説明

三次元地域冷却システム

【課題】ヒートアイラインド現象が発生している地域の大空間を降温化する。
【解決手段】ヒートアイランド対策用の三次元地域冷却システムであって、既存の建造物の屋上あるいは/および該建造物の外壁面に、該建造物から外方に向けて噴霧する複数のノズルを配置し、気温25〜40℃、湿度30〜70%、風速1m/秒以下の大気中において、前記ノズルから噴霧する液滴が完全に蒸発するに要する前記大気中での滞留時間を0.6秒以上の予め規定した設定範囲内としている。また、風速および風向に応じて噴霧の停止および噴霧方向の制御を行っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートアイランド現象緩和用の三次元地域冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近時、ヒートアイランド対策として、集客施設や該施設付近の柱にスプレーノズルを取り付け、該スプレーノズルからの噴霧により周辺気温を降下させる冷却システムが採用されつつある。
【0003】
例えば、特開平6−159887号公報(特許文献1)では、集客施設に通じるプロムナードや陸橋等のアクセス部に霧状の水噴霧を行うノズルを配置している。この特許文献1で開示されているノズルは水噴射用ノズルからなり、ポンプから供給される水をプロムナードの空間に水粒子を50μm以下として霧状に噴霧すると記載されている。
【0004】
前記特許文献1で開示されたノズルは50μm以下の粒子で水噴霧するノズルであることが開示されているだけである。よって、この50μmの水滴が蒸発することなく人に接触すると人は濡れを感じて不快感を生じると共に、地面近くで噴霧しても地域気温の降下に有効に役立たない問題がある。
【0005】
前記問題に対して、特開2006−177578号公報(特許文献2)では、噴霧ノズルから噴霧されるザウダー(水滴)の平均粒子径に基づいて、噴霧ノズルの設置高さと噴霧量とを設定している。
具体的には、ザウダー平均粒子径が10μm以上で22μm以下の時は、噴霧ノズルの設置高さが3.5m以上6m以下とされ、噴霧量を3cm/m・min以上20cm/m・min以下とされている。
また、ザウダー平均粒子径が15μmを越えて27μm以下の時は、噴霧ノズルの設置高さを6m以上10m以下とされ、噴霧量を3cm/m・min以上40cm/m・min以下とされている。
さらに、ザウダー平均粒子径が20μmを越えて30μm以下の時は、噴霧ノズルの設置高さを10m以上16m以下とされ、噴霧量を6cm/m・min以上80cm/m・min以下とされている。
【0006】
前記のように特許文献2では、特許文献1と同様に、水滴の粒子径(正確にはザウダー平均粒子径)を基準として規定しており、該ザウダー平均粒子径に基づいてノズルの配置高さと噴霧量を設定している。言い換えると、ノズルの配置高さが相違すると、ノズルから噴霧するザウダー平均粒子径を相違させる必要がある。
ノズルから噴霧するザウダー平均粒子径を相違させるには、構造が相違する異種のノズルを用いるか、同一ノズルの場合には供給する水圧を相違させて噴霧圧を相違させる必要がある。
即ち、3.5m〜6mの範囲に設置するノズルと、6m〜10mの範囲に設置するノズルと、10m〜16mに設置するノズルとは、異種のノズルとするか、水圧を変える必要がある。よって、例えば、高さの相違するビルの屋上にノズルを配置する場合、ビルの高さに応じて異なるノズルを配置するか、水圧を相違させる必要がある。また、1つのビルの屋上、高層階、中層階、低層階の壁面にノズルをそれぞれ配置する場合にも、同様の問題がある。
ヒートアイランド対策としてノズルを用いる場合には、非常に多数のノズルを多数の箇所に配置する必要があるため、前記のように、ノズルの配置高さに応じてザウダー平均粒子径を相違させる必要がある場合、設置作業に手数がかかり、コスト高になる問題がある。
【0007】
また、前記特許文献2では、噴霧(水滴)の平均粒子径に基づいて、噴霧ノズルの設置高さと噴霧量とを設定しているだけである。ヒートアイランド対策としてノズルを用いて噴霧する場合、気温は高温であるため水滴は蒸発しやすいが、高湿度の場合には水滴は蒸発しにくくなる。かつ、実際には風の影響もあり、特許文献1、2のように、粒子径を基準としてノズルの配置高さと噴霧量を一概に決定しても、大気気温を効果的に降下させることはできない。
【0008】
ヒートアイランド対策としてノズルから噴霧する場合、最も重要な点は噴霧される水滴が大気中で蒸発して雰囲気空気を冷却させる点であり、かつ、噴霧された水滴が人に接触しないように蒸発させる点にある。
上記観点から、ノズルから噴霧される水滴が大気中で蒸発するに要する時間が重要となる。蒸発に要する時間がノズルの配置高さに応じて相違すれば、ノズルから噴霧する水滴の平均粒子径が同等としても良い場合がある。
しかしながら、特許文献1、2にはノズルから噴霧される水滴が大気中で蒸発するに要する滞留時間は問題とされていない。
【0009】
さらに、特許文献2では、前記のように、ノズルの設置高さが2.5m〜16m未満の範囲で規定しており、最大高さの16mは5階建ての建造物の高さに相当する。ヒートアイランド現象が発生する地域では、近時、高層化が急激に進み、高層ビルは10階以上、更には50階程度の高層ビルも建造されている。
よって、ヒートアイランド対策用としてノズルを設置する場合、少なくとも10階建ビルに相当する30mの高さでも、ビルから排気熱が放出されて大気が加熱されるため、ノズルも30mの高さ位置、さらには、それ以上の高さ位置に配置する必要がある。
30m程度の高層ビルにノズルを設置する場合、該ノズルから噴霧する水滴がある程度大きくても、地上近く達するまでに蒸発し、液滴の状態を保持せず、人に濡れを生じさせず、かつ、大きな液滴は長時間大気中に滞留することとなるため、降温化に寄与させることができる。
従って、最大高さを16mとして、噴霧(水滴)の平均粒子径に基づいて、ノズルの設置高さと噴霧量とを設定している特許文献2の技術は、16m以上、更には30m以上の高層ビルにノズルを設置する場合には適用することができない。
【0010】
さらに、特許文献1、2では、風向きや風速についての配慮がなされていない。
ノズルをビルの屋上等の高位置に設置すると、該ノズルからの噴霧方向は風向に大きく影響され、風向きによってはノズルを設置したビル側に向けて噴霧されてビルの壁面を濡らすだけになる。また、風速によってはノズルからの噴霧が地上へと降下しない場合もあり噴霧により降温化効果が低下する問題がある。
【0011】
【特許文献1】特開平6−159887号公報
【特許文献2】特開2006−177578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記した問題に鑑みてなされたものであり、集客施設のプロムナード等の局所的な気温を降下させるにとどまらず、10階建以上の高層ビルが林立して、ヒートアイランド現象が発生しやすい地域全体の大空間の降温化を図る三次元地域冷却システムを提供することを課題としている。
さらに、風向きや風速との関係を考慮して、ノズルからの噴霧が地域の降温化に有効に作用させることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、第1の発明として、ヒートアイランド対策用の三次元地域冷却システムであって、
既存の建造物の屋上あるいは/および該建造物の外壁面に、該建造物から外方に向けて噴霧する複数のノズルを配置し、
気温25〜40℃、湿度30〜70%、風速1m/秒以下の大気中において、前記ノズルから噴霧する液滴が完全に蒸発するに要する前記大気中での滞留時間を0.6秒以上の予め規定した設定範囲内としていることを特徴とする三次元地域冷却システムを提供している。
【0014】
本発明が対象とする三次元地域冷却システムは、ヒートアイランド現象が都会の高層ビルが林立する地域に発生しやすいことから、該地域に建造されている高層ビル等の建造物を利用してノズルの設置場所とし、該地域全体の大空間の降温を図るものとしている。 即ち、本発明では、ノズルの設置場所として既存の建造物を利用することを特徴としている。建造物とはビル、施設、柱等が含まれる。また、既存の建造物には新築中のビル等も含まれる。
なお、既存の建造物にノズル設置場所がなく、ノズル設置用に新設可能なスペースがあればノズル用支柱を建設してノズルを設置しても良いが、主として前記既存の建造物をノズル設置場所として利用している。
このように、本発明の三次元地域冷却システムは、特許文献1に記載のような特定施設等の局所的な降温を図るのではなく、高層ビルが林立する地域の大空間の降温を図るものであり、従って、その地域におけるビル風も利用するため、ノズルから噴霧する液滴がビル風で遠くに飛ばされても地域内を冷却することに有効に利用できる。
また、大空間の降温化を図るものであるため、ノズルを取り付ける建造物の高さが高い程、例えば、10階ビルに相当する30m以上の高層ビルにノズルを取り付けるほど、地域全体の降温下には有効である、
さらに、30m付近にノズルを設置する場合、該ノズルから噴霧する水滴がある程度大きくても、地上近くまでは液滴の状態を保持せず、人に濡れを生じさせない一方、大きな液滴は長時間大気中に滞留することとなるため、降温化に寄与させることができる。よって、水滴が地表に達するまでに蒸発する時間を所要範囲内に特定できれるノズルを用いて噴霧すれば、必ずしも水滴の平均粒子径に応じてノズルの設置高さや噴射量を特定する必要はない。言い換えれば、ノズルの設置高さ位置によって大気中での水滴の滞留時間が相違すれば、水滴の平均粒子径が略同等であってもよい。
【0015】
前記のように、第1の発明では、地域的に発生するヒートアイランド対策用としてノズルから噴霧して大空間の降温化を図るものであるため、該降温化に最も重要な事項である水滴の大気滞留時間、言い換えれば水滴が蒸発するまでに要する時間を基準としている。
水滴の大気中での滞留時間は長いほど降温が促進されるが、水滴が大気中を降下して地面から2.8m以下でも水滴状態を保持していると、人に濡れを発生させる可能性がある。
この点を考慮して、前記のように、気温25〜40℃、湿度30〜70%、風速1m/秒以下の大気中において、前記ノズルから噴霧する液滴が完全に蒸発するに要する前記大気中での滞留時間を0.6秒以上の予め規定した設定範囲内としている。
前記気温条件および湿度条件はノズルから噴霧をすると、降温化を図ることができる気候条件に相当するものである。
前記大気中での水滴の滞留時間を0.6秒以上としているのは、ノズルを配置する高さを地上から2.8m程度の最低高さとしても、平均粒子径が20μm未満であれば空気中での水滴の滞留時間を0.6秒以上とでき、気温の低下に寄与できると共に、人に濡れを発生させないようにすることができることに因る。この水滴の滞留時間は本発明者が繰り返し実験して知見したものである。
【0016】
具体的には、ノズルから噴霧する液滴の平均粒子径は20〜100μmとし、無風状態で、該液滴の大気中での滞留時間が0.6〜15秒となる設定としている。
前記したノズルから噴霧する液滴の平均粒子径と、液滴の大気中での滞留時間の関係は、ノズルの設置高さを16m以上とした場合に、液滴が地表から2.8m位置に達するまでに大気中でほぼ完全に蒸発させることができる範囲であり、これは本発明者が実験により知見したものである。
このように、前記設定とすると、既存の高層ビルにノズルを設置した場合、人間に濡れを感じさせずに、液滴の蒸発により地域気温を低下させることができる。
【0017】
よって、前記ノズルの配置位置は少なくとも地上2.8m以上としている。
地上2.8mに達すると、水滴の平均粒子径は20μm以下で、該2.8m未満からの水滴の大気中での滞留時間を0.6秒未満としていることが好ましい。
即ち、地上2.8mより高い位置に配置した場合には、地上2.8mに達した時点で水滴の平均粒子径が20μm以下まで減少している。地上2.8m位置で水滴が20μm未満になっておれば、該2.8m高さ位置からの液滴の大気中での滞留時間を0.6秒未満とすると、液滴の状態のまま人に接触して濡れを感じさせることを防止できる。
【0018】
好ましくは、地上から30mの位置に設置した場合、該ノズルから噴霧する液滴が10mの位置に達するまでの時間を4.5〜6.0秒、噴霧時の液滴量を100%とすると前記10mの位置に1〜3%が液滴の状態で到達し、地上2.8m以下においては液滴量は噴霧時の液滴量の0.01%未満となる設定としている。
【0019】
このように、本発明のヒートアイランド対策用の三次元地域冷却システムにおいては、ノズルから噴霧する水滴の大気中での滞留時間が設定時間範囲内となる噴霧を生じるノズルを用いている。
該ノズルからの水滴は設定範囲内の時間で大気中に滞留するため、気温の降下に有効に作用させることができ、かつ、人に濡れを発生させない。
【0020】
ノズルから噴霧する水滴の大気中での滞留時間を前記設定範囲内にするには、
ノズルの配置高さが地表より16m以上とする場合、噴霧する液滴の平均粒子径を20〜100μm、噴霧圧力は0.3〜10MPaとしていることが好ましい。
ノズルの配置高さは25〜45mとした場合、噴霧する液滴の平均粒子径を50〜80μm、噴霧圧力は0.3〜3.0MPaとしていることが好ましい。
【0021】
本発明では、建造物の周辺の気温が30℃以上、湿度70%未満になると前記ノズルからの噴霧を開始する一方、前記気温30℃未満、湿度が70%以上になると噴霧を停止する設定としていることが好ましい。
具体的には、温度・湿度検出器とノズル制御器とを接続して、自動制御で切り替える構成とすることが好ましい。
【0022】
さらに、前記ノズルは前記配管に対して角度調節して取り付け、該ノズルの配置高さに応じて前記ノズルの噴霧方向を相違させていることが好ましい。
例えば、30m以上の屋上や上層階に設置するノズルは、風の影響を受けやすいため、その噴射口を下向きとして噴霧し、噴霧がより上層へと吹き飛ばされにくいようにすることが好ましい。
一方、階層が低下するに連れて噴射口を外方に向けて傾斜させ、液滴が地表に到達する時間を遅延させ、かつ、液滴のままで落下して人に液滴がかからないようにすることが好ましい。
【0023】
また、第2の発明として、
ヒートアイランド対策用の三次元地域冷却システムであって、
既存の建造物の屋上あるいは/およびと該建造物の外壁面に、該建造物から外方に向けて噴霧する複数のノズルを配置し、
風向計により測定される風向き方向に、前記ノズルの噴霧方向を変える噴霧方向変換手段を備えていることを特徴とする三次元地域冷却システムを提供している。
【0024】
即ち、前記ノズルは配管に対して取付角度を変更自在に取り付け、配置位置の風向きに応じて、該ノズルの取付角度を変えて噴霧方向を変更自在としている。
この場合、風向計とノズルの角度調節機構とを連動させておくと、ノズルからの噴霧方向を風向きに応じて自動制御することができる。
具体的には、風向計により測定される風向き方向で、ノズルの噴霧方向を変えることにより、ノズルからの噴霧を風に乗せて、大気中での滞留時間を長くすることができる。例えば、風向きが南側から北側に向いている場合には、ノズルからの噴霧方向を北向きとしている。
前記ノズルの風向きに応じた噴霧方向変換手段による噴霧方向の変換は、風速1m/s〜5m/sで行う設定とすることが好ましい。
【0025】
さらに、第3の発明として、
ヒートアイランド対策用の三次元地域冷却システムであって、
既存の建造物の屋上あるいは/およびと該建造物の外壁面に、該建造物から外方に向けて噴霧する複数のノズルを配置し、
風向計により測定される風向き方向に応じて前記ノズルの噴射を停止する噴射停止手段を備えていることを特徴とする三次元地域冷却システムを提供している。
また、ノズルに向かって風が吹いた時は、一部のノズル取付用の配管に自動噴射停止機構を付加してもよい。
【0026】
具体的には、前記風向計により測定される風向きが、前記ノズルの正面方向、即ち、ノズルに向かって風が吹いた時は、噴射を停止するようにし、例えば、ノズル取付用の配管に自動噴射停止機構を設けている。これは、風向きがノズルの正面方向であると、ノズルからの噴霧が逆向きとなり建造物の壁面に当たるためである。
また、該ノズルの噴射方向に対して90度未満である場合も、ノズルからの噴射を停止することが好ましい。この場合もノズルからの噴霧が建造物の壁面に斜め方向が当たるためである。
【0027】
本発明のノズルは、高層建造物において屋上および、該屋上から所要間隔をあけた複数高さ位置の外壁に沿って同一高さ位置に配置した配管に、間隔をあけて並列に取り付けていることが好ましい。
例えば、10階のビルにおいて、屋上、6階、3階等と高さ位置が異なる複数の箇所にノズルを並列配置しておくことが好ましい。該構成とすると、地域の降温をより効果に図ることができる。
【0028】
本発明で用いるノズルは設置高さに応じて、ノズルから噴霧する水滴の平均粒径は前記のように20〜100μmの比較的広い範囲内であればよく、該範囲内において粒子径を制御したい場合はノズルの供給水圧を制御すればよい。
【0029】
前記ノズルの噴射孔の噴射口の位置は、前記建造物の外壁面の取付位置から5cm〜100cm離れた位置としていることが好ましい。
これは、ノズルの噴射口が建造物の外壁に近接すると、噴射口から噴霧の一部が建造物の外壁に当たって外壁を濡らすだけで、大気の降温化に有効に役立たないことによる。ノズルからの噴射される噴霧の殆どが大気中に滞留して降温化に作用させるには、前記のように建造物の外壁から所要寸法離すことが好ましい。
【0030】
前記ノズルの供給水圧の制御は、水源とノズル取付用の配管の間にポンプを介設しても良いが、建造物の屋上に設けた貯水タンクから該建造物の外壁に設置したノズル取付用の配管までの落差(水頭差)により発生する下降圧力によりノズルへの供給水圧を制御することができる。
【0031】
前記ノズルは前記水源に連通された配管の下流に間隔をあけて取り付け、
上記配管と水源の間に熱交換器、氷蓄熱器等の冷却器を付設し、前記ノズルから冷却水を噴霧していることが好ましい。
このように、噴霧する水滴の温度を低下させておくと、降温化に有効となる。
【0032】
また、前記ノズルに供給する水源の一部として、屋上に設置した貯水タンクに雨水受けを設けて雨水を利用し、あるいはビル内での使用済みで且つ清浄処理済の排水を再利用することが好ましい。
このように雨水や処理済み排水を利用すると、ノズルの運転コストを低減できる。
【0033】
本発明で用いるノズルとしては、樹脂製のノズル本体を備え、該ノズル重量は3〜10gの軽量ノズルとすることが好ましい。なお、金属製のノズル本体を使用しても良い。
前記のように、ノズル本体を樹脂製とすると、生産効率を高めてコストの低減を図れる。また、軽量ノズルとすることで、多数のノズルを並設する配管の強度を低くでき、既存建造物に付設するノズル配管を細く目立たないものとして、建造物の外観が損なわれないようにすることができる。
【0034】
また、ノズルの動力源の少なくとも一部に太陽光発電装置を用いると、ランニングコストを低下できる。
【発明の効果】
【0035】
前述したように、本発明の三次元地域冷却システムは、高層ビルが林立する地域において、該地域全体にヒートアイラインド現象が発生する場合に、該地域全体を冷却するに適した降温システムからなる。この地域全体を降温するには多数のノズルを配置する必要があるため、ノズル設置箇所として既存の高層ビル等の建造物を利用し、該建造物の屋上や外壁面にノズルを装着した配管を取り付けており、これにより地域的な降温を比較的簡単にコストをかけずに実現することができる。
また、ノズルから噴霧する水滴は、大気中で蒸発させることで、その気化熱で加熱空気の冷却を図ることができ、そのためには、噴霧する水滴が地表の人間に接触させない限度で、大気中での水滴の滞留時間を長くして、地表近くで蒸発させることが降温化に有効である。この観点に基づいて本発明の降温システムを提供しており、ノズルから噴霧する水滴の大気中での滞留時間を所定範囲内としていることにより、地域的な降温を効果的に図ることができる。
【0036】
さらに、第2の本発明では、風向計により測定される風向き方向に、前記ノズルの噴霧方向を変える噴霧方向変換手段を備えていることを特徴とする三次元地域冷却システムを提供している。このように、風向き方向に向けてノズルから噴霧すると、噴霧を風に乗せて大気中で滞留時間を長くでき、地域の降温化に有効に寄与することができる。
一方、第3の本発明では、風向計により測定される風向き方向がノズルの正面側に向かっている場合等では、ノズルからの噴霧が跳ね返されて建造物の壁面に当たり、壁面を濡らすだけであるため、ノズルの噴射を停止している。これにより、地域の降温化に寄与しない噴霧によりエネルギーが無駄に消費されることを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図4に第1実施形態を示す。
図1はシステム全体を示す図面であり、本実施形態では地上高さ80m(30階建)の高層ビルBに適用している。
図1では1つの高層ビルBで示しているが、図2に示すように、メインストリートRを挟んで林立する多数のビルBに図1と同様にノズル1を取り付け、これらビルBが林立する地域における大空間の降温化を図っている。
【0038】
図1に示すように、高さ80mの屋上の位置L1、50m高さ(19階)の位置L2、20m高さ(8階)の位置L3、10m高さ(4階)の位置L4の4つの異なる高さ位置L1〜L4に、それぞれビルBの外壁面B0(四角形状のビルの4辺の外壁面)に沿って配管10(10A〜10D)を取り付け、該配管10に所定間隔をあけてノズル1を取り付けている。
【0039】
前記各位置L1〜L4に配置する配管10(10A〜10D)に取り付けるノズル1は、同一形状のノズルを用い、該ノズル1は水を噴射する1流体ノズルからなる。該ノズル1の形状は特に限定されないが、本実施形態では図4に示すノズル1を用いている。
【0040】
前記屋上位置L1と設置高さ50m位置L2の配管10A、10Bには屋上BUに搭載したタンク11A、11Bに噴霧制御ユニット17A、17Bを介して夫々接続した配管13A,13Bと連通している。タンク11A、11Bには水源15から水道水を供給して貯水していると共に、雨水受け11uを付設して雨水も貯水している。
設置高さ20mのL3位置の配管10Cは、水源15からポンプP1、噴霧調整ユニット17Cを介して水道水を供給している。
設置高さ10mのL4位置の配管10Dも、水源15からポンプP2、噴霧調整ユニット17Dを介して水道水を供給している。
前記水源15から供給する水は浄化装置50を通して供給している。なお、前記雨水受けは必ずしも付設する必要はない。
【0041】
前記噴霧制御ユニット17A〜17Dからそれぞれ4本一組とした配管13A〜13Dを延在させ、前記各位置L1〜L2の4辺に配管し、同一設置高さの配管を各辺毎に制御できるようにしている。
【0042】
前記噴霧制御ユニット17A〜17Dは、温度・湿度計18、風速計19と接続したメイン噴霧制御ユニット17Xと接続し、該メイン噴霧制御ユニット17Xから前記各噴霧制御ユニット17A〜17Dへ噴霧開始信号および噴霧停止信号を送信している。
メイン噴霧制御ユニット17Xでは、気温が30℃以上、湿度が70%未満となると噴霧を開始し、30℃未満、湿度が70%以上となると噴霧を停止する設定としている。
また、風速計19で測定した風速が5m/秒以上になると噴霧を停止する信号を前記各噴霧制御ユニット17A〜17Dに送信している。
【0043】
前記80m高さの屋上に設置する配管10A、50mのL2に設置する配管10Bに供給する水は、タンク11A、11Bの水取出口の位置と配管10A、10Bの位置との落差(水頭差)により生じる下降圧力をノズル1へ供給する水の圧力として利用している。
一方、30m位置L3と10m位置L4に設置する配管10C、10DにはポンプP1、P2の吐出圧をノズル1へ供給する水の圧力としている。
【0044】
ノズル1は、図4に示すように、射出成形した樹脂からなる筒状のノズル本体2と、該ノズル本体2の噴射側壁2aの内面に固定したセラミック製のノズルチップ3からなる。
ノズル本体2は円筒状の周壁2aの一端を噴射側壁2bで閉鎖し、その中央に噴口2cを設ける一方、周壁2aの他端は開口2dとし、開口2dは前記配管10と連通し、本体2の中空部2eに流入している。
前記ノズル1は重量が3〜10g、全長を約20mmの小型軽量なノズルとしている。
【0045】
前記ノズルチップ3は大略円盤形状とし、ノズル本体2の成型時にモールドして、本体2の噴射側壁2aの内面に固定している。該ノズルチップ3は本体2の噴射側壁2bの中心の噴口2cと連通する噴射穴3aを中央部に備え、噴射穴3aから噴口2cを通して旋回流として水を噴霧する構成としている。
前記噴射穴3aは、流入側から縮径するテーパ状穴部3a−1と、該テーパ状穴部3a−1に連続して噴口2cに連通する小径穴部3a−2とからなる。また、ノズルチップ3の内面には90度間隔をあけて円弧状に湾曲させた旋回溝3bを設け、これら旋回溝3bの内周端をテーパ状穴部3a−1の周縁と連通させ、旋回溝3bを通して水を旋回させながら流入する構成としている。
【0046】
前記ノズル1は、図2(B)に示すように、ビルBの外壁面に沿って付設した配管10に100〜1000mmをあけて一定ピッチで取り付けている。ノズル1に0.3〜10MPaの水圧とした水を供給し、粒子径20〜100μmの噴霧を発生させる構成としている。
【0047】
前記ノズル1において、配管10からノズル本体2に流入する水は、噴射側において、ノズルチップ3の旋回溝3bを通り、旋回流となって噴射穴3aのテーパ状穴部3a−1に流入する。該テーパ状穴部3a−1内で、該穴部の内周面に旋回しながら衝突するため水滴が微細化され、該テーパ状穴部3a−1より噴射側の小径穴部3a−2に流入し、連通したノズル本体2の噴口2cから20〜100μmの微細な水滴として霧状に噴射している。
【0048】
高低差のある位置L1〜L4に配置したノズル1は、気温25〜40℃、湿度30〜70%、風速1m/秒以下の条件下において、ノズル1の設置高さとの関係で、該ノズル1から噴霧する水滴の大気中での滞留時間が0.6〜15秒となるように設定している。
前記した水滴の大気中での滞留時間とすると、地表より2.8mに達すると水滴量がノズルからの噴射量の0.01%未満となる。言い換えれば、99.99%の水滴が地表2.8mに達するまでに大気中で蒸発させている。
【0049】
前記高低差のある位置L1〜L4に配置したノズル1に供給する水圧は、前記のように、屋上および50m高さのL1、L2では水頭圧で調整し、L3、L4ではポンプP1、P2の吐出圧で調整している。
具体的には、80m高さのL1では水圧は0.3MPaとなり、水滴の平均粒子径を100μmとし、大気中での滞留時間を4.9〜13m/秒としている。
50m高さのL2では水圧は0.5MPaとなり、水滴の平均粒子径を85μmとし、大気中での滞留時間を4.3〜9.7m/秒としている。
20m高さのL3では圧力を2MPaとし、水滴の平均粒子径を65μmとし、大気中での滞留時間を2.1〜5.6m/秒としている。
10m高さのL4では圧力を3MPaとし、水滴の平均粒子径を50μmとし、大気中での滞留時間を1.2〜3.2m/秒としている。
【0050】
また、前記ノズル1は、図3に示すように、噴口2cをビルBの外壁面より5cm〜100cmの範囲で突出させている。各高さ位置L1〜L4の位置に応じて配管10への取付角度θを変えている。最上段のL1〜L4にかけて噴射方向を次第に外向き下方へと傾斜し、ノズル1から噴射した水滴がビルBの外壁面を濡らすことなく、大気中に噴霧される配置としている。
【0051】
前記構成からなる三次元地域冷却システムでは、ノズル1の設置高さに応じて、該ノズル1から噴霧する水滴の大気中での滞留時間を予め測定しておき、水滴が地表から2.8m位置に達するまでに大気中で略完全に蒸発させている。
これにより、蒸発時の気化熱で加熱空気を冷却して地域の大空間を降温化できると共に、地表の人間に水滴が接触しないようにできる。
【0052】
(実験例)
図5の表1に示すように、ノズルから噴霧する水滴の平均粒子径(μm)を20μm〜100μmに変え、かつ湿度を変えて(1)〜(6)の6通りで、蒸発時間(sec)を測定した。
表1に示すように、測定時の気温は30℃とし、湿度は(1)では30%、(2)〜(6)にかけて湿度を10%づつ上昇させ、(6)では湿度80%とした。
【0053】
前記測定は、位相式レーザードップラー測定器(Aerometrics社製 PDPA/LVDシステム)を用いて水滴の粒子径と流速を測定した。
詳しくは、図6に示すようにノズルを所定高さに配置し、ノズル直下の距離L0の初期測定位置、該初期測定位置L0から距離L1離れた位置、初期測定位置L0から距離L2離れた位置、初期測定位置L0から距離L3離れた位置で、水滴の測定が不可となる位置まで、それぞれ水滴の粒子径を測定すると共に、流速を測定した。
水滴の蒸発時間は、ノズルからの初速速度と距離を変更した流速結果をもとに、下式で解析し、液滴の蒸発時間を算出した。また、測定時の雰囲気気温は30℃に保持し、湿度条件を30%〜80%に変化させて測定した。
【0054】
初期位置L0を初期状態とする。
速度vo=初期速度 時間to≒0
L1までの時間t1を求める。
加速度aとすると、
【数1】

上記計算より、T=t1+t2+t3 にて蒸発時間を算出した。
【0055】
表1に示すように、水滴の平均粒子径が最小の20μmの場合は2秒以下で蒸発した。
粒径を増大するに従い、蒸発時間が長くなり、最大の100μmの場合は湿度が30%の(1)の場合は5秒かかり、湿度が70%の場合(5)は13秒、湿度80%の場合(6)では20秒を要した。
前記測定結果によれば、水滴の平均粒子径は湿度70%では大気中での滞留時間は長くなり、水滴の平均粒子径が50μmでは3秒、70μmでは6秒、100μmでは13秒となった。
即ち、湿度が高まると水滴の大気中での滞留時間が増加し、かつ、水滴の平均粒子径が増大するにつれて滞留時間が増加することが確認できた。
【0056】
前記の予め測定した大気中での滞留時間を目安とし、ノズルの設置高さに応じる地表に達するまでの時間を勘案して、地表2,8m高さ位置に達するまでに水滴が蒸発するように滞留時間を求め、求めた滞留時間からノズルから噴霧する水滴の平均粒子径を規定している。
【0057】
図7乃至図9に第2実施形態を示す。
第2実施形態では、図7に示すように、地表高さ30mのビルBの屋上にのみ、その4辺の外周壁に配管10を付設している。即ち、第1実施形態では1つのビルに異なる複数の高さ位置にノズルを設置しているが、第2実施形態では1つの高さ位置にのみノズルを設置している。また、風向計により測定される風向に応じて噴射を停止している。
【0058】
図8に示すように、同一高さ位置の取り付ける4辺の配管10F−1〜10F−4への給水を夫々制御する開閉弁30を取り付け、各辺毎にノズル1からの噴射を制御している。該開閉弁30は風向計32で測定した風向きに応じて開閉している。
即ち、図9に示すように、ノズル1の噴口2cに対して正面側に向けた風向きK1であること、および、噴口2cと垂線が成す90度に対して、90度未満の角度αとなった風向きK2であることが、風向計32で測定された場合、開閉弁30を閉鎖している。
これにより、ノズル1からの噴霧が噴霧方向と逆向きに跳ね返されて、噴霧がノズル1を取り付けてビル側に吹き付けられて、ビルの壁面を濡らす場合には噴射を停止している。
第2実施形態では配管10Fから供給する水圧は水頭圧のみとし、ポンプを用いていない。
【0059】
本実施形態では、気温30℃、湿度70%、風速1m/秒の大気条件下において、地上から30mの位置に設置したノズル1から噴霧する液滴が10mの位置に達するまでの時間が4.5〜6.0秒、噴霧時の液滴量を100%とすると前記10mの位置に1〜3%が液滴の状態で到達し、地上2.8m以下においては液滴量は噴霧時の液滴量の0.01%未満となる設定としている。
また、噴霧する液滴の平均粒子径は50〜80μmの範囲内、噴霧圧力は0.3〜3.0MPaの範囲内としている。
【0060】
使用するノズル1は、図9に示すように、ノズル本体2の中空部2e内に、旋回流発生用のワーラー50からなるアダプタを装填している。該ワーラー50は周方向に間隔をあけて斜孔50aを備え、これら斜孔50aを通過することで旋回流を発生する構成としている。
また、ワーラー50の設置位置からノズルチップ3のテーパ状の噴射穴3aに連続するノズル本体2の内周面は円錐面とし、かつ、ノズルチップ3の1段のテーパ形状の噴射穴3aとし、その内周面には旋回溝を設けていない。
前記ノズル1では、ノズル本体2の中空部2eにワーラー50を設けて旋回流れを発生させ、旋回状態でノズルチップ3の噴射穴3a内に流入させて、第1実施形態と同様に、ノズル本体2の噴口2cから微細な水滴として霧状に噴射している。
なお、前記ワーラー50を装填する代わりに、ノズル本体2の内周面に旋回溝を刻設してもよい。ノズルの他の構成は第1実施形態で用いたノズルと同様であるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0061】
また、前記ノズル1に給水するポンプ16の駆動源の一部に、屋上に設置した太陽光発電装置(図示せず)を用いている。
【0062】
本実施形態のように、1つのビルBの屋上の外周面に沿ってノズルを配置して、ノズルから噴霧を発生させても、地域の冷却に寄与させることができる。
また、さらに、1つのビルBのメインロード側に面する外壁面にのみノズルを配置して、メインロードを効率よく降温化してもよい。
なお、風向計32により測定される風向きによってノズル1からの噴射を停止する機構は、ビルの屋上に沿ってノズルを配置する場合に限定されず、前記第1実施形態のように、ビルの壁面に沿って上下複数段でノズルを取り付ける場合にも適用できる。
【0063】
図10に第2実施形態の変形例を示す。
該変形例では第1実施形態と同様な高さ80mの超高層ビルにノズルを取り付けているが、屋上にはノズルを取り付けず、高さ50mのL2位置と30mのL3位置の2つの高さ位置のみとしている。
L2位置の配管10BとL3位置の配管10Cに、夫々屋上に搭載したタンク11B、11Cから噴霧制御ユニット17B、17Cを介して配管した夫々4本一組の配管13B、13Cで連通している。図中、前記実施形態と同じ部品は同一符号を付して説明を省略する。
【0064】
本変形例においても、ポンプの吐出圧でノズル1へ供給する水圧を制御せず、タンク11B、11Cの設置位置と配管10B、10Cの設置位置との落差により生じる水頭圧をノズル1へ供給する水の圧力として利用している。
【0065】
図11に第3実施形態を示す。
第3実施形態は設置高さ50mのビルにノズルを取り付けており、50m高さの屋上のL2位置、20m高さのL3位置、10m高さのL4位置に配管10B〜10Dを設け、これらの配管10B〜10Dにノズル1をそれぞれ取り付けている。
配管10B〜10Dの各四辺は4本1組の配管13B〜13Dと夫々連通させ、これら配管13B〜13Dは噴霧調整ユニット17B〜17D、ポンプP1〜P3を介して水源15と接続している。
【0066】
第3実施形態では、L2、L3、L4位置の配管10B〜10Dに取り付けたノズル1には、夫々ポンプP1〜P3の吐出圧を負荷した水を供給し、ポンプの吐出圧でノズル1に供給する水圧を制御している。
他の構成及び作用は前記実施形態と同様であるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0067】
図12および図13に第4実施形態を示す。
第4実施形態では、風速計19により測定される風速が設定範囲である場合、風向計32により測定される風向き方向に、前記ノズルの噴霧方向を変える噴霧方向変換手段60を備えている。
該噴霧方向変換手段60として、電子制御装置62と、ノズルの噴霧方向変換手段63を備えている。
電子制御装置62は、風向計32からの風向き方向を示す測定データ、風速計19からの風速を示す測定データをAD変換器64を介して受信する受信部70と、建造物に取り付けているノズル1の噴霧角度、初期設定された噴射方向を記憶している記憶部71と、前記受信した風速データが1m/s〜5m/sの範囲であるかを判定する風速判定部72と、風向きデータとノズル1の噴射方向とを比較する風向き判定部73と、風速判定部72と風向き判定部73との両方の判定でノズルの噴射方向を変更すべきと判定された場合に、前記噴霧方向変換手段63を構成するモータ66およびノズル1へ水を供給するポンプ65に出力信号を送信する出力部74を備えている。
前記風向き判定部73は、噴霧角度が80度であるノズル1の場合、噴霧方向と風向き方向とに15度〜90度の差があれば、測定された風向き方向にノズル1の噴口を一致させるように、ノズルの噴霧方向変換手段63を動作している。
前記角度15度〜90度の範囲は、本発明者が実験により知見した角度範囲である。
【0068】
前記噴霧方向変換手段63を図13の平面図に基づいて説明する。
前記電子制御ユニット62により回転角度および回転方向を制御したモータ66は、垂直方向噴霧可変用の第1モータ66Aと、水平方向噴霧可変用の第2モータ66Bとからなる。
前記第1モータ66Aは、ビルBの外壁の一辺B−1に固定し、その出力軸66A−1の先端を傘歯車67を介して連動軸68と連結し、該連動軸68に給水管82の先端を連結して、給水管82を回転している。該給水管82はビルBの外壁から水平方向に間隔をあけて突設した支柱80に回転軸受81で回転自在に支持している。
回転軸受け81には左右方向に間隔をあけて3本のノズル取付管86を突設し、該ノズル取付管86にピン88を介して矢印で示す左右方向に揺動自在に揺動管87を連結し、該揺動管87の先端にノズル1を固定している。
【0069】
前記給水管82の一端側には前記水平方向噴霧可変用の第2モータ66Bを図13(B)に示すように固定している。該第2モータ66Bの出力軸に回転板84を固定し、該回転板84の外周部に連動軸83の一端を軸着している。該連動軸83を水平方向に延在させて、前記3本の揺動管87に固定している。
よって、第2モータ66Bにより回転板84を回転すると連動軸83が矢印で示すように左右方向に移動し、揺動管87をピン88を支点として左右方向に揺動し、ノズル1を左右の水平方向に噴霧方向を可変する。
また、前記第1モータ66Aにより給水管82自体が回転すると、ノズル取付管86、揺動管87およびノズル1を上下の垂直方向に噴霧方向を可変する。
【0070】
前記第1モータ66A、第2モータ66Bを制御する電子制御ユニット62でホンプ65の回転量を制御し、給水管82への供給水圧を風向きおよび風速に応じて制御して、ノズル1からの噴霧量も制御している。
【0071】
このように、第4実施形態では、風向きと風速に応じて、ノズル1の噴霧方向を垂直方向および水平方向に可変できると共に、噴霧量も調整しているため、ノズル1から噴射する適量の噴霧を風に乗せて、大気中での滞留時間を長くし、地域の降温化を有効に図ることができる。
他の構成および作用は前記第2実施形態と同様であるため、説明を省略する。
前記した垂直方向および水平方向の噴霧方向可変機構の部分は、フード(図示せず)等で被覆し、フードからノズル1を突出させることが好ましい。
また、垂直方向および水平方向の噴霧方向可変機構は第4実施形態の機構に限定されず、ノズル1を垂直方向および水平方向に回転可能な機構であれば適宜に採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】第1実施形態の斜視図である。
【図2】(A)が地域全体を示す概略斜視図、(B)は1つのビルに設けたノズルの噴霧状態を示す概略平面図である。
【図3】各設置位置における配管に対するノズルの設置角度を示す概略図である。
【図4】使用するノズルを示す図面である。
【図5】実験結果を示す表である。
【図6】実験状態を示す図である。
【図7】第2実施形態を示す概略図である。
【図8】第2実施形態の配管の概略図である。
【図9】第2実施形態で用いるノズルを示す図面である。
【図10】第2実施形態の変形例を示す概略斜視図である。
【図11】第3実施形態を示す概略斜視図である。
【図12】第4実施形態を示す制御部の構成を示す図面である。
【図13】(A)は噴霧方向を垂直方向および水平方向に可変する機構を示す全体概略図、(B)は一部拡大説明図である。
【符号の説明】
【0073】
1 ノズル
2 ノズル本体
10、13 配管
11 タンク
16 ポンプ
17(17A〜17D、17X) 噴霧調整ユニット
B ビル(既存建造物)
L1〜L4 ノズル設置位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートアイランド対策用の三次元地域冷却システムであって、
既存の建造物の屋上あるいは/および該建造物の外壁面に、該建造物から外方に向けて噴霧する複数のノズルを配置し、
気温25〜40℃、湿度30〜70%、風速1m/秒以下の大気中において、前記ノズルから噴霧する液滴が完全に蒸発するに要する前記大気中での滞留時間を0.6秒以上の予め規定した設定範囲内していることを特徴とする三次元地域冷却システム。
【請求項2】
ヒートアイランド対策用の三次元地域冷却システムであって、
既存の建造物の屋上あるいは/およびと該建造物の外壁面に、該建造物から外方に向けて噴霧する複数のノズルを配置し、
風向計により測定される風向き方向に、前記ノズルの噴霧方向を変える噴霧方向変換手段を備えていることを特徴とする三次元地域冷却システム。
【請求項3】
前記ノズルの風向きに応じた噴霧方向変換手段による噴霧方向の変換は、風速1m/s〜5m/sで行う設定とする請求項2に記載の三次元地域冷却システム。
【請求項4】
ヒートアイランド対策用の三次元地域冷却システムであって、
既存の建造物の屋上あるいは/およびと該建造物の外壁面に、該建造物から外方に向けて噴霧する複数のノズルを配置し、
風向計により測定される風向き方向に応じて前記ノズルの噴射を停止する噴射停止手段を備えていることを特徴とする三次元地域冷却システム。
【請求項5】
前記ノズルから噴霧する液滴の平均粒子径は20〜100μmとし、無風状態で該液滴の大気中での滞留時間を0.6〜15秒の範囲内に設定する請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の三次元地域冷却システム。
【請求項6】
前記ノズルの配置位置は少なくとも地上2.8m以上とし、
地上2.8mに達した位置での水滴の平均粒子径は20μm以下で、該2.8m位置からの水滴の大気中での滞留時間を0.6秒未満とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の三次元地域冷却システム。
【請求項7】
地上から30mの位置に設置した前記ノズルから噴霧する液滴が地上10mの位置に達するまでの時間が4.5〜6.0秒、噴霧時の液滴量を100%とすると前記10mの位置に1〜3%が液滴の状態で到達し、地上2.8mに達すると液滴量は噴霧時の液滴量の0.01%未満に設定する請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の三次元地域冷却システム。
【請求項8】
前記ノズルの配置高さが地表より16m以上、噴霧する液滴の平均粒子径は20〜100μm、噴霧圧力は0.3〜10MPaとしている請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の三次元地域冷却システム。
【請求項9】
前記ノズルの配置高さは25〜45m、前記噴霧する液滴の平均粒子径は50〜80μm、噴霧圧力は0.3〜3.0MPaとする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の三次元地域冷却システム。
【請求項10】
前記建造物の周辺の気温が30℃以上、湿度70%未満であると前記ノズルからの噴霧を開始する一方、前記気温30℃未満、湿度が70%以上、風速が5m/sを越えると噴霧を停止する請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の三次元地域冷却システム。
【請求項11】
前記ノズルは高層建造物において屋上および該屋上から所要間隔をあけた複数高さ位置の外壁に沿って同一高さ位置に配置した配管に、間隔をあけて並列に取り付けている請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の三次元地域冷却システム。
【請求項12】
前記ノズルは樹脂製のノズル本体を備え、該ノズル重量は3〜10gの軽量ノズルからなる請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の三次元地域冷却システム。
【請求項13】
前記ノズルは水源からポンプを介して接続する配管に取り付け、該ポンプの吐出圧力をノズルの噴霧圧力として用い、あるいは、
前記建造物の屋上に設けた貯水タンクから該建造物の外壁に設置したノズル取付用の配管までの落差(水頭差)により発生する下降圧力を、該配管に取り付けたノズルの噴霧圧力の全て又は一部として用いている請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載の三次元地域冷却システム。
【請求項14】
前記ノズルを取り付けた配管の上流に、熱交換器、氷蓄熱器等の冷却器を介設し、前記ノズルから冷却水を噴霧する請求項1乃至請求項13のいずれか1項に記載の三次元地域冷却システム。
【請求項15】
前記ノズルに供給する水源の一部として、屋上に設置した貯水タンクに雨水受けを設けて雨水を利用し、あるいはビル内での使用済みで且つ清浄処理済の排水を再利用する請求項1乃至請求項14のいずれか1項に記載の三次元地域冷却システム。
【請求項16】
前記ノズルの動力源の少なくとも一部に太陽光発電装置を用いている請求項1乃至請求項15のいずれか1項に記載の三次元地域冷却システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−275304(P2008−275304A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98788(P2008−98788)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(390002118)株式会社いけうち (26)
【Fターム(参考)】