説明

上皮増殖因子受容体モデュレーターに対する感受性を決定するためのバイオマーカーおよび方法

EGFRモデュレーターの投与を含む癌の治療法に治療的に応答する哺乳動物を同定する方法に有用なEGFRバイオマーカーであって、該方法が、(a)該哺乳動物をEGFRモデュレーターに暴露し、(b)工程(a)の暴露後、該哺乳動物において表1のバイオマーカーから選択される少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを測定することを含み、その際、該EGFRモデュレーターに暴露されていない哺乳動物で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルと比較した工程(b)で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルの相違が、該哺乳動物が該癌の治療法に治療的に応答するであろうことを示すことを特徴とするEGFRバイオマーカー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般にファーマコゲノミクスの分野に関し、さらに詳細には、個性化された遺伝子プロファイルの開発を可能にすべく患者の感受性を決定する方法および手順に関し、このような個性化された遺伝子プロファイルは患者の分子レベルでの応答に基づいて疾患および障害を治療するうえで役立つものである。
【背景技術】
【0002】
癌は組織臨床的な異質さの大きな疾患である。従来の組織学的および臨床的な特徴が予後と関連付けられているけれども、同じみかけの予後タイプの腫瘍が治療に対する応答性および患者のその後の生存において大きく異なっている。
【0003】
各患者について治療の個性化を容易にする新たな予後および予測マーカーが、臨床において小分子や生物学的分子医薬などの治療に対する患者の応答を正確に予測するために必要である。この問題は、治療に対する患者の感受性をより良く予測できる新たなパラメーターの同定により解決することができる。患者試料の分類は癌の診断および治療の重要な側面である。治療に対する患者の応答と分子および遺伝マーカーとの関連付けは、非応答患者における治療の開発の新たな機会を開くことができ、あるいは有効性における一層高い確実さの故に他の治療選択のうちで治療の適応症を識別することができる。さらに、医薬、薬物、または組合せ療法に良く応答する傾向のある患者を前もって選択することは、臨床研究において必要な患者の数を減らし、臨床開発プログラムを完成するのに必要な時間を短縮することができる(M. Cockettら、2000, Current Opinion in Biotechnology, 11:602-609)。
【0004】
患者において薬物感受性を予測することができることは特に興味深いことである、なぜなら、薬物応答性は標的細胞にとって内生の特性のみならず、宿主の代謝特性をも反映するものだからである。遺伝情報を用いて薬物感受性を予測しようとする努力は、多剤耐性遺伝子mdr1およびmrp1などの広い作用を有する個々の遺伝子に主として向けられてきた(P. Sonneveld, 2000, J. Intern. Med., 247:521-534)。
【0005】
遺伝子mRNA発現パターンの大スケールの特徴付けのためのマイクロアレイ法の開発は、分子マーカーを体系的に探索すること、および伝統的な組織病理学的方法では明らかではなかった別個のサブグループに癌を分類することを可能にした(J. Khanら、1998, Cancer Res., 58:5009-5013;A. A. Alizadehら、2000, Nature, 403:503-511;M. Bittnerら、2000, Nature, 406:536-540;J. Khanら、2001, Nature Medicine, 7(6):673-679;およびT. R. Golubら、1999, Science, 286:531-537;U. Alonら、1999, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96:6745-6750)。そのような技術および分子ツールは、分子集団内での多数の転写物の発現レベルをいかなる所定の時点においてもモニターすることを可能にした(たとえば、Schenaら、1995, Science, 270:467-470;Lockhartら、1996, Nature Biotechnology, 14:1675-1680;Blanchardら、1996, Nature Biotechnology, 14:1649;Ashbyらの米国特許第5,569,588号を参照)。
【0006】
最近の研究は、ヒト腫瘍のマイクロアレイ分析によって生成した遺伝子発現情報が臨床結果を予測し得ることを示している(L. J. van't Veerら、2002, Nature, 415:530-536;M. Westら、2001, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98:11462-11467;T. Sorlieら、2001, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98:10869-10874;M. Shippら、2002, Nature Medicine, 8(1):68-74)。これら知見は、治療に対する個々の腫瘍の応答をより良く予測することにより癌の治療が大きく改善されるであろうとの希望をもたらす。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
個性化された遺伝子プロファイルの開発を可能にすべく患者の薬物感受性を決定する新たな別の方法および手順が必要とされており、このような個性化された遺伝子プロファイルは患者の分子レベルでの応答に基づいて疾患および障害を治療するのに必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、1またはそれ以上の上皮増殖因子受容体(EGFR)モデュレーターに対する患者の感受性を決定するための方法および手順を提供する。本発明はまた、癌などの疾患状態の治療を必要とする個体が、治療を投与する前に該治療に応答するか否かを決定または予測する方法であって、該治療が1またはそれ以上のEGFRモデュレーターを含むものである方法をも提供する。1またはそれ以上のEGFRモデュレーターは、たとえば、1またはそれ以上のEGFR特異的リガンド、1またはそれ以上の小分子EGFRインヒビター、または1またはそれ以上のEGFR結合性モノクローナル抗体から選ばれる化合物である。
【0009】
一つの側面において、本発明は、EGFRモデュレーターの投与を含む癌の治療法に対して治療的に応答する哺乳動物を同定する方法であって、(a)表1のバイオマーカーから選択される少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを該哺乳動物において測定し、(b)該哺乳動物をEGFRモデュレーターに暴露し、(c)工程(b)の暴露後、該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを該哺乳動物において測定することを含み、その際、工程(a)で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルと比較した工程(c)で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルの相違が、該哺乳動物が該癌の治療法に治療的に応答するであろうことを示すものである方法を提供する。
【0010】
本明細書において、治療的な応答とは、癌の緩和または廃棄をいう。このことは、癌を罹患した個体の平均余命が増すこと、または癌の1またはそれ以上の徴候が低減または改善されることを意味する。この語は、癌様の細胞増殖または腫瘍容積の低減を包含する。哺乳動物が治療的に応答するか否かは、PET造影などの当該技術分野でよく知られた多くの方法によって測定することができる。
【0011】
哺乳動物は、たとえば、ヒト、ラット、マウス、イヌ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ネコ、霊長類、またはサルであってよい。
【0012】
本発明の方法は、たとえば、インビトロの方法であってよく、その際、該少なくとも一つのバイオマーカーは哺乳動物からの少なくとも一つの哺乳動物生物学的試料で測定される。生物学的試料は、たとえば、新鮮な全血、末梢血単核細胞、凍結した全血、新鮮な血漿、凍結した血漿、尿、唾液、皮膚、毛包、または腫瘍組織の少なくとも1つであってよい。
【0013】
他の側面において、本発明は、EGFRモデュレーターの投与を含む癌の治療法に対して治療的に応答する哺乳動物を同定する方法であって、(a)該哺乳動物をEGFRモデュレーターに暴露し、(b)工程(a)の暴露後、表1のバイオマーカーから選択される少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを該哺乳動物において測定することを含み、その際、該EGFRモデュレーターに暴露していない哺乳動物における該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルと比較した工程(b)で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルの相違が、該哺乳動物が該癌の治療法に治療的に応答するであろうことを示すものである方法を提供する。
【0014】
さらに他の側面において、本発明は、EGFRモデュレーターの投与を含む癌の治療法に対して哺乳動物が治療的に応答するか否かを試験または予測する方法であって、(a)表1のバイオマーカーから選択される少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを該哺乳動物において測定し、(b)該哺乳動物をEGFRモデュレーターに暴露し、(c)工程(b)の暴露後、該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを該哺乳動物において測定することを含み、その際、工程(a)で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルと比較した工程(c)で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルの相違が、該哺乳動物が該癌の治療法に治療的に応答するであろうことを示すものである方法を提供する。
【0015】
他の側面において、本発明は、ある化合物が哺乳動物においてEGFR活性を抑制するか否かを決定する方法であって、(a)該哺乳動物を該化合物に暴露し、ついで(b)工程(a)の暴露後、表1のバイオマーカーから選択される少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを該哺乳動物において測定することを含み、その際、該化合物に暴露していない哺乳動物における該バイオマーカーのレベルと比較した工程(b)で測定した該バイオマーカーのレベルの相違が、該化合物が該哺乳動物においてEGFR活性を抑制することを示すものである方法を提供する。
【0016】
さらに他の側面において、本発明は、哺乳動物がEGFR活性を抑制する化合物に暴露されたか否かを決定する方法であって、(a)該哺乳動物を該化合物に暴露し、ついで(b)工程(a)の暴露後、表1のバイオマーカーから選択される少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを該哺乳動物において測定することを含み、その際、該化合物に暴露していない哺乳動物における該バイオマーカーのレベルと比較した工程(b)で測定した該バイオマーカーのレベルの相違が、該哺乳動物がEGFR活性を抑制する化合物に暴露されたことを示すものである方法を提供する。
【0017】
他の側面において、本発明は、哺乳動物がEGFR活性を抑制する化合物に応答するか否かを決定する方法であって、(a)該哺乳動物を該化合物に暴露し、ついで(b)工程(a)の暴露後、表1のバイオマーカーから選択される少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを該哺乳動物において測定することを含み、その際、該化合物に暴露していない哺乳動物における該バイオマーカーのレベルと比較した工程(b)で測定した該バイオマーカーのレベルの相違が、該哺乳動物がEGFR活性を抑制する化合物に応答することを示すものである方法を提供する。
【0018】
本明細書において「応答する」とは、哺乳動物において生物学的および細胞応答並びに臨床的応答(改善された徴候、治療効果、または有害な事象など)により応答することを包含する。
【0019】
本発明はまた、表1のバイオマーカーから選択される単離されたバイオマーカーをも提供する。本発明のバイオマーカーは、表1および配列表にて提供されるヌクレオチド配列およびアミノ酸配列から選択される配列、並びにその断片および変異体を含む。
【0020】
本発明はまた、表1のバイオマーカーから選択される2またはそれ以上のバイオマーカーを含むバイオマーカーセットをも提供する。
【0021】
本発明はまた、1またはそれ以上のEGFRモデュレーターを含む治療に対してある患者が感受性であるかまたは耐性であるかを決定または予測するキットをも提供する。患者は、たとえば、結腸癌または腫瘍などの癌または腫瘍を罹患していてよい。
【0022】
一つの側面において、本発明のキットは、本発明の1またはそれ以上の特別のマイクロアレイを入れた適当な容器、患者の組織生検または患者の試料からの細胞を試験するのに用いる1またはそれ以上のEGFRモデュレーター、および使用の指示書を含む。キットはさらに、バイオマーカーセットの発現をmRNAまたはタンパク質レベルでモニターするための試薬または材料を含んでいてよい。
【0023】
他の側面において、本発明は、表1のバイオマーカーから選択される2またはそれ以上のバイオマーカーを含むキットを提供する。
【0024】
さらに他の側面において、本発明は、表1のバイオマーカーから選択される少なくとも一つのバイオマーカーの存在を検出するための抗体および核酸の少なくとも一つを含むキットを提供する。一つの側面において、該キットはさらに、EGFR活性を抑制する化合物の投与を含む癌の治療法に対して哺乳動物が治療的に応答するか否かを決定するための指示書を含む。他の側面において、該指示書は、(a)表1のバイオマーカーから選択される少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを該哺乳動物において測定し、(b)該哺乳動物を該化合物に暴露し、(c)工程(b)の暴露後、該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを該哺乳動物において測定する工程を含み、その際、工程(a)で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルと比較した工程(c)で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルの相違が、該哺乳動物が該癌の治療法に治療的に応答するであろうことを示すものである。
【0025】
本発明はまた、1またはそれ以上のEGFRモデュレーターによる治療に対して患者が感受性または耐性であるか否かを決定するためのスクリーニングアッセイをも提供する。
【0026】
本発明はまた、1またはそれ以上のEGFRモデュレーターにより治療することのできる疾患を罹患した患者の治療をモニターする方法をも提供する。
【0027】
本発明はまた、分子レベルでの患者の応答に基づいて疾患および障害を治療するのに必要な個性化された遺伝子プロファイルをも提供する。
【0028】
本発明はまた、1またはそれ以上のEGFRモデュレーターに対する感受性かまたは耐性のいずれかと相関関係のある発現プロファイルを有する1またはそれ以上のバイオマーカーを含む、特別なマイクロアレイ、たとえば、オリゴヌクレオチドマイクロアレイまたはcDNAマイクロアレイをも提供する。
【0029】
本発明はまた、本発明の1またはそれ以上のバイオマーカーに対して向けられたポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を含む抗体をも提供する。
【0030】
本発明は、添付の図面と関連して考察しながら発明の詳細な説明を読むとより理解されるであろう。
【0031】
本発明は、特定のシグナル伝達経路のモデュレーションに応答し、EGFRモデュレーター感受性または耐性と相関関係をも有するバイオマーカーを提供する。これらバイオマーカーは、1またはそれ以上のEGFRモデュレーターに対する応答を予測するのに用いることができる。一つの側面において、本発明のバイオマーカーは、表1および配列表にて提供するバイオマーカーであり、ポリヌクレオチドおよびポリペプチドの両配列を含む。
【0032】
表1:バイオマーカー
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
【表5】

【0037】
【表6】

【0038】
【表7】

【0039】
【表8】

【0040】
【表9】

【0041】
【表10】

【0042】
【表11】

【0043】
【表12】

【0044】
【表13】

【0045】
これらバイオマーカーは、細胞において、EGFRシグナル伝達経路の活性に依存し且つ細胞によって示されるEGFRモデュレーター感受性と高度の相関関係を有する発現レベルを有する。バイオマーカーは、EGFRモデュレーター、好ましくはEGFRキナーゼ機能または活性の直接的または間接的な抑制または拮抗作用によりEGFRキナーゼ活性に影響を及ぼす生物学的分子、小分子などに対する応答を予測するための有用な分子ツールとして働く。
【0046】
EGFRモデュレーター
本明細書において「EGFRモデュレーター」とは、EGFR活性またはEGFRシグナル伝達経路を直接的または間接的にモデュレートする生物学的分子または小分子である化合物または薬物を意味するものである。それゆえ、本明細書において化合物または薬物は、小分子および生物学的分子の両者を包含するものである。直接的または間接的なモデュレーションとしては、EGFR活性またはEGFRシグナル伝達経路の活性化または抑制が挙げられる。一つの側面において、抑制とは、EGFRのEGFRリガンド、たとえばEGFへの結合の抑制をいう。他の側面において、抑制とは、EGFRのキナーゼ活性の抑制をいう。
【0047】
EGFRモデュレーターとしては、たとえば、EGFR特異的リガンド、小分子EGFRインヒビター、およびEGFRモノクローナル抗体が挙げられる。一つの側面において、EGFRモデュレーターは、EGFR活性を抑制し、および/またはEGFRシグナル伝達経路を抑制する。他の側面において、EGFRモデュレーターは、EGFR活性を抑制し、および/またはEGFRシグナル伝達経路を抑制するEGFR抗体である。
【0048】
EGFRモデュレーターは、生物学的分子または小分子を含む。生物学的分子としては、全ての脂質および分子量が450を超える、単糖、アミノ酸、およびヌクレオチドのポリマーが挙げられる。それゆえ、生物学的分子としては、たとえば、オリゴ糖および多糖;オリゴペプチド、ポリペプチド、ペプチド、およびタンパク質;およびオリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドが挙げられる。オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドとしては、たとえば、DNAおよびRNAが挙げられる。
【0049】
生物学的分子はさらに、上記分子のいずれかの誘導体を含む。たとえば、生物学的分子の誘導体としては、オリゴペプチド、ポリペプチド、ペプチド、およびタンパク質の脂質およびグリコシル化誘導体が挙げられる。
【0050】
生物学的分子の誘導体はさらに、オリゴ糖および多糖の脂質誘導体、たとえば、リポ多糖を含む。最も典型的には、生物学的分子は抗体、または抗体の機能的等価物である。抗体の機能的等価物は、抗体の結合特性に匹敵する結合特性を有し、EGFRを発現する細胞の増殖を抑制する。そのような機能的等価物としては、たとえば、キメラ抗体、ヒト化抗体、および一本鎖抗体、並びにそのフラグメントが挙げられる。
【0051】
抗体の機能的等価物はまた、該抗体の可変領域または超可変領域のアミノ酸配列と実質的に同じアミノ酸配列を有するポリペプチドをも含む。他の配列と実質的に同じであるが、1またはそれ以上の置換、付加、および/または欠失により他の配列と異なっているアミノ酸配列は等価な配列であると考えられる。好ましくは、ある配列中のアミノ酸残基の数の50%未満、さらに好ましくは25%未満、さらに一層好ましくは10%未満がタンパク質から置換、タンパク質に付加、またはタンパク質から欠失している。
【0052】
抗体の機能的等価物は、好ましくはキメラ抗体またはヒト化抗体である。キメラ抗体は、非ヒト抗体の可変領域およびヒト抗体の定常領域を含む。ヒト化抗体は、非ヒト抗体の超可変領域(CDR)を含む。ヒト化抗体の超可変領域以外の可変領域、たとえばフレームワーク可変領域、および定常領域は、ヒト抗体からのものである。
【0053】
非ヒト抗体の適当な可変領域および超可変領域は、モノクローナル抗体の作成されたいずれかの非ヒト哺乳動物によって産生された抗体からのものであってよい。ヒト以外の哺乳動物の適当な例としては、たとえば、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ヤギ、または霊長類が挙げられる。
【0054】
機能的等価物はさらに、全抗体の結合特性と同じかまたは匹敵する結合特性を有する抗体のフラグメントを含む。抗体の適当なフラグメントとしては、EGFRチロシンキナーゼに特異的且つ充分な親和性でもって結合してそのような受容体を発現する細胞の増殖を抑制する超可変(すなわち、相補性決定)領域の充分な部分を含むあらゆるフラグメントが挙げられる。
【0055】
そのようなフラグメントは、たとえば、FabフラグメントまたはF(ab')フラグメントの一方または両者を含んでいてよい。抗体フラグメントは全抗体の6つの全ての相補性決定領域を含んでいるのが好ましいが、そのような領域を全てよりも少なく、たとえば3つ、4つ、または5つのCDRを含む機能的フラグメントも包含される。
【0056】
一つの側面において、フラグメントは一本鎖抗体、またはFvフラグメントである。一本鎖抗体は、相互連結リンカーによりまたは該リンカーなしで、少なくとも抗体の軽鎖の可変領域に連結した抗体の重鎖の可変領域を含むポリペプチドである。それゆえ、Fvフラグメントは全抗体結合部位を含む。これら鎖は細菌または真核細胞で産生できる。
【0057】
抗体および機能的等価物は、IgG、IgM、IgA、IgD、またはIgEなどの免疫グロブリンのいずれのクラス、およびそのサブクラスの成員であってもよい。一つの側面において、抗体はIgG1サブクラスの成員である。機能的等価物はまた、これらクラスおよびサブクラスのいずれかの組合せの等価物であってもよい。
【0058】
一つの側面において、EGFR抗体は、Mendelsohnらの米国特許第4,943,533号に記載されたマウス抗体225に由来するキメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、および一本鎖抗体から選択することができる(たとえば、cetuximabを含む)。
【0059】
他の側面において、EGFR抗体は、Jakobovitsらの米国特許第6,235,883号、Bendiらの米国特許第5,558,864号、およびMateo de Acosta del Rioらの米国特許第5,891,996号に記載の抗体から選択することができる。
【0060】
上記で検討した生物学的分子に加え、本発明において有用なEGFRモデュレーターはまた小分子であってよい。生物学的分子ではないあらゆる分子は、本明細書において小分子とされる。小分子の若干の例としては、有機化合物、有機金属化合物、有機化合物および有機金属化合物の塩、糖、アミノ酸、およびヌクレオチドが挙げられる。小分子はさらに、分子量が450を超えていないこと以外では生物学的分子であると考えられる分子を含む。それゆえ、小分子は、分子量が450またはそれ以下である脂質、オリゴ糖、オリゴペプチド、およびオリゴヌクレオチドおよびその誘導体であってよい。
【0061】
小分子はいかなる分子量を有していてもよいことが強調される。小分子は典型的に450未満の分子量を有するが故に小分子と呼ばれるにすぎない。小分子は天然に見出される化合物並びに合成の化合物を含む。一つの態様において、EGFRモデュレーターはEGFRを発現する腫瘍細胞の増殖を抑制する小分子である。他の態様において、EGFRモデュレーターはEGFRを発現する難治性腫瘍細胞の増殖を抑制する小分子である。さらに他の態様において、EGFRモデュレーターは、erlotinib HClまたはgefitinibである。
【0062】
多数の小分子がEGFRを抑制するのに有用であると記載されている。たとえば、Spadaらの米国特許第5,656,655号はEGFRを抑制するスチリル置換へテロアリール化合物を開示している。このへテロアリール基は1または2のへテロ原子を有する単環であるかまたは1ないし約4のへテロ原子を有する二環であり、該化合物は任意に置換またはポリ置換されている。
【0063】
Spadaらの米国特許第5,646,153号は、EGFRを抑制するビス単環および/または二環アリールへテロアリール、炭素環、およびへテロ炭素環化合物を開示している。
【0064】
Bridgesらの米国特許第5,679,683号は、EGFRを抑制する三環ピリミジン化合物を開示している。これら化合物は、第3欄の35行〜第5欄の6行に記載されている縮合へテロ環ピリミジン誘導体である。
【0065】
Barkerの米国特許第5,616,582号は、レセプターチロシンキナーゼ阻害活性を有するキナゾリン誘導体を開示している。
【0066】
Fryら(Science 265, 1093-1095 (1994))は、図1にEGFRを抑制する構造を有する化合物を開示している。
【0067】
Osherovらは、EGFR/HER1およびHER2を抑制するtyrphostins、とりわけ表I、II、IIIおよびIVに記載のものを開示している。
【0068】
Levitzkiらの米国特許第5,196,446号は、とりわけ第2欄の42行〜第3欄の40行においてEGFRを抑制するへテロアリールエーテンジイル(heteroarylethenediyl)またはへテロアリールエーテンデイルアリール(heteroarylethendeiylaryl)化合物を開示している。
【0069】
Panekら(Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics 283, 1433-1444 (1997))は、受容体のEGFR、PDGFR、およびFGFRファミリーを抑制するPD166285として同定された化合物を開示している。PD166285は、1436頁の図1に示す構造を有する6-(2,6-ジクロロフェニル)-2-(4-(2-ジエチルアミノエトキシ)フェニルアミノ)-8-メチル-8H-ピリド(2,3-d)ピリミジン-7-オンとして同定されている。
【0070】
バイオマーカーおよびバイオマーカーセット
本発明は、EGFRまたはEGFR経路によるシグナル伝達が重要である疾患領域において、たとえば、癌または腫瘍において、免疫学的障害、状態または不全において、または細胞のシグナル伝達および/または細胞増殖の制御が異常または異所性である疾患状態において、診断および予後の両者で価値を有する個々のバイオマーカーおよびバイオマーカーセットを含む。バイオマーカーセットは、複数のバイオマーカー、たとえば、以下の表1に示す、1またはそれ以上のEGFRモデュレーターに対する感受性または耐性と高度の相関関係を有する複数のバイオマーカーを含む。
【0071】
本発明のバイオマーカーセットは、種々の生物学的系においてまたは細胞応答について1またはそれ以上のEGFRモデュレーターの起こりそうな効果を予測または妥当に予告することを可能にする。バイオマーカーセットは、被験細胞によるEGFRモデュレーター応答のインビトロアッセイに用いてインビボでの結果を予測することができる。本発明によれば、本明細書に記載する種々のバイオマーカーセット、またはこれらバイオマーカーセットと他のバイオマーカーまたはマーカーとの組合せを、たとえば、癌患者が1またはそれ以上のEGFRモデュレーターによる治療的介入に対してどのように応答するかを予測するのに用いることができる。
【0072】
細胞が1またはそれ以上のEGFRモデュレーターに暴露された後の細胞の感受性または耐性と相関関係を有する細胞の遺伝子発現パターンのバイオマーカーセットは、該EGFRモデュレーターで治療する前に1またはそれ以上の腫瘍試料をスクリーニングするための有用なツールを提供する。このスクリーニングは、バイオマーカーセットの発現結果に基づき、腫瘍、それゆえ腫瘍を罹患した患者がEGFRモデュレーターを用いた治療に応答するか否かについて、1またはそれ以上のEGFRモデュレーターに暴露された腫瘍試料の細胞の予測を可能にする。
【0073】
バイオマーカーまたはバイオマーカーセットはまた、本明細書に記載するように、EGFRモデュレーターが関与する疾患の治療を受けている患者において疾患の治療または療法の進行をモニターするのに用いることができる。
【0074】
バイオマーカーはまた、疾患の治療のための療法の開発のための標的とすることができる。そのような標的は、直腸癌や直腸腫瘍などの直腸疾患の治療に特に応用することができる。実際、これらバイオマーカーは感受性細胞および耐性細胞において異なって発現されるので、その発現パターンはEGFRモデュレーターを用いた治療に対する細胞の相対的な内生の感受性と相関関係がある。従って、耐性の細胞において高度に発現されるバイオマーカーは、EGFRモデュレーター、とりわけEGFRインヒビターに対して耐性の腫瘍の新たな療法の開発のための標的となり得る。
【0075】
マイクロアレイ
本発明はまた、1またはそれ以上のEGFRモデュレーターに対する感受性かまたは耐性のいずれかと相関関係のある発現パターンを示す1またはそれ以上のバイオマーカーを含む、特別のマイクロアレイ、たとえば、オリゴヌクレオチドマイクロアレイまたはcDNAマイクロアレイをも包含する。そのようなマイクロアレイは、腫瘍生検からの被験細胞においてバイオマーカーの発現レベルを評価し、これら被験細胞がEGFRモデュレーターに対して耐性または感受性でありそうか否かを決定するためのインビトロアッセイに用いることができる。たとえば、特別のマイクロアレイは、本明細書に記載し表1に示すバイオマーカーの全てまたはそのサブセットを用いて調製することができる。組織または器官生検からの細胞を単離し、1またはそれ以上のEGFRモデュレーターに暴露することができる。未処理細胞および処理細胞の両者から単離した核酸を1またはそれ以上の特別のマイクロアレイに適用した後、被験細胞の遺伝子発現パターンを決定し、マイクロアレイ上でバイオマーカーセットを作成するのに用いた細胞のコントロールパネルからのバイオマーカーパターンのものと比較することができる。試験に供した細胞からの遺伝子発現パターンの結果に基づき、該細胞が遺伝子発現の耐性または感受性プロファイルのいずれを示すかを決定することができる。ついで、組織または器官生検からの被験細胞が1またはそれ以上のEGFRモデュレーターに応答するか否か、および治療または療法の方針を、特別のマイクロアレイ分析の結果から収集した情報に基づいて決定または評価することができる。
【0076】
抗体
本発明はまた、1またはそれ以上のポリペプチドバイオマーカーに対して向けられたポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を含む抗体をも包含する。そのような抗体は様々な仕方で用いることができ、たとえばインビトロおよびインビボ両者での診断、検出、スクリーニング、および/または治療法を含めて、本発明のバイオマーカーを精製、検出、およびターゲティングするのに用いることができる。
【0077】
キット
本発明はまた、1またはそれ以上のEGFRモデュレーターを含む治療に対して患者が感受性であるかまたは耐性であるかを決定または予測するためのキットをも包含する。患者は、癌または腫瘍、たとえば直腸癌または直腸腫瘍を罹患していてよい。そのようなキットは、患者の生検腫瘍もしくは癌試料を試験するのに使用するため、たとえば患者の腫瘍または癌がEGFRモデュレーターを用いた所定の治療または療法に対して耐性であるかまたは感受性であるかを決定または予測するために臨床場面において有用であろう。該キットは、以下のものを入れた適当な容器を含む:EGFRモデュレーター、とりわけEGFRインヒビターに対する耐性および感受性と相関関係のあるバイオマーカーを含む1またはそれ以上のマイクロアレイ、たとえば、オリゴヌクレオチドマイクロアレイまたはcDNAマイクロアレイ;患者の組織生検または患者の試料からの細胞を試験するのに使用する1またはそれ以上のEGFRモデュレーター;および使用の指示書。さらに、本発明によって包含されるキットは、本明細書においてさらに記載するように、当該技術分野で実施されている他の技術および系、たとえば、RT−PCRアッセイ(本明細書に記載する1またはそれ以上のバイオマーカーに基づいてデザインしたプライマーを使用する)、酵素結合抗体免疫吸着アッセイ(ELISA)などのイムノアッセイ、イムノブロッティング、たとえば、ウエスタンブロッティング、またはインシトゥハイブリダイゼーションなどを用い、たとえば、本発明のバイオマーカーの発現をmRNAまたはタンパク質のレベルでモニターするための試薬または材料をさらに含んでいてよい。
【0078】
バイオマーカーおよびバイオマーカーセットの応用
バイオマーカーおよびバイオマーカーセットは種々の応用に用いることができる。バイオマーカーセットは、種々の生物学的系においていかなるEGFRモデュレーターの起こりそうな効果についての予測をも可能とすべく、表1に列記したバイオマーカーのいかなる組合せからも構築することができる。本明細書に記載する様々なバイオマーカーおよびバイオマーカーセットは、たとえば、疾患管理における診断または予後の指標として、EGFRをモデュレートする化合物を用いた治療的介入に対して癌患者がどのように応答するかを予測するため、および全EGFR制御経路によるシグナル伝達をモデュレートする治療的介入に対して患者がどのように応答するかを予測するために用いることができる。
【0079】
本明細書に記載するデータは癌療法に潜在的に有用性を有する化合物をスクリーニングおよび同定するのに通常使用される細胞株において得られたが、本発明のバイオマーカーはEGFRまたはEGFR経路によるシグナル伝達が重要である他の疾患領域において、たとえば、免疫学において、または細胞のシグナル伝達および/または増殖の制御がきかなくなった癌または腫瘍においても診断および予後の両者において価値を有する。
【0080】
本発明によれば、患者の組織試料からの細胞、たとえば腫瘍または癌生検をアッセイして、1またはそれ以上のEGFRモデュレーターで治療する前に1またはそれ以上のバイオマーカーの発現パターンを決定することができる。治療の成功または失敗は、被験組織からの細胞(被験細胞)、たとえば腫瘍または癌生検のバイオマーカーの発現パターンに基づき、1またはそれ以上のバイオマーカーのコントロールセットの発現パターンと比べて同じであるか異なるかで決定することができる。それゆえ、もしも被験細胞が、EGFRモデュレーターに対して感受性の細胞のコントロールパネルでのバイオマーカーのものに対応するバイオマーカー発現プロファイルを示すなら、該患者の癌または腫瘍は該EGFRモデュレーターを用いた治療に良好に応答するであろうことの蓋然性が非常に高いあるいは予測される。対照的に、もしも被験細胞が、EGFRモデュレーターに対して耐性の細胞のコントロールパネルのバイオマーカーのものに対応するバイオマーカー発現パターンを示すなら、該患者の癌または腫瘍は該EGFRモデュレーターを用いた治療には応答しないであろうことの蓋然性が非常に高いあるいは予測される。
【0081】
本発明はまた、1またはそれ以上のEGFRモデュレーターによって治療できる疾患を罹患した患者の治療をモニターする方法をも提供する。患者の組織試料、たとえば、腫瘍生検または腫瘍試料からの単離被験細胞をEGFRモデュレーターに暴露する前および暴露後に1またはそれ以上のバイオマーカーの発現パターンを決定することができ、その際、好ましくはEGFRモデュレーターはEGFRインヒビターである。その結果得られた治療の前および治療後の被験細胞のバイオマーカー発現プロファイルを、EGFRモデュレーターに対して耐性または感受性のいずれかである細胞のコントロールパネルで高度に発現されるべき本明細書に記載し示した1またはそれ以上のバイオマーカーのものと比較する。それゆえ、もしも患者の応答が1またはそれ以上のバイオマーカーの発現プロファイルの相関関係に基づいてEGFRモデュレーターによる治療に対して感受性であるなら、該患者の治療予後は良好であると認定され、治療を続行することができる。また、もしもEGFRモデュレーターを用いた治療の後に被験細胞が該EGFRモデュレーターに感受性の細胞のコントロールパネルに対応するバイオマーカー発現プロファイルに変化を示さないなら、このことは現在行っている治療を修正、変更、あるいは中止さえすべきであるとの指標となり得る。このモニタリングプロセスはEGFRモデュレーターを用いた患者の治療の成功または失敗を指摘することができ、必要に応じてまたは所望により、そのようなモニタリングプロセスを繰り返すことができる。
【0082】
本発明のバイオマーカーは、生物学的系について何らかの知見を得る前に結果を予測するのに用いることができる。本質的に、バイオマーカーは統計的なツールであると考えることができる。バイオマーカーは主として生物学的系を分類するのに用いる表現型を予測するうえで有用である。本発明の一つの態様において、予測の目的は活性なまたは不活性なEGFR経路を有するものとして癌細胞を分類することにある。不活性なEGFR経路を有する癌細胞はEGFRモデュレーターを用いた治療に対して耐性であると考えることができる。不活性なEGFR経路は、本明細書において、EGFRの有意でない発現として、または本明細書において例示したEGFRインヒビター化合物に対する各結腸細胞株のIC50値に基づく「耐性」または「感受性」としての分類により定義される。
【0083】
しかしながら、現在のところバイオマーカーの全ての完全な機能が知られているわけではないが、バイオマーカーのあるものは直接または間接にEGFRシグナル伝達経路に関与しているようである。さらに、バイオマーカーのあるものは試験したEGFRモデュレーターに特異的な代謝的または他の耐性経路で機能しているかもしれない。それにも拘わらず、バイオマーカーの機能についての知見は本発明の実施に従ってバイオマーカーの正確さを決定するための要件ではない。
【0084】
実施例
実施例1:バイオマーカーの同定
表1のバイオマーカーを以下のようにして同定した。
結腸腫瘍および患者:
40の結腸腫瘍を1998年から2002年の間にロンドン大学から収集した。患者の年齢の中央値は70歳であった(範囲:26〜91歳)。患者は以下のように診断された:6人の患者はDuke's Aと表示し、14人の患者はDuke's Bと表示し、20人の患者はDuke's Cと表示した。患者はいずれも術前治療を受けておらず、13人の患者は術後治療を受けていた。
【0085】
結腸癌細胞株における相対的薬剤感受性の決定:
使用した細胞株フィルタリングプロセスを図2に示す。
結腸癌細胞株を標準細胞培養条件:10%ウシ胎仔血清、100IU/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシン、2mM L-グルタミンおよび10mM Hepes(すべてGibcoBRL、ロックビル、メリーランドから)を補充したRPMI 1640を用いて増殖させた。21の結腸癌細胞株を、一対の小分子EGFRインヒビター、erlotinib HClおよびgefitinibに対する相対的感受性について調べた。細胞障害作用を細胞においてMTS(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルフェニル)-2H-テトラゾリウム、内部塩)アッセイ(T.L. Rissら、1992, Mol. Biol. Cell, 3 (補遺):184a)により評価した。アッセイを行うため、結腸癌細胞を96ウエルマイクロタイタープレートに4,000細胞/ウエルにてプレーティングし、24時間後に系列希釈した薬剤を添加した。細胞障害アッセイに用いたEGFRインヒビター化合物の濃度範囲は、50μg/mlから0.0016μg/ml(およそ100μMから0.0032μM)であった。細胞を37℃で72時間インキュベートし、この時点でテトラゾリウム染料MTS(電子共役剤であるフェナジンメトサルフェートとの組み合わせで最終濃度333μg/ml)を添加した。生きた細胞中のデヒドロゲナーゼはMTSを還元して492nmで光吸収する形態とするので、これを分光測光的に定量することができる。吸光度が高いほど、生きた細胞の数が多い。その結果を下記表2および図3に提供し、IC50(未処理細胞の50%まで細胞増殖を抑制するのに必要な薬剤の濃度)として表してある。
【0086】
表2:結腸細胞株
【表14】

【0087】
耐性/感受性分類
EGFRインヒビター耐性を定める異なるカットオフを用いて2つの別個の分析を行った。第一のもの(「6−15」と称する)については、IC50が7μM以下の6つの細胞株は感受性と定められ、残りの15の細胞株は耐性と定められた。第二のもの(「3−18」と称する)については、IC50が4μM未満の3つの細胞株は感受性と定められ、残りの18の細胞株は耐性と定められた。
【0088】
遺伝子発現プロファイリング
Qiagen(バレンシア、カリフォルニア)からのRNeasyキットを用い、RNAを50-70%コンフルエント細胞株または結腸癌腫瘍組織から単離した。RNAの品質をAgilent 2100バイオアナライザー(Agilent, Technologies、ロックビル、メリーランド)を用いて28s:18:リボソームRNA比を測定することによりチェックした。全RNAの濃度を分光測光的に決定した。10μgの全RNAを用い、Affymetrix Genechip Expression Analysis Technical Manual, 2001に従ってビオチン化プローブを調製した。標的をヒトHG-U133A遺伝子チップに製造業者の指示に従ってとハイブリダイズさせた。データをMAS 5.0ソフトウエア(Affymetrix、サンタ・クララ、カリフォルニア)を用いて分析した。各試料の全体の発現レベルが対比しうるように、各チップの調節した(trimmed)平均強度を1,500までの比率として全体的なチップ強度のわずかな差違をなくした。
【0089】
データ分析
U133Aチップに存在する22,215のすべてのプローブ(遺伝子配列)は潜在的な予測バイオマーカーと考えられた。結腸腫瘍で中くらいレベルで発現される遺伝子配列に分析を限定するため、アレイ(3000の発現ユニット)の平均値の2×の少なくとも1の発現値を有しない遺伝子配列は除外して6988の遺伝子配列を残した。つぎに、結腸腫瘍で発現が変動する(それゆえ、治療に応答した変動性と相関関係を有しやすい)遺伝子を同定するため、VARP値(log10変換データを使用)が<0.1である遺伝子配列を除外して745の遺伝子配列を残した。つぎに、残った745の遺伝子配列に、結腸細胞株データを用いて同じ発現および分散フィルターを適用して分析用の332の遺伝子配列に減らした(図1)。
【0090】
ついで、上記細胞株の耐性/感受性分類を用い、332の遺伝子配列を両側T検定に供した(図3)。合計12の遺伝子配列が、両分析について<0.05のp-値を有していた(T検定の結果I、図4)。「6−15」分析については、19の遺伝子配列が、<0.05のp-値を有していることがわかった(T検定の結果II、図5)。「3−18」分析については、29の遺伝子配列が、<0.05のp-値を有していることがわかった(T検定の結果III、図6)。表1は、両側T検定を用いて同定したバイオマーカーを示す。
【0091】
実施例2:未処置異種移植プロファイル
実施例1では、gefitinibおよびerlotinib HClに対する細胞株の感受性耐性プロファイルを用いてバイオマーカーを同定した。本実施例では、cetuximab(C225)についての有効性データを結腸癌異種移植モデルGeo(C225に感受性)およびHT29(C225に耐性)において提供する。
【0092】
インビボ抗腫瘍試験
ドナーマウスからの腫瘍断片を用い、腫瘍をヌードマウスで皮下移植として増殖させた。腫瘍の継代をおよそ2週間から4週間毎に行った。ついで、腫瘍を前もって決定したサイズウインドウ(通常、100-200mg、この範囲外の腫瘍は排除した)まで増殖させ、動物を種々の処置群および対照群に均等に分散させた。動物をC225で処置した(1mg/マウスq3d×10, 14, ip)。処置した動物を毎日、処置に関連する毒性/死亡率についてチェックした。各群の動物を処置の開始前(Wt1)および再び最後の処置投与後に(Wt2)体重を計測した。体重の差違(Wt2-Wt1)は、処置に関連する毒性の測定手段を提供する。腫瘍が前もって決定した1gmのサイズに到達するかまたは壊死となるまで、1週間に2回、カリパスでの腫瘍の測定により腫瘍応答を決定した。腫瘍重量(mg)は、式:
腫瘍重量 = (長さ×幅2)/2
から評価した。
【0093】
抗腫瘍活性は、原発腫瘍増殖の抑制として決定した。これは2つの仕方で決定した:(i)種々の時点での処置(T)マウスおよび対照(C)マウスの相対的な腫瘍重量の中央値(MTW: relative median tumor weight)を計算する;および(ii)処置腫瘍(T)が対照群(C)のものと比べて前もって決定した標的サイズに到達するのに要する時間(日)の差違として定められる腫瘍増殖の遅れ(T-C値)を計算する。データの統計的評価は、腫瘍標的サイズに到達する時間の比較のためのGehan's generalized Wilcoxon検定を用いて行った(Gehan 1965)。統計的有意は、p<0.05で言明した。抗腫瘍活性は、処置開始後のいずれかの時点で少なくとも1の腫瘍容積倍増時間(TVDT)についての連続MTW %T/C≦50%として定められ、ここでTVDT(腫瘍容積倍増時間)=対照腫瘍が標的サイズに到達するのに要する時間(日)の中央値−対照腫瘍が標的サイズの半分に到達するのに要する時間(日)の中央値。さらに、処置群は、活性と称される統計的に有意な腫瘍増殖の遅れ(T-C値)(p<0.05)を伴っていなければならなかった。
【0094】
処置した動物を毎日、処置に関連する毒性/死亡率についてチェックした。死亡したときは、死亡の日を記録した。腫瘍が標的サイズに到達する前に死亡した処置マウスは、薬剤の毒性のために死亡したとされた。標的サイズよりも小さな腫瘍を有する対照マウスで死亡したものはなかった。薬剤の毒性によって引き起こされた死亡が1を超える処置群は、過度に毒性の処置と考えられ、化合物の抗腫瘍の有効性の評価には含めなかった。
【0095】
表3は、その結果得られた未処置異種移植プロファイルを示す。
表3:未処置異種移植プロファイル
【表15】

【0096】
【表16】

【0097】
【表17】

【0098】
【表18】

【0099】
【表19】

【0100】
実施例3:バイオマーカーに対する抗体の製造
バイオマーカーに対する抗体は種々の方法により調製することができる。たとえば、バイオマーカーポリペプチドを発現している細胞を動物に投与して、該発現されたポリペプチドに対して向けられたポリクローナル抗体を含む血清の産生を動物に誘発することができる。一つの側面において、当該技術分野で一般に行われている技術を用い、バイオマーカータンパク質を調製および単離し、あるいは精製して天然の混入物を含まないようにする。ついで、発現され単離されたポリペプチドに対して高い比活性を有するポリクローナル抗血清を製造するため、そのような調製物を動物に導入する。
【0101】
一つの側面において、本発明の抗体はモノクローナル抗体(またはそのタンパク質結合フラグメント)である。バイオマーカーポリペプチドを発現する細胞はいずれかの適当な組織培養培地にて培養できるが、10%ウシ胎仔血清(約56℃で不活化したもの)を含むように補充し、約10g/lの非必須アミノ酸、約1,00U/mlのペニシリン、および約100μg/mlのストレプトマイシンを含むように補充したEarle改変Eagle培地で細胞を培養するのが好ましい。
【0102】
免疫した(およびブースター投与した)マウスの脾細胞を抽出し、適当なミエローマ細胞株と融合することができる。いずれの適当なミエローマ細胞株をも本発明に従って用いることができるが、ATCCから入手可能な親ミエローマ細胞株(SP2/0)を用いるのが好ましい。融合後、Wandsら(1981, Gastroenterology, 80:225-232)によって記載されているように、得られたハイブリドーマ細胞をHAT培地で選択的に維持し、ついで限界希釈によりクローニングする。ついで、そのような選択により得られたハイブリドーマ細胞をアッセイして、ポリペプチド免疫原またはその部分に結合することのできる抗体を分泌する細胞クローンを同定する。
【0103】
別法として、抗イディオタイプ抗体を用いる2工程法においてバイオマーカーポリペプチドに結合することのできるさらなる抗体を製造することができる。そのような方法は、抗体自身が抗原であること、それゆえ第二の抗体に結合する抗体を得ることができるとの事実を用いるものである。この方法によれば、タンパク質特異的抗体を用いて動物、好ましくはマウスを免疫することができる。ついで、そのような免疫した動物の脾細胞を用いてハイブリドーマ細胞を製造し、ハイブリドーマ細胞をスクリーニングしてタンパク質特異的抗体に結合する能力が該ポリペプチドによって阻止され得る抗体を産生するクローンを同定する。そのような抗体はタンパク質特異的抗体に対する抗イディオタイプ抗体を含み、動物を免疫してさらなるタンパク質特異的抗体の生成を誘発するのに用いることができる。
【0104】
実施例4:免疫蛍光アッセイ
以下の免疫蛍光プロトコールを、たとえば、細胞上のEGFRバイオマーカータンパク質発現を確認するため、または、たとえば、細胞の表面に発現されたEGFRバイオマーカーに結合する1またはそれ以上の抗体の存在についてチェックするために用いることができる。簡単に説明すると、カルシウムおよびマグネシウムを含むDPBS(DPBS++)中の10μg/mlのウシコラーゲンII型でLab-Tek IIチャンバスライドを4℃にて一夜コーティングする。ついで、スライドを冷DPBS++で2回洗浄し、全容量125μlの8000 CHO-CCR5または CHO pC4トランスフェクション細胞を播種し、95%酸素/5%二酸化炭素の存在下、37℃でインキュベートする。
【0105】
培地を吸引により穏やかに除去し、吸着した細胞をDPBS++で周囲温度にて2回洗浄する。スライドを0.2%BSA(ブロッキング剤)を含有するDPBS++で0-4℃にて1時間ブロッキングする。ブロッキング溶液を吸引により穏やかに除去し、125μlの抗体含有溶液(抗体含有溶液は、たとえば、ハイブリドーマ培養上澄み液(通常、希釈せずに用いる)、または血清/血漿(通常、希釈する、たとえば約1/100の希釈)であってよい)を加える。スライドを0-4℃にて1時間インキュベートする。ついで、抗体溶液を吸引により穏やかに除去し、細胞を400μlの氷冷ブロッキング溶液で5回洗浄する。つぎに、ブロッキング溶液中のローダミン標識二次抗体(たとえば、抗ヒトIgG)(125μl、1μg/ml)を細胞に加える。再び、細胞を0-4℃にて1時間インキュベートする。
【0106】
ついで、二次抗体を吸引により穏やかに除去し、細胞を400μlの氷冷ブロッキング溶液で3回、ついで冷DPBS++で5回、洗浄する。ついで、細胞をDPBS++中の3.7%ホルムアルデヒド(125μl)で周囲温度にて15分間固定化する。その後、細胞を400μlのDPBS++で周囲温度にて5回洗浄する。最後に、細胞を50%水性グリセリンに入れ、ローダミンフィルターを用いて蛍光顕微鏡で観察する。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】遺伝子フィルタリングプロセスを示す。
【0108】
【図2】細胞株フィルタリングプロセスを示す。
【0109】
【図3】細胞株IC50データを示す。
【0110】
【図4】T検定の結果Iを示す。
【0111】
【図5】T検定の結果IIを示す。
【0112】
【図6】T検定の結果IIIを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
EGFRモデュレーターの投与を含む癌の治療法に治療的に応答する哺乳動物を同定する方法であって、
(a)表1のバイオマーカーから選択される少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを該哺乳動物において測定し、
(b)該哺乳動物をEGFRモデュレーターに暴露し、
(c)工程(b)の暴露後、該哺乳動物において該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを測定する
ことを含み、その際、工程(a)で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルと比較した工程(c)で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルの相違が、該哺乳動物が該癌の治療法に治療的に応答するであろうことを示すことを特徴とする方法。
【請求項2】
該方法がインビトロの方法であり、該少なくとも一つのバイオマーカーが該哺乳動物からの少なくとも一つの哺乳動物生物学的試料で測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
EGFRモデュレーターの投与を含む癌の治療法に治療的に応答する哺乳動物を同定する方法であって、
(a)該哺乳動物をEGFRモデュレーターに暴露し、
(b)工程(a)の暴露後、該哺乳動物において表1のバイオマーカーから選択される少なくとも一つのバイオマーカーのレベルを測定する
ことを含み、その際、該EGFRモデュレーターに暴露されていない哺乳動物で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルと比較した工程(b)で測定した該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルの相違が、該哺乳動物が該癌の治療法に治療的に応答するであろうことを示すことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−537717(P2007−537717A)
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549464(P2006−549464)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【国際出願番号】PCT/US2005/000638
【国際公開番号】WO2005/067667
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(391015708)ブリストル−マイヤーズ スクイブ カンパニー (494)
【氏名又は名称原語表記】BRISTOL−MYERS SQUIBB COMPANY
【Fターム(参考)】