説明

三フッ化チタンの製造

チタン含有原料からTi(IV)のフッ化物溶液を生成するステップ、及び溶液中のTi(IV)を遷移金属又は遷移金属の合金で還元するステップ、を含む、チタン含有原料から三フッ化チタンを製造する方法。遷移金属は、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、及び亜鉛から選択される。アンモニウム含有塩及びアンモニア又はフッ化アンモニウムを得られたTi(III)を含む溶液に添加して析出物を生成し、析出物を熱分解することにより三フッ化チタンを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三フッ化チタン(TiF)の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2006/079887A2号パンフレットに記載されるように、TiF3は、Al、Mg、Na、又はCa等の還元剤により還元した後で金属Tiを生成する際の好ましい中間体である。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、高効率且つ安価な三フッ化チタン製造方法を提供する。
【0004】
本出願人は、イルメナイト等のチタン含有原料から(NHTiFの還元によりTiFを製造する国際公開第2006/079887A2号パンフレットについて認識している。しかし前記方法は、Ti(IV)をアルミニウムにより還元する必要があるため、本発明の方法より費用がかかる。本発明の方法は、Ti(IV)をTi(III)に還元する安価な方法を提供する。
【0005】
酸性条件において、Mがマンガン、鉄、コバルト、ニッケル、又は亜鉛であってもよい遷移金属M及びその合金はTi(IV)をTi(III)に還元できる。さらに、これらの金属は、チタンよりもフッ素イオンに対する親和性が低いため、NHTiF又は他のフッ化物錯体をMに妨げられることなく形成することができる。しかし、M2+イオンはその酸化及び共析(co−precipitation)を防ぐために安定化されている必要がある。本出願人は、NHCl(約4.4モル/M2+1モル)又は(NHSO(約2.2モル/M2+1モル)を還元溶液に添加してアンモニウム複塩(NHMClを形成することにより金属の酸化及び共析を防止できることを見出した。
【0006】
本出願人は、NHOH又はNHFの添加により、還元溶液をpH4〜5で安定化させる緩衝溶液が生じることを見出した。これらの条件下において、NHOH又はNHFは、特異な錯体であり溶液から析出するNHTiF.NHOH又はNHTiF.NHFを形成すると仮定される。この錯体は乾燥状態においても安定である。続いて、この錯体を洗浄してM2+を除去することにより、分解されるとTiFを製造可能な純粋な前駆体をもたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】TiFのTiFへの還元を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の第1態様により、チタン含有原料から三フッ化チタンを製造する方法が提供され、この方法は以下ステップを含む:
チタン含有原料からTi(IV)のフッ化物溶液を生成するステップ、
溶液中のTi(IV)を、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル及び亜鉛から選択される遷移金属又は遷移金属の合金で還元して、Ti(III)を含む溶液を生成するステップ、
アンモニウム含有塩及びアンモニア若しくはフッ化アンモニウム又はそれらの混合物を、Ti(III)を含む溶液に添加して、析出物を生成するステップ、並びに
析出物を熱分解して、三フッ化チタンを製造するステップ。
【0009】
前記金属はいずれも、Ti(IV)のTi(III)への還元に有利な酸化還元電位を有し、還元条件下でM2+を生成する。また前記金属は、NHCl又は(NHSOの上述の比率における添加によりアンモニウム複塩(NHMClを形成する。
【0010】
チタン含有原料からのTi(IV)溶液の生成は、原料をHF水溶液中で蒸解(digesting)することによりに実行されてもよい。アンモニウム含有塩は塩化アンモニウムであってもよい。理論に束縛されるわけではないが、本出願人は、析出物はそれぞれNHTiF.NHOH又はNHTiF.NHFのいずれかであると確信する。
【0011】
チタン含有原料は、いずれもTiO含有原料であるルチル、鋭錐石、板チタン石、偽板チタン石及び白チタン石等の原料を含むチタン酸化物、チタン水酸化物及びチタン硫酸化物から選択されてもよく、チタン含有スラグから選択されてもよい。チタン含有スラグは、主としてイルメナイトの製錬により生成されるTiO含有原料である。イルメナイト(FeTiO)を本発明の方法において使用してもよいが、HFの必要量が増え、副生成物の生成量が増える可能性がある。
【0012】
本発明の方法は、鉄によるTi(IV)の還元を含んでもよい。鉄は鉄板、塊、粉末、鉄含有合金等の形態であってもよい。
【0013】
HF水溶液の濃度は、約5〜60%、好ましくは約10〜30%、より好ましくは約15〜25%であってもよい。
【0014】
本発明は、本明細書に記載の方法により調製された三フッ化チタンに及ぶ。
【0015】
さらに本発明は、本明細書に記載の方法により製造される三フッ化チタンから調製された金属チタンにも及ぶ。
【0016】
さらに本発明は、錯体塩NHTiF.NHOHにも及ぶ。
【0017】
本発明を、例示として下記実施例及びTiFのTiFへの還元を示す図1を参照して記載する。
【実施例】
【0018】
<実施例1:還元剤として鉄を使用したTiFの製造>
5Lポリプロピレンビーカー中、HF(2400g、40%)を水道水(2100g)により希釈した。鋭錐石のスラリー(pulp)(1.25kg、Ti約50%)を、希釈した酸を撹拌している中にゆっくりと添加した。溶解反応は発熱性であり、温度が60〜70℃に上昇した。約1時間後、過剰なスラリーを溶液から濾過により除去した。
【0019】
TiO(OH)(固体)+4HF(水溶液)→TiF(水溶液)+2H
【0020】
続いて、TiF浸出水溶液を標準化した。過剰量の(NHCOを、アルミナ製るつぼ(250ml)中の浸出液サンプル(75g)に、白色の析出物が形成されなくなるまでゆっくりと添加した。析出物をホットプレート上で加熱乾固させ、るつぼを1000℃の炉の中に配置した。分解後(この時点で、さらなる発煙はなかった)、冷却後のTiOの収率は10.2gであり、これによりTiO 1モル(79.9g)の生成に浸出液587.5gが必要であることが示された。
【0021】
5Lポリプロピレンビーカー中、浸出液(2940g、TiO 5モルに等しい)を水道水(980g)により希釈した。ゆっくりと撹拌しながら、軟鋼板2枚を溶液中に下ろした。溶液中に浸水した表面は合わせて約3000cmであった。反応の40%が最初の2時間で終了したが、一晩(18時間)放置して反応を終了させた。Ti(IV)の鉄による還元はTi(III)より先には進行しない。軟鋼板を暗緑色の溶液から引き上げ、乾燥させて秤量した。147.6g(2.643モル)の鉄が溶解したことが分かった。
【0022】
溶液中でFe(II)を安定化するため、鉄1モルに対してNHCl 4.4モル(10%過剰)(2.643×4.4×53.5g/モル=622g NHCl)を撹拌しながら添加することにより、複塩(NHFeClを形成させた。30分経過してNHClが全て溶解した後、アンモニア水(NHOH)を溶液にゆっくりと添加した。これらの条件下で、Fe(II)1モルに対しNHOH 2.5モル(496ml、25%溶液)を添加すると、NHTiF.NHOH(であると考えられる)の青紫色(violet)の析出物が高収率で生成し、Fe(II)の共析がないことが分かった[(2.643×2.5×75ml/モル NHOH(25%)]。30分後に、析出物を濾過し、濾過ケークを、濾液が透明になるまで0.01Nの酢酸溶液で洗浄した。続いて、析出物を70℃で乾燥させ、青紫色のケーク(846.6g)を生成した。ケークの一部(50g)を、N下、グラファイト製の蓋を有するアルミナ製るつぼ中で、12時間、550℃で分解した。アンモニアの強い匂いが確認され、冷却後に暗褐色の粉末(29.6g)が生成し、XRD及びXRF分析によりこれがTiFであることが示された。
【0023】
質量が40.8%減少したことから、青紫色の前駆体846.6gからTiF 501.2gが生成されたことが示唆された。モル質量は104.9gであることから、TiF 4.78モルがTiF浸出液5モルから取得されたことと等しかった(効率95.6%)。
【0024】
緩衝系(過剰量のNHCl及びNHOH)により、NHOH添加中におけるpH4〜5での安定性が改善され、またFe(II)の共析がなく収率に関しても改善された。
【0025】
NHTiF.NHOH(であると考えられる)(176.9g/モル)の分解により取得されるTiF(104.9g/モル)の質量は、理論的には59.3%である。取得されたTiFの収率は59.2%であったことから、ほぼ定量的変換であることが示された。
【0026】
<実施例2:マンガン、コバルト、ニッケル、又は亜鉛を使用したTiFの製造>
実施例1の浸出液に対し、還元剤としてマンガン、コバルト、ニッケル及び亜鉛をそれぞれ使用して還元を実行し、TiFを製造した。
【0027】
鉄により還元した場合、析出物の分解中に生成されたオフガスを消石灰で浄化することにより、CaF及びNHOHが形成された。(NHFeClの流れは国際公開第2006/079887A2号パンフレットに記載されるものと同様であるが、Tiの1単位当たりのFe生成量が約50%少ない。
【0028】
NHClは、精製又は結晶化を要さず、飽和溶液として添加され、NHClに水を添加して溶解させた。
【0029】
特に、鉄の場合、国際公開第2006/079887A2号パンフレットに記載された方法に対する本発明の方法の利点は以下である:
i)粗製(crude)鋭錐石を使用可能である点、
ii)FeはAl粉末と比較して非常に安価な還元剤である点、
iii)HFの費用を35%節約できる(Ti当たりのHFが6モルではなく4モルである)点、
iv)再利用サイクルにおいて除去されなければならないCaF及びFeの量が国際公開第2006/079887A2号パンフレットに記載される方法での量より約50%少ない点、
v)NHClを乾燥粉末としてではなく飽和溶液として再利用可能である点、並びに
vi)最終生成物において昇華を要するAlFの量が25%少ない点。
【0030】
国際公開第2006/079887A2号パンフレットに記載される方法は、Al還元により(NHTiFからTiF(75〜80重量%)及びAlF(25〜20重量%)の混合物を製造する。チタン同様、アルミニウムもフッ化物に対する親和性が高い。その結果、AlとTiとがフッ素イオンに対して競合する場合に、還元中に(NHAlFとNHTiFとが共析する。この前駆体混合物が分解されると、TiF−AlF混合物が生じる。本発明の方法は、還元剤としてFeを使用することにより純粋なTiF製品を製造する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン含有原料から三フッ化チタンを製造する方法であって、
前記チタン含有原料からTi(IV)のフッ化物溶液を生成するステップ、
前記溶液中の前記Ti(IV)を、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、及び亜鉛から選択される遷移金属又は該遷移金属の合金で還元して、Ti(III)を含む溶液を生成するステップ、
アンモニウム含有塩及びアンモニア若しくはフッ化アンモニウム又はそれらの混合物を、Ti(III)を含む前記溶液に添加して析出物を生成するステップ、並びに
前記析出物を熱分解して三フッ化チタンを製造するステップ
を含む方法。
【請求項2】
前記Ti(IV)溶液が、HF水溶液中における前記チタン含有原料の蒸解により、前記チタン含有原料から生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アンモニウム含有塩が塩化アンモニウムである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記チタン含有原料が、チタン酸化物、チタン水酸化物、チタン硫酸化物及びチタン含有スラグから選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記チタン含有原料が、ルチル、鋭錐石、板チタン石、偽板チタン石、白チタン石及びイルメナイトから選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記Ti(IV)が鉄又は鉄含有合金により還元される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記HF水溶液の濃度が約5〜60%である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記HF水溶液の濃度が約10〜30%である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記HF水溶液の濃度が約15〜25%である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法により製造される三フッ化チタン。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法により製造される三フッ化チタンから調製される金属チタン。
【請求項12】
錯体塩NHTiF.NHOH。


【図1】
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【公表番号】特表2011−509905(P2011−509905A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−541857(P2010−541857)
【出願日】平成20年12月29日(2008.12.29)
【国際出願番号】PCT/IB2008/055559
【国際公開番号】WO2009/090513
【国際公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(507229238)ペルーク (プロプリエタリー) リミテッド (3)
【Fターム(参考)】