説明

下水からのリン及び/または窒素の除去方法

【課題】 下水から窒素及びリンを効率的に安定して除去する。
【解決手段】 嫌気槽、無酸素槽および好気槽からなる生物学的リンおよび/または窒素の除去プロセスにおいて、嫌気槽のORP値を指標として、有機酸を嫌気槽に添加し、窒素とリンを安定して除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水中に含まれるリン及び/または窒素を安定的かつ効率的に除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
まず、リンの除去に関する従来技術を説明する。
【0003】
都市下水中の全リン濃度は、通常3〜5mg/L程度あり、下水中のリンを除去する方法としては、以下のような方法が公知である。
【0004】
(1)凝集沈殿法:塩化第二鉄、硫酸第二鉄などの鉄塩や硫酸アルミニウムやポリ塩化アルミニウム等の凝集剤を用いる凝集沈殿法が広く公知である。最も確実な方法であるが、凝集剤添加により、余剰汚泥量の増加に伴う処理費や薬品費などランニングコストが上昇する課題がある。
【0005】
(2)生物学的リン除去プロセス:活性汚泥(微生物の集合体)中の一部の細菌群(以下、ポリリン酸蓄積細菌と述べる)は、嫌気条件下(溶存酸素も硝酸イオン等の結合態酸素もない状態)においてリンを放出させると、好気条件下ではリンを過剰に摂取しようとする。この性質を利用し、リン除去をはかるもので、このような方式を採用するとポリリン酸蓄積細菌がリンを摂取することにより下水の活性汚泥中のリン濃度は2〜3%から5〜6%程度に増大し、下水中のリン濃度が低下するといわれている。生物学的リン除去プロセスは、都市下水処理の分野で実用化が進んでいる。
【0006】
以下に、本発明に関わる生物学的なリンと窒素除去の従来方法について説明する。
【0007】
生物学的リン除去プロセスは、一般に最初沈殿池、反応槽(嫌気槽、および好気槽)、および最終沈澱池から構成されている。最初沈殿池は下水中の粗大浮遊物を沈降除去し、反応槽への有機物負荷を減じる。反応槽は、嫌気槽と好気槽とからなりたっており、嫌気槽において、嫌気性条件下におき、活性汚泥中のポリリン酸蓄積細菌からリンを放出させる。さらに、好気槽においてポリリン酸蓄積細菌にリンを放出量以上過剰に摂取させる。最終沈殿池においては、活性汚泥を沈降分離させ上澄み液は放流する。最終沈殿池で沈降分離された濃縮活性汚泥は、その一部を余剰汚泥として引きぬくとともに、返送汚泥として、嫌気槽に返送ポンプにより返送される。ポリリン酸蓄積細菌により余剰汚泥は、リンを高濃度に含むため、下水中に含まれていたリンは余剰汚泥の形で系外に引き抜かれることとなる。
【0008】
生物学的リン除去プロセスは、上述の凝集沈殿法と比較するとランニングコストが安いという利点がある。
【0009】
次に、窒素の除去に関する従来技術を説明する。
【0010】
下水からの窒素の除去方法としては、以下のような生物学的硝化−窒素除去プロセスが、安価であり、広く採用されている。この方法は、絶対好気性の独立栄養細菌であるNitrosomonas、およびNitrobacter等の硝化細菌による生物学的酸化反応(硝化反応)と通性嫌気性の従属栄養細菌であるPseudomonas等の脱窒細菌による生物学的還元反応(脱窒反応)との組み合わせから成っている。
【0011】
まず、硝化反応について説明する。硝化反応は、溶存酸素の存在下、すなわち、好気性の条件下において、硝化細菌を用いて、アンモニア性窒素(以下、NH−Nと記載)を亜硝酸性窒素(以下、NO−Nと記載)または硝酸性窒素(以下、NO−Nと記載)まで酸化させる工程である。硝化反応は以下の化学式1および化学式2に示す反応の2段の反応から成っており、関与する硝化細菌の種類は異なっている。すなわち、化学式1に示す反応は、Nitrosomonasを代表種とするアンモニア酸化細菌によってもたらされ、化学式2に示す反応は、Nitrobacterを代表種とする亜硝酸酸化細菌によってもたらされる。
【0012】
【化1】

【0013】
窒素を除去するためには、硝化細菌を活性汚泥中に大量に増殖させることが極めて重要である。しかし、硝化細菌は、有機物を分解する従属栄養細菌と比較すると、増殖速度が小さく、また、下水や排水中の成分変動によって活性阻害を受けやすい。硝化細菌の増殖は通常、好気槽中での活性汚泥滞留時間(SRT:Sludge Retention Time)や溶存酸素濃度(DO:Disolved Oxygen)を指標として管理されている。
【0014】
次に脱窒反応について説明する。硝化反応によって生成したNO−NおよびNO−Nは、活性汚泥中の脱窒細菌により、無酸素かつ有機物の存在下で、以下の化学式3および化学式4に示すように還元されて、酸化窒素ガス(NO)あるいは窒素ガス(N)となり大気中に放散される。
【0015】
【化2】

【0016】
脱窒素を安定して行なうためには、以下の2点が極めて重要である。
【0017】
(1)溶存酸素が存在しないこと(無酸素条件):脱窒細菌は、溶存酸素が存在すると、溶存酸素を優先的に用いてしまう。このため、NO−NやNO−Nが残留しやすい。
【0018】
(2)十分な有機物(水素供与体)があること:脱窒素を行なうためには十分な水素供与体が必要である。水素供与体として、都市下水などでは、下水中の有機物(以下、BODとも記載する)成分がそのまま用いられ、有機物を含まない廃水ではメタノールなどが外部から添加されることが多い。BODの場合、BOD濃度(mg/L)は窒素濃度(mg/L)に対して、BOD/N比が3以上必要(Nは窒素元素として)とされている。また、有機物の種類も重要であり、脱窒速度に大きく影響する。
【0019】
生物学的硝化−窒素除去プロセスは、最初沈殿池、反応槽(無酸素槽、および好気槽)、および最終沈澱池からから構成されている。最初沈殿池は下水中の粗大浮遊物を沈降除去し、反応槽での有機物負荷を減じる。反応槽は、無酸素槽と好気槽とからなりたっている。無酸素槽(溶存酸素のない状態)には、好気槽から硝化液(好気槽内の処理水)の一部が循環返送される。硝化液中のNO−N並びにNO−Nは、活性汚泥中の脱窒細菌により、下水中の有機物との脱窒反応により、窒素ガスとして除去される。好気槽では、活性汚泥中の硝化細菌によりNH−Nの酸化(硝化)が行なわれ、硝化液の一部が無酸素槽に循環される。最終沈殿池においては、活性汚泥を沈降分離させ上澄み液は放流する。沈降分離された濃縮活性汚泥は、その一部を余剰汚泥として引きぬくとともに返送汚泥として、無酸素槽にポンプにより返送される。
【0020】
生物学的リン・窒素除去プロセスは、前述した生物学的リン除去プロセスと生物学的硝化−窒素除去プロセスとを組み合わせたプロセスであり、最初沈殿池、反応槽(嫌気槽、無酸素槽、および好気槽)、および最終沈澱池から構成されている。最初沈殿池は下水中の粗大浮遊物を沈降除去し、反応槽での有機物負荷を減じる。反応槽は、嫌気槽、無酸素槽および好気槽からなりたっている。嫌気槽では前述したように活性汚泥中のポリリン酸蓄積細菌がリンの吐き出しをおこなう。無酸素槽には、好気槽から硝化液の一部が循環返送される。無酸素槽においては、この硝化液中のNO−NおよびNO−Nは、活性汚泥中の脱窒細菌により、下水中の有機物との脱窒反応により、窒素ガスとして除去される。
【0021】
一方、好気槽では、活性汚泥中の硝化細菌によりNH−Nの酸化(硝化)が行なわれ、硝化液の一部は、嫌気槽に循環される。また、活性汚泥中のポリリン酸蓄積細菌は、リンを過剰に摂取する。最終沈殿池では、活性汚泥を沈降分離し、上澄み液は放流する。沈降分離された濃縮活性汚泥は、その一部を余剰汚泥として引きぬくとともに返送汚泥として、嫌気槽に返送ポンプにより返送される。ポリリン酸蓄積細菌により余剰活性汚泥は、リンを高濃度に含むため、下水に含まれていた、リンは余剰汚泥の形で系外に引き抜かれることとなる。
【0022】
生物学的リン除去プロセスの最も大きな課題は、不安定性である。例えば、雨水などの下水への混入などにより、下水中の有機物濃度が低下するとともにDOが上昇し、嫌気槽において嫌気性条件が達成されずリンの放出が抑制される。嫌気槽で、一旦、リンの放出現象が抑制されると、好気槽でのリンの過剰な取り込み能力が低下してしまう。嫌気槽でのリン放出を良好に行なうためには下水中に大量のBODが必要であり、嫌気槽流入水のBOD(mg/L)/T−P(全リン:mg/L)濃度比が20〜25以上あればリンの放出は良好であるとされている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0023】
さらに、好気槽でのリンの過剰摂取については、DOとの関連が多く指摘されている。DOが不足するとリン摂取が阻害されるため、概ね、好気槽末端のDOは、1.5〜2.0mg/L(非特許文献1)あるいは1.5〜3.0mg/Lが望ましいとされている(非特許文献2)。
【0024】
しかし、嫌気槽流入水のBOD/T−P比が25以上あっても、嫌気槽でのリンの放出が不良で、処理水中に多量のリンが残留するケースがある。この原因としては、次のような要因が考えられる。(I)雨水が混入した下水や返送汚泥からのNO−NおよびNO−N(以下、NOx−Nと記載)または溶存酸素の嫌気槽への流入。(II)無酸素槽に返送される硝化液からのNOx−Nや溶存酸素の嫌気槽への逆流。(III)嫌気槽での過度の攪拌による溶存酸素の巻き込み。(IV)嫌気槽での短絡流の発生による水理学的滞留時間(以下、HRTと記載)の短縮などが挙げられる。
【0025】
これらの嫌気槽の緒条件は、各下水処理場で大きく異なり、このため、嫌気槽流入水のBOD/T−P比が25以上あっても、嫌気槽でのリンの放出が良好とは限らないと思われる。
【0026】
これらのことから、リンの除去については、嫌気槽でリンの放出状況をいかに簡易にモニタリングし、この対処方法を開発するかが重要である。この課題に対して、以下のような検討報告例がある。例えば、嫌気槽でリンの放出状況を簡易にモニタリングする方法として、酸化還元電位(以下、ORPと記載、銀/塩化銀電極基準)値に着目した事例がある。 例えば、嫌気槽のORP値とリンの吐き出し現象が密接に関係しており、生物学的リン除去プロセスの嫌気槽のORP値が−270mV超になったら、有機物を多く含む下水(最初沈殿池流入水)や最初沈殿池沈殿汚泥を嫌気槽に流入させ、嫌気槽のORP値を−270mV以下に維持する方法が提案されている(特許文献1)。
【0027】
また、下水(最初沈殿池流入水)や最初沈殿池流出水のORP値を測定し、このORP値の測定値に応じて、下水(最初沈殿池流入水)と最初沈殿池流出水の混合割合を変動させ、嫌気槽のORP値を−270mV以下に維持する方法も提案されている(特許文献2)。
【0028】
しかし、特許文献1のような最初沈殿池流入水を用いる方法は、最初沈殿池流入水自体の有機物濃度が不安定であるばかりでなく、反応槽での有機物負荷、窒素負荷を大きく変動させるため、廃水中のBOD成分や窒素の除去を制御することはかなり難しい。
【0029】
次に、生物学的硝化−窒素除去プロセスの課題について説明する。窒素除去については、硝化反応にともない、化学式1及び化学式2から4.57kgO/kgNH−Nの酸素消費が発生する。通常、好気槽における硝化反応を促進するため、通常1.5mg/Lの溶存酸素が残存することが必要とされ、管理されている(非特許文献1および非特許文献2)。このため、曝気量が増加し、ブロアーによる電力消量が大きいため、硝化反応を維持できる範囲で、エネルギー消費量を小さくする方策が強く求められている。
【0030】
また、生物学的硝化−窒素除去プロセスに関しては、リン除去と同様、有機物の不足により、脱窒反応が進行しにくくなる場合がある。脱窒反応を円滑に進めるためには、下水のBOD(mg/L)/T−N(全窒素、mg/L)濃度比は3程度以上あることが望ましいとされている。下水中の有機物が不足し脱窒反応が進まない場合は、無酸素槽に有機物として例えば、メチルアルコールを添加する方法は広く知られている(非特許文献1)しかし、下水のBOD(mg/L)/T−N(mg/L)濃度比が3以上あっても、無酸素槽での脱窒素が不良で、処理水中に窒素が残留するケースがある。例えば、無酸素槽に返送される硝化液の過剰なDOによる脱窒阻害、過剰な循環量、無酸素槽での短絡流の発生によるHRTの短縮などの原因がある。したがって、一概に下水のBOD(mg/L)/T−N(mg/L)濃度比が3以上あっても、無酸素槽での窒素の除去が良好とは限らない。
【0031】
したがって、無酸素槽での脱窒素の状況をいかに簡易にモニタリングし、この対処方法を開発するかが重要である。
【特許文献1】特開平3−278893号公報
【特許文献2】特開2003−053384号公報
【非特許文献1】高度処理施設設計マニュアル、p225−252、日本下水道協会、平成6年
【非特許文献2】嫌気−無酸素−好気法運転管理マニュアル(案)、東京都下水道サービス、平成9年3月、p21−p53
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
上記課題を簡単にまとめると、生物学的リン除去プロセスは、下水中の有機物濃度の低下、好気槽末端のDOの低下、嫌気槽流入水のBOD/T−P濃度比の低下、嫌気槽のNOx−N濃度の上昇、嫌気槽のDOの上昇、および嫌気槽でのHRTの短絡などの多くの不安定要素によりリンの除去が阻害されるおそれがある。また、多くの不安定要素をそれぞれモニタリングすることは困難である。
【0033】
一方、窒素除去は、下水中の有機物濃度の低下、好気層末端のDOの低下、下水のBOD/T−N濃度比の低下、無酸素層のDOの上昇、無酸素槽でのHRTの短絡、および無酸素槽での循環量の上昇などの多くの不安定要素により窒素の除去が阻害されるおそれがある。また、多くの不安定要素をそれぞれモニタリングすることは困難である。更に、ブロアーによる電力の消費が上昇するという問題もある。
【0034】
下水からの生物学的リン・窒素除去プロセスについては、前述したリン除去、および、窒素除去の課題を併せ持つが、窒素除去の最適条件とリン除去の最適条件が相反する場合が多いため、課題解決がより難しい。
【0035】
本発明は嫌気槽でのリン除去と、無酸素槽での脱窒素の状況とを簡易にモニタリングすることにより、安定的に下水からリンおよび/または窒素を除去することのできる生物学的除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく検討を重ねた結果、以下の方法により、下水から安定して窒素および/またはリンを除去することに成功した。本発明の要旨とするところは、次の(1)〜(10)である。
【0037】
(1)最初沈殿池、嫌気槽、好気槽及び最終沈殿池の各下水処理槽、又は最初沈殿池、嫌気槽、無酸素槽、好気槽及び最終沈殿池の各下水処理槽を用いた生物学的な下水処理方法において、嫌気槽のORP値が−400mV以上−200mV以下の範囲に維持されるように有機酸を嫌気槽に添加することを特徴とする下水処理方法である。
【0038】
(2)嫌気槽のORP値の累積頻度の50%以上が−350mV以上−250mV以下の範囲に維持されるように、前記有機酸を嫌気槽に添加することを特徴とする(1)に記載の下水処理方法である。
【0039】
(3)最初沈殿池、無酸素槽、好気槽及び最終沈殿池の各下水処理槽、又は最初沈殿池、嫌気槽、無酸素槽、好気槽及び最終沈殿池の各下水処理槽を用いた生物学的な下水処理方法において、無酸素槽のORP値が−200mV以上−100mV以下の範囲に維持されるように有機酸を前記無酸素槽に添加すること、前記好気槽から前記無酸素槽への硝化液の循環量を調整すること、前記好気槽のORP値を調整すること、および前記好気槽のDOを調整すること、からなる群より選択される少なくとも1種を行なうことを特徴とする下水処理方法である。
【0040】
(4)無酸素槽のORP値の累積頻度の50%以上が−200mV以上−150mV以下の範囲に維持されるように、前記第二有機酸を前記無酸素槽に添加すること、前記好気槽から前記無酸素槽への硝化液の循環量を調整すること、前記好気槽のORP値を調整すること、および前記好気槽のDOを調整すること、からなる群より選択される少なくとも1種を行なうことを特徴とする3)に記載の下水処理方法である。
【0041】
(5)前記嫌気槽のPO−P濃度が10mg/Lとなるように前記有機酸の前記嫌気槽への添加量を調整し、前記嫌気槽に流入する下水中および返送汚泥中のNOx−N濃度及びDOによって単位時間当たりに消費される有機酸量を計算し、前記嫌気槽に添加する前記有機酸の量を増やすことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の下水処理方法である。
【0042】
(6)好気槽のORP値が+70mV以上+100mV以下となるように、好気槽のブロアーによる曝気量を調整することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の下水からのからの下水処理方法である。
【0043】
(7)好気槽のDOが0.5mg/L以上1.5mg/L以下となるように好気槽のブロアーによる曝気量を調整することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の下水処理方法である。
【0044】
(8)好気槽の後段に更に第2無酸素槽及び第2好気槽を順に有することを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の下水処理方法である。
【0045】
(9)嫌気槽、無酸素槽、好気槽の1槽又は2槽以上に微生物固定化担体を投入することを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の下水処理方法である。
【0046】
(10)嫌気槽、無酸素槽の少なくともいずれかに添加する有機酸が、酢酸および/または酢酸塩であることを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載の下水処理方法である。
【発明の効果】
【0047】
本発明により、窒素及びリンを含有する下水から、安定して窒素および/またはリンを除去することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
本発明の処理フロ−の1例を図1、図2、および図3に示す。図1は、本発明の生物学的リン除去プロセスである。反応槽は、嫌気槽4と好気槽6とから成り立っている。図2は、本発明の生物学的硝化−窒素除去プロセスである。反応槽は、無酸素槽5と好気槽6とから成り立っている。図3は、リン除去機能に加え、脱窒素機能も有する本発明の生物学的リン・窒素除去プロセスである。反応槽は、嫌気槽4、無酸素槽5、および好気槽6から成り立っている。
【0049】
生物学的リン・窒素除去プロセスは、図1の生物学的リン除去プロセス、および、図2の生物学的硝化−窒素除去プロセスの機能を包含しているため、図3の生物学的リン・窒素除去プロセスを事例として発明の形態を説明する。
【0050】
まず、下水1に含まれる粗大浮遊物(主として汚泥)は、最初沈殿池2において沈降除去される。その後、最初沈殿池流出水3は、嫌気槽4に流入する。
【0051】
(嫌気槽)
嫌気槽4は、以下のように管理する。まず、生物学的リン除去の機構について簡単に述べる。生物学的リン除去を行なうポリリン酸蓄積細菌は、好気条件下で吸収したPO−Pを細胞内でポリリン酸の顆粒として保持しており、嫌気槽4においては、この顆粒のポリリン酸を加水分解して、PO−Pとして放出するとともに、下水1中の有機物、特に有機酸20や発酵産物を優先的に細胞内に摂取する。PO−Pの放出速度は、基質の種類や濃度によって大きく異なっており、酢酸などの有機酸20が基質である場合にPO−Pの放出速度が大きいとされている。細胞内に摂取された有機物は、グリコーゲンやPHB(ポリハイドロブチレイト)などの高分子物質の形で貯蔵される。これらの細胞内物質は、再び、ポリリン酸蓄積細菌を好気条件下に置くと、酸化分解され減少するが、ポリリン酸蓄積細菌はこの基質を利用することにより増殖する。また、ポリリン酸蓄積細菌は嫌気槽4で放出した量以上のPO−Pを過度にとりこみ、細胞内でポリリン酸の顆粒として保持するため、下水1中のPO−Pは減少する。
【0052】
このような生物学的リン除去を行なうポリリン酸蓄積細菌の反応を促進する上で重要なことは、有機酸20や発酵産物の存在であるが、これらの有機酸20や発酵産物は、BOD成分の一部ではあるものの、下水1のBOD濃度が高いからといってこれらの有機酸20や発酵産物濃度が高いとは必ずしも限らない。したがって、BOD濃度よりも下水1中の有機酸の濃度(mg/L)などを指標とする方がより有効である。嫌気槽4において、リン放出に必要な有機物の種類や必要量に関しては多くの研究事例があるが、希望するリンの放出量を1としたときに、添加する有機酸20の量をモル比で1.3程度とすることが好ましいとの報告がある(例えば、The effect of organic compounds on biological phosphorus removal,Water Science Technology,1991,Vol.23,No.4/6,p585−p591)。したがって、嫌気槽4への有機酸20の添加量は公知となっているこの数字を参考にすることができる。例えば、リン放出に対する酢酸利用をモル比で1.3とする場合、嫌気槽4で10mg/LのPO−P放出を促すためには、必要な酢酸量は嫌気槽の容量あたり25mg/Lとなる。しかし、実際の処理設備では、雨水や返送汚泥8の影響により、嫌気槽4にNOx−Nや溶存酸素が流入する場合がしばしばあり、嫌気槽4において、NOx−N、及び溶存酸素が存在すると、有機酸20は直ちに分解されてしまう。以下に、有機酸20として、酢酸を用いた場合の反応を示す。
【0053】
【化3】

【0054】
化学式5〜7から、例えば、NO−Nが1mg/L存在すると、これに伴い、酢酸2.7mg/Lが消費されることとなる。また、NO−Nが1mg/L存在すると、これに伴い、酢酸1.6mg/Lが消費されることとなる。一方、溶存酸素は1mg/L存在すると、これに伴い、酢酸0.9mg/Lが消費されることとなる。この結果から、特に、NO−Nの存在が酢酸の消費に及ぼす影響が極めて大きいことがわかる。
【0055】
NO−N、NO−N、及び溶存酸素は、調査の結果、雨水が混入する下水1や返送汚泥8中にも存在する場合がたびたびあるが、特に、好気槽6の運転条件によっては、最終沈殿池7から嫌気槽4に返送される返送汚泥8中に高濃度のNO−Nが存在することが判明した。この場合、嫌気槽4においてリンの放出が極めて生じにくくなるおそれがある。例えば、流入してくる下水の酢酸濃度が20mg/Lあったとしても、NO−Nを10mg/L含む返送汚泥8が下水1に対して50V/V%混入すると、NO−Nが13.5mg/Lの酢酸を消費してしまう。
【0056】
また、下水1中あるいは返送汚泥8中のNOx−Nや溶存酸素による有機酸20の消費ばかりでなく、無酸素槽からの逆流などの装置特性も影響する場合がある。したがって、下水1中の有機酸20の濃度のみで、嫌気槽4でのリンの放出を判断するのは難しく、また、この嫌気槽4でのリンの吐き出しに関与する要因(有機酸20、NOx−N濃度、DO、装置特性など)を、すべて事前に把握して有機酸20の添加量を制御することは困難と考えられる。
【0057】
そこで、発明者らは嫌気槽4のORP計13によるモニタリングを行いながら有機酸20を添加する方法を発案し、嫌気槽4のORP値を−200mV以下−400mV以上に維持し、好ましくはORP値の測定累積頻度の50%以上が−250mV以下−350mV以上に維持されるように有機酸20を嫌気槽4に添加する方法を開発した。
【0058】
ORP値の制御による有機酸20の添加の具体的方法の1例を示すと、嫌気槽4のORP値が−250mV以上になると、有機酸タンク11から有機酸20を薬注ポンプ12により、嫌気槽4に添加し、嫌気槽4のORP値が目的の値になると停止させることにより、嫌気槽4のORP値が−200mV以下−400mV以上に納まるように運転する。
【0059】
より詳細には、一定期間、嫌気槽4のORP値の累積頻度を測定し、嫌気槽4のORP計13によるモニタリングを行い、ORP値が−200mV以下−400mV以上となるように有機酸20を添加する。更に、ORP値の累積頻度の50%以上が−350mV以上−250mV以下の範囲に維持されるように有機酸20を添加することが好ましい。累積頻度の採取頻度は、1分から10分毎にデータを毎日採取し、これをデータ解析し、一定期間あたりのORP値の累積頻度を算出する。累積頻度の算出の詳細例を示すと、嫌気槽4のORP計13にて計測したORP値を、1分から10分の間で設定した任意の時間間隔毎に自動データ収集装置(例えば、キーエンス社 モデルGR3500)で記録し、記録したORP測定データのうち累積頻度を解析したい所定の期間に属する素データについてORP値にして1mVから50mVの範囲で選ばれる任意のデータ区間毎の出現度数を例えばマイクロソフト社マイクロソフトエクセルなどの表計算ソフトを使用して集計し、その出現度数に基づいて累積頻度を算出する。例えば、流入してくる下水1の水質時間変動のパターンがほぼ一定の場合は、1日あたりのORP値の累積頻度で判断すればよい。降雨などの影響で下水1の水質に急激な変動がある場合は、降雨の影響が認められる期間でのORP値の累積頻度で判断すればよい。
【0060】
図6に発明者らが検討した嫌気槽4のORP値と嫌気槽4のPO−P濃度の関係を示す。図6には、ORP計13によるモニタリングを行い、有機酸20として酢酸を嫌気槽4に下水流入量あたり30mg/Lで添加し、ORP値を制御した本発明の有機酸20の添加方法(図6では発明法と記載)の場合と、有機酸20を無添加の従来の方法(図6では従来法と記載)とを示す。従来法では、嫌気槽4のORP値が−100〜−300mVと大きくばらつき、リンの放出量も小さいが、発明法では、嫌気槽4のORP値の測定累積頻度の50%以上が−250mV以下となり、又リンの放出量が大きくなった。このようにORP値を制御するように有機酸20を添加すると嫌気槽4のORP値を低く維持でき、リンの放出量が大きくなる。
【0061】
薬品のコストを考慮すると、ORP値は−350mV以上に維持することが好ましい。
【0062】
この有機酸20の添加及び停止のタイミングは、反応槽の容量、HRT、有機酸20の濃度および有機酸20の投入流量に応じて適宜決定することができる。
【0063】
図7に嫌気槽4のORP値と嫌気槽4のNOx−N濃度との関係を示す。有機酸20として酢酸を、ORP計13によるモニタリングを行いながら嫌気槽4に下水流入量あたり30mg/Lで添加した、本発明の有機酸20の添加方法(図7では発明法と記載)の場合と、有機酸20を無添加の従来の方法(図7では従来法と記載)を示す。この結果から、嫌気槽4にNOx−Nが存在すれば、ORP値が上昇し易いことがわかる。NOx−Nは、雨水や返送汚泥8から嫌気槽4に流入する。外部から酢酸を添加するとNOx−Nは、脱窒素反応により嫌気槽4で活性汚泥中の脱窒細菌により容易に消費され、この結果、ORP値も−300〜−200mVと低くなることがわかる。
【0064】
また、図8に本発明の有機酸20の添加方法(図8では発明法と記載)の場合と、有機酸20を無添加の従来の方法(図8では従来法と記載)における嫌気槽4のPO−Pと最終沈殿池流出水19のPO−P濃度との関係を示す。この結果から、嫌気槽4のPO−P濃度が10mg/L以上あれば、最終沈殿池流出水19のPO−P濃度は0.5mg/L以下となることがわかる。また、この結果から、嫌気槽4でのPO−P放出濃度の目安は、10mg/L程度と考えられる。
【0065】
以上のように、嫌気槽4のORP値を連続してモニタリングすると、下水1、返送汚泥8及び嫌気槽4のNOx−Nまたは有機酸20を連続測定しなくても、嫌気槽4でのリンの放出状態をリアルタイムに推定することができる。また、嫌気槽4のORP値を制御するための有機酸20の添加は、従来技術では不安定であったリン除去の安定化に極めて効果がある。
【0066】
さらに、嫌気槽4への有機酸20の添加量であるが、嫌気槽4のORP値をORP計13でモニタリングしながら嫌気槽4のORP値が所定の範囲となるように適宜添加することができ、添加流量も適宜決定することができる。しかし、有機酸20の添加量が小さすぎると、有機酸20を添加してから実際にORP値が変化するまでは、タイムラグを生じて所定のORP値の範囲から逸脱することもありうる。このことから、ORP値を所定の制御範囲内に留めることができるように、予め有機酸20の添加量をある程度予測しておくことが望ましい。
【0067】
例えば、有機酸の添加量は、先にも述べたように、リン放出に対する酢酸利用は、モル比で1.3程度とすることが好ましい。したがって、嫌気槽への有機酸添加量は公知となっているこれらの数字を参考することができる。例えば、モル比が1.3の場合、嫌気槽で10mg/LのPO−P放出を促すためには、必要な酢酸量は25mg/Lとなる。
【0068】
しかし、下水1や返送汚泥8により、嫌気槽4に、溶存酸素やNOx−Nが存在し、有機酸20が大きく消費されることが明らかな場合には、以下のような方法を用いることができる。すなわち、最初沈澱池流出水3および返送汚泥8中のNOx−N濃度及びDOを定期的に測定し、嫌気槽4に流入するこれらNOx−N及び溶存酸素の質量から、消費される有機酸20の量を化学式5〜7を用いて計算し、嫌気槽4に添加する有機酸20の添加量を、計算によって算出した値の分だけ、更に増やして添加することが好ましい。
【0069】
以上の方法によっても、嫌気槽4の構造的な問題からORP値を所定の範囲内に維持できない場合は、ORP値をORP計13でモニタリングしながら適宜有機酸20の添加量をさらに増加させてもかまわない。
【0070】
また、最初沈澱池流出水3の有機酸20の濃度が常に低く、嫌気槽4のORP値が高く推移し、有機酸20の外部添加が常時必要な場合には、有機酸20の添加に加えて、嫌気槽4のORP値が−250mV以下になるように、下水1の一部(例えば10%程度)を嫌気槽4に直接流入させてもかまわない。
【0071】
(無酸素槽)
次に、無酸素槽5の運転方法を説明する。
【0072】
無酸素槽5では、好気槽6で生成したNO−N及びNO−Nを含む硝化液15を無酸素槽5に循環ポンプ16を用いて循環し、最初沈澱池流出水3中のBODを用いて硝化液15中のNO−N及びNO−Nを窒素ガスまで還元する。前段に嫌気槽4がある場合、下水1中の一部のBOD成分、例えば有機酸20は、ポリリン酸蓄積細菌による取りこみで減少するので、残留BOD成分を用いて、脱窒反応を行なう。この残留BOD成分の測定は、活性汚泥に吸着されているものもあり、かなり困難である。
【0073】
硝化液15の循環量は、下水1の流入量に対して、通常100〜200V/V%とすることが好ましい。この場合、理論窒素除去率Eは、以下の式1で表される。
【0074】
【数1】

【0075】
式1において、Eは理論窒素除去率(%)であり、Rは硝化液循環比(−)である。
【0076】
しかし、実際には下水1の流入量に対する硝化液15の循環量は200V/V%までは窒素除去率が向上するが、これ以上増加させても窒素除去率を向上させることは難しい。これは、硝化液15の循環量を増やしても、無酸素槽5での有機物/窒素比が低下したり、硝化液15中の溶存酸素の持ち込み量が増え、脱窒阻害が生じやすいためである。
【0077】
図9に本発明の有機酸20の添加方法(図9では発明法と記載)の場合と、有機酸20を無添加の従来の方法(図9では従来法と記載)における無酸素槽5のORP値と無酸素槽5のNOx−N濃度との関係を示す。無酸素槽5の脱窒反応が低下し、NOx−Nが残留するとORP値が上昇する。例えば、ORP値が−150mV以下ではNOx−N濃度は0.5mg/L以下であるが、ORP値が−100mVを越えるとNOx−N濃度は2.0mg/Lをオーバーする。この結果から、無酸素槽5のORP値は、−200mV以上−100mV以下であることが望ましい。また、一定期間、無酸素槽5のORP値の累積頻度を測定し、無酸素槽5のORP値が−200mV以上−100mV以下で、累積頻度の50%以上が−200mV以上−150mV以下の範囲に維持されているとより好ましい。
【0078】
累積頻度の採取頻度は、1分から10分毎にデータを毎日採取し、これをデータ解析し、一定期間あたりのORP値の累積頻度を算出する。流入してくる下水の水質時間変動のパターンがほぼ一定の場合は、1日あたりのORP値の累積頻度で判断すればよい。降雨などの影響で下水1の水質に急激な変動がある場合は、降雨の影響が認められる期間でのORP値の累積頻度で判断すればよい。
【0079】
無酸素槽5でORP値が−100mV超まで上昇する場合、あるいは、無酸素槽5のORP値の累積頻度の50%以上が−200mV以上−150mV以下の範囲に維持されない場合には、無酸素槽5のORP値を指標としてさらに有機物を無酸素槽5に添加してもかまわない。有機物の中でも有機酸20は、反応速度が速く、脱リンにも用いるため、これを無酸素槽5に添加することは望ましい。また、無酸素槽5のORP値を指標として硝化液15の循環量を下げ、無酸素槽5のORP値を低下させてもかまわない。また、硝化反応の阻害が起こらない範囲で、好気槽6のORP値及び/又はDOを低下させ、無酸素槽5のORP値を低下させてもかまわない。
【0080】
一方で、無酸素槽5のORP値が−200mV未満に低下すると、NOx−Nは消失しているものの、下水1中の有機物が過剰に残留していることが推測される。残留した有機物は、後段の好気槽6に流入し、溶存酸素をNH−Nよりも優先的に消費するため、硝化反応への阻害が出やすい。このため、このような場合には、無酸素槽5に設置したORP計13によるモニタリングを行いながら、無酸素槽5を曝気し、過剰に残留する有機物を除去し、ORP値を−200mV以上に維持することが望ましい。
【0081】
(好気槽)
次に好気槽6の運転方法を説明する。
【0082】
好気槽6では、常時、ブロアー10によって曝気を行ない、溶存酸素の存在下で、アンモニア酸化細菌により、NH−NをNO−Nまで酸化する。続いて、亜硝酸酸化細菌により、NO−NをNO−Nまで酸化する。DOのモニタリングはDO計14により行われる。
【0083】
【化4】

【0084】
硝化反応が順調に進行すると、NOx−Nが蓄積し、好気槽6のORP値は、徐々に上昇していく。通常、好気槽6のORP値は、好気槽6出口付近のORP値を基準とし、ORP値によりブロアー10による曝気量を調整する。
【0085】
硝化反応促進の視点からは、通常、好気槽6末端のDOは、1.5〜3.0mg/L、あるいは、好気槽6末端のORP値は+100〜125mV以上が望ましいとされている(非特許文献1、下水のCOD、リン及び窒素の高効率処理の研究、下水道協会誌、1993、Vol.30、No.364、p96−p106)。
【0086】
しかし、今回、発明者らは、省エネルギーの観点から、好気槽6末端のORP値が+70mV以上+100mV以下、また、好気槽6末端のDOが、0.5〜1.5mg/Lに維持されるように曝気量を制御した。この結果、図10に示すように好気槽6末端のORP値が+70mV程度であれば、DOが0.5〜1.5mg/Lと従来の維持管理指針よりもかなり低くても硝化反応は90%以上進行していることを見いだした。すなわち、省エネルギーの視点からは、好気槽6末端のORP値を+70mVから+100mVの範囲にすることが好ましい。
【0087】
また、脱窒素促進の視点から考えると、好気槽6から硝化液15を無酸素槽5へ送水しているが、好気槽6でのDOが高すぎると、無酸素槽5での脱窒反応が阻害を受ける。この視点からも、好気槽6のDOを1.5mg/L以下とすることは極めて望ましい。
【0088】
さらに、好気槽6では、ポリリン酸蓄積細菌によるリンの過剰摂取も行われ、好気槽6でのリンの過剰摂取について、DOとの関連が多く指摘されている。概ね、好気槽6末端のDOが1.5〜3.0mg/Lが望ましいとされている。しかし、発明者らは、好気槽6のORP値が+70mV以上あれば、DOが0.5〜1.5mg/Lでもリンのとりこみに何ら問題は生じないことを見いだした。したがって、リンの取りこみの視点からも、好気槽6のORP値が+70mV以上あれば、DOを0.5〜1.5mg/Lとすることが好ましい。
【0089】
無酸素槽5と好気槽6との単段での組み合わせの場合、上述したように硝化液15の循環量をいくら上げても、原理上、窒素除去率に限界があり、最終沈殿池流出水19中にNOx−Nが残留するおそれがある。窒素濃度が高い下水1の場合、嫌気槽4へのNOx−Nの流入が増加しやすく、リン除去が悪化しやすい。窒素除去率を100%近くに向上させれば、このような問題は生じなくなる。これに対処するためには、好気槽6の後段に新たにORP計13を組み込んだ第2無酸素槽17と第2好気槽18を設置することが好ましい。本発明の処理フロ−の1例を図11に示す。
【0090】
この場合、第2無酸素槽17への流入水には、有機物はほとんど含まれていないので、第2無酸素槽17において効率的に脱窒素を行なうためには外部から有機物、例えば有機酸20を添加する必要がある。有機物無添加でも基本的には脱窒素は可能である(内生脱窒素として公知)が、この場合は、かなりのHRTが必要となる。第2無酸素槽17のORP値は、−200mV以上−150mV以下であることが望ましいが、一定期間、無酸素槽5のORP値の累積頻度を測定し、第2無酸素槽17のORP値が−200mV以上−100mV以下で、累積頻度50%以上が−200mV以上−150mV以下の範囲に維持されていれば大きな影響はない。累積頻度の採取頻度は、1分から10分毎にデータを毎日採取し、これをデータ解析し、一定期間あたりのORP値の累積頻度を算出する。流入してくる下水の水質時間変動のパターンがほぼ一定の場合は、1日あたりのORP値の累積頻度で判断すればよい。降雨などの影響で下水1の水質に急激な変動がある場合は、降雨の影響が認められる期間でのORP値の累積頻度で判断すればよい。
【0091】
第2好気槽18では、有機酸20は水素供与体として添加し、第2無酸素槽17の出口水中に残存した有機物の酸化が主目的である。したがって、第2好気槽18のORP値やDOは、硝化反応を促進させる目的の好気槽6よりも、更に低くてもかまわない。
【0092】
なお、第2好気槽18のORP値は、+50〜+70mVでDOが0.5〜1.0mg/Lでも有機物分解に問題は生じない。
【0093】
本方法では、単段の方法よりも第2好気槽18のORP値やDOをより低めに保てるので省エネルギー化が容易であり、窒素を100%近く除去できる。また、返送汚泥8中にNOx−Nがほとんど存在しないため、嫌気槽4でのリンの吐き出しをより安定化できる。
【0094】
小規模の下水処理場のように、下水1の性状変動や水量変動が大きい場合、処理が不安定になりやすいため、無酸素槽5と好気槽6とを、上述のように連続して2段以上組み合わせて用いることは望ましい。
【0095】
更に、施設に余裕がなく、下水1の性状変動や水量変動によって、脱窒素反応や硝化反応が低下しやすい下水処理場の場合、微生物固定化担体(プラスチックス、セラミックス、スラグ、およびゲル等)を、各反応槽に投入し微生物を高濃度化してもかまわない。微生物を高濃度化することにより、処理速度が上昇し、処理の安定化、高効率処理につながる。各槽への微生物固定化担体投入量は、担体のみかけ容積で反応槽容量あたり、5〜20V/V%程度である。
【0096】
嫌気槽、無酸素槽、または第2無酸素槽に添加される有機酸としては、酢酸および/または酢酸塩が好ましい。
【0097】
ORP計13は、反応槽が押し出し流れ、または、押し出し流れに近い場合、反応が終了している各槽の出口付近に設置することが望ましい。完全混合の場合は、押し出し流れの場合のように特に限定しないが、流入水の影響を避けるため、反応槽の中央部から出口付近に設置することが望ましい。
【0098】
最終沈殿池7は、活性汚泥の沈降分離を行なう。通常、水面積負荷が20〜25m/m・日程度、有効水深3.5〜4.0mで設計されるが、適宜決定することができる。
【実施例】
【0099】
以下、本発明の実施例を説明する。なお、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0100】
(実施例1)
図3に示すように、下水1は、最初沈殿池1、嫌気槽4、無酸素槽5、好気槽6、および最終沈殿池7を用いて処理を行った。硝化液15は、循環ポンプ16により下水1に対して150V/V%の条件で無酸素槽5に返送した。返送汚泥8は、返送汚泥ポンプ9により、下水1に対して50V/V%の条件で嫌気槽4に返送した。各反応槽のMLSS(汚泥濃度)は2500〜3000mg/Lに維持した。また、A−SRT(好気槽6での汚泥滞留時間)は12〜13日で管理した。
【0101】
最初沈殿池流出水3の水質は、BODが平均100mg/L、T−Nが平均30mg/L、T−Pが4mg/L、PO−Pが2.4mg/L程度である。
【0102】
嫌気槽4のORP計13(東亜ディーケーケー株式会社製 モデルHBM−312型)によるモニタリングの結果を指標とし、ORP値が−250mV基準で有機酸20を嫌気槽4に添加し、嫌気槽4のORP値を−400mV以上−200mV以下、累積頻度で−250mV以下が50%を占めるように制御した。
【0103】
また、嫌気槽4への有機酸20の添加濃度は、以下のように決定した。嫌気槽4での目標リン放出濃度を10mg/Lとすると、先にも述べたように、リン放出に対する酢酸利用は、モル比で0.6〜1.3程度であるから、モル比が1.3の場合、嫌気槽4で必要な酢酸濃度は、嫌気槽4容量あたり25mg/Lとなる。嫌気槽4に返送汚泥8が流入するが、返送汚泥8は、NO−Nを4mg/L含有していた。返送汚泥8の量は、下水1の流入量に対して50V/V%であったので、嫌気槽4でのNO−Nの流入濃度は、2mg/Lである。そこで、嫌気槽4におけるNO−Nに伴う酢酸消費量は、5.4mg/Lと推定した。なお、NO−N、およびDOはほぼ0であり、無視できた。
【0104】
この結果と、先の25mg/Lとを合算すると、嫌気槽4で必要な酢酸濃度は、嫌気槽4容量あたり30mg/Lとなる。上記の酢酸をすべて下水1で補おうとすると、返送汚泥8の量を考慮して、下水流量あたりに換算し45mg/L−下水の酢酸が必要である。しかし、下水1中には平均15mg/L−下水(0〜30mg/L)の程度の酢酸しか含まなかったため、下水流量あたりの酢酸添加量は30mg/L−下水とした。
【0105】
好気槽6のORP値を指標とし、+90mVで曝気量を増減させ、ORP値を+80〜+100mVの範囲で推移させた。同時にDO計14(東亜ディーケーケー株式会社製 モデルDDIC−7型)により好気槽6のDOを測定し、ORP値の制御のもとでDOが0.5〜1.0mg/Lの範囲で推移するようにORP値の制御に用いる曝気風量を調整した。硝化液15は、循環ポンプ16により下水1に対して150V/V%無酸素槽5に返送した。また、返送汚泥8は、返送汚泥ポンプ9により、下水1に対して50V/V%、嫌気槽4に返送した。なお、硝化液15の循環量は、両方法ともに150V/V%とした。 (比較例1)
嫌気槽のORP値の制御は行わなかった。
【0106】
好気槽6のORP値の制御は行なわず、DOの管理(DO管理値=2−3mg/L)を行なった。上記以外は、実施例1と同じ装置を用いて、同様の操作を行った。
【0107】
図4に実施例1および比較例1の嫌気槽4のORP値の累積頻度を示す。図4に示すように、実施例1では嫌気槽4のORP値は0mVから−400mVと大きく変動し、累積頻度で−200mV以上が40%を占めた。一方、比較例1では、嫌気槽4のORP値は−200mVから−400mVの範囲に維持されており、累積頻度で−250mV以下が50%を占めた。このように実施例1は、比較例1よりも嫌気槽4のORP値を低い水準に維持することができた。
【0108】
実施例1では、好気槽6において、DOが0.5〜1.0mg/Lであっても、ORP値が+90mVに維持されていれば、硝化反応はほぼ完全に進行しており、かつ、脱窒素反応も比較例1よりも優れていた。また、リンの取りこみについては十分に行われていた。
【0109】
表1に、実施例1および比較例1の平均水質の比較を示す。
【0110】
比較例1では、嫌気槽4でのORP値が高く、リンの吐き出しが安定せず、この結果、処理水19のリン濃度も安定しなかった。一方、発明法では嫌気槽4でのリンの吐き出しが顕著に生じ、好気槽6でのリンの取りこみも問題なく、処理水19のリン濃度も安定した。発明法では処理水19のPO―P濃度も、処理の開発目標値である1mg/L以下となった。
【0111】
【表1】

【0112】
図5に実施例1および比較例1の無酸素槽5のORP値の累積頻度を示す。図5に示すように、比較例1では、無酸素槽5のORP値が0mVから−200mVで推移し、NOx−Nも残留しやすかった。この一方、好気槽6のORP値及びDOを制御する発明法では、無酸素槽5のORP値は−100〜−200mVの範囲に維持されており、1日あたりの累積頻度で−150mV以下が50%を占めた。このように実施例1は、比較例1よりも無酸素槽5のORP値を低い水準に維持することができた。この結果、実施例1では比較例1よりも脱窒素性能が改善された。
【0113】
表2に、平均水質の比較を示す。実施例1では、NH−Nが0.5mg/L程度とやや残留したが、脱窒素性能が2mg/L改善され、結果的には窒素除去性能が1.5mg/L改善された。
【0114】
【表2】

【0115】
図6に嫌気槽のORP値と嫌気槽のNOx−N濃度との関係を示す。図7に嫌気槽のORP値と嫌気槽のPO−P濃度との関係を示す。図8に嫌気槽のPO−P濃度と最終沈殿池流出水のPO−P濃度との関係を示す。図9に無酸素槽のORP値と無酸素槽のNO−N濃度との関係を示す。図10に好気槽のORP値と硝化反応の進行度との関係を示す。図6〜10に関しては、上述したとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明に係る、ORP値の制御を組み込んだ下水からの生物学的リン除去プロセスである。
【図2】本発明に係る、ORP値の制御を組み込んだ下水からの生物学的硝化−窒素除去プロセスである。
【図3】本発明に係る、ORP値の制御を組み込んだ下水からの生物学的リン・窒素除去プロセスである。
【図4】嫌気槽のORP値の累積頻度を示す図である。
【図5】無酸素槽のORP値の累積頻度を示す図である。
【図6】嫌気槽のORP値と嫌気槽のNOx−N濃度との関係を示す図である。
【図7】嫌気槽のORP値と嫌気槽のPO−P濃度との関係を示す図である。
【図8】嫌気槽のPO−P濃度の最終沈殿池流出水のPO−P濃度との関係を示す図である。
【図9】無酸素槽のORP値と無酸素槽のNO−N濃度との関係を示す図である。
【図10】好気槽のORP値と硝化反応の進行度との関係を示す図である。
【図11】本発明に係る、ORP値の制御を組み込んだ下水からの生物学的リン・窒素除去プロセスである。
【符号の説明】
【0117】
1 下水、
2 最初沈殿池、
3 最初沈殿池流出水、
4 嫌気槽、
5 無酸素槽、
6 好気槽、
7 最終沈殿池、
8 返送汚泥、
9 返送汚泥ポンプ、
10 ブロアー、
11 有機酸タンク、
12 薬注ポンプ、
13 ORP計、
14 DO計、
15 硝化液、
16 循環ポンプ、
17 第2無酸素槽、
18 第2好気槽、
19 最終沈殿池流出水、
20 有機酸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最初沈殿池、嫌気槽、好気槽及び最終沈殿池の各下水処理槽、又は最初沈殿池、嫌気槽、無酸素槽、好気槽及び最終沈殿池の各下水処理槽を用いた生物学的な下水処理方法において、
前記嫌気槽のORP値が−400mV以上−200mV以下の範囲に維持されるように、有機酸を前記嫌気槽に添加することを特徴とする下水処理方法。
【請求項2】
前記嫌気槽のORP値の累積頻度の50%以上が−350mV以上−250mV以下の範囲に維持されるように、前記有機酸を前記嫌気槽に添加することを特徴とする請求項1に記載の下水処理方法。
【請求項3】
最初沈殿池、無酸素槽、好気槽及び最終沈殿池の各下水処理槽、又は最初沈殿池、嫌気槽、無酸素槽、好気槽及び最終沈殿池の各下水処理槽を用いた生物学的な下水処理方法において、
前記無酸素槽のORP値が−200mV以上−100mV以下の範囲に維持されるように、
有機酸を前記無酸素槽に添加すること、前記好気槽から前記無酸素槽への硝化液の循環量を調整すること、前記好気槽のORP値を調整すること、および前記好気槽のDOを調整すること、からなる群より選択される少なくとも1種を行なうことを特徴とする下水処理方法。
【請求項4】
前記無酸素槽のORP値の累積頻度の50%以上が−200mV以上−150mV以下の範囲に維持されるように、
前記有機酸を前記無酸素槽に添加すること、前記好気槽から前記無酸素槽への硝化液の循環量を調整すること、前記好気槽のORP値を調整すること、および前記好気槽のDOを調整すること、からなる群より選択される少なくとも1種を行なうことを特徴とする請求項3に記載の下水処理方法。
【請求項5】
前記嫌気槽のPO−P濃度が10mg/Lとなるように前記有機酸の前記嫌気槽への添加量を調整し、
さらに、前記嫌気槽に流入する下水中および返送汚泥中のNOx−N濃度及びDOによって単位時間当たりに消費される有機酸量を計算し、前記嫌気槽に添加する前記有機酸の量を増やすことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の下水処理方法。
【請求項6】
前記好気槽のORP値が+70mV以上+100mV以下となるように、前記好気槽のブロアーによる曝気量を調整することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の下水処理方法。
【請求項7】
前記好気槽のDOが0.5mg/L以上1.5mg/L以下となるように前記好気槽のブロアーによる曝気量を調整することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の下水処理方法。
【請求項8】
前記好気槽の後段に更に第2無酸素槽及び第2好気槽を順に有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の下水処理方法。
【請求項9】
前記嫌気槽、前記無酸素槽、前記好気槽の1槽又は2槽以上に微生物固定化担体を投入することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の下水処理方法。
【請求項10】
嫌気槽、無酸素槽の少なくともいずれかに添加する有機酸が、酢酸および/または酢酸塩であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の下水処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図11】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−136820(P2006−136820A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−329223(P2004−329223)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000230571)日本下水道事業団 (46)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】