説明

下水汚泥の活用方法

【課題】下水脱水汚泥を高温高圧条件下で分解処理でき、この水熱ガス化操作に必要な電力のみならず下水処理場で必要とされる電力の大半を賄うことができ、外部からのエネルギー購入費用を大幅に削減できる下水処理場における汚泥の活用方法を提供する。
【解決手段】下水脱水汚泥21を水熱装置5で低酸素雰囲気中の水熱ガス化操作によりガス化し、発生した水熱ガス23に燃料ガス25を混合してエネルギー密度が4000kcal/Nm以上の混合ガス26とする。これをガスエンジン10に供給して下水処理場で使用される電力を発電するとともに、このガスエンジン10の高温の排熱を水熱ガス化操作の熱源として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理場で発生する下水脱水汚泥をエネルギー源として利用する下水汚泥の活用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー・資源の枯渇と地球温暖化への対策として、石油等の化石燃料によるエネルギーからバイオマスエネルギーへの転換の努力がなされている。下水処理分野においても、下水脱水汚泥が有機分を多く含むバイオマスであることに着目し、これを可燃性ガスとして有効利用することが提案されている(特許文献1)。ところが特許文献1に示される方法は、処理規模の大きな下水処理場には有効な技術であるが、100トン/日以下の比較的小規模な下水処理場においてはコストメリットが出にくいという問題があった。
【0003】
そこで本発明者等は先に、下水脱水汚泥を水熱ガス化操作によりガス化する技術を開発し、特許文献2として特許出願済みである。この技術は設備・機器がコンパクトであるため、100トン/日以下の比較的小規模な下水処理場でコストメリットが出しやすいという優れたものである。ところが、水熱ガス化操作は5〜30MPaで400〜800℃という高温高圧の亜臨界条件下で行うので、反応場を形成するために多量のエネルギーを要する。
【0004】
そこで汚泥の可燃分の一部を燃焼させて発熱させ、反応場を維持するエネルギーとしているが、このためには汚泥中の可燃分の70%程度を燃焼させる必要があり、残りの30%の可燃分しかガス化させることができない。この結果、発生する水熱ガスのエネルギー密度は先願発明では例えば1400kcal/Nm程度と低くなり、ガスエンジン等で発電させたとしても発電量は水熱ガス化操作に必要な電力の60〜70%程度であり、下水処理場全体から見ればその寄与は僅かなものであった。また、発生する水熱ガスのエネルギー密度の変動も大きく、発電用の燃料としてはあまり適切なものではなかった。
【特許文献1】特開2004−210904号公報
【特許文献2】特開2005−272644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、設備・機器がコンパクトであるため比較的小規模な下水処理場でコストメリットが出しやすいという水熱ガス化操作の特長を活かしつつ、下水処理場全体にとっても曝気用動力や脱水機動力などの下水処理場で必要とされる電力の大半を賄うことができ、外部からのエネルギー購入費用を大幅に削減することを可能とした下水汚泥の活用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、下水処理場において、含水率90%以下の下水脱水汚泥を低酸素雰囲気中の水熱ガス化操作によりガス化し、発生した水熱ガスに市販の燃料ガスを混合してエネルギー密度が4000kcal/Nm以上の混合ガスとし、この混合ガスを燃料としてガスエンジン等の発電装置に供給し、発電装置の排熱を前記水熱ガス化操作の熱源として使用することを特徴とするものである。
【0007】
なお、水熱ガス化操作が5〜30MPaで150℃以上の前処理と、5〜30MPaで400〜800℃のガス化処理との組み合わせとすることが好ましく、水熱ガス化操作を、空気量が下水脱水汚泥を完全酸化するに要する理論空気量の1/2以下の低酸素雰囲気中で行うことが好ましい。また、発電装置で発生させる電力を下水処理場で使用する電力に充当すること、発電装置が、ガスエンジンまたはマイクロガスタービンであることが好ましく、発生した水熱ガスを過給器に導き、空気を圧縮して下水処理における曝気用空気を得ることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の下水処理場における汚泥の活用方法によれば、下水脱水汚泥を水熱ガス化操作することにより発生した水熱ガスに市販の燃料ガスを混合し、エネルギー密度が4000kcal/Nm以上の混合ガスとする。このためこの高エネルギーの混合ガスをガスエンジンに供給すれば、下水処理場で使用される電力のほとんどを発電することができる。またそのガスエンジンの排熱も先願発明よりも高温となるので、水熱ガス化操作のための熱源として利用することができる。この結果、汚泥中の可燃分のごく一部を燃焼させるだけでよくなり、水熱ガスのエネルギー密度も先願発明の2倍以上に高めることができる。更に、市販の燃料ガスを混合することで混合ガスの品質が安定するため、発電装置用の燃料としてより適切なものとすることができる。
【0009】
本発明が通常のコジェネと異なる点は、水熱ガスの発生が比較的低温の吸熱反応であることを活かして、コジェネの熱供給先をコジェネの燃料ガス製造とした点であり、これによって水熱ガスの品質がアップすることに加え、熱の供給先の確保に苦労するというコジェネの弱点を克服している。また、市販の燃料ガスと水熱ガスを混合して使用するため、下水処理場全体の大半の電力を賄うことができるほか、混合ガスの品質が安定するという利点がある。
【0010】
従って、先願発明と比較して外部から購入する燃料ガス量は増加するものの、外部から購入する電力は大幅に削減され、全体的に見ればエネルギー効率が高まり、下水処理場のランニングコストを低減することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態を示す。
図1は本発明の実施形態を示すブロック図であり、最初沈殿池1と曝気槽2と最終沈殿池3とを備えた一般的な下水処理場が示されている。原水は最初沈殿池1において夾雑物や粗大なSSを沈降分離され、曝気槽2で活性汚泥処理され、最終沈殿池3で汚泥と上澄水とに分離される。沈降した下水汚泥は脱水機4で脱水されて脱水下水汚泥21となり、水熱装置5に送られる。
【0012】
水熱装置5は予熱器6と水熱反応器7とからなる。予熱器6は5〜30MPaの高圧力と150℃以上の温度条件で脱水下水汚泥21を予熱前処理して可溶化させ、水熱反応器7は5〜30MPaの同一圧力と更に高温の400〜800℃の亜臨界条件で脱水下水汚泥21のガス化処理を行う。なお水熱反応器7には下水脱水汚泥21を完全酸化するに要する理論空気量の1/2以下の酸素22が供給され、有機分の一部を酸化発熱させ、高温場の形成に利用する。これらの水熱装置5を通過する間に、脱水下水汚泥21の有機分は低酸素雰囲気中で水熱反応によりガス化される。この水熱装置5における反応の詳細については、前記した本出願人の先願特許や特許文献2に説明されている。
【0013】
発生した水熱ガス23は気液分離器8により水分を除去され、過給器9に入る。この水熱ガス23も5〜30MPaの高圧力ガスであるから、過給器9のタービン駆動に利用して圧力を低下させるとともに、空気24を圧縮して曝気用空気とする。
【0014】
前記したように、発生した水熱ガス23は単独ではエネルギー密度が低く、本発明では後述の理由で先願発明よりも高くなるものの、3000kcal/Nm以下である。そこで本発明では、発生した水熱ガス23に燃料ガス25たとえばエネルギー密度11000kcal/Nmの都市ガスを混合して、エネルギー密度が4000kcal/Nm以上の混合ガス26とする。そしてこのエネルギー密度が高められた混合ガス26をガスエンジン10に供給し、発電機11を駆動して発電する。なお、混合ガス26のエネルギー密度が4000kcal/Nm未満であるとガスエンジン10の出力及び排ガス温度が低下するので、本発明の効果を十分に発揮できなくなる。これにより本発明では先願発明に比較して発電量を飛躍的に増加させることができ、下水処理場全体で使用される電力の大半、例えば90%以上を発電することが可能となる。
【0015】
しかも本発明では混合ガス26のエネルギー密度を高めたことにより、このガスエンジン10の排熱温度が上昇し、水熱ガス化操作の熱源として使用することが可能となる。従って、水熱装置5において高温場を維持するための下水脱水汚泥21の酸化発熱量を減少させることができ、先願発明では下水脱水汚泥21の可燃分の70%程度を燃焼させる必要があったのに対し、本発明では50%未満、例えば30%程度の可燃分を燃焼させるだけでよい。その結果、本発明では発生する水熱ガスのエネルギー密度も先願発明における1400kcal/Nmから3000kcal/Nmにまで増加し、燃料ガス25の添加量も少量でよいこととなる。
【0016】
上記したように、先願発明では水熱ガス23のエネルギー密度が低いためにガスエンジンの出力も排熱温度も低く、エネルギーの利用効率が悪かったのに対し、本発明では燃料ガス25を添加することにより水熱ガス23のエネルギー密度を高め、ガスエンジンの出力及び排熱温度を高め、エネルギーの利用効率を改善したものである。もちろん燃料ガス25の購入費用は増加するが、発電量が増加して電力購入費用が削減されるとともに、先願発明では利用できなかった排熱の有効利用が可能となることから、全体的なエネルギー効率が高まり、下水処理場のランニングコストを低減することができる。
【実施例】
【0017】
流入水量が80トン/日の下水処理場に本発明を適用した場合、物質収支は次のようになる。まず下水脱水汚泥の発生量は50トン/日となり、これを水熱装置により10MPa、600℃、空気比0.3の低酸素雰囲気中で熱操作すると、10MPaの水熱ガスが発生するので、過給機により空気を圧縮し、曝気用空気の一部を得る。過給機による曝気動力の削減率は4%である。発生した水熱ガスのエネルギー密度は3000kcal/Nmで、発生量は14800Nm/hである。
【0018】
この水熱ガスにエネルギー密度11000kcal/Nmの燃料ガスを4300Nm/hの割合で混合し、ガスエンジンに供給した。なお、水熱ガスからの供給熱量は44.4Gcal/日であり、燃料ガスからの供給熱量は47.3Gcal/日である。これにより1500kWの電力を発電することができ、曝気用動力を含み下水処理場で必要とされる所内電力1070kWと、水熱装置に必要とされる電力220kWを完全にカバーすることができる。このため電力購入は不要となる。またガスエンジンからは温度が500℃で38Gcal/日の排熱が生ずるため、水熱装置の加熱に利用した。
【0019】
なお、上記と同一規模の下水処理場に先願発明を適用した場合には、燃料ガスを購入する必要はないが、1100kWの電力を購入する必要があり、本発明はトータルでランニングコストを約30%削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0021】
1 最初沈殿池
2 曝気槽
3 最終沈殿池
4 脱水機
5 水熱装置
6 予熱器
7 水熱反応器
8 気液分離器
9 過給器
10 ガスエンジン
11 発電機
21 下水脱水汚泥
22 酸素
23 水熱ガス
24 空気
25 燃料ガス
26 混合ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水処理場において、含水率90%以下の下水脱水汚泥を低酸素雰囲気中の水熱ガス化操作によりガス化し、発生した水熱ガスに市販の燃料ガスを混合してエネルギー密度が4000kcal/Nm以上の混合ガスとし、この混合ガスを燃料として発電装置に供給し、発電装置の排熱を前記水熱ガス化操作の熱源として使用することを特徴とする下水汚泥の活用方法。
【請求項2】
水熱ガス化操作が、5〜30MPaで150℃以上の前処理と、5〜30MPaで400〜800℃のガス化処理との組み合わせであることを特徴とする請求項1記載の下水汚泥の活用方法。
【請求項3】
水熱ガス化操作を、空気量が下水脱水汚泥を完全酸化するに要する理論空気量の1/2以下の低酸素雰囲気中で行うことを特徴とする請求項1記載の下水汚泥の活用方法。
【請求項4】
発電装置で発生させる電力を下水処理場で使用する電力に充当することを特徴とする請求項1記載の下水汚泥の活用方法。
【請求項5】
発電装置が、ガスエンジンまたはマイクロガスタービンであることを特徴とする請求項1記載の下水汚泥の活用方法。
【請求項6】
発生した水熱ガスを過給器に導き、空気を圧縮して下水処理における曝気用空気を得ることを特徴とする請求項1記載の下水汚泥の活用方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−160133(P2007−160133A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−355818(P2005−355818)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】