説明

上向流式マンガン接触塔

【課題】マンガン触媒充填層の全体に均一に原水を供給することができ、マンガン触媒どうしの衝突による磨耗を抑制することにより、長期間にわたり安定した処理能力を発揮することができる上向流式マンガン接触塔を提供する。
【解決手段】粒状のマンガン触媒が充填された塔本体の底部に原水が流入するチャンバー室2を形成し、このチャンバー室2の上面に設けた多数の分散ノズル8から原水をマンガン触媒充填層3に供給する上向流式マンガン接触塔である。各分散ノズル8は垂直なノズル本体9の上方に傘部12を備え、傘部12の下端をノズル本体9の上端よりも下方に延長した構造である。原水の均一供給が可能であり、マンガン触媒の摩耗抑制が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンガン含有水の処理に用いられる上向流式マンガン接触塔に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地下水や地表水などを水源とする浄水場においては、原水中にマンガンイオンが含有されていることがあり、水道水が黒くなることがある。このため従来から、マンガン砂を用いたマンガン除去処理法が知られている。この方法は、砂粒の表面に二酸化マンガンを被覆したマンガン砂を槽内に充填し、その下方の砂利層を介して原水を上向流又は下向流で通水するとともに塩素を注入し、二酸化マンガンの触媒作用を利用して原水中のマンガンイオンを不溶性マンガンとして析出させ、原水中から除去する方法である。
【0003】
しかしこの従来法では、比表面積が2m2/g程度のマンガン砂を使用していたため、原水中からのマンガン除去効率が低いという問題があった。またこのマンガン砂は比重が2.5以下と小さいため、上向流による流失を防ぐためにマンガン砂層に供給する原水の流速を大きくすることができず、その結果として処理水量当たりの設備容積が大きくなるという問題があった。
【0004】
そこで出願人は、比表面積が15m2/g程度のβ型の二酸化マンガンからなるマンガン触媒とセラミック製分離膜とを使用したマンガン除去法を開発し、すでに特許(特許文献1、2など)を取得済みである。このマンガン除去法では、使用するマンガン触媒の比表面積が大きいうえに、その比重が3.5程度と大きいため、従来よりも上向流速を大きくすることができ、処理水量当たりの設備容積を小さくすることができる。
【0005】
ところがマンガン触媒の比重が大きいため、従来と同様に砂利層の上にマンガン触媒充填層を形成すると、マンガン触媒が砂利の間に落ち込んでしまい、その表面に原水中のマンガンが付着成長し、肥大化してしまう傾向が生ずる。その結果、砂利層が閉塞して運転継続ができなくなることがあった。この方式(支持砂利方式)を図7に示す。
【0006】
またマンガン触媒の比重が大きいため、原水噴出部のわずかな圧力損失の違いによって噴出し易い部分と噴出しにくい部分とが発生し、偏流が生じてしまう傾向があった。しかも原水噴出部における流速を高めるとマンガン触媒どうしが高速で衝突し、表面が磨耗し、その結果、マンガン触媒が減少して処理能力が低下したり、排水中のマンガン濃度が上昇してしまうという問題もあった。
【特許文献1】特許第3705590号公報
【特許文献2】特許第3786885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記した従来の問題点を解決し、マンガン触媒充填層の全体に均一に原水を供給することができ、マンガン触媒充填層の閉塞や偏流を防止することができ、しかもマンガン触媒どうしの衝突による磨耗を抑制することにより、長期間にわたり安定した処理能力を発揮することができる上向流式マンガン接触塔を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、粒状のマンガン触媒が充填された塔本体の底部に原水が流入するチャンバー室を形成し、このチャンバー室の上面に設けた多数の分散ノズルから原水をマンガン触媒充填層に供給する上向流式マンガン接触塔であって、各分散ノズルは垂直なノズル本体の上方に傘部を備え、傘部の下端をノズル本体の上端よりも下方に延長した構造であることを特徴とするものである。
【0009】
なお、各分散ノズルは、ノズル本体の周囲にすり鉢状の凹部を備え、傘部の下端とすり鉢状の凹部との隙間から原水を供給する構造であることが好ましく、各分散ノズルは、全周または両側に垂直壁状のセパレータを備えたものであることが好ましい。また、セパレータで囲まれた面積に対し、1000〜2500m/日で原水を供給した場合、傘部の下端からの原水の流速を、0.05〜1.5m/secとすることが好ましく、ノズル本体はその下部にオリフィスを備えたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の上向流式マンガン接触塔は、チャンバー室の上面に設けた多数の分散ノズルから原水をマンガン触媒充填層に供給する構造であるので、マンガン触媒充填層の全体に均一に原水を供給することができ、偏流を生じない。また各分散ノズルは、ノズル本体の上方に下端がノズル本体の上端よりも下方に延長された傘部を備え、傘部の下端から原水を噴出する構造となっているため、流動するマンガン触媒が傘部の下端よりも下側に入り込むことがなく、ノズル本体を通じてチャンバー室に落下するおそれがない。しかもノズル本体から供給される原水は傘部の下端全周からマンガン触媒充填層に噴出するため、傘部の下端からの原水の流速を1.5m/sec以下とすることができ、マンガン触媒どうしが高速で衝突することによる磨耗を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図1は上向流式マンガン接触塔の全体を示す断面図であり、1は塔本体、2はその底部に形成された原水が流入するチャンバー室である。塔本体1の内部にはマンガン触媒充填層3が形成されており、比表面積が15m2/g程度、比重が3.5程度のβ型の二酸化マンガンからなる粒状のマンガン触媒4が充填されている。その粒径は有効径が0.3〜1.0mmである。5は塔本体1の上部に形成されたオーバーフロー部であり、マンガン触媒充填層3を通過し塔本体1の上端からオーバーフローした処理水を受け、流出管6に排出する。
【0012】
チャンバー室2とマンガン触媒充填層3とを区画する水平板7の上面には、多数の分散ノズル8が設けられている。各分散ノズル8は碁盤の目状に配列しても、正三角形を描くように最密配列してもよい。1個の分散ノズル8の大きさは、平面視したときの径が70〜500mmとすることが好ましい。マンガン触媒充填層3中のマンガン触媒4は、分散ノズル8から噴出される上向流によって常に図2に示すように流動し、閉塞することがない。
【0013】
以下に図3、図4を参照しつつ各分散ノズル8の構造を説明する。なお、分散ノズル8を構成する各部材はステンレス等の耐食性金属あるいはPP,PE.PVC等の樹脂製とする。各分散ノズル8はその中心に円筒状のノズル本体9を備えている。ノズル本体9の口径d1は原水の噴出流速が0.2〜3m/secとなるように設計するものとする。またノズル本体9の下端部にはオリフィス10を設けておくことが好ましい。このオリフィス10はチャンバー室2内に供給された原水を各ノズル本体9に均等に分散させるためのものであって、50〜2000mm水柱の圧力損失を持たせておくことが好ましい。
【0014】
ノズル本体9の外周にはすり鉢状の凹部11が設けられ、またノズル本体9の上方には同心となるように傘部12が設けられている。図4に示すすり鉢角度θ1は、15〜60°の範囲とすることが好ましい。すり鉢状の凹部11は原水を上向きにガイドするための部分である。なおすり鉢状の凹部11の外周部には隣接する分散ノズル8との間を区画する垂直なセパレータ13を形成しておく。このセパレータ13は円筒状のものであるが、分散ノズル8を碁盤の目状に配列する場合には、セパレータ13を平板状として分散ノズル8に左右両側にのみ直線状に配置することも可能である。セパレータ13の高さHは50〜300mm程度が適当である。
【0015】
傘部12はほぼ円錐状のものであって、固定アームのような適宜の固定手段によってノズル本体9の上方に固定されている。このためノズル本体9から噴出した原水は傘部12の裏面に衝突して下向きに方向を変え、傘部12の下端とすり鉢状の凹部11との隙間から分散して流出する。この機能を達成するために、傘部12の下端をノズル本体9の上端よりも下方に延長した構造としておく必要がある。また傘部12はノズル本体9の上部を覆ってマンガン触媒4がノズル本体9の内部を通って落下しないようにする機能を有するものであり、傘部12の下端をノズル本体9の上端よりも下方に延長することは、この機能を達成するためにも必要である。
【0016】
セパレータで囲まれた面積に対し、1000〜2500m/日で原水を供給した場合、傘部の下端からの原水の流速は1.5m/sec以下とすることが好ましい。この流速を越えるとマンガン触媒4どうしが高速で衝突することによる摩耗が著しくなるためである。またマンガン触媒4を流動させるためには少なくとも0.05m/secの流速を確保する必要がある。従ってこのような流速が得られるように傘部12の下端とすり鉢状の凹部11との隙間距離L1及び傘部12のサイズが決定されることになるが、一般的には傘部12の直径d2は、50〜300mmとすることが好ましい。
【0017】
このほか、図4に示す傘部12の下端角度θ2は15〜60°とすることが好ましく、傘部12の下端とすり鉢状の凹部11とがなす角度θ3は30〜120°とすることが好ましい。この実施形態では傘部12は下端部がより大きい角度で拡がった2段円錐形状をしているが、単純な円錐形状としても差し支えない。
【0018】
本発明の上向流式マンガン接触塔は上記した構造の多数の分散ノズル8を備えたものであり、マンガン及び濁質(SS)を含んだ原水はチャンバー室2内に供給され、各分散ノズル8に均等に分散されてノズル本体9から噴出される。原水は傘部12の下端と鉢状の凹部11との隙間から噴出して鉢状の凹部11の内面に沿って上昇し、上向流としてマンガン触媒充填層3を通過する。この間に原水中のマンガンイオンはマンガン触媒4の触媒作用により不溶性マンガンとなり、一部はマンガン触媒4の表面に付着し、残部はSSとともにマンガン触媒充填層3を通過してオーバーフロー部5に入り、流出管6から排出される。これらは後段に設置されたセラミックろ過膜14により分離回収される。このようにして原水中のマンガン及びSSを除去することができる。
【0019】
前記したように、本発明の上向流式マンガン接触塔においては原水を各分散ノズル8から均等に噴出させることができるので、マンガン触媒充填層3内のマンガン触媒4の全体を均等に流動させることができる。このため従来のように流動しないマンガン触媒が肥大して閉塞を生ずることもない。なお、マンガン触媒充填層3の閉塞性は、マンガン触媒充填層の膨張率(流動状態における高さ/非流動状態における高さ)によって評価することができる。
【0020】
図5のグラフは運転継続に伴う膨張率の変化を示すもので、単にマンガン触媒充填層の下部に分散管を配置した分散管方式では、膨張率は124%程度である。これに対してマンガン触媒充填層の下部に砂利層を設け、その内部に分散管を配置した支持砂利方式(図7)及び本発明方式では、膨張率は150%を越えて閉塞性が低下したことが分る。しかし支持砂利方式では砂利層の内部に落ち込んだマンガン触媒が肥大化して閉塞を招くので、運転開始後1年を経過すると膨張率が次第に低下して行く。なおこれとともにマンガン触媒充填層の通過圧損も上昇し、当初は25kPaであったが1年後には40kPaにまで上昇した。これに対して本発明方式では、膨張率、通過圧損とも変化がない。
【0021】
また本発明の上向流式マンガン接触塔ではマンガン触媒の損耗が少ないため、処理水の濁度が低下する。図6はLV=2000mで運転開始直後の処理水濁度の変化を示すグラフであり、マンガン触媒充填層の下部に分散管を配置した分散管方式では、マンガン触媒どうしが衝突して微粒子が水中に懸濁するため、処理水の濁度がなかなか低下しない。これに対して支持砂利方式及び本発明方式ではマンガン触媒の損耗が少ないため、処理水濁度は急速に低下することが分る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】上向流式マンガン接触塔の全体を示す断面図である。
【図2】要部の拡大断面図である。
【図3】単一の分散ノズルの断面図である。
【図4】単一の分散ノズルの寸法説明図である。
【図5】運転継続に伴う膨張率の変化を示すグラフである。
【図6】運転開始直後の処理水濁度の変化を示すグラフである。
【図7】従来の支持砂利方式の説明図である。
【符号の説明】
【0023】
1 塔本体
2 チャンバー室
3 マンガン触媒充填層
4 マンガン触媒
5 オーバーフロー部
6 流出管
7 水平板
8 分散ノズル
9 ノズル本体
10 オリフィス
11 すり鉢状の凹部
12 傘部
13 セパレータ
14 セラミックろ過膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状のマンガン触媒が充填された塔本体の底部に原水が流入するチャンバー室を形成し、このチャンバー室の上面に設けた多数の分散ノズルから原水をマンガン触媒充填層に供給する上向流式マンガン接触塔であって、各分散ノズルは垂直なノズル本体の上方に傘部を備え、傘部の下端をノズル本体の上端よりも下方に延長した構造であることを特徴とする上向流式マンガン接触塔。
【請求項2】
各分散ノズルは、ノズル本体の周囲にすり鉢状の凹部を備え、傘部の下端とすり鉢状の凹部との隙間から原水を供給する構造であることを特徴とする請求項1記載の上向流式マンガン接触塔。
【請求項3】
各分散ノズルは、全周または両側に垂直壁状のセパレータを備えたものであることを特徴とする請求項1記載の上向流式マンガン接触塔。
【請求項4】
セパレータで囲まれた面積に対し、1000〜2500m/日で原水を供給した場合の、傘部の下端からの原水の流速を0.05〜1.5m/secとしたことを特徴とする請求項3記載の上向流式マンガン接触塔。
【請求項5】
ノズル本体はその下部にオリフィスを備えたものであることを特徴とする請求項1記載の上向流式マンガン接触塔。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−119632(P2008−119632A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307708(P2006−307708)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】