
【請求項13】
前記架橋剤が、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレイトである、請求項12の方法。
【請求項14】
前記工程(c)で用いるカチオンが、Na,K,NH,Ca2+ ,Ba2+ ,Mg2+ ,Cu2+ ,Zn2+ ,Mn2+ ,Fe2+ ,Fe3+ ,Al3+ ,Cr3+ ,あるいはCe4+ である、請求項1の方法。
【請求項15】
前記付加的な工程で、前記ヒドロゲルとCa2+ ,Cu2+,Zn2+ ,Ba2+ ,Mg2+ ,Mn2+ ,Fe2+ ,Fe3+ ,Cr3+ ,Al3+ ,あるいはCe4+ との反応がある、請求項6の方法。
【請求項16】
前記ヒドロゲルを凍結乾燥することによって、0.005〜0.1の水/ヒドロゲルの重量比を得る、ヒドロゲルの乾燥方法。
【請求項17】
前記ヒドロゲルが超多孔性ヒドロゲルである、請求項16の方法。
【請求項18】
次の各工程を備える、請求項17の方法。
(a)ヒドロゲルを約3℃/1時間の冷却速度で約−10℃の温度に凍結する工程
(b)そのヒドロゲルを16〜24時間約−10℃に保つ工程
(c)そのヒドロゲルを約−10℃で、しかも約0.2Torr(トル)以下で60〜80時間凍結乾燥する工程
(d)そのヒドロゲルの温度を約3℃/1時間の速度で約10℃まで温度上昇させる工程
(e)そのヒドロゲルを約10℃で、しかも約200mTorr以下で少なくとも12時間保つ工程
【請求項19】
前記ヒドロゲルを請求項1の方法で作る、請求項16の方法。
【請求項20】
0.005〜0.1の水/ヒドロゲルの重量比を得るヒドロゲルの乾燥方法であって、次の各工程を備える、ヒドロゲルの乾燥方法。
(a)前記ヒドロゲルあるいは前記超多孔性ヒドロゲルに含有する水を非水溶媒、水混和性溶媒あるいは溶媒混合物と置換する工程
(b)前記の非水溶媒あるいは溶媒混合物を50Torr以下の圧力によって、または/および前記ヒドロゲルあるいは前記超多孔性ヒドロゲルを加熱することによって除去する工程
【請求項21】
前記ヒドロゲルが超多孔性ヒドロゲルである、請求項20の方法。
【請求項22】
前記非水溶媒が、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、蟻酸、酢酸、アセトニトリル、ニトロメタン、アセトン、あるいは2−ブタノンである、請求項20の方法。
【請求項23】
前記非水溶媒がエタノールを含む、請求項20の方法。
【請求項24】
前記ヒドロゲルを請求項1の方法で作る、請求項20の方法。
【請求項25】
前記超多孔性ヒドロゲルが、薬剤、栄養物質、あるいは受精媒介物を含む、請求項17あるいは請求項21のいずれかの超多孔性ヒドロゲル。
【請求項26】
前記超多孔性ヒドロゲルが、さらに徐放性組織を含む、請求項25の超多孔性ヒドロゲル。
【請求項27】
前記超多孔性ヒドロゲルが、フィルム、シート、粒子、細粒、繊維、ロッド、あるいはチューブである、請求項17あるいは請求項21のいずれかの超多孔性ヒドロゲル。



【公表番号】特表2006−524742(P2006−524742A)
【公表日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510012(P2006−510012)
【出願日】平成16年4月14日(2004.4.14)
【国際出願番号】PCT/US2004/011448
【国際公開番号】WO2004/096127
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(503469762)ケイオウエス ライフ サイエンスイズ,インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】