説明

上衣

【課題】 前身頃、後身頃および脇身頃を含む上衣であって、簡単に形状を選択することができる上衣を提供する。
【解決手段】 上衣10は、前身頃11、後身頃12および脇身頃13の3つの身頃で構成され、前身脇側部15と後身脇側部22とは、山形状に張り出す第1上部分19および第2上部分25をそれぞれ有し、これによって脇下部分に着用者の体表から離れる方向に膨出したゆとり部分を創出することができ、また第2上部分25は、第1上部分19の頂点から第2下部分24寄りに頂点を有するように形状を選択することによって、身体のバランスに対応することができ、より上衣10を身体に沿った形状にして、運動性を確保することができ、運動によって生ずる各部の引き攣れをなくし、さらに衣服布面と人体皮膚との摩擦をなくして着くずれを防止するばかりでなく、だぶつきをなくして静止着用状態におけるシルエットを所望の美しいシルエットに保つことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着用者の運動性を許容する上衣に関する。
【背景技術】
【0002】
図10は、第1の従来の技術の上衣の前身頃1および後身頃2を示す正面図である。第1の従来の技術の上衣は、人体が静止している時に美しいシルエットを出すことを第1の目的として作られており、人体の立体構造を各関節部で切断したときに現れる楕円形に沿うような曲線を取り入れて構成される。前記上衣では、図10に示すように、前身頃1および後身頃2とによって袖付け線3が構成され、袖付け線3の底部3aが脇下袖底部3aとなる。また前身頃1と後身頃2とが互いに平行な側縁にて縫合される。上衣に要求される機能には、外観のデザインと、着用者の日常生活の動作を許容する運動性とがある。前記運動性を向上するために、日常生活の動作に伴う人体各部の寸法変化に応じて、寸法上のゆとり量が決定される。
【0003】
第1の従来の技術の上衣では、人体の静止時のシルエットを美しくすることに主眼をおいた技術が用いられているので、運動性に対する機能を充分に得ることができず、日常生活の動作においても着くずれを生じやすいという問題がある。特に、袖付け線3の位置および形状によって、腕を上下に運動させる場合などの腕の運動性が異なり、各身頃1,2の脇が引きりなどが生じる。しかしながら、上記点を考慮して袖の製図ならびに袖付け線3の製図を変更してゆくと、人体の曲線から離れ、シルエットをくずしてしまうだけでなく、だぶつきを与えてしまい、運動時に上衣の余分な部分がかえって運動を阻害するという結果になる。
【0004】
このような課題を解決するために本件出願人は、第2の従来の技術の上衣として、前身頃、後身頃および脇身頃を含む上衣を開示している(たとえば特許文献1参照)。前記上衣は、脇身頃を含む点に特徴を有し、前身頃および後身頃が、袖付け線の袖底部分を頂点として、脇身頃側に山形状に張り出すように構成される。このような山形状の部分によって、脇下部分に着用者の体表から離れる方向に膨出したゆとり部分を創出することができる。これによって着用者は、腕の上げ下げや回転などの際にも引き攣れを生じず上半身の運動を楽にすることができる。しかも、このゆとり部分は着用者の脇下真下に位置することになるため、静止着用後には脇下にたたみ込まれる。したがって、だぶつきや着くずれが防止され、シルエットが損なわれることもない。
【0005】
【特許文献1】特開昭63−28909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の第2の従来の技術では、前身頃、後身頃および脇身頃の形状、特に前述の山形状の部分の形状によって、ゆとり部分が創出されるので、これらの形状を好適に選択する必要がある。各身頃は、相互に相関関係があるため、いずれか1つ身頃の形状を変更すると、残余の身頃の形状も変更する必要があり、好適な形状を選択することが困難である。
【0007】
したがって本発明の目的は、前身頃、後身頃および脇身頃を含む上衣であって、簡単に形状を選択することができる上衣を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、脇身頃、前身頃および後身頃を含む上衣であって、
前身頃は、一側部が脇身頃の一側部と縫合される前身脇側部を有し、
後身頃は、一側部が脇身頃の他側部と縫合される後身脇側部を有し、
脇身頃は、前身脇側部と縫合される脇身前側部と、後身脇側部と縫合される脇身後側部とを有し、
前記前身脇側部は、略直線状の第1下部分と、前記第1下部分に連結され、袖付け線の袖底部分を頂点として、脇身頃側に山形状に張り出す第1上部分とを有し、
前記後身脇側部は、略直線状の第2下部分と、前記第2下部分に連結され、袖付け線の袖底部分であって、第1上部分の頂点から第2下部分寄りを頂点として、脇身頃側に山形状に張り出す第2上部分とを有し、
前記脇身前側部は、略直線状の第3下部分と、第3下部分に連結され、袖底部分を構成するための第3上部分とを有し、
前記脇身後側部は、略直線状の第4下部分と、第4下部に連結され、袖底部分を構成するための第4上部分とを有し、
第1下部分と第3下部分とが縫合され、第1上部分と、第3上部分とが縫合され、
第2下部分と第4下部分とが縫合され、第2上部分と第4上部分とが縫合され、
第1〜第4上部分によって構成される袖底部分が、人体の腕付け根断面の底部位置付近に設けられることを特徴とする上衣である。
【0009】
また本発明は、両脇身頃の幅寸法は、胴回り寸法に対する比が、0.23以上0.25以下であることを特徴とする。
【0010】
さらに本発明は、両肩幅は、着用者のショルダーポイント間の寸法より小さく設定されることを特徴とする。
【0011】
さらに本発明は、両肩幅は、胸回りに対する比が0.36以上0.40以下であることを特徴とする。
【0012】
さらに本発明は、上袖をさらに含み、
上袖は、第1上部分の頂部に縫合される部分から延び、上袖の中心線に対して垂直な第1垂線に対して、第2上部分の頂部に縫合される部分から延び、上袖の中心線に対して垂直な第2垂線が、中心線が延びる方向の袖山側に離間していることを特徴とする。
【0013】
さらに本発明は、上袖をさらに含み、
袖幅は、脇身頃の裾幅より予め定める突出量だけ大きく、前記突出量と第2上部分の張出量との合計が、60mm以上100mm以下であること特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上衣は、前身頃、後身頃および脇身頃の3つの身頃で構成され、前身頃および後身頃と脇身頃とが縫合される前身脇側部と後身脇側部とは、山形状に張り出す第1上部分および第2上部分をそれぞれ有する。これによって脇下部分に着用者の体表から離れる方向に膨出したゆとり部分を創出することができる。着用者は、このゆとり部分によって、腕の前後、斜めの運動と身体の屈伸およびねじり運動に対する運動性を得ることができ、さらに袖底を脇身頃が形成することによって、腕の上下運動に対する運動性を得ることができる。さらに、袖付け線の袖底部分を人体の腕付け根断面の底部位置に設定したことによって、ゆとり部分をすべてヌードボディ寸法上の脇下箇所に集中させることができ、シルエットを美しく保ち、だぶつきをなくすことができる。
【0015】
また第2上部分は、第1上部分の頂点から第2下部分寄りに頂点を有する。身体は、前身表面より後身表面の方が大きく、また腕を真上に上げようとすると、人間工学上、腕はやや前方に傾くので、第2上部分が第2下部分寄りに頂点を有することによって、前述のような身体のバランスに対応することができる。これによってより上衣を身体に沿った形状にして、運動性を確保することができ、容易に上衣の形状を選択することができる。したがって本発明の上衣によって、運動によって生ずる各部の引き攣れをなくし、さらに衣服布面と人体皮膚との摩擦をなくして着くずれを防止するばかりでなく、だぶつきをなくして静止着用状態におけるシルエットを所望の美しいシルエットに保つことができる。
【0016】
また本発明によれば、両脇身頃の幅寸法は、胴回り寸法に対する比が、0.23以上0.25以下である。前述の比が、0.23未満であると、両脇身頃の幅寸法が胴回り寸法に対して小さくなりすぎて、肩関節の運動が阻害され、0.25より大きいと、脇身頃部分がだぶつき、きれいなシルエットを表現することができなくなる。したがって両脇身頃の幅寸法は、胴回り寸法に対する比を、0.23以上0.25以下に設定することによって、肩関節の運動が阻害されることを防止することができ、かつきれいなシルエットを表現することができる。
【0017】
さらに本発明によれば、両肩幅は、着用者のショルダーポイント間の寸法より小さく設定される。従来の技術では、両肩幅は、ショルダーポイント間の寸法に等しく設定されるので、袖付け線に沿って縫合される部分によって、着用者の肩関節の運動が阻害されるおそれがある。本発明では、両肩幅は、着用者のショルダーポイント間の寸法より小さく設定されるので、肩関節の運動の中心に袖付け線を配置することができる。したがって袖付け線に沿って縫合される部分によって、着用者の肩関節の運動を阻害することを防ぐことができる。これによって運動性をより許容する上衣を実現することができる。
【0018】
さらに本発明によれば、両肩幅は、胸回りに対する比が0.36以上0.40以下である。肩幅と胸回りとの関係によって、肩関節の運動を阻害、および引き攣れが生じるおそれがあり、前述の比が、0.36未満であると、両肩幅より胸回りの寸法が大きくなりすぎて、身頃部分がだぶつき、きれいなシルエットを表現することができず、0.40より大きいと、両肩幅より胸回りが小さくなりすぎて、肩関節の運動が阻害される。したがって両肩幅は、胸回りに対する比が0.36以上0.40以下に設定することによって、肩関節の運動が阻害されることを防止することができ、かつきれいなシルエットを表現することができる。
【0019】
さらに本発明によれば、上袖は、第1上部分の頂部に縫合される部分から延び、上袖の中心線に対して垂直な第1垂線に対して、第2上部分の頂部に縫合される部分から延び、上袖の中心線に対して垂直な第2垂線が、中心線が延びる方向の袖山側に離間している。前述したように、身体は、前身表面より後身表面の方が大きく、また腕を真上に上げようとすると、人間工学上、腕はやや前方に傾く。したがって第2上部分の頂部に縫合される部分を中心線が延びる方向の袖山側に離間させることによって、前述のような身体のバランスに起因して、袖の軸線回りに不所望に角変位することを防ぐことができる。これによって袖を腕に沿った形状にして、運動性を確保することができる。
【0020】
さらに本発明によれば、袖幅は、袖幅は、脇身頃の裾幅より予め定める突出量だけ大きく、前記突出量と第2上部分の張出量との合計が、60mm以上100mm以下である。前述の合計が100mmより大きくなると、だぶつき部分が大きくなりすぎ、前述の合計が60mmより小さくなると、だぶつき部分が小さくなりすぎるので、前述の合計を60mm以上100mm以下に設定することによって、だぶつき部分によって運動性を確保し、かつ所望のシルエットを得る上衣を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態について説明する。図1は、本発明の実施の一形態の上衣10を構成する前身頃11および後身頃12を示す正面図である。図2は、上衣10を構成する脇身頃13を示す正面図である。図3は、前身頃11を示す正面図である。図4は、後身頃12を示す正面図である。図5は、上衣10を構成する上袖14、前身頃11、後身頃12および脇身頃13の寸法関係を説明するための図である。図6は、上衣10を示す図であって、左半分は正面図を示し、右半分は背面図を示す。上衣10は、前身頃11、後身頃12、脇身頃13および上袖14を含んで構成される。図1では、理解を容易にするため、前身頃11と後身頃12とを重ねて示し、後身頃12を破線で示す。また図5では、理解を容易にするため、上袖14を仮想的に示す。脇身頃13は、一側部が前身頃11の一側部に縫合され、他側部が後身頃12の一側部に縫合される。
【0022】
前身頃11の一側部は、前身脇側部15および前身頃袖付け部16を有する。前身脇側部15は、脇身頃13の一側部と縫合される。また前身頃袖付け部16は、一端部が前身脇側部15の一端部に連結され、袖付け線17を構成する。前身脇側部15は、第1下部分18と第1上部分19とを有する。第1下部分18は、略直線状に構成される。用語「略直線状」は、直線を含む。第1上部分19は、前記第1下部分18の一端部に連結され、袖付け線17の袖底部分20を頂点として、脇身頃13側に山形状に張り出す第1突出部分21を有する。
【0023】
後身頃12の一側部は、後身脇側部22および後身頃袖付け部23を有する。後身脇側部22は、脇身頃13の一側部と縫合される。また後身頃袖付け部23は、一端部が後身脇側部22の一端部に連結され、袖付け線17を構成する。後身脇側部22は、第2下部分24と第2上部分25とを有する。第2下部分24は、略直線状に構成される。第2上部分25は、前記第2下部分24の一端部に連結され、袖付け線17の袖底部分20を頂点として、脇身頃13側に山形状に張り出す第2突出部分26を有する。
【0024】
第2突出部分26の頂点26aは、図1に示すように、第1突出部分21の頂点21aから第2下部分24寄りとなるように構成される。第1突出部分21の頂点21aと第2突出部分26の頂点26aとの間隔L1は、たとえば10mm以上30mm以下に設定される。また第2突出部分26の第2下部分24に対する張出量L2は、第1突出部分21の第1下部分18に対する張出量L3よりも大きくなるように構成される。第1突出部分21の張出量L3は、たとえば20mm以上30mm以下に設定される。また第2突出部分26の張出量L2は、たとえば30mm以上50mm以下に設定される。
【0025】
脇身頃13は、一側部に脇身前側部27および第1袖付け部28を有し、他側部に脇身後側部29および第2袖付け部30を有する。脇身前側部27は、前身頃11の前身脇側部15と縫合される。また脇身後側部29は、後身頃12の後身脇側部22と縫合される。第1袖付け部28および第2袖付け部30は、上袖14の両側部にそれぞれ縫合される部分であって、袖付け線17を構成する。脇身前側部27は、略直線状に構成され、一端部が第1袖付け部28に連結される。脇身後側部29は、略直線状に構成され、一端部が第2袖付け部30に連結される。
【0026】
脇身頃13の脇身前側部27と第1袖付け部28との連結部分である第1部分13aと、第1突出部分21の頂点21aとが一致するように縫合される。また脇身頃13の脇身後側部29と第2袖付け部30との連結部分である第2部分13bと、第2突出部分26の頂点26aとが一致するように縫合される。したがって第1部分13aと第2部分13bから上側の部分は、袖底を構成する。
【0027】
脇身頃13は、図2にて仮想線を示す部分であって、脇身前側部27と第1袖付け部28との連結部分13aと、脇身後側部29と第2袖付け部30との連結部分13bとを直線で結ぶ部分が、袖底部分20となり、袖付け線17を構成する。脇身頃13は、図2に示すように、第1袖付け部28および第2袖付け部30が脇身前側部27および脇身後側部29に対して、前身頃11側に傾斜するように構成される。前述の前身頃11側への傾斜角度αは、たとえば10度以上12度以下に設定される。このように構成される袖底部分20が、人体の腕付け根断面の底部位置付近に設けられる。
【0028】
前身頃袖付け部16の他端部は、前袖ぐり線の終点となる。また後身頃袖付け部23の他端部は、後袖ぐり線の終点となる。また第1突出部分21および第2突出部分26の頂部21a,26aは、人体ヌードボディの脇下位置、すなわち、人体の腕付け根断面の底部位置に相当し、静止状態における張出し部の布のたるみを脇下にたたみ込んで収納する最も重要なポイントとなる。したがって従来の技術の上衣10では、袖付け線17の底部はいわゆるバストライン付近に設定されるが、本実施の形態の上衣10では、バストラインの上方に移動したポイントとなる。
【0029】
脇身頃13の略直線状の縫合部である脇身前側部27および脇身後側部29と、第1突出部分21および第2突出部分26を有する第1上部分19および第2上部分25とを縫合することによって、張り出し部分が立体的に、体表から遠ざかる方向に膨らんで余分な布を提供し、これが運動の際のゆとりを与える働きをする。ゆとり量は、第1突出部分21の張出量L3と第2突出部分26の張出量L2、および第1部分13aと第2部分13bとの寸法である脇身頃13の幅寸法L4によって決定される。
【0030】
図7は、上衣10を示す平面図であって、胴回りを説明するための平面図である。両脇身頃の幅寸法は、胴回り寸法に対する比が、0.23以上0.25以下に設定される。換言すると、胴回り寸法:両脇身頃の幅寸法=1:0.23以上0.25以下に設定される。したがって前身頃11の幅寸法L5と後身頃12の幅寸法L6との合計の値と、脇身頃13の幅寸法L4を2倍した値との比が、77:23以上75:25以下に設定される。
【0031】
本実施の形態では、両肩幅は、着用者のショルダーポイント間の寸法より小さく設定される。従来の技術では、両肩幅はショルダーポイント間の距離であるが、本実施の形態では、肩関節の運動性を向上するために両肩幅を、たとえば20mm以上30mm以下小さくして、上衣10の各寸法が設定される。また両肩幅は、胸回りに対する比が0.36以上0.40以下であり、好ましくは、0.37以上0.39以下に設定される。
【0032】
図8は、上袖14を示す正面図である。上袖14は、袖山33の縁部14aが、前身頃袖付け部16および後身頃袖付け部23に縫合される。また上袖14は、一側部が前述の第1袖付け部28に縫合され、他側部が前述の第2袖付け部30に縫合される。袖山33と上袖14の一側部との連結部分である第3部分33aは、第1部分13aおよび第1突出部分21の頂部21aと一致するように縫合される。また袖山33と上袖14の他側部との連結部分である第4部分33bは、第2部分13bおよび第2突出部分26の頂部26aと一致するように縫合される。
【0033】
上袖14は、第1上部分19の頂部21aに縫合される第3部分33aから延び、上袖14の中心線35に対して垂直な第1垂線36に対して、第2上部分25の頂部26aに縫合される第4部分33bから延び、上袖14の中心線35に対して垂直な第2垂線37が、中心線35が延びる方向の袖山33側に離間している。換言すると、上袖14は、第4部分33bが第3部分33aよりも、中心線35が延びる方向に沿って袖山33側となるように構成される。上袖14の中心線35は、袖山33の頂部33cから延び、袖口34に対して垂直な直線である。したがって袖山33の頂部33cから、袖口34に引いた上袖14の中心線35に直交し第3部分33aを通過する第1垂線36から、中心線35が延びる方向に関して、袖山33の頂部33c側に、第4部分33bが配置されるように袖山33の形状が選択される。第3部分33aと第4部分33bとの中心線35が延びる方向に関する間隔L7は、たとえば5mm以上15mm以下に設定され、好ましくは10mmに設定される。
【0034】
また上袖14の袖幅は、脇身頃13の裾幅より予め定める突出量L8だけ大きく、前記突出量L8と第2上部分25の張出量L2との合計が、60mm以上100mm以下に設定される。本実施の形態では、上袖14の袖幅は、図5に示すように、脇身頃13の裾幅より予め定める突出量L8、たとえば40mmだけ大きく、前記突出量L8と第2上部分25の張出量L2とが等しくなるように構成される。したがって前記突出量L8と第2上部分25の張出量L2との合計が、80mmに設定される。
【0035】
図9は、4種類の上衣10を示す正面図である。図9では、各上衣10の形状の差が明瞭となるように、肩幅、胸回りおよび袖回りが一定であるとの条件の下、各上衣10の形状を誇張して示す。各上衣10は、第1突出部分21の頂点21aと第2突出部分26の頂点26aとの間隔L1を、20mmおよび25mmに設定され、脇身頃13の幅寸法L4がそれぞれ異なり、脇身頃13の前身頃11側への傾斜角αが異なるように設定される。
【0036】
図9(a)および図9(b)に示す第1の上衣10aでは、第1突出部分21の頂点21aと第2突出部分26の頂点26aとの間隔L1がL11=25mmに設定され、脇身頃13の幅寸法L4がL41=115mmに設定され、脇身頃13の前身頃11側への傾斜角αがα1=10度に設定される。このような上衣10では、袖口のねじれ現象が生じ、前袖付け部分が脇へ食い込む。
【0037】
図9(c)および図9(d)に示す第2の上衣10bでは、第1突出部分21の頂点21aと第2突出部分26の頂点26aとの間隔L1がL11=25mmに設定され、脇身頃13の幅寸法L4がL42=160mmに設定され、脇身頃13の前身頃11側への傾斜角αがα1=10度に設定される。このような上衣10では、第1の上衣10aより、脇身頃13の幅寸法L4を大きくすることによって、袖口にねじれ現象および前袖付け部分が脇へ食い込む現象は解消されたが、別の現象として、着用者が腕を振り上げると、後身頃12側に引き攣り現象が生じ、外観上脇身頃13が大きいため、袖底付位置部分にだぶつきを感じた。
【0038】
図9(e)および図9(f)に示す第3の上衣10cでは、第1突出部分21の頂点21aと第2突出部分26の頂点26aとの間隔L1がL12=20mmに設定され、脇身頃13の幅寸法L4がL43=120mmに設定され、脇身頃13の前身頃11側への傾斜角αがα2=12度に設定される。このような上衣10では、第2の上衣10bより、各頂点の間隔を小さく、脇身頃13の幅寸法L4を小さくすることによって、前述の後身頃12側に引き攣り現象が解決されたが、前袖付け部分が脇へ食い込む現象が生じる。
【0039】
図9(g)および図9(h)に示す第4の上衣10では、第1突出部分21の頂点21aと第2突出部分26の頂点26aとの間隔L1がL12=20mmに設定され、脇身頃13の幅寸法L4がL44=135mmに設定され、脇身頃13の前身頃11側への傾斜角αがα2=12度に設定される。このような上衣10では、第3の上衣10cより、脇身頃13の幅寸法L4をやや大きくすることによって、袖口のねじれ現象、前袖付け部分が脇へ食い込む現象、および着用者が腕を振り上げると、後身頃12側に引き攣り現象を解消し、すべての不所望な現象を解消することができた。
【0040】
したがって、本実施の形態では、第1突出部分21の頂点21aと第2突出部分26の頂点26aとの間隔L1を20mmに設定し、脇身頃13の幅寸法L4を135mmに設定し、脇身頃13の前身頃11側への傾斜角αが12度に設定することによって、運動性を確保し、美しいシルエットを保つことができる上衣10を実現することができる。
【0041】
以上説明したように、本実施の形態の上衣10によれば、上衣10は、前身頃11、後身頃12および脇身頃13の3つの身頃で構成され、前身頃11および後身頃12と脇身頃13とが縫合される前身脇側部15と後身脇側部22とは、山形状に張り出す第1上部分19および第2上部分25をそれぞれ有する。これによって脇下部分に着用者の体表から離れる方向に膨出したゆとり部分を創出することができる。着用者は、このゆとり部分によって、腕の前後、斜めの運動と身体の屈伸およびねじり運動に対する運動性を得ることができ、さらに袖底を脇身頃13が形成することによって、腕の上下運動に対する運動性を得ることができる。さらに、袖付け線17の袖底部分20を人体の腕付け根断面の底部位置に設定したことによって、ゆとり部分をすべてヌードボディ寸法上の脇下箇所に集中させることができ、シルエットを美しく保ち、だぶつきをなくすことができる。
【0042】
このような上衣10は、きものスリーブ、シャツスリーブ、セットインスリーブ、ラグランスリーブなどの本発明と異なる袖を有する上衣に比べて、両腕を真っすぐ上に上げる動作および片腕を上に上げて側屈動作をさせた場合のウェストにおける左右の布の移動量を最も少なくすることができ、かつ引き攣れが生じることを防ぐことができる。
【0043】
また第2上部分25は、第1上部分19の頂点から第2下部分24寄りに頂点を有する。身体は、前身表面より後身表面の方が大きく、前身表面と後身表面との比は、約4:6あり、また腕を真上に上げようとすると、人間工学上、腕はやや前方に傾くので、第2上部分25が第2下部分24寄りに頂点を有することによって、前述のような身体のバランスに対応することができる。また脇身頃13を、裾に対して前身頃11側に傾斜させることによって、より上衣10を身体に沿った形状にして、運動性を確保することができる。したがって本発明の上衣10によって、運動によって生ずる各部の引き攣れをなくし、さらに衣服布面と人体皮膚との摩擦をなくして着くずれを防止するばかりでなく、だぶつきをなくして静止着用状態におけるシルエットを所望の美しいシルエットに保つことができる。
【0044】
また本実施の形態では、両脇身頃の幅寸法は、胴回り寸法に対する比が、0.23以上0.25以下である。前述の比が、0.23未満であると、両脇身頃の幅寸法が胴回り寸法に対して小さくなりすぎて、肩関節の運動が阻害され、0.25より大きいと、脇身頃13部分がだぶつき、きれいなシルエットを表現することができなくなる。したがって両脇身頃の幅寸法は、胴回り寸法に対する比を、0.23以上0.25以下に設定することによって、肩関節の運動が阻害されることを防止することができ、かつきれいなシルエットを表現することができる。
【0045】
さらに本実施の形態では、両肩幅は、着用者のショルダーポイント間の寸法より小さく設定される。従来の技術では、両肩幅は、ショルダーポイント間の寸法に等しく設定されるので、袖付け線17に沿って縫合される部分によって、着用者の肩関節の運動が阻害されるおそれがある。本実施の形態の上衣10では、両肩幅は、着用者のショルダーポイント間の寸法より、たとえば20mm程度小さく設定されるので、肩関節の運動の中心に袖付け線17を配置することができる。したがって袖付け線17に沿って縫合される部分によって、着用者の肩関節の運動を阻害することを防ぐことができる。これによって運動性をより許容する上衣10を実現することができる。
【0046】
さらに本実施の形態では、両肩幅は、胸回りに対する比が0.36以上0.40以下である。肩幅と胸回りとの関係によって、肩関節の運動を阻害、および引き攣れが生じるおそれがあり、前述の比が、0.36未満であると、両肩幅より胸回りの寸法が大きくなりすぎて、身頃部分がだぶつき、きれいなシルエットを表現することができず、0.40より大きいと、両肩幅より胸回りが小さくなりすぎて、肩関節の運動が阻害される。したがって両肩幅は、胸回りに対する比が0.36以上0.40以下に設定することによって、肩関節の運動が阻害されることを防止することができ、かつきれいなシルエットを表現することができる。
【0047】
さらに本実施の形態では、上袖14は、第1上部分19の頂部21aに縫合される第3部分33aから延び、上袖14の中心線35に対して垂直な第1垂線36に対して、第2上部分25の頂部26aに縫合される第4部分33bから延び、上袖14の中心線35に対して垂直な第2垂線37が、中心線35が延びる方向の袖山33側に離間している。前述したように、身体は、前身表面より後身表面の方が大きく、また腕を真上に上げようとすると、人間工学上、腕はやや前方に傾く。したがって第2上部分25の頂部26aに縫合される第4部分33bを袖山33側にすることによって、前述のような身体のバランスに起因して、上袖14の軸線回りに不所望に角変位することを防ぐことができる。これによって上袖14を腕に沿った形状にして、運動性を確保することができる。
【0048】
さらに本実施の形態では、上袖14の袖幅は、脇身頃13の裾幅より予め定める突出量L8だけ大きく、前記突出量L8と第2上部分25の張出量L2との合計が、60mm以上100mm以下に設定される。前述の合計が100mmより大きくなると、ゆとり部分が大きくなりすぎ収まりが悪く、突出部分がシルエットを害し、前述の合計が60mmより小さくなると、ゆとり部分が小さくなりすぎるので、腕をあげたときに引き攣れ、くい込みおよび袖口のねじれなどが生じるので、前述の合計を60mm以上100mm以下に設定することによって、ゆとり部分によって運動性を確保し、かつ所望のシルエットを得る上衣10を実現することができる。
【0049】
本実施の形態では、図6に示すように、ヨークを含んで構成され、ヨークを取り付けることによって着衣時の重量感を取り除くことができる。これはデザイン等によって多少変化するものであり、運動機能とはかかわり方が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】上衣10を構成する前身頃11および後身頃12を示す正面図である。
【図2】上衣10を構成する脇身頃13を示す正面図である。
【図3】前身頃11を示す正面図である。
【図4】後身頃12を示す正面図である。
【図5】上衣10を構成する上袖14、前身頃11、後身頃12および脇身頃13の寸法関係を説明するための図である。
【図6】上衣10を示す図であって、左半分は正面図を示し、右半分は背面図を示す。
【図7】上衣10を示す平面図であって、胴回りを説明するための平面図である。
【図8】上袖14を示す正面図である。
【図9】4種類の上衣10を示す正面図である。
【図10】第1の従来の技術の上衣の前身頃1および後身頃2を示す正面図である。
【符号の説明】
【0051】
10 上衣
11 前身頃
12 後身頃
13 脇身頃
14 袖
15 前身脇側部
18 第1下部分
19 第1上部分
21 第1突出部分
22 後身脇側部
24 第2下部分
25 第2上部分
26 第2突出部分
27 脇身前側部
29 脇身後側部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脇身頃、前身頃および後身頃を含む上衣であって、
前身頃は、一側部が脇身頃の一側部と縫合される前身脇側部を有し、
後身頃は、一側部が脇身頃の他側部と縫合される後身脇側部を有し、
脇身頃は、前身脇側部と縫合される脇身前側部と、後身脇側部と縫合される脇身後側部とを有し、
前記前身脇側部は、略直線状の第1下部分と、前記第1下部分に連結され、袖付け線の袖底部分を頂点として、脇身頃側に山形状に張り出す第1上部分とを有し、
前記後身脇側部は、略直線状の第2下部分と、前記第2下部分に連結され、袖付け線の袖底部分であって、第1上部分の頂点から第2下部分寄りを頂点として、脇身頃側に山形状に張り出す第2上部分とを有し、
前記脇身前側部は、略直線状の第3下部分と、第3下部分に連結され、袖底部分を構成するための第3上部分とを有し、
前記脇身後側部は、略直線状の第4下部分と、第4下部に連結され、袖底部分を構成するための第4上部分とを有し、
第1下部分と第3下部分とが縫合され、第1上部分と、第3上部分とが縫合され、
第2下部分と第4下部分とが縫合され、第2上部分と第4上部分とが縫合され、
第1〜第4上部分によって構成される袖底部分が、人体の腕付け根断面の底部位置付近に設けられることを特徴とする上衣。
【請求項2】
両脇身頃の幅寸法は、胴回り寸法に対する比が、0.23以上0.25以下であることを特徴とする請求項1記載の上衣。
【請求項3】
両肩幅は、着用者のショルダーポイント間の寸法より小さく設定されることを特徴とする請求項1または2記載の上衣。
【請求項4】
両肩幅は、胸回りに対する比が0.36以上0.40以下であることを特徴とする請求項3記載の上衣。
【請求項5】
上袖をさらに含み、
上袖は、第1上部分の頂部に縫合される部分から延び、上袖の中心線に対して垂直な第1垂線に対して、第2上部分の頂部に縫合される部分から延び、上袖の中心線に対して垂直な第2垂線が、中心線が延びる方向の袖山側に離間していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の上衣。
【請求項6】
上袖をさらに含み、
袖幅は、脇身頃の裾幅より予め定める突出量だけ大きく、前記突出量と第2上部分の張出量との合計が、60mm以上100mm以下であること特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の上衣。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−247083(P2007−247083A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−69972(P2006−69972)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【特許番号】特許第3903133号(P3903133)
【特許公報発行日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【出願人】(000238234)シキボウ株式会社 (33)
【Fターム(参考)】