説明

三次元架橋ポリウレタン、その製造方法、及びこれを用いた成形体

【課題】柔軟性と透明性に優れる成形体を与えることができる三次元架橋ポリウレタンやその製造方法を提供し、成形体の廃棄処理をする場合においても環境負荷を低減することができる三次元架橋ポリウレタンやその成形体を提供する。
【解決手段】水酸基を2つ以上有するポリ乳酸誘導体と、第一級アルコール基を2つ以上有する軟質ポリオールと、イソシアネートと、触媒とを用いて得られる三次元架橋ポリウレタンであって、触媒が、ポリ乳酸誘導体のウレタン化反応を促進させ、ポリ乳酸誘導体のウレタン化反応速度を軟質ポリオールのウレタン化反応速度に近似させる作用を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境への負荷が少なく、透明性、柔軟性及び軟質ポリオールの分散性が改良された成形体を与える三次元架橋ポリウレタンやその製造方法、これを用いて得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンは、プラスチックス材料、繊維、塗料、接着剤など、工業用材料や医用材料として幅広く開発されている。中でも柔軟性と透明性を有するポリウレタンは、光学材料や包装材料などにも使用可能となるため、適用範囲が広く有用な材料である。ポリウレタンは、ポリオールとポリイソシアネートを主成分とし、鎖延長剤などの添加剤と配合することで得られる。代表的なポリオールとしては、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールなどがあるが、地球温暖化の抑制効果を有するバイオプラスチックは生分解性でもあり環境負荷が小さいことから、バイオプラスチックをポリオールとして用いたポリウレタンの開発が行われている。
【0003】
バイオプラスチックポリオールとして、スチレン樹脂同等の強度を有し、量産化されているポリ乳酸を用いたポリウレタンが報告されている。例えば、特許文献1には両末端に水酸基を有するポリ乳酸系化合物のポリエステルジオールと、特定のイソシアネートと重合してなるウレタン樹脂がある。しかし、ポリ乳酸は剛直な分子構造を持つため、一般的にポリ乳酸系のプラスチックは柔軟性に乏しく、ポリ乳酸を用いたポリウレタンは柔軟性が要求される分野には適さない。
【0004】
本発明者は、特許文献2において、ポリ乳酸にイソシアネートに加え軟質ポリオールを反応させて架橋構造を形成することにより、靭性が大幅に向上したポリウレタンの成形体が得られることを明らかにしている。また、このポリウレタンの成形体は、三次元架橋構造を有することからポリ乳酸の結晶性が失われ、透明性を有する。
【特許文献1】特開平11−343325
【特許文献2】特願2007−298209
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、架橋構造を形成するため、軟質ポリオールとして生分解性であるポリブチレンサクシネート(PBS)とイソシアネートとをポリ乳酸に反応させた場合、PBSの量が増えるにつれ成形体の外観が不均一になり柔軟性と透明性に優れた成形体を得ることが難しくなる。この理由としては、ポリ乳酸末端の水酸基とPBS末端の水酸基の反応性の違いにあると考えられる。第二級アルコールであるポリ乳酸末端の水酸基よりも、第一級アルコールであるPBS末端の水酸基の方が反応性が高いため、PBS末端水酸基が優先的にイソシアネートと反応し、その結果、PBSのドメインとポリ乳酸のドメインが形成されこれらが相分離し、結晶化したPBSが成形体の透明性を阻害することが挙げられる。
【0006】
一般に、生分解性の軟質ポリオールは、第一級アルコール基を有し結晶性が高い。ポリ乳酸とイソシアネートとを用いて得られるポリウレタンに架橋構造を形成するために、生分解性の軟質ポリオールを用いると、PBSと同様の結果になる。このため、生分解性の軟質ポリオールを用いて得られるポリウレタンから、優れた透明性及び柔軟性を備えた均一な生分解性の成形体を得ることは困難であった。
【0007】
本発明の課題は、透明性と柔軟性に優れ、均一な成形体を与えることができる三次元架橋ポリウレタンやその製造方法を提供し、成形体の廃棄処理をする場合においても環境負荷を低減することができる三次元架橋ポリウレタンやその成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、水酸基を2つ以上有するポリ乳酸誘導体と、第一級アルコール基を2つ以上有する軟質ポリオールと、イソシアネートと、触媒とを用いて得られる三次元架橋ポリウレタンであって、ガラス転移温度が40℃以下であり、前記触媒が、前記ポリ乳酸誘導体のウレタン化反応を促進させ、前記ポリ乳酸誘導体のウレタン化反応速度を前記軟質ポリオールのウレタン化反応速度に近似させる作用を有することを特徴とする三次元架橋ポリウレタンに関する。
【0009】
また、本発明は、水酸基を2つ以上有するポリ乳酸誘導体と、第一級アルコール基を2つ以上有する軟質ポリオールと、イソシアネートと、触媒とを用いて反応させる三次元架橋ポリウレタンの製造方法であって、前記触媒が、前記ポリ乳酸誘導体のウレタン化反応を促進させ、前記ポリ乳酸誘導体のウレタン化反応速度を前記軟質ポリオールのウレタン化反応速度に近似させる作用を有することを特徴とするガラス転移温度が40℃以下の三次元架橋ポリウレタンの製造方法に関する。
【0010】
また、本発明は、上記三次元架橋ポリウレタンを用いて得られる成形体であって、透明性、柔軟性及び軟質ポリオールの分散性に優れることを特徴とする成形体に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の三次元架橋ポリウレタンは、透明性と柔軟性に優れ、均一な成形体を与えることができる三次元架橋ポリウレタンやその製造方法を提供し、成形体の廃棄処理をする場合においても環境負荷を低減することができる。また、成形体の製造時間の短縮を図ることができ、効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究の結果、第一級アルコール基を有する軟質ポリオールとイソシアネートとの反応速度と、ポリ乳酸誘導体とイソシアネートとの反応速度とを近似させることにより、軟質ポリオールがポリ乳酸誘導体より優先的にイソシアネートと反応するのを抑制することができ、不透明性の誘因となる軟質ポリオールのドメインの形成を抑制し、透明性、柔軟性及び軟質ポリオールの分散性に優れた三次元架橋ポリウレタンを形成できることの知見を得た。これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明の三次元架橋ポリウレタンは、水酸基を2つ以上有するポリ乳酸誘導体と、第一級アルコール基を2つ以上有する軟質ポリオールと、イソシアネートと、触媒とを用いて得られる三次元架橋ポリウレタンであって、ガラス転移温度が40℃以下であり、触媒が、ポリ乳酸誘導体のウレタン化反応を促進させ、ポリ乳酸誘導体のウレタン化反応速度を軟質ポリオールのウレタン化反応速度に近似させる作用を有することを特徴とする。
【0014】
[ポリ乳酸誘導体]
本発明において用いるポリ乳酸誘導体は、水酸基を2つ以上有し、この官能基を起点として架橋を形成し、三次元構造を形成する。三次元構造を形成するためには、ポリ乳酸誘導体が2つの水酸基を有するものであれば、軟質ポリマーが3つ以上の水酸基を有するか又はイソシアネートが3つ以上のイソシアネート基を有することが必要である。ポリ乳酸誘導体が3つ以上の水酸基を有するものであれば、軟質ポリマーが2つ以上の水酸基を有するか又はイソシアネートが2つ以上のイソシアネート基を有するものであればよい。
【0015】
ポリ乳酸誘導体としては、乳酸又は乳酸誘導体を重合したものをいい、L−乳酸、D−乳酸を重合して得られるポリ乳酸の他に、乳酸とエステル形成能を有するその他のモノマーを共重合した共重合体であってもよい。かかる共重合体を構成するモノマーとしては、例えば、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸等のヒロドキシカルボン酸等を挙げることができる。
【0016】
ポリ乳酸又は共重合体は、乳酸又は乳酸と上記ヒドロキシカルボン酸の脱水縮重合により製造することができる。また、乳酸の環状2量体であるラクチド又はラクチドと上記ヒドロキシカルボン酸の環状物を、開環共重合しても製造できる。これらのポリ乳酸及び共重合体は、バイオマス原料から得られるモノマー、オリゴマー、ポリマー、又はこれらの誘導体若しくは変性体を用いて合成される縮重合物、又は天然物抽出物、若しくはこれらの誘導体や変性体の他、バイオマス原料以外を原料とする合成物であってもよい。廃棄処理する際に環境負荷の低減を図るため、特に、生分解性に優れたものが好ましい。
【0017】
ポリ乳酸誘導体が有する2つ以上の水酸基は、第ニ級アルコール基を構成するものである。ここで、第二級アルコール基は、水酸基が結合する炭素原子に1つの水素原子が結合した基である。
【0018】
ポリ乳酸誘導体に2以上の水酸基を導入する方法としては、付加反応、縮合反応、共重合反応等一般的な化学反応を用いることができる。ポリ乳酸は鎖中にエステル構造を有し、末端に水酸基又はカルボン酸基を持つことから、特に、エステル交換反応及びエステル化反応による官能基の導入が有効である。
【0019】
例えば、官能基として末端に水酸基を有するポリ乳酸誘導体とするためには、2つ以上の水酸基を有する化合物を用いてエステル交換すればよい。
【0020】
かかる2つ以上の水酸基を有する化合物として、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の2価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ヘキサントリオール等の3価アルコール、ペンタエリスリトール、メチルグリコシド、ジグリセリン等の4価アルコール、トリグリセリン、テトラグリセリン等のポリグリセリン、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等のポリペンタエリスリトール、テトラキス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサノール等のシクロアルカンポリオール、ポリビニルアルコールを挙げることができる。また、アドニトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、イジトール、タリトール、ズルシトール等の糖アルコール、グルコース、マンノースグルコース、マンノース、フラクトース、ソルボース、スクロース、ラクトース、ラフィノース、セルロース等の糖類を挙げることができる。多価フェノールとしてはピロガロール、ハイドロキノン、フロログルシン等の単環多価フェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールスルフォン等のビスフェノール類、フェノールとホルムアルデヒドの縮合物(ノボラック)等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
また、2つ以上のヒドロキシ基を持つ化合物を開始剤としたラクチドの開環重合を用いても、複数のヒドロキシ基を持つポリ乳酸誘導体を得ることができる。
【0022】
上記ポリ乳酸誘導体は2つの水酸基の他、架橋構造を形成する起点となる他の官能基を有していてもよい。かかる官能基としては、具体的には、カルボキシル基、イソシアネート基、アミノ基、エポキシ基等を挙げることができる。
【0023】
ポリ乳酸誘導体の数平均分子量としては、100〜1,000,000の範囲を挙げることができ、1,000〜100,000であることが好ましく、より好ましくは2,000〜50,000である。ポリ乳酸誘導体の数平均分子量が100以上でれば、機械的特性や加工性に優れる成形体が得られ、1,000,000以下であれば、ポリ乳酸誘導体の結晶化を抑制できる充分な密度で架橋を形成し得る。
【0024】
[軟質ポリオール]
本発明において用いる軟質ポリオールは、イソシアネートと反応してポリウレタンに3次元構造を形成すると共に、剛直なポリ乳酸誘導体とイソシアネートにより形成されるポリウレタンに柔軟性を付与する。軟質ポリオールが有する2つ以上の第一級アルコール基は反応性が高く、第一級アルコール基を有する軟質ポリオールは、生分解性のものが多い。ここで、第一級アルコール基は、炭素原子に2つの水素原子と1つの水酸基とが結合した基である。
【0025】
上記軟質ポリオールは第一級アルコール基を起点として、ポリウレタンに三次元構造を形成するものである。三次元構造を形成するためには、軟質ポリオールが第一級アルコール基を2つ有する場合、ポリ乳酸誘導体が3つ以上の水酸基を有するものであるか、又はイソシアネートがイソシアネート基を3つ以上有するものであることが必要である。軟質ポリオールが第一級アルコール基を3つ以上有する場合、ポリ乳酸誘導体が2つ以上の水酸基を有するものであるか、又はイソシアネートがイソシアネート基を2つ以上有するものであることが好ましい。
【0026】
上記軟質ポリオールは、バイオマス原料から得られるモノマー、オリゴマー、ポリマー、又はこれらの誘導体若しくは変性体を用いて合成される縮重合物、又は天然物抽出物、若しくはこれらの誘導体や変性体や、バイオマス原料以外を原料とする合成物であってもよいが、生分解性であることが、廃棄処理する際に環境負荷の低減を図ることができるため、好ましい。
【0027】
上記軟質ポリオールとしては、具体的には、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート等のジカルボン酸とジオールからなるポリエステル類等の他、分枝状アルカンの主鎖及び側鎖の末端に水酸基を有する多価アルコール等を挙げることができる。これらは誘導体や変性体として使用することもでき、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
上記軟質ポリオールに2以上の第一級アルコール基を導入する方法としては、上記ポリ乳酸誘導体に水酸基を導入する方法と同様の方法を採用することができる。例えば、軟質ポリオールが、ジカルボン酸とジオールとから合成されるポリエステル類の場合、使用するジオールとジカルボン酸のモル比ジオール/ジカルボン酸を1より大きくすることにより、末端を総て第一級アルコール基にすることができる。また、軟質ポリオールと2つ以上の水酸基を有する化合物のエステル交換反応により、末端を第一級アルコール基とするエステルが得られる。更に、3官能以上のポリイソシアネートやエポキシ化合物との反応により、軟質ポリオールの第一級アルコール基の官能基数を増やすことができる。
【0029】
上記軟質ポリオールの数平均分子量としては、100〜1,000,000の範囲を挙げることができ、500〜100,000であることが好ましく、より好ましくは1,000〜50,000である。軟質ポリオールの数平均分子量が100以上であれば、機械的特性や加工性に優れた成形体を得ることができ、1,000,000以下であれば、架橋密度が高く、優れた透明性を有する成形体を得ることができる。
【0030】
このような軟質ポリオールはガラス転移温度(Tg)が30℃未満であることが好ましい。軟質ポリオールのTgが30℃未満であれば、軟質ポリオールはTg以上の温度で柔軟になりゴム性状を示し、ポリウレタンの靭性を向上できる上、衝撃特性の向上も期待できる。
【0031】
Tgはセイコーインスツルメント社製DSC測定装置(商品名:DSC6000)を用いて、昇温速度10℃/分で行う測定値を採用することができる。
【0032】
[イソシアネート]
本発明において用いるイソシアネートは、ポリ乳酸誘導体の水酸基又は軟質ポリオールの第一級アルコール基の水酸基と結合し、架橋を形成する少なくとも2つのイソシアネート基を有する。イソシアネートは、ポリ乳酸誘導体又は軟質ポリオールの水酸基が2つの場合、イソシアネート基を3つ以上有することが必要である。
【0033】
イソシアネ−トとしては、具体的には、カルボジイミド変性MDI、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシアネート等を挙げることができる。これらのうち、特に、アミノ酸誘導可能なリジンジイソシアネートやリジントリイソシアネートは、天然物由来のリンカーであり、好ましい。
【0034】
ここで、リンカーとは、ポリ乳酸誘導体と結合してポリウレタンを形成しつつ、ポリ乳酸誘導体間に架橋構造を形成し、三次元架橋構造のポリウレタンを形成するものである。
【0035】
[触媒]
本発明において用いる触媒は、ポリ乳酸誘導体のウレタン化反応を促進させ、ポリ乳酸誘導体のウレタン化反応速度を軟質ポリオールのウレタン化反応速度に近似させる作用を有する。触媒の作用により、ポリ乳酸誘導体の第二級アルコール基の水酸基とイソシアネートとの反応を促進させ、軟質ポリオールの第一級アルコール基の水酸基とイソシアネートとの反応性に富む反応が先行して進行するのを是正して、反応系にこれらの反応を均一に生じさせる。ポリ乳酸誘導体のウレタン化反応と軟質ポリオールのウレタン化反応とを反応系に均一に生じさせることにより、反応系におけるポリ乳酸誘導体と、軟質ポリオールとの分散性が向上し、軟質ポリオールのドメインの形成を抑制することができ、軟質ポリオールの結晶化が阻害されるため、透明性に優れる成形体を得ることができる。
【0036】
上記触媒としては、オクチル酸錫、ジラウリン酸ジブチル錫、チタン酸2−エチルヘキシル、塩化錫、塩化鉄、硝酸ビスマス、ナフテン酸亜鉛、アンチモントリクロリド等の有機金属触媒や、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ジメチルエタノールアミンなどのアミン触媒を用いることができる。特に、オクチル酸錫やジラウリン酸ジブチル錫は安全性が高いことから好適である。
【0037】
触媒の添加量はそれぞれの触媒活性に依存するが、ポリ乳酸誘導体と軟質ポリオールとの合計の質量に対し、1質量ppm以上、1質量%以下であることが好ましい。触媒の添加量が1質量ppm以上であれば、ポリ乳酸誘導体の末端の水酸基の反応性を向上させることができ、ポリ乳酸誘導体と軟質ポリオールとを反応系に均一に分散させることができ、成形時間も短縮することができる。また、1質量%以下であれば、反応の進行が制御不能になるのを抑制することができる。
【0038】
このような触媒を使用することにより、ポリウレタン架橋形成反応も促進され、三次元架橋ポリウレタンを効率よく製造することができる。
【0039】
[三次元架橋ポリウレタン]
本発明の三次元架橋ポリウレタンの製造方法は、水酸基を2つ以上有するポリ乳酸誘導体と、第一級アルコール基を2つ以上有する軟質ポリオールと、イソシアネートと、触媒とを用いて反応させる三次元架橋ポリウレタンの製造方法であって、触媒が、ポリ乳酸誘導体のウレタン化反応を促進させ、ポリ乳酸誘導体のウレタン化反応速度を軟質ポリオールのウレタン化反応速度に近似させる作用を有することを特徴とするガラス転移温度が40℃以下の三次元架橋ポリウレタンの製造方法である。
【0040】
上記三次元架橋ポリウレタンの製造方法としては、例えば、予め調製した未硬化のポリ乳酸誘導体と、軟質ポリオールと、イソシアネートと、触媒とを混合し、一部反応させ架橋して重合体組成物(プレポリマー)を調製し、これを架橋、硬化して成形体の成形と同時に三次元構造を形成することができる。また、未硬化のポリ乳酸誘導体、軟質ポリオール、イソシアネート、触媒を混合して未硬化混合組成物を調製し、架橋、硬化して成形体の成形と同時に三次元構造を形成してもよい。
【0041】
上記三次元架橋ポリウレタン中のポリ乳酸誘導体と軟質ポリマーとの質量比は、70:30〜10:90が好ましく、70:30〜50:50がより好ましい。ポリ乳酸誘導体の質量比が70以下であれば、軟質ポリマーの添加によって成形体において優れた高靭性・低弾性を持つ柔軟な成形体が得られ、耐衝撃性や耐落下衝撃性の向上も期待できる。架橋によりポリ乳酸の結晶性が低下し、透明な成形体が得られる。一方、軟質ポリオールの質量比が30以上50以下であれば透明な成形体が得られ、質量比が50より大きく90以下であれば半透明な形体を得ることができのは、軟質ポリオールの均一な分散により結晶化が抑制され、結晶サイズの微小化によるためである。
【0042】
上記三次元架橋ポリウレタン中のイソシアネートの含有量は、架橋密度に応じて調整すればよい。イソシアネートの含有量としては、ポリ乳酸誘導体の水酸基と軟質ポリオールの水酸基の合計と、イソシアネートのイソシアネート基のモル比が0.9〜1.1:1となる範囲であることが、強度の面から好ましい。
【0043】
上記架橋は、予め調整した未硬化のポリ乳酸誘導体と、軟質ポリマーと、イソシアネートと、触媒とを混合し、一部反応させ架橋して重合体組成物(プレポリマー)を調製し、これを架橋・硬化して成形体の成形と同時に三次元架橋を形成することができる。また、未硬化のポリ乳酸誘導体、軟質ポリマー、イソシアネート、触媒を混合して未硬化組成物(混合組成物)を調製し、架橋・硬化して成形体の成形と同時に三次元架橋を形成することができる。また、これらの重合体組成物や、未硬化組成物をクロロホルム等の溶媒に溶解し、キャストすることでポリウレタンフィルムを調製することができる。
【0044】
三次元架橋ポリウレタンのTgは40℃以下である。三次元架橋ポリウレタンのTgが40℃以下であれば、柔軟性と透明性に優れたものとなる。三次元架橋ポリウレタンのTgは、架橋密度を変動させることにより調整することができる。具体的には、ポリ乳酸誘導体や軟質ポリマーの分子量を下げる、これらの水酸基を含む官能基の数を増加して、架橋密度を上昇させポリウレタンのTgを上昇させることができる。また、ポリ乳酸誘導体や軟質ポリマーの分子量を上げる、これらの水酸基を含む官能基の数を減少して、架橋密度を減少させポリウレタンのTgを低下させることができる。
【0045】
上記三次元架橋ポリウレタンはその特性を損なわない範囲で、適宜、必要に応じて、無機フィラー、有機フィラー、補強材、着色剤、安定剤(ラジカル捕捉剤、酸化防止剤等)、抗菌剤、防かび材、難燃剤等の添加剤を含有していてもよい。無機フィラーとしては、シリカ、アルミナ、タルク、砂、粘土、鉱滓等を使用できる。有機フィラーとしては、ポリアミド繊維や植物繊維等の有機繊維を使用できる。補強材としては、ガラス繊維、炭素繊維、ポリアミド繊維、ポリアリレート繊維、針状無機物、繊維状フッ素樹脂等を使用できる。抗菌剤としては、銀イオン、銅イオン、これらを含有するゼオライト等を使用できる。難燃剤としては、シリコーン系難燃剤、臭素系難燃剤、燐系難燃剤、無機系難燃剤等を使用できる。耐加水分解安定剤としてカルボジイミド系改質剤等を使用できる。
【0046】
[成形体]
本発明の成形体は、上記三次元架橋ポリウレタンを用いて得られる成形体であって、透明性、柔軟性及び軟質ポリオールの分散性に優れる。
【0047】
本発明の成形体の製造は、上記三次元架橋ポリウレタンを用い、トランスファー成形、RIM成形、圧縮成形、射出成形、発泡成形、光硬化成形等の成形方法を使用し、ポリ乳酸誘導体の分解温度未満で成形する方法によればよい。
【0048】
上記成形体は、光学材料、包装材料、繊維、塗料、接着剤、工業用材料、医用材料等に適用することができる。特に、柔軟性と透明性とが要請される光学材料、包装材料等に好適である。廃棄する場合、焼成せずに、環境に放置することにより、日光や水の作用や、バイオサイクルに取り込まれ、容易に生分解される。また、本発明の成形体で30℃以上のTgを持つものは、形状記憶性を示す。
【実施例】
【0049】
以下に実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されない。
【0050】
以下、特に明記しない限り、試薬等は市販の高純度品を用いた。数平均分子量は、NMRにより測定した水酸基の濃度から算出するか、又はゲルパーミエーションクロマトグラム法により測定し、標準ポリスチレンを用いて換算した。
【0051】
三次元架橋ポリウレタンのTgが40℃以下のものは柔軟性を有する。透明性は目視で、透明は○、半透明は△、不透明は×とした。
【0052】
[実施例1〜5]
[ポリ乳酸の合成]
ポリ乳酸(テラマック:ユニチカ社製)2300gとソルビトール79.6gを210℃で12時間溶融混合しエステル交換反応を行った。これをクロロホルム5Lに溶解し、過剰のメタノールに注ぎ再沈殿することで、末端に水酸基を有するポリ乳酸[R1]を得た。数平均分子量は6900、Tgは50.6℃、融点(Tm)は146℃であった。
【0053】
【化1】

【0054】
[軟質ポリオール(ポリブチレンサクシネート(PBS))の合成]
ポリブチレンサクシネート(ビオノーレ:昭和高分子社製)2000gと1,4−ブタンジオール370gを200℃で4時間加熱後、さらに減圧下1時間加熱し、エステル交換反応を行った。これをクロロホルム6Lに溶解し、過剰のメタノールに注ぎ再沈殿することで、末端に水酸基を有するポリブチレンサクシネート[R2]を得た。数平均分子量は2300、Tgは−40℃、Tmは85℃であった。
【0055】
【化2】

【0056】
[三次元架橋ポリウレタンの調製]
得られた[R1]20gと、触媒として、ジラウリン酸ジブチル錫(IV)0.208gとを180℃で溶融混合後、空冷し乳鉢ですりつぶし、マスターバッチ[R3]を調製した。
【0057】
ポリ乳酸[R1]、PBS[R2]、マスターバッチ[R3]を、表1の実施例1〜4に示す配合比となるように、溶融混合後(180℃)、イソシアネートとして1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートホモポリマー(TPA−100:旭化成ケミカルズ(株)製)[R4]を、ポリ乳酸[R1]、PBS[R2]、マスターバッチ[R3]の末端水酸基とイソシアネート[R4]のイソシアネート基が同モル量となるよう添加した。さらに、180℃で5分間圧縮成形し、三次元架橋ポリウレタンフィルムを得た。
【0058】
【化3】

【0059】
得られた三次元架橋ポリウレタンフィルムのTgを上記方法により測定し、柔軟性及び透明性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
[比較例1]
PBS[R2]を用いない他は、実施例1と同様に、三次元架橋ポリウレタンフィルムを作製し、Tgを測定し、柔軟性及び透明性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
[比較例2]
ポリ乳酸[R1]とPBS[R2]の配合比を90:10とした他は、実施例1と同様に、三次元架橋ポリウレタンフィルムを作製し、Tgを測定し、柔軟性及び透明性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
[比較例3]
ポリ乳酸[R1]を用いない他は、実施例1と同様に、三次元架橋ポリウレタンフィルムを作製し、Tgを測定し、柔軟性及び透明性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0063】
[比較例4〜10]
マスターバッチ[R3]を用いない他は、表2に示す配合比で、実施例1と同様に、三次元架橋ポリウレタンフィルムを作製し、Tgを測定し、柔軟性及び透明性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
実施例1〜4において、触媒を用いて調製した三次元架橋ポリウレタンフィルムは、透明から半透明のものが得られ、Tgが40℃以下であることから、柔軟性を有することが分かった。
【0067】
これに対し、比較例1、2で得られる三次元架橋ポリウレタンフィルムは、透明であるが柔軟性を有さず、比較例3で得られる三次元架橋ポリウレタンフィルムは、柔軟性を有するが白濁し不透明になった。
【0068】
また、比較例4〜10において、触媒を使用しないで調製した第三次元架橋ポリウレタンフィルムは、ポリ乳酸誘導体と軟質ポリマーの配合比が70:30以下であれば、Tg40℃以下となり、柔軟性を示したが、不均一に白濁し透明性が低下した。図1に、ポリ乳酸誘導体と軟質ポリマーの配合比が30:70で、触媒を使用した実施例3と触媒を不使用の比較例8で得られた三次元架橋ポリウレタンフィルムの写真による撮影画像を示す。実施例3で得られたフィルムは均一な半透明であるのに対し、比較例8で得られたフィルムは不均一に白濁していた。
【0069】
これらの結果から、触媒の使用により、軟質ポリオールの分散性が向上し、透明性と柔軟性を有する三次元架橋ポリウレタンが得られることが分かる。これは、ポリ乳酸誘導体のウレタン化反応と軟質ポリオールのウレタン化反応との反応性を近似させることができたためである。また、触媒を用いることにより、成形時間の短縮を図ることができ、ポリ乳酸誘導体と軟質ポリオールの含有比を調整することにより、Tgや弾性率を調整することができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
このように柔軟性と透明性に優れた三次元架橋ポリウレタンは、光学材料、包装材料、繊維、塗料、接着剤、工業用材料、医用材料に応用することができる。特に柔軟性と透明性が必要とされる、眼鏡レンズ、フィルム、シート、テープの材料として好適である。また、Tgが30℃以上であれば形状記憶性も発現するので、パーソナルコンピューターや携帯電話等の電子機器の外装材、ねじ、締め付けピン、スイッチ、センサー、情報記録装置、OA機器等のローラー、ベルト等の部品、ソケット、パレット等の梱包材、冷暖房空調機の開閉弁、熱収縮チューブ等に使用することができる。他にも、バンパー、ハンドル、バックミラー等の自動車用部材、ギブス、おもちゃ、眼鏡フレーム、補聴器、歯科矯正用ワイヤー、床ずれ防止寝具等の家庭用部材等として、各種分野に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の三次元架橋ポリウレタンの実施例3と比較例8で得られた三次元架橋ポリウレタンフィルムの写真による撮影画像を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基を2つ以上有するポリ乳酸誘導体と、第一級アルコール基を2つ以上有する軟質ポリオールと、イソシアネートと、触媒とを用いて得られる三次元架橋ポリウレタンであって、ガラス転移温度が40℃以下であり、前記触媒が、前記ポリ乳酸誘導体のウレタン化反応を促進させ、前記ポリ乳酸誘導体のウレタン化反応速度を前記軟質ポリオールのウレタン化反応速度に近似させる作用を有することを特徴とする三次元架橋ポリウレタン。
【請求項2】
前記ポリ乳酸誘導体と前記軟質ポリオールとを質量比70:30〜10:90で含有することを特徴とする請求項1記載の三次元架橋ポリウレタン。
【請求項3】
前記軟質ポリオールが、ガラス転移温度が30℃未満であることを特徴とする請求項1又は2記載の三次元架橋ポリウレタン。
【請求項4】
前記軟質ポリオールが生分解性であることを特徴とする請求項1から3のいずれか記載の三次元架橋ポリウレタン。
【請求項5】
前記軟質ポリオールがポリブチレンサクシネートを含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか記載の三次元架橋ポリウレタン。
【請求項6】
水酸基を2つ以上有するポリ乳酸誘導体と、第一級アルコール基を2つ以上有する軟質ポリオールと、イソシアネートと、触媒とを用いて反応させる三次元架橋ポリウレタンの製造方法であって、前記触媒が、前記ポリ乳酸誘導体のウレタン化反応を促進させ、前記ポリ乳酸誘導体のウレタン化反応速度を前記軟質ポリオールのウレタン化反応速度に近似させる作用を有することを特徴とするガラス転移温度が40℃以下の三次元架橋ポリウレタンの製造方法。
【請求項7】
前記ポリ乳酸誘導体と前記軟質ポリオールとを質量比70:30〜10:90で含有することを特徴とする請求項6記載の三次元架橋ポリウレタンの製造方法。
【請求項8】
前記軟質ポリオールが、ガラス転移温度が30℃未満であることを特徴とする請求項6又は7記載の三次元架橋ポリウレタンの製造方法。
【請求項9】
前記軟質ポリオールが生分解性であることを特徴とする請求項6から8のいずれか記載の三次元架橋ポリウレタンの製造方法。
【請求項10】
前記軟質ポリオールがポリブチレンサクシネートを含むことを特徴とする請求項6から9のいずれか記載の三次元架橋ポリウレタンの製造方法。
【請求項11】
請求項1から5のいずれか記載の三次元架橋ポリウレタンを用いて得られる成形体であって、透明性、柔軟性及び軟質ポリオールの分散性に優れることを特徴とする成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2010−150411(P2010−150411A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330763(P2008−330763)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】