説明

上着

【課題】 洗濯しても型崩れし難く、乾きもよく、見た目に高級感があり、更に着用感のよいウォッシャブルスーツの上着を提供する。
【解決手段】 アームホールの全周を囲んで身頃側の裏布が設けられている上着において、アームホール6を取り囲むリング状周縁部4がメッシュ生地からなり、他の身頃側の裏布1、2、3および袖側の裏布5は織物製の裏地であり、前記リング状周縁部4の内縁は前記袖側の裏布5と縫合されており、前記リング状周縁部4の外縁は前記身頃側の裏布1、2、3と縫合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウォッシャブルスーツの上着に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のウォッシャブルスーツ、特に合服のウォッシャブルスーツにおいては、全面的に裏地を付けるため、すなわち前裏、背裏(背中全体または肩から背中の半分位まで)および袖裏を付けるため、水抜けが悪く、洗濯機による水洗いで、上着に負荷が掛かり、型崩れが発生し易い。
【0003】
特に、従来のウォッシャブルスーツを洗濯機で洗うと、水流で水が背中の表地と裏地の間に入り、背中の裏地と表地の間に形成される袋状部分に水流の水が溜まってしまう。
【0004】
そのまま洗濯を続けると、水流による回転によって、上着に負荷が掛り、上着の形が崩れたり、地の目が歪んだりする。また、肩回り(アームホール)にはゆき綿や肩パッド等が入っており、水抜けが悪く、洗濯した上着を干すときに上着の形が崩れるという問題が生じた。
【0005】
また、背中の裏地と表地の間に形成される袋状部分に濯ぎの水が溜まるので、肩パッドなどが濯ぎの水の汚れを吸い込んでしまい、汚れが逃げないという問題も生じた。
【0006】
更に、水抜けが悪いと肩パッド(厚みがある)などの乾燥が遅くなる。乾燥に時間が掛かると、家庭では上着を人台で乾かせないのでハンガーで乾かすから、その分上着の自重で垂れが生じ、上着の形が崩れる。
【0007】
一方、特許文献1(実用新案登録第3088492号公報)には、裏地を全てメッシュ生地とした夏季用上着が提案されている。しかし、この提案された上着は、裏地を全てメッシュ生地としたので滑りが悪い。また、裏地が全てメッシュ生地であるので伸び縮みし易く、型崩れし易いという問題がある。更に、この提案された上着では細腹(さいばら)の箇所に裏地がなく、袖裏もなく、見た目に安っぽく見える。しかも、ワイシャツを着用した状態で、上着を着たり脱いだりすると、袖裏が付いていないため、滑りが悪くて、袖に手を通し難く、着易いと感じない。また、このように上着の一部にしか裏地が付いていないので、真夏用の上着に適しているが、他の季節に着用するには適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実用新案登録第3088492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した従来技術に付随する問題点を解消して、洗濯しても型崩れし難く、乾きもよいウォッシャブルスーツの上着を提供することを目的とする。
【0010】
更に、本発明は裏布には主として滑りのよい生地を使用し、また、見た目に高級感があり、更に、腕を動かす際に裏地がその動きを妨げないような着用感のよいウォッシャブルスーツの上着を提供することを目的とする。
【0011】
本発明は、型崩れ防止のために、肩回り(アームホール)の水抜けを考え、開発されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明においては、アームホールの全周を囲んで身頃側の裏布が設けられている上着において、アームホールを取り囲むリング状周縁部がメッシュ生地からなり、他の身頃側の裏布および袖側の裏布は織物製の裏地であり、前記リング状周縁部の内縁は前記袖側の裏布と縫合されており、前記リング状周縁部の外縁は前記身頃側の裏布と縫合されていることを特徴とする上着により前記目的を達成する。
【0013】
また、前記リング状周縁部の外縁と前記身頃側の裏布とは両者の間にバイアステープを挟んだ状態で縫合されていることが好ましい。
【0014】
更に、前記リング状周縁部の内縁と縫合された袖側の裏布はアームホールの下方部分において表生地の縫い代の端部を巻き込んだ状態で表生地の縫い代に星止めされていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、アームホールを取り囲むリング状周縁部が見え、このリング状周縁部分の生地が、他の部分の裏地と異なって、メッシュ生地である。このため、次のような効果が奏される。
【0016】
本発明においては、アームホールを取り囲むリング状周縁部がメッシュ生地であるので、洗濯時にも水抜けがよく、水流による型崩れが発生しない。その結果、保型性に優れている。
【0017】
肩パッドに水が溜まらずに水が捌けるので、家庭で洗濯して自然乾燥しても、短時間で乾燥する。また、肩パッドに汚れが付着したままとならない。
【0018】
本発明においては、アームホールを取り囲むリング状周縁部がメッシュ生地であるので、通気性がよく、蒸れ難い。
【0019】
本発明においては、アームホールを取り囲むリング状周縁部がメッシュ生地であるので、肩回りにストレッチ性があり、体に馴染み、腕の上げ下ろし時も裏地が腕の動きを妨げない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の上着の一実施例の左前身頃を開いて裏地を見せた状態の正面図である。
【図2】本発明の上着の一実施例の身頃を展開し、上着の裏側を示す平面図である。
【図3】本発明の上着の別の実施例を示す図2と同様の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の上着は家庭の洗濯機で洗濯可能な、所謂ウォッシャブルスーツの上着である。本発明の上着は合服(あいふく)で見られるように上着の裏側に前裏1、細腹裏2および背裏3が取り付けられており、アームホール6の全周を囲んで身頃側の裏布が設けられている。
【0022】
図1に示すように、本発明の上着の特徴は上着の裏側にあり、アームホール6を取り囲むリング状周縁部4がメッシュ生地からなるものである。他の身頃側の裏布(すなわち前裏1、細腹裏2および背裏3)および袖側の裏布(袖裏5)は通常使用される織物製の裏地である。
【0023】
図1に示したリング状周縁部4は、図2に示すように通常の前裏1、細腹裏2および背裏3のアームホール(袖ぐり)6に沿った部分(図2では斜線を施して示した)をメッシュ生地とすることにより形成される。図2に示した実施例ではリング状周縁部4は前裏1と縫合される部分41と細腹裏2および背裏3と縫合される部分42とからなる。
【0024】
図3は本発明の上着の別の実施例を示すものである。リング状周縁部の部分41と前裏1との縫い合わせに際しては、図2に示すように両者を直接縫い合わせてもよいが、図3に示すように、伸び止めのためにバイアステープ7を両者の間に挟んだ状態で縫合することが好ましい。同様に、リング状周縁部の部分42と細腹裏2および背裏3との縫い合わせについても、それらを直接縫い合わせてもよいが、伸び止めのために、バイアステープ7(図3参照)を間に挟んだ状態で縫合することが好ましい。このように、袖付けを行う前に、リング状周縁部4の外縁と身頃側の裏布1、2、3とが縫い合わされる。
【0025】
本発明の上着は通常の背広の縫製工程と工程が異なる点がある。
【0026】
すなわち、通常の背広の縫製工程においては、表生地の前身頃と細腹とを縫合わせ、身返しと前裏とを縫合わせ、その後、前身頃と身返しとの前端を縫合わせる。また、表生地の後身頃と背裏とを縫い、その後に、表生地の前身頃と後身頃とを脇縫いして縫合わせる。前裏と背裏との脇を縫合わせる。前身頃と後身頃の肩を縫合わせる。上衿ゴージー縫い、地衿ゴージー止め、地衿付け縫いにより衿付けを行ってから、前裏と背裏の肩を縫合わせる。そして袖付けを行う。
【0027】
このように通常の背広の縫製工程においては、前身頃と前裏とを縫合わせ、後身頃と背裏とを縫合わせ、その後に前身頃と後身頃との脇縫いおよび前裏と背裏との脇縫いを行っている。
【0028】
これに対して、本発明では<リング状周縁部4を形成するために、先に前裏1、細腹裏2および背裏3を縫合わせる。一方、表生地も前身頃11、細腹12および後身頃13を縫合わせる。
【0029】
すなわち、上着の裏側については、表生地からなる身返し14と前裏1とを縫合わせ、玉縁縫いで内ポケットを作る。前裏1と細腹裏2と背裏3を縫合わせる。リング状周縁部41の一端(脇下となる側)とリング状周縁部42の一端(脇下となる側)とを縫合わせる。図2に示すように、縫合わせた前裏1、細腹裏2および背裏3のアームホール部分に、リング状周縁部41、42を縫い付ける。身返し14、前裏1およびリング状周縁部41がなす肩部とリング状周縁部42および背裏3のなす肩部とを縫合わせて、チャンチャンコ(袖なしの羽織り)のような形状とする。表生地については、前身頃11に薄い芯地や肩パッドを据付けて、細腹12および後身頃13を縫合わせ、前身頃11と後身頃13の肩部を縫合わせる。身返し14の前端と前身頃11の前端を縫合わせた後、衿付けを行う。
【0030】
表生地の山袖と下袖を縫合わせて筒状とする。山袖裏と下袖裏を縫合わせるが、この際一方の縫い目は端から端まで縫い、他方の縫い目は両端部のみを縫い、比較的長い距離(例えば30cm以上)を縫わずに、開いた状態とする。表生地の袖の袖口を折り返して袖裏5(図1参照)と縫合わせる。表生地の袖を前身頃11、細腹12、および後身頃13からなるアームホール6に縫合わせて袖付けをする。袖裏5は開いた部分からミシンを掛けて、リング状周縁部4の内縁と共に表生地のアームホール6の縫い代に縫い付ける。その後、袖裏5の開いた部分は縫って閉じる。
【0031】
アームホール6の下方部分(腋の下付近)の袖裏5がダブつかないようにするために、リング状周縁部4の内縁と縫合した袖裏5をアームホール6の下方部分における表生地の縫い代の端部を巻き込んだ状態(すなわち、リング状周縁部4の内縁と縫合した袖裏5の箇所は身頃側に位置し、残りの袖裏5は袖の中に入り込むので、袖の中に入り込んだ袖裏5の部分と身頃側に位置する袖裏5の部分で表生地の縫い代の端部を挟むようにした状態)で、袖の中に入り込んだ袖裏5の部分を表生地の縫い代に星止めすることが好ましい。
【0032】
上着を専門店でクリーニングした場合は、脇の下の袖付け部分はアイロンで押さえて仕上げるので袖裏がダブついたりしないが、家庭で洗濯した場合は袖付け部分のアイロン掛けが困難であるので、前記のように星止めしておくことが好ましい。
【符号の説明】
【0033】
1 前裏
2 細腹裏
3 背裏
4 リング状周縁部
5 袖裏
6 アームホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アームホールの全周を囲んで身頃側の裏布が設けられている上着において、アームホールを取り囲むリング状周縁部がメッシュ生地からなり、他の身頃側の裏布および袖側の裏布は織物製の裏地であり、前記リング状周縁部の内縁は前記袖側の裏布と縫合されており、前記リング状周縁部の外縁は前記身頃側の裏布と縫合されていることを特徴とする上着。
【請求項2】
前記リング状周縁部の外縁と前記身頃側の裏布とは両者の間にバイアステープを挟んだ状態で縫合されていることを特徴とする請求項1記載の上着。
【請求項3】
前記リング状周縁部の内縁と縫合された袖側の裏布はアームホールの下方部分において表生地の縫い代の端部を巻き込んだ状態で表生地の縫い代に星止めされていることを特徴とする請求項1または2記載の上着。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−248676(P2010−248676A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209421(P2009−209421)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(593085417)株式会社オンワードホールディングス (14)
【Fターム(参考)】