説明

三フッ化窒素ガス発生用炭素電極

【課題】特定の金属フッ化物を炭素材料と混合し焼成する工程を経るだけで組織に気孔の少ない比較的機械的強度の高い炭素電極を製作し、NH4F−KF−HF系、NH4F−HF系のいずれであっても炭素電極が分極することなく長寿命を示す三フッ化窒素ガス製造用炭素電極を提供する。
【解決手段】本発明の三フッ化窒素ガス発生用炭素電極は、平均気孔径が0.5μm以下の緻密な組織からなるものであり、炭素質材料と、前記炭素質材料の焼成温度以上の融点を持つフッ化マグネシウム、フッ化アルミニウムの内から選ばれる少なくとも1種以上のものからなることが好ましく、前記フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウムの内から選ばれる少なくとも1種以上のものの含有率は、3〜10wt%である三フッ化窒素ガス製造用炭素電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三フッ化窒素ガス(以下NF3ということがある。)発生用炭素電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
三フッ化窒素ガス発生用炭素電極及びこれを用いた三フッ化窒素ガス発生装置は公知となっている。例えば、下記特許文献1に開示されるものがある。この特許文献1のものは、炭素質材料と、フッ化リチウムと、炭素質材料の焼成温度以上の融点を持つ金属フッ化物とからなるフッ素ガスまたは三フッ化窒素ガス発生用炭素電極であって、前記フッ化リチウムと前記金属フッ化物とからなる2成分系金属フッ化物の含有率が0.1〜5質量%であるフッ素ガスまたは三フッ化窒素ガス発生用炭素電極である。
また、炭素電極にフッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化アルミニウム、フッ化マグネシウム等の金属フッ化物を含浸することによって炭素電極の分極を抑制する方法が下記特許文献2に提案されている。
【特許文献1】特開2001−295086号公報
【特許文献2】特開平5−5194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1における金属フッ化物は、フッ化リチウムとフッ化カルシウムの共晶系からなる。この共晶系の金属フッ化物は、フッ化リチウムおよびフッ化カルシウムを各々の融点以上の高い温度で溶融させ、さらに、生成した共晶系の金属フッ化物を粉砕する工程とそれを炭素材料と混合し焼成する工程が必要となり、煩雑、且つ、コスト高となる。
【0004】
また、特許文献2に示すようなフッ化リチウムを含有した炭素電極においては、下記(3)式に示したような共有結合性のフッ化グラファイトの生成が抑制され、(1)式から(2)式に示したようなフッ素−黒鉛層間化合物の生成反応が主に起こる。なお、この電極表面に生成する共有結合性フッ化グラファイトは、分極(その非常に低い表面エネルギーのために陽極効果を生じる。)の原因になるものである。このように、フッ化リチウムは分極を抑える効果があるが、フッ化カルシウムを含んだ炭素電極は、炭素電極の気孔が大きくなり炭素電極の組織自体も多孔質でその強度も低い。したがって、電解を行っていると、しばしば電極が崩壊することがあった。なお、一般的に、NF3発生用電解浴はNH4F−HF系が使用される。この電解浴は粘度が低く、さらに、HFの活量が高い。このため前述のフッ化カルシウムを含んだ炭素電極では、その空孔内にHFが浸透し、細孔内電解が進行し、その際、下記(1)式から(2)式に示したようなフッ素−黒鉛層間化合物(第1ステージ)が生じる。なお、第1ステージ化合物とは、黒鉛層の各層にインターカラントが挿入されるもので、材料は大きく膨潤し、組織の崩壊を生じるようになる。
【数1】

【数2】

【数3】

【0005】
そこで、本発明は、特定の金属フッ化物を炭素材料に混合し焼成する工程を経るだけで、組織に気孔の少ない比較的機械的強度の高い炭素電極を製作し、NH4F−KF−HF系、NH4F−HF系のいずれであっても炭素電極が分極することなく長寿命を示す炭素電極を創出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために炭素電極に含有させる金属フッ化物の種類及びその含有量についてさらに検討を加えることによって、上記課題、すなわち、炭素電極気孔内部への電解浴(液)の浸入防止、分極作用の抑制という課題を解決できる炭素電極を得ることができ、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明は平均気孔径が0.5μm以下の緻密な組織からなる炭素電極を要旨とする。平均気孔径が0.5μmよりも大きくなると、電解浴が炭素電極内部に浸入し電極を崩壊させる原因となる。炭素電極の平均気孔径は、水銀圧入法によって測定し、累積気孔容積の半分に相当する値を示す気孔半径を平均気孔径とした。
【0007】
また、本発明の三フッ化窒素ガス発生用炭素電極は、炭素質材料と、前記炭素質材料の焼成温度以上の融点を持つフッ化マグネシウム、フッ化アルミニウムの内から選ばれる少なくとも1種以上のものからなる。フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウムを炭素電極中心部まで含有させると、微視的に見た場合に炭素電極を構成する黒鉛層間にフッ化マグネシウム、フッ化アルミニウムがトラップされ適度なステージの黒鉛層間化合物を形成し分極作用が抑制できる。このことは、今まで専ら分極抑制剤として使用されてきた高価なフッ化リチウムに代替できるという意味でも経済的に有利である。なお、フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウムを混合して使用することも可能である。(フッ化マグネシウムやフッ化アルミニウムのような金属フッ化物(MFm)が電極表面に存在するとき、金属フッ化物は下記(3)式に示すような高次酸化状態の金属フッ化物となる。この高次酸化状態金属フッ化物は下記(4)式の活性複合体を形成し、さらに、その活性複合体はフッ素−黒鉛層間化合物となり、金属フッ化物は触媒的にもとに戻る。)
【数4】

【数5】

【数6】

また、本発明は、電解浴にNH4F−KF−HF系を使用している。フッ化カリウムをNH4F−HF系電解浴に添加することにより、電解浴の粘度を上昇させ、電解浴の炭素気孔中への浸透を制御し、結果として、炭素気孔内でのHF活量を低下させ、電解時における電極の崩壊を抑制できる。
【0008】
また、前記フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウムの内から選ばれる少なくとも1種以上のものの含有率が3〜10wt%である。前記フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウムの内から選ばれる少なくとも1種以上のものの含有率が3wt%よりも低いと金属フッ化物のフッ素−黒鉛層間化合物生成の触媒作用としての効果が十分に発揮されない。また、前記フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウムの内から選ばれる少なくとも1種以上のものの含有率が10wt%をこえると電極自体の強度が低下するので好ましくない。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、共晶系の金属フッ化物を調製するという工程がないために、非常に簡便且つ安価に電極を作製することができる。
また、フッ化カルシウムを含む炭素電極よりも、電極の物理的強度は向上しており、更なる電極の長寿命化および電解の長期継続が可能となった。一元系においても、イオン結合性および半共有結合性のC−F結合をもったフッ素−炭素層間化合物生成の触媒作用があり、陽極効果の発生を抑制することができる。この反応は、適度に進行すると電極材料表面の極性増大に寄与し、電解浴と電極との濡れ性を向上させ、電極の分極を抑制する効果を発揮する。しかし、上述したように、第1ステージ化合物を生ずると材料が膨潤し、崩壊に到る。LiFに比べて、フッ素−黒鉛層間化合物生成反応に対する触媒能力が温和なAlF3、MgF2を添加することにより第3ステージ化合物に留められることがわかった。これによって電解浴と電極の濡れ性の維持ができ、電極の崩壊を招くことなくフッ素−黒鉛層間化合物の分極を抑制できる。また、AlF3、MgF2を添加することによっても電極の強度を低下させることもない。これらの総合的な効果でKFを添加して粘度を上昇させてNH4-HF系でNF3の収率を維持しながら長期間電解可能な電極を得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態に係る炭素電極について説明する。
本発明の実施形態に係る炭素電極の製造方法としては、以下のようなものがあげられる。炭素質材料の焼成温度以上の融点を持つ、フッ化マグネシウム(以下、MgF2という。)、フッ化アルミニウム(以下、AlF3という。)のうちから選ぶ。あるいは、これらのうち少なくとも1種以上を所定量均一に混合する。次に、炭素質骨材として、メソカーボンマイクロビーズに上記金属フッ化物、あるいは、金属フッ化物の混合物を3〜10wt%を混合し、成形、焼成した炭素成形体を形成する。この炭素成形体は、圧力80〜100MPaでCIP成形を行い、800〜1000℃で焼成して、所定の形状に加工される。
しかし、本発明において用いられる電極については、前記の作製方法に限定されるものではない。
【0011】
上記構成により、本発明の実施形態に係る炭素電極は、炭素−黒鉛層間化合物生成に触媒作用を持つ金属フッ化物として、フッ化リチウムを用いることなく、フッ化マグネシウム、もしくは、フッ化アルミニウムを電極に添加することで、陽極効果の発生を抑制する。また、電極の強度が、フッ化リチウム−フッ化カルシウムを含む炭素電極よりも大きいために、電極の寿命が長くなる。
【実施例】
【0012】
(実施例1〜7及び比較例1〜7)
炭素質骨材として平均粒子径が15μmのメソカーボンマイクロビーズに、平均粒子径が10μmのAlF3を5.0wt%添加し、混合機を用いて均一に混合した。その後、90MPaで冷間静水圧成形(CIP成形)を行い、ブロック状に成形後、サガーにつめて連続炉(900℃)で焼成した。この成形体を所定の大きさに加工し、実施例1の炭素電極とした。また、金属フッ化物の種類及び添加率の調整以外、実施例1と同様に、最終的に下記表1に示す物理特性を有する実施例2〜7及び比較例1〜7の三フッ化窒素ガス発生用炭素電極を作製した。なお、比較例7については、平均気孔径を大きくするため成形圧力を40MPaとした。
【0013】
【表1】

【0014】
上記の方法で作製された表1に示す三フッ化窒素ガス発生用炭素電極を用いて、NH4F−KF−HF系の電解浴を電気分解して三フッ化窒素ガスを発生させた。そのときの三フッ化窒素ガスの収率、分極の有無、電極寿命等についても調査し、表1に併記した。
【0015】
上記表1から、平均気孔径が0.5μm以下である、フッ化アルミニウム、フッ化マグネシウムを含有させた各実施例の炭素電極は、三フッ化窒素ガスの収率、分極作用を生じることがないことがわかる。しかも各実施例の炭素電極は、電極寿命も各比較例の炭素電極に比べてはるかに長寿命であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均気孔径が0.5μm以下の緻密な組織からなる三フッ化窒素ガス発生用炭素電極。
【請求項2】
炭素質材料と、前記炭素質材料の焼成温度以上の融点を持つフッ化マグネシウム、フッ化アルミニウムの内から選ばれる少なくとも1種以上のものからなる請求項1に記載の三フッ化窒素ガス発生用炭素電極。
【請求項3】
前記フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウムの内から選ばれる少なくとも1種以上のものの含有率が3〜10wt%である請求項2に記載の三フッ化窒素ガス発生用炭素電極。


【公開番号】特開2006−45625(P2006−45625A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−229326(P2004−229326)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年7月16日 社団法人電気化学会電解科学技術委員会主催の「第14回 電極材料研究会」において文書をもって発表
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】