説明

下水道の不明水検出方法及び装置

【課題】
無線式ICタグを活用し、流速または水位を計測し、低コストかつ検出手段の劣化の少ない不明水の検出システムを提供することにある。
【解決手段】
下水道管路1の内壁に設置した複数の無線式ICタグ2と、無線式ICタグ2の設置位置及び設置間隔のデータを保存するICタグデータベースと、下水道管路1内を流下する無線式ICタグリーダ3と、無線式ICタグリーダ3に無線式ICタグ2との通信時刻、又は無線式ICタグ2の通信時に第1の無線式ICタグ2との通信からの経過時間を記録できる記憶部を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水道管路に流入する不明水を検出するために、下水道管路内の流速や水位の情報から流量を推定する下水道の不明水検出方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道管路施設では、下水以外の雨水や地下水が流入することがあり、この流入水が不明水と呼ばれている。不明水を処理する費用は、回収できないため、下水の処理コストが増加することになる。また、不明水の流量が増加する分、処理不良や処理能力不足になる恐れもあった。
【0003】
これまでにも不明水を検出するための方法が提案されているが、検出するためには下水の流量を計測し、下水の収支を把握することが必要となる。下水道管路内の流量を計測する手段として、例えば〔特許文献1〕に記載のものがある。
【0004】
又、下水道管路に無線式ICタグを設置した例として、例えば〔特許文献2〕に記載のものがある。
【0005】
【特許文献1】特開平8−193858号公報
【特許文献2】特開2006−105820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
下水道管路内の流量を計測する手段の一例として〔特許文献1〕に記載のような電磁流量計があるが、流量計は管路の一部に流量計測のために付加されているもので、流量計を設置するための管路改修などの工事が必要であり、管路は容易に着脱できないので、設置コストが高くなる恐れがあった。また、検出部に電力を供給するための電気工事が必要となり、設置コストが増加する恐れもある。また、流量計は、常時下水にさらされるため、検出部が劣化する恐れがある。
【0007】
無線式ICタグは設置コストを削減できるが、〔特許文献2〕に記載のような無線式
ICタグの活用方法では管路内の流量,流速,水位などを計測できないという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、無線式ICタグを活用し流速または水位を計測し、低コストかつ検出手段の劣化の少ない下水道の不明水検出方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、下水道管路の内壁に設置した複数の無線式ICタグと、前記無線式ICタグの設置位置及び設置間隔のデータを保存するICタグデータベースと、前記下水道管路内を流下する無線式ICタグリーダと、前記無線式ICタグリーダに前記無線式ICタグとの通信時刻、または第1の無線式ICタグとの通信からの経過時間を記録できる記憶部を備え、流速を検出するものである。
【0010】
また、下水道管路の内壁の半径50cm以内に設置した等しい通信周波数帯で通信距離が異なる複数の無線式ICタグと、前記下水道管路内を流下する無線式ICタグリーダに前記無線式ICタグとの通信情報を保存する記憶部を備え、水位を検出するものである。
【0011】
また、下水道管路の内壁に無線式ICタグを設置し、前記下水道管路内を自然流下する無線式ICタグリーダに少なくとも2つ以上の通信距離の異なるアンテナを備え、水位を検出するものである。
【0012】
また、下水道管路の内壁の円周状に複数設置した防水加工を施した無線式ICタグと、前記下水道管路内を流下する無線式ICタグリーダと、前記無線式ICタグの設置位置データを保存したデータベースを備え、水位を検出するものである。
【0013】
なお、上記のいずれか一つの無線式ICタグリーダにおいて、防水加工を施し、無線式ICタグとの通信用のアンテナを上面に設置し、水に浮かせた場合に前記アンテナが水面よりも上になるように浮力を調整するものである。
【0014】
上記のいずれか一つの無線式ICタグリーダにおいて、無線式ICタグと通信したときに、下水を採水する機能または下水のpH,濁度,色度,水温,有機物濃度の内少なくとも一つ以上を計測するものである。
【0015】
又、上記のいずれか一つの無線式ICタグリーダに、距離を計測するための距離計測手段を具備し、前記無線式ICタグリーダが前記無線式ICタグと通信したときに、前記距離計測手段が前記下水道管路の内壁と前記無線式ICタグリーダとの距離を計測するものである。
【0016】
下水道管路の内壁に設置した複数の無線式ICタグライタと、前記無線式ICタグライタの設置位置及び設置間隔のデータを保存するICタグライタデータベースと、前記下水道管路内を浮上し、流下する無線式ICタグと、前記無線式ICタグに前記無線式ICタグライタとの通信時刻を記録できる記憶部を備え、流速を検出するものである。
【0017】
下水道管路の内壁に設置した複数の無線式ICタグリーダと、前記無線式ICタグリーダの設置位置及び設置間隔のデータを保存するICタグリーダデータベースと、前記下水道管路内を浮上し、流下する無線式ICタグと、前記無線式ICタグリーダに前記無線式ICタグとの通信時刻を記録できる記憶部を備え、流速を検出するものである。また、無線式ICタグリーダの通信情報を通信するための通信手段を設けたものである。
【0018】
上記の少なくとも1つの不明水検出システムにおいて、下水道管路の流域の降雨量のデータベースを備え、降雨量と流速または水位の関係を把握できるようにしたものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、無線式ICタグや無線式ICタグリーダを流下させることで、流速や水位を計測でき、不明水の有無を判定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の実施例1から実施例8を図面により用いて説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は、本実施例における不明水の検出システムを示す図である。地中に埋設された塩ビ管やヒューム管などからなる下水道管路1内には下水が流れている。一般に、下水道管路1内の流量が増加すると流速が増加する。このため、不明水が流入し流量が増加すると、流速が増加することになる。
【0022】
下水道管路1の内壁には、無線式ICタグ2が設置されている。無線式ICタグ2は、少なくともICチップなどを含んだ回路部とアンテナ部で構成されている。無線式ICタグ2の表面には防水加工が施され、下水道管路1内で劣化しにくい構造となっている。無線式ICタグ2は、下水道管路1の内壁上部に距離を隔てて複数設置されている。なお、無線式ICタグ2の下水道管路1への設置を、マンホール(図示せず)から下水道管路1内に入って行うことで、既設の下水道管路1へも容易に設置できる。
【0023】
無線式ICタグリーダ3は、少なくとも無線式ICタグ2と通信するためのアンテナと、CPUやメモリーを含む回路部と、電源部から構成されている。無線式ICタグリーダ3は、防水加工が施され、下水に浮遊する。喫水線よりも上部にアンテナ部が設置されており、無線式ICタグ2と通信できるようになっている。
【0024】
浮力を調整するために、プラスチック等からできている浮力調整部(図示せず)が設けられている。また、重量の重い電源部を下部に配置することで、転覆した場合でも容易にアンテナ部が上部になるように復帰できる構造となっている。無線式ICタグリーダ3は、下水の流れに従い流下し、流下するに従い、上流側の無線式ICタグ2−1から下流側の無線式ICタグ2−2,無線式ICタグ2−3と順次通信する。
【0025】
無線式ICタグリーダ3は、無線式ICタグ2と通信を行うことにより、予め無線式
ICタグ2に書き込まれたタグを特定するための情報と、通信した時刻または無線式ICタグ2−2,2−3を通過時に無線式ICタグ2−1と通信してからの経過時間を無線式ICタグリーダ3に蓄積する。なお、蓄積されたデータは電源部の電力を消費した後も保存できる不揮発性メモリーに記憶されている。
【0026】
無線式ICタグリーダ3は、図示していないが、下水道管路1の下流に設けられているポンプ場や下水処理場で回収される。また、下水道管路1に回収機構を設けて回収しても良い。無線式ICタグリーダ3は、回収後に蓄積されたデータがコンピュータなどで構成されるデータ解析手段(図示せず)に取り込まれる。
【0027】
データ解析手段は、無線式ICタグ2−1〜無線式ICタグ2−3の設置位置や設置間隔、さらには設置した下水道管路1などのデータを保存するICタグデータベース(図示せず)から情報を入手できる。
【0028】
以下に、データ解析手段による不明水検出方法について説明する。データ解析手段は、無線式ICタグリーダ3に蓄積されたデータから無線式ICタグを特定し、その無線式
ICタグを通過した時刻を入手する。
【0029】
一例として、無線式ICタグ2−1の通過時刻が9時10分、無線式ICタグ2−2の通過時刻が9時20分、無線式ICタグ2−3の通過時刻が9時40分とする。
【0030】
データ解析手段は、ICタグデータベースから無線式ICタグ2−1と無線式ICタグ2−2、並びに無線式ICタグ2−2と無線式ICタグ2−3との設置距離のデータを入手する。一例として、前者を100m、後者を300mとする。
【0031】
これらの情報を元に、データ解析手段は、無線式ICタグ2−1と無線式ICタグ2−2の間の流速を10m/min 、無線式ICタグ2−2と無線式ICタグ2−3の間の流速を15m/min と算出する。今回の流速の算出には通過時刻を用いたが、無線式ICタグ2−1の通過からの経過時間のデータを用いてもよい。
【0032】
次に、データ解析手段は、不明水の有無の判定を行う。データ解析手段は、流速の計測結果を蓄積し、流速が平均値に対し約1.5 倍増加したときに、その区間に不明水の流入があると判定する。なお、無線式ICタグ2は固定されており、距離の変化はないため、無線式ICタグ2を通過する時刻の差である時間が流速に比例する。このため、この通過時間データを蓄積し、時間が約2/3に短縮されたときに、不明水の流入があったと判定しても良い。
【0033】
また、データ解析手段は、下水道管路1の流域の降雨量のデータベースから、降雨量のデータを入力し、降雨データと流速の関係から不明水の有無を判定する。
【0034】
判定方法の一例を以下に説明する。データ解析手段は、降雨のデータを入力すると、図8に示すように、降雨量と流速の関係をプロットする。その結果が、図8に示すように、降雨量に対して流速が増加する傾向がある場合に、例えば直線近似し、近似した直線の傾きと基準値を比較する。基準値は2が適切であり、基準値と超えた場合、その区間に不明水の流入があると判定する。
【0035】
なお、下水道管路1に新たな管路が増設された結果、流速が増加した場合には不明水と判定しないようにする。
【0036】
また、無線式ICタグ2は、無線式ICタグリーダ3のアンテナから出力された電波や磁界を受けて交流することでデータを返送することできる。このため、電源が不要となり設置時に電源工事が不要となり工事費用を削減できる。
【0037】
本実施例によれば、安価で電源の不要な無線式ICタグを下水道管路に設置することで、流速を計測でき、低コストに不明水を検出できる。また、不明水検出のための流速の計測は常時行う必要がないため、無線式ICタグリーダ3を回収後、下水道管路1内でなく、別の場所に保管できる。本実施例では流速検出の必要に応じて、無線式ICタグリーダ3を下水道管路1内に投入すれば良く検出手段の劣化を抑制できる。
【実施例2】
【0038】
図2は本発明の実施例2を示す図である。下水道管路1の内壁には無線式ICタグ4が設置されている。無線式ICタグ4は、少なくともICチップなどを含んだ回路部とアンテナ部で構成されている。無線式ICタグ4の表面には防水加工が施され、防水加工の塗装の厚みによって、アンテナ部の通信距離が変化させてある。無線式ICタグ4−1が最も通信距離が長く、無線式ICタグ4−2,無線式ICタグ4−3の順で通信距離が短くなる。
【0039】
無線式ICタグリーダ3は、実施例1と同様に構成されているが、本実施例の無線式
ICタグリーダ3は、無線式ICタグ4との通信時刻や経過時間を保存する記憶部がなくてもよい。無線式ICタグリーダ3は、図示していないが、実施例1と同様に下水道管路1の下流で回収され、データがコンピュータなどで構成されるデータ解析手段(図示せず)に取り込まれる。データ解析手段は、無線式ICタグ4−1〜4−3の設置位置や通信できる距離情報を入手でき、さらには設置した下水道管路1の直径などのデータを保存するICタグデータベース(図示せず)から情報を入手できる。
【0040】
本実施例のデータ解析手段による不明水検出方法について説明する。
【0041】
データ解析手段は、無線式ICタグリーダ3に蓄積されたデータから通信データのある無線式ICタグ4を抽出し、その無線式ICタグ4の通信距離の情報を入手する。
【0042】
データ解析手段は、ICタグデータベースから無線式ICタグ4の設置位置から底面までの距離の情報を入手する。無線式ICタグ4を上部に設置してある場合は下水道管路1の直径でも良い。
【0043】
これらの情報を元に、データ解析手段は、下水道管路1の水位を算出する。以下に水位の算出方法を述べる。データ解析手段は、無線式ICタグ4−1〜4−3全てとの通信データがない場合は、水位を図2中のDの範囲と設定する。無線式ICタグ4−1との通信データだけがある場合は、水位をCの範囲、無線式ICタグ4−1,4−2の通信データがある場合は、水位をBの範囲、無線機ICタグ4−1〜4−3全てとの通信データがある場合は、水位をAの範囲と判定する。
【0044】
データ解析手段は、上述したようにしてA〜Dの水位の範囲を求める。無線式ICタグ4の設置位置から底面までの距離をEとし、無線式ICタグ4−1の通信距離をl1、無線式ICタグ4−2の通信距離をl2、無線式ICタグ4−3の通信距離をl3とする。Dの範囲の水位は0から(E−l1)の間、Cの範囲の水位は(E−l1)から(E−
l2)の間、Bの範囲の水位は(E−l2)から(E−l3)の間、Aの範囲の水位は
(E−l3)からEの間となる。
【0045】
次に、データ解析手段は、不明水の有無の判定を行う。データ解析手段は、水位の計測結果を蓄積し、水位が平均値に対し、少なくとも2段階以上増加したときに、無線式ICタグ4の上流側に不明水の流入があると判定する。なお、無線式ICタグ2は固定されており、設置位置から底面までの距離は変化しないため、無線式ICタグ4の通信個数が増加した場合に、不明水の流入があると判定しても良い。
【0046】
また、データ解析手段は、下水道管路1の流域の降雨量のデータベースから、降雨量のデータを入力して、降雨データと流速の関係から不明水の有無を判定する。
【0047】
判定方法の一例を以下に示す。データ解析手段は、降雨のデータを入力すると、図8に示すように降雨量と流速の関係をプロットする。その結果が、図8に示すように降雨量に対して流速が増加する傾向がある場合に、例えば直線近似して、近似した直線の傾きと基準値を比較する。基準値は2が適切であり、基準値と超えた場合、無線式ICタグを設置した上流に不明水の流入があると判定する。
【0048】
なお、下水道管路1に新たな管路が増設された結果として水位が増加した場合には不明水と判定しないようにしている。
【0049】
また、本実施例による水位範囲の検出と、実施例1による流速の算出の両方を行うことで、下水道管路1の下水量を算出でき、直接不明水量を推定できる。
【0050】
本発明によれば、安価で電源の不要な無線式ICタグを下水道管路に設置することで、水位を計測でき、低コストに不明水を検出できる。また、不明水検出のための水位の計測は常時行う必要がないため、無線式ICタグリーダ3を回収後、下水道管路1内でない場所に保管できる。本実施例では、水位検出の必要に応じて、無線式ICタグリーダ3を下水道管路1内に投入すれば良く検出手段の劣化を抑制できる。
【実施例3】
【0051】
図3は本発明の実施例3を示す図である。本実施例では、実施例2とは水位の計測方法が異なる。下水道管路1の内壁には無線式ICタグ2が設置されている。無線式ICタグ2の構成は実施例1と同様である。
【0052】
無線式ICタグリーダ33は、実施例2の無線式ICタグリーダ3と同様の構成であるが、通信距離の異なる通信用アンテナ5が複数設置されており、通信用アンテナ毎に無線式ICタグ2との通信記録を保存する。本実施例では通信用アンテナ5−1〜5−3の3種類ある場合を例に説明する。
【0053】
無線式ICタグリーダ33は、図示していないが、実施例2と同様に下水道管路1の下流で回収され、データがコンピュータなどで構成されるデータ解析手段(図示せず)に取り込まれる。データ解析手段は、通信用アンテナ5−1〜5−3の通信できる距離、さらには設置した下水道管路1の直径などのデータを保存するICタグデータベース(図示せず)から情報を入手できる。
【0054】
本実施例のデータ解析手段による水位の算出方法を述べる。データ解析手段は、無線式ICタグリーダ33に蓄積されたデータから、通信データのある通信用アンテナ5を抽出し、その通信用アンテナ5の通信距離の情報を入手する。なお、通信用アンテナ5の通信距離は、無線式ICタグリーダ33の喫水線からの距離とするとよい。通信用アンテナ5−1の通信距離をγ、通信用アンテナ5−2の通信距離をβ、通信用アンテナ5−3の通信距離をαとする。
【0055】
データ解析手段は、ICタグデータベースから無線式ICタグ2の設置位置から底面までの距離の情報を入手する。無線式ICタグ2を上部に設置してある場合は下水道管路1の直径でも良い。本実施例では無線式ICタグ2の設置位置から底面までの距離をEとする。
【0056】
データ解析手段は、通信用アンテナ5−1〜5−3全ての通信データがない場合の水位は0から(E−α)の間、通信用アンテナ5−1の通信データだけがある場合の水位は、(E−α)から(E−β)の間、通信用アンテナ5−1,5−2の通信データがある場合の水位は、(E−β)から(E−γ)の間、通信用アンテナ5−1〜5−3全ての通信データがある場合の水位は、(E−α)からEの間と判定する。データ解析手段による不明水の有無の判定方法は実施例2と同様である。
【0057】
本実施例によれば、安価で電源の不要な無線式ICタグを下水道管路に設置することで、水位を計測でき、低コストに不明水を検出できる。また、不明水検出のための水位の計測は常時行う必要がないため、無線式ICタグリーダ33を回収後、下水道管路1内でない場所に保管できる。本発明では水位検出の必要に応じて、無線式ICタグリーダ33を下水道管路1内に投入すれば良く検出手段の劣化を抑制できる。
【実施例4】
【0058】
図4は本発明の実施例4を示す図である。本実施例では、実施例2,実施例3とは水位の計測方法が異なる。下水道管路1の内壁の円周状に無線式ICタグ6が複数設置されている。無線式ICタグ6の構成は実施例1と同様である。無線式ICタグリーダ3は、実施例2と同じ構成で、水位がほぼ0の状態では無線式ICタグ6−1〜6−4の全てと通信でき、そのデータを保存できる。無線式ICタグリーダ3のアンテナ部が上部にあり、水位が上がり、無線式ICタグ6が水没すると、無線式ICタグリーダ3より下方に位置するようになった無線式ICタグ6とは通信ができなくなる。例えば、図4の水位では無線式ICタグ6−4とは通信できない状態にある。
【0059】
無線式ICタグリーダ3は、図示していないが、実施例1と同様に下水道管路1の下流で回収され、データがコンピュータなどで構成されるデータ解析手段(図示せず)に取り込まれる。データ解析手段は、無線式ICタグ6−1〜無線式ICタグ6−4の設置位置や下水道管路1の底部からの高さなどのデータを保存するICタグデータベース(図示せず)から情報を入手できる。
【0060】
以下に、本実施例のデータ解析手段による水位の算出方法を述べる。データ解析手段は、無線式ICタグリーダ3に蓄積されたデータから通信データのある無線式ICタグ6を抽出する。
【0061】
データ解析手段は、ICタグデータベースから無線式ICタグ6の設置位置から底面までの距離の情報を入手する。無線式ICタグ6−1は頂部に設置してあるため、下水道管路1の直径に相当する。無線式ICタグ6−2の底部からの距離はa、無線式ICタグ6−3はb、無線式ICタグ6−4はcとする。
【0062】
データ解析手段は、無線式ICタグ6−1〜6−4全ての通信データがある場合の水位は0からcの間、無線式ICタグ6−1から6−3の通信データがある場合の水位は、cからbの間、無線式ICタグ6−1から6−2の通信データがある場合の水位はbからaの間、無線式ICタグ6−1の通信データだけがある場合は、aから満水の間、全ての通信データがない場合は満水と判定する。データ解析手段による不明水の有無の判定方法は実施例2,実施例3と同様である。
【0063】
本実施例によれば、安価で電源の不要な無線式ICタグを下水道管路に設置することで、水位を計測でき、低コストに不明水を検出できる。さらに、水位検出の必要に応じて、無線式ICタグリーダ3を下水道管路1内に投入すれば良く検出手段の劣化を抑制できる。
【実施例5】
【0064】
図5に本発明の実施例5の無線式ICタグリーダ333を示す。実施例1から実施例4の無線式ICタグリーダとの違いは、喫水線より下に水質センサ7を設けたことにある。水質センサ7はpH,濁度,色度,水温,有機物濃度の少なくとも1つを計測できる。無線式ICタグリーダ333は、図示していない無線式ICタグと通信した時の下水の水質を水質センサ7で計測し、その値を保存できる。
【0065】
無線式ICタグリーダ333は、図示していないが、実施例1と同様に下水道管路1の下流で回収され、データがコンピュータなどで構成されるデータ解析手段(図示せず)に取り込まれる。また、水質センサ7の代わりに採水機構を設けても良く、無線式ICタグとの通信時の下水を採水する。無線式ICタグリーダ333の回収時に採水された下水の水質が分析されるようにしても良い。
【0066】
データ解析手段による不明水の検出方法について説明する。不明水は、地下水や降雨などが考えられるため、下水とは水質が異なる。本実施例では、水質が異なる点に着目し、水質が大きく変わった場合に、その地点の上流側に不明水の流入が有ると判定する。例えば、濁度を用いた場合、下水の濁度は100度以上に対し、地下水は1度以下である。このため、不明水が流入すると濁度が低下する。濁度が50%に低下したときにその上流側に不明水の流入があると判定できる。本実施例は実施例1から実施例4と併用できるため、併用することで不明水の検出感度を向上できる。
【0067】
本実施例によれば、無線式ICタグを設置した任意の下水道管路の水質を把握でき低コストに不明水を検出できる。また、水質計測の必要に応じて、無線式ICタグリーダ333を下水道管路内に投入すれば良く検出手段の劣化を抑制できる。
【実施例6】
【0068】
図6に本発明の実施例6の無線式ICタグリーダ11−1を示す。実施例1から実施例5の無線式ICタグリーダとの違いは、無線式ICタグ11−1の喫水線より上に通信用アンテナ11−2と距離計測手段11−3を設けたことにある。距離計測手段11−3は超音波センサなどからなる。
【0069】
無線式ICタグリーダ11−1は、下水道管路1の内壁に設置した無線式ICタグ11−4と通信し、その通信データを保存するとともに、距離計測手段11−3によって、無線式ICタグリーダ11−1と下水道管路1の内壁との距離を計測し、そのデータを保存する。無線式ICタグリーダ11−1は、図示していないが、下水道管路1の下流で回収され、データがコンピュータなどで構成されるデータ解析手段(図示せず)に取り込まれる。データ解析手段は、無線式ICタグ11−4の設置位置や下水道管路1の底部からの高さなどのデータを保存するICタグデータベース(図示せず)から情報を入手する。
【0070】
データ解析手段による不明水の検出方法について説明する。データ解析手段は、無線式ICタグリーダ11−1に蓄積されたデータから、通信データのある無線式ICタグ11−4を設置した下水道管路1の底部からの高さの情報を、ICタグデータベースから入手する。データ解析手段は、下水道管路1の底部からの高さから、無線式ICタグ11−4と通信したときの下水道管路1の内壁とICタグリーダ11−1との距離を差し引く。差し引いた値は下水道管路1の水位と見なすことができる。
【0071】
データ解析手段は、不明水の有無の判定を行う。データ解析手段は上述の水位の計測結果を蓄積し、水位が平均値に対し、少なくとも1.5 以上増加したときに、無線式ICタグ11−4の上流側に不明水の流入があると判定する。本実施例による水位と、実施例1による流速の算出を同時に行うことで、下水道管路1の下水量を算出でき、直接不明水量を推定できる。
【0072】
本実施例によれば、無線式ICタグを設置した任意の下水道管路の水位を把握でき低コストに不明水を検出できる。また、水質計測の必要に応じて、無線式ICタグリーダ11−4を下水道管路内に投入すれば良く検出手段の劣化を抑制できる。
【実施例7】
【0073】
図7に本発明の実施例7における不明水の検出システムを示す。地中に埋設された塩ビ管やヒューム管などからなる下水道管路1内には下水が流れている。下水道管路1の内壁には無線式ICタグライタ8が設置されている。無線式ICタグライタ8は少なくとも無線式ICタグ9と通信するためのアンテナと、CPUやメモリーを含む回路部と、電源部から構成されている。電源部は電池でも、電線から受電しても良い。無線式ICタグライタ8の表面には防水加工が施され、下水道管路1内で劣化しにくい構造となっている。無線式ICタグライタ8は下水道管路1の内壁上部に設置される。
【0074】
無線式ICタグ9は、少なくともICチップなどを含んだ回路部とアンテナ部で構成されている。表面には防水加工が施され、下水に浮遊し、喫水線よりも上部にアンテナ部が設置され、無線式ICタグライタ8と通信できる。浮力を調整するために、プラスチック等からできている浮力調整部(図示せず)が設置されている。
【0075】
無線式ICタグ9は、下水の流れに従い流下し、上流側の無線式ICタグライタ8−1から無線式ICタグライタ8−2,8−3と順次通信する。無線式ICタグライタ8は無線式ICタグ9との通信で、無線式ICタグ9に無線式ICタグライタ8を特定するための情報と、通信した時刻の情報を書き込む。無線式ICタグ9は、図示していないが、下水道管路1の下流に設けられているポンプ場や下水処理場で回収される。また、下水道管路1に回収機構を設けて回収しても良い。無線式ICタグ9は回収後に書き込まれたデータがコンピュータなどで構成されるデータ解析手段(図示せず)に取り込まれる。また、データ解析手段は、無線式ICタグライタ8−1〜8−3の設置位置や設置間隔、設置した下水道管路1などのデータを保存するICタグデータベース(図示せず)から情報を入手できる。
【0076】
以下に、データ解析手段による不明水検出方法について説明する。データ解析手段は、無線式ICタグ9に書き込まれたデータから無線式ICタグライタ8を特定し、通過した時刻を入手する。
【0077】
データ解析手段は、ICタグデータベースから無線式ICタグライタ8−1と無線式
ICタグライタ8−2、無線式ICタグライタ8−2と無線式ICタグライタ8−3との設置距離のデータを入手する。
【0078】
これらの情報を元に、データ解析手段は、無線式ICタグライタ8−1と無線式ICタグライタ8−2の間の流速、無線式ICタグライタ8−2と無線式ICタグライタ8−3の間の流速を算出する。データ解析手段による不明水の有無の判定は、実施例1と同様に行われる。
【0079】
本実施例によれば、安価で電源の不要な無線式ICタグを流下させることで、流速を計測でき、低コストに不明水を検出できる。また、流速検出の必要に応じて、無線式ICタグ9を下水道管路1内に投入すれば良く検出手段の劣化を抑制できる。
【実施例8】
【0080】
図8に本発明の実施例8における不明水の検出システムを示す。地中に埋設された塩ビ管やヒューム管などからなる下水道管路1内には下水が流れている。下水道管路1の内壁には、無線式ICタグリーダ10が設置されている。無線式ICタグリーダ10は、少なくとも無線式ICタグ9と通信するためのアンテナと、CPUやメモリーを含む回路部と、電源部から構成されている。電源部は電池でも、電線から受電しても良い。表面には防水加工が施され、下水道管路1内で劣化しにくい構造となっている。無線式ICタグリーダ10は下水道管路1の内壁上部に設置される。
【0081】
無線式ICタグ9は、少なくともICチップなどを含んだ回路部とアンテナ部で構成されている。表面には防水加工が施され、下水に浮遊し、喫水線よりも上部にアンテナ部が設置され、無線式ICタグリーダ10と通信できる。浮力を調整するために、プラスチック等からできている浮力調整部(図示せず)が設置される。
【0082】
無線式ICタグ9は、下水の流れに従い流下し、上流側の無線式ICタグリーダ10−1から無線式ICタグリーダ10−2,10−3と順次通信する。無線式ICタグリーダ10は、無線式ICタグ9と通信した時刻の情報を保存する。無線式ICタグリーダ10には、図示していないが、保存した情報を通信できる機能が設けてあり、通信データがコンピュータなどで構成されるデータ解析手段(図示せず)に取り込まれる。また、データ解析手段は、無線式ICタグリーダ10−1〜10−3の設置間隔の情報を保存するICタグデータベース(図示せず)から情報を入手できる。本実施例では、実施例6と異なり無線式ICタグ9を回収する必要がない。データ解析手段による流速算出方法は無線式
ICタグリーダ10の設置間隔と通信時刻の差分による時間から算出する。不明水の有無の判定は実施例7と同様である。
【0083】
本実施例によれば、安価で電源の不要な無線式ICタグを流下させることで、流速を計測でき、低コストに不明水を検出できる。また、流速検出の必要に応じて、無線式ICタグ9を下水道管路1内に投入すれば良く検出手段の劣化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の実施例1である不明水検出システムの検出部を示す縦断面図である。
【図2】本発明の実施例2である不明水検出システムの検出部を示す縦断面図である。
【図3】本発明の実施例3である不明水検出システムの検出部を示す縦断面図である。
【図4】本発明の実施例4である不明水検出システムの検出部を示す縦断面図である。
【図5】本発明の実施例5である不明水検出システムの検出部の一部を示す正面図である。
【図6】本発明の実施例6である不明水検出システムの検出部を示す横断面図である。
【図7】本発明の実施例7である不明水検出システムの検出部を示す縦断面図である。
【図8】本発明の実施例8である不明水検出システムの検出部を示す縦断面図である。
【図9】流速または水位の検出結果を示す図である。
【符号の説明】
【0085】
1 下水道管路
2,4,6,9 無線式ICタグ
3,10,33,333 無線式ICタグリーダ
5 通信用アンテナ
7 水質センサ
8 無線式ICタグライタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水道管路の内壁に設置した複数の無線式ICタグと、前記無線式ICタグの設置位置及び設置間隔のデータを保存するICタグデータベースと、前記下水道管路内を流下する無線式ICタグリーダと、前記無線式ICタグリーダに前記無線式ICタグとの通信時刻、又は前記無線式ICタグの通信時に第1の無線式ICタグとの通信からの経過時間を記録できる記憶部を備えたことを特徴とする不明水検出システム。
【請求項2】
下水道管路の内壁の半径50cm以内に設置した等しい通信周波数帯で通信距離が異なる複数の無線式ICタグと、前記下水道管路内を流下する無線式ICタグリーダに前記無線式ICタグとの通信情報を保存する記憶部を備えたことを特徴とする不明水検出システム。
【請求項3】
下水道管路の内壁に無線式ICタグを設置し、前記下水道管路内を流下する無線式ICタグリーダに複数の通信距離の異なるアンテナを備えたことを特徴とする不明水検出システム。
【請求項4】
下水道管路の内壁の円周状に複数設置した防水加工を施した無線式ICタグと、前記下水道管路内を流下する無線式ICタグリーダと、前記無線式ICタグの設置位置データを保存したデータベースを備えたことを特徴とする不明水検出システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかの不明水検出システムにおいて、前記無線式ICタグリーダに防水加工を施し、前記無線式ICタグとの通信用のアンテナを上面に設置し、水に浮かせた場合に前記アンテナが水面よりも上になるように浮力を調整するための浮力調整部を備えたことを特徴とする不明水検出システム。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかの不明水検出システムにおいて、前記無線式ICタグリーダが前記無線式ICタグと通信したときに、下水を採水する採水機構または前記下水道管路内の下水のpH,濁度,色度,水温,有機物濃度の内少なくとも一つ以上を計測する水質計を設けたことを特徴とする不明水検出システム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかの不明水検出システムにおいて、距離を計測するための距離計測手段を具備し、前記無線式ICタグリーダが前記無線式ICタグと通信したときに、前記距離計測手段が前記下水道管路の内壁と前記無線式ICタグリーダとの距離を計測することを特徴とする不明水検出システム。
【請求項8】
下水道管路の内壁に設置した複数の無線式ICタグライタと、前記無線式ICタグライタの設置位置及び設置間隔のデータを保存するICタグライタデータベースと、前記下水道管路内を浮上し、流下する無線式ICタグと、前記無線式ICタグに前記無線式ICタグライタとの通信時刻を記録できる記憶部を備えたことを特徴とする不明水検出システム。
【請求項9】
下水道管路の内壁に設置した複数の無線式ICタグリーダと、前記無線式ICタグリーダの設置位置及び設置間隔のデータを保存するICタグリーダデータベースと、前記下水道管路内を浮上し、流下する無線式ICタグと、前記無線式ICタグリーダに前記無線式ICタグとの通信時刻を記録できる記憶部を備えたことを特徴とする不明水検出システム。
【請求項10】
請求項2から9のいずれかの不明水検出システムにおいて、前記下水道管路の流域の降雨量のデータベースを備えたことを特徴とする不明水検出システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−179992(P2008−179992A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−14423(P2007−14423)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(593153532)財団法人下水道新技術推進機構 (10)
【出願人】(000229667)日本ヒューム株式会社 (70)
【Fターム(参考)】