説明

上面反射防止膜形成用組成物およびそれを用いたパターン形成方法

【課題】従来製品と同等以上の成膜性、屈折率、経時安定性、および安全性を有する、上面反射防止膜形成用組成物、およびそれを用いたパターン形成方法の提供。
【解決手段】下記一般式(1):−Ax−By−(1)(式中、Aは下記一般式(A):


で表される、重量平均分子量が300,000〜800,000であるフッ素含有ポリマーと、炭素数10〜18のアルキルスルホン酸と、溶媒と、を含んでなる上面反射防止膜形成用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は上部反射防止膜形成用組成物に関するものである。より詳しくは、液晶表示素子などのフラットパネルディスプレー(FPD)、半導体デバイス、電荷結合素子(CCD)、カラーフィルター等をフォトリソグラフィー法を用いて製造する場合、レジスト膜を露光する際に、レジスト膜の上側に設けられる反射防止膜を形成させるための組成物に関するものである。また、本発明はそのような上部反射防止膜形成用組成物を用いたパターン形成方法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子などのFPD、半導体デバイス、CCD、カラーフィルター製造のため、フォトリソグラフィー法が用いられている。フォトリソグラフィー法を用いた集積回路素子等の製造では、例えば基板上にポジ型或いはネガ型のレジストが塗布され、ベーキングにより溶媒を除去した後、紫外線、遠紫外線、電子線、X線等の各種放射線により露光され、現像されレジストパターンが形成される。
【0003】
しかしながら、用いられる基板には反射率の高いものが多く、レジスト層を通過した露光用の光が基板によって反射され、レジスト層に再入射され、光を照射してはならないレジスト部分に光が到達することにより、所望のパターンが得られないか、または、形成されたパターンに欠陥が生じるという問題があった。また、レジスト層が基板とレジスト層との界面での光の反射により定在波効果を受けて、形状が波形になり、結果的にレジストパターンの線幅制御などに大きな問題を引き起こすこともあった。このような現象は、より微細なパターンを得るために短波長の光により露光する場合に顕著である。
【0004】
このような問題を解決するための一つの方法として、上面反射防止膜を設ける方法がある。すなわち、レジスト層の上側に適切な屈折率を有する上面反射防止膜を形成させ、レジスト層内部における不要な光反射を低減させることにより、パターンの寸法精度を改善しようとするものである。
【0005】
このような目的を達成するために上面反射防止膜の成分としてフッ素含有化合物を用いることが検討されている(特許文献1〜3)。しかし、これらの特許文献に記載されたフッ素含有化合物は、安全性の観点から製造工程や使用過程において制限がある、水に対する溶解性が低いために高コストのフッ素含有溶媒を必要とする、などの改善すべき点があった。さらには溶解性を改善したフッ素含有化合物を用いた上面反射防止膜形成用組成物も検討されている(特許文献4および5)。しかしながら、本発明者らの検討によれば、これらの特許文献に記載された上面反射防止膜形成用組成物は、すべてが十分な効果を奏するものではなく、成膜性、屈折率、経時安定性などのすべてを満足する組成物とするために、さらなる改良の余地があった。また、特許文献1にも記載されている低分子量フッ素化合物は上面反射防止膜の成分として低屈性率を達成するために重要なものであるが、昨今の安全基準から、実用に供するのが困難になりつつある。このため安全性をも満たす上面反射防止膜形成用組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3673399号明細書
【特許文献2】特許第3851594号明細書
【特許文献3】特許第3965740号明細書
【特許文献4】特許第4400572号明細書
【特許文献5】特許第4525829号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、成膜性、屈折率、経時安定性、および安全性など、求められる特性を満たす上面反射防止膜形成用組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による上面反射防止膜形成用組成物は、光を用いてパターンを形成させるフォトリソグラフィーに用いるものであって、前記上面反射防止膜形成用組成物が、下記一般式(1):
−Ax−By− (1)
(式中、Aは下記一般式(A):
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜40のフッ素含有アルキレン基または炭素数2〜100のエーテル結合を有するフッ素含有アルキレン基である)
で示される繰り返し単位であり、
BはAと結合して共重合体を形成することができる繰り返し単位であり、
xおよびyは重合比を示す数であって、xは0でなく、
AおよびBは、ランダムに結合しても、ブロックを形成してもよい。)
で表される、重量平均分子量が300,000〜800,000であるフッ素含有ポリマーと、炭素数10〜18のアルキルスルホン酸と、溶媒と、を含んでなることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明によるパターン形成方法は、基板上にレジスト組成物を塗布してレジスト膜を形成させ、前記レジスト膜上に、前記の上面反射防止膜形成用組成物を塗布し、乾燥させ、光を用いて露光し、現像することを含んでなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、レジストパターンの形成に用いられる新規な上面反射防止膜形成用組成物が提供される。この組成物は、現在のフォトリソグラフィーにおいて使用するのに実用上十分な成膜性、経時安定性、および安全性などの性能を有し、十分に低い屈折率を有する反射防止膜を形成させることができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0012】
本発明による上面反射防止膜形成用組成物は、特定のフッ素含有ポリマーと、特定のアルキルスルホン酸と、特定の溶媒と、必要に応じてその他の成分とを含むものである。以下に、各成分について説明する。
【0013】
フッ素含有ポリマー
本発明において用いられるフッ素ポリマーは、下記一般式(1)で示されるものである。
−Ax−By−(1)
ここで、AおよびBはそれぞれ繰り返し単位であり、xおよびyはそれぞれ重合比を示す数であってxは0ではなく、AおよびBは、ランダムに結合しても、ブロックを形成してもよい。
【0014】
一般式(1)中、Aは下記一般式(A):
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜40、好ましくは1〜10のフッ素含有アルキレン基または炭素数2〜100、好ましくは2〜50のエーテル結合を有するフッ素含有アルキレン基である)
で示される繰り返し単位である。
【0015】
Rを構成するフッ素含有アルキレン基は、具体的には、−(CFO)−、−(CF(CF)O)−、−(CFCFO)−、−(CF(CF)CFO)−、−(CF(CF)CFCFO)−、−(CF)−、およびこれらの基のフッ素原子の一部を水素に置換した2価基を繰り返し単位からなるものである。
【0016】
より具体的にはRは、下記の2価基から選ばれるものが好ましい。
−CFO−
−CF(CF)−、
−CF(CF)CFOCF(CF)−
−CF(CF)CFOCF(CF)CFOCF(CF)−
−CF(CF)CH
−CF(CF)CFOCF(CF)CH
−CF(CF)CFOCF(CF)CFOCF(CF)CH
【0017】
ここで、最終的に得られる上面反射防止膜の屈折率を低くするため、あるいはポリマーの水溶性を高くするためには、Rに含まれる水素が少ないことが好ましく、Rに水素が含まれていないことが最も好ましい。
【0018】
また、フッ素含有ポリマーは、一般式(A)で表され、Rの異なる繰り返し単位を複数種類含んでいてもよい。
【0019】
一般式(1)において、繰り返し単位Bは繰り返し単位Aと結合して共重合体を形成することができる繰り返し単位である。フッ素含有ポリマーが繰り返し単位(B)を含む場合、必要に応じて任意のものを選択することができる。このような繰り返し単位としては、エチレン性不飽和結合を含むフッ素含有炭化水素に由来するものが挙げられる。具体的には、
−CFCF
−CFCHF−
−CFCH
−CFCF(CF)−
−CFCFCl−
−CHCH(CF)−
などが挙げられる。
【0020】
本発明において、フッ素含有ポリマーは繰り返し単位Aを含むこと、すなわちxが0ではないことを必須とするが、繰り返し単位AおよびBの重合度は、目的に応じて適切に調整される。ここで、本発明においては、フッ素ポリマーは繰り返し単位Aのみからなる場合に、屈折率や成膜性が改良される傾向があるので好ましい。このとき、繰り返し単位Aは一般式(A)で表される繰り返し単位を2種類以上含んでもよい。一方、繰り返し単位Bを含むことにより、フッ素含有ポリマーの水溶性が改良することができる場合がある。
【0021】
以上の理由から、繰り返し単位AおよびBの重合比xおよびyは、
0.55≦x≦1.00、0≦y≦0.45であることが好ましく、
0.7≦x≦1.00、0≦y≦0.3であることがより好ましく、
0.9≦x≦1.00、0≦y≦0.1であることがさらn好ましい。
【0022】
また、本発明におけるフッ素含有ポリマーの分子量は、組成物の塗布性や、形成させようとする反射防止膜の厚さなどに応じて適切に調整される。しかしながら、分子量が小さすぎると、レジスト層に影響して現像後にレジスト膜厚が薄くなる傾向にあり、反対に分子量が大きすぎると経時安定性が劣化する、組成物粘度が高くなりすぎる、ポリマーの水溶性が低下するなどの問題が起こることがある。このため、本発明におけるフッ素含有ポリマーは、重量平均分子量で300,000〜800,000であることが必要であり、350,000〜450,000であることが好ましい。なお、本発明において重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて、ポリエチレンオキサイド又はポリエチレングリコールを標準とし検量線を作成し算出した値である。また、重量平均分子量300,000および800,000は数平均分子量に換算すると約180,000および約300,000である。
なお、このようなフッ素含有ポリマーは、昨今の安全基準を満たすものであって、製造者および使用者にも危険性が少ない、好ましい材料である。
【0023】
アルキルスルホン酸
本発明による上面反射防止膜形成用組成物は、炭素数10〜18のアルキルスルホン酸を含んでなる。このアルキルスルホン酸は界面活性剤として作用するものであると考えられている。
【0024】
界面活性剤としては、一般的にアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などが知られている。ここで、本発明における上面反射防止膜形成用組成物に、カチオン性界面活性剤またはノニオン性界面活性剤を用いると、水溶性が不十分であり、組成物が白濁してしまうために使用できない。
【0025】
また、アルキルスルホン酸はアニオン性界面活性剤に分類されるが、炭素数が10〜18のアルキルスルホン酸以外のアニオン性界面活性剤では、本発明の効果を奏しないことがわかった。具体的には、スルホ基(−SOH)を有さないもの、たとえばアルキルカルボン酸は水溶性が不十分であり、組成物が白濁してしまうために使用できない。また、アルキルスルホン酸であっても炭素数が少ないと塗布時にハジキが発生し、均一な塗膜を形成させることが困難である。また炭素数が多いと組成物の経時安定性が劣化してしまう。
【0026】
また、アルキルスルホン酸のうち、スルホ基を複数有するものも知られており、これらを用いることもできる。ただし、複数のスルホ基を有するアルキルスルホン酸は、本発明による上面反射防止膜形成用組成物においては塗布性改良の効果が相対的に小さい。このため、本発明において用いられるアルキルスルホン酸は、式H(CHSOH(式中、n=10〜18)で表されるものが好ましい。
【0027】
さらに、アルキルスルホン酸以外のアニオン性界面活性剤も知られているが、たとえばアルキルベンゼンスルホン酸のように芳香族環を有するものは、経時安定性が悪く、使用することができない。
【0028】
以上の理由から、本発明においては、炭素数10〜18のアルキルスルホン酸だけが界面活性剤として使用することができる。
【0029】
溶媒
さらに、本発明の上面反射防止膜形成用組成物において用いられる溶媒としては、水が最も好ましいものである。用いられる水は、蒸留、イオン交換処理、フィルター処理、各種吸着処理等により、有機不純物、金属イオン等が除去されたものが好ましい。
【0030】
なお、溶媒として水が用いられる際には、反射防止コーティング用組成物の塗布性の向上等を目的として、水に可溶な有機溶媒を水とともに用いることも可能である。水に可溶な有機溶媒としては、水に対して0.1重量%以上溶解する溶媒であれば特に制限はなく、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル等のエステル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート、アルキルセロソルブアセテート、ブチルカルビトール、カルビトールアセテート等の極性溶媒が挙げられる。ただし、有機溶媒を用いる場合には、上面反射防止膜形成用組成物を適用しようとするレジストを損なわないものを選択すべきである。
【0031】
その他の追加成分
本発明の上面反射防止膜形成用組成物には、必要に応じて、その他の追加成分を配合することができる。そのような追加成分としては下記のようなものが挙げられる。
【0032】
(a)フッ素非含有カルボキシ基含有ポリマー
本発明による上面反射防止膜形成用組成物は、レジストパターンを形成するための各種の方法に用いることができる。たとえば、レジストパターン形成時にKrFエキシマーレーザーのような短波長の光を用いて露光する場合、非常に低い屈折率が要求される。このような場合には一般式(1)で表されるフッ素含有ポリマーだけを被膜形成成分として用いることで満足な上面反射防止膜を形成させることができる。しかし、レジストパターン形成時にi線のような比較的波長の長い光を用いる場合もある。このような場合には、上面反射防止膜に求められる屈折率は、相対的に短波長の光を用いた場合に求められる屈折率より高くても問題ない場合がある。このような場合には、被膜形成成分として一般式(1)のフッ素含有ポリマーの一部を、フッ素非含有カルボキシ基含有ポリマーに置き換えてもよい。すなわち、その他の追加成分としてフッ素非含有カルボキシ基含有ポリマーを用いることができる。したがって、たとえばi線などの波長が300nm以上の光を用いたフォトリソグラフィー法によりレジストパターンを形成する場合には、上面反射防止膜形成用組成物はフッ素非含有カルボキシ基含有ポリマーを含むことができる。
【0033】
そのようなフッ素非含有カルボキシ基含有ポリマーの具体例としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリα−トリフルオロメチルアクリル酸、ポリ(N−ビニルピロリドン−co−アクリル酸)、ポリ( N−ビニルピロリドン−co−アクリル酸メチル)、ポリ(N−ビニルピロリドン−co−メタクリル酸)、ポリ(N−ビニルピロリドン−co−メタクリル酸メチル)などが挙げられる。
【0034】
これらのフッ素非含有カルボキシ基含有ポリマーの重量平均分子量は、特に限定されないが、一般に1,000〜50,000、好ましくは2,000〜20,000の範囲から選択される。
【0035】
(b)アミン化合物
本発明による上面反射防止膜形成用組成物は、各種のレジストパターンに適用することができるが、そのようなレジストパターンとして、化学増幅型レジストに由来するものがある。特に波長が300nm以下の光、たとえばKrFエキシマーレーザーなどを用いてレジストパターンを形成するような場合には、化学増幅型レジストが用いられることが多い。このような化学増幅型レジストは、光照射によって生じる酸によってレジストパターンが形成されるものである。このようなレジストパターンに対して酸性度が高い上面反射防止膜形成用組成物を用いると、それによってレジストパターンの膜厚が薄くなってしまうことがある。このため、上面反射防止膜形成用組成物の酸性度を低くするためにアミン化合物を添加することができる。
【0036】
本発明においては、モノアルカノールアミン、ジアルカノールアミン、トリアルカノールアミン、およびモノアルキルアミンからなる群から選ばれるアミン化合物を用いることができる。これ以外のアミン化合物では、上面反射防止膜形成用組成物の塗布をする際に成膜性などが劣ることがある。
【0037】
また、アミン化合物は水溶性の高いものが好ましい。このため、アミン化合物が含む炭化水素基の炭素数は1〜6であることが好ましい。最も好ましいアミン化合物としては、入手の容易性や取扱い性の観点からモノエタノールアミンである。
【0038】
(c)その他の追加成分
本発明による上面反射防止膜形成用組成物は、上記以外に、必要に応じて各種の添加剤を含むことができる。そのような添加剤としては、増粘剤、滑り剤、および染料などの着色剤が挙げられる。
【0039】
上面反射防止膜形成用組成物
本発明による上面反射防止膜形成用組成物は、前記した各成分を混合し、均一に溶解させたものである。各成分の含有量は目的などに応じて適切に調整される。
【0040】
具体的には、本発明による上面反射防止膜形成用組成物のポリマーの含有量は、組成物の全重量を基準として0.1〜50重量%であることが好ましく、0.5〜10重量%であることがより好ましく、1〜5重量%であることが特に好ましい。ここで、ポリマーとは、一般式(1)のフッ素含有ポリマーおよび必要に応じて添加される、フッ素非含有カルボキシ基含有ポリマー全体を指す。
【0041】
また、本発明による上面反射防止膜形成用組成物に含まれるアルキルスルホン酸の含有量は、高いほうが屈折率や膜厚減少の改良が大きくなる傾向にあるが、高すぎないことが好ましい。具体的には、アルキルスルホン酸の含有量は組成物の全重量を基準として0.002〜0.4重量%であることが好ましく、0.02〜0.2重量%であることがより好ましく、0.05〜0.2重量%であることが特に好ましい。
【0042】
また、本発明による上面反射防止膜形成用組成物がアミン化合物を含む場合、アミン化合物の含有量は、組成物の全重量を基準として0.3重量%以下であることが好ましく、0.2重量%以下であることがより好ましい。アミン含有量が多すぎると、形成される上面反射防止膜の屈折率が高くなる傾向にあるので注意が必要である。
【0043】
また、本発明による上面反射防止膜形成用組成物のフッ素ポリマーの配合比は、組成物に含まれるポリマー成分の全重量を基準として50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることが好ましい。本発明による上面反射防止膜形成用組成物がフッ素非含有カルボキシ基含有ポリマーを含む場合、その配合比が高過ぎると、屈折率が高くなる傾向がある。このため、フッ素非含有カルボキシ基含有ポリマーの配合比が高くなりすぎないようにすることが好ましい。
【0044】
なお、本発明においてアミン化合物およびフッ素非含有カルボキシ基含有ポリマーは必要に応じて用いられるものであるが、本発明の効果を損なわない範囲で、これらを組み合わせて用いることもできる。
【0045】
また、フッ素非含有カルボキシ基含有ポリマーまたはアミン化合物以外の添加剤の添加量は、それぞれの添加剤の効果などを考慮して決定されるが、一般に組成物全体の重量を基準として、1重量%以下、好ましくは0.1重量%以下である。
【0046】
パターン形成方法
本発明による上面反射防止膜形成用組成物は、従来の上面反射防止膜形成用組成物と同様に用いることができる。言い換えれば、本発明による上面反射防止膜形成用組成物を用いるにあたって、基本的に製造工程を変更する必要はない。具体的に本発明による上面反射防止膜形成用組成物を用いたパターン形成方法を説明すると以下の通りである。
【0047】
まず、必要に応じて前処理された、シリコン基板、ガラス基板等の基板の表面に、レジスト組成物をスピンコート法など従来から公知の塗布法により塗布して、レジスト組成物層を形成させる。レジスト組成物の塗布に先立ち、レジスト下層に下層反射防止膜が塗布形成されてもよい。このような下層反射防止膜は本発明による組成物によって形成された上面反射防止膜とあいまって断面形状および露光マージンを改善することができるものである。
【0048】
本発明のパターン形成方法には、従来知られている何れのレジスト組成物を用いることもできる。本発明のパターン形成方法に用いることができるレジスト組成物の代表的なものを例示すると、ポジ型では、例えば、キノンジアジド系感光剤とアルカリ可溶性樹脂とからなるもの、化学増幅型レジスト組成物などが、ネガ型では、例えば、ポリケイ皮酸ビニル等の感光性基を有する高分子化合物を含むもの、芳香族アジド化合物を含有するもの或いは環化ゴムとビスアジド化合物からなるようなアジド化合物を含有するもの、ジアゾ樹脂を含むもの、付加重合性不飽和化合物を含む光重合性組成物、化学増幅型ネガ型レジスト組成物などが挙げられる。
【0049】
ここでキノンジアジド系感光剤とアルカリ可溶性樹脂とからなるポジ型レジスト組成物において用いられるキノンジアジド系感光剤の例としては、1,2−ベンゾキノンジアジド−4−スルホン酸、1,2−ナフトキノンジアジド−4−スルホン酸、1,2−ナフトキノンジアジド−5−スルホン酸、これらのスルホン酸のエステル或いはアミドなどが、またアルカリ可溶性樹脂の例としては、ノボラック樹脂、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、アクリル酸あるいはメタクリル酸のコポリマーなどが挙げられる。ノボラック樹脂としては、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、キシレノール等のフェノール類の1種又は2種以上と、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド等のアルデヒド類の1種以上から製造されるものが好ましいものとして挙げられる。
【0050】
また、化学増幅型のレジスト組成物は、ポジ型およびネガ型のいずれであっても本発明のパターン形成方法に用いることができる。化学増幅型レジストは、放射線照射により酸を発生させ、この酸の触媒作用による化学変化により放射線照射部分の現像液に対する溶解性を変化させてパターンを形成するもので、例えば、放射線照射により酸を発生させる酸発生化合物と、酸の存在下に分解しフェノール性水酸基或いはカルボキシ基のようなアルカリ可溶性基が生成される酸感応性基含有樹脂からなるもの、アルカリ可溶樹脂と架橋剤、酸発生剤からなるものが挙げられる。
【0051】
基板上に形成されたレジスト組成物層は、例えばホットプレート上でプリベークされてレジスト組成物中の溶媒が除去され、フォトレジスト膜とされる。プリベーク温度は、用いる溶媒或いはレジスト組成物により異なるが、通常20〜200℃、好ましくは50〜150℃程度の温度で行われる。
【0052】
このレジスト膜上に、スピンコート法などにより本発明による上面反射防止膜形成用組成物を塗布し、溶媒を蒸発させて上面反射防止膜を形成させる。このとき、形成される上面反射防止膜の厚さは、一般に1〜100nm、好ましくは10〜80nm、より好ましくは15〜70nmである。
【0053】
なお、レジスト膜を塗布後、完全に乾燥せずに上面反射防止膜形成用組成物を塗布し、前記のプリベークにより上面反射防止膜形成用組成物の溶媒を除去することも可能である。
【0054】
このように形成された上面反射防止膜は、一般に2.00〜1.40、好ましくは1.55〜1.40の屈折率を達成できるものである。本発明においては、特に1.50以下、さらには1.45以下という極めて低い屈折率を達成できる。このような低い屈折率を有する、本発明による上面反射防止膜は優れた特性を示すものである。
【0055】
レジスト膜はその後、KrFエキシマーレーザー、i線などの光を用い、必要に応じマスクを介して露光が行われる。
【0056】
露光後、必要に応じベーキングを行った後、例えばパドル現像などの方法で現像が行われ、レジストパターンが形成される。レジスト膜の現像は、通常アルカリ性現像液を用いて行われる。ここで、本発明による上面反射防止膜形成用組成物に含まれるポリマーは親水性基を有しているため、現像液により容易に除去される。
【0057】
本発明において現像に用いられるアルカリ性現像液としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)などの水溶液或いは水性溶液が用いられる。現像処理後、必要に応じてリンス液、好ましくは純水、を用いてレジストパターンのリンス(洗浄)が行われる。なお、形成されたレジストパターンは、エッチング、メッキ、イオン拡散、染色処理などのレジストとして用いられ、その後必要に応じ剥離される。
【0058】
レジストパターンの膜厚などは用いられる用途などに応じて適宜選択されるが、一般に 0.1〜3μm、好ましくは0.2〜2μm、の膜厚が選択される。
【0059】
本発明によるパターン形成方法により得られたレジストパターンは、引き続き用途に応じた加工が施される。この際、本発明によるパターン形成方法を用いたことによる制限は特になく、慣用の方法により加工することができる。
【0060】
このように本発明の方法により形成されたパターンは、液晶表示素子などのフラットパネルディスプレー(FPD)、半導体デバイス、電荷結合素子(CCD)、カラーフィルターなどに、従来の方法で製造されたパターンと同様に適用することができる。
【0061】
本発明を諸例を用いて説明すると以下の通りである。
【0062】
例1〜25
一般式(1)で表されるフッ素含有ポリマーであって、重量平均分子量の異なるものを準備し、このポリマーと、アルキルスルホン酸またはその比較対象とする界面活性剤を、溶媒としての水に溶解させて上面反射防止膜形成用組成物を調製した。なお、アルキルスルホン酸または界面活性剤には、
S−1: 炭素数10〜18のアルキルスルホン酸混合物
S−2: アセチレンジオールのエチレンオキサイド付加物(Surfynol485(商品名、エアープロダクツ社製)、ノニオン性界面活性剤
S−3: ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル(D−3110−P(商品名)、竹本油脂株式会社製)、ノニオン性界面活性剤
S−4: 平均炭素数が12のアルキルジフェニルエーテルスルホン酸混合物
S−5: エタンスルホン酸
S−6: オクタンスルホン酸
S−7: カンファースルホン酸
S−8: p−トルエンスルホン酸
S−9: ドデシルベンゼンスルホン酸
を用いた。各組成物のフッ素含有ポリマーの含有量は、組成物の総重量を基準として2.0重量%とした。また、フッ素含有ポリマーの重量平均分子量および組成物の総重量を基準としたアルキルスルホン酸または界面活性剤の含有量は表1に示す通りであった。
【0063】
これらの各組成物について、その特性を評価した。評価基準は以下の通りとした。
【0064】
成膜性は、シリコンウエハ上に組成物をスピンコーター(CLEANTRACK MK−8型(商品名)、東京エレクトロン株式会社製)で各組成物を塗布し、目視にて確認した。膜面にハジキがなければA、10%程度のハジキがあった場合にB、30%程度のハジキがあった場合C、50%以上のハジキがあった場合にDとした。
【0065】
次いで成膜性評価と同一の試料を光干渉式膜厚測定装置ラムダエース(商標名、大日本スクリーン株式会社製)を用いて面内均一性を評価した。膜厚の分布範囲が10オングストローム未満であればA、10〜20オングストロームであればB、20〜30オングストロームであればC、30オングストローム以上であればDとした。
【0066】
膜厚減少量は、レジストの表面に上面反射防止膜を形成させた後に現像を行ったときのレジストの膜厚減少量を測定することにより行った。具体的には、以下の手順で行った。まずKrF露光用レジスト組成物(DX5240P(商品名)、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製)を基板に塗布、加熱することによりレジスト膜を形成させ、その膜厚を測定した。次いで、その表面上にそれぞれの上面反射防止膜形成用組成物を塗布し、現像した後、レジスト膜の膜厚を測定した。これらの膜厚差を膜厚減少量として、膜厚減少量が50nm未満であればA、50〜70nmであればB、70〜90nmであればC、100nm以上であればDとした。
【0067】
屈折率は基板上に上面反射防止膜形成用組成物を塗布、加熱して被膜を形成させ、その被膜について測定した。測定にはVUV302型エリプソメーター(ジェーエーウーラム・ジャパン株式会社製)を用いて、248nmにおける屈折率を測定した。評価基準は例20に対して同等以上であればA、屈折率の差が+0.05未満であればB、+0.05〜+0.10であればC、+0.10以上であればDとした。
【0068】
経時安定性は、上面反射防止膜形成用組成物を40℃の条件下に放置し、定期的に液中パーティクルカウンター(KS40B型(商品名)、リオン株式会社製)により粒子径が0.2μmの単位体積あたりの粒子数を測定した。いずれの組成物も調製直後の粒子数は10pcs/ml(単位)以下であるが、これが50pcs/mlを超えるまでの期間が90日以上である場合にA、30〜90日の場合にB、14〜30の場合にC、14日未満の場合にDとした。
【0069】
なお、いずれの評価においても評価基準がCであれば実用可能であり、Bであれば実用上全く問題なく実用でき、Aであれば非常に優れたものであるといえる。一方でDであると実質的に使用不能である。
【0070】
得られた結果は表1に示す通りであった。
【表1】

【0071】
この結果より、以下のことが分かった。
例1〜5の結果より、ポリマーの分子量の大小に関係なく、アルキルスルホン酸なしでは成膜性が悪く、上面反射防止膜としては使用できないことがわかった。
【0072】
また、例6〜17は、アルキルスルホン酸の添加量及びポリマーの平均分子量による特性変化を示すものである。この結果より、アルキルスルホン酸は必須であり、組成物の全重量を基準として0.02重量%以上添加されれば十分な特性が得られることがわかった。ただし、ポリマーの分子量が小さい場合は、膜厚減少が著しく、上面反射防止膜としては使用が困難であることがわかった。
【0073】
さらに、例18〜25から、本発明において特定されたアルキルスルホン酸以外の界面活性剤を使用すると、組成物が白濁する、成膜性が著しく劣るなどの問題が起こることがわかった。なお、例18および19に対しては、ポリマーの分子量およびアルキルスルホン酸の添加量を変更した評価も行ったが、いずれも組成物に白濁または析出物が認められた。
【0074】
また、アルキルスルホン酸に代えて平均炭素数が12のアルキルジフェニルエーテルスルホン酸混合物を用いた組成物(例20)より、本発明による組成物のほうが成膜性において優れていることが分かった。この例20は、特許文献5に記載された従来の上面反射防止膜形成用組成物に対応するものである。さらに、界面活性剤として広く用いられているドデシルベンゼンスルホン酸を用いた場合には塗布性は許容範囲にあるものの経時安定性が不十分であることがわかった。
【0075】
例26〜31
一般式(1)で表され、重量平均分子量340,000のフッ素含有ポリマーと、アルキルスルホン酸S−1またはS−4と、各種のアミン化合物とを含む上面反射防止膜形成用組成物を調製した。ここで、ポリマー、アルキルスルホン酸、およびアミン化合物の含有量は、それぞれ組成物の全重量を基準として2.0重量%,0.1重量%、および0.2重量%とした。これらの組成物を用いて、例1〜25と同様の評価を行った。得られた結果は表2に示す通りであった。なお、参考のために表1における例13および20も併せて示す。
【0076】
【表2】

この結果より、アミン化合物の有無にかかわらず、本発明による上面反射防止膜形成用組成物は従来の界面活性剤を含む組成物に比べて成膜性や面内均一性が改良される傾向があることが分かった。さらには、アミン化合物を含んだ組成物は、屈折率や膜厚減少も改良されることがわかった。このような組成物は化学増幅型レジストに適用する場合に特に好適である。
【0077】
例32〜37
一般式(1)で表され、重量平均分子量340,000のフッ素含有ポリマーと、追加ポリマーと、アルキルスルホン酸S−1とを含む上面反射防止膜形成用組成物を調製した。ここで、追加ポリマーとしては、ポリアクリル酸P−1(重量平均分子量5,000)または、ポリビニルピロリドンP−2(重合平均分子量5,000)を用いた。全ポリマーの含有量およびアルキルスルホン酸の含有量は、それぞれ組成物の全重量を基準として2.0重量%および0.1重量%とした。また、フッ素含有ポリマーと追加ポリマーとの配合比は表3に示す通りとした。これらの組成物を用いて、例1〜25と同様の評価を行った。ただし、膜厚減少の評価の際には、i線用レジスト組成物(MiR703(商品名)、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製)を使用した。得られた結果は表3に示す通りであった。
【0078】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を用いてパターンを形成させるフォトリソグラフィーに用いる上面反射防止膜形成用組成物であって、前記上面反射防止膜形成用組成物が、下記一般式(1):
−Ax−By− (1)
(式中、Aは下記一般式(A):
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜40のフッ素含有アルキレン基または炭素数2〜100のエーテル結合を有するフッ素含有アルキレン基である)
で示される繰り返し単位であり、
BはAと結合して共重合体を形成することができる繰り返し単位であり、
xおよびyは重合比を示す数であって、xは0でなく、
AおよびBは、ランダムに結合しても、ブロックを形成してもよい。)
で表される、重量平均分子量が300,000〜800,000であるフッ素含有ポリマーと、炭素数10〜18のアルキルスルホン酸と、溶媒とを含んでなることを特徴とする、上面反射防止膜形成用組成物。
【請求項2】
前記アルキルスルホン酸の含有量が、組成物の全重量を基準として0.02〜0.4重量%である、請求項1に記載の上面反射防止膜形成用組成物。
【請求項3】
前記フッ素含有ポリマーの重量平均分子量が350,000〜450,000である、請求項1または2に記載の上面反射防止膜形成用組成物。
【請求項4】
フッ素非含有カルボキシ基含有ポリマーをさらに含んでなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の上面反射防止膜形成用組成物。
【請求項5】
モノアルカノールアミン、ジアルカノールアミン、トリアルカノールアミン、およびモノアルキルアミンからなる群から選ばれるアミン化合物をさらに含んでなる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の上面反射防止膜形成用組成物。
【請求項6】
固形分含有量が、組成物の全重量を基準として0.1〜50重量%である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の上面反射防止膜形成用組成物。
【請求項7】
基板上にレジスト組成物を塗布してレジスト膜を形成させ、前記レジスト膜上に、請求項1〜6のいずれか一項に記載の上面反射防止膜形成用組成物を塗布し、乾燥させ、光を用いて露光し、現像することを含んでなることを特徴とする、パターン形成方法。
【請求項8】
前記上面反射防止膜形成用組成物がフッ素非含有カルボキシ基含有ポリマーをさらに含んでなり、光の波長が300nm以上である、請求項7に記載のパターン形成方法。
【請求項9】
前記上面反射防止膜形成用組成物がモノアルカノールアミン、ジアルカノールアミン、トリアルカノールアミン、およびモノアルキルアミンからなる群から選ばれるアミン化合物をさらに含んでなり、光の波長が300nm以下である、請求項7に記載のパターン形成方法。