説明

三次元造形用材料及びこれを使用する三次元造形物の製造方法

【課題】短時間にかつ低コストで、機械的強度に優れる三次元造形物を製造する材料及びこの材料を使用する製造方法を提供すること。
【解決手段】1)(A)結合剤、及び、(B)粉末材料からなり、前記結合剤は、有機酸残基及び/又は有機酸塩残基を2以上有する側鎖を有するポリマーを含有し、前記粉末材料は、(i)カチオン性残基及び/又はカチオン性残基に誘導しうる基を側鎖に有するポリマー、又は(ii)アルカリ土類金属イオンを含む粉末、を含有する、三次元造形用材料、又は2)(A)結合剤、及び、(B)粉末材料からなり、前記粉末材料は、有機酸残基及び/又は有機酸塩残基を2以上有する側鎖を有するポリマーを含有し、前記結合剤は、カチオン性残基及び/又はカチオン性残基に誘導しうる基を側鎖に有するポリマーを含有する、三次元造形用材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元造形用材料及びこれを使用する三次元造形物の製造方法に関し、更に詳しくは、対象とする三次元造形物を平行な複数の断面により切断した断面形状を逐次積層することにより三次元造形物を製造する方法及びこれに使用する三次元造形用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、立体的な造形対象物を平行な複数の面で切断した断面形状とし、各断面形状に対応させて粉末材料の薄層を結合剤により結合し、この結合された薄層よりなる断面形状を順次積層させることによって、造形対象物の三次元モデルとなる造形物を作成する技術が知られている。
【0003】
このような技術は、ラピッドプロトタイピングと呼ばれ、部品試作及びデザイン確認用途などに利用することができる。近年、安価かつ高速、さらにはカラーモデリング作成に適するインクジェットを利用する方式のものが提案されており、例えば特許文献1に開示されたものがある。この立体造形の具体的な手順を以下に説明する。
【0004】
まず、ブレード機構により粉末材料を平らな表面上に均一な厚さを有する薄層に拡げ、この粉末材料の薄層表面に、インクジェットノズルヘッドを走査させて、造形対象物を平行な断面により切断した断面形状に対応させて、結合剤を吐出する。結合剤が吐出された領域の粉末材料は、必要な操作を施すことにより、粉末材料を接合状態にするとともに、既に形成済の下層の断面形状とも結合する。そして、造形物全体が完成するまで、粉末材料の薄層を上部に順次積層しながら、結合剤を吐出する工程を繰り返す。最終的に、結合剤が吐出されなかった領域は、粉末材料が個々に独立して互いに接合しない状態であるため、造形物を装置から取り出す際に、粉末材料は容易に除去することができ、目的とする造形物が分離できる。以上の操作により、所望の三次元造形物が製造できる。
【0005】
また、同様な方法で、イエロー(Y)、マゼンタ(M)又はシアン(C)のいずれかに着色を施した結合剤を吐出することにより、着色した三次元造形物を得る、例えば特許文献2が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特許第2729110号公報
【特許文献2】特開2001−150556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の手法では、造形物の特性(機械的強度、質感、色)が所望のレベルには至らないのが実状である。特に、より大きな機械的強度を有する三次元造形物を得ることは、従来の方法では達成困難である。
【0008】
特に、製造直後の三次元造形物は結合剤による接合力のみにより造形されているため、三次元造形物の取り扱い方法によっては強度が弱く壊れてしまう場合もある。そこで、従来、製造後の三次元造形物の粉末材料粒子の間に樹脂及びワックスなどを含浸させることにより強度を増大させてきた。しかしながら、このような工程は手間と時間を要する。
【0009】
本発明は、短時間にかつ低コストで、機械的強度に優れる三次元造形物を製造する材料及びこの材料を使用する製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、以下に記載するような特定の相互作用を有する結合剤と粉末材料を組合せた三次元造形用材料を用いること、及び、このような三次元造形用材料を使用した三次元造形物の製造方法により、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
以下に本発明1)、2)及び3)を好ましい実施態様4)と共に列記する。
1)(A)結合剤、及び、(B)粉末材料からなり、前記結合剤は、有機酸残基及び/又は有機酸塩残基を2以上有する側鎖を有するポリマーを含有し、前記粉末材料は、(i)カチオン性残基及び/又はカチオン性残基に誘導しうる基を側鎖に有するポリマー、又は(ii)アルカリ土類金属イオンを含む粉末、を含有することを特徴とする、三次元造形用材料、
2)(A)結合剤、及び、(B)粉末材料からなり、前記粉末材料は、有機酸残基及び/又は有機酸塩残基を2以上有する側鎖を有するポリマーを含有し、前記結合剤は、カチオン性残基及び/又はカチオン性残基に誘導しうる基を側鎖に有するポリマーを含有することを特徴とする、三次元造形用材料、
3)支持体上に粉末材料を所定の厚さを有する層に形成する工程、及び、造形対象物を平行な断面で切断した断面形状になるように粉末材料層を結合剤により結合させる工程を順次繰り返すことを含み、前記結合剤及び前記粉末材料として1)又は2)に記載の三次元造形用材料を用いることを特徴とする、三次元造形物の製造方法、
4)粉末材料層を結合剤により結合させる前記工程が、結合剤をインクジェットにより吐出する工程を含む、3)に記載の三次元造形物の製造方法。
なお、本発明において、「有機酸残基及び/又は有機酸塩残基」を「有機酸(塩)残基」ともいうこととする。また、「カチオン性残基及び/又はカチオン性残基に誘導しうる基」を「カチオン性残基(誘導可能基)」ともいうこととする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の三次元造形用材料によれば、機械的強度に優れた三次元造形物が得られ、また、本発明の三次元造形用材料の製造方法によれば、機械的強度に優れた三次元造形物が得られる製造方法を提供できた。機械的強度が高まる理由は、結合剤と粉末材料との間に強固なイオン性の相互作用が働いたためと推定される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の三次元造形用材料について説明する。
本発明の三次元造形用材料は、上記の1)又は2)の組合わせからなり、いずれも結合剤及び粉末材料に存在する特定のイオン性残基の組合わせは似ており、これらの特定の残基が結合剤と粉末材料のどちらに存在するかがほぼ逆の関係になっている:
1)(A)結合剤、及び、(B)粉末材料からなり、前記結合剤は、有機酸(塩)残基を2以上有する側鎖を有するポリマーを含有し、前記粉末材料は、(i)カチオン性残基(誘導可能)基を側鎖に有するポリマー、又は(ii)アルカリ土類金属イオンを含む粉末、を含有することを特徴とする、三次元造形用材料、
2)(A)結合剤、及び、(B)粉末材料からなり、前記粉末材料は、有機酸(塩)残基を2以上有する側鎖を有するポリマーを含有し、前記結合剤は、カチオン性残基(誘導可能)基を側鎖に有するポリマーを含有することを特徴とする、三次元造形用材料。
【0013】
以下にまず上記1)の結合剤、及び、粉末材料の順に説明する。
−1)記載の三次元造形用材料における結合剤−
この結合剤は、有機酸(塩)残基を2以上有する側鎖を有するポリマーを主成分として含有する。具体的な実施態様としては、このようなポリマーの溶液が好ましい。このようなポリマー粒子を微粒子として含むラテックスも使用できる。このような結合剤は、粉末材料同士を結合する役割を有し、粉末材料と一体となって乾燥することによって粉末材料を互いに強固に接着させ、機械的強度の高い三次元造形物を与えることができる。
以下に、本発明に使用される結合剤に含有されるポリマーに関して詳細に説明する。
【0014】
(有機酸(塩)残基を2以上有する側鎖を有するポリマー)
本発明に使用する結合剤に主成分として含有されるポリマーの一つの態様は、有機溶剤、又は好ましくは水に可溶な線状ポリマーであり、付加重合により合成された線状ポリマーであることが好ましく、エチレン性不飽和化合物の付加重合体であることがより好ましく、モノマー単位に有機酸(塩)残基を2以上有する側鎖を有することが特に好ましい。
モノマー単位の側鎖にある上記の有機酸(塩)残基は同一でも異なっていてもよい。
この側鎖は、有機酸(塩)残基を2以上含み、アルカリ土類金属などの多価金属イオンに対して塩を形成することができるか、又は、多価金属イオンと配位結合を形成することができるような化学構造を有することが好ましい。後に詳述する。
【0015】
有機酸(塩)残基を2以上有する側鎖を有するポリマーにおいて、有機酸残基として、下記(1)〜(6)が例示でき、その塩としては、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が好ましい。有機酸(塩)残基を2以上有する側鎖を有するポリマーは、以下の有機酸(塩)残基をその側鎖に合計して2以上有すればよく、その有機酸(塩)残基は同一でも異なっていても良い。以下の記載には、単一の有機酸(塩)残基として説明する。
以下に示す同一の有機酸(塩)残基を2以上有するエチレン性不飽和化合物を(共)重合してもよく、また、異なる有機酸(塩)残基を2以上有するエチレン性不飽和化合物を(共)重合してもよく、いずれも本発明に使用する上記ポリマーを合成することができる。
(1)フェノール性水酸基(−Ar−OH)
(2)スルホンアミド基(−SO2NH−R、−SO2NH2
(3)置換スルホンアミド系酸基(以下、「活性イミド基」ともいう。)
〔−SO2NHCOR、−SO2NHSO2R、−CONHSO2R〕
(4)カルボン酸基(−COOH)
(5)スルホン酸基(−SO3H)
(6)リン酸エステル基、リン酸基又はホスホン酸エステル基(−OPO32、−PO32、−OP(O)H(OH))
上記(1)〜(6)中、Arは2価のアリール連結基を表し、Rは1価の炭化水素基を表す。
上記(1)〜(6)に示す有機酸残基の中でも、(1)フェノール性水酸基、(2)スルホンアミド基、又は(4)カルボン酸基を有するものが好ましく、特に(4)カルボン酸基が、材料合成の容易さ及び得られる機械的強度の観点から最も好ましい。
【0016】
有機酸残基及び/又はその塩を1以上有する側鎖を有するポリマーにおいて、モノマー単位に含まれる有機酸残基及び/又はその塩は、前記(1)〜(6)に示した唯一の有機酸残基及び/又はその塩でもよく、また、前記(1)〜(6)に例示した異なる2以上の有機酸残基及び/又はその塩であってもよい。
【0017】
また、本発明に使用するポリマーにおいて、有機酸(塩)残基を2以上有する側鎖がモノマー単位にある好ましい構造には、以下に例示する式(I)又は式(II)で示される残基を含む。この中でカルボキシ基(又はその塩)を2以上含む式(I)の残基が好ましい。
【0018】
【化1】

【0019】
式(I)又は式(II)中、Xは窒素原子又はCHを表し、pは1〜6の整数を表す。また、Rは水素原子又は置換基を有していても良い炭素数1〜10の一価の炭化水素基を表す。Arはアリール基上にカルボキシル基が直接又は連結基通して結合されている構造を示す。Zは水素原子又は1価のカチオン原子(Li、Na、K)等を表す。
【0020】
<Rの詳細について>
式(I)又は式(II)中、Rで表される炭素数1〜10の一価の炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられる。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1−アダマンチル基、2−ノルボルニル基等の炭素数1〜10までの直鎖状、分枝状、又は環状のアルキル基が挙げられる。
Rが採りうるアリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、インデニル基等の炭素数1〜10までのアリール基、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群から選ばれるヘテロ原子を1個含有する炭素数1〜10までのヘテロアリール基、例えば、フリル基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、キノリル基等が挙げられる。
Rが採りうるアルケニル基の具体例としては、ビニル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、1−メチル−1−プロペニル基、1−シクロペンテニル基、1−シクロヘキセニル基等の炭素数1〜10までの直鎖状、分枝状、又は環状のアルケニル基が挙げられる。
Rが採りうるアルキニル基の具体例としては、エチニル基、1−プロピニル基、1−ブチニル基、1−オクチニル基等の炭素数1〜10までのアルキニル基が挙げられる。但し、Rの炭素数は、置換基の炭素数を含めて1〜10である。
【0021】
<Arの詳細について>
式(I)又は式(II)中、Arは芳香族基上にカルボキシル基が直接又は連結基通して結合されている構造であり、アリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、インデニル基等の炭素数1〜10までのアリール基、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群から選ばれるヘテロ原子を1個含有する炭素数1〜10までのヘテロアリール基、例えば、フリル基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、キノリル基等が挙げられる。
【0022】
有機酸(塩)残基を2以上有する側鎖を有するポリマーは、以下に例示するエチレン性不飽和化合物の単独重合体又はこのエチレン性不飽和化合物と共重合可能な他のエチレン性不飽和化合物との共重合体として得ることができる。
【0023】
【化2】

【0024】
【化3】

【0025】
なお、上記の例示化合物において、カルボキシ基(−COOH)を塩としたエチレン性不飽和化合物も使用することができ、塩としてはLi塩、Na塩、又はK塩が含まれる。
【0026】
(有機酸(塩)残基を2以上有するエチレン性不飽和化合物と共重合可能なエチレン性不飽和化合物)
本発明に使用する結合剤に含有されるポリマーが、有機酸(塩)残基を2以上有する側鎖を有するポリマーであって、前記のエチレン性不飽和化合物とこのエチレン性不飽和化合物と共重合可能な他のエチレン性不飽和化合物との共重合体である場合、共重合可能な他のエチレン性不飽和化合物に由来するモノマー単位としては、有機酸(塩)残基を有しないか、又は、これを1つしか含まない単官能のエチレン性不飽和化合物に由来するモノマー単位であれば特に限定されずに使用できる。
例えば、以下のモノマー単位が挙げられ、得られる共重合体が、水又は水溶性有機溶媒に可溶なポリマーであることが好ましい。
【0027】
【化4】

【0028】
式中、R1〜R3はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又はハロゲン原子を表す。Lは−CO−、−O−、−NH−、二価の脂肪族基、二価の芳香族基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。
【0029】
上記のように、Lが選択可能な組み合わせの基としては、以下の具体例が含まれる。なお、下記の例において左側が主鎖に結合し、右側がWに結合する。
L1:−CO−NH−二価の脂肪族基−O−CO−
L2:−CO−二価の脂肪族基−O−CO−
L3:−CO−O−二価の脂肪族基−O−CO−
L4:−二価の脂肪族基−O−CO−
L5:−CO−NH−二価の芳香族基−O−CO−
L6:−CO−二価の芳香族基−O−CO−
L7:−二価の芳香族基−O−CO−
L8:−CO−二価の脂肪族基−CO−O−二価の脂肪族基−O−CO−
L9:−CO−二価の脂肪族基−O−CO−二価の脂肪族基−O−CO−
L10:−CO−二価の芳香族基−CO−O−二価の脂肪族基−O−CO−
L11:−CO−二価の芳香族基−O−CO−二価の脂肪族基−O−CO−
L12:−CO−二価の脂肪族基−CO−O−二価の芳香族基−O−CO−
L13:−CO−二価の脂肪族基−O−CO−二価の芳香族基−O−CO−
L14:−CO−二価の芳香族基−CO−O−二価の芳香族基−O−CO−
L15:−CO−二価の芳香族基−O−CO−二価の芳香族基−O−CO−
L16:−CO−O−二価の芳香族基−O−CO−NH−二価の脂肪族基−O−CO−
L17:−CO−O−二価の脂肪族基−O−CO−NH−二価の脂肪族基−O−CO−
【0030】
二価の脂肪族基とは、アルキレン基、置換アルキレン基、アルケニレン基、置換アルケニレン基、アルキニレン基、置換アルキニレン基又はポリアルキレンオキシ基を意味する。なかでもアルキレン基、置換アルキレン基、アルケニレン基、及び置換アルケニレン基が好ましく、アルキレン基及び置換アルキレン基がさらに好ましい。
二価の脂肪族基は、環状構造よりも鎖状構造の方が好ましく、さらに分岐を有する鎖状構造よりも直鎖状構造の方が好ましい。二価の脂肪族基の炭素原子数は、1乃至20であることが好ましく、1乃至15であることがより好ましく、1乃至12であることがさらに好ましく、1乃至10であることがさらにまた好ましく、1乃至8であることが最も好ましい。
二価の脂肪族基の置換基の例としては、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、シアノ基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基及びジアリールアミノ基等が挙げられる。
【0031】
二価の芳香族基とは、アリレン基又は置換アリレン基を意味する。好ましくは、フェニレン、置換フェニレン基、ナフチレン及び置換ナフチレン基である。
二価の芳香族基の置換基の例としては、上記二価の脂肪族基の置換基の例に加えて、アルキル基が挙げられる。
前記L1〜L17の中では、L1、L3、L5、L7、及びL17が好ましい。
【0032】
前記の式(A3)において、Wは下記の基を表す。
【0033】
【化5】

【0034】
ただし、M1は前記特定官能基の説明で表されるものと同義である。
7及びR8はそれぞれ独立に、水素原子、あるいは炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキル基を表す。
9は炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキレン基を表し、エチレン基が好ましい。
10は水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表す。
nは1〜100の整数を表し、1〜30が好ましい。
前記Wとしては、カルボン酸(塩)基、スルホン酸(塩)基を含むものが好ましい。
【0035】
発明において使用する有機酸残基及び/又は有機酸塩残基を2以上有する側鎖を有するポリマーにおいて、この有機酸残基及び/又は有機酸塩残基を2以上有する側鎖を有するモノマー単位の共重合比は、10重量%以上が好ましく、20〜100重量%であり、更に好ましくは30〜100重量%である。
【0036】
以下に、有機酸残基及び/又は有機酸塩残基を2以上有する側鎖を有する(コ)ポリマーの具体例を記載するが、本発明に使用できるポリマーは以下の化合物に限定されるものではない。なお、共重合比は、モル分率で示す。
【0037】
【化6】

【0038】
【化7】

【0039】
【化8】

【0040】
(結合剤に含まれるポリマー以外の成分)
結合剤には本発明のポリマー以外に、インクジェット吐出適性を付与するために、ポリマーを溶解させるための液体を混合使用することが好ましい。
また、ポリマーを溶解させるための液体に加えて、インクジェットの吐出安定性の向上を目的として、湿潤剤、流動性増強剤等を混合しても構わない。
【0041】
(ポリマーを溶解させるための液体)
ポリマーを溶解する液体は、ポリマーを溶解することができる液体(溶媒)であれば特に限定されないが、好ましくは、水又は、親水性有機化合物である。親水性有機化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール等の単価アルコール化合物、エチレングリコール、ジエチレングリコール及びプロピレングリコール等の多価アルコール等が挙げられ、最も好ましくは水である。
【0042】
(湿潤剤)
本発明で使用する結合剤に湿潤剤を含ませることにより、形成された三次元造形用材料からの溶媒の蒸発を遅らせ、かつ、インクジェットプリントへッドの乾燥/目詰まりを防止することができる。グリセロールは、溶媒が水性の場合に特に好ましい湿潤剤である。他の多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール及びプロピレングリコールが挙げられ、これらもまた蒸発を遅らせることが当技術分野で公知であるが、これらに限定されない。別の湿潤剤には、チオジエタノール、n−メチルピロリジノン及びジメチルヒダントインが挙げられる。
【0043】
(流動性増強剤)
本発明で使用する結合剤に流動性増強剤を併用することができる。
流動性増強剤は、湿潤剤としての特性を幾分か有するが、主に液体の流体力学的特性又は湿潤特性を変化させて、インクジェットプリントヘッドが噴射する液体の容積を最大化するよう作用することができる。流動性の増強は、液体の流量を増加させる粘弾性現象であると考えられる。これにより厚い層を形成でき、三次元造形物の製作をより迅速に行うことができる。ジェットの液体と壁との間の摩擦を低減するか、又は液体の粘度を低下させるかのいずれかにより液体の流動性を増大させる特定の化合物には、エチレングリコールジアセテート及び硫酸カリウムアルミニウムが挙げられる。流動性増強剤として用いられる他の適切な化合物は、以下の非限定的なリストから選択することができる。すなわち、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、イソプロピルアルコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ドデシルジメチルアンモニオプロパンスルホネート、グリセロールトリアセテート、アセト酢酸エチル、ならびに約30,000単位の分子量を有するポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸及びポリアクリル酸ナトリウムを含む水溶性ポリマーから選択できる。ポリアクリル酸ナトリウムのようなイオン性ポリマーでは、流動性の増加はpHによって変動する。流動性を増加させるのに使用できる塩には、硫酸カリウム、硫酸カリウムアルミニウム、リン酸水素ナトリウム及びポリリン酸ナトリウムが挙げられる。
【0044】
(結合剤に使用できる水溶性染料)
三次元造形物を着色する場合には、着色した結合剤を使用することができる。フルカラーの三次元造形物を製造する場合には、着色された結合剤としては、減色法の3原色である、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の3色の組み合わせとすることが好ましい。本発明において、イエローに着色された結合剤を「イエロー結合剤」、マゼンタに着色された結合剤を「マゼンタ結合剤」、シアンに着色された結合剤を「シアン結合剤」という。M染料及びC染料は濃淡2種類に着色した結合剤としても良い。無色の結合剤は、CMYの色濃度を調節するために使用することができる。また、チタンホワイト等の白色顔料を含む結合剤(白色結合剤)や黒(ブラック)染料で着色した結合剤(ブラック結合剤)を併用して所望の効果を発現させることができる。
着色した結合剤、無色の結合剤及び白色結合剤の吐出総量は単位面積あたり、例えば1格子点当たり、又は隣接4格子点当たり、一定となるようにすることが好ましい。ただし、三次元造形物の外形を形成する輪郭格子点においては、これらの結合剤の総量を、内部格子点よりも増量することが好ましい。
【0045】
(シアン着色剤)
シアン着色剤として、フタロシアニン染料が例示できる。以下、詳しく説明する。
フタロシアニン染料としては、会合性基を有するものが好ましい。この会合性基とは、その基中に少なくとも分子間で水素結合が可能な結合部位(あるいは官能基)を少なくとも有する基を意味する。該結合部位は、1基中に1以上含有することができる。結合部位としては、水酸基、アミノ基、アミド結合、オキシド結合等が挙げられ、同一種もしくは異種間で水素結合が形成される。なお、会合性基は、フタロシアニン染料と任意の添加剤との間で水素結合が可能であってもよい。
フタロシアニン染料としては、以下の式(C)で表される化合物(以下、「化合物(C)」とも記す。)が好ましい。式(C)で表される化合物は、シアン染料であることが好ましい。また、この染料は、上記特性(酸化電位、会合性)の少なくとも1つを有していることが好ましく、全ての特性を有していることが更に好ましい。
本発明では、求電子剤であるオゾンとの反応性を下げるために、例えばアザフタロシアニンのようにフタロシアニン骨格の炭素原子を部分的にヘテロ原子に置換したり、電子求引性基をフタロシアニン骨格に導入したりして、酸化電位を1.0V(vs SCE)よりも貴とすることが望ましい。酸化電位は貴であるほど好ましく、酸化電位が1.1V(vs SCE)よりも貴であることがさらに好ましく、1.15V(vs SCE)よりも貴であることが特に好ましい。
【0046】
【化9】

【0047】
式(C)中、X1〜X4及びY1〜Y4は、それぞれ独立に、炭素原子あるいは窒素原子を表す。好ましくは炭素原子である。A1〜A4は、それぞれ独立に、X1〜X4及びY1〜Y4と共に芳香族環あるいは複素環(更に他の環と縮合環を形成しても良い)を形成するのに必要な原子群を表す。形成される複素環は含窒素6員環が好ましい。A1〜A4は置換基を有してもよく、A1〜A4の該置換基のうち少なくとも1つはスルホン酸基を有し、対イオンとしてLi+又は4級アンモニウムイオンを有する。
Mは、水素原子、金属元素、金属酸化物、金属水酸化物、又は金属ハロゲン化物を表す。
【0048】
化合物(C)の具体例としては、国際公開特許2002/60994号、同2003/811号、同2003/62324号、特開2003−213167号、同2004−75986号、同2004−323605号、同2004−315758号、同2004−315807号、特開2005−179469号に記載されたもののうち、本発明における水溶性基と対イオンの関係を満たすものが挙げられる。特に好ましいシアン染料の具体例を以下に示すが、本発明に用いられる色素は、下記の例に限定されるものではない。
【0049】
【化10】

【0050】
【化11】

【0051】
本発明の化合物(C)は、特開2004−315729号、特開2004−323511号又は特開2005−041856号に従って合成することが可能である。また、出発物質、染料中間体及び合成ルートについてはこれらにより限定されるものでない。
【0052】
化合物(C)は単独で用いることができるが、その他の染料、特にその他のフタロシアニン染料と併用して使用することができる。
【0053】
(マゼンタ着色剤)
マゼンタ着色剤として、特定のアゾ染料が例示できる。以下、詳しく説明する。
マゼンタ着色剤として、下記式(M)で表される水溶性マゼンタ染料を使用することができる。
式(M)
【0054】
【化12】

【0055】
式(M)中、A31は5員複素環基を表す。
31及びB32は各々=CR31−、−CR32=を表すか、あるいはいずれか一方が窒素原子、他方が=CR31−又は−CR32=を表す。R35、R36は各々独立に水素原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、複素環オキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキル若しくはアリールスルホニル基、複素環スルホニル基、又はスルファモイル基を表わし、各基は更に置換基を有していても良い。
3、R31、R32は各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、シアノ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、複素環オキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、複素環オキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基(アリールアミノ基、複素環アミノ基を含む)、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基、複素環スルホニルアミノ基、ニトロ基、アルキル及びアリールチオ基、アルキル及びアリールスルホニル基、複素環スルホニル基、アルキル及びアリールスルフィニル基、複素環スルフィニル基、スルファモイル基、スルホン酸基、又は複素環チオ基を表し、各基は更に置換されていても良い。
31とR35、あるいはR35とR36が結合して5乃至6員環を形成しても良い。
なお、A31、R31、R32、R35、R36及びG3の少なくとも1つは、スルホン酸基を有し、対イオンとしてLi+又は4級アンモニウムイオンを有する。
【0056】
化合物(M)の具体例としては、国際公開特許2002/83795号(35〜55頁)、同2002−83662号(27〜42頁)、特開2004−149560号(段落番号[0046]〜[0059])、同2004−149561号(段落番号[0047]〜[0060])に記載されたものの中で、水溶性基がスルホン酸基のみであり、対イオンがLi+イオン又は4級アンモニウムイオンのものが挙げられる。特に好ましい化合物(M)の具体例を遊離の酸の構造で以下に示すが、前記の塩として用いることが好ましいのは、前述のとおりである。
【0057】
【化13】

【0058】
(イエロー)
(イエロー着色剤)
イエロー着色剤として、ピラゾールアゾ染料が例示できる。以下、詳しく説明する。
具体的には、下記式(1)〜(3)で表される水溶性イエロー染料が使用できる。
【0059】
式(1)
【0060】
【化14】

【0061】
式(1)中、R1、R2及びR3は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、又はイオン性親水性基を表す。R4は、下記複素環基の群1から選ばれる置換されていてもよい複素環基を表す。但し、式(1)で表される水溶性染料は分子中に少なくとも1つのイオン性親水性基を有する。)
【0062】
複素環基の群1
【0063】
【化15】

【0064】
式(2)
【0065】
【化16】

【0066】
式(2)中、R5は、水素原子、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、又はイオン性親水性基を表す。Zaは、−N=、−NH−、又はC(R11)=を表す。Zb及びZcは、各々独立して、−N=又はC(R11)=を表す。ここで、R11は水素原子又は非金属置換基を表す。R6は、下記複素環基の群2から選ばれる置換されていてもよい複素環基を表す。但し、式(1)で表される水溶性染料は、分子中に少なくとも1つのイオン性親水性基を有する。)
【0067】
複素環基の群2
【0068】
【化17】

【0069】
式(3)
【0070】
【化18】

【0071】
式(3)中、R7及びR9は、各々独立して、水素原子、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、又はイオン性親水性基を表す。R8は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、シアノ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、ウレイド基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、スルファモイル基、スルホニル基、アシル基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、又はイオン性親水性基を表す。R10は、下記複素環基の群3から選ばれる置換されていてもよい複素環基を表す。但し、式(3)で表される水溶性染料は、分子中に少なくとも1つのイオン性親水性基を有する。)
【0072】
複素環基の群3
【0073】
【化19】

【0074】
式(1)、(2)、(3)で表される染料の具体例としては特開2003−41160号公報に記載されたものを使用でき、次の染料が例示できる。
【0075】
【化20】

【0076】
本発明に使用される結合剤は、好ましくは、インクジェット方式で吐出することができる。
ここで使用できるインクジェット方式とは、主としてオンデマンドインクジェット方式を指し、ピエゾオンデマンドインクジェット方式、サーマルオンデマンドインクジェット方式、静電オンデマンドインクジェット方式等が挙げられ、好ましくは、ピエゾオンデマンドインクジェット方式、静電オンデマンドインクジェット方式が挙げられる。
【0077】
(結合剤の性質)
本発明に使用される結合剤をインクジェット方式で吐出する場合において、好ましい結合剤の物性について説明する。
本発明に使用される結合剤をインクジェット方式で吐出する場合には、吐出性を考慮し、吐出時の温度(例えば、40〜80℃、好ましくは25〜50℃)において、粘度が、好ましくは7〜30mPa・sであり、より好ましくは7〜25mPa・sである。例えば、本発明の結合剤の室温(25〜30℃)での粘度は、好ましくは35〜500mPa・s、より好ましくは35〜200mPa・sである。
また、本発明の結合剤の表面張力は、好ましくは20〜30mN/m、より好ましくは23〜28mN/mである。
【0078】
次に、上記1)の三次元造形用材料における粉末材料について説明する。
−1)記載の三次元造形用材料における粉末材料−
この粉末材料は、(i)カチオン性残基及び/又はカチオン性残基に誘導しうる基(「カチオン性残基(誘導可能基)」ともいう。)を側鎖に有するポリマー、又は(ii)アルカリ土類金属イオンを含む粉末、を含有する。
【0079】
本発明に使用する粉末材料の平均粒子径は、0.1〜1,000μmであることが好ましく、1〜50μmであることがより好ましく、1〜30μmであることが最も好ましい。粒径分布は広くても良いが、狭い方が好ましい。粒径分布は単分散に近い方が好ましく、粒径分布の変動係数は20%以下が好ましく、15%以下であることが特に好ましい。粉末材料は、上記(i)カチオン性残基及び/又はカチオン性残基に誘導しうる基を側鎖に有するポリマー、又は(ii)アルカリ土類金属イオンを含む粉末の少なくとも片方を含有する、有機材料、無機材料、有機・無機複合材料から選択できる。
【0080】
粉末材料として使用できる有機粉末としては、カチオン性残基及び/又はカチオン性残基に誘導しうる基を有する合成樹脂粒子が挙げられ、ポリエチレンイミンのように主鎖に第2級又は第3級のアミノ基を有する樹脂粒子も利用可能であるが、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリウレア、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、等の付加重合型又は重縮合型の合成樹脂であって、側鎖にカチオン性残基(誘導可能基)を有する合成樹脂などの有機粉末が好ましく、第3級又は第4級のアミノ基をモノマー単位に有するポリマーが例示できる。
なお、後述の2)記載の三次元造形用材料における結合剤に含有されるカチオン性基(誘導可能基)を側鎖に有するポリマーは、本1)記載の三次元造形用材料において、粉末材料としても使用できる。
【0081】
側鎖にカチオン性残基(誘導可能基)を有する有機粉末は、第3級又は第4級のアミノ基をモノマー単位に有する付加重合型ポリマーであることが好ましく、以下に例示するようなエチレン性不飽和化合物の単独重合体又は共重合体の粉末材料が含まれる。
上記の共重合体において、第3級又は第4級のアミノ基を有するエチレン性不飽和モノマーと共重合するエチレン性不飽和化合物は、カチオン性残基(誘導可能基)を有さず、かつ、有機酸残基(これに誘導しうる基を含む。)を有しないことが好ましい。
側鎖にカチオン性残基(誘導可能基)を有する有機粉末は、側鎖にカチオン性残基(誘導可能基)を有する線状ポリマーを造粒して製造することができる。また、カチオン性残基(誘導可能基)を有するエチレン性不飽和化合物を、必要に応じて高分子分散剤の存在下に、非水溶媒中で不均一重合して、直接有機粉末として製造することができる。
【0082】
【化21】

【0083】
カチオン性残基(誘導可能基)を有する合成樹脂粒子は、例えば特開2007−106806号公報に記載の方法で合成した塩基性基を含有する樹脂粒子と反応性化合物とを反応させることによって合成することができる。
具体的には、分散剤存在下において、塩基性基を有するエチレン性不飽和単量体とを非水溶媒中で過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル、ブチルリチウム等の重合開始剤の存在下に付加重合させて得られた白色粒子に脱離性を有する反応性化合物により4級化することによって得られる。
好ましい具体例としては、第3級アミノ基を有するアルコールの(メタ)アクリル酸エステルを付加重合した後にアミノ基を4級化した樹脂粒子粉末が挙げられる。具体的な合成例は実施例において記載する。
【0084】
脱離性を有する反応性化合物としては、塩基性基による求核置換反応が進行して脱離基が脱離する基を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、メチルトリフラート、エチルトリフラートのようなトリフルオロメタンスルホン酸エステル化合物、p−トルエンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸エチル、p−トルエンスルホン酸ブチルのようなスルホン酸エステル化合物、トリフルオロ酢酸エチル、トリフルオロ酢酸プロピル、トリフルオロ酢酸ブチル、トリフルオロ酢酸ペンチル、のようなトリフルオロ酢酸エステル化合物等が挙げられる。
【0085】
カチオン性残基(誘導可能基)を側鎖に有するポリマーの具体例は、後述の実施例において、合成例として例示された有機粒子(1)〜(11)を含む。
【0086】
粉末材料として使用できる無機粉末として、アルカリ土類金属イオンを含む粉末が使用できる。具体的には、Mg、Ca、Sr、Baの水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩及びこれらの少なくとも2種以上の複合化物等を挙げることができる。より具体的には、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、塩基性硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム、石膏、焼石膏、白土及びこれらの少なくとも2種以上の複合化物等が挙げられる。好ましくは、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、焼石膏等が挙げられる。
【0087】
これらのアルカリ土類金属イオンを含む粉末には、アルカリ土類金属イオンを含まない無機粉末を50重量%未満の範囲で併用することができる。
併用できる無機粉末として、アルカリ土類金属イオンを含まない粉末が挙げられ、例えば、金属、酸化物、複合酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩、窒化物、炭化物、硫化物及びこれらの少なくとも2種以上の複合化物等を挙げることができる。
【0088】
本発明の他の三次元造形用材料は、前記の1)の組合せの他に、以下の2)の組合せであっても良い。
2)(A)結合剤、及び、(B)粉末材料からなり、前記粉末材料は、有機酸(塩)残基を2以上有する側鎖を有するポリマーを含有し、前記結合剤は、カチオン性残基及び/又はカチオン性残基に誘導しうる基を側鎖に有するポリマーを含有することを特徴とする、三次元造形用材料。ここで、前記のように、「カチオン性残基及び/又はカチオン性残基に誘導しうる基」を「カチオン性残基(誘導可能基)」ともいう。
【0089】
以下にまず上記2)記載の三次元造形用材料の結合剤、及び、粉末材料の順に説明する。
−2)記載の三次元造形用材料における結合剤−
この結合剤は、カチオン性残基(誘導可能基)を側鎖に有するポリマーを含有する。
このポリマーは、モノマー単位において、炭素−炭素結合からなる主鎖に結合する(ポリマー)側鎖に、カチオン性残基及び/又はカチオン性残基に誘導しうる基を有する。
カチオン性基としては、オニウム塩基が好ましく用いられる。オニウム塩としては、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ホスホニウム塩、又はアンモニウム塩が好ましく、アンモニウム塩が特に好ましい。
カチオン性基に誘導しうる基としては、酸基とイオン結合を形成することによりカチオン性基となる基であれば特に限定されないが、好ましくはアミノ基が挙げられ、より好ましくは3級アミノ基が挙げられ、特に好ましくは有機酸(塩)残基を有しない3級アミノ基が挙げられる。
【0090】
カチオン性残基(誘導可能基)を側鎖に有するポリマーの具体例を以下に記載する。ホモポリマー及びコポリマーのモノマー単位を示し、共重合比はモル比で表す。
【0091】
【化22】

【0092】
−2)記載の三次元造形用材料における粉末材料−
この粉末材料は、有機酸(塩)残基を2以上有する側鎖を有するポリマーを含有する。ここで用いる粉末材料としては、上記のポリマーを含む、有機粉末、又は無機・有機複合粉末が好ましく利用される。
ここで、有機酸(塩)残基を2以上有する側鎖を有するポリマーの粉末材料用としての合成方法としては特に限定されない。前述の1)に記載の三次元造形用材料で使用する結合剤用に合成した、有機酸(塩)残基を2以上有する側鎖を有するポリマーを造粒して粉末材料として使用できる。同一の又は異なる有機酸(塩)残基を2以上有するエチレン性不飽和化合物の単独重合体、又は、このエチレン性不飽和化合物と共重合可能な他のエチレン性不飽和化合物との共重合体を合成した後、この(共)重合体を含む有機材料又は無機・有機複合材料を、粉末材料として使用することができる。
また、本発明において使用できる好ましい製造法は以下の通りである。有機酸(塩)残基を2以上有するエチレン性不飽和化合物を非水溶媒中で、必要に応じて高分子分散剤の共存下に、不均一(共)重合することにより、粉末材料を得ることができる。後記の合成実施例において例示する、有機粒子(12)〜(17)はこの方法により製造したものである。
【0093】
(三次元造形物の製造装置)
次に本発明の三次元造形物の製造装置について説明する。
本発明において使用する製造装置は、結合剤を小滴として支持体の上に形成された粉末材料層に吐出するインクジェットヘッド、粉末材料層に吐出された結合剤を乾燥する乾燥手段、及び造形物の断面形状に結合剤を吐出する制御手段を備える。
また、本発明の製造装置は、さらに結合剤の吐出量を増減させる制御手段を併せて設け、最外層への吐出量を内部よりも多くする調節が可能である。
【0094】
(三次元造形物の製造方法)
本発明の三次元造形物の製造方法を、以下図面を参照しながら説明する。
本発明の三次元造形物の製造方法は、上記の1)又は2)に記載した結合剤及び粉末材料を使用することに特徴があるが、以下はこの製造方法を構成する工程(ステップ)を中心に説明する。
図1は、本発明の三次元造形物の製造方法の一実施態様について主要な工程を示す模式図である。
本発明の製造方法においては、粉末材料の薄層1が三次元造形部3に設けられた支持体(造形ステージ)4の上に形成される。支持体4は、垂直方向移動部5により支持されており、周囲を枠6により取り囲まれている。粉末供給部から支持体4上に供給された余分の粉末材料上を、Y方向(紙面と垂直な方向)に長く伸びたブレード7がX方向(紙面上左から右方向)に移動することにより薄層1が形成される。このように形成された薄層1の上に、結合剤付与部のインクジェットヘッド8から、断面形状データにしたがって、結合剤が粉末材料の薄層1上に供給され、結合剤付与領域2を形成する。この結合剤付与領域2は、乾燥手段により水分を蒸発させて硬化させることにより、粉末材料をその結合剤付与領域2において薄層全体の厚さにわたり結合して断面形状を形成し、かつそのすぐ下の断面形状とも結合する。なお、乾燥手段としては、三次元造形部全体を不図示のフードで覆い、温風器により、このフード内の温度調節を行っている。
引き続いて、垂直方向移動部5を1スライスピッチだけ下方に移動させ、新たな粉末材料層を形成する。
新たに形成された薄層の上に、結合剤付与部のインクジェットヘッドから、隣接する次の断面形状データにしたがって、結合剤が供給され、新たな結合剤付与領域が形成される。この領域を乾燥手段により乾燥させて硬化させることにより粉末材料を結合する。
粉末材料の薄層1の形成、結合剤の供給及び乾燥硬化を必要な回数順次繰り返した後、結合剤が付与されていない領域の粉末材料を分離することにより、三次元造形物10を得ることができる。
図2は、上記のような三次元造形物の製造において隣接する各層に形成された断面形状を模式的に示す斜視図である。
【0095】
本発明の三次元造形物の製造方法における好ましい一実施態様について、以下に説明する。以下の5ステップは、(粉末)層形成工程及び着色断面形状形成工程に先立って、3次元形状色彩データ作成工程及び断面毎の着色断面形状データ作成工程を実施するものである。
【0096】
第1ステップでは、コンピュータに、表面に着色模様等が施された三次元造形対象物を表現したモデルデータを作成させる。造形するための基になるモデルデータには、一般の3D−CADモデリングソフトウェアで作成されるカラー三次元モデルデータを使用することができる。また、三次元形状入力装置で計測された三次元着色形状のデータ及びテクスチャを利用することも可能である。
【0097】
第2ステップでは、コンピュータが上記のモデルデータから造形対象物を水平方向にスライスした各断面ごとの断面データを作成する。モデルデータから積層する粉末の一層分の厚みに相当するピッチ(層厚t)でスライスされた断面体を切り出し、断面の存在する領域を示す形状データ及び彩色データを断面データとして作成する。なお、本発明において、「形状データ」及び「彩色データ」を併せて「着色(断面)形状データ」ともいう。
続いて、造形対象物を造形する際における粉末層の厚さ(断面データ作成の際のスライスピッチ)及び積層数(着色形状データのセット数)に関する情報が、コンピュータからパターン作成装置の駆動制御部に入力される。
【0098】
第3ステップでは、造形ステージにおいて三次元造形物を製造する材料となる粉末材料の供給を行う。粉末材料のカウンター回転機構を用いて、粉末材料を均一な厚さを有する層状に敷き詰め、所定量の粉末を供給完了した後、粉末材料の供給を停止する。
なお、本発明において、「層形成工程及び断面形状形成工程を順次繰り返す」とは、(1)新たな層形成工程を完了した後にその新たな層全面に対して断面形状を形成する工程を実施する以外に、(2)新たな層形成工程を実施しながら、その新たな層の形成が完結する前に、新たに形成された層の領域に対して断面形状を形成することを含むものである。後者の例は、特開2002−307562号公報に例示されている。
【0099】
第4ステップでは、駆動制御部の制御の下に、切断面の着色形状データに基づき着色した断面形状を形成する工程である。この工程は非接触の方式を採用することが好ましい。代表例としてインクジェット方式を例にとり以下説明する。
第2ステップで作成された形状データ及び彩色データに基づき、格子状に細分化したCMY各色のビットマップ情報に変換して、インクジェットヘッドをXY平面内に移動させる。そして、移動中に彩色データに基づいて各インクジェット吐出ノズルから結合剤の吐出を適宜に行わせる。結合剤としては、少なくとも1種の着色された結合剤、白色の結合剤、及び無色透明の結合剤よりなる群から選ばれた2種以上の結合剤を使用する。
【0100】
造形物の最外層に位置する少なくとも1つの格子点とは、造形物の最下層断面形状全体の格子点、最上層の断面形状全体の格子点、及び最下層と最上層の中間に位置する途中層の断面形状の外部輪郭形状を構成する格子点(輪郭格子点)を含み、適宜、これらに隣接する1つ又は複数の格子点(隣接格子点)を含んでも良いことを意味する。この場合、輪郭格子点と隣接格子点とに必ずしも同程度に増量した結合剤を吐出する必要はない。適当な勾配を付けて吐出倍率を調節することができる。調節する場合にも輪郭格子点を最大倍率にする必要はなく、輪郭格子点にすぐ隣り合う隣接格子点の吐出倍率を最大にすることも可能である。
吐出倍率は、適宜選択することができる。あまり吐出倍率を大きくしすぎると輪郭の滲みを生じるおそれがあり、逆に吐出倍率が小さいと目的とする表面効果が得られない。
造形物の最下層の断面形状及び最上層の断面形状を構成する輪郭格子点に内部格子点よりも多量の結合剤を吐出させる場合、必要に応じて隣接する断面形状の隣接格子点にも吐出倍率を高くすることができる。粉末材料層の層厚が薄い場合や強度を特に要する部分などには、必要に応じて輪郭格子点に隣接する、同じ断面形状又は隣接する断面形状中の1つ以上の隣接格子点の結合剤吐出倍率を高くすることができる。
【0101】
図3は第2ステップで生成される格子状に細分化された断面データの一例を示す平面図である。図3において、斜線を付した格子が結合剤の吐出される領域である。このとき、造形物の最外層に位置する格子点の吐出倍率を高くしてもよい。途中の断面形状では外表面に相当する輪郭格子点に内部格子点よりも多量の結合剤を吐出させることが好ましい。輪郭格子点に隣接する数格子分の隣接格子点にまで吐出倍率を高くしてもよい。隣接する数格子とは、1〜10格子分であることが好ましく、1〜5格子分とすることがより好ましい。
吐出倍率の調節は、1回の吐出量を変化すること、及び/又は、同じ格子点への吐出回数を多くすることにより、可能である。
【0102】
輪郭格子点のみの吐出倍率を大きくすることが、制御が単純である。例えば、輪郭格子点のみの吐出倍率を内部格子点の2倍にする等である。隣接格子点の1つおきに吐出倍率を2倍とすることも可能である。吐出回数のみの制御ですめば、1回の吐出量を調節するよりも簡便な制御で済むことになる。例えば、輪郭格子点及び1層の隣接格子点に対する吐出量を、1回、2回又は3回の吐出回数の調節により多くすることが、一つの好ましい実施態様である。
【0103】
結合剤の1回あたりの吐出量を0.66〜1.5倍に調節することにより、吐出倍率をさらに細かく調節できる。また、1格子点への吐出回数の調節と併用すると、更に微妙な吐出倍率の調製が可能である。
【0104】
輪郭格子点への吐出量を増やすと、結合剤が所定の領域を超えて滲み出し、得られる三次元造形物の表面平滑性が損なわれる傾向もある。このような場合には、結合剤とは相溶しない滲み出し防止液を造形物断面形状の輪郭格子点の外側にこの輪郭に沿って配置する等の手段により結合剤の滲み出しを防止することもできる。
【0105】
着色された結合剤としては、減色法の3原色である、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の3色の組み合わせとすることが好ましい。本発明において、イエローに着色された結合剤を「イエロー結合剤」、マゼンタに着色された結合剤を「マゼンタ結合剤」、シアンに着色された結合剤を「シアン結合剤」という。M染料及びC染料は濃淡2種類に着色した結合剤としても良い。無色の結合剤は、CMYの色濃度を調節するために使用することができる。また、チタンホワイト等の白色顔料を含む結合剤(白色結合剤)や黒(ブラック)染料で着色した結合剤(ブラック結合剤)を併用して所望の効果を発現させることができる。
着色した結合剤、無色の結合剤及び白色結合剤の吐出総量は単位面積あたり、例えば1格子点当たり、又は隣接4格子点当たり、一定となるようにすることが好ましい。ただし、既に説明したように、輪郭格子点においては、これらの結合剤の総量を、内部格子点よりも多くする方が好ましい。
なお、着色した断面形状の別の形成工程例として、形状データに基づき無色のUV硬化性結合剤のみを粉末材料に吐出して紫外線照射により硬化した後に、その層の彩色データに基づき、結合剤を含まない通常のCMYインクジェットを結合した粉末材料層上に吐出する2段階の工程とすることもできる。この場合には、無色の結合剤の吐出倍率を輪郭格子点で高くすることにより、本発明の目的を達成することができる。
【0106】
結合剤の吐出と同時又は吐出後に乾燥手段により結合剤中の水分を蒸発させることにより、粉末材料の接合体である断面形状が生成される。
造形部を約35〜40℃に保つことにより、結合剤中にあった水分を蒸発させて乾燥させることができる。
第3ステップ〜第4ステップを順次繰り返すことにより、造形対象物を複数の面で切断した切断面に対応する粉末材料の着色した結合体を順次積層形成して三次元造形物を製造することができる。
なお、結合剤が塗布されない粉末材料の領域では粉末が個々に独立した状態を保持している。
【0107】
第5ステップでは、結合剤が付与されていない領域の粉末材料を分離して、結合剤により結合された粉末の結合体(三次元造形物)を取り出す。なお、結合されなかった粉末材料は回収して、再度材料として利用することが可能である。
【実施例】
【0108】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0109】
〔合成実施例1〕
本発明に使用する有機酸(塩)残基を2個以上有する側鎖を有するポリマー(P−1)の合成法
以下に示すエチレン性不飽和モノマー(1)(北興化学工業(株)製)(0.6モル)、ブレンマーPE−200(日本油脂(株)製)(0.4モル)及び2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(以下、適宜、「A.I.B.N」と略称する。)(和光純薬社製)(0.01モル)の、水(300g)溶液を、窒素気流下、80℃の水(300g)中に4時間かけて滴下した。滴下終了後、更に85℃で3時間攪拌し、ポリマー(P−1)を得た。このポリマー(P−1)を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定したところ、重量平均分子量は6.5万であった。更に得られたポリマー(P−1)はNMRにより構造を同定した。
【0110】
【化23】

【0111】
〔合成実施例2〕
上記と同様の方法により、本発明に使用する有機酸(塩)残基を2個以上有する側鎖を有するポリマー(P−2)から(P−16)を合成した。
【0112】
〔合成実施例3〕
本発明に使用するカチオン性基(誘導可能基)を有するポリマー(P−20)の合成法
メタクリル酸ジメチルアミノエチル(東京化成工業(株)製)(0.6モル)、メタクリル酸メチル(東京化成製)及び2,2’アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(和光純薬社製)(0.01モル)の、1−メトキシ−2−プロパノール(300g)溶液を、窒素気流下、80℃の1−メトキシ−2−プロパノール(300g)中に4時間かけて滴下した。滴下終了後、更に85℃で3時間攪拌し、ポリマー(P−20)を得た。このポリマー(P−20)を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定したところ、重量平均分子量は7.5万であった。更に得られたポリマー(P−20)はNMRにより構造を同定した。
【0113】
〔合成実施例4〕
上記と同様の方法により、結合剤用のポリマー(P−21)から(P−24)を合成した。また、P−25、P−26はP−1と同様の合成法にて合成した。
【0114】
−その他の素材に関する合成関連の実施例−
表1に示す粉末材料として使用した有機粒子は以下のようにして合成した。
(分散剤の合成例)
分散剤(C−I)
トルエン(200g)を窒素気流下攪拌しながら80℃に加温した。そこへ、トルエン200gに溶解させたスチレン(0.05モル)、メタクリル酸ステアリル(0.95モル)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)を、3時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間80℃で反応を行った後に、更に、A.I.B.Nを2g加えて、2時間反応した。冷却後、5リットルのメタノール中に、混合溶液を再沈し、粉末を濾集後、乾燥して、白色固体(C−I)を収率92%で得た。得られた重合体の重量平均分子量(本実施例で「Mw」と略称する。)は、4×104であった。なお、構造はNMR、IRで同定した。
【0115】
(有機粒子(1)(ポリメタクリル酸ジメチルアミノエチル4級化物粒子)の合成)
メタクリル酸メチル30g、アクリル酸メチル30g、メタクリル酸ジメチルアミノエチル40g、上記の分散剤(C−I)20g及びアイソパーG250gの混合溶液を、窒素気流下攪拌しながら温度70℃に加温した。重合開始剤としてA.I.B.N.を1.5g加え、3時間反応した。さらに、開始剤A.I.B.N.を1.0g加えて、温度80℃に加温して4時間反応した。続けて温度を100℃に上げ1時間攪拌し未反応のモノマーを留去した。冷却後200メッシュのナイロン布を通し、得られた白色分散物は重合率99.3%で平均粒径1.10μm、Mwは6.1×104の有機粒子(1)分散物を得た。粒径はCAPA−500(堀場製作所(株)製)で測定した。
得られた本発明の有機粒子(1)分散物に対して、トリフルオロメタンスルホン酸メチルを40g加えて、80℃で2時間反応させた反応液を、遠心分離機にかけた。上澄み液を除去後に沈殿物を乾燥させることによって、粉末材料用の有機粒子(1)を得た。
【0116】
(有機粒子(2)の合成)
粉末材料として使用した有機粒子(2)は以下のようにして合成した。
メタクリル酸メチル30g、アクリル酸メチル30g、メタクリル酸ジエチルアミノエチル40g、分散剤(C−I)20g、及びアイソパーG250gの混合溶液を、窒素気流下攪拌しながら温度70℃に加温した。重合開始剤としてA.I.B.N.を1.5g加え、3時間反応した。さらに、開始剤A.I.B.N.を1.0g加えて、温度80℃に加温して4時間反応した。続けて温度を100℃に上げ1時間攪拌し未反応のモノマーを留去した。冷却後200メッシュのナイロン布を通し、得られた白色分散物は重合率97.3%で平均粒径1.13μm、Mwが7.5×104の有機粒子(2)分散物を得た。粒径はCAPA−500(堀場製作所(株)製)で測定した。
得られた上記の有機粒子(2)分散物に対して、p−トルエンスルホン酸メチルを40g加えて、80℃で2時間反応させた反応液を、遠心分離機にかけた。上澄み液を除去した後に沈殿物を乾燥させることによって、粉末材料用の有機粒子(2)を得た。
【0117】
(有機粒子(3)〜有機粒子(5)の合成)
使用するモノマーを適宜変更した以外は有機粒子(2)と同様にして、有機粒子(3)〜有機粒子(5)を得た。それぞれの有機粒子のモノマー単位、平均粒径及びMwを以下に示す。なお、共重合組成は、重量比(重量%)で示す。
【0118】
【化24】

【0119】
(有機粒子(6)の合成)
メタクリル酸シクロヘキシル60g、メタクリル酸ジメチルアミノエチル40g、分散剤(C−I)20g及びアイソパーG250gの混合溶液を、窒素気流下で撹拌しながら温度70℃に加温した。重合開始剤としてA.I.B.N.を1.5g加え、3時間反応した。さらに、開始剤A.I.B.N.を1.0g加えて、温度80℃に加温して4時間反応した。続けて温度を100℃に上げ1時間撹拌し、未反応のモノマーを留去した。
冷却後200メッシュのナイロン布を通し、得られた白色分散物は重合率95.3%で平均粒径1.40μm、Mwは9.6×104の有機粒子(6)分散物を得た。
粒径はCAPA−500(堀場製作所(株)製)で測定した。
得られた有機粒子(6)分散物を、遠心分離機にかけた。上澄み液を除去後に沈殿物を乾燥させることによって、有機粒子(6)を得た。
【0120】
(有機粒子(7)〜有機粒子(11)の合成)
使用するモノマーを適宜変更した以外は有機粒子(6)と同様にして、有機粒子(7)〜有機粒子(11)を合成した。得られた有機粒子の平均粒径及びMwを以下に示す。
【0121】
【化25】

【0122】
(有機粒子(12)の合成)
メタクリル酸メチル50g、前記エチレン性不飽和化合物(1)40g、分散剤(C−I)20g、及びアイソパーG250gの混合溶液を、窒素気流下撹拌しながら温度70℃に加温した。重合開始剤としてA.I.B.N.を1.5重量部加え、3時間反応した。さらに、開始剤A.I.B.N.を1.0重量部加えて、温度80℃に加温して4時間反応した。続けて温度を100℃に上げ1時間撹拌し、未反応のモノマーを留去した。
冷却後200メッシュのナイロン布を通し、得られた白色分散物は重合率95.0%で平均粒径1.19μm、Mwは7.6×104の有機粒子(12)分散物を得た。
粒径はCAPA−500(堀場製作所(株)製)で測定した。
得られた有機粒子(12)分散物を、遠心分離機にかけて、上澄み液を除去後に沈殿物を乾燥させることによって、有機粒子(12)を得た。
【0123】
(有機粒子(13)〜有機粒子(17)の合成)
上記と同様の方法により、有機粒子(13)〜有機粒子(17)を合成した。
得られた有機粒子について以下に記載する。
【0124】
【化26】

【0125】
(比較例の有機粒子(1)の合成)
粉末材料として使用した比較例の有機粒子(1)は以下のようにして合成した。
メタクリル酸メチル30g、アクリル酸メチル30g、メタクリル酸ブチル40g、分散剤(C−I)20g、及びアイソパーG250gの混合溶液を、窒素気流下攪拌しながら温度70℃に加温した。重合開始剤としてA.I.B.N.を1.5g加え、3時間反応した。さらに、開始剤A.I.B.N.を1.0g加えて、温度80℃に加温して4時間反応した。続けて温度を100℃に上げ1時間攪拌し未反応のモノマーを留去した。冷却後200メッシュのナイロン布を通し、得られた白色分散物は重合率96.3%で平均粒径1.20μm、Mwは8.4×104の比較の有機粒子(1)分散物を得た。粒径はCAPA−500(堀場製作所(株)製)で測定した。
得られた比較の有機粒子(1)分散物を遠心分離機にかける。上澄み液を除去後に沈殿物を乾燥させることによって、粉末材料として使用した比較例の有機粒子(1)を得た。
【0126】
(比較例の有機粒子(2)の合成)
比較例の有機粒子(2)は以下のようにして合成した。
メタクリル酸メチル30g、アクリル酸メチル30g、メタクリル酸2−エチルヘキシル40g、分散剤(C−I)20g、及びアイソパーG250gの混合溶液を、窒素気流下攪拌しながら温度70℃に加温した。重合開始剤としてA.I.B.N.を1.5g加え、3時間反応した。さらに、開始剤A.I.B.N.を1.0g加えて、温度80℃に加温して4時間反応した。続けて温度を100℃に上げ1時間攪拌し未反応のモノマーを留去した。冷却後200メッシュのナイロン布を通し、得られた白色分散物は重合率95.6%で平均粒径1.21μm、Mwが7.9×104の比較の有機粒子(2)分散物を得た。粒径はCAPA−500(堀場製作所(株)製)で測定した。
得られた比較の有機粒子(2)分散物を遠心分離機にかけた。上澄み液を除去後に沈殿物を乾燥させることによって、比較例の有機粒子(2)を得た。
【0127】
(結合剤に使用した比較ポリマー(Q−1))
比較例のポリマー(Q−1)は、以下のようにして合成した。
ブレンマーPE−200(日本油脂(株)製)(1モル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(和光純薬社製)(0.01モル)の、水(300g)溶液を、窒素気流下、80℃の水(300g)中に4時間かけて滴下した。滴下終了後、更に85℃で3時間攪拌し、ポリマー(Q−1)を得た。このポリマー(P−1)を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定したところ、重量平均分子量は11.5万であった。更に得られたポリマー(Q−1)はNMRにより構造を同定した。
【0128】
(結合剤に使用した比較ポリマー(Q−2))
比較のポリマー(Q−1)としては、アルドリッチ製のMw≒7.5万のポリスチレンスルホン酸を用いた。
【0129】
〔実施例1〕
以下の成分を攪拌機により撹拌して結合剤(A1)を得た。
水 70重量%
イソプロピルアルコール 10重量%
ポリマー(P−1) 7重量%
グリセロール 5重量%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 5重量%
水溶性シアン染料(C−3) 3重量%
【0130】
【化27】

【0131】
次に、粉末材料として和光純薬社製の焼石膏を用いて、造形ステージ上に約100μmの厚さの粉末材料層になるように敷設した。
【0132】
三次元造形物の製造方法は、既に説明したように、第1ステップ〜第5ステップからなり、第3ステップと第4ステップを繰り返し行うことにより、評価目的の三次元造形物である、直径10cm厚さ2mmのプレートを得た。
このプレートは35〜40℃の温度範囲内に調温された造形部において造形後30分間静置した。また、取り出したプレートは80℃のオーブン内で10分間加熱乾燥した。
【0133】
(評価方法)
作製した直径10cm厚さ2mmのプレートを、直径9cm(外径9cm、内径7cm)、厚さ1cmのドーナツ状の台に置き、プレートの上から1kgの重りを載せて、プレートが割れるまでの時間を評価した。本評価は時間が長いほど、強度が高いことを示す。
【0134】
〔実施例2〕〜〔実施例20〕及び〔比較例1〕〜〔比較例10〕
実施例1の本発明のポリマー(P−1)を以下の表1に記載のポリマーに変更した以外は、実施例1と同様の方法でプレートを作製して、同様の評価を行った。
得られた結果を表1に示した。
【0135】
【表1】

【0136】
〔実施例21〕〜〔実施例24〕及び〔比較例11〕〜〔比較例18〕
実施例1で使用した結合剤及び粉末材料を、表2に示す結合剤及び粉末材料に変更する以外は、実施例1と同様の方法でプレートを作製して、同様の評価を行った。
得られた結果を表2に示した。
【0137】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】本発明の三次元造形物の製造方法の一実施態様について各工程を示す模式図である。
【図2】図1に示した三次元造形物の製造において形成されるいくつかの層の断面形状を模式的に示す斜視図である。
【図3】格子状に細分化された断面データの一例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0139】
1 薄層
2 結合剤付与領域
3 三次元造形部
4 支持体(造形ステージ)
5 垂直方向移動部
6 枠
7 ブレード
8 インクジェットヘッド
10 三次元造形物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)結合剤、及び、
(B)粉末材料からなり、
前記結合剤は、有機酸残基及び/又は有機酸塩残基を2以上有する側鎖を有するポリマーを含有し、
前記粉末材料は、(i)カチオン性残基及び/又はカチオン性残基に誘導しうる基を側鎖に有するポリマー、又は(ii)アルカリ土類金属イオンを含む粉末、を含有することを特徴とする
三次元造形用材料。
【請求項2】
(A)結合剤、及び、
(B)粉末材料からなり、
前記粉末材料は、有機酸残基及び/又は有機酸塩残基を2以上有する側鎖を有するポリマーを含有し、
前記結合剤は、カチオン性残基及び/又はカチオン性残基に誘導しうる基を側鎖に有するポリマーを含有することを特徴とする
三次元造形用材料。
【請求項3】
支持体上に粉末材料を所定の厚さを有する層に形成する工程、及び、
造形対象物を平行な断面で切断した断面形状になるように粉末材料層を結合剤により結合させる工程を順次繰り返すことを含み、
前記結合剤及び前記粉末材料として請求項1又は2に記載の三次元造形用材料を用いることを特徴とする
三次元造形物の製造方法。
【請求項4】
粉末材料層を結合剤により結合させる前記工程が、結合剤をインクジェットにより吐出する工程を含む、請求項3に記載の三次元造形物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−102527(P2009−102527A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276027(P2007−276027)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】